『ビッグ・ヒート』ウィリアム・P・マッギヴァーン 創元推理文庫

2009-06-26

☆☆☆☆☆

フィラデルフィア市警の刑事がひとり、ピストル自殺を遂げた。一見、ありふれた事件。だが、警部補バニアンはなにかきな臭いものを感じ、積極的に調査を始める。そんな彼に、事件から手をひくようにとの命令が。やはりなにかある。やがて彼の妻が殺されるや、復讐の鬼と化したバニアンはバッジをかなぐり捨て、市政の腐敗に単身戦いを挑んで行った! 著者独壇場、警官ものの名作。 内容紹介より



社会派ハードボイルドものとして、すごく完成した作品だと思います。いたってストレートなテーマ、シンプルなストーリー、妙にひねっていない判りやすい主人公と敵役のキャラクター。これらの単純明快さゆえに懐かしさを感じさせはしますが、それを超えて不朽の名作として存在しているように思いますし、凝ったミステリー作品が多い現代ではかえって新鮮さを感じます。
憎しみの感情のみを心にいだき、殺してでも敵を討とうとする修羅の如き主人公の様子や復讐に凝り固まった心がしだいに変化して行く様が簡潔な文章で書かれています。特に、
実娘が匿われている妹夫婦の家での義弟とその元戦友たち、牧師、警視と主人公とのやり取りが、定番とは言え、彼の孤独感を鎮めると共に、ユーモラスでありながら腐敗した人間たちと対照的に描き出していて非常に良いです。そして、復讐の終りと同時に、彼の心から憎しみを捨てさせ、悲しみという人間らしい感情を取り戻させた街の顔役の愛人の身に起きた一連の出来ごとも哀れを誘ってとても深い印象を受けました。

マッギヴァーンの他作品
『1944年の戦士』



ビッグ・ヒート (創推理文庫 マ 2-4)ビッグ・ヒート (創元推理文庫 マ 2-4)
(1994/10)
ウィリアム P.マッギヴァーン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「1944年の戦士」ウイリアム・P・マッギヴァーン 早川書房

2008-04-12

☆☆☆☆

1944年12月クリスマス間近、米軍砲兵中隊第八砲兵班はベルギー東部の山岳地帯で中隊本部と連絡が取れず孤立していた。彼らは襲来したメッサーシュミット262型機(ジェット戦闘機)を撃墜したのだが、ドイツ軍のクリストローゼ作戦(バルジの戦い)が始まる中、機体の処理に派遣されたヤーゲル親衛隊中佐率いるティーゲル戦車が彼らの前に現れた。



昭和56年初版です。
作者がヒギンズだったら戦争ものは当たり前すぎて買わなかったと思いますが、マッギヴァーンが戦争ものを書いていたとは知らなかったので物珍しさから購入。
彼の従軍経験を元にして書かれているだけあってドキュメントっぽい。実際にアルデンヌで対空砲兵班班長として戦闘に加わっているそうです。まさに『バンド・オブ・ブラザーズ』の世界。

この作品は前半が兵士や村人たちの人間模様や戦闘を描き、後半は敵前逃亡の疑いが掛かった一兵士について書くという構成になっています。作者はエンターテインメント性をなるべく避けて、いわゆるヒューマンドラマを意図していると思うのですが、特に後半部分はなかなか見事に一個人を描いています。さらに、査問会に呼ばれたその兵士の上官ドッカー軍曹と軍上層部とのやり取りは個人対権力組織の構図に付随する得体の知れない無気味さを感じさせました。


1944年の戦士 (1981年)1944年の戦士 (1981年)
(1981/12)
ウィリアム・P.マッギヴァーン

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「眠れぬ夜の愉しみ アメリカ探偵作家クラブ傑作選(3)」ハロルド・Q・マスア編 ハヤカワ・ミステリ文庫

2007-04-15

☆☆☆

典型的な中産階級のジョンは、細君の悪徳のほとんどにがまんを重ねた。電気カミソリですね毛をそっても、彼の金を使い果たしても、彼女の振舞いが退屈きわまわりないものであっても、耐え忍んだ。ただひとつがまんならなかったのは、細君が豚さながらに肥満している事だった。そこへ、細身で美しいフランシスが現われたのだ。彼女と一緒になるには、なんとか細君を殺さなければならない……。皮肉で残酷な結末を迎える「ジョンとメアリー」を始め、重度の不眠症患者を自認する編者が、読者諸賢の眠れぬ夜のために選んだ、とびきり面白い15の短編。 内容紹介より



「ジョンとメアリー」ロバート・ブロック、「子供ごころ」ドロシイ・S・デイヴィス、
「運命の日」スタンリイ・エリン、「複式簿記」ロバート・L・フィッシュ、「オーデンダール」ジョー・ゴアズ、「ウォッチバードが見ている」アレン・キム・ラング、「シリーナ、ホワイト・ハウスで窃盗」パトリシア・マガー、「逃げた女」ロス・マクドナルド、「ウィリーおじさん」ウイリアム・P・マッギヴァーン、「黒い殺意」ウィリアム・F・ノーラン、「アヒルのかわりに」チャールズ・ノーマン、「物より心」エラリー・クイーン、「用心深い男」ローレンス・トリート、「女心」ヒラリイ・ウォー、「地獄へ堕ちろ」ドナルド・A・ウォルハイム

どうも、古本みしゅらんです。“とびきり面白い”は少し言い過ぎかもしれませんよ。
なかでも面白かった作品を挙げます。

「運命の日」
“私”が三十五年前に遭遇した友の運命の日の話。ある日、朝食の席で見た新聞にはやくざのボスが殺された記事が載っていた。車の中で射殺された死体とゴルフバッグの写真。被害者は“私”の子供時代の親友だった。“私”の記憶は三十五年前にさかのぼり、親友の人生を変えることになったゴルフ場でのやくざの暴力事件に思い及ぶ。
ちょっと強引な展開のような気もしますが、少年の心の劇的変化が象徴的に描かれていると思います。

「オーデンダール」
この手の短編集には珍しいアフリカが舞台の文芸色の強いサスペンス(?)。ゴアズらしい硬派な作品ですねえ、ハードボイルドしてます。ポール・ボウルズとヘミングウェイを足して二で割ったみたいな感じを受けました。ゴアズといえばサンフランシスコとかいかにもアメリカ的な場所を舞台にしそうなイメージだったので意外でした。

「シリーナ、ホワイト・ハウスで窃盗」
パット・マガーがこんなシリーズ・キャラクターを持っていたなんて!全然知らなかった。某国からアメリカ大統領夫人に贈られたオルゴールが殺人用の凶器に掏り替えられているらしいのだが、その確証が得られない。そこでシリーナ(素人女性探偵みたいなひと)の出番となる。ほかの作品も読んでみたいです。

「逃げた女」
「金曜の夜のことだった。ライト・ブルーのコンヴァーティブル、気分はダーク・ブルーで、メキシコ国境から帰途についていた」なんだかアイリッシュの作品を思わせる冒頭部分で一挙に昔懐かしいプライベート・ディテクティブ、プライベート・アイの世界に引き込まれます。キャディラック、ピアノマンのいるクラブ、支配人とギャング、オートマティック拳銃、歌手・悪女、後頭部への一撃、探偵小説においてお約束のエレメント一杯、ラストの余韻も素晴らしいぞ、ロス・マク。リュウ・アーチャーもの。


眠れぬ夜の愉しみ 眠れぬ夜の愉しみ
(1982/07)
早川書房

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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