『真夏日の殺人』P・M・カールスン ハヤカワ文庫HM

2017-06-21

Tag :

☆☆☆☆

真夏だというのに窓を閉めきった書斎で、飛行機の爆発事故を取材中の新聞記者が撲殺された。そばには、凶器と思われる真鍮の電気スタンドが落ちていたが、書斎は中から鍵を掛けられており、犯人が出入りできたはずはない。記者の死は、取材中の事故と何か関係が?休暇中に事件と出くわした統計コンサルタントのマギーは、犯人探しに乗りだすが……好奇心あふれる人情家の素人探偵が、密室殺人の謎に挑む本格ミステリ。 内容紹介より



1990年に発表された作品ですが、舞台は1975年です。この年代設定は作品に色濃くでているベトナム戦争に従軍した若者たちの心に迫るためなのでしょう。そのテーマにくらべると、最近では珍しい本格密室ミステリの趣向はやや添えものみたいに感じました。主人公のマギーと家族は反戦運動の経験者、その一方、事件を担当する女性刑事は元従軍看護士であり、容疑者にも帰還兵がおり、ふたりとも戦場での過酷な体験によって心に闇を抱え、傷を負っている状態です。さらに被害者の家族、特に思春期の少女に父親の死が与えたダメージを強調して描いています。その彼女らの被った心の傷を癒そうとするのが主人公で、また女性刑事には煙たがられながら独自に犯人探しも始めます。しかし面白いのは、主人公より女性刑事のほうが登場機会が多く、シリーズ物にしては異色で、彼女の心理が入念に描かれているところです。彼女の心の奥底を描写するかたわら、序盤に置ける彼女の表には出さない心の内での皮肉や毒舌が愉快でした。密室殺人という派手な設定を採りながら、実は心理小説みたいな形態をとる作品だと思います。ゆえに謎解きへの過度の期待は肩すかし気味であり、事件もいきなり慌ただしく急展開をみせ、それまでに構築した情感が薄れたのは残念でした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『りんご酒と嘆きの休暇』アレクサンダー・キャンピオン コージーブックス

2017-06-17

Tag :

☆☆☆

休暇でノルマンディの田舎に暮らす伯父を訪れた、パリ警視庁の警視カプシーヌ。忙しい日常を離れ、伯父の大邸宅でふるまわれる旬のご馳走—名産のりんご酒にカマンベール、きのこ、そしてジビエ料理に舌鼓を打ち、楽しいひとときを過ごすはずだった。ところが、狩猟が解禁されたばかりの村では、狩りの最中に不審な事故が多発。のどかなはずのこの村で、いったい何が起きているの?警察官になることに大反対だった伯父から捜査を頼まれ、ようやく一族に認めてもらえた嬉しさを噛みしめるカプシーヌ。でも田舎町での捜査は都会と違い、昔からの知人にふりまわされてばかりで……!?フランスの田舎町の魅力がいっぱいのシリーズ第二弾! 内容紹介より



〈パリのグルメ捜査官〉シリーズ。第一作目の『予約の消えた三ツ星レストラン』は未読です。
前回読んだ北欧ミステリもそうですが、特にフランスミステリを読んで感じる、アメリカミステリにくらべて際立つお国柄が新鮮です。著者はパリに長年住んでいたNY生まれのブラジル人らしいのですけれど、フランスミステリでは作品の中においても食事に時間をかけ,その描写に紙幅を費やす傾向が見られます。そして、ヒロインの夫が著名なレストラン評論家という設定であるためにチェーン店、ファストフードにたいする毒舌ぶりも面白く、また、日本産ウィスキーの「余市」や「山崎」という名前がでてくるのもフランスミステリならではでしょう。それから同じくフランスの地方を舞台にした『緋色の十字章』(マーティン・ウォーカー作 創元推理文庫)でもありましたが、地方特有の食産物にかけるEUの規制が固有の食文化を衰退させていくのではないかという懸念が感じられました。このようなこだわりは、これまで読んだ英国ミステリでは目にしたことも感じたこともないのが興味深いところです。
コージーブックスからでているにもかかわらず内容は警察小説です。地方で起きた連続誤射事件とパリで頻発する“眠り姫”窃盗事件の捜査でヒロインがあちらこちら移動してせわしなく、ストーリーにやや落ち着きがなく、二つの事件が個別すぎてミステリ的にいまひとつでした。野鳥や鹿、うさぎへの狩猟場面が描かれているので、そういうのが苦手な方にはお勧めしません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『静かな水のなかで』ヴィヴェカ・ステン ハヤカワ文庫HM

2017-06-14

Tag :

☆☆☆☆

漁網に絡まって漂着したその死体は、長く水中にあったせいで無惨なありさまだった。死因は溺死、身元もすぐに判明し、トーマス・アンドレアソン警部も事故と断じかける。だが男性の従妹が殺害されたことから事態は急展開。島に住む女性弁護士で幼馴染のノラの助けも借りて捜査にあたるトーマスだったが、事件には複雑な背景が……風光明媚なリゾート・アイランドで起きる事件に挑む、スウェーデンで人気の新シリーズ開幕 内容紹介より



舞台となっている季節が夏であるため、北欧ミステリに付きものの酷寒で暗く鬱々とした長い冬という雰囲気はなく、また警部の視点で描かれる警察小説調の章に対して、キャリアウーマンであり主婦でもあるヒロインの視点のややコージーミステリをおびた章のために、もたれるような重さは感じません。作者が女性であり、自身がキャリアウーマンであったことの投影なのか、栄転のチャンスが訪れてにわかに上昇志向になったヒロインの夫婦関係や子育てといった私生活の部分にかなりの重点が置かれています。彼女と幼馴染の警部との間の恋愛感情のない友人関係というロマンスをはさまない設定はよいにしても、ミステリ部分では、捜査が進展するにつれ徐々に核心へと近づいていく緊迫感の高まりはさほどなくて読みごたえがある訳ではありませんし、クライマックスは、あたかも〈少女探偵ナンシー・ドルー〉の流れをくんでいるかのような展開でした。社会的性差がほとんどないイメージの北欧でも家庭内では従属関係を強いる圧力が見られることも珍しくはないのですね。




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ジャンル : 本・雑誌

『ドライ・ボーンズ』トム・ボウマン ハヤカワ文庫HM

2017-06-10

Tag :

☆☆☆☆

厳しい自然に囲まれた田舎町ワイルド・タイム。雪解けの季節のある日、銃痕があるうえ野生動物に荒らされた青年の死体が発見された。町で唯一の警察官ファレルは被害者の身元を洗うが、開拓時代から自分の身は自分で守ってきた住人たちは協力的ではなく、シェールガス利権や薬物の蔓延も捜査の行く手を阻む。や がて、法を信じない人々の暗い過去にたどりついたファレルは……アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。 内容紹介より



MWA新人賞受賞作というと、どうして受賞したのか個人的に首を傾げたくなるような作品がこれまでにもあったのですけれど、本書もそのひとつです。たしかに作品に漂う雰囲気は良いのですが、突出したと感じられるものがありませんでした。霜月蒼氏が解説で述べている「カントリーノワール」のジャンルにあたるらしく、特にC・J・ボックスのジョー・ピケット・シリーズの世界観によく似ている印象を受けました。狩猟が単なるスポーツではなく、生活を支える手段になっている、自主独立の気風が強い非常に保守的な地域社会、そこに持ちあがった資源を巡る利権、そして、町を浸蝕していく薬物汚染。これらをストーリーの背景に据えて、頑迷なモラル、それに反する者との間で起きた、都会では起こり難いであろう殺人事件の捜査をソマリア従軍歴があり、愛妻を病で亡くした心の傷を持つ郡の警察官の視点で描いています。こういった陰影のある主人公の造形はネオ・ハードボイルドを思わせます。この作品の難点は、そもそも原文がそうなのかあるいは訳出のためなのか、文章がなにか読みづらかったのと、登場人物が誰が誰なのかかなり判りにくかったことです。海外ミステリは読み慣れていると思っていましたが、表紙折り返しにある登場人物一覧では足りませんでした。それから全体的に、もう少し話を掘り下げて欲しかったところです。




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『ルクセンブルクの迷路』クリス・パヴォーネ ハヤカワ文庫NV

2017-06-06

Tag :

☆☆☆☆

ワシントンDCに住むケイトは、夫が新しい事業を始めるルクセンブルクに息子たちとともに移住した。やがて彼女はマクレーン夫妻と知り合うが、夫妻にはどこか怪しげなところがあった。何かの犯罪を企んでいるのか?それとも依然ある組織に属していたケイトの過去を探っているのか?あるいは彼女の夫を狙っているのか?疑惑の迷路の中で、彼女は想像を絶する事実を知ることに。意想外の展開が連続するサスペンス巨篇 内容紹介より



以下、ややネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい!

CIA、FBI、ルクセンブルク、というワードからスパイが絡む国際謀略ものをイメージしてしまいますが、実は元CIA職員だったヒロインの懊悩煩悶話。妻であり二児の母親である主婦が、子育てや主婦業にせわしない毎日を送りながら、自身のCIA工作員時代にしでかした不法行為やネットセキュリティのコンサルタントの夫の行状、現地で知り合ったアメリカ人夫妻の態度について悩んだり怪しんだり、疑ったりする様子が570ページに渡って描かれています。元スパイと専業主婦というミスマッチな取り合わせと切り口が目新しく、さすがに後半に入るとやや飽きてくるにしても、それでも読み通させるテクニックはたいしたものだと思います。ただ、アクションシーンはまったくといっていいほどなく、心理小説みたいな終始ヒロインによる視点のみのああだこうだという内省傍白の繰り返しであるために評価はさまざまでしょう。さすがに長々と話を引っぱった割にこの結末はどうよ、みたいな感じもありますけれど、この作品が作者の初のフィクションとすると才能を感じさせます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
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『アガサ・レーズンと猫泥棒』M・C・ビートン コージーブックス

2017-05-29

Tag :

☆☆

村にやってきた新しい獣医はハンサムな独身男。アガサはさっそく健康そのものの飼い猫ホッジをダシにしていそいそと診療所へ。猫嫌いな様子の獣医を不審に思うも、思いがけずデートに誘われ、細かいことには目をつぶることにした。ところが獣医に約束はすっぽかされるし、飼い猫は行方不明になるしで、不幸続きのアガサ。お詫びに誘われたデートでも、失態を演じて逃げ帰るはめに。そしてその翌朝、なんと獣医が往診中に不運な死を遂げた!事故死ではないと睨んだアガサは、尻込みする隣人ジェームズを従え、さっそく聴き込み調査を開始。すると意外な獣医の「正体」が浮かび上がってきて……!? 内容紹介より



〈英国ちいさな村の謎〉シリーズの第二作目。
主人公アガサと隣人ジェームズが調べていくうちに、獣医は複数の女性に色目を使っていたことが明らかになり、さらに主人公に彼の正体を打ち明けると話していた女性も不審死を遂げていることを発見してしまいます。これも事故死や自殺ではないと考えたアガサはますます事件に首を突っ込む事態に。ジェームズを巻き込むのも、彼が常に自分の傍にいるようにしたいという下心があるからですけれど、恋のライバルの出現や彼の言動に彼女の気持ちはその時々に上がったり下がったり、刻々と移ろい変わる女心が笑えます。そして事件の関係者に嫌がられても強引に話を聴きにいく、たまに悪態をつく、こういう強面な態度が彼女の魅力なのですが、できればさらにその傾向をエスカレートさせて欲しいものです。一方、彼女のウイークポイントは上流階級への引け目だったりして、それが異性に対する一見乙女のような妄想とも言える夢見がちな姿とともにちょっと可愛らしさを感じさせる一面を持っているように感じてしまいます。

『アガサ・レーズンの困った料理』
『アガサ・レーズンの完璧な裏庭』
『アガサ・レーズンと貴族館の死』




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