『地上九〇階の強奪』ユージン・イジー ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2009-05-15

☆☆☆☆

標的はマフィアのボスの金庫 ― 癌で死を宣告された老金庫破りのボロは、若き相棒のヴィンセントに最後の教えを授けるべく、危険な仕事を請け負った。目的の金庫には、マフィア壊滅の鍵となる証拠テープが隠されている。が、進入経路はただひとつ、地上九〇階のビルの壁面だけしかない! 厳寒のシカゴを舞台に、男たちの熱い友情を謳い上げる感動の物語。 内容紹介より



全体の構成から見ると、『友はもういない』より完成度が高いと思います。デビュー作で見られた欠点が修正されています。なにより金庫破りの師弟、シカゴ・マフィア、二人組の刑事たちを横糸縦糸にしてしっかり編み込んだうえに、ウェイトレスの女性をアクセントに添え、さらにきっちり描いてあるバーの常連客たち(引退した元悪党たち)に周りを囲ませているという具合。人物像とその配し方が巧みです。特に、ヴィンセントの心の弱い部分、昔からの知り合いが自殺してしまった時の後悔、恋人への気持ちの揺れなど非常に上手く描いていると思いました。また、三人称多視点も煩わしさがなくかえって臨場感があり、スピーディーで読み手を飽きさせません。ただ、邦題になっていて、この作品のハイライトなのかと予想していた九〇階の部屋へ忍び込む場面がややあっけなかったのは意外でした。冒険小説風な展開になるのかと想像していたので。バランスを考えると妥当な線かも知れませんが。まあ、それにしてもペレケーノス同様、ここには男の世界があります。




地上90階の強奪 (ミステリアス・プレス文庫)地上90階の強奪 (ミステリアス・プレス文庫)
(1992/09)
ユージン イジー

商品詳細を見る

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『友はもういない』ユージン・イジー ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2008-11-14

☆☆☆☆

シカゴの金庫破りフェイブと麻薬課の捜査官ジミイ ― 子供時代からの無二の親友でありながら、二人はまったく別の道を選んだ。しかし二人は、お互い相手の仕事には干渉しないはずだった。フェイブが相棒と押し入った部屋で、無惨な女の死体と大量のコカインを目にするまでは……クライム・ノヴェルの次代を担うと絶賛される大型新人が放つ鮮烈なデビュー作  内容紹介より



「話の展開は前半がややスローだが、そのぶん後半が急ピッチで愉しめる」(安倍昭至氏の訳者あとがきより)。
いきなり料理番組に例えますと、材料の紹介(産地は何処だとか、どうやって育てられたかとか、どんな色形をしているだとか)が長くてくどくて煩わしい。人物の背景描写、情景描写、人物の容姿や服装の描写が無駄に詳細に書かれています。通行中のショッピング・バッグ・レディの描写に四行、プール・バーの様子に三十五行そのうち不必要なのが二十五行など、これは作家の新人時代の作品によく見られる傾向ですが、良く言えば丁寧な書き込み、悪く言えば過剰な記述が多すぎです。130ページ以降になると材料説明も一段落して、包丁さばきも巧みに、味付け、火入れとスピードアップして料理完成。前半のイライラが解消されました。

男同士の友情をクライム風にハードボイルド・タッチで描いているところは、ジョージ・P・ペレケーノスの作品と類似点があるかもしれません。偶然かもしれませんが、著者は、ひとつの出来事を三人称多視点から重複して描いていて、これは『『明日への契り』』でペレケーノスが採った手法と同じです。ちょっと分かりにくいかもしれませんので、『明日への契り』の訳者あとがきで佐藤耕士氏が書かれている部分を引用します。「この作品の特徴としてまず挙げておかなければいけないのは、クエンティン・タランティーノ映画の影響だ。タランティーノの《パルプ・フィクション》や《ジャッキー・ブラウン》という映画を見た方ならおわかりだろうが、ひとつのシークエンスを別々の視点から何度も繰り返すのである」(『明日への契り』p518~p519)。ただし、本作品は1987年に発表されているので、タランティーノやペレケーノスの作品よりイジーのほうが早いことになります。



友はもういない (ミステリアス・プレス文庫)友はもういない (ミステリアス・プレス文庫)
(1991/04)
ユージン イジー

商品詳細を見る

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー ルース・レンデル アーロン・エルキンズ スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー キャロリン・G・ハート ジョージ・P・ペレケーノス ジョアン・フルーク ローラ・チャイルズ マイクル・クライトン ジョー・R・ランズデール ドン・ウィンズロウ ジェームズ・パターソン ジェイムズ・パタースン エド・マクベイン ジル・チャーチル ヘニング・マンケル ローレンス・ブロック ポーラ・ゴズリング リチャード・マシスン レジナルド・ヒル D・M・ディヴァイン C・J・ボックス スチュアート・ウッズ ジャネット・イヴァノヴィッチ リリアン・J・ブラウン ピーター・ラヴゼイ パーネル・ホール S・J・ローザン レックス・スタウト アリス・キンバリー ジョルジュ・シムノン ジョー・ゴアズ マーガレット・ミラー ウィリアム・カッツ クレオ・コイル カール・ハイアセン レスリー・メイヤー アイザック・アシモフ ヒラリー・ウォー エド・ゴーマン カーター・ディクスン マイケル・ボンド ルイーズ・ペニー マーシャ・マラー ジェフリー・ディーヴァー ジョン・ディクスン・カー リタ・メイ・ブラウン ジェームズ・ヤッフェ イーヴリン・スミス ジャック・カーリイ キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア コリン・ホルト・ソーヤー ローラ・リップマン フレッド・ヴァルガス ポール・ドハティー ロブ・ライアン ジェフ・アボット G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ドナ・アンドリューズ ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント