『イン・ザ・ブラッド』ジャック・カーリイ 文春文庫

2017-07-14

☆☆☆☆

刑事カーソンが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件—銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師……。すべてをつなぐ衝撃の真相とは?緻密な伏線とあざやかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾。 内容紹介より



以下、ややネタバレしています。ご注意下さい!


「最初に真相を設定し、そこから逆算してストーリーやプロットをかっちり堅牢に組み上げ、伏線あるいはヒントを丹念にちりばめた上で、それらを「読者が真相に感付かないように」配置する、きわめて緻密な構成を採用している」(p423)、と酒井貞道氏が解説に記しているように、この作者の小説作法はまず極めて意外な真実を設けて、そのまわりに迷路を張り巡らせるものだということがこの作品でようやく気が付きました。大ドンデン返し、急転直下の効果、悪く言うならサプライズありきでストーリーが構築されているのですね。この効果を見事に成功させるためには意外な真実へと向かう迷路が直線だったり、単純至極な路ではなくて、当然入り組んだものでなくてはなりません。この迷路にあたる伏線、トリック、エピソード、脇道などの物語の枝葉末節が今回はこれまでの作品に比べてやや弱い、あるいは冗長、そしてあざとい感じがしました。よく比較されるディーヴァーとは、話の膨らませ具合や作品全体をみたときの完成度の違いがわかるような気がします。怪しい行動をする博士を物語に挿みつつ、アイラ・レヴィンの『ブラジルから来た少年』のクローンを想像させるようなミスリードを仕込んでいる点は巧いと思います。

ユーザータグ:ジャック・カーリイ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ブラッド・ブラザー』ジャック・カーリイ 文春文庫

2016-06-27

☆☆☆☆

きわめて知的で魅力的な青年ジェレミー。僕の兄にして連続殺人犯。彼が施設を脱走してニューヨークに潜伏、殺人を犯したという。連続する惨殺事件。ジェレミーがひそかに進行させる犯罪計画の真の目的とは?強烈なサスペンスに巧妙な騙しと細密な伏線を仕込んだ才人カーリイの最高傑作。ラスト1ページまで真相はわからない。 内容紹介より



いよいよ凶悪犯の兄と刑事の弟の真っ向からの対決と思いきや、予想をくつがえす斜め上を行く展開で迫力も緊迫感も乏しい印象で、“最高傑作”と謳うほどの出来映えではないと思いました。
舞台はニューヨークで、収容されていた施設を抜けだした兄の犯行を思わせる猟奇的連続殺人事件が起こり、地元のNY市警の捜査官と軋轢も生じるなか、弟である主人公が捜査を手助けします。その一方、女性蔑視者などから様々な脅迫を受けている女性大統領候補が選挙キャンペーンのためにニューヨークに訪れ、その対策に主人公の世話係の市警の刑事も駆り出されるという二つの流れが設定されています。しかし、後者の脅迫事件が添え物程度のボリュームしかなく、かといって片方がそれを補えるほどの読みごたえがあるわけではないので、全体的に何か読後に充足感を覚えないのです。これまで読んだカーリイの作品は400ページを超えるくらいの紙数ですけれど、同じスタイルのディーヴァーなどは文春文庫版で上下巻に分けない場合でも少なくとも600ページを超えます。ページが多ければよいわけではないけれど、カーリイの持てる才能や技法を余すことなく引き出すにはもう少し書き込んだほうがいいような気がしました。

ユーザータグ:ジャック・カーリイ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『毒蛇の園』ジャック・カーリイ 文春文庫

2011-02-26

☆☆☆

惨殺された女性記者。酒場で殺された医師。刑務所で毒殺された受刑者。刑事カーソンの前に積み重なる死 ― それらをつなぐ壮大・緻密な犯罪計画とは?緊迫のサイコ・サスペンスと精密な本格ミステリを融合させる現在もっとも注目すべきミステリ作家カーリイの最新傑作。ディーヴァー・ファンにお奨め!解説・法月綸太郎 内容紹介より



以下、ネタばれ気味です!ご注意下さい。

確かに、ジャック・カーリイは、ミステリの系統樹を描いたらならばジェフリー・ディーヴァーがいる部分の枝に名前が記されるのかもしれません。ただ、ディーヴァーほどにはトリッキーではないし、解説で法月氏が名前をあげているマイクル・コナリーみたいにストイックではありません。このシリーズ、ミステリとは違う別の意味で非常に印象的だった第一作目に比べ、第二作目では見事にだまされ、やられた感を持つくらい出来が良かったのですが、第三作目の本書はレベルダウンしてしまいました。おそらく、第二作目を読んでいなければ、結構なインパクトを残す作品なのでしょうけれど、実はプロットパターンというか基本的な構成部分のアイデアが第二作目と同じなのです。しかもご丁寧に内容紹介文において、「サイコ・サスペンスと緻密な本格ミステリを融合」なんて書いてあるから前作を読んでいる者は、サイコと見せかけたミステリなんだなと見当を付けてしまうからサプライズ効果が薄れて、白けるわけです。コナリーのハリー・ボッシュ・シリーズほど主人公が魅力的でもないし、ディーヴァーの作品(リンカーン・ライム・シリーズ)ほどエンタメを極めているのでもないから、作品の肝がばれたら面白さも半減してしまうのです。

『百番目の男』ジャック・カーリイ 文春文庫
『デス・コレクターズ』ジャック・カーリイ 文春文庫




毒蛇の園 (文春文庫)毒蛇の園 (文春文庫)
(2009/08/04)
ジャック カーリイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『デス・コレクターズ』ジャック・カーリイ 文春文庫

2009-09-10

☆☆☆☆

死体は蝋燭と花で装飾されていた。事件を追う異常犯罪専従の刑事カーソンは、30年前に死んだ大量殺人犯の絵画が鍵だと知る。病的な絵画の断片を送りつけられた者たちが次々に殺され、失踪していたのだ。殺人鬼ゆかりの品を集めるコレクターの世界に潜入、複雑怪奇な事件の全容に迫ってゆくカーソン。彼を襲う衝撃の真相とは? 内容紹介より



前作『百番目の男』に較べて主人公とその相棒とのハリウッド(映画)調な軽口が控えめになるとともに、軽薄なイメージを受けた主人公の姿が、自ら抱え込む過去の事件とそれに関係した実兄のことをなんとか折り合いをつけようと悩む青年の姿に移り変わっていて印象が良くなりました。

以下、完(ネタ)バレしています。ご注意下さい!

ミステリの読者は一般的に、物語の全体像やストーリーがどのように展開していくのかを予想しながら読み進んで行くと思うのです。で、この作品はシリアル・キラーによるサイコ・サスペンスの様相を呈しているのだろうなと予測してしまうわけですが、真相はというと金銭的な犯罪動機だったのですね。『デス・コレクターズ』という題名にも、殺人犯の身の回り品や凶器を蒐集する無気味さとそれが商業ベースとして成り立つ様の二重の意味を持たせているのだと遅まきながら読み終わって気づきました。極端に言うならサイコを装ったコンゲームって感じでしょうか。まんまと騙されました。しかし、30年前の快楽殺人行為とその後のビジネスライクなマネーゲームみたいな犯人の精神と行動が一貫性を欠いている気もします。まあ、肩透かしを食らって悔しいから言うんですけどね。
最後に、白い壁のキャンバスに描かれた絵の場面にはイマジネーションを刺激されてかなり感動的なシーンでした。




デス・コレクターズ (文春文庫)デス・コレクターズ (文春文庫)
(2006/12)
ジャック・カーリイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「百番目の男」ジャック・カーリイ 文春文庫

2007-12-05

☆☆☆

連続放火殺人を解決、異常犯罪担当部署に配属された刑事カーソンには秘密があった。誰にも触れられたくない暗い秘密だ。だが連続斬首殺人が発生、事件解決のため、カーソンは過去と向き合わねばならない……。死体に刻まれた奇怪な文字に犯人が隠す歪んだ意図とは何か。若き刑事の活躍をスピーディに描くサイコ・サスペンス。内容紹介より



新人の作品にしては良く出来ていると思います。でも、全体にオリジナリティが感じられないような気がしました。主人公と相棒の刑事の関係は、まるでアメリカの刑事ドラマに出てきそうだし(最初の出会いで喧嘩した後、意気投合だなんて)、精神医療施設に収容されている男はハンニバル・レクター博士を彷佛とさせ、お約束の恋愛場面における、相手女性の安易なアル中からの回復ぶり、取って付けたような川の中でのランボーばりのアクション・シーン、最後に、またかとうんざりさせる手あかのついた犯人の動機「子供時代の虐待」。あちらこちらの本から最大公約数の要素を持ってきてパッチワークにした作品みたいに思えます。皮肉にも、本書の中で斬新だったのは、巷で“バカミス”と指摘される原因となった犯人の一連の行動だけです。

それから、暗い秘密があるにしては妙に軽薄な主人公「僕」(だって!!!)の軽口と青二才ぶりが個人的にすごく苦手でした。シリーズ化されているから主人公も成長して行くのだろうけれど、喧嘩っ早いのと上から目線の言動(たとえばコールフィールドに対する言葉とか)のキャラクターには閉口しました。


百番目の男 (文春文庫)百番目の男 (文春文庫)
(2005/04)
ジャック カーリイ

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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

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