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『夏の記憶』ピーター・ロビンスン 創元推理文庫

2020-02-28

Tag :

☆☆☆

スウェインズデイルの夏。いつになく好天続きとなったその平穏な日々を打ち砕くように、頭を割られた死骸が一体、緑濃い谷間の一画で発見された。男の名はステッドマン。多額の遺産を得てこのヨークシャーの片隅に隠遁した学究で、殺人に発展し得るほど激しい感情の渦中に身を置いていたとはどうしても思えない。かくて捜査陣の目は、いまを遡る十年前―関係者の多くが集い、そして散っていったある夏の記憶へと向けられた……。物哀しい民謡の調べをバックに、バンクス主席警部の執拗な調査とその意外な顛末とを描く、現代英国ミステリの第二弾。 内容紹介より



アラン・バンクス主席警部シリーズ第二作目。
田舎の町で元大学教授の産業考古学者が撲殺死体で発見されます。被害者は学級肌の人当たりの良い性格で人の恨みを買うような人物ではなく、ささいなトラブル以外には犯行の動機も見当たらない状況で捜査は捗りません。そんななか主人公は、十年前に被害者とその妻、彼らと親しくしていた若者たちとの交友関係に事件の鍵が隠されているのではないかと考え始めます。
というわけで、わたしからみたら主人公の警部が十年前にそれほどこだわるその理由が分からず、またその根拠となるものもなんとなくとしか書かれていないため、設定ありきの作者の強引さを感じました。それならば、その十年前の夏の日々における、思わせぶりでさりげないエピソードが容疑者たち個々の視点から描かれていたほうが効果的だったでしょう。そういうところが不足気味なために、犯人とその動機が上手に隠されているにもかかわらず、作品全体が非常に地味になってしまいもったいない感じがします。読後に伏線が至るところに張られていることに気づくくらいにミステリ的には巧みに練られている印象が残りました。

『罪深き眺め』
『必然の結末』
『夢の棘(いばら)』





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『監禁面接』ピエール・ルメートル 文藝春秋

2020-02-25

Tag :

☆☆☆☆

企業の人事部長だったアラン、57歳。リストラで職を追われ、失業4年目。再就職のエントリーをくりかえすも年齢がネックとなり、今はアルバイトで糊口をしのいでいた。だが遂に朗報が届いた。一流企業の最終試験に残ったというのだ。だが人材派遣会社の社長じきじきに告げられた最終試験の内容は異様なものだった。―就職先企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問せよ。重役たちの危機管理能力と、採用候補者の力量の双方を同時に査定するというのだ。遂にバイトも失ったアランは試験に望むことを決め、企業人としての経験と、人生どんづまりの仲間たちの協力を得て、就職先企業の徹底調査を開始した。そしてその日がやってきた。テロリストを演じる役者たちと他の就職希望者とともに、アランは重役室を襲撃する!だが、ここまでで物語はまだ3分の1。ぶっ飛んだアイデア、次々に発生する予想外のイベント。「そのまえ」「そのとき」「そのあと」の三部構成に読者は翻弄される。残酷描写を封印したルメートルが知的たくらみとブラックな世界観で贈るノンストップ再就職サスペンス! 内容紹介より



偽のテロリスト等に重役会議を襲撃させ、監禁、尋問して重役たちの危機管理能力や問題処理能力を査定し、また、主人公を含む就職希望者に彼ら尋問をさせることで採用の可否を決める、なんていう奇想天外かつ荒唐無稽な設定に読んでいて少々頭が混乱しそうになります。仕事上のトラブルによりバイト先から損害賠償請求の訴えを起こされた主人公は、妻が反対するなか、娘から借金をして面接のそなえての情報収集と専門家による個人レッスンによる学習に励みます。ここまでが「そのまえ」。「そのとき」では、語り手が今回の面接をセッティングした元傭兵に代わり、面接がアクシデントによりとんでもない事態に見舞われる様子が語られます。そして「そのあと」では、再度主人公に視点が戻り、彼の真のたくらみが徐々に明らかになっていくという流れです。展開がまったく読めない予想外のコンゲームといったところでしょうか。都合の良さと強引さも目に付きますが、このくらい吹っ切れたほうが娯楽作品としての面白さが引き立つように思います。失業という人間の尊厳にかかわるような状態の陥り、切羽詰った初老の主人公のいたたまれなさや焦り、怒り、無念も描き、それらの感情に突き動かされ、ただ愛する家族の為を思って綱渡りのような計画を成し遂げた先にあったものは……。

『その女アレックス』文春文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ヴォスパー号の遭難』F・W・クロフツ ハヤカワ文庫HM

2020-02-22

Tag :

☆☆☆

そのしけの夜、大西洋上の貨物船ヴォスパー号に大爆発が起こった。船は大波と船体の破損に抗すすべもなく、大海に呑まれていった―数週間後、海事裁判が開かれたが、爆発原因は解明されず、保険金支払いはほぼ確実となった。しかし、状況を一変させる出来事が起こった。保険金詐欺を疑い、事件を探りつつ失踪した事故調査員の他殺体を、フレンチ警部が発見したのだ。死んだ男はいったい何をつかんでいたのか?一見平凡な海難事故から、詐欺、殺人へと急展開する一連の事件を精緻な構成で描く本格力作の改訳決定版(『ヴォスパー号の喪失』改題) 内容紹介より



英国と南米を結ぶ定期貨物船が洋上を航行中に貨物室から原因不明の爆発が立て続けに起き、浸水した船は間もなく沈没してしまう事故が発生します。海事審判では何者かによって爆発物が貨物室に仕掛けられたと推測されたものの、それがどうやって持ち込まれたのか謎のままです。一方、貨物の損害保険を担った保険会社に雇われていた調査員が失踪する事件が起き、フレンチ主任警部が捜査に乗り出します。物語の序盤はまるで冒険小説を思わせるような海難事故の場面が続き、法廷劇の一端みたいな海事審判の様子、そしてフレンチ主任警部の登場となる警察小説へと趣を変えます。調査員の失踪に海難事故の調査が絡んでいるとの目星をつけた警部は船会社、荷主である発電機製造会社に捜査の目を向けます。事件の鍵は、厳重な監視の下、爆発物をどうやって船内に持ち込み、それを爆発させたのか、ということで警部はこつこつと状況証拠を積み重ねていく訳ですが、迷推理を発揮したりするところ以外はかなり地味です。ただこの地味さと堅実さが作者の持ち味であり、今どきの目まぐるしい派手な作品とは違った魅力を感じました。事件のからくりには早めに予想がつくので評価はちょっと下がりました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『よき自殺』トニ・ヒル 集英社文庫

2020-02-19

Tag :

☆☆☆☆

真冬のバルセロナ。若い女性が地下鉄に飛び込んだ。彼女の携帯電話には不可解なメッセージと木に吊るされた3匹の犬の死体の写真が……。カタルーニャ州警察警部エクトル・サルガドは、女性の勤める会社では、他にも自殺者がいることに気づく。相次ぐ自殺の裏にあるおぞましい真相とは?一方、産休中のレイラ・カストロ刑事は失踪したエクトルの元妻を捜すが……。好評のバルセロナ・ミステリー第2段。 内容紹介より



本書は《バルセロナ警察三部作》の第二作目にあたりますが、わたしは第一作『死んだ人形たちの季節』は未読です。物語は、サルガド警部が指揮する化粧品会社の社員の連続自殺事件の捜査と産休中のカストロ刑事が独自に調査するサルガド警部の手詰まり状態になった元妻失踪事件、この二つに分けられています。後者は第一作の内容と被る部分がありますので、やはり順番に読んでいくほうが良いようです。地下鉄で女性の飛び込み自殺が発生し、彼女の携帯に脅迫めいたメッセージと木に吊るされた犬の写真が残されていたことから物語が始まります。彼女が勤めていた化粧品会社では数ヶ月前にも社員による無理心中事件が起きていたことが明らかになります。捜査するうちに、ある研修に参加した社員たちの間に何らかの隠し事が存在するのではないかと警部は推測するのですが……。一枚の残酷な写真と共有される秘密、そして連続死、複数の容疑者、なかなかミステリアスな設定と次第に盛り上がっていくサスペンス、多視点を頻繁に切り替えて人物像を浮き上がらせつつテンポよく進行させています。さらに真犯人の意外性もあルナ化中の作品だと思います。失踪事件に関しては、三部作全体を通しての謎という位置づけになっているためあまり進展は見られませんが、ラストは衝撃的な事実を匂わせています。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『処刑の丘』ティモ・サンドベリ 東京創元社

2020-02-16

Tag :

☆☆☆☆

深夜、かつて虐殺の舞台になったことで〈黒が丘〉と呼ばれた場所で、男たちが“処刑”と称し一人の青年を銃殺した。死体発見の報を受けた警察は、禁止されている酒の取引に絡む殺人として処理したが、ケッキ巡査だけは納得していなかった。事件の陰に見え隠れする内戦の傷。敗北した側の人々が鬱屈を抱える町で、公正な捜査をおこなおうと苦悩するケッキ。はたして正義は果たされるのか?〈推理の糸口賞〉受賞 フィンランドの語られざる闇を描く注目のミステリ 内容紹介より



舞台となるのはフィンランドにある地方の町です。時代は内戦の爪痕が残る禁酒法施行下の1920年頃。内戦終結から間もなく、警察組織内でも白衛軍勢力が幅を利かせるなか、主人公のケッキ巡査は中立の立場を保っていたにもかかわらず肩身の狭い思いをしている状況です。内戦時、赤衛軍の女性兵士が虐殺された〈黒が丘〉と呼ばれる場所で、青年の射殺体が発見されます。
事件は密造酒の取引をめぐるトラブルが原因ということで警察は幕を引こうとしますが、主人公は現場の状況から疑いをいだきます。ミステリ的には特別目立つようなものはありませんが、田舎の町でも国内を二分した内戦の傷が深く残るなか、たくましく生活していく庶民、なかでも虐殺された女性兵士の家族の内に悲しみや怒りまた無力感を抱えながらも、生きて人生を続けていかなくてはならないという強い姿を描いた良作だと思います。特に公衆サウナのマッサージ係をしている、娘を殺した敵と身近に暮らさなくてはならない母親のヒルダは、もうひとりの主人公として存在感を出しつつ、またフィンランドのサウナ文化を体現しているみたいに描き出されていると思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『乗客ナンバー23の消失』セバスチャン・フィツェック 文藝春秋

2020-02-13

Tag :

☆☆☆

命がけの囮捜査から帰還した捜査官マルティン・シュヴァルツにかかってきた電話が、彼を憎むべき客船へ導いた。五年前に彼の妻子が姿を消した船に乗り込んだマルティンが見たのは息子のティディベアだった。二ヵ月前に同じ船から姿を消した少女が、このティディベアを手にして、突如として船内に出現したのだという。ティディベアは今までどこにあったのか。少女は今までどこにいたのか。少女とともに姿を消したはずの母親はどこに。そしてマルティンの妻子の身に本当は何が起きたのか? 船の中で起きているのはそれだけではない―闇の底に監禁されている女がおり、彼女を詰問する謎の人物がいる。娘の忌まわしい秘密を知って恐慌を来す女がいて、その娘は何者かと連絡をとりながら不穏な計画を進める。船員はメイドを拷問し、泥棒がそれを目撃する。そしてマルティンを船に誘った富豪の老女は「この船には殺し屋がいるのよ」とささやき、神隠しから戻った少女は凍った表情のまま口を閉ざす……巨大な船の奥底に広がる迷宮。そこに隠されているのは何か。無数の謎をちりばめて、ドイツ屈指のベストセラー作家が邁進させる閉鎖空間サスペンス。マルティンの鬼気迫る捜査がたどりついた真相とは?そしてあなたが「一件落着」と思ったとき、鬼才フィツェックの意外な真相つるべ打ちが開始されるのだ! 内容紹介より



巨大豪華客船という華やかなクローズドサークル、何千人もの乗客乗員、日常から離れた巨大な迷路を持つ船底、そこに内容紹介にあるような多くのミステリが仕掛けられていると思うと期待が高まります。しかも実際にクルーズ船における乗客乗員の行方不明者数はかなりの数になるそうです。ただハードルを上げたせいか、思っていたほどの満足感は得られませんでした。確かに面白いのですけれど、個人的に想像していたものとなにか違うような。全体的に粗さというか大雑把というか繊細さにかけているような印象が残りました。例えばスピディーな進行を心がけるために、こういう設定の妙である群像劇の要素をほとんど取り入れていないためにスケールが小さくなっているように思いました。これが作者のスタイルなのでしょうが、そこら辺は残念な気がします。また、囮捜査のためにエイズ検査で陽性なる薬品を注射したり、自ら抜歯したりと、ちょっと主人公のキャラクターが無駄にタフで強烈すぎるようにも感じたりもしました。テーマの悲惨さもありますが、もっと構想を練ってもよかったのでは。先に読んだ『遭難信号』(キャサリン・ライアン・ハワード 創元推理文庫)と被るところがあるのも微妙なのかもしれません。

『遭難信号』キャサリン・ライアン・ハワード 創元推理文庫





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テーマ : 推理小説・ミステリー
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