「マルヴェッツィ館の殺人」ケイト・ロス 講談社文庫

2008-05-06

☆☆☆☆☆

イギリス貴族のジュリアン・ケストレルは、イタリア滞在中に親しくしてもらった侯爵の死をパリで知り、ミラノに赴く。愛憎うごめくマルヴェッツィ家で犯人を捜そうとするジュリアンの前に思わぬ結末が……。人気作家ロスの遺作にして、アガサ賞最優秀賞受賞作。華麗なる北イタリアが舞台のミステリー巨編! 下巻内容紹介より



ある事情により殺人事件であることを伏せられていた出来事が四年後に明らかになり、ケストレルの調査が始まるという設定が非常に巧妙。第1部を長いプロローグの形にして
国際、国内情勢、マルヴェッツィ家とその周囲の人間関係、謎の歌手など、読者に煩雑にならないよう分かりやすく説明しています。誰が真犯人なのか?それと歌手の正体は?ふたつの謎を提示して最後まで引っ張る手法が見事です。

ケストレルがすでに人格が完成した主人公として描かれていないのもこのシリーズの魅力であって、一種の成長小説ともとれます。
一作ごとに小出しにされる両親や生い立ちの話、徐々に明らかにされるケストレルの過去とそれに伴う負の部分。外面を飾るスーパーヒーロー的才能にかかわらず内包する心の中の脆さを描くことで彼を人間らしく見せて読者は魅了されるのでしょう。これから彼がどう成長し変わって行くのか、とても興味深いのに作者の死によってその後を読むことができないとは本当に残念な限りです。 

マルヴェッツィ館の殺人〈下〉 (講談社文庫)マルヴェッツィ館の殺人〈下〉 (講談社文庫)
(2000/07)
ケイト ロス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「フォークランド館の殺人」ケイト・ロス 講談社文庫

2008-04-14

Tag : ケイト・ロス

☆☆☆☆

十九世紀初頭のロンドン。夜会が開かれた貴族の館で当主の息子が殺された。召使い、妻、議員ら参会者の誰もが疑わしい。依頼を受けた社交界の伊達男ジュリアン・ケストレルが上流階級の隠微な扉を開くと、事件は思わぬ過去の惨劇へと繋がっていく……。傑作『ベルガード館の殺人』に続くアガサ賞受賞の探偵シリーズ第二弾。内容紹介より



マーサ・グライムズ、デボラ・クロンビー、エリザベス・ジョージ、そしてケイト・ロス。これらの優れたアメリカ人女性作家たちが創出したイギリス人の主人公たち、グライムズのジュリー警視とメルローズ・プラント(元伯爵)、ふたりを合わせたようなトマス・リンリー警部(伯爵)、ジェマに対しちょっと色ボケ気味ですがキンケイド警視、そしてケストレル。彼らには病人、年寄り、子供、動物への押し付けがましくない優しさと思いやりを持っているという共通点があり雰囲気もどことなく似ています。この傾向はもっと注目されても良いのではないでしょうか。彼女たちが好ましいと思う理想に近い男性像なのでしょうか。ああ、それに比べてアメリカ人男性作家らが描くアメリカ人主人公たちのなんと饒舌で精神的にマッチョなことか…。なんというこの乖離!
以下ネタばれです。









被害者の正体が徐々に暴かれてゆくにつれて、周囲の人物たちの真の姿も浮き彫りになって行く過程。仮面を付けて芝居をしていたのは被害者だけではなく、ケストレル自身もそうなのではと自問するし、ある人物からも指摘される場面。丁寧な書き込みと主人公の性格に深みを与える繊細な描き方。作者の才能をうかがわせる秀作だと思います。
ただ、ひとつ都合が良すぎるのは双子を二組登場させたこと。やはり不自然です。


『ベルガード館の殺人』ケイト・ロス


フォークランド館の殺人 (講談社文庫)フォークランド館の殺人 (講談社文庫)
(1998/10)
ケイト ロス

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「ベルガード館の殺人」ケイト・ロス 講談社文庫

2007-06-30

Tag : ケイト・ロス

☆☆☆☆

華やかなりし19世紀初頭の英国。体面と名誉を重んじる名門貴族の館で身元不明の若く美しい娘が殺された。否応なく事件に巻き込まれた社交界の伊達男ジュリアンは犯人探しにのりだす。上流社会に渦巻く複雑な人間関係と秘密の中でジュリアンの推理が犯人を追いつめる!正統派ミステリーの醍醐味溢れる傑作。 内容紹介より



家名とか身分とか、あるいは正義とか名誉とかが意味や意義を持っていた時代に物語を据えたミステリです。当然、現代では古風とも時代遅れともとれるテーマが犯罪の要因となってもおかしくないわけで、作家としては犯罪の動機付けの選択肢が増えることになるし、科学的な捜査方法を使えないためにおのずと探偵役の推理に重きを置ける状況を作り出すことができます。これらの点では、作者が19世紀に時代設定をとったことは良いアイデアだと思います。本格派古典ミステリファンやDNA鑑定、質量分析、プロファイリングとかに食傷気味な方にもお勧めです。

フォントクレア家の男性たちが、皆似たりよったりの性格描写しかされていないのに比べて(兄弟やその息子だから当然ではありますが)、女性たちが非常に上手く魅力的に描かれていると思いました。純粋な心を持つミス・クラドック、貞淑な妻ながらなにか妖艶な印象を与えるレディ・フォントクレア、激しやすいレディ・タールトン、表面の冷静さの下に秘めた強い意志を感じさせるミス・フォントクレア、さらに殺された娘。結局、これらの女性を描いた物語でした。
そして、もうひとりの女性、作者のケイト・ロスはジュリアン・ケストレル・シリーズなどを書いた後、41歳の若さで急逝しています。とても残念です。


ベルガード館の殺人 (講談社文庫)ベルガード館の殺人 (講談社文庫)
(1996/11)
ケイト ロス

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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