『黄金の蜘蛛』レックス・スタウト ハヤカワ・ミステリ

2016-05-31

☆☆

その夜も、ピートは35番街と9番通りの交叉点で車の窓拭きに精を出していた。赤信号で止まった車に駆け寄り、ぼろ布で窓をひと拭き―運がよければ、10セントのチップをはずむ運転手もいる。だが、そのキャディラックは様子が変だった。運転席に坐った女は声を立てず、口をしきりに動かしてピートに訴えかけた―「助けて。警官を呼んで……」ピートが呆然としているうちに、異変に気づいた同乗の二人の男はピストルらしきもので女をこづき、車はそのまま走り出してしまった。女の頬にあったかすり傷と、耳につけた大きな金の蜘蛛のイヤリングの強烈な印象だけを残して……。12歳の少年ピートが訪ねてきた夜は、たまたまネロ・ウルフの虫の居どころがよくなかった。フリッツのつくったつぐみ料理が珍しく気にいらなかったのだ。ウルフとアーチーは、ピートの話をまともに聞きもせず少年を帰してしまった。そして翌日、ピートが車にはねられて死んだというニュースが伝えられた。しかも、少年をはねて逃走した車のナンバーは、昨夜少年がひかえておいたキャディラックのナンバーと完全に一致していた!貯金箱の4ドル30セントをネロ・ウルフへに依頼料に、と言い残して死んだ少年。蜘蛛のイヤリングをつけた謎の女をめぐる連続殺人に、美食と蘭を愛する名探偵ウルフと、その助手アーチー・グッドウィンが挑む! 内容紹介より



ちゃんと較べたわけではありませんが、同時代の本格推理作家の作品と違って、警察はネロ・ウルフ及びその助手アーチーの探偵活動を良くは思っていないのではないかと思いました。本格物によくある、探偵が警察のアドバイザー的な立場をとるという設定は、少なくとも本書では見当たりません。内容については、アーチーが拷問と言ってもいいような手荒なやり方で悪者に自白を強いる場面以外には、やたらと人が車にひかれて殺される事件が多いことと蜘蛛のイヤリングだけしか読後の印象として残りません。謎が複雑に絡み合っているわけでもないし、真犯人の造形はかなりずさんです。また、古典とはいえ指紋の採取などをはじめとして科学捜査に言及していないところには違和感がありました。安楽椅子探偵の部分は文字通り動きが止まって退屈、アーチーの軽口は今回は他と違ってましなほうでしょう。

タグ:レックス・スタウト




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ネロ・ウルフ対FBI』レックス・スタウト 光文社文庫

2010-08-21

☆☆☆

ネロ・ウルフのもとに大富豪の未亡人が訪れた。依頼はFBIによる執拗な尾行、盗聴をやめさせてほしいというものだった。提示された報酬は十万ドル。助手のアーチーが調査に乗り出すと、FBIの犯行を思わせる未解決のルポライター殺人事件が浮かびあがってきた。殺された男は、FBIの内部調査をしていたらしい……巨大な敵を相手にウルフはどう決着をつけるのか!? 内容紹介より



読んで感じるのは、一般的な探偵小説のパターンとは異なる着眼点に基づいたストーリーだということ。つまり、殺人や失踪や窃盗などお馴染みの事件が起き、それを調査し解決するものではなく、FBIについての暴露本を各界の有力者たちに贈ったため、FBIに目を付けられた未亡人から、その嫌がらせを止めさせて欲しいという依頼を探偵が受けるというものです。FBIみたいな巨大な権力組織に対して、どうやってこちらの言うことを聞かせるのか。つまり頭脳を駆使したコンゲームの要素が出てくるのです。ちょうど上手い具合に、かの組織の記事を書く予定だったルポライターの未解決殺人事件へのFBIの関与が疑われる情報がネロ・ウルフの元に入る都合の良い展開となり、FBIを嵌める計画が準備されます。ただ、その計画自体はコンゲームほどの複雑さはなく、とても単純なもので、巨大な組織がそのような子供だましに引っかかるさまに皮肉さと諧謔性を与える目論みが著者にはあったのかもしれません。
現代と比べて、そういう古くてのんびりした雰囲気が良かったです。

『腰ぬけ連盟』レックス・スタウト ハヤカワ文庫
『料理長が多すぎる』レックス・スタウト ハヤカワ文庫
『シーザーの埋葬』レックス・スタウト 光文社文庫




ネロ・ウルフ対FBI (光文社文庫)ネロ・ウルフ対FBI (光文社文庫)
(2004/02/10)
レックス・スタウト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『シーザーの埋葬』レックス・スタウト 光文社文庫

2009-08-06

☆☆☆

全米チャンピョン牛の栄誉に輝いたというのに、シーザーの命はまさに風前の灯。飼い主で大衆レストラン・チェーンの経営者トマス・プラットが、店の宣伝のためにバーベキューにしようというのだ。そこへ呑気に迷い込んできた巨漢探偵ウルフと彼の右腕のアーチー。 周囲の猛反対をよそに、セレモニーの時間は刻々と迫っている。ところが厳重警戒の牧場で、一頭の牛と反対派の若者の死体が発見された。ウルフは謎のパズルをつなぎ合わせようと……。 内容紹介より



タイトルだけ見て、なにか古代ローマに由来した事件内容なのかと思って、裏表紙の内容紹介を読んだら牛の話。軽くウケました。そして、やっぱりネロ・ウルフの助手アーチー・グッドウィンはうざい。訳者の大村美根子さんをはじめとして、他の読者にも評判の良いウルフとアーチーとのやり取り。『腰ぬけ連盟』を読んだ時から彼の軽口にはうんざりしていましたが、それは彼が思い込んでいるほどには、彼の話はちっとも面白くないのですね。必要なことを端的な言葉で話す彼のボスとストレートな物言いをしない彼自身のお喋りが対比の妙をなしているのでしょうが、個人的に苦手です。女友だちに頼んでボスに仕掛けた悪戯なんて子どもじみているだけで、作者は面白いと思ったのでしょうか。こういうノリにはついて行けません。本書ではウルフはいつものオフィスを出て、現場や関係者の自宅などをウロウロするために、ストーリーにも動きがあって妙な閉塞感も感じることなく読みやすかったです。



シーザーの埋葬 新装版 (光文社文庫)シーザーの埋葬 新装版 (光文社文庫)
(2004/03/12)
レックス・スタウト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クリスマス12のミステリー』アシモフ 他編 新潮文庫

2008-12-10

☆☆☆☆

ジングルベルのメロディーが流れ、樅の木の飾り付けが終り、ケーキも用意して、あとはサンタの小父さんを待つばかり。でも、油断してはいけません。犯罪者は、クリスマスだからってお休みしたりしないから……。ユーモア・ミステリーから本格密室殺人まで、聖誕祭にまつわる12編をDr.アシモフが精選。ミステリー・ファンのための、知的で素敵なクリスマス・プレゼント。 内容紹介より



クリスマス・パーティ レックス・スタウト
クリスマスの万引はお早目に ロバート・サマロット
真珠の首飾り ドロシー・L・セイヤーズ
クラムリッシュ神父のクリスマス アリス・S・リーチ
仮面舞踏会 S・S・ラファティ 
フランス皇太子の人形 エラリー・クイーン
煙突からお静かに ニック・オドノホウ
尖塔の怪 エドワード・D・ホック
クリスマス・イヴの惨劇 スタンリー・エリン
ディケンズ愛好家 オーガスト・ダーレス
目隠し鬼 ジョン・ディクスン・カー
クリスマスの十三日 アイザック・アシモフ 

「物語作者には一つの不文律が課せられている。もともとは、読者の強い要望で編集者がそのような習慣を作ったとされているのだが、クリスマスの話には、必ず子供が登場しなくてはならない」「クリスマスに材を取った物語の鉄則は、ほのぼのとした温もりと明るさを備えていなくてはならない」と、「フランス皇太子の人形」の冒頭において、クイーンがクリスマス・ストーリーの約束事について言及しています。以前、『修道士カドフェルの出現』(エリス・ピーターズ 光文社文庫)で触れましたが、クリスマス・ストーリーの条件はディケンズが言い出したらしいので、クイーンがいう編集者とはチャールズ・ディケンズのことかもしれません。ちなみに、ディケンズの条件は、子供が登場し、奇跡が起きなくてはならないというものです。

さて、そうそうたる作家の作品がそろっているからか、このアンソロジーを手に取ると心持ち重いような…、まあ、気のせいですが。前記のクイーンおよびディケンズのクリスマス・ストーリーの諸条件を満たしていない作品もあるけれど、さすがにどれも完成度が高いです。一番は、やはり「目隠し鬼」。これは何回読んでも恐いですね。ストーリーはまったく違いますが、状況はサキの「開いた窓」を思わせます。訪問先の屋敷のドアは開け放たれ、暖炉には火が焚かれ、明かりは煌々と灯っているにもかかわらず全く人気がない邸内の様子。そこに現れた女が醸し出す薄気味悪さ。訪問者の突飛な想像。
カーの巧みなところは、冒頭、短い時間で緊迫感、不安感を作り上げていることだと思います。特に、女の目、瞼や姿態の描写がただの無気味さじゃなく、下品な艶かしさをそなえた妖気を感じさせるあたりはすごい。

スタンリー・エリンの作品は、とても苦くて、しれも漢方薬の苦さではなく、摂り続けると身体がおかしくなりそうな苦さです。サマロットの作品で口直しを。

タグ:クリスマス・ストーリー



クリスマス12のミステリー (新潮文庫)クリスマス12のミステリー (新潮文庫)
(1985/10)
アイザック・アシモフ池 央耿

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「腰ぬけ連盟」レックス・スタウト ハヤカワ文庫

2007-09-23

☆☆☆☆

その日の新聞は作家チャピンの小説が猥褻か否かをめぐる裁判で賑わっていた。このチャピンこそネロ・ウルフが調査を依頼された事件―贖罪連盟なる団体のメンバーが次々と怪死した事件の鍵を握る人物だった。メンバーに送られてくる脅迫状はチャピンが書いたものらしい。彼の過去には脅迫を裏づける重大な理由が隠されていた。やがて連盟の中に新たな犠牲者が……。ユーモラスな筆致と鋭い性格描写、美食家探偵の本格推理。内容紹介より



ミステリ小説において探偵役以外の登場人物は読後、急速に影が薄れますが、このチャピンはなかなか印象深くて記憶に残る人物だと思います。少し大げさですが、この小説全体がチャピンの人生を描いているような気がします。ここら辺は純文学志望だったスタウトの才能の片鱗がうかがえるのかもしれません。

探偵小説としては、処女作『毒蛇』に続く二作目だそうです。『毒蛇』がものすごく物語に入り込みにくくて読むのに難儀したのに較べると本書はかなり改善されていますが、それでも読みづらいです。それは、一種の安楽椅子探偵ものでウルフの部屋におけるやり取りがメインになり場面転換が著しく少ないこと(この閉塞感が閉所恐怖症気味なわたしには苦手です)、それと、どうしてウルフはアーチー・グッドウィンを首にしないのかと思わせるほど口やかましいこの助手に原因があるような気がします。彼の子供じみた態度と軽口にはかなりうんざりします。もう少し雇い主を敬えと言いたい。

物語の謎は、“W.L.D”の有名なミステリを当初から思い起こさせる(本書の方が古いけれど、あっちを先に読んでいるため)ので意外性はありませんでした。


腰ぬけ連盟 (ハヤカワ・ミステリ文庫 35-2)腰ぬけ連盟 (ハヤカワ・ミステリ文庫 35-2)
(2000)
レックス・スタウト

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「料理長が多すぎる」レックス・スタウト ハヤカワ文庫

2006-02-07

☆☆☆

世界各地から選出された15人の名誉あるシェフたちは、保養地カノーワ・スパー
に次々と姿を見せ始めていた。そして晩餐会が催されるまさに前日、ソースの味ききに
興じていたシェフの一人が刺殺された!この集いに主賓として招かれていた、蘭と麦酒を愛し美食家探偵を自認するネロ・ウルフは誇り高き名料理長たちをまえにその重い腰をあげたが……全篇に贅を凝らした料理がちりばめられ美食家を自認する読者には垂涎の書

                       裏表紙あらすじより

いうことなので、これから本書を電車の中で読まれる美食家の方はくれぐれも口元に注意しましょう。

ネロ・ウルフはミステリ界では超有名な探偵ですが、なぜかわたしは初めて読みました。
ウルフの助手アーチーの目線での語り口とウルフとのやり取りが軽妙で笑えますが、プロットよりそちらに興味が移ってしまい気味なところもあり、本格ミステリとしてはやや物足りないような感じです。前半は料理長ほか登場人物が多すぎてややこしいと感じますが、読み進むと気にならなくなりました。ミステリとは関係ないけど、
ウルフの黒人従業員たちに対する態度が印象に残りました。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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