『怪奇礼讃』E・F・ベンスン/A・ブラックウッド 他 創元推理文庫

2016-12-28

☆☆☆

本書は怪奇小説のアンソロジーである。19世紀末から20世紀前半にかけての、英国の古風な、それでいて少しひねくれた、変わった味の作品を中心にまとめたものである。不思議な話、変な話、謎めいた話、そしてなおかつ怖い話を……。ベンスン、ダンセイニ,ブラックウッドをはじめ、怪談通を唸らせるウェイクフィールド、ボウエン、バレイジ、奇妙な味わいのマクダーミッドやトマス、怪奇にユーモアをしのばせたベアリング=グールドやアラン、そして極めつきの恐怖譚、ベリスフォード「のど斬り農場」……巨匠の名品から知られざる作家の幻の逸品まで、本邦初訳作を中心に22編を厳選。古雅にして多彩な怪奇小説をご賞味あれ。 内容紹介より



収録作品、
「塔」マーガニタ・ラスキ、「失われた子供たちの谷」ウィリアム・ホープ・ホジスン、「よそ者」ヒュー・マクダーミッド、「跫音(あしおと)」E・F・ベンスン、「ばあやの話」H・R・ウェイクフィールド、「祖父さんの家で」ダイラン・トマス、「メアリー・アンセル」マーティン・アームストロング、「「悪魔の館」奇譚」ローザ・マルホランド、「谷間の幽霊」ロード・ダンセイニ、「囁く者」アルジャナン・ブラックウッド、「地獄への旅」ジェイムズ・ホック、「二時半ちょうどに」マージョリー・ボウエン、「今日と明日のはざまで」A・M・バレイジ、「髪」A・J・アラン、「溺れた婦人」エイドリアン・アリントン、「「ジョン・グラドウィンが言うには」」オリヴァー・オニオンズ、「死は素敵な別れ」S・ベアリング=グールド、「昔馴染みの島」メアリ・エリザベス・ブラッドン、「オリヴァー・カーマイクル氏」エイミアス・ノースコート、「死は共に在り」メアリ・コルモングダリー、「ある幽霊の回顧録」G・W・ストーニア、「のど斬り農場」J・D・ベリスフォード。

ミステリーソーンやトワイライトゾーン系の話が好きな方にはお勧めしたい、ホラーに偏らない一風変わった作品が収録された短篇集です。以下、主な作品の感想です。

出征した婚約者が戦死し、宿泊所を兼ねたパブの主人と結婚した女性。日常生活を淡々と過ごす彼女の唯一の心の癒しは、海に面する丘に登って最愛の婚約者の幽霊と過ごすこと。彼女の痛切なある願いが、宿泊客の一言で叶えられる。とても哀切漂う作品「メアリー・アンセル」。
アレクサンドリアで商売をする英国人の主人公は、金のこととなると非常に冷酷になる人物。借金のかたに店兼住居を取り上げ、貧しい一家を立ち退かせるが、その家族のなかの老婆が彼にむかって呪文を唱えると、その夜から歩く彼の後から足音が聴こえるようになり、彼を悩ませる。オチが日本の怪談話のような「跫音」。
物乞いに呪いをかけられた雑貨店の店主。店の窓の外で繰り広げられるミステリーゾーンみたいな時の錯綜劇「今日と明日のはざまで」。
未来で起きた事故あるいは事件によって幽霊になった考えられる女性の亡霊が現代に現れる話。かなり奇抜な着想が面白いし、女性の身に何が起きたのかを考えると恐い「溺れた婦人」。
「塔」は、廃墟と化した村に残された「犧の塔(四百七十階段)」と呼ばれる建築物。そこを訪れた新妻の無気味な体験。こういう怪談話の場合は、地下墓地に降りていく話が多いと思うのですが、この作品は登って降りてくる話です。でも、降りても降りても……。
「死は素敵な別れ」は、面白みのない、謹厳なプロテスタントの妻にうんざりしていた夫が、その妻が亡くなったため若い女性と結婚しようとする。それを快く思わない妻の幽霊が夫の邪魔をするというホラーコメディ。婚約者との結婚を諦めようと彼が訳を話すと、実は婚約者にも幽霊が取り憑いているというのだった。メイ・シンクレアの「証拠の性質」も似たような設定でした。同じくホラーとコメディが融合した「のど斬り農場」。
シオドア・スタージョンの「それ」のように、太古から地球に存在する得体の知れないもの。それと接触し、無情を感じさせる「谷間の幽霊」、知識、知恵、芸術、宗教、思想が書物を通してそれに浸透し、来る者に囁きかける「囁く者」、それが実体化して人間界に潜み、接触した一部の人間に悪を感じさせる「よそ者」、善悪に別れた二つのそれ(魂)が巡り会って、善が悪によって攻撃される「オリヴァー・カーマイクル氏」。
事故死したばかりの老人の過去がよみがえる「「ジョン・グラドウィンが言うには」」、 バスに轢かれた男が数年間の幽霊としての日常と意見を語る「ある幽霊の回顧録」、生者と生前彼と親しかった死者たちがある孤島で巡り会う、せつない「昔馴染みの島」。

今年最後の更新になります。当最果ての孤島ブログを訪れて頂いた皆様、誠にありがとうございます。どうぞ良いお年をお迎え下さい。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『サンタクロースにご用心』 シャーロット・マクラウド編 扶桑社ミステリー

2016-12-25

☆☆☆

聖なる夜に人はみな、心静かに己れの罪を悔い改め—というわけにいかないのが世のならい。大学構内で出回った贋札造りの犯人探しに奔走するシャンディ教授。いきのいい女探偵のオフィスにころがりこむ死体。クリスマス劇の天使が射殺される一方で、二人の娘とその貧乏亭主に遺産めあてに殺されてしまうと疑心暗鬼の父親。ましてや妻殺しを計画する夫にいたっては……。はらはらさせたり、泣かせたり、一転絶妙なコンゲーム。趣向をこらした書き下ろしのクリスマスミステリーが13編。イヴの夜、とびきりのプレゼント! 内容紹介より



収録作品、「贋札造りのクリスマス」シャーロット・マクラウド、「鹿狩り」レジナルド・ヒル、「私立探偵リズ・ピーターズ」エリザベス・ピーターズ、「赤い髪の天使」メードラ・セール、「もつれた糸をほどくには」ジョン・マルコム、「バーゲン品につき……」ドロシー・キャネル、「サンタクロースにご用心」ビル・クライダー、「ファミリー・クリスマス」パトリシア・モイーズ、「ミス・メルヴィルの好運」イーヴリン・スミス、「俺たちの福音」エリック・ライト、「ニックが街にやってくる」ミッキー・フリードマン、「イヴの罠」ロバート・バーナード、「鍋いっぱいのササゲ豆」マーガレット・マロン

サブタイトルは、「クリスマス13の物語」です。
全編書き下ろしですから、それぞれ出来不出来があります。「鍋いっぱいのササゲ豆」は、ミステリとして大事件が起きるわけではありませんが、万引き常習者である黒人女性の人柄や人間性を良く表して人生の機微を描いたほろりとさせる良作です。また、「バーゲン品につき……」も、想い出のティーポットを割ってしまった女性が、バーゲンセールで一個しかない同じポットを手に入れるために前夜からデパートに忍び込んでしまうというちょっとした人情話。舞台は同じデパートでも「サンタクロースにご用心」は、万引き被害に悩む地元のデパートにサンタの扮装をして子どもたちの願いを聞きながら犯人探しをする話。細部に気が利いていると感じた「俺たちの福音」は、自分たちを警察に密告した酒場の店主を救世軍を装って、面子をつぶして金もだまし取ろうとする話。「サンタなんか大嫌いだっ!」という手紙をある子どもから貰ったサンタクロースが、探偵となって宝石窃盗事件を解決する「ニックが街にやってくる」。クリスマス劇に代役として出演していた天使役の女性が劇中に射殺されてしまう「赤い髪の天使」。“赤い髪”といえば、あの有名な名探偵が活躍する作品を思い浮かべますが、「鹿狩り」は、その名作のモチーフを使ったみたいな話です。しかし、レジナルド・ヒルらしさは感じらず、いかに元ネタが優れているかがわかります。大学構内のクリスマス期間中の夜店で使われた、大学学長を肖像画に替えた贋札造りの犯人を追うシャンディ教授が懐かしい「贋札造りのクリスマス」。これまた懐かしいミス・メルヴィルが元独裁者を暗殺しようとする「ミス・メルヴィルの好運」。クリスマスプレゼントに爆弾を仕掛けて妻殺しを企む内務省の高官の話「イヴの罠」。「ファミリー・クリスマス」は、遺産目当てに娘夫婦がクリスマスディナーの中に毒を盛るのではないかと心配する、スクルージみたいな吝嗇家の夫を気遣った妻がやった余計なこと。人を殺そうとするには不意打ちに限る、ということを再確認できる「もつれた糸をほどくには」。ハードボイルド物のパロディなのか 特大ハーシーチョコ三枚をいっぺんに食べてもへっちゃらな女探偵がどうでもいいような活躍を見せる「私立探偵リズ・ピーターズ」。

ユーザータグ:クリスマス・ストーリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マシン・オブ・デス』ライアン・ノース マシュー・べナルド デーヴィッド・マルキ! 編 アルファポリス文庫

2016-05-28

☆☆☆

“死を予言する機械”が発明された近未来。自らの死因を知った人々が得たものは、幸福か?はたまた絶望か?自分の死因が「ピアノ」とわかった男は、どうせ死にはしないと軍に入隊するが―『ピアノ』。不名誉な死因を公表するべきか苦悩する政治家が辿る意外な結末―『未成年者とのセックスによる疲労』。遭難したジャングルで二人の兵士が互いの「死因」を前に、疑心暗鬼に駆られていく―『飢餓』。米アマゾン第1位の衝撃エンタメアンソロジー待望の文庫化! 内容紹介より



単行本には34編が収録され、582ページあるらしいのですが、この文庫版では20編、429ページです。
本来全く必要としない商品を広告で煽り、人々に売りつけることに罪悪感を感じている、インフォマーシャルの女性ディレクターが、どのような機能を持った機械なのか解らないまま“マシン・オブ・デス”の通販を手がけた顛末を描いた『コカインと鎮痛薬』、この作品だけがまだ機械が世に広まる前を設定にしています。それ以外は自動販売機並みに至るところに設置され、『燃えるマシュマロ』では、十六歳になると機械で死因を知ることができ、『長い年月ののち安らかな寝顔を浮かべたまま、呼吸停止する』、『味方による誤爆』、『プリズン・ナイフ・ファイト』では、子供が赤ん坊の時に両親が死因を調べています。機械で判明するのは死因のみですが、『だれかを救おうとしているあいだに死ぬ』では死亡日も判るという設定になっていて、話はカウントダウン方式で進みます。暴力的で突発的な死因がかっこいいと学生に思われている作品もあれば、長寿で安らかな死という結果が出た男性がモテる話もあります。日本のヤクザが主人公の『不適切に調理されたフグ』、病魔に侵され衰えていく父親、宗教に精神の救いを求める母親、二人をいたたまれない思いで見守るしかない息子の話『癌』、“マシン・オブ・デス”をパーティーの余興に使おうとする元妻に違和感を覚える『動脈瘤』、死因に憑かれ、ライオンのために自らの身体を美味しくしようと励む『ライオンに噛み裂かれてむさぼり食われる』。
その他、『狙撃兵による射殺』『自殺』『銃殺隊』『野菜』『死の機械の針によるHIV感染』『ダニエルによる殺害』『失血』




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テーマ : SF
ジャンル : 本・雑誌

『クリスマスに捧げるミステリー』ジョルジュ・シムノンほか 光文社文庫

2014-12-17

☆☆☆☆

―“クリスマス”の語源はキリストChristのミサmass.クリスマス・ストーリーの鼻祖C・ディケンズは、キリスト降誕のこの日に、改めて他者への善意、慈善の心の大切さを見つめなおそうと説いた。以降、この聖なる日を題材に数多くの作品が生まれている。心温まる話、ちょっぴり怖い話……趣向は様々だが、共通するのは、ディケンズのクリスマス精神である。―G・シムノンの中編「メグレ警視のクリスマス」はじめ、珠玉の8編を収録! 内容紹介より



「聖夜の警官」トマス・L・アドコック
ニューヨークで浮浪者の姿になり、路上犯罪を取り締まる私服警官の話。彼はクリスマス・イヴにパトロール中、馴染みの引ったくりとスリに目を付けるが相次いで逃げられてしまう。この二人の小悪党と街の浮浪者たちが聖夜に企んだこととは……。恵まれない人びとのクリスマスを描いた作品。

「小列車強盗」パトリシア・モイーズ
おもちゃ売り場で偶然知り合いになり、それぞれクリスマス・プレゼントに蒸気機関車の模型を買った二人の男性。彼ら二人とも同じ日程でスイスへのスキー旅行の予定があり、しかも宿泊先も同じホテルだった。彼らの子どもたちはホテルでそれぞれの機関車で競争して遊び始める。そして、帰国し空港でも遊んでいると、子どもの一人が声を上げて言った「こいつ、ぼくのきしゃ、ぬすんだよ!」。クライマックスでの二回のひねり技が印象的な作品。

「刑事の休日」ジョン・ディクスン・カー
警視が、その婚約者とともに彼女の甥をデパートのサンタクロースに会わせるため、順番の列に並んでいる時に、彼が話して聞かせた犯罪者にまつわる不思議な出来事。それは、ふたりの人間が、まったく同時に、まったく違う場所で、警官の目の前から消えてしまった、という話だった。トリック自体はそれほどでもないけれど、なかなか洒落たプロット。

「ミス・クリンドルとサンタ」マルカム・グレイ
経済的に余裕のない村人数人に、飼っている七面鳥をプレゼントするように主張する妹、それに対してまったく聞く耳を持たない農場主である兄。そんな兄妹げんかが起きた後、村にサンタクロースの目撃情報が伝わり、七面鳥の贈り物が置かれた家庭があった。そして件の農場から四羽の七面鳥が盗まれていることが判明し、村の巡査がしぶしぶ捜査を始め、農場主の妹にも疑いがかかるのだが……。ほのぼの系の話。

「ランポールとクリスマスの精神」ジョン・モーティマー
少年が絡んだ殺人事件の訴訟について、このところ裁判で負けが込み、クリスマスを前に手心を加えてくれと個人的に頼む被告側弁護士とその相手である検察側弁護士との駆け引き。

「聖夜に死す」ジェイムズ・パウエル
「クリスマスの日が明けて最初の一時間のあいだ、人間の目にふれないところで、動物たちは言葉を話し、おもちゃたちには命がかよう」。百貨店のショーウィンドウにディスプレイされた人形やぬいぐるみ。そこで起きた殺人形事件の謎をクマのぬいぐるみとシャーロック・ホームズの人形が解決する愉快な話。

「シヴァーズ嬢の招待状」ピーター・ラムゼイ
クリスマスを前にした若い夫婦。彼らのもとに見知らぬ女性からイヴ前日の夕食会への招待状が届く。不思議に思いながら招待を受けた二人は目的地への列車に乗り込む。夫が席を外して妻ひとりになった時、彼らの客室に一人の若い男が入ってくる。やがてその男は妊娠している妻へのプレゼントを彼女に披露してみせる。さりげない伏線が見事な切ないゴーストストーリー。

「メグレ警視のクリスマス」ジョルジュ・シムノン
脚を骨折して自宅で療養中の七歳の女の子が、クリスマス・イヴの夜に目を覚ますと、部屋にサンタクロースがいて床でなにかをしていた。そして、サンタは女の子が目を覚ましたのに気付くと人形をくれた、と言い出した。その話を聴いて不審に思った女の子の隣人が、近所に住むメグレの元を訪ねて来る。些細な出来事が糸口になって秘められた事件が徐々に明らかになっていくという、この作者お得意のパターン。メグレの自宅が舞台になり、メグレ夫人の様子も詳しく描かれています。彼女の心情がやるせない。




クリスマスに捧げるミステリー (光文社文庫)クリスマスに捧げるミステリー (光文社文庫)
(1993/12)
ジョルジュ シムノンほか

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クリスマス・ファンタジー』風間賢二 編 ちくま文庫

2014-12-10

☆☆☆☆

メリークリスマス!子どもたちの心を躍らせるこのうれしい言葉の響きは遠い昔に生まれ、いつまでもそして宇宙の涯てまでも広がってゆく。クリスマスの物語はディケンズの『クリスマス・キャロル』以来、欧米の作家たちによって変わらず書き継がれてきた。その中からファンタジー、ホラー、SFと、ジャンルを問わずとっておきの12篇で編む文庫オリジナルの楽しいアンソロジー。 内容紹介より



「道」シーベリイ・クイン
幼子キリストの命を救った北欧出身のある傭兵が、キリストの予言通りにサンタ・クロースになるまでを描いた歴史ファンタジー。ヘロデ大王による幼児虐殺やゴルゴタの丘の磔刑の話を上手く絡ませていると思います。

「墓掘り男を盗み去った鬼どもの話」チャールズ・ディケンズ
終始気むずかしく憂うつな墓掘り男が、クリスマス・イヴの夜に墓掘りをしていて鬼たちにさらわれてしまう話。彼は鬼たちが見せる人びとの貧しくとも幸福な人生、豊かな自然にたいする喜びの光景によって生まれ変わるのですが……。『クリスマス・キャロル』と似たようなプロット。

「新クリスマス・キャロル」アーサー・マッケン
こちらはまさしく『クリスマス・キャロル』の後日談風な話。内容がどうこうより、オチがひどい。

「岸の彼方へ」A・ブラックウッド
家族へのクリスマス・プレゼントをかかえて帰宅した、平凡な男が体験する奇妙な話。クリスマス・ゴーストストーリー。

「クリスマス・プレゼント」ゴードン・R・ディクスン
シドーという沼地惑星に入植した家族の男の子が仲良くなったシドー人と迎えたクリスマスの出来事。男の子からもらったプレゼントのお返しにシドー人が贈ったものとは……。ちょっと切ない物語。

「ガニメデのクリスマス」アイザック・アシモフ
衛星ガニメデのガニメデ物産で、地球人と共に働くオストリ人にクリスマスの話をしてしまったことから起きた騒動。オストリ人たちはサンタ・クロースがプレゼントをくれなければ作業をボイコットすると言いだし、会社からノルマを課せられている地球人たちはしかたなしに橇やトナカイを現地調達するはめに。スラップスティック・コメディ。

「クリスマスの出会い」ローズマリー・ティンパリー
はじめてひとりでクリスマスを過ごす中年女性。下宿先で彼女がクリスマスの思い出に浸っていると
見知らぬ青年が部屋に入ってくる。彼は自分の部屋と間違えたと言い、しばらく会話を交わしていたがいつの間にかいなくなってしまう。残された彼女は部屋に備え付けられている一冊の本を手に取りページをめくると……。トリックアートを見たみたいな気持ちになる、時の錯綜あるいは時間旅行を描いた幻想的な作品。

「ジャックと火の国の王女」メアリ・ド・モーガン
火の国の王女と水の国の王子の仲を取り持った男の子の話。王女の求めで、男の子は風の妖精に乗って何でも知っているという北の翁に会いに行くというファンタジー。

「ハッピー・バースデイ、イエスさま」フレデリック・ポール
大手デパートの贈答課課長とそこに配属されたきたボルネオ帰りの伝道師一家の娘。近未来の設定をとり、宗教的儀式など忘れ去られ、クリスマスシーズンという名のプレゼント選びと注文が夏の季節から始まるという状況で、そんな物質主義と商業主義を極めた社会の一員である課長。これに対して、昔ながらの伝統的なクリスマスを過ごそうとする伝道師一家。この二つの間で起きる誤解や食い違いを描いたシニカルなラブ・コメディ。

「クリスマスの恋」フランク・R・ストックトン
由緒ある家柄の屋敷を買った男とクリスマス・イヴの夜に彼の前に現れた美しい女の幽霊。彼女はこの屋敷の若くして死んだ女主人だった。クリスマス・イヴの晩の一時間だけ大広間に現れるのを許されているのだという。男は彼女に一目惚れしてしまう。幽霊綺談。

「幸運の木立ち」H・ラッセル・ウェイクフィールド
広大な敷地内の一角にある、そこから木をとってはならないと言われている“聖なる場所”。クリスマスを前に、その言い伝えを知らずに屋敷の使用人がそこから樅の木を引き抜きクリスマス・ツリーに仕立ててしまう。それ以来ツリーをめぐる事故や奇妙な出来事が起きるようになる、というホラー。

「サーロウ氏のクリスマス・ストーリー」ジョン・ケンドリック・バングズ
雑誌の編集長からクリスマス・ストーリーを依頼された作家が、自分自身の幻影のせいでまったく執筆が進まず、苦しんでいる時に訪ねてきた彼のファンを名乗る男から渡された原稿を自分が書いた物だと偽って編集長に送った後の顛末。一連の出来事の言い訳で物語を仕上げたメタフィクション。




クリスマス・ファンタジー (ちくま文庫)クリスマス・ファンタジー (ちくま文庫)
(1992/12)
風間 賢二

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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『ネコ好きに捧げるミステリー』 ドロシー・L・セイヤーズ リリアン・ジャクソン・ブラウンほか 光文社文庫

2014-03-07

☆☆☆

―【猫】食肉目ネコ科の哺乳類。古代エジプトより家畜となり、神聖視される一方、魔性のものともされる。夜行性で音をたてずに歩き、感覚器官のひとつである長いひげをもつ。寿命は20年近くとされるが、最高寿命31年の記録もあり、愛玩動物中もっとも長命である。―愛すべきペットが魔性の化身か。ドロシー・L・セイヤーズ、リリアン・J・ブラウン、ヘンリー・スレッサーなど12人の大物作家が趣向を凝らして筆を競う、ネコ派人間必読の短編集! 内容紹介より



EQ編集部によるネコミステリーのベストセレクト12編。

「替え玉」パトリシア・モイーズ
資産家の娘と結婚した男が、妻を精神不安定にして、財産の乗っ取りを企む。まず彼は妻が旅行中に彼女が溺愛する飼い猫を入れ替える計画を立てる。かなり都合の良い流れが気になりました。

「猫の子」ヘンリー・スレッサー
『猫に関する恐怖小説』(徳間文庫)に「僕の父は猫」で収録されている作品。猫と人間の間に産まれた青年がアメリカからフィアンセを連れ帰り、彼女に父親を紹介するまでの話。微苦笑が浮かぶというやつか。

「灰色の猫」ジョイス・ハリントン
ある施設に入っている少女は常々施設の管理人の女から嫌がらせを受けていると思い込んでいた。可愛がっていた野良猫を女が殺したのではないかと疑った少女は復讐とこれまでの鬱憤を晴らすために管理人を殺そうとする。状況設定のミスリードが巧く、最後の仕掛けもなかなかのもの。

「ウェブスター物語」P・G・ウッドハウス
『猫文学大全』(河出文庫)に「ウェブスターの物語」として収録されている作品。疎遠になっていた牧師である叔父の依頼で、彼の飼い猫の面倒をみることになった画家の甥。教会で飼われていたため不道徳な行いや不謹慎な言葉使いを嫌う猫の影響を受けた甥は品行方正な人間に嫌々ながらなっていくのだが……。魔性を帯びた怪猫もあるものには弱いという話。

「猫で殺す」メアリ・リード
「だとすりゃ、猫を使って人をあの世へ送る方法つったら、剥製にしたやつで頭をぶんなぐるっての以外にゃないぜ!」。巧い殺人方法の話題で盛り上がっているパブに、常連客が箱に入った仔猫を連れてやってきた。その仔猫は階段から落ちて脚を怪我して動けない妻へのプレゼントだと言うのだが……。猫を使って妻を殺す方法。

「ラヴェラ―が行く」J・v・d・ウェテリンク
銅製品を蒐集していた夫人の所有する砲弾が爆発し、彼女と飼い猫が死んでしまう。虐げられていた夫が容疑者となるが、確たる証拠が上がらない。『不思議の国のアリス』が引用されるのだけど、全体にタガが外れた感じを受けるのはそのせいなのかも。それも意図してやっているのでしょうか。何だか話は拙い。

「八時三十分の幽霊」リリアン・ジャクソン・ブラウン
『猫は14の謎をもつ』 (ハヤカワ文庫HM)に「ススと八時半の幽霊」 として収録されている作品。
ある姉妹のアパートに越してきた車椅子に乗った風変わりな老人。猫の生まれ変わりだと言うその老人に姉妹の飼猫は非常に懐き、彼が訪ねてくると甘えていたが、彼がアパートからいなくなった後もある時間になると彼に甘える仕草をするのだった。

「彼はあたしのもの」ステラ・ホワイトロー
彼との相思相愛な関係に、ある日仔猫が割り込んで来て、その上、彼の婚約者まで現れてしまうという話。

「キプロス猫」ドロシー・L・セイヤーズ
猫嫌いだけれど猫には好かれる男、彼の親友とその妻の話。なぜ男は親友の妻を撃ち殺してしまったのか。

「猫の重罪」L・J・リトケ
猫に似た男と彼を子供の頃からいじめてきた同級生の正体。尻尾がある時点で猫そのものではないのか。そうとうバカバカしいお話でした。

「ネコにヴァイオリン」エドワード・D・ホック
クローズド・サークルとなった島で起きる、マザーグースの童謡になぞらえた連続殺人。いうまでもなくクリスティの作品をなぞらえたもの。この作家らしい出来上がりといえばそうですが、なにか残念。

「老友モリー」クラーク・ハワード
亡き妻が可愛がっていた猫が行方不明になってしまった年金暮らしの老人とその猫探しを手伝う街の不良グループのリーダーを描いた話。暗くて悲惨なストーリーですが、ハートウォーミングな読後感が残る佳作。




ネコ好きに捧げるミステリー―ベストセレクト12編 (光文社文庫)ネコ好きに捧げるミステリー―ベストセレクト12編 (光文社文庫)
(1990/11)
ドロシー・L・ セイヤーズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ハッカー/13の事件』 J・ダン&G・ドゾワ 編 扶桑社ミステリー

2012-12-15

☆☆☆☆

ハッカー ― コンピューターをはじめ、ありとあらゆる情報システムに侵入して改変をおこなうアウトローたち。だがかれらの行動は、単なる犯罪行為ばかりではない。それは、テクノロジーの新たな地平を目指す挑戦であり、自由をもとめる精神の戦いでもあるのだ……1980年代以降のカルチャー・シーンを大きく変貌させた、ウィリアム・ギブスンの歴史的名作を筆頭に、ポスト・サイバーパンク世代の新たな成果まで、名編集者コンビが厳選した最強のハッカー小説、全13編!新世紀のヴィジョンがここにある。〈解説・山岸真〉 内容紹介より



収録作品、「クローム襲撃」ウィリアム・ギブスン 「夜のスピリット」トム・マドックス 「血をわけた姉妹」グレッグ・イーガン 「ロック・オン」パット・ギャディガン 「免罪師の物語」ロバート・シルヴァーバーグ 「死ぬ権利」アレクサンダー・ジャブロコフ 「ドッグファイト」マイクル・スワンウィック&ウィリアム・ギブスン 「われらが神経チェルノブイリ」ブルース・スターリング 「マシン・セックス[序論]」キャンダス・ジェイン・ドーシイ 「マイクルとの対話」ダニエル・マーカス 「遺伝子戦争」ポール・J・マコーリイ 「スピュー」ニール・スティーヴンスン 「タンジェント」グレッグ・ベア

邦題からミステリ系の作品が多いのかなと思っていたら、ほとんどすべてSF作品でした。そのジャンルに非常に疎いわたしでも知っている大御所の作品が収録されていて興味深く読めました。

犯罪組織のコンピューターをハッキングして大金をかすめ取るハッカーと現代でいうところのネットアイドルになりたがっている娘を描いた「クローム襲撃」。
大手多国籍企業を辞め、独自に研究を始めるための資本提供先を探している研究者に、仲介役として接触していた夫婦。交渉中に何者かに襲われ、妻と研究者が誘拐されてしまう。多国籍企業の陰謀だと考えた夫は、旧知の凄腕のハッカーの元へ赴く。よくあるパターンの話の落とし方だった「夜のスピリット」。
先日読んだデイヴィッド・ベニオフの短編みたいに盲検法が話の鍵になっている、難病に罹った双子の姉妹についての物語「血をわけた姉妹」。

ロック(音楽)とSFまたはセックスとSFの組み合せは、作品として表現するには個人的に非常に相性が悪いと思うので、「ロック・オン」と「マシン・セックス[序論]」は読み辛く、その世界に入りにくかったです。それに比べて、異星人に支配された地球で、人間の身体に埋め込まれた生体コンピューターをハッキングする「免罪師の物語」はとても読みやすかったです。

自分にアルツハイマーの症状が現れ始めてきたことを知った男は、人工知能を持つコンピューターに、過去から現在までの自らについてあらゆることを語りかける「死ぬ権利」。
「ドッグファイト」は、複葉機を駆り、敵機を撃ち落とすバーチャル・ゲームに嵌り、手段を選ばず名人に挑む青年の話。勝負に勝った時、彼が得たものとは。
麻薬をつくる遺伝機構を直接人間のゲノムにつけるウェットウェアを発明した男とその転写酵素誘導体が犬をはじめとして他の動物に伝えられた後の顛末をコミカルに描いた「われらが神経チェルノブイリ」。
「マイクルとの対話」は、白血病によって息子を亡くした母親が、“ヴァーチャル・セッションルーム”で息子と対話し、心理治療を受ける話。
八歳の誕生日にプレゼントされたバイオキットで、アメーバをレトロウィルスによって形質転換させた少年が、遺伝子操作、遺伝子接合、体細胞形質転換を経て、自らをゲノム操作し直接光合成システムが開発されるまでになった世界に行き着くまでにたどった道をエピソード形式で描いた「遺伝子戦争」。
「スピュー」は、バーチャル空間でネット監視の仕事をする男の話か?よく理解できなかったのです。
「タンジェント」は、不思議な能力を持った少年が四次元の世界とそこの住人と接触する話。ブラッドベリの短編「もののかたち」を思い出しました。




ハッカー/13の事件 (扶桑社ミステリー)ハッカー/13の事件 (扶桑社ミステリー)
(2000/11)
J・ダン&G・ドゾワ編 ウィリアム・ギブスン 他

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『自由への一撃』 エド・ゴーマン編 扶桑社ミステリー

2012-11-13

☆☆☆

現代こそ、ミステリーの黄金時代である―作家として、アンソロジストとして、またミステリー専門誌の編集者として、八面六臂の活躍をつづけるエド・ゴーマンが、現代をリードする作家たちの代表作を厳選。マーガレット・ミラーの鬼気迫る心理小説をはじめ、都会の孤独をえぐりだすローレンス・ブロック、現代最先端の名探偵群像にいたるまで、読後に忘れられない印象を残す不朽の逸品ばかりを収録。評論家ジョン・L・ブリーンによる現代ミステリー概説を巻末に付し、すべてのファンに贈る、ベスト・アンソロジー! 内容紹介より 



「現代ミステリーの至宝 〔1〕」というサブタイトルが付いてます。

「谷の向こうの家」マーガレット・ミラー
人里から離れた場所に暮らす三人家族の家の近くに新しく隣人が越してきた。一家のひとり娘はやがて新しい隣人夫婦と仲良くなり、学校にも行かずに隣家に入り浸りになるが、それを知った娘の両親がその家に押しかけると……。
少女の空想力が彼女の身の回りに別の世界を作り上げてしまうというオカルト的な話。かなり印象的。

「ボディガードという仕事」ローレン・D・エスルマン
エルヴィス・プレスリーをモデルにしたかのようなロック・シンガーのボディガードを依頼された主人公は、別件の仕事を引き受けていたために知人の探偵を依頼人に紹介するのだが、その探偵が警護中にロック・シンガーを襲った暴漢に射殺されてしまう。主人公が事件を調べると、失踪していた元ボディガードが射殺体で発見されたことが明らかになる。厳しいエンタメ業界の話。なかなか。

「チーの呪術師」トニイ・ヒラーマン
ナヴァホ族警察のチー巡査長が邪悪な呪術師の出現の噂を調査中に出くわしたFBI捜査官と彼らが匿う、ギャングにまつわる裁判の検察側証人についての話。オカルトチックな雰囲気から現実的なオチで終わる作品。地味、もうひとつ。

「湖畔」ロバート・ブロック
給料強盗殺人犯と刑務所で同房になった男が、生前に強盗犯から聞き出した話をもとに、とうとう発見されなかった奪った金のありかを捜すために犯人の妻に近づき、一緒に見つけ出そうとするが……。サイコ風ではないけれど鼠が怖い話。まあまあ、ちょっと古めかしい。

「恐ろしい女」シャーリン・マクラム
四人の子供が殺された事件の共犯者として二十四年間刑に服していた女が秘密裏に釈放され、人知れず暮らし始めるが、それを知った女性記者がスクープをものにしようと女に近づき単独インタビューに成功する。原題の「A Predatory Woman」どおり人を喰いものにする恐ろしい女が描かれています。なかなか。

「ラッキー・ペニー」リンダ・バーンズ
私立探偵兼タクシー運転手の主人公がタクシー強盗の被害に遭うが、その犯人は売り上げ金のうち紙幣をゴミ箱に残し、小銭だけを持ち去ったことが後に判明する。折りしも警察は最近発生した強盗殺人事件の捜査で忙しく、主人公は自ら捜査を始める。なぜ犯人は小銭が必要だったのか。エドワード・D・ホック調のまあまあなミステリ。

「二度目のチャンス」エドワード・D・ホック
平凡な人生を生きるのに飽き飽きしていた女性が、自宅に忍び込んできた空き巣泥棒とコンビを組み、彼の仕事を手伝うことに。やがて彼女自身も犯罪に手を染め、コンビの犯行は次第にエスカレートしていくという、したたかな女を軽く描いたクライムストーリー。

「最後の儀式」リンダ・グラント
高齢者用療養施設に入所している伯母の依頼で、施設内で深夜に起きた不審死を調べる女探偵の話。彼女はスピーチクラスの教師と身分を偽って潜入調査を開始し、施設内のさまざまな問題や出来事、老人たちの現状を見聞きしていくとともに、将来、自分にも訪れる老いについて考えをめぐらせる羽目に。スピーチクラスで発表した老人たちの人生のエピソードが面白かったです。なかなか。

「自由への一撃」ローレンス・ブロック
銃を衝動買いしたニューヨークに住む男の話。最初は銃を手に入れたことに途方にくれていた男が、ベッドサイドにしまっていた銃に実弾を込め、やがて持ち歩くようになり、身の危険を感じたときには銃を見せつけ、とうとう自ら危険な場所にまで足を踏み入れて行くという心理の変化を綴り、近い将来、男に降りかかるであろうバッドエンドを予感させて終わる佳作。

「少年」ウェンディ・ホーンズビー
老判事引退の新聞記事に接した、少年時代の彼のかつての担任教師が昔目にした出来事を回想する。厳しい自然の中で農業を営む貧しい移民一家の母親と利発な息子、悲劇とか罪とかを超えたところにある何かが余韻の残る話。

「近くの酒場での事件」ビル・プロンジーニ
<名無しの探偵>が地元で起きた連続強盗事件について、とある酒場で聞き込んでいるまさにその最中に、一人の強盗が店に押し込んで来てしまう。店主によって射殺されてしまったその強盗が一連の事件の犯人かと思われたのだが……。そこそこ。

「道化師のブルーズ」マーシャ・マラー
フェスティヴァル会場で従兄弟同士である著名な道化師コンビの身辺警護を依頼された主人公は、突然行方不明になったコンビの片方を捜すうちに、身元不明の男性の刺殺体を発見してしまう。しかも、男は失踪した道化師の衣装を身にまとい、顔にはメイクまで施していた。残された従兄弟の一人とその妻、コンビのマネージャーが問題や秘密を抱えていることに主人公は気付くが……。
いかにも〈シャロン・マコーン シリーズ〉らしい作品。

「ゴースト・ステーション」 キャロリン・ヴィート 
アルコール中毒治療を受け、職場復帰した女性巡査部長は、「女の酔っ払い」を嫌う巡査とコンビを組むことになる。深夜、彼女たちは落書き防止のパトロールを行うため、地下鉄で目的地へ向かうが、途中で乗り合わせた酔っ払いの老浮浪者の身を案じて途中下車し、地下構内へと彼の行方を追う。それは子供時代の主人公を可愛がってくれていた、やはり酒で身を持ち崩し、路上死した彼女のおじさんの姿を浮浪者に重ね合わせたせいだった。浮浪者におじさんを、そして自分自身の姿を重ね、軽蔑、嫌悪、悲しみ、哀れみ、愛情というさまざまな感情があふれ出す主人公の心理描写が印象に残る佳作。




自由への一撃―現代ミステリーの至宝〈1〉 (扶桑社ミステリー)自由への一撃―現代ミステリーの至宝〈1〉 (扶桑社ミステリー)
(1997/06)
エド・ゴーマン、 他

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベルリン・ノワール』 テア・ドルンほか 扶桑社

2012-09-20

☆☆☆

ベルリンの闇を描く5偏の犯罪小説
長い歴史を持つ都市ベルリンは、1920年代に繁栄をきわめながらも、第二次世界大戦による徹底的な破壊と、冷戦による東西分断という、例のない苦難に見舞われた。そして、あの劇的な壁の崩壊から10年、いままたベルリンは、統一ドイツの新たな首都として生まれ変わろうとしている。だが、さまざまな人間が交錯する多元都市ベルリンには、もうひとつ、知られざる裏の顔が隠されているのだ……。本書は、ドイツ・ミステリー界注目の作家5人が競作した、野心的な犯罪小説集である。東西統一のひずみや貧富の格差、人種や移民問題など、現代ベルリンの真実を見据え、闇に渦巻く人間模様と犯罪の諸相を鋭くえぐり出す、本邦初のドイツ暗黒小説アンソロジー! 内容紹介より



テア・ドルンとハイナー・ラウ以外の三人は東側の出身だそうです。どの作品にも「Sバーン」と呼ばれる都市圏を走る鉄道やベルリン市内の駅名が登場しています。

「犬を連れたヴィーナス」テア・ドルン
SMパーティーの会場で鞭打たれていた犬を救い出し、自宅で飼っていた主人公は、散歩に連れ出したある日、カフェで目を離した隙に犬を見失しなってしまう。犬を探し求めるうちに、彼女は元の飼い主だと思われる毛皮を着た老婦人の元にたどり着くのだが……。
題名と毛皮という単語から、当然マゾッホの作品が頭に浮かぶわけで、つまりは犬は調教されたマゾヒストの置き換えであり、彼は新しい飼い主である主人公から受けた安逸な暮らしよりも元の刺激的な生活を選んだということなのでしょう。たぶん。

「ガードマンと娘」フランク・ゴイケ
駅の構内を巡回する中年の警備員がそこに住み込んだホームレスの娘と関係を持ったことをネタに、娘やその恋人に強請られるはめになり、それを清算するため殺人計画を立てるという話。
収録されている作品のなかで一番スタンダードな倒叙ミステリ型のクライムノベルでした。とても分かりやすいのは良いけれど、ラストには何らかのサプライズが欲しかったところです。

「廃墟のヘレン」ハイナー・ラウ
若くして裕福になった男が、かつて大学で教えを受けた哲学科の非常勤講師と電車に乗り合わせる。彼は男が学生時代に好意を寄せていた女性のあこがれの人物だった。しかし、今はすっかり落ちぶれた格好をしていた。実は、講師はその女性と付き合っていたのだが、彼女が早世したためにすっかり気落ちし学問の世界を離れ、夜間警備員として暮らしていたのだ。そして、二人の男たちが亡くなった女性そっくりの娼婦に偶然出会った時、彼らの運命が交わり悲劇を迎える、という話。

「ブランコ」ベアベル・バルケ
これまでずっと人種的な偏見や差別を受けてきた浮浪者ブランコ。彼がある家の婦人から着せられた社会主義人民警察の制服と拳銃を身に付けたまま電車に乗り込むと、乗客の酔っ払った少年グループに挑発され、また、彼らが一人の夫人をからかい始めたことが起爆剤となってブランコの中にあったものが弾け飛んでしまう。見せ掛けながらも、かつてブランコが手にしたことがなかった制服に象徴される権力、拳銃という力と鬱積した怒りや不満とが酒を触媒として融合し反応した結果、彼がとった暴走を描いた作品、だと思います。

「狂熱」カール・ヴィレ
大学図書館の学生補助員の女性、駅の夜間警備員の中年男性、反体制運動を続ける若者。おそらく三角関係にある、この三人の男女の話がそれぞれの視点から描かれているわけですが、なにやら夢うつつみたいな内容で、何が言いたいのかよく理解できませんでした。進歩的、保守的、急進的、三人三様の考え方と彼らの心に潜む「狂熱」がキーワードになっているのでしょうか。




ベルリン・ノワールベルリン・ノワール
(2000/03)
テア・ドルン、ハイナー・ラウ 他

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『地球の静止する日』 ブラッドベリ、スタージョン他 創元SF文庫

2012-04-05

☆☆☆☆

綺羅星のことき名作SF映画の数々の中から知られざる原作短編を精選した、日本独自編集によるアンソロジー。有数の名作として愛されている表題映画の原作に加え、ブラッドベリが近年公開した短編、スタージョンの手になる原作として伝説的に語られてきた中編など本邦初訳作を収録。また、やはり初訳のハインラインの中編には、著者自身が撮影の舞台裏を明かした顛末記を付した。 内容紹介より



収録作品
「趣味の問題」レイ・ブラッドベリ
「ロト」ウォード・ムーア
「殺人ブルドーザー」シオドア・スタージョン
「擬態」ドナルド・A・ウォルハイム
「主人への告別」ハリイ・ベイツ
「月世界征服」ロバート・A・ハインライン
「「月世界征服」撮影始末記」 ロバート・A・ハインライン

サブタイトル「SF映画原作傑作選」のとおり、映画の原作となった短中編作品を集めたものです。ただ、「「月世界征服」撮影始末記」は、メイキング秘話を綴ったものです。

「趣味の問題」
地球人の探検隊を乗せた宇宙船が降り立った惑星は平和で、住人たちも思慮深く、穏やかな気質なのだが、ただひとつ大きな問題があって、それは住人たちの外形が巨大な蜘蛛そっくりだったこと。根源的、生得的な好悪感情をテーマにした作品。個人的には、蜘蛛はまあ大丈夫だと思いますが、もしこれが蛇だったらわたしは無理です。

「ロト」
終末戦争下における、ある家族を描いた作品。危機的状況が迫りつつあるのに、近所付き合いや友達付き合いにこだわる、日常生活が抜けきらない妻、両親に対して傍若無人になりつつある長男、卑屈な次男、父親似の娘、すべてを計画、準備し、来るべき事態に備えて父親が取った行動とは……。

「殺人ブルドーザー」
金属を生命媒体とする電子生命が、ある孤島の工事現場のブルドーザーにとり憑き、作業員たちに襲いかかるというシンプルでストレートな話。ブルドーザーとショベルカーが闘うシーンは迫力があります。

「擬態」
スズメバチに擬態する蛾がいるように、もしかしたら恐竜時代にはティラノサウルス・レックスに酷似した草食恐竜がいたかもしれません。そしてまた、現在、動物界で最強の存在である人間に擬態しない動物がいないわけがない、というアイデアをもとにした作品。SFというよりトワイライト・ゾーン風な薄気味悪さを醸し出しています。

「主人への告別」
『地球の静止する日』 ハリー・ベイツ 他 角川文庫

「月世界征服」
映画のノヴェライズ作品。ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』を換骨奪胎したような作品で、『月世界旅行』においては人類は月面に立つことができなかったけれど、本作では着陸し、月面を探索しています。ただし、内容は燃料不足により地球に帰還できるかどうかがメインとなって進みます。登場人物たちの主な行動原理が対ソ連というところは、いかにも反共主義者と呼ばれた作者らしくて苦笑。




地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫)地球の静止する日―SF映画原作傑作選 (創元SF文庫)
(2006/03/23)
レイ ブラッドベリ、シオドア スタージョン 他

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『幻想と怪奇 ―宇宙怪獣現わる― 』 仁賀克雄 編 ハヤカワ文庫NV

2012-02-19

☆☆☆☆

ひとくちに恐怖といっても、その対象はさまざまである。超常現象への恐怖、殺人者への恐怖、死や病気への恐怖、未知の生物への恐怖、そして人の心への恐怖―実在しないはずの子供が恐怖をもたらす「ハリー」、不定型の怪物が襲いかかる「それ」、サイコ・スリラーの元祖的傑作「ルーシーがいるから」、さらにはホラー映画ネタ満載で爆笑させつつも恐ろしい表題作など、ホラー短篇の名作が勢揃いの11篇を収録〈全三巻〉 内容紹介より



屋根裏部屋に仕舞ってあったものみたいに、少し褪せて埃の匂いがするような、ノスタルジックな作品が多いような気がします。

「こおろぎ」リチャード・マシスン
こおろぎの鳴く音の暗号を解読した男と旅先で知り会った男女の話。西洋人って虫の音は騒音にしか聴こえないとか言われてますけれど、それ以上の意味付けをしたところがユニークなのでしょう。バッタは草食ですけれど、コオロギは雑食で肉も食べるから……。

「なんでも箱」ゼナ・ヘンダースン
『果しなき旅路』の作者。持ち主の少女にしか見えない《なんでも箱》。その箱には少女の叶った夢が詰まっていて、見ると幸せな気持ちになり、その中へ入って行きたくなるのです。《なんでも箱》を作り出さなくてはならないような、少女の不幸な家庭環境とその内での孤独が切ない。

「それ」シオドア・スタージョン
『千の脚を持つ男』にも収録されている作品です。ここに登場する怪物「それ」は、人間に敵意や悪意を抱いているわけではなく、幼児が虫の羽をむしり取ったり踏みつぶしたりするのと同じで、好奇心から人間をばらばらにしてしまいます。それがかえってじわじわと恐いのです。

「ルーシーがいるから」ロバート・ブロック
『殺しのグルメ』(ロバート・ブロック 徳間文庫)には、「ルーシーがいてくれると」
として収録されています。
これはサイコパスをテーマにした作品の模式標本みたいなものではないかと。それゆえ、今読むと早々にネタが分かってしまいます。

「その名は悪魔」ヘンリー・カットナー
どこからかやってきて、穴蔵に巣食い、子供たちからの供え物である生肉を食べる「悪魔」は、寄生する家族のなかに偽者の叔父を入り込ませますが、子供たち以外にはそれが偽者とは分からない。残酷を極めればキングの作品みたいになるかもしれませんけれど、それほどでもないので少々安心。

「埃まみれのゼブラ」クリフォード・D・シマック
偶然、異次元に住む者たちと物々交換を始め、彼らが送ってくる器械で金儲けを企んだ男たちの顛末。
星新一のショートショート「穴」に似ているような。

「トランク詰めの女」レイ・ブラッドベリ
個人的にブラッドベリはとても尊敬する作家です。しかし、この作品にある謎解き色が、ブラッドベリの作品が備える独特な雰囲気を薄めているように感じました。トランクに詰められた被害者を殺したのは誰なのか?死体発見者である少年以外の家族全員に動機付けをして容疑者にする流れがどうもあざとく思えました。

「裁きの庭」デイヴィッド・イーリイ
「裁きの庭」と名づけられ呪いがかけられた名画を不正な手段で手に入れた、金に困っている退役少佐の話。どこかで読んだような気がするから、同じようなストーリーがたくさん派生しているのでしょう。

「ハリー」ローズマリー・ティンバリー
この作者の代表作だそうで、「子供にだけは見える“お友だち”」をモチーフにした話。
養女にした女の子の過去を調べた母親が見つけた真実とは……。

「かたつむり」パトリシア・ハイスミス
伝説の巨大かたつむりを再発見し捕獲しようと無人島に渡った大学教授の話。
短編集『11の物語』で、初めて読んだときもなんだこれって思ったけど、今回読んでもなんだこれって思いました。そもそもどうして主題がかたつむりなのか、しかしまた、かたつむりだからどうでもいいような、議論をする気持ちも失せるような、ハイスミスさんだから許されているような、ハイスミスさんはこれを書いたことでかなり得してるような。

「宇宙怪獣現わる」レイ・ラッセル
全身に毛が生えてて、べたべたした液体が付いている怪物が女性を襲うという恐怖映画を、マリリン・モンローや合衆国大統領や元恋人や知り合いとかが周りに座っている映画館でパジャマのズボンだけを履き、ポップコーンを食べながら観ている男の話。

タグ:ホラー




幻想と怪奇 宇宙怪獣現わる (ハヤカワSF)幻想と怪奇 宇宙怪獣現わる (ハヤカワSF)
(2005/03/24)
仁賀 克雄

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『地球の静止する日』 ハリー・ベイツ 他 角川文庫

2012-02-09

☆☆☆☆

「上には上がいる」とよく言うが、地球上の生物のなかで頂点にいる ― と思い込んでいるだけかもしれない ― 人類。その人類のまえに、遠宇宙や異次元から、はるかに高い知能や文明を持つ種族が不意に出現したとき、何が起きるのか?かれらは人類に恩恵をもたらしてくれるのだろうか?(「地球の静止する日」) これまでに映像化された作品を集めた、SFスリラー傑作選。 内容紹介より



創元SF文庫からも同名の本が出版されています。でも、ベイツの短篇以外には収録作品に被りはありません。

「地球の静止する日」ハリー・ベイツ
空中タクシーや光線銃などが存在してて、現代よりも科学技術が発達している設定なのに、なんで銀塩カメラ使ってんの?とか、ハンディビデオカメラとかないのかよって突っ込みたくなるほどの漂うB級感が独特でした。ストーリー云々よりそっちのほうが気になりました。作品の肝であるラストの一言もそんな機械文明を風刺しているのでしょうか。


「デス・レース」イヴ・メルキオー
ピーター・へイニングが編んだアンソロジー『死のドライブ』(文春文庫)にも、「デス・レース二000」として収録されている作品。公道をレーシングコースにして、通行人をはねて死傷させたらポイントが与えられるという、とんでもないレースに参加したドライバーの話。『死のドライブ』を読んだときの記憶が残っているくらい、かなりインパクトがあるアイデアですけれど、主人公が人間性に目覚めてしまい陳腐な展開になってしまったのは残念。

「廃墟」リン・A・ヴェナブル
この作品は《トワイライト・ゾーン》に使われた原作だそうで、外部からの圧倒的に大きな力(この場合は最終戦争ですが)によって翻弄されるひとりの人間を描いていて、本好きの人間なら主人公が見舞われた悲運と彼の哀切が胸に迫ってくるでしょう。

「幻の砂丘」ロッド・サーリング&ウォルター・B・ギブスン
これも《トワイライトゾーン》絡みの作品だそうです。西部開拓時代、カリフォルニアへ向かう、食料も水も尽きそうな幌馬車隊の話。隊のリーダーが時空のゆがみで現代にタイムスリップしてしまい、高速道路端のカフェに辿り着き、そして彼が知る未来とは。ライフル銃が暴発し過ぎ。

「アンテオン遊星への道」ジェリイ・ソール
多数の移民を乗せて遊星へと向かう長期間の宇宙旅行、その期間、船内で何らかのトラブルが発生し、計画が失敗に終わる事例が続いたため、〈星間移民推進局〉はある監視役を同乗させることにした。そこでもやがて正体不明の人物が起こす犯罪が頻発するようになるが……。大山鳴動してっていう気もします。

「異星獣を追え!」クリフォード・D・シマック
不法に手に入れた凶暴な異星獣が逃げ出したため、事が大きくなるまえにそれを始末してしまおうという飼い主の話。いわば外来生物問題を先取りした作品かも。ただ、ひと捻りが加えてあって後味は苦め。
主題がぼやけてるような感じを受けました。

「見えざる敵」ジェリイ・ソール
探査目的で、ある惑星に降り立った宇宙船の乗組員全員が消息を絶った。原因を究明するため戦艦が派遣され、コンピューター専門の科学者も同行する。しかし、その一隊にも被害が出始める。姿を現わさず痕跡も残さない敵に襲われたらしいのだが……。敵の正体、そして軍人と科学者の反目みたいなものもテーマになっているようなのですが、科学者のキャラはもう少し強目でも良かったのでは。

「38世紀から来た兵士」ハーラン・エリスン
遠未来における残酷で悲惨な戦闘場面と絶望的な状況に陥った兵士たちの様子が見事に描かれた傑作。
尾之上浩司氏の解説によると、《アウター・リミッツ》の「38世紀から来た兵士」のもとになった作品で、1957年に雑誌に発表されたものだそうです。その頃はまだ冷戦時代のまっただ中なので、込められたメッセージは時代の影響も少なからず受けているのでしょうね。

「闘技場(アリーナ)」フレドリック・ブラウン
フレドリック・ブラウンの短編集『スポンサーから一言』(創元SF文庫)に収められているこの作品も印象に残っている名作で、人類とその戦争相手の異星人、この二つの勢力からピックアップされた者が、それぞれの星の命運を賭けて闘うというシンプルな話。相互を隔てるバリアーとそれを通過できるかどうか、というアイデアがとても上手いと思います。

タグ:SF




地球の静止する日 (角川文庫)地球の静止する日 (角川文庫)
(2008/11/22)
ハリー・ベイツ、他 他

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『冷たい方程式』 トム・ゴドウィン 他 ハヤカワ文庫SF

2012-02-07

☆☆☆☆

ただ一人の乗員を目的地まで届ける片道分の燃料しかない緊急発進艇に密航者がいたとしたら、パイロットの取るべき行動は一つ ― 船外遺棄!だがそれが美しい娘で、たった一人の兄に会いたさに密航したのだとしたら? SF史上に残る記念碑的名作「冷たい方程式」ほか、思うままに空を飛べるようになった大学教授の悲喜劇を巨匠アシモフがユーモラスに描く「信念」など、よりすぐった6中短篇を収録した待望の傑作集! 内容紹介より 



「接触汚染」キャサリン・マクレイン
「大いなる祖先」F・L・ウォーレス
「過去へ来た男」ポール・アンダースン
「祈り」アルフレッド・ベスター
「操作規則」ロバート・シェクリイ
「冷たい方程式」トム・ゴドウィン
「信念」アイザック・アシモフを収録。

サブタイトルは、SFマガジン・ベスト 1。
新版のほうではなく旧版の感想です。新版では「冷たい方程式」「信念」の二篇以外は別の作品が収録されているそうで、個人的に大好きな「徘徊許可証」も入っているみたいです。

さて本書では、作風が好きなのはトワイライト・ゾーン的な「祈り」、昔、文春文庫から出ていた『ミステリーゾーン』の何巻だったかにも超能力を持った子供が、気に食わない人物をどこかに転送してしまう話がありましたが、それと似ています。どうして超能力を持てるようになったかという説明をすっきり省いて、その能力を利用しようとする人物とその末路と、子供の意図しない残酷さを描いています。送られた先の虚無な空間を想像すると非常に怖いのです。そして、10世紀末あたりのアイスランド付近に飛ばされたアメリカ軍兵士の話、「過去へ来た男」を書いたポール・アンダースンといえば、ユーモアSFの“ホーカ・シリーズ”が思い浮かびますが、それと違って本作品はかなり悲劇的な物語でした。現代の文明的な考えや利器を携えた者が必ずしも過去の世界で上手くやって行ける訳ではない、という皮肉が込められているのでしょうか。宇宙に適応放散していった人類の祖先を探して、余計なことをやってしまった「大いなる祖先」は訳のせいかどうなのか読みにくかったです。ある星の探査にやってきた植民団が特異な疫病に感染してしまう「接触汚染」、突然、空中浮揚の能力を身に付けた大学教授が、そのことを頭がおかしくなった異常者だとか嘘つきだとかトリックだとかと周りに誤解されないように、いかに他人に納得させるかという方法論を(回りくどく)説いた「信念」、宇宙船の燃料を節約する目的で雇った、念動能力を持った乗組員への取り扱い説明の話「操作規則」、「冷たい方程式」は、意図せず過積載に陥った小型宇宙艇、その場合パイロットは該当する荷物をどのように取り扱えば良いのか、という将来宇宙宅急便屋さんを目指す人へ向けた心得。




冷たい方程式 (ハヤカワ文庫 SF 380 SFマガジン・ベスト 1)冷たい方程式 (ハヤカワ文庫 SF 380 SFマガジン・ベスト 1)
(1980/02)
トム・ゴドウィン

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新版はこちら、
冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)冷たい方程式 (ハヤカワ文庫SF)
(2011/11/10)
トム・ゴドウィン・他

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『淑やかな悪夢 英米女流怪談集』 シンシア・アスキス 他 創元推理文庫

2012-02-03

☆☆☆

神経の不調に悩む女にあてがわれた古い子供部屋。そこには、異様な模様の壁紙が貼られたいた……。“書かれるべきではなかった、読む者の正気を失わせる小説”と評された、狂気と超自然の間に滲み出る恐怖「黄色い壁紙」ほか、デモーニッシュな読後感に震撼すること必至の「宿無しサンディ」等、英米の淑女たちが練達の手で織りなす、本邦初訳の恐怖譚12篇を収めた一冊、文庫化。 内容紹介より



「追われる女」シンシア・アスキス
タイトル通りに無気味な男からストーカーまがいに追われる女性の話。
ある人物が登場したとたんに展開が読めてしまい、結末も何の捻りも意外性もなく終わってしまうという物足りなさ。

「空地」メアリ・E・ウィルキンズ・フリーマン
田舎町の旧家である一家に遺産が転がり込み、子供の教育や良縁を求め、都会の一等地の屋敷を格安の値段で購入し、引っ越してきたのは良いけれど、周りで怪奇現象が起き始めるという話。結局、一家の先祖が犯したらしい不行状が原因らしいということを示唆して終わりますが、その伏線が弱いためにインパクトがないです。

「告解室にて」アメリア・B・エドワーズ
ヨーロッパ旅行中にスイスのある田舎町を訪れた女性が、町の教会の告解室で目撃した牧師にまつわる話。嫉妬深い男と浮気癖のあるその妻、このふたりの身に起きた出来事に巻き込まれた牧師という構図。

「黄色い壁紙」シャーロット・パーキンズ・ギルマン
このアンソロジーの目玉作品。
もともとちょっとおかしいのに、この作品を読んで万が一さらにおかしくなったらどうしようかと心配しながら読んだんですけど、読む前にハードルを上げ過ぎたせいか、それほどでもなかったので良かった。想像力に乏しいため壁紙のイメージが湧かずに自分残念!ジワジワ来る怖さはあります。感受性の強い人や繊細な人はまた違った感想でしょう。

「名誉の幽霊」パメラ・ハンスフォード・ジョンソン
ある屋敷にでる姿は見せるが顔は見せない男の幽霊と泊まり客とのブラックユーモア・ホラー

「証拠の性質」メイ・シンクレア
亡くなった前妻の霊が、夫と後妻の営みの邪魔をするという、なんだか江戸落語にも同じような噺がありそうな、そこで落とすのかって言いたくなるような落としどころがエロチックな艶話。

「蛇岩」ディルク夫人
呪われた血が流れているとの理由で、母親に軟禁されている娘が、いわゆる白馬の王子様に命を救われ、
結婚し子供も授かり、末永く幸せに暮らしましたとさ、という物語の後日談。

「冷たい抱擁」メアリ・E・ブラッドン
永遠の愛を誓い合った若い男女の物語。心変わりしたことも知らず若者を待ち続ける娘、別の男との結婚を強いられて河に身を投げてしまいます。帰郷し娘の死を知った若者は、その地から逃げ出して放浪しますが、どこに行っても彼一人になると……。

「荒地道の事件」E&H・ヘロン
心霊探偵フラックスマン・ローが登場する話。彼が滞在する屋敷近くに出没する“地霊”が人間に危害を加えるというもの。この“地霊”という発想が西洋の怪談では目新しいような気がしました。

「故障」マージョリー・ボウエン
クリスマス・イヴに旧友を訪ねるため、目的地に列車で向かっていた主人公の男が、鉄道の故障のために途中下車し、真冬の夜、友人の家へ見知らぬ土地を歩いて行くはめに。歩き疲れた彼は、途中で見掛けた「願望荘」という宿屋に。そこには「イヴをこの宿で過ごすと、願いが叶う」との古い言い伝えがあり、主人公はある願いをかけます。彼の願掛けひとつに対して、二通りの結果が用意されているところが結構巧いと思いました。

「郊外の妖精物語」キャサリン・マンスフィールド
食べ物の話ばかりに夢中な両親を持つ、とても小さくてか弱い子供に降り掛かった、神隠しみたいな出来事。切なくて、非常に幻想的でもあり、おとぎ話のような物語。

「宿無しサンディ」リデル婦人
我が身を犠牲にするか、あるいは代わりの者を差し出すか、悪魔との取引を迫られる悪夢を見た牧師がとった選択とは……。どちらを選ぼうとも救済されないという状況への敬虔なクリスチャンの恐れは分かるものの、宿無しサンディという男の人物描写が大まか過ぎて、あれこれと余韻が残らないです。

タグ:ホラー




淑やかな悪夢 (創元推理文庫)淑やかな悪夢 (創元推理文庫)
(2006/08/30)
シンシア・アスキス他

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『千の脚を持つ男』 シオドア・スタージョン、アヴラム・デイヴィッドスン 他 創元推理文庫

2012-02-01

☆☆☆☆

自然のバランスがくずれ凶事が起こるとき、前凶として現れるのがモンスターである。丹念な筆に恐怖がつのりゆく田園の怪異譚(スタージョン)、スラム街のアパートの片隅に潜む怪奇(デイヴィットスン)、未確認海洋生物を追い求める遠洋船の話(コリア)、殺意を宿した美麗な自動車の狂走(ロバーツ)など、様々なタイプの怪物が登場する名作を精選。本邦初訳作5篇を含む全10篇。 内容紹介より



「沼の怪」ジョセフ・ペイン・ブレナン
「妖虫」デイヴィッド・H・ケラー
「アウター砂州に打ちあげられたもの」P・スカイラー・ミラー
「それ」シオドア・スタージョン
「千の脚を持つ男」フランク・ベルナップ・ロング
「アパートの住人」アヴラム・デイヴィッドスン
「船から落ちた男」ジョン・コリア
「獲物を求めて」R・チェットウィンド=ヘイズ
「お人好し」ジョン・ウィンダム
「スカーレット・レイディ」キース・ロバーツ、以上収録。

怪物ホラー傑作選のサブタイトルがついています。
中村融氏の編者あとがきによれば、本書の作品の掲載順は「アメリカ作家の作品を頭からならべ、大西洋を行き来して活躍したジョン・コリアの作品を橋わたしとして、イギリス作家の作品をならべている。両国のお国柄のちがいが浮き彫りになるように工夫した」(p370)のだそうです。すべての作品が古典的でベーシックなものであり、サイバーパンク系やスプラッター系の現代的な、ともすれば訳が分からないようなものは収録されていません。「沼の怪」「妖虫」「アウター砂州に打ちあげられたもの」「それ」、これらの作品は、未知なるものとの遭遇譚であって、出現する、襲う(被害に遭う)というパターンをとっています。だから続けて読むと、それ以上に話が派生していかないためにやや単調な印象を受けてしまいがちです。それ以降の作品からやや風味が変化してきて、「千の脚を持つ男」は、かつて天才ともてはやされた男が名声を取り戻すために、自らを実験台にしてしまう話で、人が変身してしまうパターン。「アパートの住人」は、グール(鬼)とそれを飼う老婆をハードボイルド風に描いたもの。「船から落ちた男」は、未知なるものそのものではなく、それを追い求める男を描いた作品。「獲物を求めて」は、ヴァンパイアものの変種。「お人好し」は、ひとりの婦人と蜘蛛が入れ替わる寓話みたいな感じの話。「スカーレット・レイディ」は、人を襲う“妖車”の話です。
怪物ホラーの入門書みたいな短編集でした。

タグ:ホラー




千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)
(2007/09/22)
中村 融

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

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