『消え失せた密画』エーリヒ・ケストナー 創元推理文庫

2010-11-09

☆☆☆

とある事情で訪れたコペンハーゲンで、肉屋の親方オスカル・キュルツは美術品蒐集家の秘書イレーネ嬢と知り合う。高価な密画を携えるイレーネが新聞を賑わす骨董品盗難事件にドッキリ、一計を案じて協力を乞うや胸を叩いた親方は、他人を装って行を共にする。“白鬚ボス&心もとない三下”の盗賊団が虎視眈々、人品卑しからぬ挙動不審青年も接近し、密画の行方は神のみぞ知る……。 内容紹介より



『雪の中の三人男』や『一杯の珈琲から』ほどには楽しめなくて残念。大人が読むにはプロットが子供っぽすぎてるような気がしました。肉屋の小父さんを少年に代えて、ヤングアダルト作品にしたら良いような。こういう物語なら、青年より小父さんを主役にして活躍させないと面白くないです。青年が優秀すぎるし、悪党たちが間抜けすぎるうえに、展開が予測できてハラハラドキドキしないのですね。それから翻訳に違和感があって、たとえば肉屋の小父さんの話し言葉が田舎風と下町風が混ざったように訛っているのですけれど、それがなにか野暮った過ぎて馴染めませんでした。ベルリンといえば当時だって大都会だったろうし、もうちょっと何とかなりませんかね。
肉屋の小父さんは仕事中に、奥さんや家族に黙って失踪したみたいにコペンハーゲンにやって着たわけですが、後で家に電話をしてみると奥さんが泣き出してしまいます。「〈二十年前にこいつをやってりゃよかったんだ〉彼はこう思った。〈今じゃもう遅かった。今じゃもう、泣いたってなんにもならねえ〉」(p136)、電話を終えた後で小父さんは失踪したことをこう振り返って傍白します。本書の滑稽さや明るさのなかにあって、この台詞だけがいやにシリアスなので印象に残りました。

『雪の中の三人男』エーリヒ・ケストナー創元推理文庫




消え失せた密画 (創元推理文庫 508-1)消え失せた密画 (創元推理文庫 508-1)
(1970/02/13)
エーリヒ・ケストナー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「雪の中の三人男」エーリヒ・ケストナー創元推理文庫

2007-04-22

☆☆☆☆

百万長者の枢密顧問官トーブラー氏は、貧乏人に変装しておしのびでの旅行を始めることになった。グランドホテルではこのことを知ってかたずを呑んで待期していたが、とんでもない誤解からドンチャン騒ぎの大連続となった。貧乏人に変装した百万長者と百万長者に間違われた失業青年をめぐって、ホテルの従業員とお客の織りなす人生模様。ケストナーの魔法の鏡に映った、赤ん坊のような雪の中の三人男を描く快心の風刺ユーモア編。内容紹介より



ドイツ・オーストリア国境を挿んで一方ではお金持ち、片方では一文無しになってしまう青年や召し使いに変装してアメリカ人の旅行者一家を接待する伯爵家族が登場する『一杯の珈琲から』、双子が入れ替わる『ふたりのロッテ』、そしてこの作品と、ケストナーはこういうシチュエーションがお気に入りなのでしょうね。わたしも好きです。謎のお金持ちはマッサージやシャム猫が好きという情報を知ったホテル側が用意したそれらのものに、失業青年が困惑する様子が笑えました。また、下男ヨーハンはご主人に対して少々ウェットな態度ながら、メルローズ・プラントのリヴァンやピーター・ウィムジイ卿のバンター並の立派な執事ぶりも面白いです。

などと、現代ではあまり見かけない良質で上品なユーモア小説だと思います。しかし、ケストナーは執筆当時、ナチス・ドイツから厳しい弾圧を受けていたそうです。この後に書かれた『一杯の珈琲から』もユーモア小説ながら為替管理の制約のため主人公が置かれた状況に、カフカ的不条理の世界をかすかに感じるのはかなり深読み過ぎか。

雪の中の三人男 雪の中の三人男
エーリヒ・ケストナー (2000)
東京創元社

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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