『九時から五時までの男』スタンリイ・エリン ハヤカワ文庫

2008-11-08

☆☆☆☆

サラリーマン同様にスーツ姿で九時から五時まで勤めるキースラー氏には、妻にも言えない秘密がある。いつものように仕事先に赴いた彼はおもむろに手袋をはめ、用意した包帯をガソリンに浸していった……氏の危険で魅惑的な仕事ぶりを描いた表題作ほか、高齢化社会の恐るべき解決法を提示した「ブレッシントン計画」、死刑執行人が跡継ぎ息子に仕事の心得を伝える「倅の質問」など、奇妙な味の名手が綴る傑作揃いの全10篇 内容紹介より



「ブレッシントン計画」、「神さまの思し召し」、「いつまでもねんねえじゃいられない」、「ロバート」、「不当な疑惑」、「運命の日」(『眠れぬ夜の愉しみ アメリカ探偵作家クラブ傑作選(3)』収録)、「蚤をたずねて」、「七つの大徳」「九時から五時までの男」(『スペシャリストと犯罪 アメリカ探偵作家クラブ傑作選(8)』収録)、「倅の質問」

個々の作品への感想は控えます。というか出来ないので逃げます。

スタンリイ・エリンの作品て読者に媚びないですね。そんなお愛想などはなから拒否しているように見えます。もしかしたらユーモアの欠片くらいはあるかもしれませんが、どの作品もほろ苦いなんてレベルじゃなくて、非常に苦くて辛くて重くて毒があり、しかも余分なものが削ぎ落とされています。かえって、読み手のこちらが愛想笑いをしてしまいそうな程のいたたまれなさを感じてしまいます。

作品の表層だけ読むなら、確かにそれぞれのテーマやアイデアは古いかもしれません。しかし、じっくり読んでみると作者が作品に取り組む姿勢や厳しい創作態度が伝わってきますし、決してシニカルさなどの軽い方向へ逃げていないことが感じられます。こういう作家を最近は見かけません。長編『闇に踊れ!』のときととくらべて、短編では評価が随分な上がり様で我ながら苦笑。


九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2003/12)
スタンリイ エリン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「眠れぬ夜の愉しみ アメリカ探偵作家クラブ傑作選(3)」ハロルド・Q・マスア編 ハヤカワ・ミステリ文庫

2007-04-15

☆☆☆

典型的な中産階級のジョンは、細君の悪徳のほとんどにがまんを重ねた。電気カミソリですね毛をそっても、彼の金を使い果たしても、彼女の振舞いが退屈きわまわりないものであっても、耐え忍んだ。ただひとつがまんならなかったのは、細君が豚さながらに肥満している事だった。そこへ、細身で美しいフランシスが現われたのだ。彼女と一緒になるには、なんとか細君を殺さなければならない……。皮肉で残酷な結末を迎える「ジョンとメアリー」を始め、重度の不眠症患者を自認する編者が、読者諸賢の眠れぬ夜のために選んだ、とびきり面白い15の短編。 内容紹介より



「ジョンとメアリー」ロバート・ブロック、「子供ごころ」ドロシイ・S・デイヴィス、
「運命の日」スタンリイ・エリン、「複式簿記」ロバート・L・フィッシュ、「オーデンダール」ジョー・ゴアズ、「ウォッチバードが見ている」アレン・キム・ラング、「シリーナ、ホワイト・ハウスで窃盗」パトリシア・マガー、「逃げた女」ロス・マクドナルド、「ウィリーおじさん」ウイリアム・P・マッギヴァーン、「黒い殺意」ウィリアム・F・ノーラン、「アヒルのかわりに」チャールズ・ノーマン、「物より心」エラリー・クイーン、「用心深い男」ローレンス・トリート、「女心」ヒラリイ・ウォー、「地獄へ堕ちろ」ドナルド・A・ウォルハイム

どうも、古本みしゅらんです。“とびきり面白い”は少し言い過ぎかもしれませんよ。
なかでも面白かった作品を挙げます。

「運命の日」
“私”が三十五年前に遭遇した友の運命の日の話。ある日、朝食の席で見た新聞にはやくざのボスが殺された記事が載っていた。車の中で射殺された死体とゴルフバッグの写真。被害者は“私”の子供時代の親友だった。“私”の記憶は三十五年前にさかのぼり、親友の人生を変えることになったゴルフ場でのやくざの暴力事件に思い及ぶ。
ちょっと強引な展開のような気もしますが、少年の心の劇的変化が象徴的に描かれていると思います。

「オーデンダール」
この手の短編集には珍しいアフリカが舞台の文芸色の強いサスペンス(?)。ゴアズらしい硬派な作品ですねえ、ハードボイルドしてます。ポール・ボウルズとヘミングウェイを足して二で割ったみたいな感じを受けました。ゴアズといえばサンフランシスコとかいかにもアメリカ的な場所を舞台にしそうなイメージだったので意外でした。

「シリーナ、ホワイト・ハウスで窃盗」
パット・マガーがこんなシリーズ・キャラクターを持っていたなんて!全然知らなかった。某国からアメリカ大統領夫人に贈られたオルゴールが殺人用の凶器に掏り替えられているらしいのだが、その確証が得られない。そこでシリーナ(素人女性探偵みたいなひと)の出番となる。ほかの作品も読んでみたいです。

「逃げた女」
「金曜の夜のことだった。ライト・ブルーのコンヴァーティブル、気分はダーク・ブルーで、メキシコ国境から帰途についていた」なんだかアイリッシュの作品を思わせる冒頭部分で一挙に昔懐かしいプライベート・ディテクティブ、プライベート・アイの世界に引き込まれます。キャディラック、ピアノマンのいるクラブ、支配人とギャング、オートマティック拳銃、歌手・悪女、後頭部への一撃、探偵小説においてお約束のエレメント一杯、ラストの余韻も素晴らしいぞ、ロス・マク。リュウ・アーチャーもの。


眠れぬ夜の愉しみ 眠れぬ夜の愉しみ
(1982/07)
早川書房

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「闇に踊れ!」スタンリイ・エリン 創元推理文庫

2006-04-09

☆☆☆

わたしの名はカーワン。白人、男性、引退した歴史学準教授。今はテープレコーダーに向かって語りかけている。わたしは末期的な肺癌患者である。余命は数カ月。だが、その数カ月を約三週間に縮めようとしている。少なくとも六十人の命を道連れに。以下述べるのは、その所以である……。鬼才畢生の傑作でありながら、執筆当初米国での出版を拒絶された曰くつきの問題長篇。              裏表紙あらすじより



このカーワン老人と私立探偵ミラノの物語が交互に語られる構成。読みやすいのですが、単調なリズムに半分ほどで飽きがきた。人生を振り返りながら、自分の所有するアパートを住人もろとも爆破する計画を録音していく老人と保険会社の依頼を受けて、盗まれた名画(ブーダン作)の行方を追う調査員。偏執狂的な老人は個性的で興味深いのですが、探偵のほうはただの色ボケおやじだとしか思えない。黒人を嫌悪する老人と黒人女性に惚れた探偵を対比させているのでしょうが、ただ金にあかせて女性の気を惹くこと(みたいに感じる)に一生懸命なキャラクターは退く。なので恋愛話がメインの名画盗難ストーリーの方は、大した事件も起こらず退屈です。見掛はビーフステーキだが、食べてみると520グラムの豆腐ステーキだったみたいに、この作品を重厚そうだけれど何か物足りないものにしている原因はそこら辺りにあるのでは…などと。

さて、尾行に関して「右利きの人間は左肩越しに振り返る傾向がある」とありますが、わたしは右肩越しです。他のミステリでは、左斜め後方が死角になると書いてあって納得した覚えがありますが…。

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

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