『青ひげの花嫁』カーター・ディクスン ハヤカワ文庫HM

2015-10-30

☆☆☆☆

牧師の娘、音楽家、占い師、そして四人目は……謎の男ビューリーと結婚した女たちが次々と消えた事件に、住民は“青ひげ”出現と震え上がった。しかもビューリーは警官の張り込みのなか、死体と共に忽然と姿を消したのだ。11年後、ある俳優のもとに何者かから脚本が送られてきた。それは、警察しか知りえないビューリー事件の詳細を記した殺人劇の台本だった!“現代の青ひげ”にH・M卿が挑む(『別れた妻たち』改題) 内容紹介より



特に前半部分のめりはりを付けた構成の妙味が、少々あざとさを感じさせながらもすごく巧いと思いました。謎の脚本を受け取った舞台俳優自身が殺人鬼なのではないかとほのめかしたり、11年前の事件を目撃した女性を怪しげに登場させたりして、サスペンス性やスリリングさを強調している一方、〈娯楽場〉でH・M卿が発端になった大騒ぎやホテルの部屋に出現した死体を始末する場面でドタバタ劇を演じてみせる。さらに、軍の元訓練施設におけるぶらさがった死体の傍らで行う密議の場面はグロテスクでありながらブラックな笑いを帯びています。こういう硬軟自在なテンポが目を引きました。ミステリそのものについては、気付かないほうがおかしい死体の隠し場所の件はご愛嬌ということにして、なぜ殺人鬼が目撃者の存在を知りえたのか、という謎に対する真相は単純ながらトリッキーだと思います。作者による、話の盛り上げ方、読者サービスのすごさというものを改めて感じさせられた作品でした。

タグ:カーター・ディクスン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『プレーグ・コートの殺人』 カーター・ディクスン ハヤカワ文庫HM

2013-02-11

プレーグ・コート ― 黒死病流行の時代に端を発する奇怪な呪詛に満ちたこの邸は、今や降霊術が行われる幽霊屋敷として知られていた。そしてその降霊会の夜、石室に籠った降霊術師は血の海に横たわり、無残な姿で発見された。完全な密室だった石室の周囲は、当夜の雨のため泥の海と化し、足跡さえも残っていなかった。しかも死体の傍らには狂気と思われる短剣が……初登場のH・M卿と奸智にたけた犯人の息づまる対決! 内容紹介より



☆☆☆☆

本書は、ヘンリー・メルヴェール卿を主人公とするシリーズの第一作目だそうです。
この作家の一連の作品に見られるオカルティズムと密室への傾倒ぶりと、彼が生み出したトリックは、現代のミステリ作品の中において、名指しされないまでも暗にからかいのネタみたいな形で触れられる傾向になっていますし、プロットから人物造形に至るまで大時代な感はやはり否めないものの、実際に読んでみて作品が持つ力強さを損なっていないところは改めて感心しました。
以前に読んだジョン・ディクスン・カー名義の、1946年に発表された『囁く影』の吸血鬼伝説及び密室トリックの変形である不可能犯罪と、1934年に発表された本書での黒死病と悪霊及び密室殺人のように、二作品の構成要素が非常に似ているのは作者の嗜好からすればあたりまえですけれど、『囁く影』がより動的に人物も活き活きと描かれている点を読み比べられて興味深かったです。それから古典においてある職業の人物が犯人に通じていたという設定は、これまで目にした覚えがなかったので意表を突かれました。

『九人と死で十人だ』カーター・ディクスン 国書刊行会
『時計の中の骸骨』カーター・ディクスン ハヤカワ文庫HM
『エレヴェーター殺人事件』ジョン・ロード/カーター・ディクスン ハヤカワ・ミステリ




プレーグ・コートの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-4)プレーグ・コートの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-4)
(1977/07)
カーター・ディクスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『九人と死で十人だ』 カーター・ディクスン 国書刊行会

2011-11-14

☆☆☆☆

第二次大戦中、ドイツ潜水艦の襲撃に脅えながらイギリスへ向かう商船エドワーディック号の船室で、出航以来、いわくありげな雰囲気をふりまいていた乗客の女性が喉を切り裂かれて殺されているのが発見された。現場に残されていた血染めの指紋は、調査の結果、船内の誰のものでもないことが判明する。乗客は全部で九人。はたして姿を見せない十番目の人物が存在するのか?この雲をつかむような不可思議な事件に、名探偵サー・ヘンリー・メリヴェールが見出した驚くべき真相とは?〈不可能犯罪の巨匠〉カーター・ディクスンが、戦時下のイギリスで書きあげたスリリングな傑作本格ミステリ。 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です!ご注意下さい。

航海中の船内という隔絶された場所、限られた少数の登場人物、高名な探偵とその助手役、そしてどう考えてもレッドへリングにしかとれない残された指紋、これらのいかにも本格推理小説らしい要素に加えて、戦時中の灯火管制下による闇夜、敵方のスパイが乗船している疑い、防毒マスクを被った怪しい人物、これらが一層サスペンス性を高めています。この作品が、やや設計図通りに人物が動き、物事が起りがちな一般的な本格ものと異なっているところは、犯人の目論みがある原因で当初の意図から外れてしまい、偶発的な状況を作り出してしまう展開になっていることです。たとえば、現場に残された指紋も単なるトリックの一つに過ぎないのでなくて、後に、二重三重の意味が付け加えられていたことがわかります。そういうところがストーリーの流動性を読後に感じさせ感心させられるというわけです。
その一方、人物造形については相変わらず一時代前の本格ものに出てくるパターン化したもので、賛否はあるもののキャラクター重視、人物像を書き込む傾向にある現代のミステリを読み付けていると、しかたないけれどそこらあたりは平板に感じました。とにかく読んで良かったと思える秀作です。

『時計の中の骸骨』カーター・ディクスン ハヤカワ文庫
『エレヴェーター殺人事件』ジョン・ロード/カーター・ディクスン ハヤカワ・ポケット・ミステリ




九人と死で十人だ 世界探偵小説全集(26)九人と死で十人だ 世界探偵小説全集(26)
(1999/12)
カーター・ディクスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『エレヴェーター殺人事件』ジョン・ロード/カーター・ディクスン ハヤカワ・ポケット・ミステリ

2009-05-07

☆☆☆

本格推理の巨頭二人がものにした密室ミステリの金字塔
自動エレヴェーターの唸るような低音にまじって、妙に虚ろな音が響き、やがてそれがはたと止んだ。銃声のようだった。グラス医師は玄関へと突進した。玄関番がエレヴェーターのドアをなかば引き開けていた。そこにはタラント出版社社長のアーネスト・タラント卿が身動きもせずにうずくまっていた。その両脚は硬直して投げ出され、上体は前かがみになって、その左胸、心臓の真上に真っ赤な血痕が拡がっていた……。密閉された鋼鉄のエレヴェーターの中で行われた完全殺人に、ロンドン警視庁にこの人ありと知られた名警部ホーンビームが挑む! 内容紹介より



思っちゃいけないんですけど、こういう本格推理小説の密室ものを読むとどうしても、何でもっと簡単な方法で通り魔殺人に見せ掛けて殺さないのかと思いますよね。本当にそれを言っちゃお終いなんですけど、思ってしまうものは思ってしまうんですっ。密室ものでもそこになにか不気味さや怪奇さみたいな雰囲気でもあれば楽しめるのでしょうけれども、この作品にはおどろおどろしいものがないんです。単なる理系ミステリになってしまっています。アイデアはすごいとはおもいますが、だから何?みたいな。生物学みたいに表せば、ミステリ科本格ミステリ属密室ミステリ種が進化の袋小路に入ってしまったのは、このような機械仕掛けの密室ミステリに依るところが大きい気がします。

個人的に可笑しかった箇所は、出版社の女性秘書がグラス医師に来客者の名前の記憶方法(名前から物を連想して覚える)を得意げに教えるのですが、眼鏡をかけているグラス医師の名前をグラス(眼鏡)で覚えていたのに、それがグリーンハウス(温室)からゴールドフィッシュ(金魚)へと変わってしまう場面です。こんなくすぐりが前半部分に三箇所ほどあったのに後半そんな場面が見られず残念でした。

『時計の中の骸骨』カーター・ディクスン ハヤカワ文庫



エレヴェーター殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ 390)エレヴェーター殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ 390)
(1984/02)
ジョン・ロードカーター・ディクスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『時計の中の骸骨』カーター・ディクスン ハヤカワ文庫

2008-11-28

☆☆☆

妙な動機から、振り子の替わりに医学用の骸骨の入った大時計をせり落としてしまったヘンリー・メルヴェール卿は途方に暮れた。だがその夜、その骸骨が何者かに盗まれてしまった。謎めいた旧家の当主の死、その傍らに建つ刑務所、古い絞首台の底で発見された惨殺死体……著者独特の怪奇趣味と豪放な探偵H・M卿の醸しだす純イギリス風ユーモアとのうちに、複雑怪奇な事件の謎は次第に大きなカタストロフィへと進んでいく! 内容紹介より



主に死刑囚専用だった廃止された刑務所での肝試し計画、三年越しの男女の運命的再会、メルヴェール卿と伯爵未亡人との矛と楯での対決、刑務所での一夜、伯爵未亡人の窃盗と追跡劇、二つの墜落事件と惨殺死体、巡回市と迷路における対決。怪奇、ロマンス、ユーモア、スリラー、スラップスティック、本格、サスペンスと内容満載のミステリでした。たとえトリックの部分が冴えなくても、これだけ様々な意匠で楽しませてもらえるなら満足です。しかも、それらの要素は統一感があって、目立ち過ぎて浮いてしまっている部分がありません。特にH・M卿と伯爵未亡人とのドタバタなやり取りと廃止された刑務所のシリアスな場面が好対照をなしていて、硬軟自在とでも言えば良いのか作者の才能に感心させられました。

時計の中でも戸棚の中でも骸骨を見たことはありませんが、松林の中でハシボソの骸骨を発見したことはあります。ちょっと自慢。


時計の中の骸骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-2)時計の中の骸骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-2)
(1976/10)
カーター・ディクスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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