『スリー・パインズ村と警部の苦い夏』 ルイーズ・ペニー RHブックス・プラス

2013-04-22

☆☆☆☆

夏の休暇で美しい湖畔のロッジを訪れたガマシュ警部。妻と静かに過ごすはずが、奇妙な事件に遭遇してしまった。嵐の夜、宿泊中の一家の長女が、ロッジの庭にある父親の銅像に潰されて命を落としたのだ。事故か殺人かもつかめぬまま、ガマシュは休暇返上で捜査を始める。しかし、一家は謎だらけなうえ、スリー・パインズ村のあの住人までいて……。殺人なら誰がどうやってあの重い銅像を?名警部が見出した真相とは ― 。有名賞常連の傑作シリーズ第4弾。 内容紹介より



ガマシュ警部シリーズ四作目。
ロッジの庭に据えられた大理石の土台の上に置かれていた立像に押し潰された被害者。殺人だとしたら、クレーンでも使わなければとうてい動かせないほどの重さがある彫像を犯人はどうやって倒したのか?しかも土台の大理石の表面には、像を動かしたらできるはずの傷ひとつ見当たらない。本書の特色は、犯人はいかなる方法で犯罪を実行したのかという、いまどきのミステリ作品には珍しい不可能犯罪の要素を取り入れているところだと思います。手口の見当がつけ易いのはしかたないとして、作者の意欲は評価されるべきでしょう。また、人物描写や人間関係の機微を緻密に描き出すテクニックは相変わらず見事です。ただ、気になった点は、犯行に至った動機がやや説得力に乏しいかもしれません。最終的に犯罪の引き金になったエピソードが欲しかったような気もします。
「心はそれ自身がひとつの世界であり、地獄を天国に変えることも、天国を地獄に帰ることもできる」、作者はこのジョン・ミルトンの『失楽園』の一節を引いて、ロッジに集まった金持ちの一家が長く抱えてきた葛藤、誤解、嫉妬、不信を解きほぐし、外観とはかけ離れた家族それぞれの本当の姿を現し出して見せます。

『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社
『スリー・パインズ村と運命の女神』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社
『スリー・パインズ村の無慈悲な春』ルイーズ・ペニー RHブックス・プラス




スリー・パインズ村と警部の苦い夏 (RHブックス・プラス)スリー・パインズ村と警部の苦い夏 (RHブックス・プラス)
(2012/07/11)
ルイーズ・ペニー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スリー・パインズ村の無慈悲な春』 ルイーズ・ペニー RHブックス・プラス

2011-10-19

☆☆☆☆

美味しいビストロと居心地のいいB&Bで休暇を過ごすためにスリー・パインズ村にやってきた占い師ジャンヌ。ひょんなことから降霊会を開催するように頼まれてしまった。場所は美しく穏やかなこの村で唯一の邪悪な場所、丘の上にある旧ハドリー邸。イースターの聖なる日曜の晩、興味本位で集まった村人たちの前で、死者を呼び出す儀式が始まったが……。ケベックの伝説的警部ガマシュが今回も大活躍。好評シリーズ第3弾! 内容紹介より



このガマシュ警部シリーズの第一作目から“アルノー事件”として語られてきたサブストーリーが、本書で終結(おそらく)を迎えます。この真相がかなり意外性とサスペンス性があるため、メインストーリーがちょっと脇に押しやられているような感じがしました。本書で明らかになるメイン、サブ両方の事件の動機は同じような心理状態から発しており、テーマ自体をさかのぼれば旧約聖書にたどれるほどにベーシックなものですが、 メインストーリーのほうが展開がゆっくりめで地味なためにそんな印象を受けたのだと思います。登場人物たちの感情の襞を精細に描き出し、今回、降霊会という怪奇性を帯びているのが珍しいくらい、けれんよりも人物それぞれの心理ドラマに重きを置く作者の織り出すような緻密な作法が、長野きよみ氏の訳もあわさって、非常に優れた形で作品に表されています。                                      
また作者は、負の心理を描きながらも根底にあるには信頼や慈愛であり、これはガマシュが裏切りに遭いながら恨むのではなく悲しんだ心情やスリー・パインズ村の住人が旧ハドリー邸に行った前向きな行動に現れていると思います。

『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社
『スリー・パインズ村と運命の女神』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社




スリー・パインズ村の無慈悲な春 (RHブックス・プラス)スリー・パインズ村の無慈悲な春 (RHブックス・プラス)
(2011/05/11)
ルイーズ ペニー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『カルーソーという悲劇』アンネ・シャプレ 創元推理文庫

2009-09-29

☆☆☆☆

都会から小さな村に移り住んだ、元コピーライターのパウル・ブレーマー。周辺で頻発する馬殺しと放火。そんななか女性農場主アンネの夫が殺されて食肉用冷蔵室に吊り下げられて発見された。犯人はパウルが思いを寄せるアンネなのか?パウルと親友の女検事カレン、郡警察警部コジンスキーの個性派トリオが行き着いた悲劇的真相とは?ドイツ・ミステリ大賞受賞シリーズ第一弾。 内容紹介より



スリー・パインズ村を舞台にしたルイーズ・ペニーのガマシュ警部シリーズに似た雰囲気を持った作品です。しかし、スリー・パインズ村に登場する村人たちは、他所から移り住んで来た、どちらかと言えば上品で知的な感じのする人物が多いのですが、本書の舞台である小さな寒村クライン・ローダではほとんどが地元で生まれ育った田舎の人間たちが物語を彩っていて、なにか桃源郷のように描かれるスリー・パインズ村よりも現実の田舎暮らしの感じが強く出ています。物語は都会から引っ越して来たパウル、農場主のアンネ、検事のカレン、警部のコジンスキーの傍白で語られ、その多くが内省的、思索的であって、見事に庶民的でしたたかな地元民たちと好対照の演出がなされています。また、放火、馬殺し、殺人などの事件は村に起きたさまざまな出来事のなかの一部分であり、それらの事件が解決に至るまでをことさら突出して描いていないところが本書の特徴であるミステリ色の薄さの要因なのでしょう。東ドイツ時代のエピソードより、沢山の猫への餌やり、隣家の老犬の死、道端で噂話に興じる村人、タバコの自動販売機の話とかの細々とした村の生活の一端を窺える話のほうがより面白かったです。




カルーソーという悲劇 (創元推理文庫)カルーソーという悲劇 (創元推理文庫)
(2007/05)
アンネ シャプレ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『スリー・パインズ村と運命の女神』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社

2009-09-06

☆☆☆☆

地図にも載っていないくらいに小さいけれど、魅力あふれるケベック州の村、スリー・パインズ。クリスマス直後、毎年恒例の村のお楽しみ、カーリング試合の最中に、凍った湖の上で女性が突然倒れて死んだ。心臓発作を疑われたが、感電が死因の殺人事件だった。ガマシュ警部は大勢の人が現場にいたのに目撃者がひとりもいないことを不審に思い捜査を始めた……。各紙誌で絶賛されたシリーズ待望の第2弾。アガサ賞長篇賞受賞作品。 内容紹介より



主要登場人物以外の者たちが安易な人物造形になっていたり、壁紙の模様みたいな背景画にしか見えなかったりするコージー・ミステリ作品が乱発されるなか、このガマシュ警部シリーズにおける登場人物たち一人ひとりの人物背景、負わせる過去、性格付けの丁寧さ細微さ、隅々への心配りは本当に見事だと感じました。かなり煮込んでますよね。そしてそれらの人物たちの機微を縦糸横糸にしながら根気よく紡いでいく作者のテクニックにも感心します。ミステリにおいても細部を大事にしている作品には名作が多いという当たり前のことを再確認させてくれます。ただ作品全体にやや茫洋としているような印象も受けますから、ミニマリズムという名前のハサミかノミでウエストラインなどをきゅっとシャープにしたら良いような気もしますが。前回の事件から一年後、季節はクリスマスを挟み、雪に囲まれたスリー・パインズ村でまた事件は起きます。雪に覆われた、人を魅了して止まないこの村の情景を想像すると、国こそ違いますがグランマ・モーゼスの絵の世界を思い起こします。

『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社




スリー・パインズ村と運命の女神 (ランダムハウス講談社 ヘ 4-2)スリー・パインズ村と運命の女神 (ランダムハウス講談社 ヘ 4-2)
(2009/06/10)
ルイーズ ペニー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スリー・パインズ村の不思議な事件』ルイーズ・ペニー ランダムハウス講談社

2009-06-12

☆☆☆☆

家に鍵をかける習慣さえない、ケベック州の平和な小村スリー・パインズ。感謝祭の週末の朝、森の中で老婦人の死体が発見された。死因は矢を胸に受けたと見える傷。一見、ハンターの誤射による事故死に思えた。だが、凶器の矢がどこにも見当たらないことから、ガマシュ警部は顔見知りによる殺人事件として捜査を始めた……。「ポアロとモース警部へのケベックからの回答!」と絶賛される本格ミステリの新シリーズ第1弾。内容紹介より



ガマシュ警部シリーズ。
この作品の雰囲気を例えるならば、クリスティーのミス・マープルものに代表されるヴィレッジ・ミステリとシムノンのメグレ警視シリーズを合わせたようなもので、そしてその二つがよく均衡を保って互いに並び立っている感じです。この微妙なバランスが醸し出す穏やかさとストーリーを丁寧にひと編みごとに綴っていく作者の手法が作品にゆったりとした落ち着きを与えています。探偵役の男女ふたりがポアロとヘイスティングスのような主従関係になっているわけではなく、一方はヴィレッジ・ミステリの主人公らしく、また一方は警察ミステリの主人公らしく謎を解明して真犯人へと迫っていく構成が巧みに組み立てられています。事件解明に導くヒントも非常に単純なことですが解りやすく設定されています。

以下、ネタバレ気味です。
また、犯人と犠牲者の評判がラストになって逆転するところ、特に犠牲者のイメージを犯人が意図的に創り上げていたことは、話の最初の部分に前フリがあって、地味ですが感心しました。」以上、デビュー作とは思えない程完成度が高い作品です。

巻末、著者の謝辞の一部、さまざまな関係者に感謝の言葉を述べた最後に、
「わたしはかつて友人がなく、電話も決して鳴らず、寂しさで死ぬと思った時期を、人生で経験しました。ほんとうの祝福は、わたしが本を出版したことにではなく、感謝をする相手がこれほど大勢いることにあるのを知っています」(p472)。



スリー・パインズ村の不思議な事件 (ランダムハウス講談社文庫)スリー・パインズ村の不思議な事件 (ランダムハウス講談社文庫)
(2008/07/10)
ルイーズ ペニー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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