『トップレス・バーの女』ヒラリー・ウォー ケイブンシャ文庫

2014-10-30

☆☆☆

警官殺しの鍵を握る美貌のトップレス・ダンサーが失踪した。捜査を依頼された私立探偵サイモン・ケイが関係者を洗って大都会のセックス・ゾーンに乗り込むや、次次と起こる血なまぐさい連続殺人事件。錯綜する難事件を追って、推理界の世界的巨匠が放つバイオレンス・ミステリーのシリーズ第一弾。 内容紹介より



〈私立探偵サイモン・ケイ〉シリーズ。
ヒラリー・ウォーが1983年に発表した、私立探偵を主人公にしたハードボイド小説です。83年というとかなり後期の作品に当たります。ウォーといえば警察小説というイメージを持っていたので、こういう作品を書いていたのは意外でした。88年には彼の代表作の一つだと個人的に思っている『この町の誰かが』を発表しているのですが、『この町の誰かが』の円熟味、強固な構成力、意外性と較べると、本書は作者の初期の作品かと間違えてしまいそうな内容です。良く言えば従来のハードボイドを踏襲しているし、逆にバイオレンスは中途半端であり、全体に新味に乏しい印象でした。このジャンル恒例の頭部への一撃からの失神、謎の女、怪しいバーの経営者といった要素はふんだんに盛り込まれています。
ミステリ的には点と点が非常に結びつきやすく、展開が早々に読めてしまいます。そして、「卑しい街」が卑しい店に偏ってしまい、街自体の雰囲気が伝わってこず、主人公のキャラクターがどちらかと言えばソフト路線で、ハードでドライが好みなわたしにはちょっと合いませんでした。

タグ:ヒラリー・ウォー




トップレス・バーの女 (ケイブンシャ文庫)トップレス・バーの女 (ケイブンシャ文庫)
(1984/12)
ヒラリー・ウォー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『この町の誰かが』 ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2012-10-13

☆☆☆☆

クロックフォード―どこにでもありそうな平和で平凡な町。だが、ひとりの少女が殺されたとき、この町の知られざる素顔があらわになる。怒りと悲しみ、疑惑と中傷に焦燥する捜査班。だが、局面を一転させる手がかりはすでに目の前に……!警察小説の巨匠がドキュメンタリー・タッチで描き出す《アメリカの悲劇》の構図、MWAグランドマスター賞受賞第一作。解説・若竹七海 内容紹介より



かつて住民の多くが農業や漁業に従事する人口三千人だった町が、ベッドタウン化するとともに様々な職業に就く者が住む、一万八千人の町に。しかし、町の姿は、古い屋敷や新しい家が入り混じる、自然環境に恵まれた快適な町であり、まれに窃盗や強盗事件が起きたり、若者たちの間に薬物の問題が持ち上がったりしていても、荒廃などとは無縁の町。こういうあくまでも普通の町であるという文言が読者へ意識付けるために頻繁に出てきます。そんな場所で発生した一件の殺人事件が町と住民たちを根底から揺るがす様を描いた、社会派ミステリとも言える優れた作品。
ストーリーは被害者の家族、友人、知人や警察官、町の住民への聞き取りや会合の議事録というユニークな形で著されてます。事件とは直接関係のない物事や発言も記すという手法のために、警察の調書や聞き込みのメモとは違って、事件や被害者についてだけでなく、自分や他の住人のこと、町についての考えや意見も明らかにされ、それぞれの内面や裏側が語られています。ただ、司祭の妻の証言など冗漫に感じる部分もありました。
事件に対処する警察への不満が高じて暴動が起きかけたり、余所者の浮浪者である容疑者へリンチを振るう雰囲気になって人間の内に潜む暴力志向が露わになり、あり得ないと思われていた人種差別やこれまで存在が許容されていた心に障害を持つ者、同性愛者という社会的弱者や自分たちとは異質なものへの偏見、排斥が事件を契機に表に吹き出してしまう状況へと陥っていく様子が作者の狙い通りに巧みに描き出されていました。また、終盤にかけての部分など、サスペンスミステリとしても趣向を凝らし、テクニックが冴えている作品でもあります。

ユーザータグ:ヒラリー・ウォー



この町の誰かが (創元推理文庫)この町の誰かが (創元推理文庫)
(1999/09)
ヒラリー・ウォー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『事件当夜は雨』ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2010-10-24

☆☆☆☆

どしゃ降りの雨の夜。果樹園主を訪れたその男は「おまえには50ドルの貸しがある」と言い放つや、いきなり銃を発砲した……コネティカット州の小さな町、ストックフォードで起きた奇怪な事件。霧の中を手探りするように、フェローズ署長は手がかりを求める。その言葉の意味は?犯人は?警察の捜査活動を厳密に描きつつ、本格推理の醍醐味を満喫させる巨匠ウォーの代表作登場。 内容紹介より



本書の解説の中で杉江松恋氏も触れていますが、確かにヒラリー・ウォーの作品の地味さと捜査のコツコツさ加減はクロフツに通じているかもしれません。事件自体が新聞の三面記事のネタみたいだし、ストーリーはその事件が解決に至った過程をドキュメンタリータッチで展開しているように感じます。しかし読後にいろいろ振り返ってみると、ウォーの作品の持つ地味なイメージのわりに、読者を引き込む冒頭での犯人の不気味な行動、本書に張られた突飛な伏線や設定された謎の数々など注目すべきところが多々あることに気付きます。特に、恨まれるような人物ではない被害者がなぜ殺されたのか。犯人の狙いは被害者だったのか、それともその弟だったのか。犯人に共謀者がいたのかどうなのか。この一連の流れの持って行き方が巧いと思いました。

『愚か者の祈り』ヒラリー・ウォー 創元推理文庫
『冷えきった週末』ヒラリー・ウォー 創元推理文庫




事件当夜は雨 (創元推理文庫)事件当夜は雨 (創元推理文庫)
(2000/05)
ヒラリー・ウォー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「愚か者の祈り」ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2008-06-26

☆☆☆

コネチカット州の小さな町で、顔を砕かれた若い女性の死体が発見された。頭蓋骨をもとに復元された生前の容貌が導き出したのは、女優になる夢を抱いて故郷を出た少女が惨殺されるまでの5年間の空白だった。その間に何が? ダナハー警部とマロイ刑事は被害者の過去を追い、ニューヨークへ……。『失踪当時の服装は』と並ぶ警察小説の巨匠の初期傑作。内容紹介より



ネタばれ気味です。ご注意ください。


被害者が女性で、死体が損傷されているために身元の特定に難航するところは『ながい眠り』(☆☆☆)と似ています。さらに、『愚か者…』では蝋による顔の復元作業、『ながい…』では目撃者の証言にもとづく容疑者の似顔絵の作成をどちらも専門家ではなく素人(!)が行っています。そして、『愚か者…』では、ダナハー警部が事実を積み重ねる地道な捜査方法を堅持するタイプで、部下のマロイ刑事が推理、直感を取り入れる新しいタイプですが、『ながい…』ではフェローズ署長がマロイ型でウィルクス刑事がダナハー型に代わっています(初期作品において役割の転換があったのでしょうか)。その相違について、おもに旧タイプから新タイプへの批判的発言などのやり取りがあるわけですが、最終的には推理、直感型がポイントをあげる展開になっています。これはウォーの考え方をうかがう上で興味深いところだと思います。

個人的には『愚か者…』のほうが良くできている気がします。『ながい…』は早々に犯人の見当がついてしまうので。しかし、地道な捜査活動を丁寧に描いている点では後者の作品が読みごたえがあるのかもしれません。また、四人の警察官の中で一番個性的なのはマイク・ダナハー警部でした。

『冷えきった週末』



愚か者の祈り (創元推理文庫)愚か者の祈り (創元推理文庫)
(2005/06/23)
ヒラリー・ウォー

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ながい眠り (創元推理文庫)ながい眠り (創元推理文庫)
(2005/01/31)
ヒラリー・ウォー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「冷えきった週末」ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2008-04-05

☆☆☆☆

2月29日の深夜、名士たちのパーティから一人の女性が姿を消し、翌朝、死体となって発見された。同時にプレイボーイの富豪が妻を残して失踪。二人を結ぶものは?もつれあう愛憎と打算を解きほぐすべくフェローズ署長の捜査はつづく。105項目のデータと29の疑問点を提出。綿密な伏線と徹底したフェアプレイで読者に挑戦する、警察小説の巨匠ウォー屈指の本格ミステリ、本邦初訳!内容紹介より



良い意味で普通の正統的な推理小説といった感じ。被害者やその娘や夫をはじめとして人物も描けているし、謎の仕込み方も予想できなかったです。今時のはったりの多いミステリと違って地味めなところも安心して読むことができた点です。犯人の意外性は大きいものがあります※が、ただ真犯人を徐々に追い詰めて行くサスペンス性には乏しい。

第十章くらいまでの話の展開が遅々としていて、カットバック手法やジェットコースター的ストーリーに慣らされている者にとっては少しきつかったです。フェローズ署長は名探偵なんだろうけど個性が薄い印象を受けます。私見ですが、ウォーって真面目そうな感じですね。

以下、ネタばれです。



※これは犯人の登場場面が偏っているからとも言えます。


冷えきった週末 (創元推理文庫)冷えきった週末 (創元推理文庫)
(2000/09)
ヒラリー ウォー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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