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『チェルシー連続殺人事件』ライオネル・デヴィッドソン 集英社文庫

2018-12-16

Tag :

☆☆☆☆

最先端のファッションと芸術の町チェルシーを恐怖のどん底におとしいれた連続殺人事件。古い詩の一部を引用した暗号文で殺人を予告する犯人。手口は鮮やか逃げ足は早い。ロンドン警視庁を挑発する大胆な殺人犯を追う警部。緻密な構成と軽快なテンポで描かれた新しい感覚の推理小説。英国推理作家協会最優秀賞受賞作品。 内容紹介より



本書は、1978年のCWA賞ゴールド・ダガー賞受賞作です。以前読んだ1966年同賞受賞作の『シロへの長い道』が冒険小説だったのに対し、この作品は警察小説の形をとっているのですけれど、視点は、ロンドン警視庁の閑職に就きたい辣腕警視、大手の新聞社に移りたいため特ダネを狙う女性記者、殺人を題材にした前衛的な映画を製作中の三人組、それぞれに別れて描かれています。チェルシー界隈で起きた三件の殺人事件後、警察宛に犯人と思われる人物から、過去の詩人たちの作品の一節を引用した犯行予告文が届きます。しかも被害者の名前は皆引用した詩人たちと同じ頭文字だということ、そして彼らは映画製作中の三人組となんらかの関わりがあったことが判明します。引用した詩の一節もふざけたものが多く、犯人は面妖な仮面を付けて犯行に及び、三人組はエキセントリックなキャラクターとあって、作品は英国らしいというより、ややフランス風なブラックで軽妙な雰囲気に仕上がっているように感じました。最後のページでさらりと明かされる意外な事実は(小)細工が効いていますし、全体に妙味のある作品だとは思いますが、わたしは『シロへの長い道』の方が好みです。ただ、読み終えて振り返ってみると、力を抜いたみたいなタッチの印象ですが、アリバイのトリックは良く練られていて三度受賞した大御所の作品らしさを随所に感じられました。

『シロへの長い道』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『荒野の絞首人』ルース・レンデル 角川文庫

2018-12-13

☆☆☆

風に伏しなびく苔桃やヒースの茂み、刻々と移りかわる空を背に黒くそびえたつドルメン岩。靄のヴェールをかぶった小高い山々。この荒涼たる原野(ムーア)がスティーヴンの恋人だった。彼こそがこの土地の君主なのだ。幼い頃から山に登り、廃鉱の坑道を探検し、彼は原野の隅々まで知りつくしていた。その荒野で起きた異常な殺人事件、それに最初に気づいたのもスティーヴンだった。金髪を丸坊主に刈りとられた若い女の死体を見つけたのだ。彼の原野を侵す何者かが現われた……。やがて発見された第二の死体も、金色の髪を刈りとられていた。そしてスティーヴンは、見棄てられた坑道の奥に奇妙なものを見つけたのだが……。 内容紹介より



本書は、『地獄の湖』の後、1982年に発表された作者にとってノン・シリーズの第十作目にあたる作品です。
イングランドの自然を象徴する風景のひとつである原野(ヒース)を舞台にした物語です。妻とふたり暮らしの主人公は二十九歳、躁鬱気味の父親の家具工房を手伝っています。幼い頃に母親が家出して以来、彼のなによりの生きがいは原野を歩き回ることで、地元の新聞に自然についてのコラムを書いているという一面を持ち、母方の著名な作家の孫であることを誇りに思っています。そんな彼がひとりで原野を散策中に、金髪を刈り取られた若い女性の絞殺体を発見してしまいます。原野を精神の支柱にして、長い間、危ういバランスを保っていた精神状態が様々な出来事によってじわじわと崩れていくという、この作家のお得意のプロットの話です。出奔、不貞、金髪が重要なキーワードになっているのは、やや定型的ですがわかりやすいです。しかし、突然に殺人が始まった理由は何なのか、というところが説明されておらず、その点は読後すっきりしませんでした。ある殺人におけるアクロバティックな展開にはとても意表を突かれましたけれど、この作者が好んで使う“失踪≠殺人”という図式と違って、この妙技は一回だけしか使えないでしょう。

ユーザータグ:ルース・レンデル




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『アマガンセット 弔いの海』マーク・ミルズ ヴィレッジブックス

2018-12-10

Tag :

☆☆☆☆

かつては捕鯨でにぎわった風光明媚なアメリカ東海岸の保養地アマガンセット。二度の大戦の傷も癒えぬ頃、その波打ち際で、ひとりの若く美しい女性の溺死体が網にかかった。遺体の身元は隆盛をきわめるウォーレス家の末娘リリアンとわかったが、他殺なのか自殺なのかすらはっきりしない。副署長のホリスは粘り強く捜査を続ける。そうこうするうち、死体の発見者である孤高の漁師コンラッドが、リリアンのことを探っているのが発覚した。コンラッドの目的は何なのか?リリアンの死の真相は?美しい自然を背景に、ミステリアスな事件を叙情的に描きあげる、注目作家デビュー作! 上巻内容紹介より



本書は、イギリス人作家がアメリカ、ロングアイランドを舞台に描いた、2004年CWA賞最優秀処女長篇賞受賞作品です。第二次大戦の激戦を生き延びた主人公は寡黙な漁師、家の目の前にある海で、相棒の純真な青年とふたりだけで漁業を営んでいます。海岸沿いは保養地としての開発が始まりかけており、また都会から来る釣り人と地元漁師とのいざこざが持ちあがっている状況です。そんな時代を背景に、主人公たちが裕福な名家の娘の遺体を引き上げたところから物語が始まります。プロットもミステリもさして複雑なものではありませんし、主人公の造形も何か際立つものを備えているわけでもありません。しかし、過去と現在の出来事が寄せては返す波のように綴られていく進み具合、押し付けがましくない主人公の切ない感情表現、海の雰囲気を感じとれる自然描写、こういった趣向と筆致がとても効果的に働いている印象を持ちました。また、地元警察の副署長も重要な脇役を担い、彼のロマンスがともすれば暗くなりがちな物語に明るさを与えています。欲を言えば、故人の姉、地元署の警察官などにはもう少し話に重要な役割をつとめさせても良かったのではないかという感じも残りました。上下巻あわせて約六百ページ程になるにも関わらず、もう少し読んでいたい気持ちになる物語でした。とにかくデビュー作とは思えないほどの完成度と余韻が残る作品だと思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『闇の天使』ジャック・ヒギンズ ハヤカワ文庫NV

2018-12-07

Tag :

☆☆☆

IRA、CIAなど相手を問わず無差別に暗殺を繰り返す謎のテロ組織〈一月三十日〉。彼らの政治的信条ばかりか、テロの目的もいっさい不明であった。やがて、北アイルランド和平の鍵を握る要人警護の命が英国特別情報機関に下り、元国際テロリストのショーン・ディロンがその任務に就いた。一方、情報をつかんだ〈一月三十日〉は、ディロンの裏をかき凶弾を放つべく、密かに暗殺者を差し向けるが……痛快冒険サスペンス 内容紹介より



〈ショーン・ディロン〉シリーズで、1995年に発表された作品。本書のなかでの政治状況は、北アイルランド問題の解決に向けて各勢力が交渉の席に着くかどうか、また、それに反対する勢力も影響力を持っているというところです。時の権力者はメージャー首相、クリントン大統領で、ソ連はすでに崩壊しています。主人公ディロンは英国首相直属の情報機関に所属しているという、かつて反体制側で泥沼の紛争に身を投じていた姿からは隔世の感があります。体制側に立った主人公の姿が、スパイごっこをしている、まるでお洒落じゃないジェームズ・ボンドみたいに見えてしかたありませんでした。ストーリーも安易に流れて緊張感に欠けている印象が残りました。話は〈一月三十日〉という暗殺組織が偶然に生まれた経緯が語られ、彼らがやがて北アイルランド和平への鍵を握る人物の警護を担当するディロンと対決するクライマックスへと動いていきます。ただ、この物語の要は、もうひとつの主役であるこの組織がなぜCIA、KGB、IRA、プロテスタントのテロ組織メンバー、ギャングのボス、アラブのテロリスト、これらの主義主張や立場も異なる人物たちを次々に暗殺していくのか、その訳が明かされていくところでしょう。そのひとつの理由が非常に英国らしくは感じますが、果して物語に効果的かというと疑わしい気がします。冷戦終結とソ連崩壊後のスパイ冒険小説は、その方向性が問われていた、あるいは模索が続いていたと思うのですけれど、その答えのひとつとして、伝統的英国冒険小説に必須な存在であるアマチュア、キム・フィルビーみたいな共産主義を信奉する知識人、そして子供時代に巻き込まれた事件によりトラウマを抱えた人物、この三者三様の動機付け(特に最後の人物)を設定している点は目新しい試みであると思います。

『非情の日』
『狐たちの夜』
『ヴァルハラ最終指令』ハリー・パタースン名義




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『感謝祭は邪魔だらけ』クリスタ・デイヴィス 創元推理文庫

2018-12-04

Tag :

☆☆☆

古き佳きアメリカをしのばせる家々が建ち並ぶ町アレクサンドリアは、感謝祭シーズンのまっただなか。この町に暮らすソフィ・ウィンストンは、訪れた家族をもてなすディナーと、詰めもの料理コンテスト用の食材を買いにいった先で、男性の死体を発見してしまう。被害者は死の直前、仔猫の飼い手を探しており、ソフィも声をかけられていた。さらにはコンテスト当日、何者かが妨害工作をするなかで、ソフィはまた別の死体を発見することに。感謝祭と殺人事件、ふたつの難題を、家事の達人ならどうさばく?期待のコージー・ミステリ第1弾登場。 内容紹介より



各章の始めに感謝祭にまつわる家事のアドバイス、巻末には料理のレシピが付いていて、季節のイベントに料理コンテスト、そして登場人物たちは、主人公の両親、妹とその婚約者、元夫とその恋人、元姑と彼の弟夫婦、彼の友人、近所に住む親友、近所の変なおばさんと退役軍人、ペットの猫と犬、あと足りないは子供だけです。こんなコージー要素をてんこ盛りかつ詰め込みました感じがとても強いです。大佐がいるのだから、これに神父と医者がいたらミス・マープルもの風にもできたでしょう。さらにこれらの人物たちが独り住まいの主人公の家に一堂に会するのですからすごく賑やかです。事件は殺人が二件、殺人未遂が一件、それにのぞき魔騒ぎに料理コンテスト妨害騒ぎが起きます。作者はよくこれだけの諸々をコントロールできたものだと感心します。ミステリについては数多のコージー作品と比べて特に優れている訳ではないですし、もう少し整理が必要だとは感じました。ただ、登場人物たちのキャラクターと彼らが醸し出すゆるい雰囲気はなかなか良くて好感が持てました。また感謝祭というイベントを通してアメリカ文化の一端が伺い知れ、その様子も感じとれて良かったです。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『わたしが眠りにつく前に』SJ・ワトソン ヴィレッジブックス

2018-12-01

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☆☆☆☆

「わたし」クリスティーン・ルーカスは、特殊な記憶障害を負っている。毎朝目覚める度、前日までの記憶が失われてしまうのだ。いまは長年連れ添った夫とふたり暮らし。毎日彼が誰かすらわからなくなるわたしを、夫は献身的な愛で受け入れてくれている。そんなある日、医師を名乗る若い男から電話がかかってくる。聞けば、少し前から夫に内緒で彼の診察を受けているのだという。医師はここ数週間、あなたは毎日の出来事をひそかに書き綴ってきたと言い、日誌を見るように告げる。わたしは言われるまま、それを読み始めた。その先に何が待つのかも知らずに……。CWA最優秀新人賞受賞作。 内容紹介より



轢き逃げ事故による怪我が原因の記憶障害を負った四十代の女性が主人公です。教師である夫とふたり暮らしの彼女は、眠ることで前日の記憶が失われる障害を持っています。毎朝目覚めると、自分の年齢もどこに住んでいるのかも、夫が誰なのかも判らなくなっている状態になります。そんな彼女の症状に興味を示した医師が接触してきて、彼女は夫に内緒で一日の体験を日誌に書き留めるようになります。そうやって書き綴ったものを読むことで彼女は前日までの夫や医師との会話や出来事を知ることができるようになり、また過去の記憶がかすかながら断片的によみがえってくるようになります。
主人公を取り巻く状況はほとんどワンシチュエーションであり、身体ではなく閉じこめられた記憶という意味では、本書はソリッドシチュエーション・スリラーの一種といえるかもしれません。主人公みたいな特殊な脳機能障害を負っている人はいるでしょうが、そういう人たちの気持ちは想像もつきませんけれど、本書を読んでいるとこちらまで閉塞感を持ちました。物語はサスペンスとミステリ仕立てになっているわけで、登場人物たちの正体が本当に書いてある通りの姿なのか、誰かが主人公を陥れているのか、彼女の記憶は本物なのか、あるいは彼女自身が作り出した作話なのか、これらの謎が湧いてくきます。ただ、そういった謎と疑問をもっと複雑に絡みあわせてあれば、さらにサスペンスが高まっただろし、予想がつきやすい後半部分に読者を迷わせる仕掛けが出来たのではないかとも思いました。しかしデビュー作において、このようなシンプルな状況設定のなかで話を回す高いレベルのテクニックを示しているのはたいしたものだと思います。しかも作者は男性だそうですので。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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