「殺しのグレイテスト・ヒッツ」ロバート・J・ランディージ 編 ハヤカワ文庫

2008-08-11

☆☆☆

【ころしや 殺し屋】主に金銭の報酬と引き換えに、他人の生命を奪うことを職業としている人—ミステリの世界では欠かすことの出来ない存在である殺し屋だが、彼ら彼女らが主役となることは滅多にない。いつの世にも殺し屋たちは脇役であり、敵役だった。だが本書では、殺し屋たちはその立場に甘んじてはいない。ここでは殺し屋が堂々の主役なのだ! アンソロジーの名手がオールスターキャストで送る、殺しの旋律15篇! 内容紹介より



ヘミングウェイでさえ「殺し屋」という作品を書いているくらいだから、ミステリに登場する機会は多いけれど、殺し屋が主役になっている作品はたしかに少ないですね。本書にも収録されているローレンス・ブロックの〈ケラー・シリーズ〉、フォーサイス『ジャッカルの日』、ノエル『長く孤独な狙撃』、ヒギンズ『死にゆく者への祈り』、イーヴリン・スミスの〈ミス・メルヴィル・シリーズ〉、ざっと思い付くのはこれくらい。本書の収録作品には頭抜けたものはないけれど、さすがにどれもレベルが高いと思います。タイトル『GREATEST HITS』の”Hits"を命中とかhit manに掛けたのはややオヤジギャグぽいです。

『殺し屋』に収録されている「ケラーのカルマ」
ケラーが犬を飼い始め、仕事で出張するためにペットシッターを雇ったころの話。あまり描かれない殺し屋の普通な日常とスリリングな仕事との対比が異様な雰囲気をかもし出す。

「隠れた条件」ジェイムズ・W・ホール
格安の値段のお得な殺し屋。でも殺すべき理由に納得がいかないと仕事はしないよ。殺し屋の職域を超えてます。孫ガキがギャーギャー騒ぎまわる住居環境と部屋の壁についた血や骨片。生活感ありすぎ。

「クォリーの運」マックス・アラン・コリンズ
リタイヤした殺し屋の回想。結局、懐古するところはそこなのかと突っ込みたい。

「怒りの帰郷」エド・ゴーマン
別れた息子の葬式に帰ってきた殺し屋の話。ウェット&クール。

「ミスディレクション」バーバラ・セラネラ
なかなか見られない女殺し屋の話。このトリックはありえない。

「スノウ、スノウ、スノウ」ジョン・ハーヴェイ
長編の冒頭を切り取ったみたいな作品。続きが読みたいものです。しかし、どうして強盗の犯行に見せかけないのでしょうね。

「おれの魂に」ロバート・J・ランディージ
雇い主から姿を消した元殺し屋と元警官の友情がなかなか良いです。腕の良い職人はどこも手放したくない。

「カルマはドグマを撃つ」ジェフ・アボット
ジョニーはドッグを轢く、マシーニはエームズを雇う、殺し屋は標的の意外な正体を知る。

「最高に秀逸な計略」リー・チャイルド
こんな小賢しいことをしていたら仕事の依頼が来なくなりそうですけど。

「ドクター・サリヴァンの図書室」クリスティーン・マシューズ
クレージーユーモア系でユニークな作品。このような作風は貴重だし、好みです。

「回顧展」ケヴィン・ウィグノール
一転してしみじみ系。ちょっと簡単に納得し過ぎる気もしますが。

「仕事に適った道具」マーカス・ペレグリマス
バイオレンス系。山口さんや住吉さんそれから稲川さん、適材適所という言葉を組長さんに教えるときはこれをテキストに使いましょう。

「売出中」ジェニー・サイラー
男女の違いと言いますか、考え思い込み過ぎる男と合理的現実的な女。要するにやるかやられるかというのをいまいち男というのは分かっていない。頭では分かっているけど。

「契約完了」ポール・ギーヨ
アイデアが変わっていてプロットも良くできている。

「章と節」ジェフリー・ディーヴァー
いかにもディーヴァ—らしい。このひと、こんなことばかり考えて頭疲れないんだろうか。長編むきな作家ですよね。




殺しのグレイテスト・ヒッツ―アメリカ探偵作家クラブ賞受賞 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 332-1))殺しのグレイテスト・ヒッツ―アメリカ探偵作家クラブ賞受賞 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 332-1))
(2007/01)
エド・ゴーマンロバート・J.ランディージ

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「ミス・メルヴィルの決闘」イーヴリン・スミス ハヤカワ文庫

2006-06-06

☆☆☆

ミス・メルヴィルは、政府の秘密機関で働くアンドリューから暗殺の仕事を依頼された。標的は血も涙もないと恐れられる独裁王国の王妃だという。一度は断ったミス・メルヴィルだが、王妃の意外な正体を知るにおよんで銃を手に取ることを決意。が、なんと相手の王妃も彼女の命を狙っていたのだ。刻々と対決の時は迫る!シリーズ最大の敵が登場する第四弾。               あらすじより



相変わらず怒りを押さえて上品ぶる態度が鼻に付きました。そんなに家政婦のミシェルが気に食わないなら、さっさと首にしてしまえ、と思いました。この作者は現実でも信頼できる人間が周りにいないのではないのか、と勘ぐってしまうほどミス・メルヴィルが好印象をもつ人物は登場しませんね。
結局、わたしは最後まで主人公メルヴィルとは相性が合わずじまいでしたが、シリーズの中では本作が一番単純で面白かったように思います。お互いの遺恨を晴らすために、有名高級デパートの中で中年女性が殺し合うなんてブラックジョークの世界ですね。深夜のデパートで延々と死闘を繰り広げてくれたらもっと良かったのに、あっけなく終わったのは残念。前作の『復讐』ではメルヴィルがファザコン気味なのが感じられましたけれど、今回の敵役ベリーへの恨みはエレクトラコンプレックスが変質した感情なのでしょうか…。

これがシリーズ最後なので、さらば、ミス・メルヴィル。
ミス・メルヴィルの決闘 ミス・メルヴィルの決闘
イーヴリン・E. スミス (2005/11)
早川書房

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「ミス・メルヴィルの復讐」イーヴリン・スミス ハヤカワ文庫

2006-05-24

☆☆

愛する父を殺した憎い仇がアメリカにやってくる。しかも相手は悪虐無道で知られる中米某国の独裁者。もちろんミス・メルヴィルが許すはずがない。彼女はさっそく復讐の計画を練りはじめた。しかし自宅の天井は水漏れするわ、義弟の妻は怪しげな新興宗教に凝るわで、私生活はトラブル続き……
お嬢さま育ちの元殺し屋が再び銃を手に悪を撃つ。
                  裏表紙あらすじより



ミス・メルヴィル・シリーズの三作目。
またメルヴィルかよ、となめていたら少しビックリしましたよ。ただし、トリックのみです。
外交官特権を笠に着て悪いことをする大使館職員をボランティア(いわゆる、私刑です)で暗殺しまくるミス・メルヴィル。

訳者あとがきで触れられているように、殺し屋稼業を辞めてしまった前作 の評判が悪かったので設定を若干元に戻したのでしょうね。それにしても、これだけ浅薄で深みに欠ける主人公は初めてです。家系を鼻にかけるわりには、旅行中の恋人の行状を怪しみ、それならわたしもと行きがかりみたいな浮気をするし、プライドが高い割に寛容の精神が欠けていて人種偏見がいっぱい、打算的な上に自分勝手な主人公の性格がどうも好きになれません。どこら辺が育ちの良さなのでしょうか?なんらストーリーに現れていないのですが…。

きっと作者はアメリカ・ライフル協会所属の超保守主義者で、キューバのカストロ将軍が憎くてたまらないのだろうな、と思いました。

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「帰ってきたミス・メル ヴィル」イーヴリン・E・スミス ハヤカワ文庫

2006-04-19

☆☆

ニューヨークの画廊でデビューしたての新進画家が麻薬の打ち過ぎで死んだ。警察は事故と断定したが、続いて画廊のオーナーが殺されて事件は思わぬ方向へ……。
殺し屋から足を洗って画家として名を成したのもつかの間、美術界の黒い陰謀に巻き込まれ、ミス・メル ヴィルは素人探偵に!
お嬢さま育ちの愛すべきオールド・ミスが活躍する人気シリーズ第二弾。
                  裏表紙あらすじより



主人公の枯れ具合が微妙。もう少し年寄りで可愛いおばあちゃんキャラに設定すればよかったのに。恋人もいるし、美術館館長にも心が動いたりして、まだまだ現役なところが微妙。まあ、いいんですけどね。それから訳の問題でしょうが、主人公の育ちの良さを意識するあまり、メル ヴィルの会話が堅すぎて直訳気味に感じます。

余計な描写、関係ない独白が多過ぎると思うのですが、例えば留守番電話(p274)や 地下鉄(p374)に対するメル ヴィルの意見など作者の考えなのか知らないけれど、いちいち登場人物を通して披露しなくてもいいではないのか。
場面転換が少なく、会話がだらだらと続くのも苦手です。

作者はシリーズ第一作目の『ミス・メル ヴィルの後悔』において、オールド・ミスの殺し屋というキャラクターで読者の興味を引き付けたかもしれないけれど、主人公が殺し屋を辞めてしまった本作ではより魅力的な人物造形に努めるべきでした。

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