『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-03-01

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

「この百年間に世に出た怪奇小説で傑作といえるのは、わたしにはシャーリー・ジャクソンの『たたり』と、この『ねじの回転』の二作だけという気がする」スティーヴン・キング(『死の舞踏』より) 幼い姉弟の家庭教師が体験した恐怖を独自の手法で描き、ゴースト・ストーリーの古典として称賛される一方で、その難解さばかりが喧伝されてきたこの名作が、泰西怪談に精通する役者により、真の姿をここに現す。あなたは、この物語の本当の恐ろしさを、ここにはじめて知ることになるだろう。他に、数多い短篇の中から厳選された、怪奇譚四篇を併録。ホラー作家としてのヘンリー・ジェイムズに焦点を当てた、本邦初の傑作集である。 内容紹介より



収録作品、「ねじの回転」「古衣装の物語」「幽霊貸家」「オーウェン・ウィングレイヴ」「本当に正しい事」。

内容紹介文には「姉弟」とありますが、本文では10歳の男の子、8歳の女の子の兄妹関係です。
本書が難解だという話は知っていてこれまで食指が動かなかったのですけれど、実際に読んでみたら難解というか解釈の仕方がいろいろとあるように感じました。それはとにかくそもそもの原因となった出来事の記述の曖昧さによるのでしょう。家庭教師の手記という形式であるために視点が固定されて、読者は彼女の述べることを信じる、または懐疑的な見方をする、という立場に置かれるために、彼女が見る二人の幽霊の存在と生前に彼らが幼い兄妹に行ったという邪悪な行為(ある程度予測はつくものの)の不確かさが土台になっているせいで、語り部が描く物語の信憑性が揺らぐのです。また、訳者後書きで英米人の階級意識に言及しているように、英国社会の存在する階級制度が物語の大きな背景となっています。家庭教師の雇い主である兄妹の伯父は眉目秀麗で性格も温厚の上流階級に属する男性ですが、その階級につきものの、養育を乳母や家庭教師任せにして、それらにまつわるトラブルが持ち込まれるのを嫌う無責任ともとれる傾向が顕著です。そして、家庭教師は父親は社会的には地位のある牧師の身分ですが経済的に困窮し、その末娘である彼女は家を出て自ら職を見つけなければなりません。幽霊の片割れの女も前任の家庭教師でした。階級の下である女中頭は、新任の家庭教師に全面的に協力しますが、兄妹を盲目的に可愛がり、彼らの問題には見て見ぬ振りをする態度を取ります。そして男の子に悪影響を及ぼしていた下男は当然階級的には一番下の身分に当たります。家庭教師は雇い主に恋心を抱き、女中頭は上に者に対して無批判。このような各階級間の差異をシンボル化しているようにも感じました。これは米国生まれ育ちの作者による英国階級社会へのアイロニーを含んでいるのかもしれません。

ほかに他の作品とは異なる捻りが加えられた幽霊貸家」は、毛色が変わった話で面白かったです。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ビースト』ピーター・ベンチリー 角川ホラー文庫

2017-02-06

Tag : ホラー

☆☆☆☆

それは、長いあいだ、誰にも知られることなく生存していた。深く喰らい海の中で、獲物を求めてただ漂っていた。それは、眠りというものを知らなかった。そして、自分がどれほどの力を持っているのか知らなかった。唯一の天敵をのぞいて、全ての生き物は獲物だった。それは、ひどい空腹を感じていた。自然環境の変化で、獲物が激減していたのだ。それは、深海からゆっくりと浮上した……。戦慄の長編、待望の文庫化。 内容紹介より



内容紹介文だけを読むと、シオドア・スタージョンの短篇「それ」が頭に浮かんできたのですけれど、中身は海洋パニックスリラー系の話でした。舞台となるのはバミューダ諸島、長期間に渡って外洋をヨットで旅する夫婦、ダイビングを趣味にしている、金持ちの親を持つ双子の兄妹、彼らに雇われた漁師、動物カメラマンと彼女が乗船した潜水艇のスタッフ、などの“それ”の獲物となる被害者が大勢登場して、それぞれにまつわるエピソードを添えて話を進めていくという、パニックスリラー物の常套の手法をとっています。そして、地元の賢人といえるような老漁師が当地に駐留している海軍中尉とともに“それ”と立ち向かう(立ち向かわなければならなくなる)、という展開です。そこに一つの主要なテーマとして、“それ”が深海から人間たちの前に現われざるを得なくなったそもそもの原因に、漁業による水産資源の枯渇や、それに伴う海洋生態系の破壊をあげています。日本の漁船による底引き網漁にも言及してあって、日本人としては耳の痛い話ですが……。主人公である漁師の造形はしっかりしていて存在感がありますが、環境破壊や汚染についてたびたび触れる以外には、全体的にはオーソドックスなパニックスリラーそのもので、それ以上でもそれ以下でもなく、特別に目新しい点が感じられなかったのは残念でした。

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ジャンル : 本・雑誌

『みんな行ってしまう』マイケル・マーシャル・スミス 創元SF文庫

2017-02-03

Tag : 短編集 ホラー SF

☆☆☆

『スペアーズ』『ワン・オヴ・アス』で知られる鬼才作家M・M・スミスが贈る、哀感と郷愁に満ちたSFホラー傑作集。小品ながら忘れがたい味わいを残す表題作を巻頭に、奇跡の医療用ナノテクがもたらした人類の意外な終末「地獄はみずから大きくなった」、田舎町に暮らす不思議な絵描きを巻き込んだ事件を描く英国幻想文学大賞受賞作「猫を描いた男」、近未来の巨大ハイテク・テーマパーク兼養老院での奇怪な冒険劇「ワンダー・ワールドの驚異」まで12編を厳選して収録。 内容紹介より



「みんな行ってしまう」「地獄はみずから大きくなった」「あとで」「猫を描いた男」「バックアップ・ファイル」「死よりも苦く」「ダイエット地獄」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」「いつも」「ワンダー・ワールドの驚異」

子供が成長して大人になっていく過程で少しずつ失っていったもの、消えていったもの、無くしたものを少年の形にして表した、ブラッドベリ風な感傷性をもった物悲しい作品「みんな行ってしまう」。ナノテクに医療科学を組み合わせた最先端医療用ソフトとハードウェアを開発しようとした三人組。その中のひとりが研究中に亡くなったため、研究目的はまったく違った方向へ向かってしまう。医学と心霊の取り合わせが、この作品においては木に竹を接いだみたいな心地悪さを感じさせる「地獄はみずから大きくなった」。交通事故で突然に愛妻を失った夫のとった行動は……。愛さえあれば奇跡が起き、愛ゆえに何ごとも成し遂げられる、ということでしょうか。これまでのホラー作品を一歩進めたような物語「あとで」。夫による家庭内暴力から妻や子供が逃れてくる場面が、三回繰り返されるところがワンパターン気味に感じられました。全体的に振り切れていない、詰めが甘い印象が残った「猫を描いた男」。幸せの頂点と感じられる瞬間をバックアップして、なにか不都合が生じたときにバックアップした時点へ戻ることができるサービスを受けていた男。妻子を事故で亡くした時、彼は過去に戻ろうとするが……、「あとで」の流れを汲んでいる話ですけれど、かなり苦い結末が待っている「バックアップ・ファイル」。「死よりも苦く」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」、これらは心の影の部分をテーマにした作品ですが、それゆえに少々インパクトがなく、全体的に平板な感じがしました。「闇の国」は、実際に見た、ただ厭な夢を物語に仕立てただけのような。これまでのサイズのジーンズが履けなくなった男が、ダイエットも運動もくそくらえと思って、タイムマシンを作り昔の体形を取り戻そうとする、おバカSFの「ダイエット地獄」。母親を亡くした娘に父親がクリスマスプレゼントとにラッピングした贈り物。センチメンタルな「いつも」。テーマパーク内に設けられた老人向けの住居で犯行を重ねる殺し屋。依頼を受けた彼は、ターゲットの老女が暮らす屋敷に入り込むのだが。テーマパークが帯びる狂気、奇妙さを描いた「ワンダー・ワールドの驚異」。

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ジャンル : 本・雑誌

『ブルー・ワールド』ロバート・R・マキャモン 文春文庫

2017-01-31

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

妻と寝たはずなのに目覚めると隣りに骸骨が横たわっているのを発見した男。往年の怪奇俳優の化粧箱に隠されていた秘密。新興別荘地のハロウィーンの命がけの仮装ごっこ。内も外も真っ赤な家に住む不思議な一家。ポルノ・スターに魅入られた若き神父。乗る人を待つばかりのスポーツカーのように軽快なストーリーテリングが絶妙。 内容紹介より



「スズメバチの夏」「メーキャプ」「死の都」「ミミズ小隊」「針」「キイスケのカゴ」「アイ・スクリーム・マン」「そいつがドアをノックする」「チコ」「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」「赤い家」「なにかが通りすぎていった」「ブルー・ワールド」。

スズメバチとの意思の疎通ができる能力を持った少年が、田舎の町を支配する「スズメバチの夏」。化粧箱の中の品を使ってメーキャプすると異様な力が身に付く「メーキャプ」。妻を含めた町の住人たちや生物が一夜にして肉を剥ぎ取られた姿に変わり果てた「死の都」。『ナイト・ソウルズ』(新潮文庫)に「夜襲部隊」として収録されている「ミミズ小隊」。よくわからない「針」。キイスケというカナリアを飼っている、刑務所内で魔術師と呼ばれる受刑者の老人。外の世界を自由に飛び回るカナリアの見聞きした様子を老人が受刑者たちに語って聴かせる「キイスケのカゴ」。核戦争後、ある一家の父親が夢想する幸せな家庭団らんを描いた、切ない「アイ・スクリーム・マン」。『戦慄のハロウィーン』(徳間文庫)に「ドアにノックの音が……」というタイトルで収録されている作品「そいつがドアをノックする」。障碍をもった男の子が実はものすごい超能力を持ちあわせていたという「チコ」。かつてテレビ・シリーズのスーパーヒーロー役だった老人が、ヒーロー時代のマスクとスーツを身にまとい、女友だちを殺害した連続殺人犯を追いかける「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」、大量の新聞や雑誌を蒐集し、人々の行動を秒単位で記載する“見張り男”などの登場人物たちも充実して、この一編だけではもったいない。灰色の家に住み、同じ部品工場で働く町の人々。その家々のひとつに暮らす青年に、突然、赤く塗られた一軒の家の家族が教えた人生のありかたとは……「赤い家」。原因不明のカタストロフが頻発する世界。コンクリートは水銀のように液状化し、水が爆発する一方でガソリンが飲料できるようになり、霧雨は血と生肉やはらわたを降らせ、人体が突然爆発して燃えあがり、重力カタパルトが畑や家屋を押しつぶす。ある一家の子供部屋は一夜にして真空状態になり、子供を失った母親は精神に変調をきたし、そして、変化はその夫婦の身体にも現われ始める。想像を超えた圧倒的で理不尽な力、環境の激変下での一組の夫婦の愛情,母性愛を痛切に描いた終末世界をテーマにした傑作「なにかが通りすぎていった」。いわゆるboy meets girlものですが、変わっているのはふたりが神父とセクシー女優なこと。教会側からしたら、堕落して汚れた街の一画は足を踏み入れるなどもってのほかであり、布教など考えられない場所。彼女に寄り添ううちに考えが変わっていった神父が最後に決めた行動とは……。結末もありきたりでない、サイコキラーを絡めた中篇「ブルー・ワールド」。

『戦慄のハロウィーン』アラン・ライアン編 徳間文庫
『ナイト・ソウルズ』キング、マキャモン他 新潮文庫

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ジャンル : 本・雑誌

『北極星号の船長 ドイル傑作集2』コナン・ドイル 創元推理文庫

2017-01-28

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆☆

氷に閉ざされた極地の洋上を舞台にした怪異譚「北極星号の船長」を表題に、高空飛行の限界に挑むパイロットが目撃した怪物たちの世界「大空の恐怖」や、アンティークが呼びさます古の出来事「革の漏斗」「銀の斧」、ファム・ファタルに翻弄されてゆく男の曲折をつぶさに描く「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」など十二編を収録。シャーロック・ホームズを生んだコナン・ドイルの、怪奇小説作家としての横顔に焦点を定める。理趣と夢想・幻想のあわいを軽やかに往還する、ドイル・コレクション第二集。 内容紹介より



「大空の恐怖」「北極星号の船長」「樽工場の怪」「青の洞窟の恐怖」「革の漏斗」「銀の斧」「ヴェールの向こう」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」

「大空の恐怖」「青の洞窟の恐怖」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」、これらの作品には挿絵が付いています。虎が棲むジャングルのような、大気圏上層にも人間を襲う怪物が存在するジャングルがあると信じるパイロットが自説を証明しようとする「大空の恐怖」、怪物の挿絵がまったく怖くありません。婚約者と死別した捕鯨船の船長の身に起きた不可思議な出来事の顛末を描いたロマンスホラー「北極星号の船長」、アフリカの大河の河口に建つ樽工場、大雨による氾濫が起きて以降、工場の従業員が夜間に姿をくらますという事件が起きる。いかにもアフリカを舞台にして成り立つ物語「樽工場の怪」。石灰岩の丘陵にある、青蛍石を採掘するため古代ローマ人が掘った鉱坑にまつわる化け物の噂話。その地方に転地して養生している男が、鉱坑を探検しようとして体験した恐怖談「青の洞窟の恐怖」。昔、名高い毒婦の拷問に使用された革の漏斗がもたらす悪夢を描いた「革の漏斗」。中世時代に作られた、妖刀のような魔力を帯びた斧が起こす連続殺人事件「銀の斧」。イングランドに残るローマ人の砦の跡を見学した夫婦によみがえる生まれ変わりの記憶を描いた不思議な話「ヴェールの向こう」。船上で亡くなり水葬にされた男が、まだ訃報を知らされていない新妻の前に現れる「深き淵より」。降霊会がらみの「火あそび」。催眠術を用いて男を意のままにしようとする悪女を描いた「ジョン・バリントン・カウルズ」と「寄生体」。 
オカルトチックな様相をまといながらも、怪談一辺倒にならずに科学的な観点から不可解な事象や怪異な事件を分析しようとする話も多く、それが作品を二重に楽しめる要因になっている気がしました。

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ジャンル : 本・雑誌

『悪魔は夜はばたく』ディーン・R・クーンツ 創元推理文庫

2017-01-25

Tag : ホラー

☆☆☆

「メアリー・バーゲンか……」男は虫の息でうめき、口から噴き出す血がパトカーの窓ガラスを染める。透視能力者メアリーに追いつめられた殺人犯が、いま警察の手で射殺された。だが、男はなぜ彼女の名を呼んだのか?それは新たな大量殺人の前兆にすぎなかった!その夜からメアリーはさらに凄惨な殺人現場の幻視に見舞われるばかりか、ポルターガイストにまで襲われる。しかし、そのときはまだ知るよしもなかった……この事件が彼女自身の忌まわしい過去さえもよみがえらせることになろうとは!霊能者と連続殺人鬼の対決を描き、ベストセラー作家の原点となった傑作ホラー。これを読まなければクーンツは語れない! 内容紹介より



1977年に発表された本作品は、巻末の創元推理文庫編集部編 ディーン・クーンツ著作リストによると、フィクションでは37作目にあたるようで、三橋暁氏の解説によれば著者の出世作といえるそうです。霊能力者のヒロインを核にしてホラーとミステリを融合させた物語で、殺人事件を事前に察知できる能力を持ったヒロインが警察に協力して連続殺人犯を追います。しかし、その過程で彼女の透視能力を妨げようとするかのように、これまでにないほどひどい惨劇のイメージが浮かんだり、彼女を狙ったポルターガイスト現象が起きたりします。そのようなモダンホラーの部分はかなり上手く効果的に仕上がっていると思うのですけれど、ミステリ部分では、真犯人の正体が早々に見当が付くにもかかわらず読者の目をそらすような工夫はなく、わざとらしいこれ見よがしなミスリードだけが目につく印象が残りました。ただ、クーンツの創作人生を方向付けた指針、あるいは転換点となるような作品と言われれば、なるほどそうなのだという感じは受けました。

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ディーン・クーンツ




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ジャンル : 本・雑誌

『ローズマリーの赤ちゃん』アイラ・レヴィン ハヤカワ文庫NV

2017-01-22

Tag : ホラー

☆☆☆☆

おぞましい悪夢にうなされた夜、ローズマリーは身ごもった。そのときから、彼女の平穏な日々は奇怪な様相を呈し始める。しきりに襲う腹部の異常な激痛と生肉への執着、そして医師や隣人や夫の不審な言動。そのうえ、彼女に何かを知らせようとした友人は怪死を遂げた。だがそれさえも彼女に迫り来る恐怖のほんの序章にすぎなかったのだ!サスペンスの鬼才が大都会に住む現代人の狂気と孤独を描いたモダンホラーの金字塔 内容紹介より



『ステップフォードの妻たち』でも感じたことですけれど、この作家は時節の経過や時間の流れをさりげなくスムーズに流れるように描くのが非常に巧いです。草木がどうした、天気がどうだ、とかいう余計な描写を極力省いているように思いますし、それが読みやすさに繋がっているようにも感じます。
悪魔主義者たちの醜悪な企みなのか、それとも妊娠による身体の変化が原因で精神も変調をきたした単なる思い込みなのか、過去に数々のスキャンダラスな事件や事故が起きているアパートに越してきたヒロインの身に降り掛かる出来事。彼女が正しいのか、あるいは周囲の人たちが正しいのか、こういう構図は『ステップフォードの妻たち』においても見られましたが、本書ではもう少しヒロインのパラノイア傾向を強調して、読者を惑わせても良かったのではないかとも感じました。一方、悪魔主義者たちの真の意図が衝撃的であるとともに、また、母親になったヒロインの変化に捻りが設けてあって、それがこの作品をただのホラー小説に止まらない味付けをしている印象を受けました。かつ、とりようによっては、これからの行く末にほのかな希望をもたらしているような気もします。日本人に対するステレオタイプな一面が描かれているところには苦笑いしかでません。

『ステップフォードの妻たち』

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ジャンル : 本・雑誌

『恐怖の愉しみ 下』デ・ラ・メア 他 創元推理文庫

2017-01-19

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

怪談は語り口がすべてである。そしてその醍醐味は短編にあるといっても過言ではない。本書は、幽霊怪談の嚆矢ともいうべきデフォーの『ミセス・ヴィールの幽霊』を頭に,レ・ファニュ、E・F・ベンスン、デ・ラ・メア、A・E・コッパード、ヒュー・ウォウポール、そしてW・W・ジェイコブズら総勢二十四人の手練による〈百物語〉の真打ちである。英米の会談を訳しては名匠とうたわれた平井呈一が、みずから選び抜き、腕に縒りをかけて訳出した名品の数々。まさに恐怖の愉しみを味わうには絶好の書! 下巻内容紹介より



「失踪」ウォルター・デ・ラ・メア、「色絵の皿」マージョリ・ボーエン、「壁画のなかの顔」アーノルド・スミス、「一対の手—ある老嬢の怪談—」アーサー・キラ=クーチ、「徴税所」W・W・ジェイコブズ、「角店」シンシア・アスキス、「誰が呼んだ?」ジェイムズ・レイヴァー、「二人提督」ジョン・メトカーフ、「シャーロットの鏡」ロバート・H・ベンスン、「ジャーミン街奇譚」A・J・アラン、「幽霊駅馬車」アメリア・B・エドワーズ、「南西の部屋」メアリ・E・ウィルキンズ=フリーマン。
下巻には以上の十二編が収録されています。


「失踪」幽霊も悪魔も骸骨も出て来ない話、結局人間の所業がそんなものよりも恐ろしいということなのでしょうか。デブで大柄な幽霊という見た目が可笑しいし、実は性別も……なのですが、趣味の品物に執着して孤独を紛らわせる姿に哀れさを感じる「色絵の皿」。悪魔、魔物封印系の話壁画のなかの顔」。幼くして亡くなったこどもの幽霊、生前暮らした屋敷から離れられず、移り住んでくる住人を選べない、いたいけな幽霊の「一対の手—ある老嬢の怪談—」。死を呼ぶ幽霊屋敷に肝試しで一夜を過ごそうとする四人の男たちに起きた恐怖体験談「徴税所」。偶然見かけた骨董品店で、安く買い求めた品が非常に高価なものだと知った客の男は、オークションで手に入った売上金の半分を返金しようと再度店を訪れるが……、「角店」。ショートショートホラーの「誰が呼んだ?」。不思議な味わいの「二人提督」。十三人の神父が語る奇譚三編が収められている「シャーロットの鏡」。差出人の名前のない、芝居の切符を受け取った男が体験したへんてこな話「ジャーミン街奇譚」。道に迷った男が乗り合わせた乗り合い馬車は「幽霊駅馬車」。下宿人をおいている屋敷を切り盛りする姉妹、亡くなった叔母の使っていた部屋で起きる気味の悪い現象を描いた「南西の部屋」。
収録作品はバラエティの富んでいるため、読んでいて飽きません。『淑やかな悪夢 英米女流怪談集』『怪奇礼讃』にも作品が収められている作家が目につきました。

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ジャンル : 本・雑誌

『M・R・ジェイムズ傑作集』M・R・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-01-16

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

M・R・ジェイムズの怪奇小説は古典的であり、その恐怖と戦慄の盛り上がりは、まさに「怪談」の名をほしいままにしているといえよう。彼の生み出す妖魔たちは、読者にもその気味の悪い手をふれてきそうなほどなまなましい。古い銅版画の中で妖怪が動きまわるという奇怪な作品「銅版画」、あるはずのない十三号室が実は存在するという「十三号室」などをはじめ、迷路をテーマに悪夢のような世界を描きだした特異な作品「ハンフリーズ氏とその遺産」を含む17編を収録。 内容紹介より



「消えた心臓」「銅版画」「秦皮(とねりこ)の木」「十三号室」「マグナス伯爵」「笛吹かば現われん」「縛り首の丘」「人を呪わば」「ハンフリーズ氏とその遺産」「ウィットミンスター寺院の僧坊」「寺院史夜話」「呪われた人形の家」「猟奇への戒め」「一夕の団欒」「ある男がお墓のそばに住んでいました」「鼠」「公園夜景」

収録作品は、黒魔術、秘儀、魔法といったものにはまった人物が起こした事件、または彼らが遺した品物が起こす出来事を元にした話を伝聞形式で表したものが多いように思います。読む前にはおどろおどろしい様式美を帯びたゴシックホラーをイメージしていたのですけれど、意外にも実際には軽口をまじえるところがあって、予想していたより重々しく感じなかった印象でした。作品は良い意味でベーシックな怪談であり、行間から血液体液や肉片が飛び散るみたいなスプラッターやモダンホラーとは正反対に位置しています。
有名な「銅版画」は、画のなかの気味の悪い何者かが動き回って、ある事件を再現する話。「呪われた人形の家」も同様に、ある一家に起きた凄惨な事件がドールハウスで再現されるという話。過去を映しだす望遠鏡の「縛り首の丘」。「秦皮(とねりこ)の木」は、魔女裁判にかかわった地元の名士が魔女に呪いをかけられ、一家の跡継ぎが奇妙な死に方をするのですが、とねりこの木に巣食う生き物が非常に無気味です。存在するはずのない部屋が出現する「十三号室」に宿泊するものは……。

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ジャンル : 本・雑誌

『怪奇礼讃』E・F・ベンスン/A・ブラックウッド 他 創元推理文庫

2016-12-28

☆☆☆

本書は怪奇小説のアンソロジーである。19世紀末から20世紀前半にかけての、英国の古風な、それでいて少しひねくれた、変わった味の作品を中心にまとめたものである。不思議な話、変な話、謎めいた話、そしてなおかつ怖い話を……。ベンスン、ダンセイニ,ブラックウッドをはじめ、怪談通を唸らせるウェイクフィールド、ボウエン、バレイジ、奇妙な味わいのマクダーミッドやトマス、怪奇にユーモアをしのばせたベアリング=グールドやアラン、そして極めつきの恐怖譚、ベリスフォード「のど斬り農場」……巨匠の名品から知られざる作家の幻の逸品まで、本邦初訳作を中心に22編を厳選。古雅にして多彩な怪奇小説をご賞味あれ。 内容紹介より



収録作品、
「塔」マーガニタ・ラスキ、「失われた子供たちの谷」ウィリアム・ホープ・ホジスン、「よそ者」ヒュー・マクダーミッド、「跫音(あしおと)」E・F・ベンスン、「ばあやの話」H・R・ウェイクフィールド、「祖父さんの家で」ダイラン・トマス、「メアリー・アンセル」マーティン・アームストロング、「「悪魔の館」奇譚」ローザ・マルホランド、「谷間の幽霊」ロード・ダンセイニ、「囁く者」アルジャナン・ブラックウッド、「地獄への旅」ジェイムズ・ホック、「二時半ちょうどに」マージョリー・ボウエン、「今日と明日のはざまで」A・M・バレイジ、「髪」A・J・アラン、「溺れた婦人」エイドリアン・アリントン、「「ジョン・グラドウィンが言うには」」オリヴァー・オニオンズ、「死は素敵な別れ」S・ベアリング=グールド、「昔馴染みの島」メアリ・エリザベス・ブラッドン、「オリヴァー・カーマイクル氏」エイミアス・ノースコート、「死は共に在り」メアリ・コルモングダリー、「ある幽霊の回顧録」G・W・ストーニア、「のど斬り農場」J・D・ベリスフォード。

ミステリーソーンやトワイライトゾーン系の話が好きな方にはお勧めしたい、ホラーに偏らない一風変わった作品が収録された短篇集です。以下、主な作品の感想です。

出征した婚約者が戦死し、宿泊所を兼ねたパブの主人と結婚した女性。日常生活を淡々と過ごす彼女の唯一の心の癒しは、海に面する丘に登って最愛の婚約者の幽霊と過ごすこと。彼女の痛切なある願いが、宿泊客の一言で叶えられる。とても哀切漂う作品「メアリー・アンセル」。
アレクサンドリアで商売をする英国人の主人公は、金のこととなると非常に冷酷になる人物。借金のかたに店兼住居を取り上げ、貧しい一家を立ち退かせるが、その家族のなかの老婆が彼にむかって呪文を唱えると、その夜から歩く彼の後から足音が聴こえるようになり、彼を悩ませる。オチが日本の怪談話のような「跫音」。
物乞いに呪いをかけられた雑貨店の店主。店の窓の外で繰り広げられるミステリーゾーンみたいな時の錯綜劇「今日と明日のはざまで」。
未来で起きた事故あるいは事件によって幽霊になった考えられる女性の亡霊が現代に現れる話。かなり奇抜な着想が面白いし、女性の身に何が起きたのかを考えると恐い「溺れた婦人」。
「塔」は、廃墟と化した村に残された「犧の塔(四百七十階段)」と呼ばれる建築物。そこを訪れた新妻の無気味な体験。こういう怪談話の場合は、地下墓地に降りていく話が多いと思うのですが、この作品は登って降りてくる話です。でも、降りても降りても……。
「死は素敵な別れ」は、面白みのない、謹厳なプロテスタントの妻にうんざりしていた夫が、その妻が亡くなったため若い女性と結婚しようとする。それを快く思わない妻の幽霊が夫の邪魔をするというホラーコメディ。婚約者との結婚を諦めようと彼が訳を話すと、実は婚約者にも幽霊が取り憑いているというのだった。メイ・シンクレアの「証拠の性質」も似たような設定でした。同じくホラーとコメディが融合した「のど斬り農場」。
シオドア・スタージョンの「それ」のように、太古から地球に存在する得体の知れないもの。それと接触し、無情を感じさせる「谷間の幽霊」、知識、知恵、芸術、宗教、思想が書物を通してそれに浸透し、来る者に囁きかける「囁く者」、それが実体化して人間界に潜み、接触した一部の人間に悪を感じさせる「よそ者」、善悪に別れた二つのそれ(魂)が巡り会って、善が悪によって攻撃される「オリヴァー・カーマイクル氏」。
事故死したばかりの老人の過去がよみがえる「「ジョン・グラドウィンが言うには」」、 バスに轢かれた男が数年間の幽霊としての日常と意見を語る「ある幽霊の回顧録」、生者と生前彼と親しかった死者たちがある孤島で巡り会う、せつない「昔馴染みの島」。

今年最後の更新になります。当最果ての孤島ブログを訪れて頂いた皆様、誠にありがとうございます。どうぞ良いお年をお迎え下さい。

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ジャンル : 本・雑誌

『たたり』シャーリイ・ジャクスン 創元推理文庫

2016-12-19

Tag : ホラー

☆☆☆☆

八十年の歳月を、闇を抱いてひっそりと建ち続ける〈丘の屋敷〉。心霊学研究者のモンタギュー博士は調査のため、そこに協力者を呼び集めた。ポルターガイスト現象の経験者エレーナ、透視能力を持つセオドラ、そして〈屋敷〉の持ち主の甥ルーク。迷宮のように入り組んだ〈屋敷〉は、まるで意志を持つかのように四人の眼前に怪異を繰り広げる。そして、図書館に隠された一冊の手稿が〈屋敷〉の秘められた過去を語りはじめるとき、果して何が起きるのか?〈魔女〉と称された幻想文学の才媛が描く、美しく静かな恐怖、スティーヴン・キングが「過去百年の怪奇小説の中で最もすばらしい」と絶賛した古典的名作、待望の新訳決定版。 内容紹介より



本書は2008年に改題して、現在は『丘の屋敷』という邦題になっています。
ホラー小説の歴史には疎いのでわかりませんが、この作品はポルターガイストを扱った、屋敷を舞台にしたホラー作品のタイプ標本みたいな位置づけなのでしょうか。幽霊や化け物は登場せず、屋敷そのものがモンスターみたいに描かれているので……。
十一年間にもわたって母親の介護をしてきた三十代後半の独身女性エレーナの視点から物語が語られていく構成になっていて、これは彼女ひとりの精神状態、心理の変化に読者の目を向けさせる意図があるとしても、ときどきは他の登場人物のそれを挟んでも良かったような気もします。これはどういう事情があって館が化け物屋敷化したのかという説明がすっぽり省かれている点にも言えることで、ある程度の経緯なりがあればと、物足りなさを少々感じました。一方、エレーナが世間知らずの夢想家だという状況説明が屋敷に向かう道中でなされるのですが、いろいろはトピックを織り交ぜていて非常に巧妙です。屋敷によって、そんな彼女のいわば純粋な心の隙を突かれ、つけ込まれ、徐々に精神の変調をきたす過程が微細に紡がれていきます。

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『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン 学習研究社




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ジャンル : 本・雑誌

『黒い玉』トーマス・オーウェン 東京創元社

2016-12-16

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆

夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった―。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。 文庫版内容紹介より



収録作品
「雨の中の娘」「公園」「亡霊への憐れみ」「父と娘」「売り別荘」「鉄格子の門」「バビロン博士の来訪」「黒い玉」「蝋人形」「旅の男」「謎の情報提供者」「染み」「変容」「鼠のカヴァール」

幻想奇譚系の短篇集です。単行本に付いている帯の惹句には「傑作「黒い玉」を読まずに怖いと言うなかれ……あえておすすめします。夜、ひとりでお読みになることを。」、とあったので、恐がりなわたしは、あえて昼間にひとりで読みました。「黒い玉」は「変容」と同様に“変身”系のお話で大人の男性が異様な姿形に変わってしまう、かなりシュールな作品です。また、「父と娘」も変身ものですが、侮蔑語で使うビッチと雌犬をあまりにもストレートに結びつけた話。一方、ロールシャッハ・カードのような模様を作り出す遊びのなかで、奇態な生き物を出現させてしまった「染み」。旅行中に偶然見つけたカタコンベ。その棺のひとつを開けて中を覗いた男の婚姻話「亡霊へ憐れみ」。死んだ女性と気づかずに交流してしまう、あるいは愛してしまう「雨の中の娘」と「鉄格子の門」、そしてその別バージョンである「旅の男」。「バビロン博士の来訪」は、自宅で起きる怪異な音に怯えた男が夜中に家の前の路上で出会った人物の話。物への執着を描いた「蝋人形」と「鼠のカヴァール」。妻の知らない姿を知らされた夫に芽生えた疑惑が妄執へ発展する、心の闇を描いた「謎の情報提供者」。目先を変えた、ホラーとユーモアが混ざった佳作「売り別荘」。恐怖が行動を凶行にエスカレートさせる「公園」。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『黒衣の女 ある亡霊の物語[新装版]』スーザン・ヒル ハヤカワ文庫NV

2016-12-13

Tag : ホラー

☆☆☆☆

広大な沼地と河口に面し、わずかに水上に出た土手道で村とつながるだけ。その館は冷たく光りながら堂々とそそり立っていた。弁護士のキップスは、亡くなった老婦人の遺産整理のため、館にひとり泊まりこむことになる。だが立ちこめる霧があたりを覆うと、想像もできなかった怪奇が襲いかかった……孤立した館にしのび寄る恐怖をじっくりと描きあげ、伝統ある英国ゴースト・ストーリーの歴史に新たなページをひらいた傑作 内容紹介より



じわりと怖い。でも、夜ひとりきりで家にいて眠れなくなりそうなほどではない。だって外国だし、三階建ての古い洋館に住んでないし、家のまわりが水没して孤立する場所でもないし……。だがしかし、もし、これを日本に舞台を置き換え、子持ちの身だったりしたらかなり恐ろしいかもしれない、身近な題材を採ったジャパニーズ・テイストのシチュエーションともいえるので、こういう亡霊が日本にいてもなんら不自然ではないです。なぜならキリスト教的な情感を感じず、悪魔だとか原罪だとか、そんな風味で怖がらせようとはしていないから。いたって普遍的などこの土地にもある母親による子どもへの愛情が物語の基本になっているため、そういうところが日本人に受け入れやすいかたわら、和物の怪談でもよく取り上げられているために、あまり怖くないと感じる読者もいるかもしれません。愛情が強くて深いほど憎悪も激しさを増す、そんなことを感じた物語でした。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『闇の教室』ジョン・ソール 扶桑社ミステリー

2016-08-27

Tag : ホラー

☆☆☆

頭が良すぎるばっかりにいつも孤独感を抱える10歳の天才少年ジョシュ。二度目の飛び級で彼は、またしても初日から年上のクラスメイトとトラブルを起こしてしまう。しかし弾みで自殺を図ったジョシュが運ばれた病院で、彼は特別な才能を持つ子ばかりを集めた学校バリントンを勧められた。そこならいじめられることもないだろうし、友達もできるかもしれない。そう考えて転校したジョシュに友達はすぐにできた。だが彼はまだ知らなかった。子供たちの間に伝わる学園の恐ろしい秘密を…。ソールが贈る青春ホラーの傑作! 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意ください!

ホラーといっても、幽霊やお化け関係の話は、学校となっている屋敷の前所有者にまつわる怪談話が少しあるだけで、それ以外の話は出てきません。ようするに、特にIQの高い生徒たちから脳を摘出して、スーパーコンピュータと接続する、というマッドサイエンティストからみのサイエンス・ホラーといったところです。また、内容紹介にある「青春」という言葉は十歳程度の子供を表すのには無理があるような気がします。物語は、自殺した双子の兄弟のひとりと、主人公の親友で行方不明になった女の子が実は……、で、彼らに関わった学校長と寮母の企みを主人公が探る形で進んでいきます。しかし、主人公にはもっと天才的な頭脳を発揮する活躍の場を用意して欲しかったような感じがしました。あと、良い人そうな英語教師のその後の扱いが雑。それにしても、物語全体が本編へと繋げるプロローグみたいで、いよいよこれから佳境に入る、というところで終わってしまった印象を受けました。しかも、パソコンを投げ捨てるという安易な解決法でもって。

『マンハッタン狩猟クラブ』ジョン・ソール 文春文庫




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ファントム』ディーン・R・クーンツ ハヤカワ文庫NV

2016-07-15

Tag : ホラー

☆☆☆☆

美しい田舎町に異変が起きた。一夜にして全住民五百人が死んだのだ!たまたま町を出ていて助かった二人の姉妹は、生者を捜してゴースト・タウンをさまよった。この惨事の原因は、いったい何か―悪疫、放射能、それとも細菌兵器か?次々と発見される死体は、胸のむかつく異様なものばかり、首や手を切断されてオーブンに入れられた男もいた。そして死体には黒い痣が浮かび、顔には恐怖の叫びが凍りついていた……。 上巻内容紹介より



古代から現代に至るまでに起きた数々の集団失踪事件の謎と正体不明の生き物を結びつけたアイデアによる作品です。集団失踪事件を研究するある学者によって、“太古からの敵”と名づけられたその生き物は、巨大なアメーバ状の形状をしており、食べた獲物の経験や知識を取り込み、自由に形態を変化させることができます。そして、取り込んだ人間の中にある負の感情によって、その生き物は“悪”となり、それを見た人間は“悪魔”と呼ぶようになった、という設定です。つまるところ、人間の心に潜む負の面の怖ろしさを作者は言いたかったのではないかと思いました。妻と息子を殺した男の話もそのテーマに沿ったものなのでしょうけれど、暴走族のリーダーの存在とともにちょっとこなれていない感じを受けました。大団円後の事件は、スケールの大きな設定を矮小化してしまったかのような気もするけれど、めでたしめでたしで終わる流れより、締りがあるし“善”の存在をそれとなく予感させるエピソードとして良かったのではないかと思いました。非常に読みやすい作品でした。

ディーン・クーンツ




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