『ブラッド/孤独な反撃』 デイヴィッド・マレル ハヤカワ文庫NV

2011-09-01

☆☆☆☆

ある日建築家のブラッドの前に、幼いころに行方不明になった弟が突然現われた。喜びに包まれるブラッドだったが、いっしょにキャンプに行った山の中で、思いもかけず弟にいきなり断崖から突き落とされてしまう。半死半生で生還したものの、すでに彼の妻子は弟に連れさられて姿を消していた。愛する家族を取り戻すため、ブラッドは肉体を鍛え、すべてを投げうって立ち上がった!新生マレルが男の闘いを熱く描く傑作冒険小説。 内容紹介より



遊び友達の手前、弟を邪険に扱ってしまい、そのために一人で自宅に帰る途中の弟が行方不明になってしまった過去を悔やむ主人公。数十年が過ぎ、仕事がらみで出演したTV番組で行方が判らなくなった弟について触れた三日後、彼の前に弟だと名乗る人物が現れる。最初は訝りながらも兄弟しか知らない幼少時代の出来事を詳しく語るその男こそ本当の弟だと確信するのだが……。
その後、主人公が弟によって崖から転落させられ、彼の妻子が誘拐されて失踪し、警察やFBIが捜査に乗り出すと、弟と名乗っていた人物が犯罪歴のある別人ではないかという疑惑が浮かび上がってきます。手がかりも消え、捜査も暗礁に乗り上げた時、犯人が語った言葉の断片をヒントに過去にさかのぼって主人公は独自に捜査を始めます。
犯人が過去にたどった足跡を追いかけ、少しずつ判明していく事柄と犯人は弟なのかそれとも別人なのか。こういった要素がミステリ性とサスペンス性をよりいっそう盛り上げ、単なる犯人を狩り、妻子を取り戻すだけのストーリーとは一線を画しているところだと思います。犯人からの視点があればもっとよかったかも。

『廃墟ホテル』デイヴィッド・マレル ランダムハウス講談社
『真夜中に捨てられる靴』デイヴィッド・マレル ランダムハウス講談社




ブラッド/孤独な反撃 (ハヤカワ文庫NV)ブラッド/孤独な反撃 (ハヤカワ文庫NV)
(2002/09)
デイヴィッド・マレル

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『真夜中に捨てられる靴』デイヴィッド・マレル ランダムハウス講談社

2009-05-17

☆☆☆☆

深夜、決まって教会前に捨てられるひと揃いの靴。真新しい紳士靴やハイヒール ― 毎夜、靴を回収するうちに、やがて靴と犯人探しの虜になってしまった警官を描く表題作「真夜中に捨てられる靴」ほか、謎の箱を死守する南米の将校、若さを渇望する老脚本家、瀕死の父を冷凍保存する息子など、「妄執」をテーマに、狂気に堕ちていく主人公たちを描いた全8篇。エルロイ、キング、クーンツが絶賛する、マレルの奇妙な短篇集。 内容紹介より



「まだ見ぬ秘密」「何も心配しなくていいから」「エルヴィス45」「ゴーストライター」「復活の日」「ハビタット」「目覚める前に死んだら」「真夜中に捨てられる靴」
収録。

どうしても映画「ランボー」のイメージが強くて、この作家にはさほど興味を持てなかったのですが、このような短い作品でも独特の世界を描くことが出来て、さらに読者をそこに惹き込ませる作家はなかなかいるものではありませんけれど、マレルはそれができる作家だと感じました。作品の持つ空気感というかダークさは、キングやクーンツのそれの暗黒ではなくて透明感のある濃灰色みたいな感じがします。もうひとつの短篇作品と言ってもいいような著者あとがきも作者を理解するうえで大変有意義です。

いかにも南米を舞台にした綺談「まだ見ぬ秘密」、意表をつかれる終わり方をする「何も心配しなくていいから」、実際に聴講してみたいエルヴィス・プレスリー論が非常に面白いエルヴィスヲタクの話「エルヴィス45」、作者本人の実体験がかなり盛り込まれているであろう「ゴーストライター」、レオニード・N・アンドレイエフの短篇で、死から甦ったラザロの後日談を描いた「ラザロ」(『血も心も』新潮文庫収録)を何故か連想させる「復活の日」、あまりたいしたことはない「ハビタット」、新型インフルエンザの感染がニュースになっている今、読むとちょっと不気味な兆しを感じる「目覚める前に死んでいる」、日頃、作業用ゴム手袋が落ちているのはよく見かけますが…、ユーモラスな題名とは裏腹な内容の「真夜中に捨てられる靴」。それぞれ作者の短いコメントが付いています。


『廃墟ホテル』デイヴィッド・マレル ランダムハウス講談社






真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/04/28)
デイヴィッド・マレル

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「廃墟ホテル」デイヴィッド・マレル ランダムハウス講談社

2007-03-29

☆☆☆☆

忍びこむ者――廃墟のもつ魅力に取り憑かれた彼らと共に、新聞記者バレンジャーはかつての豪華ホテルに潜入した。畸形のネズミ、5本足のネコが棲まう建物を探索するうち、秘密の通路を発見!オーナーの大富豪、カーライルはそこから客室を覗いていたのだ。そして客室で起きた殺人、虐待といった惨劇の痕跡を保存したまま彼はホテルを閉鎖していた――その異常な光景を目にした瞬間、一行の背後に怪しい影が忍び寄る。内容紹介より



残念ながらタイムマシンは持っていないし、フィニイの作中人物みたいに時間旅行が出来る能力を備えていない者にとっては、遺跡や歴史的建造物を訪れて「過去」を感じるしかありません。しかし、お手軽な「近過去」を体感できるところ、それが廃墟ですよね。完成間近の新築マンションやホテルには魅力を感じないのに廃墟になった病院、ホテル、学校に何故ひとは惹き付けられるのか。当然、それはそこにこびり付いた人々の生活の痕跡や残滓のせいでしょう。

「過去」を特別視し、「過去」をめくり返そうとする者(作家)にふさわしく、冒頭でフィニイとマシスンに献辞が捧げられています(感心)。廃業したホテルの一室、一室に過去の宿泊客の痕跡が残されています。それはベッドに置かれた一個のスーツケースだったり、クローゼットに残されたバーバリーのコートだったり…。謎が提示され徐々にその謎が明らかになっていく過程はかなり面白いです。なのに中盤以降それがアクションへ変わってしまったのが残念、客室のエピソードをもう少し描いて欲しかったし、それがこの物語の主題なのに。

後半はまるで遺跡を探険する学者、その後をつける盗掘犯たち、そしてもう一人の謎の人物が入り乱れてみたいなパターンを彷佛とさせる冒険小説的展開、いわゆるインディ・ジョーンズ系エンターテインメントに落ち着いてしまった。ああマレル、ハリウッドの呪縛なのか!

〈迷路〉、〈迷宮〉を主題とした作品については、ブログ「奇妙な世界の片隅で」を御覧下さい。



廃墟ホテル 廃墟ホテル
デイヴィッド・マレル (2005/12/15)
ランダムハウス講談社

この商品の詳細を見る


テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー アーロン・エルキンズ ルース・レンデル スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー ローラ・チャイルズ キャロリン・G・ハート ジョージ・P・ペレケーノス ジョアン・フルーク ドン・ウィンズロウ マイクル・クライトン ジョー・R・ランズデール C・J・ボックス ポーラ・ゴズリング ジェームズ・パターソン ジェイムズ・パタースン エド・マクベイン ジル・チャーチル リチャード・マシスン ローレンス・ブロック ヘニング・マンケル D・M・ディヴァイン ジャネット・イヴァノヴィッチ ピーター・ラヴゼイ スチュアート・ウッズ リリアン・J・ブラウン レジナルド・ヒル レックス・スタウト S・J・ローザン ジョルジュ・シムノン パーネル・ホール アリス・キンバリー ジョー・ゴアズ カール・ハイアセン ウィリアム・カッツ クレオ・コイル マーガレット・ミラー レスリー・メイヤー ジャック・カーリイ カーター・ディクスン ジェフ・アボット マーシャ・マラー エド・ゴーマン コリン・ホルト・ソーヤー ヒラリー・ウォー ルイーズ・ペニー マイケル・ボンド ジェフリー・ディーヴァー アイザック・アシモフ ジョン・ディクスン・カー イーヴリン・スミス ジェームズ・ヤッフェ リタ・メイ・ブラウン キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア ロブ・ライアン ローラ・リップマン ポール・ドハティー フレッド・ヴァルガス G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス ドナ・アンドリューズ サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント