『まちがいだらけのハネムーン』 コニス・リトル 創元推理文庫
2011-09-23
出会ってたった五日で、中尉のイアンと結婚した看護師のミリエル。ハネムーンは、担当患者で、イアンのおじの邸宅に滞在することになった。だが、ふたりきりで過ごせるはずだった屋敷には、イアンの親戚一家が転がりこんでいた。癖のある人たちと生活する羽目になり、イアンの求婚に裏があることを知らされたうえ、リチャードが急死してしまい……。コミカル・ミステリの快作! 内容紹介より
以前にも書いたことがあるのですけれど、お屋敷を舞台にした定番の一時代前の推理小説において、執事をはじめとする使用人たちの事件にたいする被害者、加害者または捜査側として立場になっての関連度はかなり低く抑えてあることが一般的だったと思います。物語内においてさえも彼らは定められた仕事さえしておけば良いという作家の考えが伺えるような気がします。
それをふまえて、1944年に発表された本書を見てみると、お金持ちの屋敷内外で殺人が起き、犯行は内部の人間の仕業だと示唆されてお屋敷ミステリの体裁をとります。従来の流れではここで名探偵がさっそうと登場となるわけですが、この作品では探偵が執事に変装して雇われ、邸内の調査を始めます。探偵として優秀だか劣等なのかよく分からない、しかも家事全般に不慣れな彼が調査を行いながら右往左往しつつ、彼の正体を知るヒロインとその夫を巻き込んだドタバタ劇を繰り広げる、つまり探偵ながらも一応使用人がメインキャストを務めるという、お屋敷ミステリのパロディっぽい一面も持ち合わせている作品になっているのではないかと考えました。
一方、探偵の存在感と比較し、屋敷に住む「癖のある人」たちが、いわくありげでもないとサスペンスが盛り上がらないにもかかわらず、「いわく」の部分が弱いために存在感が希薄で、容疑者として頭数だけ揃えたみたいになっているのが残念なところでした。
『記憶をなくして汽車の旅』コニス・リトル 創元推理文庫
『夜ふかし屋敷のしのび足』コニス・リトル 創元推理文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『夜ふかし屋敷のしのび足』コニス・リトル 創元推理文庫
2009-07-18
ホテル暮らしをしているわたしに、友人のセルマが助けを求めてきた。離婚調停中の夫の手に、別の男性に出したラブレターが渡ってしまった。ついては偽メイドとして夫の屋敷にもぐりこみ、ラブレターを奪い返してきてほしいという。首尾よく屋敷にはいったはいいものの、慣れない家事や謎めいた住人に翻弄され続けるわたし。そのうえ殺人事件まで起きて……。コミカルなミステリ! 内容紹介より
クリスティの時代の英国ミステリだったら、一部例外はあってもほとんどが黒子であり透明人間みたいな存在のお屋敷の使用人*をヒロインにした話。しかし、彼女はプロのメイドじゃないという捻りがしてあるのがユニークなところです。他人の私生活を覗き見るということは大変興味が惹かれるもので、読者は掃除や料理の手伝いなどの仕事をすることなくそれができるのですから面白さも一層なわけでして。しかも、はすっぱで自己中心的な性格付けをされているのがこのヒロインが非常に愉快です。わがままですぐにさぼりたがり負けん気が強いなんて、普通なら若干ひいてしまうところですが読み進むうちに魅力的に思えてきました。ただこの話の難点は、終始一貫してキツイ性格一辺倒で変化に乏しいアランの人物描写とあまりにも○○な犯行動機だと思います。
それから、巻末の大津波悦子氏の解説についてなんですけれど、約3ページを使ってあらすじを書く必要性をまったく感じませんでした。
*これを逆手にとって使用人たちを主役にした短篇が「こぞって楽しいひととき」(ロバート・バーナード)(『クリスティーに捧げる殺人物語』ティム・ヒールド 編 ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫 収録)
『記憶をなくして汽車の旅』 コニス・リトル 創元推理文庫
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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
「記憶をなくして汽車の旅」 コニス・リトル 創元推理文庫
2008-09-18
目覚めると、わたしはオーストラリア横断鉄道の車中に。でも、自分の名前も何もかも思い出せない! 初対面のおじさん一家や自称婚約者の青年医師とメルボルンで合流するや、さらに奇怪な出来事が続発、とうとう殺人事件まで! 容疑をかけられたわたしは、終点バースに着くまでに記憶を取り戻し、犯人を突きとめることができるのか? サスペンスとユーモアあふれる鉄道ミステリ。 内容紹介より
『汽車旅は地球の果てへ』(文春文庫)でオーストラリア大陸横断鉄道の紀行文を書いている故・宮脇俊三さんが喜びそうなユーモア・トラベルミステリ。しかし、宮脇さんの紀行文とくらべると、列車の話題は軌間の不統一*くらいですし、乗客にまつわるエピソードも当然少なくて汽車旅についての面白さはほとんどありません。近頃の鉄道ファンをターゲットにして翻訳されたのでしょうか。ミステリ部分には期待しないから、もう少しユーモアで笑わせて欲しかったです。書かれてから六十年以上、当時は定番でアメリカ人に受けたであろう文中の笑いのツボ(オージーをからかうやり取り、おじさんの言葉の言い間違いなど)がちっとも笑えません。都会からやって来たアメリカ人女性が、イギリス風だがまだまだ未開でへんてこりんなオージーと呼ぶ田舎者がいるオーストラリアという大陸を行く、作者のテーマはきっとこれですね。
それから、いくらフィクションでも、記憶を無くした人間があまり不安を抱かずに旅を続けるというのはやはり不自然ですよね。TVの二時間サスペンスドラマなみの浅さとかゆるさを感じました。
*軌間の不統一は同じイギリス植民地のインドの鉄道においても。
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