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『風船を売る男』シャーロット・アームストロング 創元推理文庫

2018-10-23

Tag :

☆☆☆☆

ある朝、台所にいたシェリーに夫が突然襲いかかり、あおりで息子のジョニーが重傷を負った。作家志望の夫ウォードは、働くどころか作品を発表することもなくドラッグ漬けの怠惰な日々。ジョニーの入院先に現われたウォードの父エドワードはシェリーの言い分をろくに聞きもせず、二人を離婚させ孫は自分が引き取ると宣言、ジョニーの養育権をめぐる闘いが始まった。シェリーは看病に通うため病院向かいの下宿に移ったが、エドワードに因果を含められた男も下宿人として入り込み、シェリーを貶める工作を重ねていく。やがて離婚調停の当日を迎え……。 内容紹介より



大金持ちで社会的にも影響力を持つ男が孫を引き取り育てたいがために、ある人物を使って息子の嫁が養育権を持つ母親としてはふさわしくないことを証明させようとします。調べ回るも彼女に後ろめたい事柄が見つからないために、その人物はわざと彼女に不利になる噂話や細工を仕掛けていきます。息子の入院と生活費のことで頭が一杯のヒロインには自分の回りに罠が張り巡らされつつあることにまったく気付きません。物語は主に安下宿屋を舞台にして、下宿屋の主一家、下宿人たちが主要登場人物です。特に窓際の席に陣取ってカードゲームをしながら外の出来事を眺めている“ノルン姉妹”というあだ名を持つ三人の老婦人たちが、ただのゴシップ好きだけでなく、鋭い観察眼と道徳観の持ち主だったという設定は効果的でした。罠の仕掛人である映画プロデューサーの男は、好人物を装い、映画のキャストに見立てて周りの人間を取り込み、計画通りに事を運ぼうとします。その時々の彼が表す楽観や落胆、憤りや不満など心理状態の変化がよく描かれていると思いました。ミステリとしては仕掛人を伏せ、怪しい人物をもう一人ほど登場させて犯人探しをする手法を採っても面白かったような気もしましたが、クライマックスの展開は予想外でした。五十年前に発表された作品としての古めかしさを感じません。

『サムシング・ブルー』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『愛おしい骨』キャロル・オコンネル 創元推理文庫

2018-10-20

Tag :

☆☆☆☆

十七歳の兄と十五歳の弟。ふたりは森へ行き、戻ってきたのは兄ひとりだった。家政婦ハンナに乞われ二十年ぶりに帰郷したオーレンを迎えたのは、過去を再現するかのように、偏執的に保たれた家だった。夜明けに何者かが玄関先に、死んだ弟の骨をひとつひとつ置いてゆく。一見変わりなく元気そうな父は、眠りのなかで歩き、死んだ母と会話している。これだけの年月を経て、いったい何が起きているのか? 半ば強制的に保安官の捜査に協力させられたオーレンの前に、町の人々の秘められた顔が、次第に明らかになってゆく。迫力のストーリーテリングと卓越した人物造形。著者渾身の大作。 内容紹介より



カリフォルニア州北西部の広大な森林に隣接した小さな町は、なぜか奇人変人を呼び寄せるものを備え、ある者はしばらくすると旅立ち、ある者はそのまま居着いてしまいます。生まれ育ったその町を出て、二十年ぶりに戻ってきた主人公は、子供の頃に森で行方不明になった弟のものと思われる遺骨が、何者かによって自宅の玄関に置かれることを知ります。その出来事を契機にかつての事件の真相が徐々に明らかになっていきます。
コヴェントリーという小さな町ながら何か魅力的で存在感のある舞台を建て、そこに色々な個性を持つ住民を住まわせる、作者によるこの作業の時点で物語はほぼ成功しているみたいに思えます。主人公はオーレンでありながらも、彼は狂言回しの役割を担い、住人たちそれぞれの姿を読者に伝えていきます。そして真の主役は一家の家政婦であるハンナです。彼女の正体不明で人間離れした慧眼と行動力が物語に活かされています。登場人物たちのなかで女性陣のキャラクターが非常に強烈で印象に残るのに対して、男性陣のほとんどは邪な、または冴えない立場に据えられていますし、ハンナに対する主人公父子、図書館司書メイヴィスに対する息子、州捜査官サリーに対する保安官、すべて女性に頭が上がらない構図です。この関係性と作者の意図を考えるととても面白く感じました。ちょっとだけ中盤以降にダレる部分もありましたが、丹念かつ丁寧に登場人物の姿とその相関を浮かび上がらせていく技法が見事だと思いました。後日談に救いがあって、読後感を爽やかなものにしています。

キャシー・マロリー・シリーズ
『死のオブジェ』
『陪審員に死を』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『狩りの風よ吹け』スティーヴ・ハミルトン ハヤカワ文庫HM

2018-10-17

Tag :

☆☆☆

30年ぶりの再会だった。私立探偵アレックスのもとを訪れたのは、かつてバッテリーを組み、共に一流のメジャーリーガーを夢みた親友だった。その夢を捨て、音沙汰のなかった彼が、昔の恋人の捜索を依頼してきたのだ。アレックスは旧友のために彼の最愛の女を追うが、まもなく何者かに暴行を受け監禁される……やがて明らかになる悲劇的な真相とは?雪解けの水のように清らかな感動があふれる、現代ハードボイルドの収穫 内容紹介より



以下、少々ネタバレしています。ご注意下さい!

〈アレックス・マクナイト〉シリーズの第三作品目。二作目の『ウルフ・ムーンの夜』は未読です。
主人公がマイナーリーグの3A時代にバッテリーを組んだ旧友が三十年ぶりに姿を現し、かつてメジャーリーグに登録された時に知り合った恋人を捜して欲しいと依頼してきます。彼はたった一度だけメジャーの試合に登板する機会に恵まれるも、めった打ちにあい、それ以来彼女との関係を一方的に絶ったのでした。主人公は気が進まないながら、友人とともにわずかな手がかりを求めて彼女の足跡をたどりますが、ようやく彼女の家族が住んでいる家を訪ねるとそこで思わぬ事態に遭遇します。
主人公は警官時代に銃撃され相棒を亡くし、そのトラウマで警察を辞め、自身も体内に銃弾が残っている状態です。挫折し気乗りしない私立探偵業をやっているという状況で、美女探し、頭に一撃などハードボイルドの構成要素が見られますし、ロードノベル風でもあり、また悪女ものでもあります。過ぎ去った若かりし頃の夢と挫折、中年になった今現在の人生を対比させ郷愁と哀切、諦観みたいな感情を描き出す趣向を用いています。昔の恋人が隠れ住む田舎町の重苦しい雰囲気がそれまでのからりとしたものから一変しクライマックスへと雪崩れ込んでいく展開はなかなかのものです。残念なのは元恋人が思い出に残っているような人物ではないことが読者に早めに見当が付いてしまうことであり、第二の主人公である悪女の存在感を強く印象づけるエピソードが希薄なところです。非常にアメリカ的な作品だと思いました。

『氷の闇を越えて』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『フェルマーの鸚鵡(オウム)はしゃべらない』ドゥニ・ゲジ 角川書店

2018-10-14

Tag :

☆☆☆

「わたしゃ、弁護士がいなきゃしゃべらないよ!」と叫ぶ不思議なオウムを、蚤の市で偶然手に入れた少年マックスと車椅子の老人リュシュ氏。その日から周囲で次々と奇妙な事件が発生する。オウムを奪おうとするマフィアの暗躍,謎の死をとげたリュシュ氏の友人、そして死者から託された数学に関する貴重な書物—。複雑に絡みあった謎のカギを握るのはこのオウムなのだろうか?断片的なメモを手がかりに、数学の歴史をたどりながら真実に近づいていく二人。パリ、東京、シチリアと展開する大事件。そして、ついに核心に触れたその時にもたらされた衝撃のニュースと、思いもよらないどんでん返し!全世界を揺るがせた「フェルマーの最終定理」をめぐるロマンとスリルとサスペンス。数学の興味深いエピソードをふんだんに盛り込んだ、エンターテインメント・ミステリの真骨頂!数学を好きにならずにはいられない、極上の逸品。 内容紹介より



パリの書店主、その店の住み込みの従業員一家(母親、双子の兄妹、弟)が主な登場人物です。耳の不自由な弟が蚤の市で虐待されていたオウムを助けて家に連れ帰った出来事、そして店主の大学時代の旧友からの手紙と彼の数学に関する大量の蔵書が届いたことから物語が始まります。アマゾン流域に暮らす旧友の手紙には数学史上の未解決命題を解き、その証明を狙う何者かに脅かされたため、“誠実な仲間”に証明を伝えたと記してあるも、彼はその後火事によって焼死したことを判明します。書店主は従業員家族と蔵書を使って数学の歴史をたどるとともに、友人がなしたとする証明と彼の死の謎に迫ることになります。
読んでいる途中、哲学史の入門書である『ソフィーの世界』のことが思い浮かびましたが、本書も立ち位置的には同じで数学史の入門書なのでしょう。しかし、こちらは定理や数式が頻繁に出て来るので個人的にその部分が非常に判りにくい、というか理解できませんでした。数学上の発見や数学者たちのエピソードなどはもう少し掘り下げても良かったような気がしました。一方、ミステリの部分はかなり物足りない感じで捻りもありません。娯楽作品としては、人物造型もやや単調で子供たちの活躍が描かれていても良かったように思いました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『数独パズル殺人事件』シェリー・フレイドント ヴィレッジブックス

2018-10-11

Tag :

☆☆☆

若き数学者ケイトは、久々に故郷ニューハンプシャーの静かな田舎町に帰って来た—心優しき恩師アヴォンデール教授からのたっての願いで。教授の生きがい〈パズル博物館〉が閉館の危機らしい。ケイトはすぐに館の存続に向け東西奔走しはじめるが、そのとたん、教授が館長室で殺されているのを発見してしまう。現場にはやりかけの数独パズルが残されていたが、数独マニアの教授が書くはずのない謎の数字が……。これは教授からのダイイング・メッセイージだと睨んだケイトは、堅物警察署長の目を盗んで犯人探しを始めるのだが—。日本が誇る人気パズル「数独」をテーマにした世界初のミステリー! 内容紹介より



子供の頃に母親を亡くしたオタクな少女の孤独を癒してくれたパズルとパズル博物館館長。少女は大人になって故郷を離れ、現在は理論数学研究所の研究員です。彼女は教授の依頼で生まれ育った町に戻りますが、博物館が改修のために受けた融資金の返済が滞っているため土地と館を銀行に取られてしまいそうになっていることを知らされます。月々の返済はしてあるはずなのにそれが銀行に渡る前に消えてしまっているようなのです。折しも町は新しいショッピングモール建設計画の是非をめぐってもめており、建設予定地にある家屋が次々に買収され、その一画にある博物館には立ち退きを迫る脅迫状まで届いている状況です。主人公が調べ始めた矢先に殺人事件が起きてしまいます。
事件現場に残された数独パズルに事件解決への手掛かりが書かれていたというくらいで、わざわざタイトルに付けるまではないと思いますし、ミステリ的には今ひとつでした。本書の魅力はパズル博物館の存在にあると思いますから、もう少し色々なパズルについての知識が記されていたならとは感じました。主人公は好感が持てるし、彼女の伯母さんその他にも館で飼われているペットの猫、団結力と行動力が抜群のおばあちゃんグループの存在が愉快であり存在感がありました。都会から来た警察署長がよそ者扱いされたうえに職務熱心さゆえに地元民の不興を買っているという捻った設定が、東部の田舎町における気質の一端を表しているようで面白かったです。ニコリ代表の鍛冶真起氏の解説と数独パズルが付いています。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『シロへの長い道』ライオネル・デヴィッドスン ハヤカワ文庫HM

2018-10-08

Tag :

☆☆☆☆

西暦70年に征服者に強奪されたという、ユダヤ教の聖なる黄金の燭台メノーラが、突如現代によみがえった。イスラエルで、メノーラの隠し場所を示す古文書が発見されたのだ。隣国ヨルダンも、独自に発掘に向かっているという。イギリスの考古学者レング教授はメノーラ発掘の緊急指令を受け、急遽イスラエルへと飛んだ!サスペンス、暗号、謎とき—過去と現代を劇的につなぐ、英国推理作家協会賞受賞の傑作サスペンス 内容紹介より



1966年のゴールド・ダガー賞受賞作です。
イスラエル当局から秘密裡に古代の聖なる燭台のありかを示す古文書を解読する依頼を受けた新進気鋭の英国人大学教授が主人公です。彼の仕事は、不完全な古文書を読み解き、その中に使われている暗号を解読し、燭台の埋葬先を突き止める、というもの。現地の考古学者とその教え子で現在イスラエル軍に兵役中の女性が主人公に協力するという構図です。プロットはまさしく伝統的な英国冒険小説を踏襲していると共に巻き込まれ型の形を取っています。さらにイスラエルという特異な国を舞台にした自然や風俗など異国情緒たっぷりで、かの地域の古代史も記され、知的好奇心も刺激される作品だと思いますし、プロフェッショナルとアマチュア、推論と冒険のバランスが良く取れた内容になっていると共に最後は英国らしい辛口のユーモアでしめ切られています。まあ、主人公の女性に対する姿勢はさすがに現代風になっていて、中世の騎士道とはまったく違って軟派に感じてしまい、その辺りは仕様がないのでしょうけれど、気に障ったりもしました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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