「盗まれた街」ジャック・フィニイ ハヤカワ文庫SF

2007-08-24

☆☆☆☆

アメリカ西海岸沿いの一小都市サンタ・マイラに、奇怪なマス・ヒステリー現象が、めだたず、静かに進行していた。夫が妻を妻でないといい、親が子を、子が親を、友人が友人を、偽者だと思いはじめる。心理学者も医師も、これを、稀ではあるが時おり発生する集団的な心理錯覚だと考えていた。だがある日、開業医のマイルズ・ペンネルは、友人の家のガレージで奇怪な物体を見せられた。それは、人間そっくりに変貌しつつある謎の生命体―宇宙からの侵略者の姿だったのだ!奇才フィニイが、カリフォルニア州の小都市を舞台に、サスペンスフルに描く侵略テーマSFの傑作!内容紹介より



誰でも知っている地球侵略ものの古典的名作ですね。わたしは『人形つかい』、『トリフィドの日』、『呪われた村』なども読んでいないので、今回、手始めに本書を読んでみました。フィニイの作品は、いわゆる時間の経過による劣化が目立たないものが多いと思いますが、本書も五十年以上前の作品とは感じられませんでした。

ウエルズの『宇宙戦争』がエイリアンと人間との目に見える直接の対決だったのに対し、本書のエイリアンたちは戦わずして住人と置き換わり街を侵略していきます。街がじわじわと汚染される様子はキングの『呪われた町』を思わせます。外見のみならず仕草、過去の記憶に至るまで完全にコピーしてしまいますが、それでも、肉親、友人など親しい者は何かが今までとは違う気がしてしまう。この感覚は醜悪な外見をしたウエルズの火星人に対峙する以上に無気味に思えます。靴磨きのビリイのエピソードで語られるように、自分が良く知っていると思っていた気の良い人物の普段とはまったく違った陰の部分を覗き見してしまったような衝撃を主人公が受ける記述はすごく良く理解できます。人間の精神面を最重要視するフィニイの姿勢が描かれている作品に思えました。そして侵略者の弱点もまた…。それから、(エイリアンに語らせている)文明や環境破壊への批判も隠れたテーマとして含まれているように感じました。


盗まれた街 盗まれた街
ジャック・フィニイ (1979/03)
早川書房

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

「ふりだしに戻る」ジャック・フィニイ 角川文庫

2006-09-30

☆☆☆

女ともだちの養父の自殺現場に残された一通の青い手紙。その謎の手紙は90年前、ニューヨークで投函されたものだった。僕、サイモン・モーリーはニューヨーク暮らしにすこしうんざりしはじめていた。そんなある昼下がり、政府の秘密プロジェクトの一員だと名のる男が、ぼくを訪ねてきた。プロジェクトの目論みは、選ばれた現代人を、「過去」のある時代に送りこむことであり、ぼくがその候補にあげられているというのだ。ぼくは青い手紙に秘められた謎を解きたくて「過去」へ旅立つ。
鬼才ジャック・フィニイが描く幻の名作。上巻裏表紙あらすじより



わたしは、短編集『ゲイルズバーグの春を愛す』は内容もですが、この邦題も好きです。
そんなフィニイの得意とするタイムトラベルものです。彼の「過去」のとらえ方はかなりユニークですね。それは、やがて遠く流れ去ってしまうものではなく、薄い皮膜が徐々に層を成していくようなものなのかもしれません。何億年前の化石でさえ、時間と自然現象という偶然の力によって現代に姿を現し、中生代が現代のすぐ隣に出現したかのように過去と現在が近接した感覚を覚えるような。フィニイのこの小説では、タイムマシンなど使わずに1882年の時を求めさえすれば(ただ、個人の能力や資質が必要ですが)、すぐそこにそれが現れ、現代と行き来できるという設定です。フィニイがあえてタイムマシンを使用せず精神・心によるタイムトラベルを選んだのは、行き過ぎた機械文明に毒されていない、まだ、人間らしさが残っている時代を描くためには、まず機械(マシン)を否定する必要があったからではないでしょうか。

前半、やや進展が遅いのですが徐々に面白くなります。挿絵、写真も豊富ですが、ニューヨークの街並をご存じの方はより楽しめそうです。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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