『コオロギの眼』ジェイムズ・サリス ミステリアス・プレスハヤカワ文庫

2018-02-20

Tag :

☆☆☆

時は流れ、街は変わり、人々もうつろってゆく。探偵だったルー・グリフィンは教師となり、作家としても成功していた。だが一本の電話が、ふたたび彼を混沌の街へと誘う。長年行方不明になっていた息子らしき青年が、重傷を負って入院しているというのだ。急ぎ病院を訪れたルーは、そこで意外な言葉を聞かされる……ハードボイルドに新たな風を吹き込む傑作 内容紹介より



『黒いスズメバチ』と同じく、舞台はニューオーリンズ、主人公はルー・グリフィンです。現在の彼は、作家としていくつかの著作を出し、大学で英文学を教えています。元探偵の経歴から、学生の失踪した弟を捜し出す依頼を受けます。実は主人公の一人息子も長年行方不明になっているのです。ある晩、彼が息子へ贈った署名入りの著書を持った男が重傷を負って病院に運ばれたとの連絡が入りますが……。過去に彼が愛した女性たちへの思い、近隣で起きるストリートギャングによる犯罪行為、親友の息子に起きた悲劇、こういったいろいろな出来事を観念的、叙情的に移ろう心情を細かく描写していく手法をとっています。この作家の持つ、いわゆる「文学」指向なのだと思うのですけれど、この思わせぶりな文学臭がやや鼻に付くところもあります。いうなれば、ミステリ性がかなり希薄なハードボイルドなのでしょうし、そう割り切れば文体は嫌いではないし、これまでに読んだ二作品より肌にあった感じがしました。しかし、p265からの、どういう必然からなのか訳の判らない突然の彷徨をし始める主人公の行動は意味が分かりませんでした。

『黒いスズメバチ』ミステリアス・プレス
『ドライヴ』ハヤカワ文庫HM




商品詳細を見る









テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷の娘』レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫

2018-02-16

Tag :

☆☆☆

買い物を終えた女性が、車のトランクで少女の死体を見つけた。暴行を受けて殺害されたらしいその少女は、フィギュアスケートの若手ホープ、ノーラ。つい数日前ノーラの素晴らしい演技を観たばかりのエスポー警察の巡査部長マリアは、ショックを隠せない。才能豊かで恐ろしく気が強かった、氷上のプリンセスを殺したのは誰?有力な被疑者としてノーラの母親につきまとっていたストーカーの男が浮上するが……。産休目前のマリアが、ノーラを巡る人間関係に捜査のメスを入れる。フィンランドで人気ナンバーワンの〈マリア・カッリ シリーズ〉。 内容紹介より



産休を四週間後に控えた、前作同様身重なヒロインがフィンランドフィギュア界を舞台に活躍する話です。古市真由美氏の訳者あとがきによると、作者はフィギュアスケートに造詣が深いらしく、話のあちらこちらにその片鱗がうかがえます。事件は、将来を嘱望されていたフィギュアスケートのスターの少女が撲殺された姿で発見されるというもの。ヒロインの上司である警部が娘を通じて被害者と顔見知りだったため、巡査部長であるヒロインが捜査を実質上担当することになります。被害者とペアを組んでいた選手、彼らのロシア人コーチ、フィギュアスケート協会理事、被害者一家のストーカーなど、錯綜する人間関係、そして被害者がつけていた日記に表される思春期の心情とともに、妊娠をめぐるいろいろな問題や署内の人事をめぐっての思惑が捜査活動にからんで描かれ、物語に深みと広がりを与えています。難点は、クライマックスにおけるヒロインのとった軽率な行動が、コージミステリでよく見掛ける素人探偵みたいで、プロらしさが感じられないところに警察小説としては不満を覚えました。一方、警察組織の男社会の中で一人奮闘する彼女の姿は好印象を与えていると思います。

『雪の女』




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ねじれた文字、ねじれた路』トム・フランクリン ハヤカワ文庫HM

2018-02-11

Tag :

☆☆☆☆☆

ホラー小説好きの内気な少年ラリーと、野球選手になれそうなほど才能がある少年サイラス。まったくちがう二人が育んだ確かな友情。が、ある出来事を境に関係は断絶した。25年後……自動車整備士になったラリーは、住人から疎外され、孤独の中で暮らしていた。そんな時、町の有力者の娘が失踪。ラリーに疑惑の眼が向けられ、治安官になったサイラスは事件の捜査に関係していく。かつての友との再会がもたらすその先には…… 文庫版内容紹介より



家庭の事情によりシカゴからミシシッピの片田舎町に移り住んだ母子家庭の黒人少年サイラスと地元で自動車修理工場を営む父親を持つ白人少年ラリー、この二人の出会いと友情、離別と再会を描いた物語です。野球の才能に恵まれた行動的な少年、友だちのいない読書好きの少年、この二人の造型も陰と陽、静と動です。成長して町の治安官と自動車整備士になった二人の路は、少女の失踪事件を契機に再度交わることになります。25年前のある事件のせいで住人からつまはじきにされている、友を渇望するラリーの25年間の孤独が大げさではなくて、非常に抑えた筆致で描かれているがゆえにとても胸に迫ってきました。そしてもうひとつ物語全体に重しのようにのしかかっているのが人種差別の圧力です。そのために少年たちの友情は壊れ、サイラスはある秘密を長いあいだ抱え込んでいなくてはならなかったのでしょう。ミステリとしてあっと言わせるものはありませんけれど、主人公たちの等身大の造型は控えめで好ましく、彼らの回想シーンにあらわれる少年時代の姿は少年小説の系譜を引いています。CWA賞を受賞した秀作です。




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『非情の裁き』リイ・ブラケット 扶桑社ミステリー

2018-02-04

Tag :

☆☆☆☆

LAの私立探偵エド・クライヴは、ひそかに愛しあう女性ローレルの身辺警護につく。また、旧友ミッチに対する脅迫事件を依頼された。殺意に満ちた何者かの影が迫り、エドはふたりを守ろうとする。だが、事件は起こった—残酷な悲劇が。こうして、エドの孤独な戦いがはじまった。何者をも信じず、みずからの肉体と頭脳だけを頼りに入り組んだ謎に挑むタフガイの姿を描きあげた、ハードボイルド黄金期を飾る逸品。ハワード・ホークスを驚嘆させた女性作家、幻の傑作!〈序文:レイ・ブラッドベリ〉 内容紹介より



翻訳は浅倉久志氏です。わたしにとって浅倉訳というと、たとえ未知の作家の作品であっても手にとってしまうほどの信頼のブランドであり、はずれがないイメージがあります。1944年に発表された本書はストレートな正統派ハードボイルド作品です。もっと早く翻訳されていたら日本でも高く評価されていたと思います。いかんせん正統派の型にはまりすぎているがために、現代ではそのスタイルが古めかしく、登場人物たちの造型もカリカチュアされているみたいに思えてしまいました。彼らの会話や行動パターンにしてもしかり。また発表時の時代に、あえてあわせたかのような訳出もさらに古めかしさを感じさせる一因になっています。(従者を連れて)卑しき街をゆく騎士という私立探偵、酒と煙草、バーと悪女、拳銃と暴力、お金持ちと家庭不和、といった定番要素に王道の展開と捻りを加えた結末。はからずも正統派古典ハードボイルドとそれが表した古き良き時代への鎮魂歌みたいに思えました。




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『猟犬』ヨルン・リーエル・ホルスト ハヤカワ・ミステリ

2018-01-31

Tag :

☆☆☆☆

17年前の誘拐殺人事件で容疑者有罪の決め手となった証拠は偽造されていた。捜査を指揮した刑事ヴィスティングは責任を問われて停職処分を受ける。自分の知らないところで何が行われたのか?そして真犯人は誰なのか?世間から白眼視されるなか、新聞記者の娘リーネに助けられながら、ヴィスティングはひとり真相を追う。しかしそのとき、新たな事件が起きていた……。北欧ミステリの最高峰「ガラスの鍵」賞をはじめ、マルティン・ベック賞、ゴールデン・リボルバー賞の三冠に輝いたノルウェーの傑作警察小説 内容紹介より



DNA鑑定の結果、犯人特定に至った、犯行現場で採取された煙草の吸い殻が、捏造された物だと指摘する容疑者側の弁護士の告発を受け、当時捜査責任者であった警部である主人公が停職処分を受けます。
彼の娘は、その告発を大々的に報じた新聞社の記者でもあります。そんななか新たな若い女性の失踪事件が発生します。物語はふたりの視点から描かれていきます。主人公が深夜の警察署に忍び込むという行動をとったりしますが、作者は、父親には主に推理を担当させ、娘は取材や尾行などの行動を受け持たせる役割分担を行っているようです。猪股和夫氏の訳者あとがきにもあるように、この静と動の対比が作品にめりはりを与え、かつ過去と現在の事件を絡めることで話に深みを付けているように感じました。父娘と元鑑識員以外の登場人物の印象が薄いようで残念な気もしますけれど、それも父娘にスポットライトをあてるという意味では上手い効果を上げているのかもしれません。作者は元警察官だったそうでが、新聞記者の取材活動の細かなところにもリアリティがあって面白く感じました。




商品詳細を見る




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール 小学館文庫

2018-01-25

Tag : SF

☆☆☆

AI(人工知能)の開発が進み、家事や仕事に就くアンドロイドが日々モデルチェンジする近未来のイギリス南部の村。弁護士として活躍する妻エイミーとは対照的に、親から譲り受けた家で漫然と過ごす三十四歳のベン。そんな夫に妻は苛立ち夫婦は崩壊寸前。ある朝、ベンは自宅の庭で壊れかけた旧型ロボットのタングを発見。他のアンドロイドにはない「何か」をタングに感じたベンは、作り主を探そうと、アメリカへ。中年ダメ男とぽんこつ男の子ロボットの珍道中が始まった……。タングの愛らしさに世界中が虜になった、抱きしめたいほどかわいくて切ない物語。 内容紹介より



ロボットのまるで幼い子供(作者は子育てから本作のヒントを受けたそうです)みたいな喋り方としぐさ、主人公のモラトリアムをこじらせたみたいな造型と彼とロボットとの会話の様子が個人的に甘すぎて肌が合いません。イギリスからサンフランシスコ、ヒューストン、東京、パラオを巡るロードノベルであり、その過程で、両親の死と志望する仕事からの挫折といった人生のつまずきから引きこもり状態に陥ったいい大人の主人公が、ロボットとの道中で父性が芽生え、妻への愛情に改めて目覚めるという成長小説でもあります。それらが感傷、叙情、メルヘンという液体に頭までひたひたに漬かって描かれているので私的には勘弁して欲しい感じがおおいにしました。悪い意味での大人の童話なのですが、セックス関連のエピソードを抜きにしても、こんなあまあまな物語はヤングアダルトでもちょっとどうかと思われそうです。しかし、一般的な評価は高いので興味のある方は一読の価値があるでしょう。




商品詳細を見る




テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー ローラ・チャイルズ ジョアン・フルーク キャロリン・G・ハート ジョージ・P・ペレケーノス マイクル・クライトン ドン・ウィンズロウ ジョー・R・ランズデール ポーラ・ゴズリング C・J・ボックス エド・マクベイン ジェームズ・パターソン リチャード・マシスン ヘニング・マンケル ジル・チャーチル ジェイムズ・パタースン ローレンス・ブロック ピーター・ラヴゼイ カール・ハイアセン ジャネット・イヴァノヴィッチ D・M・ディヴァイン リリアン・J・ブラウン レジナルド・ヒル スチュアート・ウッズ アリス・キンバリー レックス・スタウト パーネル・ホール ジョルジュ・シムノン S・J・ローザン ジョー・ゴアズ マーガレット・ミラー クレオ・コイル レスリー・メイヤー ウィリアム・カッツ ヒラリー・ウォー ジェフリー・ディーヴァー カーター・ディクスン ジェフ・アボット アイザック・アシモフ コリン・ホルト・ソーヤー エド・ゴーマン ジャック・カーリイ ジョン・ディクスン・カー マイケル・ボンド ルイーズ・ペニー マーシャ・マラー ロブ・ライアン ジェームズ・ヤッフェ キャロリン・キーン G・M・フォード リタ・メイ・ブラウン ローラ・リップマン イーヴリン・スミス ウィリアム・L・デアンドリア フレッド・ヴァルガス ポール・ドハティー レニー・エアース ウイリアム・P・マッギヴァーン ケイト・ロス リン・S・ハイタワー ジョアン・ハリス ドナ・アンドリューズ オーサ・ラーソン クリスチアナ・ブランド サイモン・カーニック アンドレア・カミッレーリ デイヴィッド・マレル アンソニー・ホロヴィッツ ファーン・マイケルズ エヴァン・マーシャル ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン コニス・リトル ジョン・クリード レイ・ハリスン ダナ・レオン ジャック・フィニイ ウォルター・モズリイ ウィリアム・ランデイ ジェーン・ラングトン エーリヒ・ケストナー ビリー・レッツ ウォルター・サタスウェイト リック・ボイヤー ユージン・イジー サキ イーサン・ブラック アン・クリーヴス トバイアス・ウルフ スタンリー・エリン ポール・ドハティ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント