『殿下とパリの美女』 ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫HM

2012-09-09

☆☆☆

パリを訪れた英国皇太子バーティを、驚くべき知らせが待ち受けていた。長年の知りあいである伯爵家の娘の婚約者が、ムーラン・ルージュで衆人環視のなか射殺されたというのだ。やがて、娘に思いを寄せていた画家が容疑者として浮かんだが、納得のいかないバーティは、旧知の女優サラ・ベルナールとともに、独自に調査を開始した!19世紀末の花の都に舞台を移し、英国ミステリ界きっての才人が贈る殿下シリーズ第三弾 内容紹介より



ビクトリア女王の息子で後に エドワード七世になるアルバート・エドワード皇太子(愛称バーティ)を探偵役とした歴史ミステリのシリーズ第三作目。お妃が里帰りしている間、パリで羽を伸ばしていたバーティは旧知の間柄である伯爵家に関わる殺人事件を女優サラ・ベルナールを助手役にして調査をするという話。殺人現場がムーラン・ルージュであり、そこに出入りしていたロートレックも物語に登場する華やかな設定になっています。ウィキペディアを見る限りでは大変仲が悪かったらしい妻アレクサンドラとの手紙のやり取りや主人公が下心を抱いているサラ・ベルナールとの会話、またフランス革命を経た共和国らしく、普段の本国の環境とは勝手が違って、王族や貴族を敬ったりしないパリ市民が出てくるなど全編ユーモラスな雰囲気を帯びていました。探偵役である皇太子が目から鼻へ抜けるほどの優秀な名探偵ではなく、推理においても試行錯誤を繰り返す大食漢の女好きという造形が今回は特にハマっているように感じました。

『殿下と七つの死体』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫
ユーザータグ:ピーター・ラヴゼイ




殿下とパリの美女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)殿下とパリの美女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1995/01)
ピーター・ラヴゼイ

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ダイナマイト・パーティへの招待』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2009-12-08

☆☆☆☆

ヴィクトリア朝ロンドンでは、駅や公邸を狙った同一組織の犯行と思われる爆弾テロが続発していた。テロ事件を追うクリップ部長刑事は驚くべき情報を掴んだ。警察の中に内通者がいるらしい。しかもその人間が、クリップの長年の相棒サッカレイ巡査だと言うのだ。クリップはサッカレイの動向を探る一方、爆弾の専門家と偽ってテロ組織に潜入するが……奥深い謎とサスペンスフルな展開で贈る英国本格。文庫オリジナル。 内容紹介より



クリップ&サッカレイ・シリーズ。『降霊会の怪事件』の時に触れましたけれど、このシリーズは作品ごとに意図的にスタイルを変えていて、今回は、ほぼクリップがひとりで活躍する冒険小説風の作品です。
300ページに満たない作品ですが、アクション、スリラー、サスペンス、そしてユーモアが盛り込まれている良作だと思います。どの要素にもくどさが見られず、軽く楽しめます。文中、他シリーズの主人公アルバート・エドワードの名前をあげているところに作者のちょっとした遊び心を感じました。とにかく、昔から積み重ねてきた英国冒険小説の伝統の流れのなかで、フォーマットがしっかり出来上がっているから、英国人作家はこういう話を書かせると上手いですね。

クリップ&サッカレイ・シリーズ
『降霊会の怪事件』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫
『絞首台までご一緒に』ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫


タグ:ピーター・ラヴゼイ




ダイナマイト・パーティへの招待 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ダイナマイト・パーティへの招待 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2000/11)
ピーター・ラヴゼイ

商品詳細を見る


テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「絞首台までご一緒に」ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2008-01-16

☆☆☆

19世紀末ロンドン。テムズ河で水遊びをしていた女学生ハリエットはボートに乗った三人の男と犬を目撃した。翌日、テムズ河で他殺死体があがる。ハリエットが見た三人に容疑がかかり、彼女はクリップ部長刑事に協力を頼まれた。三人は最近発売されて話題の小説『ボートの三人男』の内容に沿って移動しているらしく、彼女たちも本を読んで追いかけることになったのだが……女学生と刑事の珍道中の行方は?  文庫オリジナル 内容紹介より




内容紹介にある、あの英国ユーモア小説の古典的傑作『ボートの三人男』の書名とこのカバーイラストを見たらやっぱり買いますね。余談ですが、英国や米国版のカバーイラストと見比べてみたら日本版が一番購買意欲をそそります。

そして、本書の内容も『ボートの三人男』という作品ありきという印象が強いです。 『ボートの…』の七光りと言うか後光というか、この古典を題材にとったことにより、本書はかなり得をしている感じです。『ボートの…』がかなりイメージを底上げしています。もし、それを除いてしまったら後には平凡なプロットしか残らないのではないのではないでしょうか。ラヴゼイにしては、ミステリの部分が弱いためになにか片手間に執筆した感じも受けてしまいました。

テムズ河の流れの如く(見たことはないけれど)のどかで牧歌的なユーモア・ミステリです。ただ残念なのは、本書に登場するボートの三人男たちの使い方がもったいないことです。作品の(『ボートの三人男』に沿った)雰囲気を盛り上げるためだけの存在として登場させるのではなく、彼らが物語の最後まで関わっていたら面白かったのにと思いました。ジェローム・K・ジェロームに万歳したくなる作品でした。


関連記事
降霊会の怪事件


絞首台までご一緒に (ハヤカワ・ミステリ文庫)絞首台までご一緒に (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2004/10)
ピーター ラヴゼイ

商品詳細を見る

テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「降霊会の怪事件」ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2007-07-24

☆☆

19世紀末ロンドン。上流家庭を狙った連続盗難事件を追うクリッブ部長刑事は、ひょんなことから人気霊媒師の降霊会に立ち会うことに。霊の存在などまるで信じないクリッブだったが、不気味な物音や闇を飛ぶ青白い手などの怪現象に驚愕する。騒然とする中、さらに霊媒師が不可解な感電死を遂げた!クリッブと部下のサッカレイ巡査は怪異現象に隠された巧緻な罠に挑むが……名匠が放つ本格ミステリ。 内容紹介より



クリップ&サッカレイ・シリーズ。
クリップ部長刑事とサッカレイ巡査のコンビのやり取りは笑えます。
登場人物たちの多くが秘密を抱え込んでいて、それが降霊会に関連して徐々に明らかにされる設定は面白いのですが、それぞれのキャラクターの個性が物足りません。ラブゼイの手慣れたテクニックだけが目立つような感じでした。こういう作品の後に書かれた傑作『偽のデュー警部』でラヴゼイが“化けた”と言われる意味が良く分かるような気がします。

ところで、『マダム・タッソーがお待ちかね』もこのシリーズの一作品なのですが、あのものすごく暗くて重い雰囲気と比べて明るくて、結構軽めの本書が同じシリーズだということに多少驚きました。それは森英俊さんの解説によると、同じ探偵を用いることで「物語がステロタイプ化」しないように、作者が意図的にスタイルを変えたからだそうです。

降霊会の怪事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)降霊会の怪事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2002/06)
ピーター ラヴゼイ

商品詳細を見る

テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「苦い林檎酒」ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2006-05-08

☆☆☆☆

アメリカ娘のアリスが英国へやってきた目的はこのわたしだった。
戦時下のリンゴ園で起こった殺人事件をめぐる裁判で、当時少年だったわたしは被告に不利な証言をした。それもあって米軍兵士が死刑となったのだが、アリスはその犯人の実の娘だったのだ。わざわざこの英国で、今は亡き父の無実を証明する気なのだった。リンゴ園の美しい娘にかかわる摩訶不思議な殺人……本格派の鬼才が贈る芳醇なヴィンテージ・ミステリ!                裏表紙あらすじより



死体入りラム酒の樽
のニュースを読んで、海外ミステリファンは真っ先にこの『苦い林檎酒』を思い浮かべたはずです。

このミステリは、おかしな味のするリンゴ酒の樽を開けてみたら、弾丸を撃ちこまれた頭蓋骨が見つかったことで事件が発覚します。おかしな味の原因は歯の詰めものによる金属汚染だったのです。弾丸はきれいに頭部を貫通していたので…。
リンゴ酒を仕込む過程で、「酵母の数をふやして発酵をさかんにする」ために、樽にマトンの脚を入れる習慣があったそうです。しかし、リンゴ酒は醸造酒ですが、ラム酒は蒸留酒なので酵母の作用は関係ありませんけどね。今回のケースは、あくまで死体防腐のためにラム酒樽詰めにしたようです。リンゴ酒の場合は酵母作用でマトンが骨だけになりますが、ラム酒漬けの死体はアルコール漬けの生物標本みたいだったのでしょう。あのネルソン提督の遺体もラム酒漬けにして本国に運ばれたそうなので。

本作品は、ドイツ空軍の空襲のために、ロンドンから田舎の農場へ疎開した少年が体験した殺人事件を、犯人とされた男の娘の求めに応じて二十一年前の出来事を回想し、事件を再検証するという話です。父親が戦死し、母親とも離ればなれになった少年の心情と疎開先の農場の美しい娘へ憧れる気持ち、優しく接してくれる米兵への慕情。そして、それらの感情が事件解明に及ぼした理由など。まさしく苦くて切ない物語です。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「殿下と七つの死体」ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2005-10-07

歴史上実在した人物を主人公にしたミステリ“殿下シリーズ”の第二作目。
水戸黄門や暴れん坊将軍みたいなもんですよね。

ヴィクトリア女王の長男、皇太子アルバート・エドワード(バーディ殿下)はイングランド中部バッキンガムシャーの貴族の大邸宅に狩猟パーティーのため滞在していた。
月曜日、晩さんの途中で突然倒れた招待客の女優が病院で死亡したとの知らせが入る。
火曜日、その女優のパトロンだった公爵が自殺する。
水曜日についに殺人が起きる。

王室や上流階級のスキャンダルになってしまうので警察に通報するわけにもいかず、
また、自分を名探偵だと思い込んでいるバーディ殿下は事件を解決したくて仕方がない。
でも、ますます死体は増えていく。本格派ユーモアミステリ。

シリーズ第一作目の『殿下と騎手』より面白かったです。
クリスティ生誕百周年を意識して書かれたらしく、クリスティのある作品を思い起こさせるような設定になっています。
警察が捜査すれば簡単に解決できそうな事件なのに、ラヴゼイが上手なのは時代設定をヴィクトリア朝にもって来て、やんごとない身分の方々を登場させ警察に介入させない状況を作ったところでしょう。クリスティの作品のように派手で劇的状況ではないけど、こんなふうにも書けるんだよというラヴゼイなりの彼女へのオマージュなのかな(少し、対抗心ありの)。

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー キャロリン・G・ハート ジョージ・P・ペレケーノス ジョアン・フルーク ローラ・チャイルズ マイクル・クライトン ジョー・R・ランズデール ドン・ウィンズロウ ジェームズ・パターソン ジェイムズ・パタースン エド・マクベイン ジル・チャーチル ヘニング・マンケル ローレンス・ブロック ポーラ・ゴズリング リチャード・マシスン レジナルド・ヒル D・M・ディヴァイン C・J・ボックス スチュアート・ウッズ ジャネット・イヴァノヴィッチ リリアン・J・ブラウン ピーター・ラヴゼイ パーネル・ホール S・J・ローザン レックス・スタウト アリス・キンバリー ジョルジュ・シムノン ジョー・ゴアズ マーガレット・ミラー ウィリアム・カッツ クレオ・コイル カール・ハイアセン レスリー・メイヤー アイザック・アシモフ ヒラリー・ウォー エド・ゴーマン カーター・ディクスン マイケル・ボンド ルイーズ・ペニー マーシャ・マラー ジェフリー・ディーヴァー ジョン・ディクスン・カー リタ・メイ・ブラウン ジェームズ・ヤッフェ イーヴリン・スミス ジャック・カーリイ キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア コリン・ホルト・ソーヤー ローラ・リップマン フレッド・ヴァルガス ポール・ドハティー ロブ・ライアン ジェフ・アボット G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ドナ・アンドリューズ ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント