『耳をすます壁』 マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2012-08-30

☆☆☆☆

思いたってメキシコ旅行に出かけたエイミーとウィルマ。ありふれた旅路となるはずだったが、滞在なかばウィルマがホテルのバルコニーから堕ちて死んでしまう。居合わせたエイミーも、その時の記憶を欠いたまま失踪。一体そこで何があったというのか?調査の依頼をうけた私立探偵ドッドは失踪人の身辺を探るが……。鬼才が放つ緊迫のサスペンス。 内容紹介より



マーガレット・ミラーが四十歳代半ばで発表した、作者お得意の「失踪」をモチーフにした作品。旅先のホテルで親友が墜落死したことのショックから、自分自身を見つめ直すために、夫のもとを離れてしばらくひとりになるという兄宛の手紙を残してエイミーは姿を消します。人好きのする人物であるエイミーの夫、妹への愛情から過干渉の傾向があるエイミーの兄、そんな夫の性格を心配し、義弟に肩入れするエイミーの義姉、エイミーの夫に密かに好意を寄せる彼の秘書、エイミーの兄に雇われた探偵。まるで複数の覗き穴があけられた大きな箱の中に入っている「正体不明の物体」を、各人それぞれ違った箇所の穴だけからしか覗き見ることができない状況に陥ったみたいに、登場人物たちは「エミリーの失踪」を思い込みや憶測を持って一方的に決めつけたり、思い描いたりしてしまいます。そして推測や思い違いが本来あるべき状況を変えてしまい、他の人物までにも影響を及ぼしていきます。果たしてエミリーは生きているのか?死んでいるのか?作者の熟練した手法がこの設定と展開に割りと慣れたと思っている読み手にも答えを迷わせます。
ラストの一行も非常にミラーらしい。

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マーガレット・ミラー



耳をすます壁 (創元推理文庫)耳をすます壁 (創元推理文庫)
(1990/02)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マーメイド』 マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2011-10-29

☆☆☆

娘の名はクリーオウ、自称二十二歳。とある風の強い午後、スメドラー法律事務所を訪れた彼女は、謎めいた台詞を残して帰途についた。そして数日後、ひとつの報せがもたらされる。娘が失踪した、という。捜索に駆り出されたアラゴンだったが、澱んだ池に投じられたこの一石は、人々のあいだに意外な波紋を描き出していく……。心に弱点を負った男女の軌跡を辿る、異色サスペンス。 内容紹介より



マーガレット・ミラーが六十七歳の頃の、著作リストでは二十四番目にあたる作品です。『ミランダ殺し』と同じく弁護士のトーマス・アラゴンが登場し、そして作者が好む“失踪人捜し”がミステリの要素の一つになっています。ハード・ボイルド作品に多く見られるように、通常、失踪人捜しは、探し出す過程で失踪人の人物像が明らかになっていき、生き死に問わずその人物が発見されて物語が終わる手順をとるのが普通だと思いますが、ミラーの場合、失踪部分は序章みたいなもので、そこの部分においてキャラクターやその境遇の説明を行い、失踪人が再び現れてから起きる出来事を主題にしているように思います。これは、同じく失踪をテーマにしながら、失踪や行方不明そのものをトリックに使うことを好むルース・レンデルとは違っているところです。
さて、本書は第一部に少女、第二部に女、第三部に人魚と見出しが付けられています。これはヒロインが物語のなかで変化する様子を示しているのだと思いますが、「人魚」とは、彼女の無邪気さと彼女が原因で起きる悲劇の凶兆とを含めた意味で現している言葉なのでしょうか。自己満足で方向性が誤った愛情を施した人々と施された人々の破局とそれにに巻き込まれた人たちの物語でした。

タグ:マーガレット・ミラー




マーメイド (創元推理文庫)マーメイド (創元推理文庫)
(1993/01)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ミランダ殺し』 マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2011-08-18

☆☆☆☆

匿名の中傷文の執筆にいそしむ偏屈な老人、マフィアにコネがあると称する九歳の悪ガキ、寄る年波に必死の抵抗を試みる美貌の未亡人 ― こうした登場人物の入り乱れるなか、ある日二人の男女が失踪する。駆け出しの弁護士アラゴンをも巻き込んで、物語は予想外の方向へ……。カリフォルニアのとあるビーチ・クラブに展開する恐ろしくもユーモラスな悲劇の顛末。鬼才の異色サスペンス。 内容紹介より



会話を多用して心理描写を極力省くということがこの作家のスタイルらしく、本書でもそれが見受けられます。ただ、会話のテンポが良過ぎる場合があるためなのか、その会話部分がまるで芝居の台本みたいに感じるところがありました。作者が作品に取り上げる事件というのは三面記事にでも掲載されるようないたって人間臭い、日常のどこにでも転がっていそうなものが多いというイメージで、いわゆる推理小説用に仕立てられた事件とは対照をなしていると思います。そういう俗な事件だからこそ、これまたどこにでもいそうなちょっとネジの緩んだ人物や病むまでには至らないけれど奇矯な人物の存在が目立つのかもしれません。
また、本書にはタイトルにかけたトリックが用意されていて、いつの間にか読者はいつどこで誰によってどうやってなぜミランダは殺されるのだろうか?といぶかしく思いながら読み進めるのですが、読み終わった後でようやくこの作品は、ミランダがいかにして殺されなければいけないはめになったのかという経緯を読む者に丁寧に説明し、追体験させる物語だったんだなと気づくのでした。

『狙った獣』マーガレット・ミラー 創元推理文庫
『殺す風』マーガレット・ミラー 創元推理文庫
『まるで天使のような』マーガレット・ミラー ハヤカワ文庫




ミランダ殺し (創元推理文庫)ミランダ殺し (創元推理文庫)
(1992/02)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺す風』マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2011-01-31

☆☆☆☆

ロンの妻が最後に彼を見たのは、四月のある晩のことだった。前妻の件で諍いをした彼は、友達の待つ別荘へと向かい―それきり、いっさいの消息を絶った。あとに残された友人たちは、浮かれ騒ぎと悲哀をこもごも味わいながら、ロンの行方を探そうとするが……。自然な物語の奥に巧妙きわまりない手段で埋めこまれた心の謎とは何か?他に類を見ない高みに達した鬼才の最高傑作。 内容紹介より



以下、ネタばれ気味です!!ご注意下さい。

物語の冒頭から会話の部分が多く、展開も軽快で、心理描写がくどくないので非常に読みやすく入り込みやすかったです。読みはじめたら、作者の話術に引き込まれ、ただただストーリーを追っていれば幸せな読書の時間を過ごすことができる良書だと思います。が、しかし、事件の真相が明らかになっていく終盤あたりから、良い夢が覚めていくような、俗な現実に戻っていくような気分になってしまうのでした。どういうことかと言いますと、ようするに真相自体がテレビのサスペンスドラマにありそうなパターンなのが問題なのです。ミステリ作品ですからなにかしらのひねり、どんでん返しが用意されているのだろうと予想していて、それが終わりに近付くにつれ見当をつけていたように、まさかのテレビドラマで何度も用いられているネタだったと明らかになるという残念な結果に。でも、これは作者のせいではなく、経年劣化とも違うし、あくまでも読み手側に存在する問題なのでしょう。発表された当時(1957年)ならば衝撃的なものだったのでしょうけれど。登場人物(妊娠した女性とか)の行動(その動機でそこまでするのか)に違和感を覚えたりしますが、それでも、狂気じみたものを感じさせるラストシーンなど作者の才能が遺憾なく発揮されている作品だと思います。

『狙った獣』マーガレット・ミラー 創元推理文庫
『まるで天使のような』マーガレット・ミラー ハヤカワ文庫




殺す風 (創元推理文庫)殺す風 (創元推理文庫)
(1995/06)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『まるで天使のような』マーガレット・ミラー ハヤカワ文庫

2009-04-22

☆☆☆☆☆

オゥゴーマンは五年前に死にました ― ある宗教団体の尼僧から、オゥゴーマンという男の身辺調査を頼まれた私立探偵クインは、意外な答にぶつかった。事務員だった故人は、嵐の晩に車で出かけたまま戻らず、川に落ちた車だけが見つかったという。妙なのは事件だけではなかった。どうやら過去を暴かれたくない者がいるらしいのだ……多くの謎をはらむ事件の真相とは? 心理サスペンスと私立探偵小説を融合させた代表作! 内容紹介より



まず、私立探偵小説でよくある、依頼人がしがない探偵のもとを訪れ、調査を依頼することから話が始まるというパターンをとっていないのが良いです。物語の導入部分の短い間で、私立探偵の置かれた状況の説明を分かりやすく済まし、さらに、依頼人と出会う場面も特異な状況でありながら不自然ではない。冒頭で読者の興味を惹き付けるこのスムーズな流れはかなり上手いと思います。

依頼人の尼僧、オゥゴーマンの妻、女横領犯、不動産業者の母親とその女性共同経営者。
キーパーソンはオゥゴーマンという男でありながら、実は物語の主役は彼を基にして、知らず知らずのうちに結びついてしまったこの五人の女たちです。狂言回し役でもある探偵は、オゥゴーマンの影を追いながら、実はこの女性たちの真の姿を、心ならずも浮き彫りにしてしまっていきます。ありきたりな表現ですが、まさしく、投げられた小さな石ころによって池に波紋が広がるように、尼僧の依頼が危うい均衡を保っていた状況を揺るがしていく、その過程、波の一山一山の様子を丁寧に描き込んでいる著者の技量と物語の最初から最後まで高いレベルを保っている構成力など、かなり読みごたえがありました。ただ、会話の部分は翻訳がこなれていない印象を持ちました。見当が付いてしまうラストの処理はしょうがないですね。



まるで天使のような (ハヤカワ・ミステリ文庫 41-4)まるで天使のような (ハヤカワ・ミステリ文庫 41-4)
(1983/01)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「狙った獣」マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2006-08-27

☆☆☆☆

ヘレンは恐ろしくなって、台から電話を払い落とした。
友人だというその女の声は、はじめ静かで、微笑んでいた。だが、話すほどに悪意を剥き出しにし、最後にはこちらの死をほのめかす、予言めいた台詞を履いたのだった。不安を断ち切れないヘレンは、亡父のもと相談役に助言を求めるが……。鬼才の名声を確立した名作、遂に登場!MWA最優秀長編賞に輝く衝撃のサスペンス。   裏表紙あらすじより



最近のひねってこんがらがっているサスペンスものと比べてなんとストレートでシンプルな作品なのでしょう。潔さを感じます。
1955年当時、このテーマはかなり斬新だったのではないでしょうか。その後、幾多のスリラー、サイコ・サスペンス小説が書かれているので、プロットの刺激性が薄らいでしまうのは古典の持つ宿命みたいなものだし…、犯人の心理を巧みに描いて、時間とともに色あせない魅力を持たせ、完成度が高い作品に仕上げた作者の才能と力量は素直に評価されるべきでしょう(評価されてますけどね)。ただ、細かいことをいうと、探偵役のブラックシアのヘレンに対する感情の変化は唐突な気がしました。




狙った獣 (創元推理文庫)狙った獣 (創元推理文庫)
(1994/12)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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