『黒い氷』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫

2010-10-22

☆☆☆

傷を負ったのは、身体だけではない。心も深く傷ついていた……長い療養生活の後でようやく退したレベッカは弁護士を辞め、故郷のキールナへ戻った。乞われて地元の特別検事の職に就いた彼女が立ち直りはじめた矢先、凍結した湖で女性の惨殺死体が発見され、またも事件に関わることになる。被害者の身辺を調べると、複雑な背景が浮かび上がっていた ― スウェーデン推理作家アカデミー賞を連続受賞した注目作家の最新作 内容紹介より



シリーズ三作目です。しかし、事件とその原因となった出来事、事件関係者について考えてみると、ノン・シリーズにしたほうが良かったんじゃないのかと思いました。この作者の特徴である細かな背景描写、心象描写、回想場面の多用が、シリーズのヒロインより事件当事者三人プラス一人に用いられて全体の統一感が損なわれ、散漫な印象を与えているように感じました。特に、作品におけるエスターと彼女の役割はいったい何だったのでしょうか。前作での雌オオカミのシーンはまだヒロインのイメージと重ねあわせることができましたが、たとえばエスターはそのオオカミが人間として再来したポジションなのでしょうか。どうもオーサ・ラーソンというひとは、作品に北欧神話からくるスーパー・ナチュラル的な要素を持ち込みたがるような気がします。まあとにかく、レベッカは脇役も脇役なのだし、舞台をキールナにしなければならない必然性もないのだから、レベッカを外して登場人物を整理し、しかるべき人物たちにより焦点を集めるべきだったのではないのかと。

『オーロラの向こう側』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫
『赤い夏の日』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫




黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)
(2009/05/05)
オーサ・ラーソン

商品詳細を見る


テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『赤い夏の日』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫

2010-10-16

☆☆☆☆

悲惨な事件に巻込まれ、心に傷を負ったままのレベッカは、職務に復帰した法律事務所で空虚な日々を送っていた。そんな彼女が、上司の出張に同行して故郷のキールナへ戻ってきた。だがそこで待っていたのは、またしても殺人事件だった。教会の女性司祭が夏至の夜に惨殺されたのだ。ふとしたことから被害者の周囲の人々と関わることになったレベッカは否応なしに事件の渦中へ……『オーロラの向こう側』を凌ぐ最新傑作登場 内容紹介より



スウェーデン推理作家アカデミー賞受賞作。
前回の事件で心に負った後遺症のせいなのか、ヒロインが前作で見せたタフさが見られなかったのは惜しい。それが彼女らしい特徴だったはずですが、すっかり精神的にやつれてしまった感じで、やられっぱなしでした。しかも、昔からの知り合いや新しく友達になった人物との交わりで、彼女の傷が少しずつ癒えはじめるかに見えた頃に容赦なく悲惨な出来事が降り掛かってくるなんて。作者も巻末の謝辞のなかで、主人公の「レベッカ・マーティンソンは立ち直る。(中略)そして、私の物語の中では私が神だということをお忘れなく。」とフォローをしていますが、三作目の『黒い氷』では、果たして彼女は救済されるのでしょうか。
さて今回気付いたことは、三人称多視点において、一般的に章ごとに入れ替わる視点の移行が本書では章の途中からでも代わったり、挿入されたりするところです。これが登場人物たちの心理描写や感情の移り変わりを描く上で効果的に働いていると思いました。そして、それに続いて挿まれる過去のエピソードとも相まって、読んでいるうちに彼等の様々な心理、感情、胸中といった波に翻弄とまではないけれど、心持ちゆらゆらと揺らされているような気持ちになるのでした。

『オーロラの向こう側』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫




赤い夏の日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)赤い夏の日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/10/23)
オーサ・ラーソン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『オーロラの向こう側』オーサ・ラーソン ハヤカワ文庫

2010-02-13

☆☆☆☆

ひさしぶりに聞いた故郷の町の名は、首都で働く弁護士のレベッカにとって、凶事の前触れだった。北の町キールナの教会で若い説教師が惨殺されたのだ。そのニュースが流れるや、事件の発見者で被害者の姉のサンナから、レベッカに助けを求める連絡が入る。二人はかつては親友の仲であり、レベッカ自身もその教会とは深い因縁があった。多忙な弁護士業務を投げ捨てて、レベッカは北へと飛び立った……北欧発傑作サスペンス 内容紹介より



カバー写真がきれいなおねえさんとオーロラの夜景とのコラージュなので、一見すると例のロマンティック・サスペンスものみたいですが、実はかなり硬派なサスペンス・ミステリでした。主人公と被害者の姉、主人公の上司の三人が個性的です。特に、単なる嫌みな上司だと思っていたモーンスは、直接事件に関係するわけではないないけれど、いわゆる“ツンデレ”系の男性版みたいな滅多にない設定で、登場場面が短かかったにもかかわらず印象に残りました。主人公は、ものに動じない独立独行の女性で男に媚びないオーラが感じられ、クライマックスでの彼女が取った行動にはびっくりさせられましたが、物語を総括するように芯の強さが表れている場面だと思います。そして、かつて少女時代に親友だった経緯で、主人公が事件に巻き込まれ、振り回されるはめになった原因を作った人物である被害者の姉は、美人で、はかなげで気弱そうにしていながら、実は・・・みたいなことが明らかになっていて、この作家は人物描写にたけたひとだなあといった感想を持ちました。長い冬の間、厳寒のなか雪に囲まれる生活を送ると、人物考察や人間観察をする目が研ぎすまされるのでしょうかね。
ですから、トリックや犯人は誰なのかというミステリ部分よりも、人間ドラマに重きを置いた内容になっています。シリーズ化しているみたいで楽しみです。




オーロラの向こう側  (ハヤカワ・ミステリ文庫)オーロラの向こう側 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/08/08)
オーサ・ラーソン

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー キャロリン・G・ハート ジョージ・P・ペレケーノス ジョアン・フルーク ローラ・チャイルズ マイクル・クライトン ジョー・R・ランズデール ドン・ウィンズロウ ジェームズ・パターソン ジェイムズ・パタースン エド・マクベイン ジル・チャーチル C・J・ボックス ヘニング・マンケル ローレンス・ブロック ポーラ・ゴズリング リチャード・マシスン レジナルド・ヒル D・M・ディヴァイン ジャネット・イヴァノヴィッチ リリアン・J・ブラウン スチュアート・ウッズ ピーター・ラヴゼイ パーネル・ホール レックス・スタウト アリス・キンバリー S・J・ローザン ジョルジュ・シムノン ジョー・ゴアズ マーガレット・ミラー ウィリアム・カッツ クレオ・コイル カール・ハイアセン レスリー・メイヤー アイザック・アシモフ ヒラリー・ウォー エド・ゴーマン カーター・ディクスン マイケル・ボンド ルイーズ・ペニー マーシャ・マラー ジェフリー・ディーヴァー ジョン・ディクスン・カー リタ・メイ・ブラウン ジェームズ・ヤッフェ イーヴリン・スミス ジャック・カーリイ キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア コリン・ホルト・ソーヤー ローラ・リップマン フレッド・ヴァルガス ポール・ドハティー ロブ・ライアン ジェフ・アボット G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ドナ・アンドリューズ ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント