『硝煙のトランザム』 ロブ・ライアン 文春文庫

2012-07-26

☆☆☆☆

どちらも息子を愛していた。シングルマザーのウェンディも、少年を死なせたジムも。その愛が彼らの人生を狂わせた時、追撃と銃撃の物語が幕を開けた。ノゾの密航手配師、暗い記憶に苦惱する帰還兵、傷を追った捜査官。それぞれの敵を追う男たち、女たち。語りに罠を仕掛け、慟哭の結末へと猛然と突進する激情の冒険サスペンス。 内容紹介より



米国を舞台にしつつも、まったくハリウッド的エンタメ風に染まらないのは作者が英国人だからなのか。特に、元レインジャー隊員のクーガンが本来ヒーロータイプの位置付けにありながら、アクションシーンにおいてさえもほとんど目立った活躍をしていないどころか、終始添え物みたいな扱いを受けているのは注意すべきところかもしれません。それからまるでクモが巣を作るみたいに200ページにわたって人間関係と伏線を張り巡らす作業を行う細かさと根気には特筆すべきものがあるし、物語が動き出すと配置された点と点が次々に線で繋がっていき、視界が晴れていく爽快感とともに唖然とする展開にいく流れは見事です。そして、ラブロマンスを安易に持ち込まなかったのも、かなりシビアな結末と連動して評価すべきところだと思います。作品全体を通じて作者のそつのない緻密な計算と構成力を感じられました。これまで読んだロブ・ライアンの作品のなかでベストだと思います。また、障害を負ってリハビリ施設に入所中のFBIやATFなどの捜査官が一同に介して事件の解明に当たるアイデアは非常に斬新かつ面白いもので、これで別の作品を書いて欲しいくらいでした。
それ以外に、前作『9ミリの挽歌』の登場人物も再登場し、あの事件の顛末にも触れられています。
そしてまた、前作同様に余韻を残す終わり方というか、ラストをきちんと締めないで終わるのはこの人の作風なのでしょうか。

『アンダードッグス』ロブ・ライアン 文春文庫
『9ミリの挽歌』 ロブ・ライアン 文春文庫
『暁への疾走』ロブ・ライアン 文春文庫




硝煙のトランザム (文春文庫)硝煙のトランザム (文春文庫)
(2003/08)
ロブ・ライアン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『9ミリの挽歌』 ロブ・ライアン 文春文庫

2012-06-25

☆☆☆☆

やつがいた。おれたちを裏切ったあの野郎が ― タクシー運転手のエドは、ある日の客を見て驚愕した。仲間を裏切り、地獄行きを逃れた男。そいつは今や犯罪組織の幹部になっていた。おとしまえをつけろ。エドは仲間をかり集め、復讐に出た ― なけなしの栄光を目指して死地へと赴く男たちの友情を鮮烈に描くクライム・ノヴェル。 内容紹介より



ここで描かれる復讐譚はプロ同士が死力を尽くして闘うものじゃなくて、エドを始めとして非常に小者臭のする人生負け組の素人たちが犯罪組織の幹部ビリーに仕掛けるというものなのですが、そのビリーも組織のボスである父親の使い走りにすぎない半人前の立場にあります。父親のような大物になりたいがプロに成り切れないビリー、彼の持つ大金を強奪して恨みを晴らそうとする素人たち、その金を狙う犯罪計画実行者派遣業を裏で営むプロたち、犯罪組織を摘発しようとする司法機関の捜査官、ビリーの妻と愛人、これらの多視点によって復讐事件の成り行きが描かれ、一つの現金強奪計画が実行に移された途端、まるで小さな火花が爆薬に引火し、それが次々に爆発していくように、誰も予想も望んでもいなかったプロアマ入り乱れた熾烈なバイオレンスシーンが繰り広げられていきます。まるでエドの人生の軌跡を早回しで観たような、プロットや人物造形に優れ、内容に厚みのある、いっぷう変わってはいるもののクライム・ノヴェルの力作だと思います。

『アンダードッグス』ロブ・ライアン 文春文庫
『暁への疾走』ロブ・ライアン 文春文庫




9ミリの挽歌 (文春文庫)9ミリの挽歌 (文春文庫)
(2001/10)
ロブ・ライアン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『アンダードッグス』ロブ・ライアン 文春文庫

2009-10-29

☆☆☆☆

19世紀末の廃墟が地下に残る街、シアトル。今、この地下迷宮に、男が一人、少女を人質に逃走した。警察、元トンネル攻撃兵、対テロ特殊部隊、さらには地下に潜む悪党どもが、それぞれの思惑を胸に追撃に出る。巨大な闇の迷宮で息づまる人狩りが開始された。猛烈な疾走感、緻密な構成、驚愕の仕掛け。傑作冒険サスペンス登場!



ロブ・ライアンの処女作で、登場人物のほとんどがエキセントリックなところなど、カール・ハイアセンを思わせる作品です。伏見威蕃さんの訳者あとがきによると、登場人物の名前は、『不思議の国のアリス』に因んで名付けられているようで、ややノワール調な『不思議の国のアリス』と言ったらいいのでしょうか。“兎”にさらわれた少女アリス。その二人を追う者たちのそれぞれに、ただ、少女を救いたいという動機以外の彼らなりの理由を持っていて、それが妙に納得がいくもので、こういうところが上手だなあと思いましたね。ただ、追いかけられる兎役は力不足で荷が重かったのではないかと、もうちょっと強かったり、悪知恵が働いたり、地下世界に詳しかったりすればさらに面白くなったのかもしれません。そして、舞台となる地下世界ですが、おなじような場所を舞台にした、『マンハッタン狩猟クラブ』(ジョン・ソール 文春文庫)よりは趣向を凝らして描いてありますが、さらに無気味なスポットを描き出して欲しかったです。

『暁の疾走』ロブ・ライアン 文春文庫




アンダードッグス (文春文庫)アンダードッグス (文春文庫)
(2000/10)
ロブ・ライアン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『暁への疾走』ロブ・ライアン 文春文庫

2008-11-06

☆☆☆☆

ナチスの暴虐が席巻するフランス。そこに生きる二人の天才レーサーにイギリス情報部の密命が下った―その運転技術を駆使し、レジスタンス組織を援護せよ。名車ブガッティを駆り、強大な敵の手を逃れ続ける誇り高き男たち。だが組織に潜む裏切り者の手が迫っていた……。雄々しいロマンティシズムの脈打つ英国正調冒険小説。 内容紹介より



S・L・トンプスンの『A-10奪還チーム出動せよ』のようなものを期待して読んだら、かなり違ってました。ものすごく大きくたとえると、ノルマンディー上陸作戦について読もうとしたら、第二次世界大戦のことが書いてあったみたいな。特定のミッションを成し遂げる活劇じゃなくて、大河ドラマみたいなものでした。これは実在した人物をモデルにしたからなのでしょうが(あまり必要とは思われない著者あとがきに書いてあります)、ノンフィクションのようでもあり、ブルドーザーで地ならししたみたいにストーリーの起伏が目立たなくなっています。作者の意図はアクションより愛と友情を描きたかったのでしょう。特にウィリアムズとロベールとの関係が変化していく様子(嫌な奴から好敵手、そして親友へと)は読みごたえがあります。一方、ウィリアムズに対するイヴの気持ちの変化には、唐突な感じを受けました。ローズはロベールと絡ませたほうが人間関係が交錯してより作品に深みが出たのではないかと思いますが。

占領下のパリで、アパートの住人たちが、警官に追われる人物を救うために窓から瀬戸物や家具を投げ落とす場面は良かったです。


暁への疾走 (文春文庫)暁への疾走 (文春文庫)
(2006/07)
ロブ ライアン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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