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『喪失』モー・ヘイダー ハヤカワ・ミステリ

2020-07-06

Tag :

☆☆☆☆

当初は単純な窃盗と思われたカージャック事件。だが強奪された車の後部座席に乗っていたはずの少女はいっこうに発見されない。捜査の指揮を執るキャフェリー警部の胸中に不安の雲が湧きだしたとき、今回とよく似た手口の事件が過去にも発生していたことが判明した。犯人の狙いは車ではなく、少女だったのか?事件の様相は一変し、捜査に総力が注がれる。だが姿なき犯人は、焦燥にかられる警察に、そして被害者の家族に、次々と卑劣きわまる挑発を……屈指の実力派が、MWA賞最優秀長篇賞の栄冠を射止めた力作 内容紹介より



捜査の先をいく周到な犯罪計画で警察を翻弄する狡猾で悪辣な犯人がジェフリー・ディーヴァ―のシリーズ物に登場する悪役みたいに思えました。それに対抗する主人公のひとりであるキャフェリー警部は、残念ながらリンカーン・ライムほどの頭の冴えは見せていません。ただし、フリー・マーリーという巡査部長がアメリア・サックス巡査みたいな役割を務めています。事件はカージャックから誘拐へ、さらに別の形へと、ディーヴァーの作品同様に本書でも事件は二転三転と様相を変えて息もつかせぬ展開を見せていきます。また被害者家族にも焦点があてられ、恐怖や苦悩に苛まれる姿を描くとともに彼らが団結して事件の真相に立ち向かおうとする姿を描いているところには従来にない目新しさを感じましたし、その存在が事件解決への伏線に設定されている点にも作者の巧妙さを感じました。できればキャフェリー警部の造形にもうひと工夫してほしい気はしますが、サスペンス性と意外性のある謎解き要素も備えた秀作だと思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『おばあちゃんのごめんねリスト』フレドリック・バックマン 早川書房

2020-07-03

Tag :

☆☆☆☆

エルサは7歳。おばあちゃんは77歳。大胆不敵なおばあちゃんは、ずっとエルサの友達だった―「変わった子」と言われるエルサの、ただ一人の、強い味方だった。
でも、おばあちゃんは亡くなった。おばあちゃんから託された謝罪の手紙を、エルサは代わりに届けはじめる。宛先は、よく知っている人も、あまり知らない人もいて……
『幸せなひとりぼっち』の作者が、変わった子だった大人たちにおくる物語。 内容紹介より



ハリー・ポッターが大のお気に入りの7歳の女の子エルサは、「変わった子」と言われて学校でいじめられ友だちもいません。そんなエルサにとっておばあちゃんはただ一人の友だちであり、スーパーヒーローです。彼女は母親と義父とともにおばあちゃんが住む同じアパートの別室で暮らしています。天才だけど頭がちょっとズレているおばあちゃんはエルサに、いつも六つの秘密の王国の物語を聞かせてくれます。その大好きなおばあちゃんが死んでしまって、エルサの心は悲しみと怒りでいっぱいになります。エルサにおばあちゃんは“ごめんなさい”を書いた手紙を託していました。
いわゆる大人のファンタジーなのですが、秘密の王国の物語が核となって、王国と現実の世界とが結びつけられています。実は物語の内容は、アパートに住む住人たちそれぞれの人生とリンクしており、さらにおばあちゃんの過去にも関わりがあるという仕掛けがなされて、おばあちゃんの手紙がそれぞれの秘密を解き明かす鍵になっています。そういう展開によって謎解き小説の性格も与えています。母親と義父との間に赤ちゃんが産まれてくることで自分が気に掛けられなくなるのではという心配や、もし、そうなって新しい家族がいる父親に頼っても迷惑になるのではないかと悩んだり、小さなしこりのような不安を胸に抱えている、それでも勇気をふり絞っておばあちゃんのミッションを果たそうとする、ちょっと哀しい健気な女の子の姿が印象に残ります。




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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

『ラスト・ワン』アレクサンドラ・オリヴァ ハヤカワ文庫NV

2020-06-30

Tag :

☆☆☆

空前のスケールのリアリティショー番組『闇のなか』の収録が始まる。未開の荒野に集められた12名の参加者が、体力とアウトドア生活のスキルを試される。〈チャレンジ〉に挑み、賞金を争うのだ。単純なトレッキングを皮切りに徐々に困難な課題へと番組は進み、参加者たちは次々にふるい落とされていく。平凡な主婦のズーは粘り強く生き残るが、彼らの知らないうちに外の世界では……気鋭が放つ注目のサバイバル。スリラー 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意ください!


サバイバルを主題にしたリアリティ番組に参加した12名の男女が単独またはチームを組んでアウトドア生活に必要な道具や食料を賭けた〈チャレンジ〉を行う様子と参加者の一人であるズーが独りで行動する様子が交互に挿まれて物語が進んでいきます。チーム行動の場面では参加者の人となりから彼らのチームワークやいざこざが描かれるいかにもリアリティショーらしい情景が続き、ズーの視点では番組が用意したと思われる目的地へのヒントを探しながら体力を消耗した彼女の心理状態と異様な周囲の光景が描かれていきます。実は番組の収録が行われていた頃、世界では謎の疾病が流行して大勢の死者が出る状況に陥っており、ズーが番組が用意した舞台セットだと思い込んでいる荒廃した無人の町は、実際には住人たちが死に絶えた現実世界だったのです。
さて、ここで気になるのはリアリティショーとポストアポカリプスのそれぞれの物語の配合だと思うのですけれど、リアリティ番組で培ったサバイバル技術をポストアポカリプスの世界で発揮して生き抜く話じゃなく、番組内のエピソードの割合が大きめなところです。終末後のことはいささか添え物みたいな感じであり、ズーの想念は民家で見た人形だと思っていた瀕死の赤ちゃんと自宅で待っているであろう夫のこと、この二つの個人的な想いがしつこいくらい繰り返されています。この奇妙なアンバランスさが気になりました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ツンドラの殺意 ロストニコフ捜査官シリーズ』スチュアート・M・カミンスキー 新潮文庫

2020-06-27

Tag :

☆☆☆☆

シベリアの寒村ツムスクで反体制医学博士サムソノフの娘が、何者かに殺害された。事件調査のために派遣された統制委員のラトキンも、数日後に殺されてしまった。現地に赴いたモスクワ民警の敏腕捜査官ロストニコフと部下のカルポがあらためて事件を洗い直す。住民たった15人の流刑の村で起きた連続殺人の背後に隠されたものは……’89年度エドガー賞を受賞したポリス・ストーリー。 内容紹介より



米国への亡命を間近に控える著名な反体制医師一家の幼い娘が遺体で見つかり、殺人事件と訴える父親の言い分によりモスクワから統制委員が派遣され事件の調査に当たります。しかし、その委員も審問会当日の早朝に他殺体で発見されます。その事件の捜査を任命されたモスクワ民警の主任捜査官ロストニコフと部下のカルポはシベリアの小さな村に赴くことになります。
主人公は検察局捜査官時代に有能なゆえに上から疎まれ、現在モスクワ民警に移動してきた経緯があり、また妻がユダヤ人のために微妙な立場にあります。物語はシベリアの村での殺人事件とモスクワに残した部下たちによる強盗事件の捜査活動の二つが描かれて進んでいきます。主人公の造形は、別シリーズのエイブ・リーバーマンに似ている気がしますが、一方の部下カルポはその死体のように無気味な容姿と生真面目な言動とでユニークさが際立って映ります。さらに公民館の管理人また登場機会は少ないものの原住民の呪術師も良い味を出し、作者の人物造形の巧さをあらためて感じさせています。278ページの小部な作品ですけれど、ソ連という異質な舞台設定でサスペンスも漂い、ミステリも適度に濃く、夫婦愛も交ざる良作だと思います。

スチュアート・カミンスキー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『天使の背徳』アンドリュー・テイラー 講談社文庫

2020-06-24

Tag :

☆☆☆☆

妻に先立たれ、ロンドン郊外で娘と暮らす牧師デイヴィッド。出版社を営む寡婦ヴァネッサに出会った彼はその魅力に惹かれ、やがて再婚を申し込む。幸せに満ち、穏やかに始まった新生活は、ある事件を境に次第に暗い翳りを帯びていく。聖なる場所で連続する不可解な死。CWA賞作家が放つ衝撃のミステリー! 内容紹介より



本書は、三部作、Rrequiem for an Angelの二作目にあたる作品です。わたしは間違えて、このシリーズを三作目から読み始めています。
本書でも『天使の鬱屈』同様に、十九世紀後半の聖職者であり詩人でもあったフランシス・ユールグリーヴと彼の作品が物語全体に暗い影を落としゴシック・ホラーの趣を添えています。そのフランシスの子孫にあたる旧領主邸の女主人から教区会の司祭として任命された「わたし」が『天使の鬱屈』に登場した人物であり本書の語り手になります。『天使の鬱屈』から十年後という設定で、一人娘のローズマリーは十七歳です。長らく男やもめだった「わたし」と出版社を経営するヴァネッサの出会いから物語が動き始め、彼らの隣人として若い兄妹が元ユールグリーヴ邸に引っ越してきたことから急展開を見せます。ミステリよりも重点を置かれているのは、壮年期の「わたし」の肉欲を始めとした煩悩とその感情に苛まれ流されていく心理を詳細に描くことです。言ってみればかなり俗物に描かれた彼の造形は英国人から見たら衝撃的なのかもしれません。一方、ミステリ小説としたらその部分がかなりのウェートを占めて、ミステリ部分のインパクトが追いついていないような印象が残りました。先に『天使の鬱屈』を読み犯人をすでに知っているので、その感じがさらに強くしたのだと思います。

『天使の鬱屈』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『チャイナ橙の謎』エラリー・クイーン 創元推理文庫

2020-06-21

Tag :

☆☆☆☆

宝石と切手収集家として著名な出版業者の待合室で、身元不明の男が殺されていた。しかも驚くべきことには、被害者の着衣をはじめ、その部屋の家具もなにもかも、動かせるものはすべて“さかさま”にひっくり返してあった。この“あべこべ”殺人の謎は何を意味するのか?犯人は何の必要があって、すべてのものを、あべこべにしたのだろう?ニューヨーク・タイムズはクイーン最大の傑作と激賞したが、事実、国名シリーズの中でも、卓抜した密室殺人事件として、特異の地位を占める名作である。 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意ください!

宝石や切手収集を趣味とする出版会社社長に面会に訪れた男が待合室で殺害されたうえに服を後ろ前に着せられた姿で発見されます。しかも室内の家具も前後が逆になった状態にわざわざ変えてあるという状態で。警察の捜査でも被害者の身元はまったく判明しないなか、当日留守にしていた出版社の社長をはじめとして、彼の父親、妹、その婚約者、共同経営者、秘書、新人女性作家、ホテルの宿泊者らが容疑者にあげられます。物語の冒頭で看護婦の独白で主な人物の人となりが語られるとともに、事件の動機につながる出来事が伏線として明らかにされているのですが、これが読み手にとっては容疑者の中から真犯人を巧みにそらしてしまう仕掛けにもなっているように感じました。犯人が“あべこべ”にした理由は、机上の空論みたいな頭の中でこねくり回した印象が強いし、またそれを解明するには、日本人には難易度が高すぎる気がします。別件で明らかにされる、詐欺師が企てる悪巧みとそれにまつわる出来事はあまり目くらましにはなっていない感じがしました。クイーン父子の振る舞いぶり、密室の仕掛けなど、あれやこれや古き良き時代の本格探偵小説といった印象が強く残る作品でした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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