『ジョン・ブルの誇り』レイ・ハリスン 創元推理文庫

2009-05-11

Tag : レイ・ハリスン

☆☆☆

1890年晩秋、霧深いロンドンの高架下で、その夜一人の男が殺害された。状況から追いはぎによる犯行の線は消えたが、ではなぜ、平凡な一市民がこのような最期を遂げたのか? 未亡人の窮状に接した市警察のブラッグ部長刑事は、真相究明を心に誓うが……。世紀末ロンドンに殺人犯を追う、たたきあげの硬骨漢ブラッグと貴族出身の新米巡査モートン。時代ミステリの新シリーズ登場。 内容紹介より



高田恵子さんの訳者あとがきにあるように、この作品は、「経理税務畑の経歴」を持つ作者が「会社の帳簿や経理、投資に関係する事件」について書いたもので、買掛帳とか元帳とか送り状とか勘定科目とか、そっち系の用語がたくさん出て来ます。そこに犯罪の痕跡を見つけだして調査を始めるのですが、ああだこうだとなかなか核心に辿り着けず、結構長く引っ張ったわりに犯人との対決はドタバタコメディみたいな結末になっています。ミステリとしては単調ながら、このシリーズの読みどころである時代背景、風俗習慣、階級社会などが田舎出の部長刑事と貴族出身の巡査の各々の視点から、それぞれの出身階級を超えて体験した事柄が新鮮な驚きを持って活き活きと描かれています。異なる階級出身の二人を警察という場で組み合わせたことにより、物語に多面性と重層性が生まれていると思います。一応、階級のない均一化した社会に暮らす日本人のわたしには興味深かったです。


レイ・ハリスンの他作品
『下院議員の死』
『デスウォッチ』




ジョン・ブルの誇り (創元推理文庫)ジョン・ブルの誇り (創元推理文庫)
(1991/04)
高田 恵子レイ・ハリスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『下院議員の死』レイ・ハリスン 創元推理文庫

2009-03-22

Tag : レイ・ハリスン

☆☆☆

シティ選出の下院議員が死体となって発見されたのは七月深夜のこと。事故死であることは明かと見えたため、検視解剖の手続きは省略されたが、葬儀の当日、担当検視官のもとに一通の書簡箋が届く ― “われらが下院議員殿、あれはほんとうに事故だったのだろうか?”様々な思惑入り乱れる中、密命をうけ調査を開始した市警察のブラッグ部長刑事とモートン巡査。時代ミステリ第二弾。 内容紹介より



『デスウォッチ』が面白かったので期待して読んだらちょっと残念でした。調査が進行する内、家族や関係者の供述による被害者の人物像が様々で、その姿が次第に明かになっていくという展開は良い流れなのですが、どうもその結果がインパクトに欠けている印象を受けました。しかし、読み方を変えれば、家族や関係者の被害者に対する見解の差異が、逆に彼らの正体を現しているようにも解釈できますから、作者はなかなか凝った技法を使っているのかもしれません。複数の容疑者が最初から固定されている古典的パターンは、時代ミステリらしくあるし、安定感があります。ただ、何人もの関係者に聞き込みを行う場面が続くとどうしても飽きてきます。これには短いパラグラフで変化を付ける工夫をしています。これらのテクニックに加えて、時代相の描き方、ユーモアなどがかなり優れていると思います。後は、プロットさえ良ければ良い作品になったのでしょうが、犯人の背景描写が不足気味で、やや強引な展開ながらも予測がつく真相でした。



下院議員の死 (創元推理文庫)下院議員の死 (創元推理文庫)
(1991/09)
高田 恵子レイ・ハリスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『デスウォッチ』レイ・ハリスン 創元推理文庫

2009-03-18

☆☆☆☆

八月早朝、ロンドン塔界隈の教会で死体が一つ発見された。どうやら生きながら柵の先端突きたてられ、絶命したらしい。被害者は私服刑事。過激化しつつある労働集会を内偵中の出来事だった。市警察のブラッグとモートンは調査に着手したが……。立ちふさがる困難をものともせず、入り組んだ事件の真相を追う名コンビの波瀾万丈。物語の面白さを満喫させる時代ミステリ第三弾! 内容紹介より



時代背景が個人的に好きなので、かなり気に入りました。ビクトリア朝後期のロンドンを舞台にした警察小説に冒険や謀略の要素と社会事情、風俗などを盛り込んだ多彩な作品。当時の人々の生活習慣などが丁寧に書き込まれていて、非常に取材が行き届いている印象を受けました。ブラッグの休日の午後の過ごし方と周囲の情景の描き方は、少々長目に書いてあって雰囲気が伝わって来ます。

また、中年の部長刑事は地方の下級階級の出身で、その部下の巡査は上流階級出身という主人公ふたりの相関関係のねじれ具合に味があり、そこに入ってくる女性記者の存在も良いアクセントになっていて、人間関係のバランスがとても良いと思います。

政治運動、労働運動さらに女性の社会的地位などの問題を絡めてありながら、重さや固い印象は与えず、情報量とその質とが軽い筆致でミステリに上手く練り込まれている佳作だと思います。



デスウォッチ (創元推理文庫)デスウォッチ (創元推理文庫)
(1992/02)
レイ・ハリスン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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