『悪女は自殺しない』ネレ・ノイハウス 創元推理文庫

2017-04-23

Tag :

☆☆☆

ドイツ、2005年8月。警察署に復帰した刑事ピアを待ち受けていたのは、上級検事の自殺だった。時を同じくして、飛び降り自殺に偽装された女性の遺体が発見される。実際は動物の安楽死に使用される薬物による毒殺で、夫の獣医や彼の働く馬専門動物病院の共同経営者たちが疑われる。だが刑事オリヴァーが指揮を執る捜査班が探るうち、被害者へのとてつもない憎悪が明らかになり、さらに背後に隠されたいくつもの事件が繋がりはじめる。謎また謎の果てに捜査班がたどりつく真相とは。〈ドイツミステリの女王〉の人気に火をつけたシリーズ第1弾。 内容紹介より



〈刑事オリヴァー&ピア〉シリーズの第一作目。以前読んだ『深い疵』は三作目にあたるようです。
娯楽作品のストーリー進行をジェットコースターに例えたりしますけれど、本書はそれほどの大きな起伏の繰り返しはなくて、凸凹した縦揺れの激しい道路を走る車みたいでした。それは被害者への恨みや妬み、愛憎を抱く容疑者が次から次に出てくることと、事件の捜査が進むにつれ、被害者と容疑者たちとの人間関係や利害関係が判明するにもかかわらず、物事が一定の方向へ収斂していくのではなく,いっこうに犯人への手掛かりが見えて来ない、いうなれば四方に放散してしまう状況に陥ってしまっているからです。このような刺激的でめまぐるしい展開が続くために,その刺激過多に慣れてしまい作品の雰囲気が雑然というかせわしない印象を与えているように感じました。また、これまでエリザベス・ジョージのリンリー警部など、貴族または元貴族の称号を持った捜査官は結構登場していますが、このオリヴァー警部には果してその称号を冠する必要性があったのかどうなのか、やや疑問です。女性に投げ飛ばされたり、バットで頭をぶん殴られたりする姿はコミカルではあるものの、本来ならこの設定の売りであるはずの階級から来る品格とか華麗さには欠けているような気がしました。そして肝心の被害者の単なる悪女でしかない造形の仕方も芸が無い印象を受けました。

『深い疵』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『もう年はとれない』ダニエル・フリードマン 創元推理文庫

2017-04-18

Tag :

☆☆☆

思いかえせば、戦友の臨終になど立ちあわなければよかったのだ。どうせ葬式でたっぷり会えるのだから。捕虜収容所でユダヤ人のわたしに親切とはいえなかったナチスの将校が生きているかもしれない—そう告白されたところで、あちこちガタがきている87歳の元殺人課刑事になにができるというのだ。だがその将校が金の延べ棒を山ほど持っていたことが知られて周囲が騒がしくなり、ついにわたしも、孫に助けられながら、宿敵と黄金を追うことに……。武器は357マグナムと痛烈な皮肉。最高に格好いいヒーローを生みだした、鮮烈なデビュー作! 内容紹介より



78歳の老齢探偵が活躍する『オールド・ディック』と同じアプローチの仕方で代り映えがしないし、ミステリについてはかなり粗さが目立った印象でした。第二次大戦中の捕虜収容所で虐待された相手であるナチスの将校との対面や金の延べ棒を手に入れる場面、この二つの山場ともいえる場面がかなりあっけない顛末になってしまって、一捻りを期待したぶん肩すかしを喰らいました。そして、殺人犯がどうして時間も手間もかかる猟奇的な殺し方をしなければならなかったのか、とか、孫の後半に入ってからの豹変した態度への違和感、こういうものがストーリーに果たして必要だったのかすごく疑問に感じました。当初は刺激的だった主人公が吐く暴言や悪態が、話が進むにつれて目障りだったり飽きたりしてしまいました。その一方で、最後半部分での墓地で死者に手向けられた言葉はしんみりさせられますが、物語をどうゆう方向に持っていきたいのか紛らわしい感じを受けました。元刑事の経験値が見られず、場当たり的でただ騒がしいだけの起伏に乏しいハードボイルドもどきな作品みたいな気がします。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『フリーファイア』C・J・ボックス 講談社文庫

2017-04-15

☆☆☆☆

イエローストーン国立公園で四人の若者の射殺事件が起きた。しかも出頭してきた犯人は、〈死のゾーン〉と呼ばれる法律の抜け穴を巧妙に使って釈放されてしまう。調査を依頼された猟区管理官ピケットは、犯行動機に大きな企業陰謀がからんでいることに気づく。全米ベストセラーの超一流必読ミステリー。 内容紹介より



「ゾーン・オブ・デス」として、昨年ネットのニュースでも取り上げられたイエローストーン国立公園にある区域を題材にした作品です。入り組んだ行政区画と同国立公園内においては人が住むことを禁じる法律、そして陪審員制度を逆手に取った殺人事件によって四人の犠牲者が出たにもかかわらず、犯人である弁護士は釈放されてしまいます。事件が起きる前に環境保護主義者であった被害者の一人から謎のメールを受け取っていたワイオミング州知事によって事件の再調査を依頼された主人公が国立公園へ赴くという流れです。公園内に存在する莫大な利益をもたらす可能性のある資源を開発しようとする企業が登場し、シリーズ第一作目から一貫している自然保護と開発というテーマが本書でも据えられています。相変わらず愚直に調査を進める主人公ですが、今回は生き別れた父親を登場させ、これまたこのシリーズのもう一つのテーマである家庭愛,家族の絆を描こうとしているようですが、やや上っ面をなでる程度に止まっている感じがしました。一方、特に目を引いたのは主人公の相棒である鷹匠のスーパーヒーロー風なちょっと浮いている活躍ぶりなのですが、それ以上に存在感が際立っていたのは、殺人犯である弁護士でした。冷酷な犯罪行為を犯したにもかかわらず、非常に人間臭い一面を持ち合わせたこの男の姿がストーリーの中で異彩を放っていました。それから、この著者の終盤における巻き気味な展開が見られませんでした。

ユーザータグ:C・J・ボックス




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ミスター・イエスタデイ』エリオット・チェイズ サンケイ文庫

2017-04-12

Tag :

☆☆☆

セント・ジェイムスの小学校時代の担任教師だったコール婆さんが死んだ。自宅の台所の床に電球を握ったまま。そばには脚立が転がっていた。殺人か?ほどなく、彼女の妹ナタリーも死亡。現場の部屋は血だらけ、明らかに他殺だ。一方、町は郊外にできる政府の核廃棄物処理場の話で騒然。まだ候補地の段階との政府発表だったが、老いぼれ記者“ミスター・イエスタデイ”が取材の結果、試掘が開始されていたことが判明したのだ。セント・ジェイムス・シリーズ第二弾! 内容紹介より



シリーズ第一作目の『さらばゴライアス』も読んでいるのですが、当然まったく記憶に残っていません。
主人公はアラバマ州の地方にありながら大手のネットワークに買収された新聞社の社会部長で、地元警察の警部とは懇意の仲であり、部下である若手の女性記者の恋人がいて、上層部に頭が上がらず部下には偉ぶる新聞社社長とはそりがあわず、社内のコンピュータ化と大衆におもねるような紙面のレイアウトが気に入らない、やや早めの中年の危機を感じさせる43歳の男性です。主人公の担任教師だった一人暮らしの老女が自宅で変死していた事件、彼女の妹が姉の家でペットのヤギと共に惨殺体で発見された事件、この二つが立て続けに起きます。一方、町は核廃棄物処理場の問題で騒然とし、姉妹は処理場候補地の周辺に土地を所有していて、そして変死した姉は黙示録を引用して処理場建設に反対していたことが明らかになる、という展開です。政府による陰謀か、あるいは妹の身に起きた凄惨な犯行現場からオカルト的な動機も考えられるなか、主人公に降り掛かる、というかくよくよ悩む心身の衰え、老化や恋愛問題を交えつつ、同じ世代の警部やかつて名声を馳せながら飲酒によって地方新聞に拾ってもらった“ミスター・イエスタデイ”と揶揄される老記者とのやり取りを、南部ほら話風な雰囲気も醸し出しながら進行していきます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『完全なる沈黙』ロバート・ローテンバーグ ハヤカワ文庫HM

2017-04-09

Tag :

☆☆☆☆

「彼女を死なせた。死なせてしまった」血に濡れた両手を差し出しそう告げたのを最期に、容疑者は完全に口を閉ざした。浴槽の中で見つかった内縁の妻の死体。見かけどおりの単純な事件なのか、それとも……すべての鍵はその沈黙の中にある。事件関係者,警官,検察官,弁護士、それぞれに過去を背負う登場人物が織りなす迫真の群像劇。緻密な構成と真実を追う者たちへの温かな眼差しが光る現役弁護士作家渾身のデビュー作 内容紹介より



カナダのトロントを舞台にした、警察小説とリーガルミステリを合わせたような作品です。カナダで有名なラジオ司会者の容疑者を除いた主要な登場人物による多視点と短い章の繰り返しで飽きずに読むことができました。ただ、後半に入るとさほど高低の無いその構成が単調に感じてしまう欠点もあります。物語の中で起きた事件が一つであること、自白ともとれる発言をした容疑者がそれ以降沈黙を守っていることで犯罪そのものにまつわる動きというのはかなり地味なのですけれど、事件を担当する刑事と巡査のふたりの細かな捜査活動は読みごたえがあります。伏線も多数仕込まれ、その回収もなかなか良いタイミングでなされている印象を受けました。さらに、これは諸刃の剣にもこれからなるかもしれませんが、上昇志向が強くて卑劣な検察官というステレオタイプな人物を登場させないなど、根っからの悪人が見当たらない意外な点も新鮮に感じました。欲を言えば、他の登場人物に較べると存在感が希薄な被害者である内縁の妻について、その造形にさらに肉付けされていたら話に味や厚みがでたのではないでしょうか。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『丘をさまよう女』シャーリン・マクラム ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2017-04-03

Tag :

☆☆☆☆☆

年老いた脱獄囚がアパラチア山脈近くの故郷へ向かっていた。保安官のスペンサー,保安官助手志願のマーサらが追い始めるが、その矢先、奇怪な事件が続発する。折しも、二百年前の事件を調べるため、若い男が山道に踏み入るが……いくつもの運命が絡み合い、やがて緊迫の結末へ。アンソニー賞,アガサ賞,マカヴィティ賞の最優秀長篇賞を受賞した注目作! 内容紹介より



訳者の浅羽莢子氏の訳者あとがきによると、本書は〈アパラチア・シリーズ〉の第三作目にあたるそうです。ドタバタ風だった『暗黒太陽の浮気娘』と較べると、かなり作風が異なっている印象でした。
ストーリーには二つの流れがあり、ひとつは三十年前の殺人事件で有罪判決を受けて服役していた老囚人が脱獄して故郷を目指す話。もうひとつは十八世紀前にインディアンの部族にさらわれた後、彼らから逃れて何百マイルもの山道を歩いて帰還した白人女性の論文を書くために、彼女の辿った道中を歩いている若手の歴史学者の道中話。ふたりに加えて、その他の主要登場人物たちは、老脱獄囚について意見の別れる彼の故郷の保安官事務所の保安官とその助手、次第に脱獄囚に対して同情的になる地元のラジオ局のDJ、それから登場機会は少ないものの、山道を家へと急ぐさらわれた若い女性の姿を見ることができる、特殊な能力を持った老女がいます。脱獄囚はコルサコフ症候群による健忘の症状が現われていて、三十年前で時が止まり、自分が脱獄したことも忘れて二三日自宅を留守にしたものだと思い込んでいます。これによって彼の身に起きた境遇の悲惨さが軽減されてもいます。また、まったく山歩きなど無縁の学級の徒である大学院生の不慣れな山行の様子はいかにもな笑いを誘っています。そして、保安官事務所の通信係から保安官助手志望になった女性は同僚との男女間の問題が持ちあがり、そのサイドストーリーも作品に主題とは別の味わいを添えているように感じました。近代化によって時代遅れとなり失われてしまった習慣や生活、山を故郷とする者たちの悲哀をさりげなく醸し出し、その上に、さらわれた若い女性と脱獄した老囚人、このふたりの悲運を紡ぎだす物語は読み手に深く迫るものがあります。しかし、それが行き過ぎた深刻さをもたらす前に各エピソードの細やかな挿入によって良い具合に押さえられ、とてもバランスのとれた、単なるミステリを超える巧緻に組み立てられ仕上げられた味わい深い文学作品になっているように思いました。

『暗黒太陽の浮気娘』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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