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☆☆☆

2006年、南極。アルゼンチン軍が英南極基地を急襲、占拠した。近辺にあった唯一の軍艦、最新鋭ステルスか駆逐艦〈カニンガム〉が急行する。援軍は見込めない。〈カニンガム〉はアルゼンチン軍の猛攻に、ハイテクと機略と胆力を武器にたった一隻で戦いを挑む。苛烈な南極の自然の中、迫真のディテールで描く新たなる軍事冒険小説。 内容紹介より



作品が発表されたのは1996年なので、2006年に時代設定した本書は近未来軍事スリラーの形をとっています。しかし、現在2012年ということを割り引いても、軍隊の装備や武器に詳しくないから読んでいても近未来感がしませんでした。それはともかく、わたしのような素人でも現代の軍事スリラーの流行言葉は「ステルス」であり、それとともに様々な最先端科学技術がストーリーの全面に出てくる傾向があって、また、それを操るのはコンピューターに大部分を依存していることが分かります。本書においてもアルゼンチン軍の戦闘機との戦闘が始まると、武器のほとんどすべてがコンピューター制御され、戦闘指揮所にいる軍人の多くは手持ち無沙汰状態になっていると言ってもいいくらいです。この傾向は、本書の作者のような軍事関係者または元軍人などハイテク装備に精通している者にとっては軍事ミステリーを執筆する上で有利に働くでしょうし、リアリティのある描写が可能でしょう。一方、ハイテク装備した軍艦が登場する作品がみな似たような印象しか残せないのは、そこに人間ドラマが希薄だからでしょう。概ね軍事関係者や軍事評論家などの作品には、これが欠ける傾向にあると思います。本書では艦長と部下の恋愛を描くという、個人的には暴挙としか思えないような、軍事スリラーにはあり得ないことをしていて、こういう物語を緩くぬるくする人間ドラマは要らないのです。




ステルス艦カニンガム出撃 (文春文庫)ステルス艦カニンガム出撃 (文春文庫)
(1999/11)
ジェイムズ・H. コッブ

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☆☆☆

事件が起きたのは、クロゼット病院の古いボイラー室。病院の設備管理主任のハンクが首を切り裂かれた死体で発見されたのだ。現場の状況から考えて、行きずりの凶行ではないと思われるが、ではその動機は?保安官たちの捜査をよそに、好奇心を抑え切れなくなったハリーは、いつものように独自の捜査に乗り出してしまう。そんな彼女を心配して、トラ猫ミス・マーフィが率いる動物探偵団も、事件捜査へと立ち上がった! 内容紹介より



〈トラ猫ミセス・マーフィ〉シリーズ九作目。
一応、コージー・ミステリなのに三人も人が殺されるのは殺伐過ぎやしないかと、なかには動機について説明不足でストーリー上必然性を感じない殺人もあったような気がするし、また、ヒロインののんびりした農場暮らしの様子を描いている部分が好みなのですが、今回はのどかな雰囲気があまり感じられなくて残念でした。たかがコージー、されどコージー、ミステリ作品なわけですから、そもそも犯人が犯罪に手を染めるようになった過程を伏線として描かず、結果のみをポンと提示されても面白くなりようがないと思うのですけど、こういった手抜きの傾向は他のコージーにもしばしば見られるところで、さりとて登場人物の魅力に頼ろうにも九作目にもなると人物のキャラクターもマンネリ気味な造形に終始しているし、ここら辺りがシリーズの転換期ではないでしょうか。ただ、未訳の作品があと十作ほどあるそうです。それから、伝統というものにたいしてコンプレックスを持ってそうなアメリカ人読者向けに、キツネ狩り(ただし、殺すのではなく追跡するだけ)というイベントの様子を挿入していますが、このキツネとヒロインのペットたちが絡む場面は用意されていなくて、なにかもったいない感じでした。

『町でいちばん賢い猫』
『散歩をこよなく愛する猫』
『アルバムをひらく猫』




病院が嫌いな猫〔トラ猫ミセス・マーフィ〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)病院が嫌いな猫〔トラ猫ミセス・マーフィ〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2011/04/08)
リタ・メイ・ブラウン、スニーキー・パイ・ブラウン 他

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☆☆☆☆

モース主任警部にとって、偽善に満ちたクリスマスほどうっとうしい時期はなかった。おまけに、こんな夜更けにケチな盗難事件の捜査に駆りだされることになろうとは……。現場はロンドンの場末の安酒場だった。児童施設に寄付するために店の主人が集めた四百ポンドの金が、忽然と消えたという。事件当夜、店にいたのは金回りが悪い常連客ばかりで、犯行のチャンスは誰にでもあった。モース主任警部はうんざりした面持ちで客の証言に耳を傾けていたが、やがて晴れやかな微笑を浮かべると、意外な話を切り出した!『クリスマス・キャロル』を下敷きとした洒落たクリスマス・ストーリーの表題作ほか、ホームズもののパスティーシュ「花婿は消えた?」、仕掛けを凝らしたメタミステリ「内幕の物語」など、短篇の愉しさを堪能できる十篇を収録。本格ミステリの第一人者が贈る、ヴァラエティに富んだ傑作短篇集。 内容紹介より



「モース警部、最大の事件」「エヴァンズ、初級ドイツ語を試みる」「ドードーは死んだ」「世間の奴らは騙されやすい」「近所の見張り」「花婿は消えた?」「内幕の物語」「モンティの拳銃」「偽者」「最後の電話」を収録。文庫版には、さらに「信頼できる警察」が収録されているようです。

あくまでも個人の想像ですけれど、コリン・デクスターの作品、それもわざわざ短篇集を読んでみようかと手にとる人の多くは、海外ミステリを読みなれていて、かつ、この作者の作風に親しんでいる人だと思うのです。そういう方たちはデクスターの長篇作品の印象が強過ぎるために、これらの短篇の評価についてはやや厳しくなる傾向があるのではないかと思ったりしました。
一方、短篇ながら読者の想像を超える二三重のひねりが設定され、とても分かりやすいストーリーで、ユーモラスで嫌な後味が残らないところは、逆に、国内海外ミステリ問わずミステリ初心者には格好の入門書になるかもしれないし、海外ミステリのファンを増やすきっかけになる作品集かもしれません。

無縁だと思われたクリスマススピリットがモース警部の心に舞い降りた「モース警部、最大の事件」、青春時代のはかなく切ない恋の想い出が、モース警部の調査によって結果的にグロテスクで残酷な笑いに変えられてしまった「ドードーは死んだ」、この作者特有のひねりのくどさが堪能できる「エヴァンズ、初級ドイツ語を試みる」と「世間の奴らは騙されやすい」、常日頃馬鹿にされまくりのワトスンからの痛快な仕返しであるホームズパスティーシュの「花婿は消えた?」、たぶん珍しいメタミステリの短篇作品、しかも構成がすっきりしているうえに引き込ませるテクニックに長けた「内幕の物語」、少々狙い過ぎた印象の「モンティの拳銃」と「偽者」、人間性の裏側を嫌らしく描いた「最後の電話」。




モース警部、最大の事件 (ハヤカワ ポケット ミステリ)モース警部、最大の事件 (ハヤカワ ポケット ミステリ)
(1995/02)
コリン・デクスター

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☆☆

イギリス人でありながら、マムール・ザプトと呼ばれるエジプト副王直属の秘密警察長官の職にあるオーウェン大尉は、カイロでその名を知らぬ者がないほどの名捜査官。その彼が命じられたのは、なんとアメリカからやってきた考古学者ミス・スキナーのお相手をすることだった。なんでも、彼女の叔父は次期大統領と目される大物政治家だという。スキナー嬢たっての願いで、オーウェン大尉はしぶしぶ盗掘事件の調査に同行することを承知した。その矢先、何者かの仕業で彼女が危うく電車に轢かれそうになり、さらに数日後、彼女が赴いた先の発掘現場で足場が崩れると言う事故が起きた。犯人探しに乗り出したオーウェン大尉は、やがて大がかりな盗掘組織と対決することに……。二十世紀初頭のエジプトを舞台に、警察長官と気丈なおてんば娘の活躍を描く、異国情緒たっぷりの痛快時代ミステリ。英国推理作家協会賞ユーモア賞受賞作。 内容紹介より



英国によるエジプトの植民地化や大地主による地方支配などへの反発から、民族主義的思想が台頭し始め、それは盗掘され違法に売買されたり、外国人によって発掘され海外へ持ち出されている古代エジプトの遺物に対しても同じような主張で保護しようとする考えを持つ人たちも現れている状況の中、遺跡や遺物の保護についてリベラルな考えの持ち主である米国人女性ミス・スキナーが登場するのです。そして、彼女の身に危険が及ぶ事態になって、主人公のオーウェン大尉が捜査し始めるという話です。
堀内静子氏があとがきで書かれているように、ユーモア賞受賞作品といっても、あくまでも英国風ユーモアであって、ドタバタ系でもないし、大笑いするようなギャグ満載でもない、抑制された笑いです。個人的にはユーモア以前に話の強弱が乏しく、平板で面白いとは思えませんでした。国家権力側のオーウェンより、一民間人のミス・スキナーを主人公にしたほうが良かったかも。それとエジプトらしい独自のスパイスが欲しかったところ。
たぶん今も同じであろう遺跡や遺物をめぐる状況、格差や貧困といった問題を抱える現代エジプトに興味を持つきっかけに、あるいは異国情緒を味わうため、エジプト旅行を予定している方には良い読み物かもしれません。




警察長官と砂漠の掠奪者 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)警察長官と砂漠の掠奪者 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(1995/03)
マイクル ピアス

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☆☆☆

町の鼻つまみ者ホン・コンおばさんが新設したコニー相談所に大方の予想に反し、一人の客が訪れた。その婦人は、警察が自殺とした息子の死が、他殺であることを証明してほしいと依頼したのだ。息子を天国に、という切なる親心にほだされたホン・コンはさっそく警察に赴き、部長を恐喝して調査記録をせしめた。だが、なんと少年は天国どころか、教会冒瀆、銀行強盗など前科数犯のとんでもない悪だった。加えて、歴然たる自殺の証拠。だが、けっしてひるむことのないホン・コンは、傍若無人な探偵術を展開。ついに意外な事実をつかんだのだ! 内容紹介より



シリーズタイトルは〈ホン・コンおばさんシリーズ〉です。
貴族の血を引くプライドの高いお金持ちながら、ケチで口が悪く出しゃばりなため周りからひんしゅくを買っているおばちゃんが主人公です。この人物が非常に強烈なキャラクターの持ち主で、「貴族階級は下層階級の面倒をみなければならない」という要らぬ使命感を持っているため余計にたちが悪く、上から目線でずけずけものを言う様子が読んでいてとても壮快でした。このドン・キホーテの女性版みたいなご主人に付き従うのが、至って常識人で気の弱い使用人のミス・ジョーンズで、二人のやり取りも面白可笑しいです。巻末のあとがき(あるいは、解説)で、ヒロインは「ミス・マープル自身のアンチ・テーゼ」という上手い指摘をしていますが、または、セイヤーズのピーター・ウィムジー卿と執事バンターのパロディとも言えるかもしれません。意外だったのは、スラップスティックな雰囲気で物語が進展しながら、犯人と動機についてはいたってまともなミステリ的帰結を迎えたことでした。これが良かったのか悪かったのか、小さくまとまった感も否めません。それと、町のチンピラたちは少々目障りでした。




案外まともな犯罪―ホン・コンおばさんシリーズ (Hayakawa pocket mystery books)案外まともな犯罪―ホン・コンおばさんシリーズ (Hayakawa pocket mystery books)
(1972/01)
ジョイス・ポーター

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☆☆☆☆

男は54年間、眠れぬ夜を過ごしてきた。森の中の一軒家、人形をパートナーにタンゴを踊る。だが、その夜明け、ついに影が彼をとらえた……。ステファン・リンドマン37歳、警察官。舌がんの宣告に動揺する彼が目にしたのは、新米のころ指導を受けた先輩が、無惨に殺されたという記事だった。CWA賞受賞作『目くらましの道』に続く、スウェーデン推理小説の記念碑的作品ついに登場。 上巻内容紹介より



物語をナチス・ドイツで起きたある殺人事件の単なる復讐譚に留めず、それを現代のネオナチズムにリンクさせているところに、社会問題を作品のテーマに取り入れる作者の真骨頂が窺えます。実際に、移民排斥や反イスラムの主張を掲げた犯人によるノルウェーの銃乱射事件が起きているわけですから、内容にとてもリアリティを感じました。
主人公は舌ガンを患い、本格的な治療が数日後に控えているため、また、死への恐怖心から恋人との仲も危うくなりつつあるせいで、作品の雰囲気は終始暗く、ジョセッペ・ラーソンという警察官が唯一、暗に対する明の存在に設定してありますが、明暗のバランスがとれているとは言い難い感じでした。このジョセッペについては、主人公が管轄外の警官であるにも関わらず、排他的な態度を取ることなく、のっけから積極的に捜査に拘わらせるというところに、不自然さと都合の良さが垣間見えるような気がしました。ストーリーの流れは、中盤にもたもたした停滞感があって間延びしている印象を受けました。それから、主人公が二度犯人に襲われて、いずれも意識を失ってしまう場面がありますが、この重複は、主人公のイメージをかなり間抜けなものにしてしまうのではないかと。いろいろ細かいことを書きましたが、ヘニング・マンケルらしい安定感のある秀作です。

タグ:ヘニング・マンケル




タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)タンゴステップ〈上〉 (創元推理文庫)
(2008/05/23)
ヘニング・マンケル

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タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)タンゴステップ〈下〉 (創元推理文庫)
(2008/05/23)
ヘニング・マンケル

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