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『天使の鬱屈』アンドリュー・テイラー 講談社文庫

2019-12-06

Tag :

☆☆☆☆

夫と別居し、教会付属の図書館で働き始めたウィンディ。半世紀前の聖職者にして詩人フランシスのことを調べている彼女の身辺で、死の悲劇が相次ぐ。「醜聞の主」「立派な紳士」と人物像の定まらない詩人の過去を追っているもう一人の人物とは誰か?歴史の謎に彩られたミステリーの大聖堂!CWA賞受賞作。 内容紹介より



本書は、三部作Requiem for an Anjelの『天使の遊戯』『天使の背徳』につづく三作目にあたります。わたしは順番を違えて最終巻から読み始めてしまったのですが、やはり発表順どおりに読んだ方が良いみたいです。
夫の浮気現場を目撃したヒロインは、お金もないため学生時代の親友で、今は神学校の副校長をしている夫と娘と暮らす学生時代の親友の家に居候のような形で住み始めます。やがて神学校付属の図書館で蔵書整理の臨時仕事についた彼女は、五十年前に司祭だった人物が出版した詩集に出会います。女性司祭の登用や地域の貧困問題に取り組んだその地元で毀誉褒貶のある聖職者に興味を引かれたヒロインは、彼女の他にもその人物について調べ回っている男がいることに気づきます。物語は、この聖職者についての調査、親友家族との日常生活、離婚を考えて別居した夫に関すること、教会の敷地内という特殊な環境に入り込んだ彼女の視点から教会関係者やその家族についての日々の出来事を眺め暮らす様子 が綴られて進み、ミステリらしい事件が起きるのは最終盤になってからです。本書を読んだだけでは CWA賞受賞作として食い足りない感じが残りますが、主人公のユニークな造形が印象的な作品だと思います。

『我らが父たちの偽り』サンケイ文庫
『第二の深夜』 文春文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『紙片は告発する』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2019-12-03

☆☆☆☆

お父さんが思ってるほど、あたしは馬鹿じゃない。誰かさんを刑務所送りにできる秘密を知ってるんだから—町議会議員の娘だが、周囲に軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った妙なメモのことを警察に話すと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……!現在キルクラノンの町では、町長選出にまつわるいざこざが持ち上がっており、庁内には腹に一物ある連中がひしめいていた。即座に口封じに及んだのは誰か?地方都市を舞台に起こる殺人事件とその謎解きは、ディヴァイン犯人当ての真骨頂! 内容紹介より



1970年に発表された本書は、時代的に新しいわけでも、かと言って古めかしいわけでもないのですが、被害者の職業がタイピストというところに時代感を覚えました。一方、町議が職場で有能な女性に否定的であったり、面と向かってセクハラやモラハラ発言をしたり、性的少数者に世間の理解がまったくなかったりする傾向が当たり前であった時代でもあります。こういう要素が物語に組み入れている点などに時代の移り変わりを感じます。物語には、不正入札や職場内の不倫をはじめとした人間関係や出世競争といったかなり世俗的なテーマが盛り込まれ、公務員であるヒロインの視点でもあるために、二件の殺人事件のわりには全体的には地味目なトーンで推移していきます。しかし、役所内を主要舞台にした設定は一見社会派ミステリ風でもありますが、実際は作者らしいパズラー小説に仕上がっているという、ミステリにおける古典と現代の混在のようにも見えます。犯人の意外性はあると思うのですけれど、欲を言えば各容疑者にさらなる動機を付け足していたらもっとサスペンスが盛り上がったようにも思いました。

ユーザータグ:D・M・ディヴァイン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『脅迫なんか恐くない』パーネル・ホール ハヤカワ文庫HM

2019-11-30

Tag : パーネル・ホール

☆☆

自分をゆすっている男に金を渡して—わたしを訪ねてきた美女は訴えた。が、彼女は何も事情を話さない。揉め事は苦手だが、法外な報酬につられ、わたしは脅迫者に会いにいった。そこでわたしが金と引き替えに受け取ったのは、見知らぬ男女が写っているポルノ写真だった。彼女と写真には何の関係が?謎だらけの仕事は、やがてわたしをとんでもない窮地に陥れるが……相も変わらず美女に弱い控えめ探偵が奔走する第九作 内容紹介より



地元ニューヨークを離れ、またシリーズの常連たちも不在だった第八作目の『俳優は楽じゃない』から、九作目の本書ではホームに戻り、脇を固める人物たちも頻繁に登場しています。特に、主人公の奥さんはこれまでにないくらい登場機会が設けられ、主人公と行動を共にしたりして積極的に調査に加わっているほどです。また、主人公の雇い主である弁護士や腐れ縁の殺人課の刑事とやり取りする場面もいつもより多い印象でした。これは各人との会話形式によって目先を変えながら物語進行させる工夫であるとともに、作者お得意の軽口を披露する機会を設けるためでもあるのでしょう。狙いどおりに話は、さほどだれることも少なく軽快に進み、脅迫事件と連続殺人事件の真相にはいっこうに迫っていきません。誰にも依頼されていないにもかかわらず、調査を続ける理由として、死体発見者の主人公が部長刑事に不当逮捕されてトラ箱にこう留されたことを根に持ち、その担当刑事に一泡喰わさてやりたいという動機を付けているところは妙に細かい。希薄な状況証拠ばかりで、犯人が自白してしまう安直さがどうしようもなく、どんでん返しとまでは行かないけれど、物証の一つでも用意して欲しかったところ。

ユーザータグ:パーネル・ホール



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『九十歳の誕生パーティ』レスリー・メイヤー 創元推理文庫

2019-11-27

☆☆

弁護士ボブがパートナーのシャーマンの死体を発見した。警察は自殺と判断したが、ボブはどうしても納得できず、パートタイムの新聞記者で、殺人事件を何件も解決(?)してきたルーシーに調査を依頼。一方、元司書のミス・ティリーの九十歳の誕生日に町を挙げてのパーティを開くことが決まり、親友スーの采配のもと、当然ルーシーもこき使われることに。思春期に突入した次女、大学での成績不振に悩む長男、おまけに夫ビルが仕事中に足を折る大けが。家族の世話に新聞記者の仕事、殺人事件の調査にパーティの準備と、主婦探偵は今日も大忙し! 内容紹介より



本書は、主婦探偵ルーシー・ストーン・シリーズの第九作目です。コージー・ミステリに欠かせない、今回のイベントごとは町の図書館で長らく司書をしていた女性の九十歳の誕生パーティです。町の住人の誰もが知っている彼女の誕生お祝いを、行政からでなく、友人たちが発起人となって計画し、企業や商店から寄付を募り、住人たちを巻き込んで進めていくという、おおらかでポジティブな活動が非常にアメリカらしさを感じました。こういう雰囲気を味わえるところがコージー・ミステリの魅力のひとつなのかもしれませんし、ミステリが拙いとか言っている場合ではないのかも。そしてヒロインは、不審な死を遂げた老弁護士の調査をするかたわら、新聞記者の業務に加えて、元司書である老婦人へのインタビューやら、さらに家族に持ち上がった色々な問題への対処、交通違反や事故、ダイエットに努めたり加齢に抗ったりと公私ともにてんてこまいの状態に陥ります。こんな日常を描き出すのもまた魅力なのでしょうから、ミステリの粗さには目をつぶっても良いのかもしれません。

ユーザータグ:レスリー・メイヤー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『闇と影』ロイド・シェパード ハヤカワ文庫HM

2019-11-24

Tag :

☆☆☆

1811年12月7日。ロンドン郊外ワッピング地区のラトクリフ街道沿いで服地商を営むティモシー・マーの一家を悲劇が襲った。マー夫妻と赤ん坊、それに住み込みの徒弟の四人が、無残に殺害されたのだ。恐怖に震えあがる人々は迅速な犯人逮捕を望むが、捜査は進まない。そこで、テムズ河川警察に所属するホートン巡査は独自の捜査を開始するが、やがて第二の事件が……犯罪史上に名高い未解決事件を描く、歴史ミステリの快作 内容紹介より



物語の構成は、1811年12月のラトクリフ街道殺人事件発生から1812年2月の捜査終結までと、1564年10月に始まる、結婚したてのビリーという名の若者が新生活の資金稼ぎのために船乗りになり、やがて奴隷貿易に携わる冒険譚、この二つが交互に差し挟まれて進みます。二百年以上もの隔たりがある二つの話がいったいどんな関連をみせるのか見当もつきませんでしたが、それはとんでもなく思わぬ形で結びつけられることになります。この力業じみた手法が面白く感じるのか、あるいは興ざめるか、評価が分かれるところだと思います。史実に則した殺人事件にオカルト的なものを導入していることには、わたし個人はあまり馴染みませんでした。大英帝国創設において奴隷貿易という暗部に焦点を当て、それを象徴するものとしてビリーという人物を作り出した作者の意図はわかりますが、今回わざわざそれを当該事件に接ぎ木しなくてもよいのではないかという気がします。それに赤ん坊までも手に掛ける犯行の残虐性が犯人の人物像に合っていないことも気になりました。ロンドン警視庁ができる以前のロンドンの警察組織と活動についてはなかなか興味深いところがありました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黒い薔薇』フィリップ・マーゴリン ハヤカワ文庫NV

2019-11-21

Tag :

☆☆☆☆

ポートランドの弁護士ベッツィは破格の報酬で、建設会社の社長から、起訴された時には弁護するよう依頼された。その直後、彼は連続女性失踪事件の容疑者として逮捕されてしまう。十年前、ニューヨークでも今回と同様、現場に薔薇が残される失踪事件が起きており、彼と二つの事件との関係が疑われたのだ。やがてベッツィの身辺に危険が迫り、裁判の行方は混迷を極める……二転三転するダイナミックな展開の傑作サスペンス 内容紹介より



一輪の黒い薔薇と「去れど忘られず」と記された紙が現場に残された女性失踪事件が立て続けに起き、十年前にニューヨークで発生した同様の事件を手がけた刑事の情報により、地元の大手不動産業者の容疑者が逮捕されます。その容疑者の弁護を引き受けたのが、夫と別居中で幼い娘と暮らす主人公です。状況証拠ばかりの容疑であり、彼女は依頼人の保釈を勝ち取りますが、彼に不審なものを感じた彼女は彼の過去を調べ始めます。弁護士が主役のリーガルサスペンスといえば、冤罪を着せられた依頼人を不利な状況ながら一発逆転無罪を勝ち取るというスタイルが定番だと思うのですけれど、本書はそれとはまったく違うスタイルを採っています。十年前に起きた事件の真犯人に近い容疑者だった、 非常に怪しく好感の持てない人物を依頼人に仕立て、読み手はこれからどういう展開になっていくのか先が読めない状態になります。そんななか後半に入った頃、予想しない衝撃的な真実が明かされてびっくり仰天してしまうのです。しかし一方では種明かしされて、それ以降の流れはだいたい読めてしまうという残念なところも併せ持っている作品だと思います。サイコパス犯罪を逆手に取ったかなりユニークな作品だと思いました。

『炎の裁き』ハヤカワ文庫NV
『女神の天秤』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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