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『絵に描いた悪魔』ルース・レンデル 角川文庫

2019-03-19

☆☆☆☆

その夏、かつての荘園に造成された美しい住宅地、リンチェスターでは、雀蜂の異常発生をみていた。蜂のたかったサンドイッチを食べて窒息死した男もいた。ハロウズ荘にも雀蜂の大きな巣ができていた。一夜、隣人たちを招いての若い女主人タムシンの誕生パーティーも、蜂の群れには大いに悩まされた。だが何よりも人々の度肝を抜いたのは、彼女の寝室に置かれた不気味なサロメの絵だった。それを見たときの彼女の夫、パトリックの怯えようも異常だった。パトリックはそのあと、巣を取ろうとして蜂に刺され、梯子から落ちた。そして翌朝、彼はベッドで冷たくなっていた。やがてタムシンをめぐって様様の噂が近隣に拡まりはじめたが……。 内容紹介より



ロンドン郊外にある美しい高級住宅地に住む住人たちの縦横斜めに絡んでいる人間関係と、そこで起きた死亡事故をめぐる一連の出来事とその真相を描いた、作者ノンシリーズ第一作目の作品。一作目ですでにレンデル作品のスタイルがほぼ確立しているように感じさせるのはさすがです。クリスティのミス・マープルものにレンデルの毒味や苦みを足した田園ミステリの印象を受けました。高級住宅地ではありながらも、各住人たちの家族構成や社会的地位、経済的な事情はそれぞれ異なり、抱える問題も様々に設定してあります。彼らの人間模様や関係性を描き出し、そこに雀蜂の群れという異様なものを加えてサスペンス性を高めていくところはいかにもレンデルらしく、一方、本格推理小説の味付けもしてあり、住人のひとりである医師が探偵役を担っています。夫が嫌う不気味な絵画を家に持ちこむなど怪しい行動をとる妻をはじめとして、近隣住民にも多かれ少なかれ犠牲者を嫌っていたなかで、特に二人の人物は不審な行動を目撃されています。犠牲者の死は検屍通りに心臓麻痺なのか、あるいは殺人なのか。結末に余韻が残る一種の悪女物語だと思います。

ユーザータグ:ルース・レンデル




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『狼の震える夜』ウィリアム・K.クルーガー 講談社文庫

2019-03-16

Tag :

☆☆☆☆

厳しい冬迫るミネソタの湖畔の小さな町。元保安官コークは、消息を絶った人気女性歌手捜しの手伝いを引き受けた。幼い頃、目の前で母を殺され、心に傷が残る彼女は、母の故郷の湖沼地帯に身を隠していた。コークは捜索に向かうが、正体不明の影が彼を追い、そして殺人が……。傑作ハードボイルド第二作。 内容紹介より



本書は〈コーク・オコナー〉シリーズの第二作目に当ります。
亡くなった母親の故郷に人知れずやってきた人気カントリー歌手は、地元のインディアンの古老を頼り、大自然のなかにある湖畔の小屋で静かに過ごしていました。しかし、冬が迫るなか古老の迎えが来ず、取り残された彼女はひとりで小屋を出で町へと向かいます。一方、彼女の身を案ずる義理の父親の依頼で主人公は捜索に協力することになるのですが、彼女の母親の殺害事件に関してFBI捜査官が介入してくるとともに、その事件の容疑者だったカジノ経営者が町に現れます。その上に、謎の追跡者まで彼女の行方を追ってくるのですけれど、彼らの目的は一体何なのか……。
人気女性歌手がセラピーを受けたことにより、幼少時代に目撃した母親殺害事件の犯人につながる記憶がよみがえったのではないか、という推測が持ちあがったために被害者や事件と関係のあった人物たちが集まり、さらに彼女を実の娘だと主張する人物も現れて入り組んだ人間模様を描き出します。また彼女の口封じをするためなのか、目的のはっきりしない人物が彼女の身に迫ってくる展開です。逃げる、追う、捜す、三様の視点で冒険やサスペンスを描き、これに主人公の妻からの視点が加わって家族愛や絆を描くことで物語に重層性を持たせています。等身大で寡黙な主人公の造形も魅力的です。ハードボイルドにネイティブ・インディアンの伝統や信仰が巧みに組み合わされたシリーズだと思いますが、本書はそれがさらに強く感じました。それは特にインディアンの古老の親戚にあたる少年が語り部となって、今回の一連の顛末を古老にまつわる新たに伝承すべき物語として語るエピローグに色濃く出ていました。

『二度死んだ少女』講談社文庫
『ありふれた祈り』ハヤカワ・ミステリ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『オーファンX 反逆の暗殺者』グレッグ・ハーウィッツ 角川文庫

2019-03-13

Tag :

☆☆☆☆

政府に暗殺者として育て上げられたオーファンXことエヴァン。数々のミッションをこなした後、「正体不明の仕事人」となり、無償で弱者を助けていた。要塞さながらの自宅を拠点に、市井の人々の暮らしに紛れつつも、孤独を貫いている。そんなエヴァンの行く先々に暗殺者の魔の手が忍び寄る。ターゲットはクライアントなのか、自分自身か。冷徹なプロの殺し屋でありながら心優しきヒーロー像を描く、スタイリッシュな犯罪小説。 内容紹介より



悲惨な状況に陥った人物を、殺し屋として身に付けた技量でもって無料で救い出す活動を行っている元政府御用達の暗殺者が主人公です。少女を毒牙にかけようとする悪徳警官を、少女の姉からの依頼で始末した主人公のもとに、今度はギャンブルで莫大な借金を抱え、父親を借金のかたに連れ去られた女性からの依頼が入ります。その依頼人との打ち合わせ場所を事前に入念な注意を払って設定したにもかかわらず、主人公と依頼人は狙撃され殺し屋から襲われてしまいます。襲撃者たちの狙いは依頼人なのか主人公自身なのか、もしや依頼人は彼らの囮なのではないのかという疑念が生まれるのですが……。突如、優秀な暗殺者が正体不明の組織から命を狙われ始める定番の設定に加え、強敵との死闘、シングルマザーと彼女の息子とのふれ合いなどオーソドックスなものばかりであり、目新しく思えるような創意工夫が凝らされている訳でありません。さらに敵味方入り乱れて疑心暗鬼になって逃げ回るということもなく、最新の監視装置や防御機器、脱出装置によって要塞化したマンションの自室に戻って策を練るという具合でサスペンス性はさほどたかまりません。敵が使うウェアラブルなガジェットなどそういうハイテク機器が目を引くくらいです。取りあえずマンション住人とのコミカルなやり取りの場面が挿入されている心優しい暗殺者物語として娯楽性は安定していると思います。プロに徹したドライな殺し屋が好みの方には向かないかもしれません。

『犯罪小説家』ヴィレッジブックス
『ER襲撃』ヴィレッジブックス




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『謝罪代行社』ゾラン・ドヴェンカー ハヤカワ文庫HM

2019-03-10

Tag :

☆☆☆☆

新聞社をリストラされた若者クリスは、彼の弟ヴォルフ、友人の二人の女性タマラ、フラウケとともに、依頼人に代わって謝罪する仕事を始めた。これが大当たりして四人は半年後にベルリン南西部の湖畔にある邸宅を買い、そこを住居兼仕事場にするまでになる。ところがある日、依頼を受けて、指定された場所をヴォルフが訪れると、そこには壁に磔にされた女性の死体が!巧妙な仕掛けに満ちたドイツ推理作家協会賞受賞作。 上巻内容紹介より



謝罪代行業のせいで、ある人物の復讐譚に巻き込まれ泥沼にはまっていく若者たちの物語です。非常に特徴的なのは物語の構成で、時系列が連続せずバラバラであること、視点と人称がくるくると変わって進んでいくところです。にもかかわらずとても読みやすかったのですが、テーマのひとつに児童虐待を据えているために雰囲気はかなり重くて暗いものがあります。他のテーマはやはり謝罪そのものなのでしょうけれど、文化的、宗教的、社会的にそのとらえ方や価値や意味するところが日本人であるわたしとは違っていそうで判りかねる点がありました。そしてもうひとつのテーマは善と悪という表裏するものだと思うのですが、この悪を象徴する悪魔的な人物であろう「現場にいなかった男」の造形がかなり現実離れした存在で異質さに違和感を持ちました。彼の「家族」である男女の造形が物語としてはぎりぎり限度内であり、彼は内容から見ると許容範囲を逸脱してしまっているような気がしますし、彼の存在が果して必要だったのかどうか疑問に感じました。心に深い傷を負うとともに、後悔にさいなまれる者に、サービス商品のひとつとなった「謝罪」はいかに響くのか、という問題作ではあります。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『夜の試写会』S・J・ローザン 創元推理文庫

2019-03-07

☆☆☆☆

中国系女性リディアと、中年の白人男性ビル。対照的なふたりの私立探偵の活躍を収めた、日本オリジナル短編集。ふたりが協力して殺人の容疑者を罠にかける「夜の試写会」、リディアと詐欺師のやり取りを描くMWA最優秀短編賞受賞作「ペテン師ディランシー」、ビルが高校生バスケットボール選手の死を探る「たった一度のチャンス」など、現代私立探偵小説の粋、全7編を収録。内容紹介より



副題はリディア&ビル短編集です。ユーモラスなもの、深刻なテーマを扱ったもの、中華街、黒人スラム街、色々な要素が取り入れられバランスよく収められた作品集だと思います。
芸術専門学校生殺害事件で起訴されたものの、無罪になった容疑者が隠し持っている殺人の証拠となるビデオテープを手に入れるために雇われたリディア。香港の映画会社の担当者に扮した彼女はビルとコンビを組んで容疑者に接近する「夜の試写会」。人気急上昇中の女性シンガーのボディガードである友人から、ある事情でボディガードを少しの間交替してくれと頼まれたビル。かつて護衛していた女性シンガーに閉口していた彼は断るが、その後、友人が銃撃されてしまう。セレブの生態を描いた「熱き思い」。香港からの移民してきた青年の姉代わりになっているリディアが、彼の義兄をペテンにかけた詐欺師にライチと熊胆をめぐって対決するコミカルな騙し騙される話「ペテン師ディランシー」、同じくリディアが中華街を舞台に、ビルと組んで回春剤として販売される虎の身体の一部をかける企みに挑む「虎の尾を踏む者」。黒人の住むスラム街で起きた男子高校生と恋人の心中事件を、学生が所属していたバスケットボールのチームメイトからの依頼で調査するビル。取り巻く環境のせいで自分の未来が描けない若者たち、彼らが内と外に抱える問題を描いた佳作「ただ一度のチャンス」。店先で説教師が通行人に寄付をせびるために客足が遠のいた金物屋の主人から問題解決を依頼されたビルの奇抜でユーモラスなアイデアが冴える「天の与えしもの」。地下鉄で発生したレイプ事件の容疑者や目撃者をめぐる苛酷な事件に巻き込まれたリディアの憤りと哀しみを描く「人でなし」。

ユーザータグ:S・J・ローザン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『青鉛筆の女』ゴードン・マカルパイン 創元推理文庫

2019-03-04

Tag :

☆☆☆☆

2014年カリフォルニアで解体予定の家の屋根裏から発見された貴重品箱。なかには三つのものが入っていた。1945年にウィリアム・ソーン名義で発表された低俗なパルプ・スリラー。編集者からの手紙。そして、第二次大戦中に軍が支給した便箋—ところどころ泥や血で汚れている—に書かれた、おなじ著者による未刊のハードボイルド。反日感情が高まる米国で、作家デビューを望んだ日系青年と、担当編集者のあいだに何が起きたのか?書籍、手紙、原稿で構成される凝りに凝った物語。エドガー賞候補作。 内容紹介より



作品のなかに主人公はいっさい登場せずに、スパイ物のパルプ・フィクション、編集者からの手紙、ハードボイルド作品の原稿、この三つで主人公の心理を描き出すという斬新な手法を用いたメタフィクション系の物語です。第二次大戦開戦時に高まった日系人排斥を時代背景に据え、突如米国民として扱われなくなった主人公を、彼が執筆中の小説のなかのお払い箱にした登場人物になぞらえて、作品から突如削除され使われなくなった登場人物はいったいどんな運命をたどるのかを描いた、まるでパラレルワールドにはまったような話『改訂版』、主人公に同情的な姿を装って彼の描きたかった作品から時代状況におもねる別の内容の物語を書かせようとする担当編集者の手紙、その助言によって執筆されていく、悪役の日本人スパイを追い詰める安っぽく低俗な小説『オーキッドと秘密工作員』。米国市民としてのアイデンティティが外部からの圧力で消されていく様を削除された登場人物に投影し、日系人作者の喪失感や憤りと、カバーイラストのごとく彼を青鉛筆で添削する担当編集者の見せかけの思いやりで包んだ残酷さを浮かび上がらせるという手法です。しかし、果してこれはミステリなのだろうか、苦行とまでは言いませんが、見え見えの三文小説もどきを読まされる時間を考えてみるとちょっと疑問が残ります。




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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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