『夜がはじまるとき』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-23

☆☆☆☆

悲しみに暮れる彼女のもとに突如かかってきた電話の主は……愛する者への思いを静かに綴る「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」、ある医師を訪れた患者が語る鬼気迫る怪異譚「N」、猫を殺せと依頼された殺し屋を襲う恐怖の物語「魔性の猫」ほか全6篇を収録した最新短篇集。巨匠の贈る感涙,恐怖、昂奮を堪能ください。 内容紹介より



「N」「魔性の猫」「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」「聾唖者」「アヤーナ」「どんづまりの窮地」

本書は、『夕暮れをすぎて』に続く、短篇集『Just After Sunset』(2008年)の二分冊目。こちらにもサンセットノートという著者による作品説明文が付いています。

「N」のどかな田舎にできた異界に通じる裂け目。そこから出て来て世界を滅ぼそうとする怪物を防ぐためのストーンサークルを偶然管理するはめになった男。クライヴ・バーカーの「髑髏王」(『セルロイドの息子』収録)も岩で封印してましたけど、鬼とか悪魔とかの封印系のよくある話に強迫性障害を組み合わせたところがとてもユニークな作品。

「魔性の猫」新薬開発のために動物実験によって大量の猫を殺し、その成果で莫大な財産を築いた製薬会社のオーナーのもとを訪れた殺し屋は、自宅の飼猫を殺すよう依頼される。
妖猫と殺し屋の闘いをストレートに描いたもの。

「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」飛行機事故の犠牲者になったはずの夫からの電話。夫を想う妻の心情がしんみりくる話。

「聾唖者」ヒッチハイクで乗せた男が口と耳が不自由だと知ったセールスマンは、妻の不倫や浪費について愚痴をこぼし始め、さらに彼女が引き起こしたとんでもない大問題も明らかにする。車内と教会の告解室、このふたつの密室で行う告白の場面が面白い二重性を形作っているように思える。

「アヤーナ」末期癌で寝たきりになった老父のもとへ、ある日突然現われてキスをした盲目の少女。その出来事を機に状態が改善し、歩けるようになったのだが、その場に立ち会った息子にもある能力をもたらす。派手さは無いけれど心に残る作品です。

「どんづまりの窮地」土地の所有権について揉めている男が相手にある場所に閉じこめられてしまう。読むとしばらくの間、幻臭を感じる気がする話。

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テーマ : 海外ファンタジー
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『夕暮れをすぎて』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-17

☆☆☆☆

愛娘を亡くした痛手を癒すべく島に移り住んだ女性を見舞った想像を絶する危機とは?平凡な女性の勇気と再生を圧倒的な緊迫感で描き出す「ジンジャーブレッド・ガール」、静かな鎮魂の祈りが胸を打つ「彼らが残したもの」など、切ない悲しみから不思議の物語まで、天才作家キングの多彩な手腕を大いに見せつける傑作短篇集。 内容紹介より



「ウィラ」「ジンジャーブレッド・ガール」「ハーヴィーの夢」「パーキングエリア」「エアロバイク」「彼らが残したもの」「卒業の午後」、サンセット・ノートという著者による作品説明文があります。

「ウィラ」乗っていた列車の脱線事故のため、片田舎の駅で代替列車の到着を待つ乗客たちの話。婚約者の姿が見えなくなった若者は数キロ離れた町の酒場へ捜しに出かけます。どういう伏線なのかは早々に見当が付いてしまうし、よくあるパターンを採っているのですが、カップルがそういう状態にあることに気が付いてからの展開が同様のアイデアを使った作品とは違う意外な進み方をしているのが印象的です。

「ジンジャーブレッド・ガール」赤ちゃんを亡くした女性が走ることに目覚めて夫との関係がぎくしゃくしたため、島にある父親の別荘で別居生活をすることになります。季節外れの閑散とした別荘地に、金持ちの男がいつも違った“姪っ子”を連れてやってくる、という話を聞いた彼女はちょっとした好奇心で噂の別荘を覗いて見るのですけれど……。子供を失った母親の心の内を描いたドラマからサイコがらみのバイオレンス・スリラーへの転換が鮮明ですが、その変化の具合にちょっとあっけにとられたような。

「ハーヴィーの夢」倦怠期でありながらも平穏な毎日に浸っている主婦が、いつものように始まったある朝に夫から聞かされた不吉な夢の話。それは彼女の家庭に起きた不幸な出来事の夢だったらしいが、詳しい内容を言い渋る夫に、ひとに夢の話をすれば、それが正夢になることはない、と彼女は促す。夢を題材にしたストレートな話でもうひと捻り欲しい気もしました。

「パーキングエリア」著者がパーキングエリアで実際に経験した出来事をもとに書いた作品だそうです。人気のない深夜のパーキングエリア。トイレに行こうとした男は、女性用トイレで連れの男から暴力を振るわれている女性の声を聞く。作家である男は自分がどう対処すれば良いのか、ということをながながと考え込み、葛藤する話。本題に入る前のプロローグというか導入部というか、そこが長い、まるでスタンダップコメディみたいな饒舌さが気になりました。

「エアロバイク」健康診断の結果でコレステロールの数値が標準値より高かった男は、健康を維持する身体機能を作業員にたとえる話を医者から聞かされる。運動不足を解消するためエアロバイクをこぎ始めた画家である彼は、エアロバイクに向き合う壁に田舎道の風景画を描き、ロードマップを買って空想の自転車旅に出る。コレステロールの数値も体調も良くなった彼だが、彼の体調を維持管理している架空の作業員たちにも変化が現れる。この短篇集のなかでは一番キングらしさが表れているように感じました。

「彼らが残したもの」9・11事件から題材をとった作品。保険調査員の主人公は、会社をずる休みした日にその事件が起き、彼のオフィスが入っていたビルが崩壊してしまう。その事件から一年になろうかという日に、買い物から帰った彼は自宅のテーブルの上に見覚えのある奇妙な形をしたサングラスが置かれているのに気が付く。さらに野球バット、ブーブークッション、貝殻などが現れるが、それらの品は事件で亡くなった同僚たちの馴染みの持ち物だった。この作品も饒舌さが気になるものの、サバイバー・ギルトとは違った、生き残った者が果たすべき、亡くなった人たちへの義務ないしは責任をテーマにしているように感じられる非常に切ないレクイエムともとれる物語。彼らの遺品がおかしな物だったりするのが、その身に起きた悲劇をよりあらわにしているように思います。

「卒業の午後」上流階級に属する恋人を持つ女子高生の視点から、彼の卒業とその後のパーティー、恋人とのこれからの関係、彼女の将来の夢、今日やるだろうこと、人生のハレの日と世界の破滅の日を淡々と描いた作品。

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ジャンル : 本・雑誌

『メイプル・ストリートの家』スティーヴン・キング 文春文庫

2016-08-30

☆☆☆

死を間近にした祖父が、林檎の花びらが舞う果樹園で、孫息子に語って聞かせた“指示”。とは(「かわいい子馬」)、母親をいじめる邪悪な継父を亡き者にしようとするきょうだいたちがとったとんでもない作戦(表題作)など、子どもを描かせても天下一品の著者の才能が存分に発揮された作品を含む短篇全5篇。著者自身による作品解説付き。 内容紹介より



「かわいい小馬」
“かわいい子馬”を持つことが人生にとって大事なことだ、と孫に教える祖父。“かわいい子馬”のたとえが今ひとつ解りづらいような気もする話。

「電話はどこから」
著者の作品解説 によると、脚本形式のこの話は、スピルバーグが製作中だったテレビ・シリーズ《アメージング・ストーリーズ》に持ちかけて断られた作品だそうです。ある夜、ある家庭に架かってきた電話。それは誰から?何のために?何を伝えたかったのか?やや古典的なパターン。

「十時の人々」
“十時の人々”とは、全館禁煙になったビルから出て、煙草休憩をする人たちのこと。そんな人混みのなかで、怪物を見た男の話。怪物たちは普段人間を装って生活しているが、ある性癖を持った人間だけが彼らの正体を見破ることができる。

「クラウチ・エンド」
異次元とのバリアーが薄くなっているロンドン郊外のある地区。魔界が現実の世界が重なっている、あるいは接している、という設定は、『鎌倉ものがたり』シリーズ(西岸良平 双葉社)を思い起こさせます。定番ですが、こういう話はかなり好みです。

「メイプル・ストリートの家」
家で進行中の奇妙な現象を利用して、母親に辛く当たる継父を厄介払いしようとする子供たちのテーマもシンプルでスケールの大きな話。

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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『回想のビュイック8』スティーヴン・キング 新潮文庫

2015-06-05

☆☆☆

少年は父を亡くした。ペンシルヴェニア州の田舎町で堅実に警官を務めていた父を、突然の悲劇で。悲しみに打ちひしがれた少年に笑顔が戻ったかに見えたその日、父の元同僚たちは信じがたい話を語り始める。署の外には決して漏らせぬ秘密、倉庫に眠る謎の車ビュイック8(エイト)の存在と、息子の知らぬ父の意外な過去を……。練達の語り手キングが冒頭から引きずり込む、絶妙の開幕。 上巻内容紹介より



1979年の夏、ペンシルヴェニア州のガソリンスタンドに現れた1950年代型のビュイック。運転していた男が忽然と姿を消したために、車は田舎町の州警察分署に保管されることになった。
物語は、それ以来20年に渡ってビュイックにまつわる怪現象を町で起きた事件や出来事とを、そして場面も過去と現在を織り交えて進みます。そもそもこのビュイックは何なのか、異次元、異界、魔界、あるいは並行世界とを繋ぐ存在なのでしょうが、はっきりとした正体は明らかにされません。それではなぜ敢えてビュイック(の形状)なのかと考えてみると、これはおそらく作者の世代が持つ1950年代への郷愁のような気がします。意表をつく怪物的なデザインと大排気量をそなえた当時のアメリカ車は、彼らにとってアメリカの黄金期、力と富を象徴するものなのでしょうから。そして皮肉にも、本文中に警官が所有しているトヨタ車が駐車場に停まっている場面があります。話は怪奇現象一辺倒ではなく、それとともに、予想もつかないあるいは不確かな運命とか人生の流転とかも描き出そうとしているようです。娯楽的要素の強いSFホラーではないことで、車への定点観測、エピソードの羅列になり、物語が単調になってしまったように個人的に感じました。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『図書館警察-Four Past Midnight Ⅱ』 スティーヴン・キング 文春文庫

2014-08-17

☆☆☆

あの図書館には何かがいる。不気味な貼り紙、冷酷な司書、期日に本を返さないと現れる図書館警察。幼い頃の恐怖が甦り、サムの心を侵す。戦え、心の闇を消し去るのだ―恐怖に対決する勇気を謳い、感動を呼ぶ表題作。さらに異界を写すカメラがもたらす破滅を描く「サン・ドッグ」。翻訳者+装幀者による巻末の解説座談会も必読。 内容紹介より



「図書館警察」と「サン・ドッグ」、ともに約280ページ程の作品が収録され、作者自身による作品が生まれた経緯が書かれています。アメリカの子供たちにとって馴染みのある(らしい)架空の存在の“図書館警察”、そして、アイデア自体はそれほど目新しくもない“異界を写すカメラ”。まず、このそれぞれのお題で中篇を書いてみせる著者の筆力、テクニックに呆れながら感心しました。並みの作家なら短篇どまりでしょう。それとともに、中篇に膨らませる技巧が垣間見えるような気がしました。「図書館警察」ではゴミ収集人を登場させて、彼が体験した“司書”の過去と彼女が起こした事件を語らせていますし、「サン・ドッグ」においては、“がらくた屋”にいわくのあるカメラを売付けに馴染みの顧客を廻らせています。特に後者は、作者の創作上の意図が分かりやすく理解できる感じがしました。一方、作品そのものの出来不出来については、個人的に引き伸ばしすぎなのではないのかと思います。「サン・ドッグ」では冗長な印象を強く受けました。好みの問題ですが、こういう素材は短篇で処理したほうが良いような気がします。

タグ:スティーヴン・キング




図書館警察―Four Past Midnight〈2〉 (文春文庫)図書館警察―Four Past Midnight〈2〉 (文春文庫)
(1999/08)
スティーヴン・キング

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『痩せゆく男』 スチィーヴン・キング 文春文庫

2012-06-16

☆☆☆☆

痩せてゆく。食べても食べても痩せてゆく。老婆を轢き殺した男とその裁判の担当判事と警察署長の三人に、ジプシーの呪いがつきまとう。痩せるばかりではない、鱗、吹出物、膿…じわりじわりと人体を襲い蝕む想像を絶した恐怖を、モダン・ホラーの第一人者スティーヴン・キングが別名義のもとに、驚嘆すべき筆力で描きつくした傑作。 内容紹介より



リチャード・バックマン名義の作品です。
読む前には、嫌な奴らが呪いによって酷い目に遭う、みたいな物語かと想像していました。しかしさすがにベストセラー作家だけあって、そんな単純な図式で終わるわけが無かった。並の作家だったらただ男が痩せてゆくというアイデアで書けるのは短篇小説くらいでしょう。町へやって来た旅回りのジプシーたちが差別や偏見に晒される出来事を目にして、彼らに消極的な同情心を抱いていた主人公は、呪いをかけられた後も呪いが解けたら偽善的な町から出て行くことを決心します。一方、人を轢き殺したことを改悛しながらも、事故の原因をつくった妻や呪いをかけたジプシーの老人に対しての怒りも募らせています。体重の減少とともに複雑な感情の揺れや変化が描かれ、プロットも当初ジプシーと和解をする方向へ持っていくのかと思わせながら、乱暴な解決策へ進んでみたりします。終始こちらの予想を裏切る展開を見せ、エンディングはこの作者らしい迎え方をしていました。季節の変わり目で体調がおかしいときには、読まないほうがいいかもしれません。




痩せゆく男 (文春文庫)痩せゆく男 (文春文庫)
(1988/01)
リチャード・バックマン

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ランゴリアーズ』 スティーヴン・キング 文春文庫

2012-05-17

☆☆☆☆

真夜中のジャンボ機 ― 眠りから覚めた者たちを驚愕が襲う。たった11人を残し、他の乗客がみな消えているのだ。しかも眼下にあるはずの街まで……想像を絶する危機と戦う男女を描く表題作。盗作疑惑に追いつめられる作家の物語「秘密の窓、秘密の庭」。中篇集と称しながら、実は長篇二本分の分量の作品を収録した贅沢な一冊。 内容紹介より



キング初心者が読むキング作品の何作品目かです。彼の作品もSF作品もたいして読んでいないという予防線を張って感想を書きます。

「ランゴリアーズ」
「過去」というのは個人の記憶に残っているかぎりは幾度でも再生できるものですけれど、それが世間や世界という大きなレベルの過去になると、それはいったいどうなるのか?キングの考えの一端が伺えるのが、この「ランゴリアーズ」なのでしょうか。時間をテーマにしたSFはそれこそたくさんありますが、この作品のような捉え方をしたものを読んだのは初めてでした。嗅覚や味覚などの五感が個人の記憶に強烈な印象を残したとしても、それは時間が経過するにつれ褪せてくるものですが、この物語でも飲み物や食べ物の匂いや味が消えてしまっているという場面が描かれ、そんなアイテムのさりげない使い方が印象に残りました。登場人物のひとりが子供時代から恐れていた怪物“ランゴリアーズ”と過去をむさぼり喰らう“もの”を上手くリンクさせているにもかかわらず、肝心の“もの”の造形が少々迫力不足だったような気がしました。それは映像化されていたものを観ていた時点で承知をしてはいましたけれど……。 

「秘密の窓、秘密の庭」
主人公の作品を盗作だと非難する男は、現実に存在するのか、あるいは主人公の妄想が作り出した幻影なのか、というさして斬新でもないサイコパス様なアイデアでプロットが構築されています。ただし、ミステリ作品として考えてみたら、彼の遺産を狙った元妻の愛人による計画犯罪ともとれるというレッドへリングも用意してはあります。それを終盤までひっぱればスリリングだったでしょうが、後半部分でさっぱりなくなってしまいました。 

「過去」をテーマに、前者は過去をむさぼるものが襲ってくる話、後者は過去に追い付かれ、捕らえられた者の話ではないかと思いました。

タグ:スティーヴン・キング




ランゴリアーズ (文春文庫―Four past midnight)ランゴリアーズ (文春文庫―Four past midnight)
(1999/07)
スティーヴン・キング

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『モンスター・ドライヴイン』ジョー・R・ランズデール 創元SF文庫

2008-10-28

☆☆☆

金曜の夜、ぼくたちはドライヴイン・シアター《オービット》に集まった。いつものB級ホラー映画オールナイト。いつもの大騒ぎ。だが突然、血の色の光を放つ怪彗星が襲来し、観客全員が異空間に閉じ込められてしまった! 娯楽の殿堂から一転、生き残りを賭けた凄絶な戦場に変わる《オービット》。ぼくたちはここから生還できるのか? 伝説のスラップスティック青春ホラーSF!  内容紹介より



ネタばれしています。ご注意下さい!

ネットでこの作品のレビューをまだ読んでいないので、どなたかが書いていらっしゃるかもしれませんが、本書はスティーヴン・キングへのオマージュではないかと思ったのです。それが言い過ぎならば、かなりの影響下で創作されたのではないのかと。少年たちの友情と冒険、別れを描いた『スタンド・バイ・ミー』を思わせる導入で始まり、あの傑作『霧』のシチュエーションへと展開しているような気がします。異次元の生物に襲われ、立てこもったスーパーマーケットが本作品では広大なドライブイン・シアターへと姿を変え、エピローグで目撃されるティラノサウルス・レックスとそれに群がる共生生物は、『霧』で遭遇する六本脚の巨大生物とそれに取り付く何百匹もの“虫”を思い出させます。そしてなによりの証拠は、ドライヴイン・シアターを支配する者が“ポップコーン・キング”と名乗っているではないですか!

少年たちが異空間に閉じ込められた後、『スタンド・バイ・ミー』みたいな友情を続けずに変化を付けているところは、ランズデールらしいオリジナリティが出ているのではないでしょうか。とにかく奇想天外、奇々怪々な物語、三部作らしいので続編が読みたい。



モンスター・ドライヴイン (創元SF文庫)モンスター・ドライヴイン (創元SF文庫)
(2003/02)
ジョー・R・ランズデール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「トム・ゴードンに恋した少女」スティーヴン・キング 新潮社

2007-11-26

☆☆

世界には歯があり、油断していると噛みつかれる―。ボストン・レッドソックスのリリーフ・ピッチャー、トム・ゴードンに憧れる、少女トリシアは、9歳でそのことを学んだ。両親は離婚したばかりで、母と兄との3人暮らしだけれど、いがみ合ってばかりいる二人には、正直いって、うんざり。ある6月の朝、アパラチア自然遊歩道へと家族ピクニックに連れ出されるが、母と兄の毎度毎度の口論に辟易としていたトリシアは、尿意をもよおしてコースをはずれ、みんなとはぐれてしまう。広大な原野のなかに一人とり残された彼女を、薮蚊の猛攻、乏しくなる食料、夜の冷気、下痢、発熱といった災難が襲う。憧れのトム・ゴードンとの空想での会話だけを心の支えにして、知恵と気力をふりしぼって、原野からの脱出を試みようとするが……。9日間にわたる少女の決死の冒険を圧倒的なリアリティで描き、家族のあり方まで問う、少女サバイバル小説の名編。内容紹介より



同じアパラチア自然歩道を山歩き素人の中年男二人組がウロチョロするノン・フィクション『ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験』(中央公論社)のほうがよっぽど面白い。

物語に入り込めなかった原因は設定に不自然さを感じたからです。キングの作品に登場する子供たちは、あまりにも年齢の割にしっかりし過ぎるきらいがあると思うのですが、9歳の少女トリシアもそんな感じで立派すぎること。そうでありながら、山歩きの基本である、道に迷ったらその場から動かないという鉄則を簡単に破ってしまうこと(母親が初心者ではあるけれどハイキング好きで、一般的な知識を子供に教えているにもかかわらず)。この点はキングなら読者が納得する状況をいくらでも提示できるであろうに、そうしていない。そして、「あれ」がいつまでも長距離に渡って付きまとうこと、が、いまいち効果的な役割を果たしていないこと。

第一、少女が無事で物語が終わることは当然なんだから、家へ還り着くまでの経過がこの程度の話だとキング作品としてはどうなんだろうと。それから、トム・ゴードンとの会話もなんだか宗教じみてて馴染めなかったです。

ボストン・レッドソックスの熱狂的ファン だというキングがレッドソックスに捧げた物語、あるいはちょっと変わったレッドソックス讃歌だと考えれば良いのかもしれませんね。


トム・ゴードンに恋した少女トム・ゴードンに恋した少女
(2002/08/30)
スティーヴン キング

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「いかしたバンドのいる街で」スティーヴン・キング 文春文庫

2007-05-18

☆☆☆

自動車旅行中、小さな、美しい街に迷い込んだ一組の夫婦。だが、「ロックンロール・ヘヴン」という名のついたその街はどこかおかしい。なぜ、住民が皆、見たことのあるような人たちばかりなのか……? ロック&ホラーの傑作として名高い表題作をはじめとする全6篇を収録。鮮烈な描写、後を引く余韻。キング節が冴え渡る!内容紹介より



「献辞」
魔女伝説に生理的嫌悪感を絡めて、ホテルの清掃主任マーサが、なぜ彼女の息子がベストセラーを約束された本を書くに至ったかを過去に遡って語る物語。
「動く指」
自宅の洗面台の排水孔から一本の人間の指が突きでているのを目撃した男とその指との戦いの話。不合理、不条理の世界ですが、この悪夢のパターンは手あかが付いているので、べつにキングほどの作家が書かなくても良いのでは。
「スニーカー」
建物の三階男子トイレのいちばん手前のボックス。そのドアの下にのぞいているスニーカー。わたしが知っているキングの作品にくらべると、珍しく「救済」されてますね。
「いかしたバンドのいる街で」
ロックンロール・ホラー・アンソロジー『ショック・ロック』(扶桑社ミステリー)にも収録されている作品。“街”より“町”のほうが作品の雰囲気にあっていると思いますけど。最初に読んだときから思っていたのですが、実名で登場するロックスターたちの描き方にファンの人たちは怒ったりしないのだろうか?などと余計な心配をしました。それにしても、これは地獄だ!
「自宅出産」
『死霊たちの宴 上』に収録されている「ホーム・デリヴァリー」(夏来健次 訳)と同じ作品。こちらは、吉野美恵子 訳です。夏来訳のほうが平明でこなれた感じで読みやすいと思います。
「雨期きたる」
メイン州ウィローで七年に一晩だけの雨期に降ってくるものとは…。「いかしたバンド…」や「トウモロコシ畑の子供たち」と同じように、ある夫婦が小さな街(町)に迷い込むあるいはたどり着いて遭遇するおぞましい出来事。このお馴染みの設定をキング自身が巻末の作品解説でセルフ・コピーに言及して述べて(弁解して)いるのが可笑しい。キングも気にしてるのですね。しかし、広大な土地に、人知れず奇妙な街(町)が存在しているのではないか、という発想は作家にとってはすごく魅力的でしょうから題材として使いたくなるのは理解できます。

『第四解剖室』や『幸運の25セント硬貨』に比べるともう一つ甘いというか食い足りない感じがしました。


いかしたバンドのいる街で (文春文庫)いかしたバンドのいる街で (文春文庫)
(2006/08)
スティーヴン キング

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テーマ : 怖い小説
ジャンル : 本・雑誌

「シャイニング」スティーヴン・キング 新潮文庫

2006-07-30

☆☆☆☆

《景観荘》ホテルはコロラド山中にあり、世界で最も美しいたたずまいをもつリゾート・ホテルのひとつだが、冬季には零下25度の酷寒と積雪に閉ざされ、外界から完全に隔離される。そのホテルに一冬の管理人として住みこんだ、作家とその妻と5歳の少年。
が、そこには、ひそかに爪をとぐ何かがいて、そのときを待ち受けるのだ!
                    上巻あらすじより



キング初心者のわたしが読んだ長編二作品目です。
気になったのは、登場人物の動作や言葉、イメージを反復し、それによって執拗に読者の意識にそれらを刷り込んでいく方法です。たとえば、ジャックについていえば「手のひらでくちびるを拭う」という生理的に不快感を与える仕草や「おまえは癇癪を起こした」という感情が爆発することを予感をさせる独白の繰り返し、感情がたかぶるとアルコールを一杯飲みたくなる元アルコール依存症の衝動など。
ジャックの不安定な気持ちを表現し、読む者の不安感を煽る上手いやり方だと思いました。なかなかここまで徹底してやる作家はいないのではないでしょうか。

『呪われた町』のマークに続いて五歳のダニーの早熟ぶりに少し違和感が…。

シャイニング〈下〉 シャイニング〈下〉
Stephen King、深町 真理子 他 (1986/11)
文藝春秋

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「呪われた町」スティーヴン・キング 集英社文庫

2006-02-11

☆☆☆☆

キング初心者のわたしが読んだ初長編です。
『ドラキュラ』は十字架、聖水、日光が苦手でトネリコの杭で殺すことが出来る。そんな設定を変えずに物語を書いたキングってすごいですね。並の作家だったらまず書こうなんて思わないでしょ。少々大袈裟に言えば、見事な換骨奪胎。

町の住民たちの生活、人物像を長々としつこく描いていくことでじわじわと恐怖感が高められ、これからどういう風に吸血鬼に襲われ犠牲になっていくのか、やがて訪れる恐怖を読者に想像させて不気味さをかき立てていると思う。
つまり、後半部分の吸血鬼との対決はあくまでオマケに過ぎず、疫病が蔓延するように住人たちが吸血鬼に汚染され、(あらすじにあるように)町が崩壊していく様子を緻密に描くことがキングの意図したものだと思う。 
吸血鬼と化したダニー・グリックがマーク・ぺトリーを“二階の部屋の窓の外”に訪ねて来て、「入れてくれ」と言う場面が物語のピークのように感じた。

プロローグにおいて、吸血鬼の手を逃れた数人の住民の名前が読者に知らされているのですが、これはあくまで構成上の問題だけなのか、それともなにか別の作者の考えがあったのでしょうか。隠しておいたほうがいいような気もするけど…どっちでもいいか… 

あと、マークという少年がすご過ぎか。
町を見下ろす小高い丘に建っている屋敷(べたな設定)、そこに吸血鬼が棺のような箱に入って引っ越してくるというのは笑えます。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「骸骨乗組員 スケルトン・クルー1」スティーヴン・キング 扶桑社ミステリー

2005-08-31

☆☆☆☆☆

いまさらですが、やっぱり「霧」ですよね。これは傑作だ!
アンソロジー『闇の展覧会』で初めて「霧」を読んだのはかなり前になりますが、
湖の向こうから徐々に迫って来る白い霧や何百匹もの気味悪い“虫”がついた巨大な脚が車の側を
ドスンドスンと通って行くイメージがずっと残っています。
もやとか霧に遭遇するたびにこの作品が条件反射のように思い浮かびます。
スーパーマーケットに閉じ込められた人たちの変化していく精神状態を巧みに描いていますね。
異常な状況の中で、日常の仕事を続けることで精神の安定を保っていたが、
仕事ができなくなると老女のオカルト思想にはまってしまう男。現実を受け入れられず
店の外に出て行った人たちなど。

ところでこの作品が映画化されるそうですが、いつ頃観れるのでしょうかね。

「握手しない男」
ボンベイ帰り、呪術がでてくる古風な奇譚つう感じですね。

「ウェディング・ギグ」
ギャングとジャズ・エイジの雰囲気が良く出ている話。リング・ラードナーの短篇に
ありそうです。主人公のジャズマンが冷めて一歩退いているところが人情話にならず
に良い。自分が太っていることで、兄が殺された思う女と人種差別を受ける黒人のジャズ仲間について「デブは食べるのをやめりゃいい。だが、ビリー・ボーイ・ウイリアムズの場合、できるのは息を止めることだ」なんて。

「カインの末裔」
これは長編のエピソードを切り取ったような含みのある話。
少年が犯行の前に「すすり泣いた」のは何故なのだろうか?

「死神」
いわくつきの鏡。そういういわれのある物や場所には近付かないのが一番。
万が一ホントだったらどうするんですか?

「ほら、虎がいる」
これは分かったような分からないような話ですねえ。そういえば子どもの頃、自宅に
ライオンがいる夢を二回ほど見たことがあります。キングも見たのか?

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

神々のワード・プロセッサ   スティーヴン・キング  扶桑社ミステリー

2005-07-16

☆☆☆

キング初心者が読むキング二冊目。まだ短篇集。

八百万の神様がいて、いろんな物に魂が宿る日本でもさすがにワープロには神様も
魂もないですよね。しかし、この短篇集ではワープロ、トラック、タイプライター、サルの玩具にいろいろなものがついてます・・・神、怨念、妖精、邪悪。
以下、少々
ネタばれがあります。








「神々のワード・プロセッサ」
ワンアイデアだけどワープロを魔法の箱にしなかった設定がこの話をただの寓話で終わらなかったのでしょう。
しかし、主人公が今後の幸せをワープロに打たなかったため、二年後には新しい妻は太り始め息子も父親を馬鹿に仕始めるのでした、みたいな展開に成りかねないかもね。

「オットー伯父さんのトラック」
作者も気に入ってる短篇の一つだそうだ。このアイデアでこれだけよく書けますよね。
この力まかせ、キングさんはお相撲さんで言えば朝青龍なのか?

「ジョウント」
結末予測付きますよね。そこら辺が詰めが甘いような・・・
しかし、『意外と長いよ。パパ!見たんだ!見たんだ!長いジョウントなんだ!』と叫び目玉に爪を食いこませた少年は、一体何を見たんだ?何を見たんだ?

「しなやかな銃弾のバラード」
気がおかしくなった小説家は近隣の住人、新聞配達の少年、郵便配達夫などをCIA,FBI,KGBのスパイや国税庁の役人と思い込んでいる場面がありますが、
わたしは筒井康隆氏の短編を思い出してしまった。ストーリーは全然違いますけどね。
妖精が出てこなきゃ普通にアメリカ文学として読めますよね(カポーティみたいな、違う?)。

「猿とシンバル」
これがわたしのイメージするキングの作品ですよ。最後のエピソードは余計な気がするけどなあ。魚殺してどうする?
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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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