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『スキン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2022-11-10

☆☆☆☆

ジューヨークの地下で拉致された女性は毒の針で刺青を刻まれ、死亡していた。現場では、科学捜査の天才リンカーン・ライムが解決したボーン・コレクター事件に関する書籍の切れ端が発見された。殺人犯はあの連続殺人犯の手口とライムの捜査術に学び、犯行に及んでいるのか?現代最高のミステリー・シリーズを代表する傑作。 上巻内容紹介より



今回は、相変わらずのどんでん返しの連続に加えて、ボーン・コレクターやウォッチメイカーという本シリーズのなかでも稀代の犯罪者とその事件に触れるという試みがなされています。しかし、『ボーン・コレクター』や『ウォッチメイカー』を読んでいなくても、縦横に張り巡らされた伏線と幾度ものひねりにはディーヴァー初心者には相当の驚きを与えるでしょう。個人的には『ウォッチメイカー』が最高峰だと思いますが、本書はシリーズ集大成と言えるくらいの完成度を誇っていると思います。ただ、一連の事件の黒幕が判明した時に、なんだか興ざめした気持ちがしたのは、そこに力技とか強引さを感じたからかも知れません。その人物がいなくても充分成り立っていたものに、読者サービスなのかどうなのか、サプライズありきの余計な印象を受けたからかもしれません。
本シリーズの鉄壁のフォーマットを作り上げたディーヴァー工房の名職人ジェフリーさんは、これからマンネリを感じさせない作品を出していけるのでしょうか。

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『煽動者』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2022-08-06

☆☆☆☆

ボディランゲージから嘘を見抜く天才、キャサリン・ダンス捜査官。彼女が尋問の末に無実との太鼓判を押して釈放した男が麻薬組織の殺し屋だったと判明、責任を負って左遷されてしまう。だが左遷先で彼女は、満員のコンサート会場にパニックを引き起こして人々を殺傷した残忍な犯人に立ち向かうことに……。シリーズ第四作。 上巻内容紹介より



組織犯罪の関する捜査で、尋問した相手への判断を誤るという失態を犯した主人公は、民事部へ左遷されてしまいますが、そこでナイトクラブで発生した放火騒ぎによるパニックが原因の死傷事件の捜査を担当することになります。やがて講演会場でも同様のパニックによる事件が起きて……。物語は、組織犯罪の捜査と並行して、このパニックを引き起こす犯人を追求するという構成と、私生活では彼女の息子と娘それぞれに関する問題も合わせて進行していく、いわゆるモジュラー型みたいな形式をとっています。この公私における事件や出来事にどんでん返しを設けているアイデアが非常に秀逸で上手くはまっているように感じました。まるで気前の良い打ち上げ花火のようです。これぞディーヴァーの真骨頂と言えるでしょうし、たしかに鮮やかな手並みに二度読みしたくなるのも最もな作品だと思います。

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ゴースト・スナイパー』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2022-05-15

☆☆☆☆

バハマで反米活動家の男が殺害された。神業というべき超長距離狙撃による暗殺だった。直後、リンカーン・ライムのもとを地方検事補ローレルが訪ねてきた。その暗殺は米国政府諜報機関の仕業であり、しかもテロリストとして射殺された男は無実だったという―。非合法の暗殺事件を訴追すべく、ライムとサックスたちは捜査を開始する! 上巻内容紹介より



米国を狙ったテロ計画を企てた容疑をかけられていた反米活動家が、中米バハマで暗殺された事件が、リークされた内部文書によりアメリカ政府の諜報機関によって計画実施されたものと判明し、被害者が米国籍であったためニューヨーク州検事局がリンカーン・ライムらに捜査の協力を要請します。どんでん返しの連続で意表を突く展開が持ち味のこのシリーズですけれど、本書ではそのトリックもよりなめらかで巧緻になって技の冴えを見せているような感じがしました。事件の真相と真犯人でさえも二転三転させて読者を幻惑させる手法が事件を多面的なものにしている印象で、ラストでさらにその仕上げをしている職人技には感心するばかりです。主人公がバハマまで乗り込んで行くという行動も車椅子探偵らしからぬ展開が従来とは違ったアクセントになっています。

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スリーピング・ドール』ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

2021-07-19

☆☆☆☆

キャサリン・ダンス―カリフォルニア州捜査局捜査官。人間の所作や表情を読み解く「キネシクス」分析の天才。いかなる嘘も、彼女の眼を逃れることはできない。
ある一家を惨殺したカルト指導者ダニエル・ペルが、脱獄、逃走した!捜索チームの指揮をとるのはキャサリン・ダンス捜査官。だが、狡知な頭脳を持つペルは大胆に周到に裏をかき、捜査の手を逃れつづける。鍵を握るのは惨殺事件の唯一の生き残りの少女テレサ。事件について何か秘密を隠しているらしきテレサの心を開かせることができるのは、尋問の天才ダンスしかいない……。
ハイスピードで展開される逃亡と追跡。嘘を見破る達人ダンスvs他人をコントロールする天才ペルの頭脳戦。「言葉」を武器に悪と戦うキャサリン・ダンスの活躍を描くジェフリー・ディーヴァーの最新作。ドンデン返しの魔術師の超絶技巧がまたも冴えわたる。 内容紹介より



本書は、リンカーン・ライム・シリーズの派生作品にあたり、『ウォッチメイカー』で初登場したキャサリン・ダンスを主人公に据えた作品です。まず感じたことは、リンカーン・ライム・シリーズのこれまでの悪役たちと比べると、その悪党ぶり、モンスターぶりのスケールが小さく思えたことです。カルト指導者といっても、五、六人のグループを率いているに過ぎず、そこには宗教的または政治的な背景はありません。実際に起きたカルト系の事件と比較しても、かなり穏やかに感じてしまうほどです。冷酷無比、機械を思わせるような犯行の緻密さ、感情を持たないかのような冷血な、これまでの犯人像に対して、本書の犯人が人間らしく見えるのは、被尋問者の挙動や言動を分析して嘘を見破り、真相を探り出す専門家を主人公にしたために、犯人像は、当然人間味を持たせざるを得なかったのでしょう。その意図が作品の物足りなさに繋がる一方、リンカーン・ライム・シリーズとの差別化にもなっているのだと思います。不必要なものもあるけれど、ドンデン返しは相変わらず健在です。

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『ウォッチメイカー』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2021-04-29

☆☆☆☆

“ウォッチメイカー”と名乗る殺人者あらわる!手口は残忍で、いずれの現場にもアンティークの時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を10個買っていることが判明、被害者候補はあと8人いる―尋問の天才ダンスとともに、ライムはウォッチメイカー阻止に奔走する、2007年度のミステリ各賞を総なめにしたシリーズ第7弾。 上巻内容紹介より



わたしのあやふやな記憶に基づくと、このシリーズで今までに物語当初から犯人が明かされているという設定はなかったように思うのですけれど、やがて犯行動機もそうそうに明らかにされ、犯人と警察の二つの視点で話が進んでいき、別件の自殺に偽装した殺人事件の捜査も並行して続きます。だいたい物語の半分くらいで主たる事件は、ほぼ解決を見せたかと思わせて、意外な事実が明らかにされ、そこからまた事件全体は新しい側面を現してくる、という構成です。これまでのディーヴァーの二転三転の仕掛けがパワーアップして四転五転以上に仕込まれているところは、個人的にマンネリ気味に感じていた著者のパターンが本書でくつがえされて、かなりの衝撃を受けました。それから最後の引退した刑事との心をふれあわそうと会話する場面がこれまた、これまでにない余韻の残る良い終わり方だと思いました。本シリーズで一二を争う傑作なのではないでしょうか。

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『青い虚空』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2020-10-06

☆☆☆☆

護身術のHPを主宰するシリコン・ヴァレーの有名女性が惨殺死体で発見された。警察は周辺捜査からハッカーの犯行と断定。コンピュータ犯罪課のアンダーソン刑事は容疑者特定のため服役中の天才ハッカー、ジレットに協力を要請する―ゲーム感覚で難攻不落の対象のみを狙う連続殺人犯は何者か?息詰まるハッカー同士の一騎打ち! 内容紹介より



以下、ややネタバレしています。ご注意ください!

本書は2001年に発表された作品で、巻頭五ページにわたってコンピューターやネットスラングについての用語解説が付いています。過去に因縁を持つ天才ハッカー同士が現実社会とサイバースペースの両方を舞台に対決するという物語です。コンピューターを用いた連邦犯罪で服役中の主人公の一人であるジレットが捜査に協力し、コンピューター・ゲームを現実に置き換えて犯行を重ねる連続殺人犯を追うというもの。捜査関係者に内通者がいたり、早々にある重要人物が犠牲になったり、裏切り疑惑が持ち上がったりと、従来のディーヴァーらしい話の進め方をすると同時に、サイバー空間での騙し合いのテクニックも加わって新たな趣向を凝らしています。作中人物によるたびたびの用語解説の煩わしさもさほど感じず、その役割の一人だと思っていた人物がかなり意外な正体の持ち主だったことなど、相変わらず捻りは満載です。どんな題材もこなしてしまうテクニックはさすがですが、シリーズ物より出来栄えは一段落ちるような気もします。

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『石の猿』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2020-06-03

☆☆☆☆

中国の密輸船が沈没、10人の密航者がニューヨークへ上陸した。同船に乗り込んでいた国際手配中の犯罪組織の大物“ゴースト”は、自分の顔を知った密航者たちの抹殺を開始した。科学捜査の天才ライムが後を追うが、ゴーストの正体はまったく不明、逃げた密航者たちの居場所も不明だ―果たして冷血の殺戮は止められるのか。 上巻内容紹介より



このリンカーン・ライムシリーズに登場する主敵たちは冷酷で用意周到な天才的犯罪者、いわばスーパーモンスター化しているイメージが強いのですけれど、今回の敵はかなり人間臭い感じがしました。文化大革命で家族を喪ったという背景付もしてあり、計画通りの犯罪というより場当たり的な行動が目立ちます。これは犯人がホームタウンではなくてニューヨークという異国の地にいるために仕方のないことなのでしょうが、これまでの悪役たちに比べて迫力に欠け、やや小ぶりな印象が残りました。しかし一方、味方役の中国公安局の刑事の造形は、中国の伝統文化を絡ませてとても魅力的に描かれています。また密航者である政治犯の家族についても、同じく固有の文化に触れながら特徴的に描写してあり、全体のバランスは非常にとれている感じです。ただ二転三転どころか四転五転くらいするトリッキーな展開が、こちらが思っていたほどにはなかったのが意外でした。それからもうひと家族と密航船の船長が後半に話に何らかの役割を果たして来るのかと思っていました。

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『ブラディ・リバー・ブルース』ジェフリー・デーヴァー ハヤカワ文庫HM

2019-08-08

☆☆☆

急に開いた車のドアにぶつかり、ペラムは持っていたビールを落としてしまった。壜は壊れ、ビールは排水溝に。だがペラムの不幸はそれで終わりではなかった。ビールを台無しにした男たちが、その直後に組織犯罪告発の重要証人を射殺したのだ。ペラムは目撃者として、警察やFBIばかりか、殺し屋にも追われることになる。じつは何も目撃していないのに……映画ロケーション・スカウト、ジョン・ペラムを襲う最大の危機! 内容紹介より



本書は1993年に発表された「ジョン・ペラム」シリーズの第二作です。有名な映画賞の受賞経験もある元映画監督で、現在は日本でいうところのロケーション・ハンティングを生業としている主人公ですが、映画製作の夢を諦めていないという設定です。主人公がビールを買い出しに行った帰りに偶然に出くわした人物が、その直後、ある裁判の検察側の重要証人を射殺した事件の容疑者になったことから物語が始まります。殺し屋が降りてきた車に同乗していた殺しの依頼人とみられる人物の顔を主人公が目撃しているに違いないと決めつける警察にFBIも加わって証言するよう迫るうえに、さらに口止めを狙う殺し屋の影も……。犯人たちによって脅されたか金を貰ったかして口をつぐんでいると思い込んだ警察やFBIから嫌がらせを受けますが、しかし主人公は実際に何も見ていなかったのです。まず、映画ロケーション・スカウトという仕事内容が目新しくて興味深く、また映画製作の現場の様子も面白く読めました。捜査機関による理不尽な仕打ちを受ける主人公のほかに、殺し屋コンビと依頼人や事件の巻き添えになって負傷した警官などの様々な視点から描かれるお決まりのサスペンスです。相次ぐどんでん返しみたいな話も良いのですけれど、たまにはこういう物語も肩が凝らずに楽しめます。

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『獣たちの庭園』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2019-01-11

☆☆☆☆

1936年、オリンピック開催に沸くベルリン。アメリカ選手団に混じって、ナチス高官暗殺の使命を帯びた一人の殺し屋がニューヨークから潜入するが、現地工作員と落ち合う際に誤って人を殺し、警察に追われる身となる。暗殺を果たし、無事に国外逃亡できるか……。「どんでん返し職人」ディーヴァーが初めて挑んだ歴史サスペンス。 内容紹介より



物語は、主に1936年7月24日から27日にかけての出来事が約650ページに渡って描かれています。ニューヨークにおいて暗黒街の殺しを請け負っていた殺し屋が、新しい人生と大金を条件にナチスの重要人物の暗殺を引き受けてベルリンへと渡ります。すでにドイツは戦争の準備を急いでおり、国内は親衛隊や突撃隊が幅を利かし、秘密警察による国民への監視や密告が厳しい状況にあります。主人公はベルリン・オリンピックに参加する選手団や記者たちに紛れ込んで入国します。ここで非常に気になるのは、主人公は殺しのプロではあっても、秘密工作員としてはまったくの素人であることです。案の定、彼は正義感から見知らぬ人間を助けてしまい窮地に陥ってしまいます。本書の主人公に見られるこういう行動パターンは、ハリウッド映画系のヒーロー像であることで、良くも悪くも単純で青臭いアメリカ的正義感が根底にあるように感じます。恐らくアマチュアを主人公にした英国伝統的冒険小説ならば、主人公は当意即妙の言動、いわゆる頭を使うことによって相手も自身も危機を脱する方法をとるでしょう。作者が主人公をプロでもアマでもないセミプロに設定した理由は判りやすいアメリカ人気質にあるのではないでしょうか。冒険小説になると、従来のディーヴァーの巧さが発揮できていない気がしましたし、ナチス体制下の息苦しく重苦しい雰囲気は感じますが、オリンピックにまつわるエピソードに乏しく、ジェシー・オーエンス選手が添え物程度に登場するだけなのはちょっと残念でした。

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死の開幕』ジェフリー・ディーヴァー 講談社文庫

2016-06-21

☆☆☆

タイムズ・スクエアのポルノ映画館で爆破事件が起きた。近くで難を逃れた映像作家の卵、ルーンは、現場で上映されていた作品に出ている女優のドキュメンタリーを撮り始める。一方、イエスの剣と名乗るカルト集団から出された犯行声明は、次の爆破を示唆していた。逆転の名手が放つサスペンス・ミステリー。 内容紹介より



二十代前半の女性を主人公にしたルーン三部作の二番目の作品で発表されたのは1990年、日本で出版されたのは2006年です。本書のなによりの特徴は主人公に、警察官でも探偵でもない、今どきなノリの軽い気ままな二十代前半の女の子を据えたことでしょう。このキャストが新鮮に感じる一方、作品の構成上では弱点にもなるわけで、一般市民の犯罪捜査についてはずぶの素人を警察の捜査に加わらせることに作者もちょっと無理しているようにも思えました。犯行現場で刑事の背後に忍び寄って話を盗み聞きしたり、捜査官を騙って事件現場に入り込んだり、刑事のひとりと恋仲になったりするなど、コージー的ともいえる要素を持ち込んだりしていて、やや不自然な印象を受けました。しかも、そのラブロマンスの部分の筆さばきがぎこちない印象がする上に、正直面白みを感じません。一方、ミステリについては、捻りに捻るというパターンの兆しをすでに見せていて、ブレイク目前の作者の妙技で楽しませてくれます。

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『12番目のカード』ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

2015-06-16

☆☆☆☆

ハーレムの高校に通う十六歳の少女ジェニーヴァが博物館で調べものをしている最中、一人の男に襲われそうになるが、機転をきかせて難を逃れる。現場にはレイプのための道具のほかに、タロットカードが残されていた。単純な強姦未遂事件と思い捜査を始めたライムとサックスたちだったが、その後も執拗にジェニーヴァを付け狙う犯人をまえに、何か別の動機があることに気づく。それは米国憲法成立の根底を揺るがす百四十年前の陰謀に結びつくものだった。それにジェニーヴァの先祖である解放奴隷チャールズ・シングルトンが関与していたのだ……。“百四十年もの”の証拠物件を最先端の科学捜査技術を駆使して解明することができるのか?ライムの頭脳が時空を超える。 内容紹介より



リンカーン・ライムシリーズ第六弾、『石の猿』は未読です。久しぶりに読むはらはらどきどきの捻りの達人ディーヴァー作品。
以前、『魔術師』を読んだ際に予感した、あるいは危惧した、このシリーズに登場する悪人たちのモンスター化と、それにともなう主人公のスーパーヒーロー化の症状が進行することによる、作品自体のトンデモ本化の現象がなくて安心しました。今回、確かに犯人は悪知恵を働かせる感情を持たない人物なのですが、なぜ感情を失ってしまったのかという説明は結構納得がいくものがありますし、モンスターぶりも抑制が効いている印象でした。捜査陣の裏をかき続けようとするトリックも狡知、ただし犯人が残したメモ書きの文法間違いはちょっとやり過ぎのような感じがしました。また、被害者の少女と彼女の友達の造形はややステレオタイプかもしれません。
ディーヴァーの作品ですから、一筋縄ではいかないことは承知して心構えをしていたのですけれど、それでも作者が繰り出す幾度ものひねり、ミスリードするテクニック、意外性のあるアイデア、サービス精神は非常に見事だと思いました。やはり第一級のエンターティナーです。

『魔術師』
『クリスマス・プレゼント』




テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クリスマス・プレゼント』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2008-12-18

☆☆☆

スーパーモデルが選んだ究極のストーカー撃退法、オタク少年の逆襲譚、未亡人と詐欺師の騙しあい、釣り好きのエリートの秘密の釣果、有閑マダム相手の精神分析医の野望など、ディーヴァー度が凝縮されたミステリ16作品。リンカーン・ライムとアメリア・サックスが登場する「クリスマス・プレゼント」は書き下ろし。 内容紹介より



この短編集は六月末に読んで感想はクリスマスシーズンにでも書こうと思っていたら当然内容のほとんどを忘れておりました。16作品中、ストーリーがおぼろげに記憶に残っているものは、「釣り日和」と「クリスマス・プレゼント」のみです。いくら娯楽小説といえども、この自分の脳のメモリ量の少なさとフォーマットの速さはさすがに情けないです。次から次にミステリ小説を読んでも端から忘れてしまうなんて記憶障害を負っているみたいで唖然とします。厳選した300冊くらいのミステリ作品を十年ほど繰り返し読んだほうが良いのではないだろうかと真剣に考えてしまいました。

まあ、しかし一方、記憶に残らない作品しか書けない作家も…以下略、と居直ってしまいますが、この作家は、ジェフリー・ディーヴァーとウィリアム・ジェフリーズの二つの顔を持っていて、当然ここに収められた諸作品の作風も〈リンカーン・ライム〉系と〈ジョン・ペラム〉系とに分けられると思います。前にも書きましたが、この人は長編向きですね。




クリスマス・プレゼント (文春文庫)クリスマス・プレゼント (文春文庫)
(2005/12)
ジェフリー ディーヴァー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「殺しのグレイテスト・ヒッツ」ロバート・J・ランディージ 編 ハヤカワ文庫

2008-08-11

☆☆☆

【ころしや 殺し屋】主に金銭の報酬と引き換えに、他人の生命を奪うことを職業としている人—ミステリの世界では欠かすことの出来ない存在である殺し屋だが、彼ら彼女らが主役となることは滅多にない。いつの世にも殺し屋たちは脇役であり、敵役だった。だが本書では、殺し屋たちはその立場に甘んじてはいない。ここでは殺し屋が堂々の主役なのだ! アンソロジーの名手がオールスターキャストで送る、殺しの旋律15篇! 内容紹介より



ヘミングウェイでさえ「殺し屋」という作品を書いているくらいだから、ミステリに登場する機会は多いけれど、殺し屋が主役になっている作品はたしかに少ないですね。本書にも収録されているローレンス・ブロックの〈ケラー・シリーズ〉、フォーサイス『ジャッカルの日』、ノエル『長く孤独な狙撃』、ヒギンズ『死にゆく者への祈り』、イーヴリン・スミスの〈ミス・メルヴィル・シリーズ〉、ざっと思い付くのはこれくらい。本書の収録作品には頭抜けたものはないけれど、さすがにどれもレベルが高いと思います。タイトル『GREATEST HITS』の”Hits"を命中とかhit manに掛けたのはややオヤジギャグぽいです。

『殺し屋』に収録されている「ケラーのカルマ」
ケラーが犬を飼い始め、仕事で出張するためにペットシッターを雇ったころの話。あまり描かれない殺し屋の普通な日常とスリリングな仕事との対比が異様な雰囲気をかもし出す。

「隠れた条件」ジェイムズ・W・ホール
格安の値段のお得な殺し屋。でも殺すべき理由に納得がいかないと仕事はしないよ。殺し屋の職域を超えてます。孫ガキがギャーギャー騒ぎまわる住居環境と部屋の壁についた血や骨片。生活感ありすぎ。

「クォリーの運」マックス・アラン・コリンズ
リタイヤした殺し屋の回想。結局、懐古するところはそこなのかと突っ込みたい。

「怒りの帰郷」エド・ゴーマン
別れた息子の葬式に帰ってきた殺し屋の話。ウェット&クール。

「ミスディレクション」バーバラ・セラネラ
なかなか見られない女殺し屋の話。このトリックはありえない。

「スノウ、スノウ、スノウ」ジョン・ハーヴェイ
長編の冒頭を切り取ったみたいな作品。続きが読みたいものです。しかし、どうして強盗の犯行に見せかけないのでしょうね。

「おれの魂に」ロバート・J・ランディージ
雇い主から姿を消した元殺し屋と元警官の友情がなかなか良いです。腕の良い職人はどこも手放したくない。

「カルマはドグマを撃つ」ジェフ・アボット
ジョニーはドッグを轢く、マシーニはエームズを雇う、殺し屋は標的の意外な正体を知る。

「最高に秀逸な計略」リー・チャイルド
こんな小賢しいことをしていたら仕事の依頼が来なくなりそうですけど。

「ドクター・サリヴァンの図書室」クリスティーン・マシューズ
クレージーユーモア系でユニークな作品。このような作風は貴重だし、好みです。

「回顧展」ケヴィン・ウィグノール
一転してしみじみ系。ちょっと簡単に納得し過ぎる気もしますが。

「仕事に適った道具」マーカス・ペレグリマス
バイオレンス系。山口さんや住吉さんそれから稲川さん、適材適所という言葉を組長さんに教えるときはこれをテキストに使いましょう。

「売出中」ジェニー・サイラー
男女の違いと言いますか、考え思い込み過ぎる男と合理的現実的な女。要するにやるかやられるかというのをいまいち男というのは分かっていない。頭では分かっているけど。

「契約完了」ポール・ギーヨ
アイデアが変わっていてプロットも良くできている。

「章と節」ジェフリー・ディーヴァー
いかにもディーヴァ—らしい。このひと、こんなことばかり考えて頭疲れないんだろうか。長編むきな作家ですよね。




殺しのグレイテスト・ヒッツ―アメリカ探偵作家クラブ賞受賞 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 332-1))殺しのグレイテスト・ヒッツ―アメリカ探偵作家クラブ賞受賞 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 332-1))
(2007/01)
エド・ゴーマンロバート・J.ランディージ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「魔術師」ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

2008-06-29

☆☆☆

ニューヨークの名門音楽学校で殺人事件が発生。犯人は人質を取ってリサイタルホールに立てこもる。駆けつけた警官隊が包囲し出入り口を封鎖するなか、ホールの中から銃声が聞こえてきた。ドアを破って踏み込む警官隊。だが、犯人の姿はない。人質もいない。ホールは空っぽだった……。衆人環視のなかで犯人が消えるという怪事件の発生に、科学捜査専門家リンカーン・ライムと鑑識課警官のアメリア・サックスは、犯人はマジックの修業経験があることを察知して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を要請する。奇術のタネを見破れば次の殺人を阻止できる。しかし、超一流イリュージョニストの“魔術師”は、早変わり、脱出劇などの手法を駆使して次々と恐ろしい殺人を重ねていく―。
内容紹介より



リンカーン・ライムがソーンダイク博士の系譜を引く探偵なのは間違いないでしょうが、一方、彼とその仲間たち(*1)が相手にする犯人たちはアメリカン・コミック(*2)に描かれる悪党たちの血を引いているのではないかと本書を読んで感じました。その悪党たちは、あちこちに罠を仕掛け、スルリスルリと正義のヒーローの手を逃れてしまう。たとえ死んでしまったかに見えても次回作では名を変え身を変えて復活し、犯罪の芸術家として再び悪事を働くのです。
作者がどんでん返しを繰り返すほど、回を重ねる毎に比例して彼らの不死身さは増していき、それにつれて当然主人公も能力をさらに高めるかあるいは味方の数を頼むようにならざるを得なくなります。つまり読者がこのシリーズに飽くなきエンドルフィンを求め作者がそれに応えようとすればするほど、この別名七転び八起きミステリ・シリーズはエスカレートし、「七」と「八」の数字が天文学的(!)に数を増していくことになるでしょう。たぶん、きっと、おそらく。

*1)たとえば『悪魔の涙』のパーカー・キンケイド
*2)スーパーマン、バットマンなど


魔術師 (イリュージョニスト)魔術師 (イリュージョニスト)
(2004/10/13)
ジェフリー・ディーヴァー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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