『教会の悪魔』ポール・ドハティ ハヤカワ・ミステリ

2011-01-26

☆☆☆☆

妹を誘惑され激怒した金匠が相手の男を殺し、司直の手が及ばぬ教会へと逃げこんだ。だが罪の意識に苛まれた男は、耐えきれずに首を吊って、密室状態の教会内で自殺した……単純に見えた事件だったが、その裏にキナ臭さを感じ取った国王の命を受け、再検分が行われることになった。密偵役を拝命したのは、切れ者で知られる書記のコーベット。たちまちにして他殺と見抜いたコーベットだが、その背後にさらなる秘密が、そして国家的大陰謀が潜んでいようとは、想像もしていなかった!中世ロンドンを舞台に、英国歴史ミステリの雄が放つ傑作登場 内容紹介より



〈密偵ヒュー・コーベット〉シリーズの第一作目で、たぶん著者の諸シリーズ作品においても第一作目。アセルスタン修道士シリーズの一作目では時代設定が1377年でしたが、本書は1284年*ということで約一世紀時代がさかのぼっています。作者が得意とする当時のロンドンの街や住民についての微に入り細に入った描写は相変わらずですが、それぞれの時代の相違点なんかは区別が付きませんでした。主人公に身内を亡くすという過去を背負わせているところは両シリーズ共に同じです。ただ、作品自体の円熟度あるいは物語の厚みみたいなものを見てみると、アセルスタンシリーズのほうが当然よくできていると思いました。本シリーズの主人公は、これからキャラクターなりが造られていくのでしょうけれど、まだ深みに乏しいようだし、彼を囲む脇役陣も層が薄く感じます。また、悪魔崇拝は行き過ぎにしても、敵方(議会派)への消極的ながらも思想的共鳴、あるいは現体制への疑問とかの感情が表されていたならと思いました。「剣呑」という言葉が好きそうな和爾桃子氏の訳者あとがきによると次回作以降期待が持てそうですけれど。

*著者あとがきより

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教会の悪魔 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1811)教会の悪魔 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1811)
(2008/04/09)
ポール・ドハティ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『神の家の災い』ポール・ドハティー 創元推理文庫

2010-11-07

☆☆☆

摂政の宴に招かれたクランストン検死官は、四人もの人間を殺した、〈緋色の部屋〉の謎を解くはめになる。一方、アセルスタン修道士の教会では、改修中に発見された人骨が治癒の奇跡を起こしたと評判になっていた。さらに、かつてアセルスタンが籍を置いた修道院で、神をも恐れぬ連続殺人が発生する……。いずれも手ごわい三つの謎に、さしもの名コンビも苦戦する、人気シリーズ第三弾。 内容紹介より



相変わらずクランストン検死官とアセルスタン修道士の主人公ふたりと彼らを取り巻く人々の人間的な魅力で読ませます。本書では解決すべき謎が三つ設定されていて、かなり数的に盛ってある感じですけれど、主となる修道院連続殺人事件をはじめとして意表をつくようなトリックが設けてあるわけではありません。前二作を読んだ限りでは、この作者はトリック部分で大向こうを唸らせるようなタイプのミステリー作家じゃないみたいなので、本作はその弱いところを数で補ったみたいな印象を受けました。
さて、このシリーズの特徴のひとつだと思う下層階級とそれ以外の階級との対比の妙が、今回は修道院、修道士たちとの比較にあると思います。非衛生的で猥雑で混沌としたロンドンの下町とそこに暮らす者たちのしたたかな日常、一方、そのような俗界から隔絶した清潔な修道院で神学論争にふける食べるものに事欠かない浮き世離れした修道士たち。このふたつの世界が、作者の庶民よりの視線からアイロニカルなユーモアを持って描かれています。

『毒杯の囀り』ポール・ドハティー 創元推理文庫
『赤き死の訪れ』ポール・ドハティー 創元推理文庫




神の家の災い (創元推理文庫)神の家の災い (創元推理文庫)
(2008/11)
ポール・ドハティー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『赤き死の訪れ』ポール・ドハティー 創元推理文庫

2010-08-28

☆☆☆☆

ロンドン塔の城守、ラルフ・ホイットン卿が塔内の居室で殺された。卿は数日前に届いた手紙に、異常なほどおびえていたという。その後も、同様に手紙を受けとった者たちのもとを、死が相次いで訪れる。それぞれ悩みを抱えながらも、姿なき殺人者を追うアセルスタン修道士とクランストン検死官……。クリスマスを控えた極寒のロンドンに展開する、中世謎解きシリーズの傑作第二弾。 内容紹介より



このシリーズを読む前は、がちがちの本格物みたいなイメージを抱いていましたが、読んでみるとそうでもなくて、まずトリックの部分が綿密な計算のもとに練られているふうではなく、おどろおどろしい時代ミステリかというとそうでもなく、明暗と硬軟、それぞれのバランスが微妙につり合っているミステリだと感じました。これは舞台を上流、中流階級のみにとどめずに、下層、貧民階級にも設定し、庶民の暮らしぶりや人情を描いているからでしょう。階級とそこに所属する人間の対照の妙が活きていると思います。そして主人公のひとりである托鉢修道士アセルスタンが市井の人々が集う教会に身を置きながら、各階級を行き来できることがとても効果的な要因になっています。また、主人公ふたりに弟、息子の死という過去を背負わせた前回同様、今回も各々に悩みを与え、主たる事件の他に別の事件や出来事を展開させることで、本格物にありがちな物語の単調さや閉塞感を防いで複合的な作品にしているのではないでしょうか。

『毒杯の囀り』ポール・ドハティー 創元推理文庫




赤き死の訪れ (創元推理文庫)赤き死の訪れ (創元推理文庫)
(2007/09/11)
ポール ドハティー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

『毒杯の囀り』ポール・ドハティー 創元推理文庫

2010-08-24

☆☆☆☆

1377年、ロンドン。富裕な貿易商トーマス・スプリンガル卿が、邸の自室で毒殺された。下手人と目される執事は、屋根裏部屋で縊死していた。トーマス卿の部屋の外は、人が通れば必ず“歌う”、通称〈小夜鳴鳥の廊下〉。この廊下を歩いた者は、執事ただ一人なのだが……? 難事件に挑むのは、酒好きのクランストン検死官とその書記、アセルスタン修道士。中世謎解きシリーズ、堂々の開幕。 内容紹介より



中世ロンドンにある貧民街の食べ物や汚物などの生活臭、体臭、腐臭、死臭、また、死体の口元から嗅ぎとる毒薬の匂い、このような圧倒的に嗅覚へ訴えてくる描写が強烈に印象に残る作品でした。著者は、E・ピーターズと並ぶ歴史ミステリ作家だそうで(大津波悦子氏解説より)、しっかりした時代考証がさらにその効果を高めているのだと思います。弟を死地に赴かせた罪にさいなまれる修道士と幼くして死んでしまった息子への喪失感が癒えない検死官、このふたりの主人公以外にも貧しい教区民から猫のボナベンチャーまで魅力的な登場人(猫)物が揃っています。
犯行自体は、やや運まかせ(決定的ではない)ともいえる違和感ありの行為を、一度ならまだしも二度も繰り返すなどして捻りが足りてない気もしますが、その他の部分はかなり良いのではないでしょうか。シリーズものとして、次回以降の作品に含みを持たせる展開は上手いと思います。掃きだめにやって来た人情派の修道士という設定は日本人ウケしそうです。




毒杯の囀り (創元推理文庫)毒杯の囀り (創元推理文庫)
(2006/09/30)
ポール・ドハティー

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テーマ : 海外ミステリ
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