『裏返しの男』フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫

2015-04-15

☆☆☆☆

フランス・アルプスの村で、羊が噛み殺される事件が続いた。喉に残された巨大な狼の歯型に人々は恐怖した。山で暮らす、変わり者の男こそ狼男だ、と主張し始めた女牧場主が殺され、その喉にはやはり巨大狼の噛み跡が……。グリズリー研究家のカナダ人とその村で暮らすカミーユは、友人だった女牧場主の死に引き寄せられ、事件に巻き込まれていく。そしてニュースで事件を知り、村の映像に忘れがたいかつての恋人カミーユが映ったのに気づいたアダムスベルグ警視が事件に興味を抱き……。仏ミステリ界の女王の傑作。CWA賞受賞シリーズ第二弾。 内容紹介より



メグレ警視シリーズの血脈を引いていると個人的に思っているアダムスベルグ警視シリーズの第二作目。警視の命を狙う女性への扱いや報告書を待っている時の雰囲気なんかが今回もメグレ物を彷彿とさせました。しかし、本筋のストーリーに彼が係わってくるのはかなり遅めで、前半は彼の元恋人と殺された牧場主が親代わりに育てた青年と羊飼いの老人の三人による、改造家畜運搬車を駆っての犯人追跡劇風ロードノベル(作中でも彼らがロードムービーと称しています)がメインになっています。物語としてはこの部分に中だるみを若干感じますけれど、三人、特に青年と老人の独特なキャラクターを際立たせてそれを読者が味わうという意味では効果的に働いていると思いました。ストーリーがじわじわと犯人を追い詰めていくというスリリングな展開ではなく、最終盤に事態が急転直下するスタイルを採るためにミステリ的にはやや平板な印象が残りました。ただ、それはあくまでもこの作者にしてはという話ですので。

『青チョークの男』フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫




裏返しの男 (創元推理文庫)裏返しの男 (創元推理文庫)
(2012/01/27)
フレッド・ヴァルガス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『彼の個人的な運命』 フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫

2013-04-30

☆☆☆☆

三人の若き歴史学者、マルク、マティアス、リュシアンとマルクの伯父で元刑事が住むボロ館に元内務省調査員が連れて来たのは、凄惨な女性連続殺人事件の最有力容疑者だった。彼の無実を信じる元売春婦に託されたこの青年はほんとうに無実なのか?彼は事件現場近くで目撃され、指紋もしっかり採取されている。三人と元内務省調査員が事件を探る。CWA賞受賞シリーズの傑作! 内容紹介より



〈三聖人シリーズ〉の三作目。
発達障害気味の青年に連続殺人犯の容疑がかかり、子供時代に彼の面倒を見ていた元娼婦から頼まれた元内務省調査員が三聖人の住むボロ館に容疑者の青年を匿うことになる。青年から事件に巻き込まれた経緯を訊くうちに八年前に彼が関わったある事件が明らかになるというもの。
『論理は右手に』ほどではないのですが、今回も元内務省調査員ケルヴェレールがメインになって物語が進んでいます。ただ、三聖人の存在感は前作より大きくなってはいます。しかし、できるならもう少しこの歴史学者たちの専門とするそれぞれの時代(中世、先史時代、第一次大戦)に関するペダンチックなエピソードなりを取り入れて欲しかったところです。また、ミステリの出来としては、前作の『論理は右手に』やアダムスベルグ・シリーズの『青チョークの男』よりも劣るように感じました。特に庭師へのたびたびの扱いについてはやや冗漫な印象を受けました。それはともかく、この作者が醸し出す雰囲気というのは独特でありながら、文章は非常に読み易い(訳は藤田真利子氏)ので、未訳の作品も是非邦訳して欲しいものです。

『青チョークの男』
『論理は右手に』




彼の個人的な運命 (創元推理文庫)彼の個人的な運命 (創元推理文庫)
(2012/08/25)
フレッド・ヴァルガス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『論理は右手に』フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫

2009-07-02

☆☆☆☆

パリの街路樹の根もとに落ちていた犬の糞から出た人骨。元内務省調査員の変わり者・ケルヴェールは、独自の調査を開始する。若い歴史学者マルク=通称聖マルコを助手に、彼はブルターニュの村の犬を探り当てる。そこでは最近老女が海辺で事故死していた。骨は彼女のものなのか? ケルヴェールが、聖マルコ、聖マタイとともに老女の死の真相に迫る。〈三聖人シリーズ〉第二弾。 内容紹介より



『死者を起こせ』に続く〈三聖人シリーズ〉の二作目。前作同様に〈三聖人〉と元刑事が
主人公なのかと思っていたら、ケルヴェールという元内務省調査員が主人公でした。それにしても、この作者の造型するエキセントリックな登場人物たちはどれもかなり味があります。〈三聖人〉たちも『青チョークの男』のアダムスベルグもそうですが、このペットのヒキガエルをポケットに入れて持ち歩く男ケルヴェールの場合は、作者が人物背景として彼に背負わした過去が、非常に上手く作用して魅力的なキャラクター像を造り上げていますし、さらに、その過去をストーリー上にも絡ませるというテクニックも見事だと思います。メグレ警視シリーズのようなフランス警察ミステリの流れを汲む独特の人物造型だけでなく、この作者はプロットの構築にしても丁寧かつエスプリに富んでいるんですね。
☆五つに近い出来上がりですが、今回は、三聖人たちのやり取り、特にリュシアン(通称聖ルカ)の登場場面が少なかったのが物足りませんでした。プロフェッショナルなケルヴェールとアマチュアのマルクのやり取りは面白かったのですが。それから、ページ数を増やしてでも後半部分に犯人から主人公たちに対する悪巧みや反撃する場面を入れてあればとも感じました。『死者を起こせ』でも後半部分に弱い点があったようなないような……。



論理は右手に (創元推理文庫)論理は右手に (創元推理文庫)
(2008/04)
フレッド ヴァルガス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『青チョークの男』 フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫

2008-10-14

☆☆☆☆

パリの街で夜毎、路上に青チョークで円が描かれ、その中に様々なガラクタが置かれるという奇妙な出来事が続いていた。蝋燭、人形の頭、クリップ……。変わり者の哲学者の仕業か? しかし、ある朝、そこにあったのは喉を切られた女性の死体だった。そして、また一つ、また一つ死体が……。警察署長アダムスベルグが事件に挑む。仏ミステリ界の女王による大人気シリーズ第一弾!   内容紹介より



ボロ館の各階に住む専門を異にする三人の若い歴史学者と元刑事が主人公の、非常にユニークなキャラクター設定が可笑しかった『死者を起こせ』に較べると本シリーズの主人公は警察ミステリの常道とも言える設定です。あるいは、メグレ警視の流れを汲んでいると言えるかもしれません。容疑者へ取り調べが確証を伴わない予見によるものだったりして、第六感型の主人公のひらめきがやや好都合すぎる気もしますが、物語の緩い感じとは裏腹にプロットは緻密に練られており後半にかけて感心しました。

主人公のアダムスベルグと部下のダングラールの関係*は、レンデルのウェクスフォードとバーデンのそれに似ています。しかし、その他の人物にはレンデル特有の不愉快な、または、生理的に嫌な人物が登場しないところにレンデルとヴァルガスの人間にたいするアプローチの違いが見えているみたいで興味を惹かれました。ヴァルガスの場合は、この一冊のみで判断するのは早計ですが、今後、アイデアと技術が優れているこの二人の作家を対比させてみるのは面白そうです。ともかく、この先楽しみなシリーズではあります。

*いわゆる、人の顔にゴキブリが見えるか否か、という二人の間で交わされる論争も面白い(p24~26)。



青チョークの男 (創元推理文庫)青チョークの男 (創元推理文庫)
(2006/03)
フレッド ヴァルガス

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