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『黒い壁の秘密』グリン・カー 創元推理文庫

2019-11-09

Tag :

☆☆☆

アバークロンビー・リューカーは『リチャード三世』の公演を終え、湖水地方の小村へ赴いた。風光明媚なこの地に近年ユースホステルができ、山や岩場に出かける人たちに利用されているという。数ヶ月前クライミング中に命を落とした若者の話を聞いているさなか、消息を断った友人を捜してほしいと男女が駆け込んできた。捜索の甲斐なく遺体が見つかり、事故と処理されかけたものの、検屍審問を経て殺人を視野に入れた捜査が始まることに。第二次大戦下の諜報活動で培った探偵としての嗅覚が、登山家でもあるリューカーを駆り立てる。手掛かりの乏しい峻鋒の果てに見出された真相とは。 内容紹介より



本書は1952年に発表された作品ですけれど、電話が各戸に普及していないところ以外は古めかしさは感じません。シェイクスピア俳優兼舞台監督リューカーが妻とともに休暇で訪れた湖水地方にある山麓の村で事件に遭遇するユーモアタッチの山岳ミステリです。彼は村に隣接したロッククライミングに適した岩壁の下を流れる滝壺で岩登りに来ていたと見られる女性の遺体が発見しますが、そこでは以前にも同様に転落死したと見られる若者が見つかっています。遺体の状況に不審を抱いた主人公は、かつて英国諜報部員時代の同僚だった地元警察の警部の依頼を受けて、被害者が宿泊していたユースホステルに事情を探るために泊まることになります。そこには被害者の友人である男女三名、彼女の元婚約者とその妹、中年男性の計六名の宿泊客と臨時の管理人一人が寝泊まりしています。有力な容疑者として彼らがあげられるのですが、早々に何名かは脱落してしまいます。オカルト的な風味付けがなされているにしても、色恋沙汰以外に全員に様々な動機を持たせたらもっと盛り上がったように思いますし、そこら辺りが結構淡白な感じがしました。個人的には、早々に犯行動機と真犯人の見当が付いてしまったので、ロッククライミングの場面ではらはらどきどきがもう少し強かったら良かったのではないかと思いました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『悪魔の星』ジョー・ネスボ 集英社文庫

2019-11-06

Tag :

☆☆☆☆

一人暮らしの女性が銃で撃ち殺され死体で見つかった。左手の人差し指が切断されていた上に、遺体から珍しいダイヤモンドが見つかると、猟奇的な事件に、注目が集まる。ハリー・ホーレ警部は、3年前の同僚刑事の殉職事件を捜査し続けていたが、証拠を得られず捜査中止を命じられ、酒に溺れて免職処分が決定。正式な発令までの間、この猟奇的事件の捜査に加わるが、事態は混迷を深めていく……。 上巻内容紹介より



連続殺人に死体損壊、犯人が意図的に置いた遺留品、それから警察内部の腐敗とアルコール中毒の刑事。こういう要素それぞれは珍しくもなければ新しい訳でもないし(特に、警察内部に犯罪ネットワークみたいなものが存在しているという話にはかなりの既視感を覚えました)、どん底に墜ちたヒーローが、何かの拍子に覚醒して手強い悪を倒す、という話をなぞっているプロットもオーソドックスなのですけれど、それらの材料の処理と手際がとても巧い作家だと思いました。上巻では、仕事を放棄して酒に溺れ悪夢にうなされる主人公の底まで堕ちた姿をこれでもかと描いているため話がちょっと停滞気味です。下巻に入って、犯人が残した逆五芒星を手がかりに捜査が進み始めますが、それに主人公の仇敵を絡ませて緊迫感を高めています。「殺人犯は完璧な暗号をわれわれに示して、日時と場所を教えてくれました。しかし、“なぜ”は教えてくれませんでした。そうすることで、犯人は動機よりも行動にわれわれの目を向けさせたんです」(下巻p334)、これは主人公が真犯人に目を付けた理由を説明した言葉で、猟奇殺人につきものの性的、変質的なものが事件の背景に見当たらなかったことを指していて、この視点を別方向からとらえているところに、従来にない何か目からうろこみたいな新鮮さを感じました。

『ザ・バット 神話の殺人』
『スノーマン』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『震えるスパイ』ウィリアム・ボイド ハヤカワ文庫NV

2019-11-03

Tag :

☆☆☆☆

英国の大学院生ルースは、母親のサリーが命の危険を感じて描いたという手記を読み、驚愕した。母親は本名はエヴァ・デレクトルスカヤといい、第二次大戦中は英国の諜報員として対独情報工作やアメリカを参戦させる作戦にも加わっていた。だがそこで彼女は死の危険に見舞われたのだった。そして1976年の今、母から依頼された調査を始め、ルースは驚くべき事実を知ることに。コスタ賞最優秀長篇賞を受賞した本格スパイ小説。 内容紹介より



物語は、主に1941年のエヴァ(サリー)と1976年のルース(エヴァの娘)の視点を交互に挿んで進みます。前者の時代背景は、英国が孤立主義をとる米国をなんとかヨーロッパの戦争に参戦させようと躍起になっていた時期で、対独情報工作をしていたエヴァの所属する組織は、ニューヨークに移って秘密工作をすることになります。ナチスによる米国への脅威を煽るための偽の情報を仕込む作戦を担当した彼女は、その現場において正体が暴かれ窮地に陥ったことで、ある疑念を抱き始めます。かたや後者は、ドイツのテログループの記事が紙面に載ったり、ロンドンに来るイラン王室に対する抗議デモがある程度で、博士論文を執筆中のルースは外国人に英語を教える仕事をしながら、一人息子を育てています。そんな日常を過ごすなか、彼女は母親から元スパイだったことをカミングアウトされることになります。このエヴァとルースの各章の緊張感の落差が緩急になって非常に良いテンポとバランスを作り出しているように感じました。またルースの章にも、ドイツからやってきた、彼女の元愛人の弟とその女友だちにまつわるテロリスト疑惑や警察から密告者(スパイ)にならないかと勧誘を受ける件など、ちょっとしたサスペンス風味を効かせた仕掛けもしてあるところなど作者の達者な一面がうかがえます。米国の参戦をめぐっての各国の思惑、歴史の裏に秘められた事実には意表を突かれるとことがありました。ル・カレでも007でもない、新しいスタイルを備えた完成度の高いスパイ小説ではないでしょうか。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『泉』キャサリン・チャンター 東京創元社

2019-10-31

Tag :

☆☆☆☆

イギリス全土で3年にわたって異常な干魃が続いているにもかかわらず、“わたし”がいる農場〈泉〉にだけは雨が降り、草木が青々と茂っている。“わたし”はここで自宅監禁生活を送ることになった。〈無個性〉〈3〉〈ボーイ〉と名付けた男たちに常に監視され、行動を厳しく制限されながら孤独に暮らす“わたし”を、殺人事件の記憶が苦しめる。なぜ家族も友人も失うことになったのか?自分は何をしてしまったのか?“わたし”は精神のバランスを崩すほど思い悩みながら〈泉〉での生活を降りかえり、殺人犯をつきとめようとする—。異様な状況下で傷ついた女性の、追憶と再生の物語。 内容紹介より



“わたし”が、冤罪で失職した夫の希望で共に暮らし始めた郊外の農場には泉があり、それはイギリス全土に及ぶ異常干ばつでも涸れることはなかった。ふたりの農家暮らしもなんとかやりくり出来始めたものの、異常気象が続くにつれ、彼らの泉が注目を集め、いわれのない妬みや中傷に晒される事態が起き始めます。世間から隔絶状態になったため、“わたし”は農場を売却してしまうよう勧めますが、夫は聞き入れません。ふたりの関係にわだかまりが生まれかけた頃、離れて暮らしていた娘が孫息を連れてに彼らの前に姿を見せます。そして泉の存在に魅せられた女性だけの宗教グループが敷地内で暮らしはじめたことから、“わたし”と夫の間には、さらに亀裂が広がる状況に陥ります。精神が不安定になった“わたし”に衝撃的な事件が降りかかります。ある事件を起こして施設に囚われていた“わたし”が自宅での監禁生活に処され、そこで現在の状況を交えつつ、事件に至るまでの経緯を回想するかたちで物語られています。本書は、CWA賞最優秀新人賞候補作なのだそうですけれど、ミステリ色は薄く拙く、かなり(純)文学寄りの作品で、表現力や文章力、豊富なイメージでもって、尽きぬ泉によって楽園となった土地に絡めとられ、妬まれ、崇められ、利用され、そして、もっとも大事なものを失ってしまう様を丹念に幻想的に描き出して見せます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『書店猫ハムレットのお散歩』アリ・ブランドン 創元推理文庫

2019-10-28

Tag :

☆☆☆

ダーラが経営するニューヨークの書店では、最近、店のマスコットの黒猫ハムレットの元気がない。愛想がないのはいつもどおりだけれど、お客をひとりも追い出していないし、買い物袋を爪で引き裂いたりもしていない。これはおかしい。“猫の行動の共感力者(エンパス)”と名乗る猫のセラピストによると、自分を出来損ないのように感じているという。あのふてぶてしいハムレットがそんなふうに思っているとは!愕然とするダーラだったが、通っている武術道場で、さらに驚きの出来事が……。名探偵(かもしれない)黒猫が大活躍するコージー・ミステリ! 内容紹介より



シリーズ第一作目の『書店猫ハムレットの跳躍』は未読です。主人公は三十代の女性で、ブルックリンにある大叔母から相続した書店の経営者です。店は彼女以外に店長と店員、その三人で切り盛りしています。そして、店のマスコットである黒猫。ヒロインの友人である元警察官の女性私立探偵、読書クラブの女性メンバー、隣人の老婦人、NY市警の男性刑事、イタリアン・グレーハウンド犬などが脇役として配されています。黒猫が体調不良の気配を見せているなか、ヒロインが通う武術道場の指導者が不審死を遂げた事件に、さしたる理由もなく彼女が調べ始め、さらに道場主のペット犬をめぐる騒動も交えて話が進みます。鋭い共感力の持ち主である、猫のセラピストの存在がアクセントになっていますが、ミステリとしては非常に平凡な出来で、猫が本を落っことして犯人へ繋がるヒントを示したり(確か、シャム猫ココ・シリーズにも似たような場面があったような)、さらにワープロで文字を打ったりするところなんかは猫探偵ものらしさを感じさせています。猫がグータッチしたり、武術の演舞をしたりするご愛嬌がありますけれど、個人的にはちょっとやり過ぎかなとは思いました。猫と書店という取り合わせは非常に魅力的なのですけれど。

別名義の作品
『探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ』ダイアン・A・S・スタカート ランダムハウス講談社




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『贋作』ドミニク・スミス 東京創元社

2019-10-25

Tag :

☆☆☆☆

画商に修復の腕を見込まれ、ある富豪の弁護士が所有する17世紀オランダ女流画家の作品の贋作をひそかに制作し、心ならずも絵画窃盗に加担してしまった女子画学生。私立探偵を雇って彼女の存在を探り出したその弁護士は、罪を暴き、大切な絵を取り戻そうと、彼女に近づくが、彼女の絵に対するひたむきさと知識の深さに敬意を抱くようになる。そして彼女は絵を愛する、自分とは別世界に住む大人の男に惹かれ始めたが……。40年以上の時が流れ、過去を封印し罪の意識におののきながら、美術史学者として活躍する彼女の前に、自分の手になる贋作と真作がそろって出現した!いったいなぜ?17世紀の女流画家と現代の女性学者、それぞれの愛と喪失と苦悩が時代を超えて呼応する。絵画贋造の技法、複雑に絡み合う人間関係も、ミステリアスで美しい光のなかに見事に描きあげられた情感溢れる物語。 内容紹介より



物語は、17世紀のオランダ、1957年のニューヨーク、2000年のシドニー、この三つの時代と場所によって各章に分けられ、主要な登場人物は女流画家サラ、富豪の(元)弁護士マーティ、(元)画学生エリーです。女流画家に降りかかった悲劇と制作した絵画にまつわる出来事、彼女の遺した絵画をめぐって起きた盗難事件、その盗難事件に利用された贋作と盗まれた真作が美術館に持ち込まれたことで明らかになる過去が語られていきます。サラが絵画を描いた動機は、ひとり娘を喪った悲しみから、エリーは女性差別を体験したことからくる怒りで贋作を描いているように、彼女たちの人生を重ねあわせ、また対比させています。注目したいのはマーティの存在ですが、先祖の財産で裕福に暮らし、サザビーズに出入りする彼は、エリーとはまったく異なる世界に住む人物に設定され、借金や貧困に苦しんだサラと生活のために絵画補修をしつつ、論文を書いている苦学生エリーとは対照的な存在であり、彼の存在はほとんど添え物に過ぎません。彼の立ち位置は、エリーのオークション自体への揶揄に表されているように、そしてサラのパトロン的存在の大金持ちの老人に代表されるように、貧しさの中からうまれた絵画が金持ちの所有になる現実を皮肉ってもいます。サラの人生の一部を切りとったことにより物語に奥行きと情感を出し、時代を超えた二人の女性の数奇な結びつきを巧みに描き上げた作品だと思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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