『木曜日の子供』テリ—・ホワイト 文春文庫

2017-05-19

Tag :

☆☆☆

木曜日の子供は遠くまで行く—マザーグースはそう歌う。たまたまそんな星の下に生まれたために旅に出なければならない家出少年が、ひとりの殺し屋に出会う。が、この凄腕の殺し屋も、よくよく聞けば両親を航空機事故で失い、たった一人の弟を植物人間にされて敵討ちを心に誓っている。彼もまた“木曜日の子供”なのだろうか? 内容紹介より



殺し屋と刑事という対比した構図をとっていた『殺し屋マックスと向う見ず野郎』、本書では殺し屋と刑事あがりの私立探偵の形をとっています。これは恐らく作者が得意とする形式なのでしょう。そして、あくまで少年にとっては自分を必要としてくれる相手、殺し屋にとっては亡くなった弟の喪失感を埋める存在として互いの愛情を描いてあるのですけれど、深読みしてしまうと殺し屋と家出少年のふたりの関係から漂う危なげな雰囲気が、『真夜中の相棒』を彷彿とさせます。その関係に、家出した子供を捜し出すことを専門とする私立探偵が加わって話が進んでいきます。彼も警官としての挫折と自分の子供が家出して行方が判らない過去を背負っています。作品全体から受ける印象は、パターンにこだわってテーマが通り一遍になってしまっているみたいな感じで、登場人物の行動やその結末も予想したとおりで意外性に乏しく、女性作家に見られる男同士の友情についての美化がやはり目に付き、作者はこれを様式美として極めたいのではないのか、と思ったりもします。その反動によるものなのか女性の登場人物についての印象がペットの犬並みに弱いです。

『殺し屋マックスと向う見ず野郎』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『裏切りの代償』ブレット・バトルズ RHブックスプラス

2017-05-15

Tag :

☆☆☆

ジョナサン・クィンはフリーランスの“掃除屋”。今回始末を頼まれた死体は、コンテナに載せられロサンゼルスまで運ばれてきた。死体の主の名前を聞いてクィンは耳を疑った。スティーヴン・マルコフ—かつて命を救ってくれた元CIAのスパイだった。仕事を終えればすべて忘れる—それがクィンの信条だが、今度ばかりは別だ。クィンは行方不明のマルコフの恋人ジェニーの足跡を追ってシンガポールに飛ぶ!注目のハード・スパイ・アクション第2弾 内容紹介より



シリーズ第一作目の『懸賞首の男』を読んだときは、“掃除屋”という死体を含めたスパイ活動などの痕跡を消し去る職業が目新しくて新鮮に感じたのですが、本書では話のとっかかりでその仕事の有り様が描かれるだけで、その後は従来ある腕利きスパイの真似事みたいな活動に終始し特色をいかしきれていない印象が残りました。物語の展開が二転三転するところは工夫のあとが見られるにしても、オーソドックスなハリウッド映画風なスパイ・アクションです。“影の政府”とかいう強力な陰謀組織を登場させるありきたりな設定、007を思わせるハイテク機器を使うなど、もう少しで荒唐無稽な方向へ流れそうなところで踏み止まっているのと主人公をスーパーヒーロー化させていない点は、これからどうなるか判りませんが維持して欲しいところです。前作でも感じたように主人公の個性が相変わらず弱い、寡黙なのはおおいに結構ですが、プロとしてのこだわりなり流儀をもっと前面に出してもらいたいものです。この主人公だから続編を読みたくなるという具合になれば良いのですけれど。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『デクスター 夜の観察者』ジェフ・リンジー ヴィレッジブックス

2017-05-11

Tag :

☆☆☆

マイアミ大学の構内で首なし死体が見つかった。被害者の女子学生2人は全身を焼かれ、頭部のかわりに陶器の雄牛の頭が置かれていた。不気味ながら興をそそられる手口……のはずが、事件に関わってからというものデクスターは何者かに執拗にストーキングされ、頼みの“殺人鬼の勘”も今回は捜査に役立ってくれない。そんななか新たな首なし死体が発見され、デクスターの身近な人物にも魔の手が伸びはじめる。手がかりは現場に残された謎の文字。だがそれは想像を超える闇への招待状にすぎなかった!昼は好青年の鑑識官、夜は冷血無情な連続殺人鬼—強烈なダークヒーローの活躍を描く絶賛シリーズ第3弾。 内容紹介より



今回は、ややホラーテイストで主人公デクスターの精神に棲む〈闇の乗客〉と呼んでいる意識体に焦点があてられています。地球が誕生する以前から存在し、動物を宿主とする“それ”の成り立ちが序章として説明され、その傍流が主人公の内部に居る〈闇の乗客〉というわけです。“それ”は、スタージョンの短篇『それ』やクーンツの『ファントム』に登場した怪物を思わせますが、“それ”は物体としては存在せず意識が宿主に乗り移ってあやつるようです。それならどうして主人公を宿主にしなかったのか、疑問に思ったのですけれど、そのあたりの説明は不十分なようで詰めが甘い気がします。それとともに鑑識の仕事そっちのけで巡査部長である義理の妹のお供としてあっちこっち引っぱり回される様子もなんだか違和感がありました。裏の顔である殺人鬼という、これまでの狩る立場から狩られる立場に置かれると作品と主人公の魅力が半減してしまったみたいな印象を受けました。
それから毎回このシリーズの感想で言ってますが、三人称の主人公による会話の部分だけですむ諧謔や饒舌より、本書のような一人称のそれは会話はもとより傍白でもながながと続くためにたちが悪いということ。

『デクスター 幼き者への挽歌』
『デクスター 闇に笑う月』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『青銅の翳り』リンゼイ・デイヴィス 光文社文庫

2017-05-06

Tag :

☆☆☆☆

—紀元70年のローマ—。内乱を制したウェスパシアヌス帝だが、なお各地に潜伏する謀反の残党がいた。これを探し出し、服従を誓わせるのが、今回、密偵ファルコに与えられた使命である。ペトロ一家との家族旅行を装い、彼が向かったのは、ベスビオ山の大噴火により壊滅するわずか8年前のポンペイ。運命を知りようもない人々は、思い思いに夏の日を楽しんでいた……。—イギリス・ミステリー界で人気No.1のシリーズ第2弾! 内容紹介より



〈密偵ファルコ〉シリーズ。
「小難しい歴史ものではなく、ハリウッド製のコスプレ時代劇」(p545)と、高瀬美恵氏が解説で述べているように、作品の雰囲気は確かに時代劇風であり、内容はハードボイルド調で語られる冒険ロマンス小説に間違いありません。作中で牡牛ネロが引く牛車の歩みのごとく、ストーリーはゆっくりと進み、もう少しスピードアップして欲しいようなまどろっこしさを感じなくもないです。それはたったひとりの男を追跡するだけにページを費やし、しかも何度も取り逃がしてしまうためと、主人公ファルコとヒロインのヘレナとの恋愛沙汰があれこれとああだこうだと描かれ、さらにもう一つの柱となるべきミステリの色合いがかなり薄いためです。舞台をポンペイに選んだことも話題性だけで、作品にこれといった効果はあげていないように感じました。しかし、そういったマイナス面も著者が描き出す真に迫った古代ローマの風景や社会風俗によって十二分に補われているように思います。ファルコとへレナのラブロマンスが大きな部分を占めていて、彼らの今後の行く末が気になって続編を読みたくなる仕掛けが巧妙です。

『密偵ファルコ 白銀の誓い』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ウィッチフォード連続殺人』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫HM

2017-04-30

☆☆☆☆

被害者は中年の女性で、喉をざっくりと切り裂かれていた。残酷な事件とは無縁のようなのどかな田舎に捜査のためにやってきたのは土地出身の若い主任警部。優秀な刑事だが、今回は昔なじみの人々が多く、やりにくい面もあった。しかも、彼の捜査を嘲笑うかのように、すぐに若い女性が第二の犠牲者となった。被害者にはどんな繋がりがあり、犯行を繰り返す首切り魔の目的とは何なのか。文庫初登場の女流が本格に挑む新作! 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意下さい!

しょっぱなから後に重要容疑者として浮かび上がる二人の人物の背景を描いて読者の視線を向けさせる手法をとっています。しかし、それにくらべると真犯人へのそれらしい言及は非常に少ない気がしました。ある人物などは真犯人だと名指しされても、読者にはかなりのいきなり感があるわけで、ロマンスの要素はこの著者の持ち味ですから否定はしませんが、主任警部と幼なじみの女医との恋愛模様に紙面を費やすのなら、犯人に対するなんらかのほのめかすような書き込みもある程度は必要だったのではないかと思います。また、それがあれば著者が仕掛けた二重のトリックと相まって動機の面でも読者を混乱させる相乗効果も期待できたでしょう。連続殺人事件の被害者たちは同じ医院を受診していた以外に,年齢も社会階層も異なりまったく関係性が見つかりません。捜査もなかなか進展せず、物語は故郷に帰ってきた警部のしがらみとか恋愛事情でやや埋もれ気味になり、ややめりはりに欠けるような印象も受けてしまいました。もう少しハードな本格ミステリを期待していたのですが、ロマンスの比率がやや高めで、ノンシリーズにおいてのロマンスというスパイスの配合はなかなか難しいことが見て取れます。

ユーザータグ:ポーラ・ゴズリング




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『キング・オブ・クール』ドン・ウィンズロウ 角川文庫

2017-04-26

☆☆☆☆

舞台は南カリフォルニア。大麻の種子を持ち込んだ軍人チョンは平和主義者のベンを相棒に大がかりな大麻供給グループを築き上げ、またたくまに軌道に乗せた。しかし、商売敵の手によって仲間が病院送りに。すぐさま大麻密売組織にお礼をお見舞い、腐敗警官との駆け引きに臨んだが,前世代から続く因縁が2人の前に立ちふさがる—。過去と現在をつなぐ覇権争い2人は生死を賭け、一発逆転の大勝負に打って出るが—!? 内容紹介より



『野蛮なやつら』の前編(前日談)として書かれた作品です。2005年現在のベン、チョン、O(オフィーリア)三人組、1967年から始まる、ドク、ジョン、スタンとダイアンの“連合”というサーファーやビートニック世代が属するグループ,この二つに起きた出来事がともにカリフォルニアを舞台に時代を替えて交互に綴られて物語が進みます。『野蛮なやつら』同様に短いセンテンスの積み重ね,ときにはヒップホップのラップを思わせるリズムをおびた筆致(東江一紀氏の訳によるところも多いのでしょう)でもって非常に軽妙な仕上がりになっています。さらに筋立ても似ていて、ベンに対してある組織がみかじめ料を要求してくることから話が動きだし、やがて対決にいたる出来事を描きますが、本書では1967年から現在までの“連合”のメンバーたちフラワーチルドレンくずれたちの理想、つまずきを経ての現実を、彼らが嗜好し商売品であるマリファナからLSDそしてコカインへとわたる変遷に象徴させて、それを別の流れとして展開していく形を採っています。この二つの流れがクライマックスで一つに合流し、これまでに張り巡らされていた伏線が次々に鮮やかに回収される手法は見事です。ボビーZやフランキー・マシーンもちょっとだけ登場する読者サービスもあります。

ユーザータグ:ドン・ウィンズロウ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
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