『警視の偽装』デボラ・クロンビー 講談社文庫

2018-06-18

Tag :

☆☆☆☆

英国の有名オークションに出品されたジュエリー。それはジェマの友人エリカの父の形見で、行方不明のものだった。オークション関係者の謎の死。1945年の殺人。ジェマの母が倒れ、ジェマは警察官、娘、母親として岐路に立たされる。公私共にパートナーのキンケイドと時を超えた謎に挑む、警察&ヒロイン小説の傑作。 内容紹介より



ダンカン・キンケイド&ジェマ・ジェイムズ シリーズ12作目の作品。このシリーズは八作目までは読んでいたのですが、当然まったくといって良い程内容を覚えていません。
本書では、キンケイドはスコットランドヤードの警視、ジェマはノッティング・ヒル署の警部補で二人はそれぞれの子供とともに同棲をしています。物語は、ジェマの旧友であるユダヤ人女性が第二次大戦前にドイツからイギリスへ亡命する際になくしたブローチがオークションのカタログに掲載されたことから始まります。ジェマは友人の頼みでそのブローチがオークションハウスに持ち込まれた経緯を店員に問い合わせますが、それを契機に宝石にかかわった人物の不審死が続けざまに起こります。さらに戦争が終わって間もない頃に起きたユダヤ人男性の刺殺事件も明らかになり……。という具合に現代と過去、人物が錯綜して展開していく訳ですが、ジェマ自身にも個人的な出来事が降り掛かります。ミステリも出来が良く、ヒロインの両親を始めとしたプライベートでの心の成長も盛られた良作だと思います。読み始めは視点の移り変わりがめまぐるしく感じましたけれど、優れた女性作家特有の繊細な心理描写と緻密で巧みな物語の織り方がとても印象に残る作品でした。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『災いの小道』キャロリン・G・ハート ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2018-06-15

☆☆☆☆

ジャーナリズム学科の女学生マギーが課題として選んだのは、過去の未解決事件三件の最調査レポート。だが調査に着手した矢先、彼女は他殺死体で発見される。死体が放置されていたの〈恋人たちの小道〉、1988年の殺人事件の現場だった—マギーを指導していたヘンリー・Oは独自の捜査を開始する。過去と現在、交錯する謎の深淵に潜む衝撃の新事実とは? 内容紹介より



本書はヘンリー・O シリーズの第三作目にあたります。元新聞記者である主人公が個別指導するジャーナリズム学科の女子大生が、調査報道の研究テーマに選んだのが、過去に大学町で起きた未解決事件です。1988年と1982年に発生した射殺事件、1976年の失踪事件、この三件を再調査するというもの。自らの美貌と才能を鼻にかけている女学生に主人公は慎重で入念な調査をすることを条件に許可しますが、大学の機関紙であり地元紙でもある新聞に過去の事件についての情報提供を呼びかける広告を出した途端に主人公に大学関係者から圧力がかかり、女学生は他殺死体となって発見されます。
容疑者もなく迷宮入りした恋人同士の大学(院)生二人の射殺事件、妻が容疑者として裁判にかけられたもののアリバイを証明する人物の証言で逆転無罪となった地元の有力者の射殺事件、大学構内から忽然と姿を消した大学教授の事件。発生した時期も場所も異なるこの三件になんらかの繋がりがあるのか、関連のない別々の事件ならば、どれが女学生殺人のきっかけとなったのか、または、まったく別の動機によって殺されたのか、過去の真相が明らかになると困る人物たち、彼女に愛憎や恨みを抱いていた人物たち、謎と容疑者は豊富に効果的に提示されています。三件の事件について同程度のボリュームを持たせてないところ、主人公が真犯人と確信した根拠が乏しいところなど弱点もありますが、未読の『死の散歩道』以外に、わたしがこれまで読んだ作者の作品のなかで、本書がベストではないでしょうか。

ユーザータグ:キャロリン・G・ハート




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『天使に銃は似合わない』マイク・リプリー ハヤカワ文庫HM

2018-06-12

Tag :

☆☆☆

エンジェルに親友オオカミ男からSOSの電話が入った。知らぬ間に麻薬の運び屋に仕立てられ、しかも自動車事故でブツを失ってしまい、ブルターニュ国民戦線なる連中に軟禁されているという。麻薬は彼らの資金源だったのだ。ブツを持って行かなければオオカミ男の命はない。ロンドン一のお気楽男エンジェルが友の窮地を救おうと、ヤンキー娘と怪僧を助っ人に大奮闘!英国推理作家協会賞ユーモア賞に輝くシリーズ第三弾 内容紹介より



英仏を舞台にしたユーモアハードボイルドです。主人公の本職はトランぺッターなのですけれど、本書での彼はハードロックバンドのステージでの照明を担当するくらいで、自身が演奏するシーンはありませんでした。バンドがレンタルした機材のなかに隠されている麻薬を回収して、それと交換に人質となった親友を助け出す、という話です。ユーモアミステリのうえに殺人事件が起きないのでプロットにぴりっとした感じがなくてかなり緩めな印象が残りました。物語の面白さは、人質の兄である修道士とバンドのマネージャーのアメリカ人女性、そして主人公を含めたこのおかしな三人組による珍道中にあるのでしょう。イギリスからフランスへ麻薬を持ち込む手段もユニークなものだったので、その道中でなにかしらのスリリングな展開を付け加えて欲しかったところではあります。CWA賞にラスト・ラフ・ダガー賞というユーモア賞が過去に設けられていたことを初めて知りました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺人遊園地へいらっしゃい』クリス・グラベンスタイン ハヤカワ文庫HM

2018-06-09

Tag :

☆☆☆☆

海辺の保養地シーへイヴンヘようこそ。ここでは誰もがのんびりする。臨時警官のおれだって例外じゃない。制服も拳銃もないが、帽子に輝く警察マークが女の子に受けるのさ……そんな平和が消し飛んだ。大富豪のハートが遊園地で殺されたんだ。唯一の目撃者、娘のアシュリーにも犯人の魔手が迫る。おれの使命は、相棒の超カタブツ警官シーパクとともに事件を解決することなんだ!アンソニー賞を射止めた新鋭のデビュー作 内容紹介より



保養地にある開園時間前の遊園地に娘と一緒にいた大金持ちが射殺されます。被害者は悪辣な手口で不動産開発をしていた人物で、目撃者の娘の証言によると加害者も彼に恨みを抱いていたと思われ、地元の薬物中毒のホームレスの男が容疑者として手配されます。事件当日、現場近くに居合わせ娘を保護した警官と相棒の臨時警官が捜査に加わりますが、その後、彼女が殺人犯によって誘拐されてしまいます。
ワトスン役の語り手である臨時警官の「おれ」によって描き出されるイラク帰りの元兵隊シーパクの造型が非常に好ましいです。饒舌と寡黙、地元っ子とよそ者、そして規範(コード)のあるなし、さらにいえば制服と拳銃の有無。単なる饒舌系コンビにはない、これらのコントラストが堅物シーパクのキャラクターを引き立てて見せています。彼の生真面目さが可笑しさを見せるとともに、戦争によるトラウマを抱えているという陰影も帯びさせて作者のテクニックを感じました。物語は軽快なテンポで進み、総じて明るい雰囲気のユーモアミステリ調ですけれど、事件の真相は後味の悪さを残します。続編が翻訳されないのが残念なシリーズ物です。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ブラック・チェリー・ブルース』ジェイムズ・リー・バーク 角川文庫

2018-06-06

Tag :

☆☆☆

ブルースはやるかたない苦みからしぼりだされる。デイヴ・ロビショー—元ニュー・オーリンズ警察警部補。わけあって、今は貸しボート屋の主人。妻を殺された悪夢から覚めやらぬ日々のなか、ふと立ち寄ったバーで旧友のブルースマンと出くわした。男は面倒事に巻き込まれていた。ロビショーは関わりたくなかった。ロビショーのもとに狂気に満ちた脅迫状が舞い込んだ。守るべきものはなにか。たち戻れぬ過去に復讐するかのようにロビショーは北へ向かう—。`90MWA長編賞を受賞した香り高きハードボイルド・ロード・ノベル。 内容紹介より



本書は〈デイヴ・ロビショー〉シリーズの第三作目にあたります。
いわゆる“文学”出身の作家が著すミステリ作品のなかには、良くいえば重厚、格式、悪くいえば書き込み過ぎ、もったいぶった表現といったものを感じてしまうことがあります。本書においても、日常風景や景色に触発されたイメージが主人公のなかで言葉としてあふれ出しているような文章形式をとっています。さらに、油井事故で亡くなった父親や暴漢に殺された妻の幻影との会話(ビリー・ボブ・ホランド シリーズでも同じ趣向が用いられていた)も挿まれ、生前の彼らの追想や情景から人生の一端、人間性の一面にも話が及び、主人公の情感を描き出します。これが“文学”作品ならいくらでも主人公をそこに浸らせておけばよいのでしょうが、ミステリ作品として見ると一向に話が前に進まず、後半部分に入るとさすがにくどさを感じてしまいました。自らの裁判が数日後に迫るなか、殺人犯の容疑を晴らすために主人公が追っている男をそっちのけで、わざわざマフィアとトラブルを起こすというあまり意味が分からない本筋から離れる展開より、主人公の養子についてのエピソードに紙幅を割いたほうが全体的なバランスがとれるような気がしました。

『過去が我らを呪う』
ビリー・ボブ・ホランド・シリーズ
『シマロン・ローズ』講談社文庫
『ハートウッド』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベベ・ベネット、死体を発見』ローズマリー・マーティン 創元推理文庫

2018-06-01

Tag :

☆☆☆

憧れのニューヨーク。レコード会社で秘書の仕事に就いたベベ。仕事は面白いし、上司は素敵だし、いうことなしの毎日だ。ところがルームメイトのダーリーンにダブルデートに誘われたのがトラブルの始まり。デートの相手がホテルのバスタブで死んでいたのだ。しかもダーリーンが容疑者?冗談じゃない!誰とでも仲良くなれる特技を生かし、ベベは友人の容疑を晴らすべく奔走する。バンドのメンバーに被害者の元恋人と、怪しい人物はてんこもり。お人よしで、ちょっと危なっかしいベベが、周囲を巻きこんでの大騒動。キュートなミステリ3部作第1弾。 内容紹介より



時代は1960年代、舞台はニューヨーク、主人公は、大都会に憧れヴァージニア州から出て来た、サザン・ホスピタリティの気風を備えた、プレイボーイの上司に惹かれるまだまだうぶな22歳の南部美人です。ビートルズが音楽界を席巻している頃、ヒロインの勤めるレコード会社がその二匹目のドジョウを狙ってアメリカに招いたバンドのヴォーカルがホテルで死体となって発見されます。その現場に居合わせたのがヒロインとルームメイト。事件の容疑者となったルームメイトと事件のせいで会社での立場が窮地に陥った上司を救うためにヒロインが事件の謎に挑むというもの。被害者と、他のバンドメンバー、マネージャー、元恋人、それぞれとのトラブルが明らかになり、ヒロインの身にも危険が迫るプロットは代わり映えしませんし、事件の真相も無理矢理こじつけた感があります。しかし、この作品の魅力は、あえて時代設定を1960年代に持って来たこと(ケネディ大統領暗殺事件の影響、生活スタイル、デビュー前のニール・ダイアモンドなどの音楽関連の話)、世間知らずで男慣れしていない(地下鉄が怖くて乗れない、カクテルを初めて飲む、雑誌プレイボーイも初めて目にする、上司の下着姿にドキドキする、などなど)ヒロインの造型にあり、特によく描かれるファッションスタイルは女性読者受けしそうです。



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