「出口なき荒野」チャールズ・トッド 扶桑社ミステリー

2008-07-29

☆☆☆

第一次世界大戦後の英国、ウォリックシャー州の静かな村で、乗馬中のハリス大佐が惨殺される。証拠不十分の第一容疑者は大戦の英雄だった。この難事件に任命されたかつての敏腕警部ラトリッジは、重度の戦争神経症に苦しんでいた。戦地でやむを得ず処刑した部下ヘイミッシュの最期が眼に焼きつき、頭のなかで彼の声がするのだ。捜査は難航し、もはや辞職しか道はないと思えたが―過去の傷跡、心の奥行き、意志を信じる力を描き、英米ミステリー界話題の新人C・トッドの処女長編。 内容紹介より



ネタばれを含んでいます。ご注意下さい!

第一次大戦の影を引きずるロンドン警視庁の警官が、英国の田舎で起きた殺人事件に挑むという設定はレニー・エアースの『夜の闇を待ちながら』に似ています。ただ、『夜の闇』が連続殺人をあつかったサイコ・スリラーなのにたいして、本書は殺人は一件しか起きないどちらかと言えば地味めの警察ミステリです。出版されたのは本書のほうが先。
地味めなのは、関係者の心理に重きを置いて描かれているためです。
欠点などなく立派な人物だと皆口を揃える被害者の隠れた部分がじょじょにあらわになっていくのかと思ったらそうではなく、容疑者と被害者との口論に驚愕の真実があるのかと思ったらたいしたこともなく、大佐が後見人になっていた女性とその婚約者を軸とする人間関係の話を、ああでもないこうでもないと431ページ中約380ページを費やして書いているのです。しかも、それが事件の真相に迫っていたかというと…。

登場人物の描き方に落差(レティスとウォルトン大尉のぼんやり感と比べて、役柄の違いもあるがキャサリンとメイヴァーズの存在感)があったり、動きの乏しいストーリーにしては、なぜか魅力的なのが不思議です。そして、残り約20ページで今までの話の流れとはまったく違った驚くべき真相が明らかになって急転直下の事件解決。作者、なんというか配分とか比率とか間違ってますよね。ラストに関連する部分を多めに取るべきでしたね。もったいない。



出口なき荒野 (扶桑社ミステリー)出口なき荒野 (扶桑社ミステリー)
(1999/09)
チャールズ トッド

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「闇に濁る淵から」レニー・エアース 講談社文庫

2007-12-27

☆☆☆

美しい田園地帯が広がる英国東南部。一九三二年の夏、ロンドン警視庁の警部補を辞め農場主となったマッデンは森の中で少女の惨殺死体を発見する。単純な事件と思われたが、捜査に加わった彼の推理により、各地で起こった凄惨な事件が掘り起こされて……。前作『夜の闇を待ちながら』に続く傑作サスペンス。 内容紹介より



前作 は第一次世界大戦の影を引きずる主人公と犯人の話でしたが、今回は、忍び寄る第二次大戦の影が作品に無気味な感じを与えています。主人公の妻ヘレンがしきりにその不安を口にするのは、夫妻には10歳になる息子ロブがいるためです。読者には、彼が徴兵年齢に達する頃には戦争が始まっていることが判っているので、より彼女の気持ちに共感できますし、物語には描かれない一家の将来について危惧してしまうわけです。そう考えていくと、犯人は戦争が作り出し、解き放した怪物みたいに思えますし、マッデンが迫りくる嵐の中で少女の遺体を発見する場面などは、これから起きる第二次大戦を象徴しているとこじつけて解釈したい気になります。

作品自体の出来は前作より劣ると思います。(犯人からの視点がないのが原因なのか)サスペンス性、犯人像のインパクト度や凶行に工夫がないためショッキング性が弱く、さらに前作より甘くウェットな登場人物同士の人間関係(前作ではバランスがとれていましたが、今回はちょっとぬるい感じ)も目に付きます。また、“犯人が遺体に加えた行為の合理的、心理学的な説明がなされていないように思いました。ラストにもうひと捻りが欲しかった。”←ネタばれ

寡黙な作家みたいですが、もし続編があるとすれば、きっとまた戦争が背景となるのでしょう。個人的にはあまりマッデン一家を苦しめないで欲しいです。


闇に濁る淵から (講談社文庫 え 24-2)闇に濁る淵から (講談社文庫 え 24-2)
(2007/02/10)
R. エアース

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「夜の闇を待ちながら」レニー・エアース 講談社文庫

2006-12-26

☆☆☆☆

時は一九二一年、イングランドの美しい田園で起きた猟奇殺人事件。
領主屋敷で発見された四つの死体は、銃剣とおぼしき凶器で刺し殺されていた。
スコットランド・ヤードのマッデン警部補が地道な捜査で犯人を追う。
心理分析など、まだ存在しなかった時代のサイコ・スリラー。
ロバート・ゴダード絶賛の話題作! 内容紹介より



とても面白かったです。ゴダードが誉めたのも分かる気がします。警察小説とサイコ・サスペンスがうまく混ざりあったみたいなミステリだと思います。なので、サイコ・スリラーを期待する方には物足りないかもしれませんが、反対にそれが苦手な人にはかなりお勧めだと思います。惹句の「サイコ・スリラー」という言葉を見て敬遠した方はすごく勿体ないです。斬新なアイデアや奇抜なトリックもなく、プロットもオーソドックスながらストーリー・テリング、物語の運びがこなれているというか、巧みな感じがしました。マッデン警部補を軸とした上司や新米部下、地方の駐在巡査など、警官たちの人間関係が日本人好みの人情味を持って描かれていて、また、妻子の死や第一次大戦による心の傷を負ったマッデンと向き合う女医ヘレンとの交流が凄惨な殺人事件とのバランスをとっていると思いました。
ただ、犯罪の発露をマッデン警部補も味わった戦争の残酷さのみに求め、犯人を戦争の犠牲者として描いていれば物語にもっと深みを持たせられたのではないかと思いました。


夜の闇を待ちながら 夜の闇を待ちながら
レニー エアース (2001/10)
講談社

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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