『死の開幕』ジェフリー・ディーヴァー 講談社文庫

2016-06-21

☆☆☆

タイムズ・スクエアのポルノ映画館で爆破事件が起きた。近くで難を逃れた映像作家の卵、ルーンは、現場で上映されていた作品に出ている女優のドキュメンタリーを撮り始める。一方、イエスの剣と名乗るカルト集団から出された犯行声明は、次の爆破を示唆していた。逆転の名手が放つサスペンス・ミステリー。 内容紹介より



二十代前半の女性を主人公にしたルーン三部作の二番目の作品で発表されたのは1990年、日本で出版されたのは2006年です。本書のなによりの特徴は主人公に、警察官でも探偵でもない、今どきなノリの軽い気ままな二十代前半の女の子を据えたことでしょう。このキャストが新鮮に感じる一方、作品の構成上では弱点にもなるわけで、一般市民の犯罪捜査についてはずぶの素人を警察の捜査に加わらせることに作者もちょっと無理しているようにも思えました。犯行現場で刑事の背後に忍び寄って話を盗み聞きしたり、捜査官を騙って事件現場に入り込んだり、刑事のひとりと恋仲になったりするなど、コージー的ともいえる要素を持ち込んだりしていて、やや不自然な印象を受けました。しかも、そのラブロマンスの部分の筆さばきがぎこちない印象がする上に、正直面白みを感じません。一方、ミステリについては、捻りに捻るというパターンの兆しをすでに見せていて、ブレイク目前の作者の妙技で楽しませてくれます。

タグ:ジェフリー・ディーヴァー


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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『12番目のカード』ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

2015-06-16

☆☆☆☆

ハーレムの高校に通う十六歳の少女ジェニーヴァが博物館で調べものをしている最中、一人の男に襲われそうになるが、機転をきかせて難を逃れる。現場にはレイプのための道具のほかに、タロットカードが残されていた。単純な強姦未遂事件と思い捜査を始めたライムとサックスたちだったが、その後も執拗にジェニーヴァを付け狙う犯人をまえに、何か別の動機があることに気づく。それは米国憲法成立の根底を揺るがす百四十年前の陰謀に結びつくものだった。それにジェニーヴァの先祖である解放奴隷チャールズ・シングルトンが関与していたのだ……。“百四十年もの”の証拠物件を最先端の科学捜査技術を駆使して解明することができるのか?ライムの頭脳が時空を超える。 内容紹介より



リンカーン・ライムシリーズ第六弾、『石の猿』は未読です。久しぶりに読むはらはらどきどきの捻りの達人ディーヴァー作品。
以前、『魔術師』を読んだ際に予感した、あるいは危惧した、このシリーズに登場する悪人たちのモンスター化と、それにともなう主人公のスーパーヒーロー化の症状が進行することによる、作品自体のトンデモ本化の現象がなくて安心しました。今回、確かに犯人は悪知恵を働かせる感情を持たない人物なのですが、なぜ感情を失ってしまったのかという説明は結構納得がいくものがありますし、モンスターぶりも抑制が効いている印象でした。捜査陣の裏をかき続けようとするトリックも狡知、ただし犯人が残したメモ書きの文法間違いはちょっとやり過ぎのような感じがしました。また、被害者の少女と彼女の友達の造形はややステレオタイプかもしれません。
ディーヴァーの作品ですから、一筋縄ではいかないことは承知して心構えをしていたのですけれど、それでも作者が繰り出す幾度ものひねり、ミスリードするテクニック、意外性のあるアイデア、サービス精神は非常に見事だと思いました。やはり第一級のエンターティナーです。

『魔術師』
『クリスマス・プレゼント』




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クリスマス・プレゼント』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2008-12-18

☆☆☆

スーパーモデルが選んだ究極のストーカー撃退法、オタク少年の逆襲譚、未亡人と詐欺師の騙しあい、釣り好きのエリートの秘密の釣果、有閑マダム相手の精神分析医の野望など、ディーヴァー度が凝縮されたミステリ16作品。リンカーン・ライムとアメリア・サックスが登場する「クリスマス・プレゼント」は書き下ろし。 内容紹介より



この短編集は六月末に読んで感想はクリスマスシーズンにでも書こうと思っていたら当然内容のほとんどを忘れておりました。16作品中、ストーリーがおぼろげに記憶に残っているものは、「釣り日和」と「クリスマス・プレゼント」のみです。いくら娯楽小説といえども、この自分の脳のメモリ量の少なさとフォーマットの速さはさすがに情けないです。次から次にミステリ小説を読んでも端から忘れてしまうなんて記憶障害を負っているみたいで唖然とします。厳選した300冊くらいのミステリ作品を十年ほど繰り返し読んだほうが良いのではないだろうかと真剣に考えてしまいました。

まあ、しかし一方、記憶に残らない作品しか書けない作家も…以下略、と居直ってしまいますが、この作家は、ジェフリー・ディーヴァーとウィリアム・ジェフリーズの二つの顔を持っていて、当然ここに収められた諸作品の作風も〈リンカーン・ライム〉系と〈ジョン・ペラム〉系とに分けられると思います。前にも書きましたが、この人は長編向きですね。




クリスマス・プレゼント (文春文庫)クリスマス・プレゼント (文春文庫)
(2005/12)
ジェフリー ディーヴァー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「殺しのグレイテスト・ヒッツ」ロバート・J・ランディージ 編 ハヤカワ文庫

2008-08-11

☆☆☆

【ころしや 殺し屋】主に金銭の報酬と引き換えに、他人の生命を奪うことを職業としている人—ミステリの世界では欠かすことの出来ない存在である殺し屋だが、彼ら彼女らが主役となることは滅多にない。いつの世にも殺し屋たちは脇役であり、敵役だった。だが本書では、殺し屋たちはその立場に甘んじてはいない。ここでは殺し屋が堂々の主役なのだ! アンソロジーの名手がオールスターキャストで送る、殺しの旋律15篇! 内容紹介より



ヘミングウェイでさえ「殺し屋」という作品を書いているくらいだから、ミステリに登場する機会は多いけれど、殺し屋が主役になっている作品はたしかに少ないですね。本書にも収録されているローレンス・ブロックの〈ケラー・シリーズ〉、フォーサイス『ジャッカルの日』、ノエル『長く孤独な狙撃』、ヒギンズ『死にゆく者への祈り』、イーヴリン・スミスの〈ミス・メルヴィル・シリーズ〉、ざっと思い付くのはこれくらい。本書の収録作品には頭抜けたものはないけれど、さすがにどれもレベルが高いと思います。タイトル『GREATEST HITS』の”Hits"を命中とかhit manに掛けたのはややオヤジギャグぽいです。

『殺し屋』に収録されている「ケラーのカルマ」
ケラーが犬を飼い始め、仕事で出張するためにペットシッターを雇ったころの話。あまり描かれない殺し屋の普通な日常とスリリングな仕事との対比が異様な雰囲気をかもし出す。

「隠れた条件」ジェイムズ・W・ホール
格安の値段のお得な殺し屋。でも殺すべき理由に納得がいかないと仕事はしないよ。殺し屋の職域を超えてます。孫ガキがギャーギャー騒ぎまわる住居環境と部屋の壁についた血や骨片。生活感ありすぎ。

「クォリーの運」マックス・アラン・コリンズ
リタイヤした殺し屋の回想。結局、懐古するところはそこなのかと突っ込みたい。

「怒りの帰郷」エド・ゴーマン
別れた息子の葬式に帰ってきた殺し屋の話。ウェット&クール。

「ミスディレクション」バーバラ・セラネラ
なかなか見られない女殺し屋の話。このトリックはありえない。

「スノウ、スノウ、スノウ」ジョン・ハーヴェイ
長編の冒頭を切り取ったみたいな作品。続きが読みたいものです。しかし、どうして強盗の犯行に見せかけないのでしょうね。

「おれの魂に」ロバート・J・ランディージ
雇い主から姿を消した元殺し屋と元警官の友情がなかなか良いです。腕の良い職人はどこも手放したくない。

「カルマはドグマを撃つ」ジェフ・アボット
ジョニーはドッグを轢く、マシーニはエームズを雇う、殺し屋は標的の意外な正体を知る。

「最高に秀逸な計略」リー・チャイルド
こんな小賢しいことをしていたら仕事の依頼が来なくなりそうですけど。

「ドクター・サリヴァンの図書室」クリスティーン・マシューズ
クレージーユーモア系でユニークな作品。このような作風は貴重だし、好みです。

「回顧展」ケヴィン・ウィグノール
一転してしみじみ系。ちょっと簡単に納得し過ぎる気もしますが。

「仕事に適った道具」マーカス・ペレグリマス
バイオレンス系。山口さんや住吉さんそれから稲川さん、適材適所という言葉を組長さんに教えるときはこれをテキストに使いましょう。

「売出中」ジェニー・サイラー
男女の違いと言いますか、考え思い込み過ぎる男と合理的現実的な女。要するにやるかやられるかというのをいまいち男というのは分かっていない。頭では分かっているけど。

「契約完了」ポール・ギーヨ
アイデアが変わっていてプロットも良くできている。

「章と節」ジェフリー・ディーヴァー
いかにもディーヴァ—らしい。このひと、こんなことばかり考えて頭疲れないんだろうか。長編むきな作家ですよね。




殺しのグレイテスト・ヒッツ―アメリカ探偵作家クラブ賞受賞 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 332-1))殺しのグレイテスト・ヒッツ―アメリカ探偵作家クラブ賞受賞 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 332-1))
(2007/01)
エド・ゴーマンロバート・J.ランディージ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「魔術師」ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

2008-06-29

☆☆☆

ニューヨークの名門音楽学校で殺人事件が発生。犯人は人質を取ってリサイタルホールに立てこもる。駆けつけた警官隊が包囲し出入り口を封鎖するなか、ホールの中から銃声が聞こえてきた。ドアを破って踏み込む警官隊。だが、犯人の姿はない。人質もいない。ホールは空っぽだった……。衆人環視のなかで犯人が消えるという怪事件の発生に、科学捜査専門家リンカーン・ライムと鑑識課警官のアメリア・サックスは、犯人はマジックの修業経験があることを察知して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を要請する。奇術のタネを見破れば次の殺人を阻止できる。しかし、超一流イリュージョニストの“魔術師”は、早変わり、脱出劇などの手法を駆使して次々と恐ろしい殺人を重ねていく―。
内容紹介より



リンカーン・ライムがソーンダイク博士の系譜を引く探偵なのは間違いないでしょうが、一方、彼とその仲間たち(*1)が相手にする犯人たちはアメリカン・コミック(*2)に描かれる悪党たちの血を引いているのではないかと本書を読んで感じました。その悪党たちは、あちこちに罠を仕掛け、スルリスルリと正義のヒーローの手を逃れてしまう。たとえ死んでしまったかに見えても次回作では名を変え身を変えて復活し、犯罪の芸術家として再び悪事を働くのです。
作者がどんでん返しを繰り返すほど、回を重ねる毎に比例して彼らの不死身さは増していき、それにつれて当然主人公も能力をさらに高めるかあるいは味方の数を頼むようにならざるを得なくなります。つまり読者がこのシリーズに飽くなきエンドルフィンを求め作者がそれに応えようとすればするほど、この別名七転び八起きミステリ・シリーズはエスカレートし、「七」と「八」の数字が天文学的(!)に数を増していくことになるでしょう。たぶん、きっと、おそらく。

*1)たとえば『悪魔の涙』のパーカー・キンケイド
*2)スーパーマン、バットマンなど


魔術師 (イリュージョニスト)魔術師 (イリュージョニスト)
(2004/10/13)
ジェフリー・ディーヴァー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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