『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-03-01

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

「この百年間に世に出た怪奇小説で傑作といえるのは、わたしにはシャーリー・ジャクソンの『たたり』と、この『ねじの回転』の二作だけという気がする」スティーヴン・キング(『死の舞踏』より) 幼い姉弟の家庭教師が体験した恐怖を独自の手法で描き、ゴースト・ストーリーの古典として称賛される一方で、その難解さばかりが喧伝されてきたこの名作が、泰西怪談に精通する役者により、真の姿をここに現す。あなたは、この物語の本当の恐ろしさを、ここにはじめて知ることになるだろう。他に、数多い短篇の中から厳選された、怪奇譚四篇を併録。ホラー作家としてのヘンリー・ジェイムズに焦点を当てた、本邦初の傑作集である。 内容紹介より



収録作品、「ねじの回転」「古衣装の物語」「幽霊貸家」「オーウェン・ウィングレイヴ」「本当に正しい事」。

内容紹介文には「姉弟」とありますが、本文では10歳の男の子、8歳の女の子の兄妹関係です。
本書が難解だという話は知っていてこれまで食指が動かなかったのですけれど、実際に読んでみたら難解というか解釈の仕方がいろいろとあるように感じました。それはとにかくそもそもの原因となった出来事の記述の曖昧さによるのでしょう。家庭教師の手記という形式であるために視点が固定されて、読者は彼女の述べることを信じる、または懐疑的な見方をする、という立場に置かれるために、彼女が見る二人の幽霊の存在と生前に彼らが幼い兄妹に行ったという邪悪な行為(ある程度予測はつくものの)の不確かさが土台になっているせいで、語り部が描く物語の信憑性が揺らぐのです。また、訳者後書きで英米人の階級意識に言及しているように、英国社会の存在する階級制度が物語の大きな背景となっています。家庭教師の雇い主である兄妹の伯父は眉目秀麗で性格も温厚の上流階級に属する男性ですが、その階級につきものの、養育を乳母や家庭教師任せにして、それらにまつわるトラブルが持ち込まれるのを嫌う無責任ともとれる傾向が顕著です。そして、家庭教師は父親は社会的には地位のある牧師の身分ですが経済的に困窮し、その末娘である彼女は家を出て自ら職を見つけなければなりません。幽霊の片割れの女も前任の家庭教師でした。階級の下である女中頭は、新任の家庭教師に全面的に協力しますが、兄妹を盲目的に可愛がり、彼らの問題には見て見ぬ振りをする態度を取ります。そして男の子に悪影響を及ぼしていた下男は当然階級的には一番下の身分に当たります。家庭教師は雇い主に恋心を抱き、女中頭は上に者に対して無批判。このような各階級間の差異をシンボル化しているようにも感じました。これは米国生まれ育ちの作者による英国階級社会へのアイロニーを含んでいるのかもしれません。

ほかに他の作品とは異なる捻りが加えられた幽霊貸家」は、毛色が変わった話で面白かったです。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『運命のボタン』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV

2017-02-26

☆☆☆☆

訪ねてきた見知らぬ小男は、夫婦に奇妙な申し出をする。届けておいた装置のボタンを押せば、大金を無償でご提供します。そのかわり、世界のどこかで、あなたがたの知らない誰かが死ぬのです。押すも押さないも、それはご自由です……究極の選択を描く表題作をはじめ、短篇の名手ぶりを発揮する13篇を収録。スピルバーグ、キング,クーンツら世界中のクリエイターたちに影響を与え、彼らに崇拝される巨匠中の巨匠の傑作集 内容紹介より



収録作品、「運命のボタン」「針」「魔女戦線」「わらが匂う」「チャンネル・ゼロ」「戸口に立つ少女」「ショック・ウェーヴ」「帰還」「死の部屋のなかで」「小犬」「四角い墓場」「声なき叫び」「二万フィートの悪夢」。

ふしだらで傲慢なある女性を殺したいほど憎んでいる“わたし”はヴードゥーの呪い(これがマシスンの得意ネタらしい)を用いて目的を果たそうとする「針」、世俗とか常識を受け入れてしまうと純真な心にあったものを失ってしまうことの過酷さを伴う悲劇を描いた「声なき叫び」、純粋であるからこそ持つことのできる能力と、その心のななかに潜む残酷さを描いた「魔女戦線」、この二つの作品は大人たちの利己的な動機によって犠牲になる子供たちの姿も現わしていると思います。匂いと怪談を組み合わせた「わらが匂う」、「戸口に立つ少女」、追い払っても始末しても舞戻ってくる白い犬「小犬」、処分されることに気づいたパイプオルガンの最期の咆哮、ブラドベリ風な「ショック・ウェーヴ」、タイムトラベルとホラーの組み合わせ「帰還」、砂漠地帯の田舎町のはずれに建つ喫茶店を舞台にした蒸発失踪もの。短篇であるため紙数に制限があること、地元の保安官が被害者よりであることで、サスペンス性と登場人物たちとの駆け引きがもう一つに感じられる「死の部屋のなかで」、コナン・ドイルの短篇「大空の恐怖」と同様に空に棲む怪物が登場する非常に印象に残る作品、オムニバス映画『トワイライト・ゾーン』の「2万フィートの戦慄」の原作ですが、主人公が精神的な問題を抱えている設定が効いています。短篇集『リアル・スティール』に収録されている「リアル・スティール」と同じ作品です。編者の尾ノ上浩司氏によると「リアル・スティール」のほうは、「四角い墓場」に手を入れているそうです。取り調べを録音した形式で綴られたモンスター系の作品でジャンク・ホラーっぽい「チャンネル・ゼロ」。あり得ない状況設定の流れのなかで、オチが実に現実的なものが意外に感じた「運命のボタン」。

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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『夜がはじまるとき』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-23

☆☆☆☆

悲しみに暮れる彼女のもとに突如かかってきた電話の主は……愛する者への思いを静かに綴る「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」、ある医師を訪れた患者が語る鬼気迫る怪異譚「N」、猫を殺せと依頼された殺し屋を襲う恐怖の物語「魔性の猫」ほか全6篇を収録した最新短篇集。巨匠の贈る感涙,恐怖、昂奮を堪能ください。 内容紹介より



「N」「魔性の猫」「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」「聾唖者」「アヤーナ」「どんづまりの窮地」

本書は、『夕暮れをすぎて』に続く、短篇集『Just After Sunset』(2008年)の二分冊目。こちらにもサンセットノートという著者による作品説明文が付いています。

「N」のどかな田舎にできた異界に通じる裂け目。そこから出て来て世界を滅ぼそうとする怪物を防ぐためのストーンサークルを偶然管理するはめになった男。クライヴ・バーカーの「髑髏王」(『セルロイドの息子』収録)も岩で封印してましたけど、鬼とか悪魔とかの封印系のよくある話に強迫性障害を組み合わせたところがとてもユニークな作品。

「魔性の猫」新薬開発のために動物実験によって大量の猫を殺し、その成果で莫大な財産を築いた製薬会社のオーナーのもとを訪れた殺し屋は、自宅の飼猫を殺すよう依頼される。
妖猫と殺し屋の闘いをストレートに描いたもの。

「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」飛行機事故の犠牲者になったはずの夫からの電話。夫を想う妻の心情がしんみりくる話。

「聾唖者」ヒッチハイクで乗せた男が口と耳が不自由だと知ったセールスマンは、妻の不倫や浪費について愚痴をこぼし始め、さらに彼女が引き起こしたとんでもない大問題も明らかにする。車内と教会の告解室、このふたつの密室で行う告白の場面が面白い二重性を形作っているように思える。

「アヤーナ」末期癌で寝たきりになった老父のもとへ、ある日突然現われてキスをした盲目の少女。その出来事を機に状態が改善し、歩けるようになったのだが、その場に立ち会った息子にもある能力をもたらす。派手さは無いけれど心に残る作品です。

「どんづまりの窮地」土地の所有権について揉めている男が相手にある場所に閉じこめられてしまう。読むとしばらくの間、幻臭を感じる気がする話。

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ジャンル : 本・雑誌

『リアル・スティール』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV

2017-02-20

☆☆☆☆

人間同士のボクシングが禁止された近未来、リングで闘うのは人間ではなく精巧なロボットたちになった。しかし変わらないものもある。華やかな勝利とは裏腹の負け犬は今でも存在する。旧式のロボットを抱え、落ちぶれて金もなく窮地に追いつめられた元ボクサーの男は、起死回生の手段に打って出る……名作「四角い墓場」(『運命のボタン』所収)を改題した表題作をはじめ、ホラーからユーモアまでを網羅した、巨匠の傑作集 内容紹介より



50年代から70年代に発表された作品を集めたものです。
「リアル・スティール」「白絹のドレス」「予約客のみ」「指文字」「世界を創った男」「秘密」「象徴」「おま★★」「心の山脈」「最後の仕上げ」

「リアル・スティール」小型ロボット同士を格闘させる競技会は日本でも催されているようですが、この作品は六十年前に時代を先取りしていた作品で、しかも、人間そっくりの人型ロボットが登場しています。ロボットの格闘シーンにリアルに迫力があります。

「白絹のドレス」有名なあの母親と息子の話ではなく、母親と少女のパターンをとったサイコスリラー。少女のこどもっぽい独白で構成されるストーリーがじわじわと恐い。

「予約客のみ」金銭欲、魔術、意外な舞台設定、この三要素を見事に絡めてまとめあげたショートショートのお手本のような作品に感じました。

「指文字」日常と異界の境界線、もしくはグレーゾーンに踏み入ってしまった異様な体験を描いたような作品。

「世界を創った男」フレドリック・ブラウンの短篇にもありそうな小話。自分が世界を創り出したのだ、と言う男が精神科医のもとを訪れ診察を受ける様子を台本形式で描いた作品。

「秘密」サスペンスを徐々に高め、なにやら悲劇的な様相も盛り上げ、若い男女のメロドラマぽいものも取り入れ、ピークに達したところでどすんと落とす作品ですが、注釈がなかったらわたしにはオチが理解できなかったでしょう。

「象徴」食べ物や嗜好品がタブー視され、不変であることが規範となっている統制社会に住む家族を描いた作品。科学的合理性にそわない物事は排除される社会に疑問を抱いた人々が隠れて受け継いでいるアンチパターンを象徴する品物とは……。

「おま★★」これまた食べ物が忌諱されている未来世界が舞台。タイムマシンに乗ってその世界に研究にやってきた科学者が食べ物を所持していたために引き起こしたドタバタ劇。

「心の山脈」中庸で良いのですけれど、もうちょっと捻ったラストが用意されているのかと思っていました。ブラッドベリの感傷、あるいはマキャモンの奇想が欲しいところ

「最後の仕上げ」ホラー要素を絡めているが、さすがにスタイルが古めかしい。

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『夕暮れをすぎて』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-17

☆☆☆☆

愛娘を亡くした痛手を癒すべく島に移り住んだ女性を見舞った想像を絶する危機とは?平凡な女性の勇気と再生を圧倒的な緊迫感で描き出す「ジンジャーブレッド・ガール」、静かな鎮魂の祈りが胸を打つ「彼らが残したもの」など、切ない悲しみから不思議の物語まで、天才作家キングの多彩な手腕を大いに見せつける傑作短篇集。 内容紹介より



「ウィラ」「ジンジャーブレッド・ガール」「ハーヴィーの夢」「パーキングエリア」「エアロバイク」「彼らが残したもの」「卒業の午後」、サンセット・ノートという著者による作品説明文があります。

「ウィラ」乗っていた列車の脱線事故のため、片田舎の駅で代替列車の到着を待つ乗客たちの話。婚約者の姿が見えなくなった若者は数キロ離れた町の酒場へ捜しに出かけます。どういう伏線なのかは早々に見当が付いてしまうし、よくあるパターンを採っているのですが、カップルがそういう状態にあることに気が付いてからの展開が同様のアイデアを使った作品とは違う意外な進み方をしているのが印象的です。

「ジンジャーブレッド・ガール」赤ちゃんを亡くした女性が走ることに目覚めて夫との関係がぎくしゃくしたため、島にある父親の別荘で別居生活をすることになります。季節外れの閑散とした別荘地に、金持ちの男がいつも違った“姪っ子”を連れてやってくる、という話を聞いた彼女はちょっとした好奇心で噂の別荘を覗いて見るのですけれど……。子供を失った母親の心の内を描いたドラマからサイコがらみのバイオレンス・スリラーへの転換が鮮明ですが、その変化の具合にちょっとあっけにとられたような。

「ハーヴィーの夢」倦怠期でありながらも平穏な毎日に浸っている主婦が、いつものように始まったある朝に夫から聞かされた不吉な夢の話。それは彼女の家庭に起きた不幸な出来事の夢だったらしいが、詳しい内容を言い渋る夫に、ひとに夢の話をすれば、それが正夢になることはない、と彼女は促す。夢を題材にしたストレートな話でもうひと捻り欲しい気もしました。

「パーキングエリア」著者がパーキングエリアで実際に経験した出来事をもとに書いた作品だそうです。人気のない深夜のパーキングエリア。トイレに行こうとした男は、女性用トイレで連れの男から暴力を振るわれている女性の声を聞く。作家である男は自分がどう対処すれば良いのか、ということをながながと考え込み、葛藤する話。本題に入る前のプロローグというか導入部というか、そこが長い、まるでスタンダップコメディみたいな饒舌さが気になりました。

「エアロバイク」健康診断の結果でコレステロールの数値が標準値より高かった男は、健康を維持する身体機能を作業員にたとえる話を医者から聞かされる。運動不足を解消するためエアロバイクをこぎ始めた画家である彼は、エアロバイクに向き合う壁に田舎道の風景画を描き、ロードマップを買って空想の自転車旅に出る。コレステロールの数値も体調も良くなった彼だが、彼の体調を維持管理している架空の作業員たちにも変化が現れる。この短篇集のなかでは一番キングらしさが表れているように感じました。

「彼らが残したもの」9・11事件から題材をとった作品。保険調査員の主人公は、会社をずる休みした日にその事件が起き、彼のオフィスが入っていたビルが崩壊してしまう。その事件から一年になろうかという日に、買い物から帰った彼は自宅のテーブルの上に見覚えのある奇妙な形をしたサングラスが置かれているのに気が付く。さらに野球バット、ブーブークッション、貝殻などが現れるが、それらの品は事件で亡くなった同僚たちの馴染みの持ち物だった。この作品も饒舌さが気になるものの、サバイバー・ギルトとは違った、生き残った者が果たすべき、亡くなった人たちへの義務ないしは責任をテーマにしているように感じられる非常に切ないレクイエムともとれる物語。彼らの遺品がおかしな物だったりするのが、その身に起きた悲劇をよりあらわにしているように思います。

「卒業の午後」上流階級に属する恋人を持つ女子高生の視点から、彼の卒業とその後のパーティー、恋人とのこれからの関係、彼女の将来の夢、今日やるだろうこと、人生のハレの日と世界の破滅の日を淡々と描いた作品。

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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『みんな行ってしまう』マイケル・マーシャル・スミス 創元SF文庫

2017-02-03

Tag : 短編集 ホラー SF

☆☆☆

『スペアーズ』『ワン・オヴ・アス』で知られる鬼才作家M・M・スミスが贈る、哀感と郷愁に満ちたSFホラー傑作集。小品ながら忘れがたい味わいを残す表題作を巻頭に、奇跡の医療用ナノテクがもたらした人類の意外な終末「地獄はみずから大きくなった」、田舎町に暮らす不思議な絵描きを巻き込んだ事件を描く英国幻想文学大賞受賞作「猫を描いた男」、近未来の巨大ハイテク・テーマパーク兼養老院での奇怪な冒険劇「ワンダー・ワールドの驚異」まで12編を厳選して収録。 内容紹介より



「みんな行ってしまう」「地獄はみずから大きくなった」「あとで」「猫を描いた男」「バックアップ・ファイル」「死よりも苦く」「ダイエット地獄」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」「いつも」「ワンダー・ワールドの驚異」

子供が成長して大人になっていく過程で少しずつ失っていったもの、消えていったもの、無くしたものを少年の形にして表した、ブラッドベリ風な感傷性をもった物悲しい作品「みんな行ってしまう」。ナノテクに医療科学を組み合わせた最先端医療用ソフトとハードウェアを開発しようとした三人組。その中のひとりが研究中に亡くなったため、研究目的はまったく違った方向へ向かってしまう。医学と心霊の取り合わせが、この作品においては木に竹を接いだみたいな心地悪さを感じさせる「地獄はみずから大きくなった」。交通事故で突然に愛妻を失った夫のとった行動は……。愛さえあれば奇跡が起き、愛ゆえに何ごとも成し遂げられる、ということでしょうか。これまでのホラー作品を一歩進めたような物語「あとで」。夫による家庭内暴力から妻や子供が逃れてくる場面が、三回繰り返されるところがワンパターン気味に感じられました。全体的に振り切れていない、詰めが甘い印象が残った「猫を描いた男」。幸せの頂点と感じられる瞬間をバックアップして、なにか不都合が生じたときにバックアップした時点へ戻ることができるサービスを受けていた男。妻子を事故で亡くした時、彼は過去に戻ろうとするが……、「あとで」の流れを汲んでいる話ですけれど、かなり苦い結末が待っている「バックアップ・ファイル」。「死よりも苦く」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」、これらは心の影の部分をテーマにした作品ですが、それゆえに少々インパクトがなく、全体的に平板な感じがしました。「闇の国」は、実際に見た、ただ厭な夢を物語に仕立てただけのような。これまでのサイズのジーンズが履けなくなった男が、ダイエットも運動もくそくらえと思って、タイムマシンを作り昔の体形を取り戻そうとする、おバカSFの「ダイエット地獄」。母親を亡くした娘に父親がクリスマスプレゼントとにラッピングした贈り物。センチメンタルな「いつも」。テーマパーク内に設けられた老人向けの住居で犯行を重ねる殺し屋。依頼を受けた彼は、ターゲットの老女が暮らす屋敷に入り込むのだが。テーマパークが帯びる狂気、奇妙さを描いた「ワンダー・ワールドの驚異」。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ブルー・ワールド』ロバート・R・マキャモン 文春文庫

2017-01-31

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

妻と寝たはずなのに目覚めると隣りに骸骨が横たわっているのを発見した男。往年の怪奇俳優の化粧箱に隠されていた秘密。新興別荘地のハロウィーンの命がけの仮装ごっこ。内も外も真っ赤な家に住む不思議な一家。ポルノ・スターに魅入られた若き神父。乗る人を待つばかりのスポーツカーのように軽快なストーリーテリングが絶妙。 内容紹介より



「スズメバチの夏」「メーキャプ」「死の都」「ミミズ小隊」「針」「キイスケのカゴ」「アイ・スクリーム・マン」「そいつがドアをノックする」「チコ」「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」「赤い家」「なにかが通りすぎていった」「ブルー・ワールド」。

スズメバチとの意思の疎通ができる能力を持った少年が、田舎の町を支配する「スズメバチの夏」。化粧箱の中の品を使ってメーキャプすると異様な力が身に付く「メーキャプ」。妻を含めた町の住人たちや生物が一夜にして肉を剥ぎ取られた姿に変わり果てた「死の都」。『ナイト・ソウルズ』(新潮文庫)に「夜襲部隊」として収録されている「ミミズ小隊」。よくわからない「針」。キイスケというカナリアを飼っている、刑務所内で魔術師と呼ばれる受刑者の老人。外の世界を自由に飛び回るカナリアの見聞きした様子を老人が受刑者たちに語って聴かせる「キイスケのカゴ」。核戦争後、ある一家の父親が夢想する幸せな家庭団らんを描いた、切ない「アイ・スクリーム・マン」。『戦慄のハロウィーン』(徳間文庫)に「ドアにノックの音が……」というタイトルで収録されている作品「そいつがドアをノックする」。障碍をもった男の子が実はものすごい超能力を持ちあわせていたという「チコ」。かつてテレビ・シリーズのスーパーヒーロー役だった老人が、ヒーロー時代のマスクとスーツを身にまとい、女友だちを殺害した連続殺人犯を追いかける「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」、大量の新聞や雑誌を蒐集し、人々の行動を秒単位で記載する“見張り男”などの登場人物たちも充実して、この一編だけではもったいない。灰色の家に住み、同じ部品工場で働く町の人々。その家々のひとつに暮らす青年に、突然、赤く塗られた一軒の家の家族が教えた人生のありかたとは……「赤い家」。原因不明のカタストロフが頻発する世界。コンクリートは水銀のように液状化し、水が爆発する一方でガソリンが飲料できるようになり、霧雨は血と生肉やはらわたを降らせ、人体が突然爆発して燃えあがり、重力カタパルトが畑や家屋を押しつぶす。ある一家の子供部屋は一夜にして真空状態になり、子供を失った母親は精神に変調をきたし、そして、変化はその夫婦の身体にも現われ始める。想像を超えた圧倒的で理不尽な力、環境の激変下での一組の夫婦の愛情,母性愛を痛切に描いた終末世界をテーマにした傑作「なにかが通りすぎていった」。いわゆるboy meets girlものですが、変わっているのはふたりが神父とセクシー女優なこと。教会側からしたら、堕落して汚れた街の一画は足を踏み入れるなどもってのほかであり、布教など考えられない場所。彼女に寄り添ううちに考えが変わっていった神父が最後に決めた行動とは……。結末もありきたりでない、サイコキラーを絡めた中篇「ブルー・ワールド」。

『戦慄のハロウィーン』アラン・ライアン編 徳間文庫
『ナイト・ソウルズ』キング、マキャモン他 新潮文庫

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『北極星号の船長 ドイル傑作集2』コナン・ドイル 創元推理文庫

2017-01-28

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆☆

氷に閉ざされた極地の洋上を舞台にした怪異譚「北極星号の船長」を表題に、高空飛行の限界に挑むパイロットが目撃した怪物たちの世界「大空の恐怖」や、アンティークが呼びさます古の出来事「革の漏斗」「銀の斧」、ファム・ファタルに翻弄されてゆく男の曲折をつぶさに描く「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」など十二編を収録。シャーロック・ホームズを生んだコナン・ドイルの、怪奇小説作家としての横顔に焦点を定める。理趣と夢想・幻想のあわいを軽やかに往還する、ドイル・コレクション第二集。 内容紹介より



「大空の恐怖」「北極星号の船長」「樽工場の怪」「青の洞窟の恐怖」「革の漏斗」「銀の斧」「ヴェールの向こう」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」

「大空の恐怖」「青の洞窟の恐怖」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」、これらの作品には挿絵が付いています。虎が棲むジャングルのような、大気圏上層にも人間を襲う怪物が存在するジャングルがあると信じるパイロットが自説を証明しようとする「大空の恐怖」、怪物の挿絵がまったく怖くありません。婚約者と死別した捕鯨船の船長の身に起きた不可思議な出来事の顛末を描いたロマンスホラー「北極星号の船長」、アフリカの大河の河口に建つ樽工場、大雨による氾濫が起きて以降、工場の従業員が夜間に姿をくらますという事件が起きる。いかにもアフリカを舞台にして成り立つ物語「樽工場の怪」。石灰岩の丘陵にある、青蛍石を採掘するため古代ローマ人が掘った鉱坑にまつわる化け物の噂話。その地方に転地して養生している男が、鉱坑を探検しようとして体験した恐怖談「青の洞窟の恐怖」。昔、名高い毒婦の拷問に使用された革の漏斗がもたらす悪夢を描いた「革の漏斗」。中世時代に作られた、妖刀のような魔力を帯びた斧が起こす連続殺人事件「銀の斧」。イングランドに残るローマ人の砦の跡を見学した夫婦によみがえる生まれ変わりの記憶を描いた不思議な話「ヴェールの向こう」。船上で亡くなり水葬にされた男が、まだ訃報を知らされていない新妻の前に現れる「深き淵より」。降霊会がらみの「火あそび」。催眠術を用いて男を意のままにしようとする悪女を描いた「ジョン・バリントン・カウルズ」と「寄生体」。 
オカルトチックな様相をまといながらも、怪談一辺倒にならずに科学的な観点から不可解な事象や怪異な事件を分析しようとする話も多く、それが作品を二重に楽しめる要因になっている気がしました。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『恐怖の愉しみ 下』デ・ラ・メア 他 創元推理文庫

2017-01-19

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

怪談は語り口がすべてである。そしてその醍醐味は短編にあるといっても過言ではない。本書は、幽霊怪談の嚆矢ともいうべきデフォーの『ミセス・ヴィールの幽霊』を頭に,レ・ファニュ、E・F・ベンスン、デ・ラ・メア、A・E・コッパード、ヒュー・ウォウポール、そしてW・W・ジェイコブズら総勢二十四人の手練による〈百物語〉の真打ちである。英米の会談を訳しては名匠とうたわれた平井呈一が、みずから選び抜き、腕に縒りをかけて訳出した名品の数々。まさに恐怖の愉しみを味わうには絶好の書! 下巻内容紹介より



「失踪」ウォルター・デ・ラ・メア、「色絵の皿」マージョリ・ボーエン、「壁画のなかの顔」アーノルド・スミス、「一対の手—ある老嬢の怪談—」アーサー・キラ=クーチ、「徴税所」W・W・ジェイコブズ、「角店」シンシア・アスキス、「誰が呼んだ?」ジェイムズ・レイヴァー、「二人提督」ジョン・メトカーフ、「シャーロットの鏡」ロバート・H・ベンスン、「ジャーミン街奇譚」A・J・アラン、「幽霊駅馬車」アメリア・B・エドワーズ、「南西の部屋」メアリ・E・ウィルキンズ=フリーマン。
下巻には以上の十二編が収録されています。


「失踪」幽霊も悪魔も骸骨も出て来ない話、結局人間の所業がそんなものよりも恐ろしいということなのでしょうか。デブで大柄な幽霊という見た目が可笑しいし、実は性別も……なのですが、趣味の品物に執着して孤独を紛らわせる姿に哀れさを感じる「色絵の皿」。悪魔、魔物封印系の話壁画のなかの顔」。幼くして亡くなったこどもの幽霊、生前暮らした屋敷から離れられず、移り住んでくる住人を選べない、いたいけな幽霊の「一対の手—ある老嬢の怪談—」。死を呼ぶ幽霊屋敷に肝試しで一夜を過ごそうとする四人の男たちに起きた恐怖体験談「徴税所」。偶然見かけた骨董品店で、安く買い求めた品が非常に高価なものだと知った客の男は、オークションで手に入った売上金の半分を返金しようと再度店を訪れるが……、「角店」。ショートショートホラーの「誰が呼んだ?」。不思議な味わいの「二人提督」。十三人の神父が語る奇譚三編が収められている「シャーロットの鏡」。差出人の名前のない、芝居の切符を受け取った男が体験したへんてこな話「ジャーミン街奇譚」。道に迷った男が乗り合わせた乗り合い馬車は「幽霊駅馬車」。下宿人をおいている屋敷を切り盛りする姉妹、亡くなった叔母の使っていた部屋で起きる気味の悪い現象を描いた「南西の部屋」。
収録作品はバラエティの富んでいるため、読んでいて飽きません。『淑やかな悪夢 英米女流怪談集』『怪奇礼讃』にも作品が収められている作家が目につきました。

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『M・R・ジェイムズ傑作集』M・R・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-01-16

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

M・R・ジェイムズの怪奇小説は古典的であり、その恐怖と戦慄の盛り上がりは、まさに「怪談」の名をほしいままにしているといえよう。彼の生み出す妖魔たちは、読者にもその気味の悪い手をふれてきそうなほどなまなましい。古い銅版画の中で妖怪が動きまわるという奇怪な作品「銅版画」、あるはずのない十三号室が実は存在するという「十三号室」などをはじめ、迷路をテーマに悪夢のような世界を描きだした特異な作品「ハンフリーズ氏とその遺産」を含む17編を収録。 内容紹介より



「消えた心臓」「銅版画」「秦皮(とねりこ)の木」「十三号室」「マグナス伯爵」「笛吹かば現われん」「縛り首の丘」「人を呪わば」「ハンフリーズ氏とその遺産」「ウィットミンスター寺院の僧坊」「寺院史夜話」「呪われた人形の家」「猟奇への戒め」「一夕の団欒」「ある男がお墓のそばに住んでいました」「鼠」「公園夜景」

収録作品は、黒魔術、秘儀、魔法といったものにはまった人物が起こした事件、または彼らが遺した品物が起こす出来事を元にした話を伝聞形式で表したものが多いように思います。読む前にはおどろおどろしい様式美を帯びたゴシックホラーをイメージしていたのですけれど、意外にも実際には軽口をまじえるところがあって、予想していたより重々しく感じなかった印象でした。作品は良い意味でベーシックな怪談であり、行間から血液体液や肉片が飛び散るみたいなスプラッターやモダンホラーとは正反対に位置しています。
有名な「銅版画」は、画のなかの気味の悪い何者かが動き回って、ある事件を再現する話。「呪われた人形の家」も同様に、ある一家に起きた凄惨な事件がドールハウスで再現されるという話。過去を映しだす望遠鏡の「縛り首の丘」。「秦皮(とねりこ)の木」は、魔女裁判にかかわった地元の名士が魔女に呪いをかけられ、一家の跡継ぎが奇妙な死に方をするのですが、とねりこの木に巣食う生き物が非常に無気味です。存在するはずのない部屋が出現する「十三号室」に宿泊するものは……。

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『怪奇礼讃』E・F・ベンスン/A・ブラックウッド 他 創元推理文庫

2016-12-28

☆☆☆

本書は怪奇小説のアンソロジーである。19世紀末から20世紀前半にかけての、英国の古風な、それでいて少しひねくれた、変わった味の作品を中心にまとめたものである。不思議な話、変な話、謎めいた話、そしてなおかつ怖い話を……。ベンスン、ダンセイニ,ブラックウッドをはじめ、怪談通を唸らせるウェイクフィールド、ボウエン、バレイジ、奇妙な味わいのマクダーミッドやトマス、怪奇にユーモアをしのばせたベアリング=グールドやアラン、そして極めつきの恐怖譚、ベリスフォード「のど斬り農場」……巨匠の名品から知られざる作家の幻の逸品まで、本邦初訳作を中心に22編を厳選。古雅にして多彩な怪奇小説をご賞味あれ。 内容紹介より



収録作品、
「塔」マーガニタ・ラスキ、「失われた子供たちの谷」ウィリアム・ホープ・ホジスン、「よそ者」ヒュー・マクダーミッド、「跫音(あしおと)」E・F・ベンスン、「ばあやの話」H・R・ウェイクフィールド、「祖父さんの家で」ダイラン・トマス、「メアリー・アンセル」マーティン・アームストロング、「「悪魔の館」奇譚」ローザ・マルホランド、「谷間の幽霊」ロード・ダンセイニ、「囁く者」アルジャナン・ブラックウッド、「地獄への旅」ジェイムズ・ホック、「二時半ちょうどに」マージョリー・ボウエン、「今日と明日のはざまで」A・M・バレイジ、「髪」A・J・アラン、「溺れた婦人」エイドリアン・アリントン、「「ジョン・グラドウィンが言うには」」オリヴァー・オニオンズ、「死は素敵な別れ」S・ベアリング=グールド、「昔馴染みの島」メアリ・エリザベス・ブラッドン、「オリヴァー・カーマイクル氏」エイミアス・ノースコート、「死は共に在り」メアリ・コルモングダリー、「ある幽霊の回顧録」G・W・ストーニア、「のど斬り農場」J・D・ベリスフォード。

ミステリーソーンやトワイライトゾーン系の話が好きな方にはお勧めしたい、ホラーに偏らない一風変わった作品が収録された短篇集です。以下、主な作品の感想です。

出征した婚約者が戦死し、宿泊所を兼ねたパブの主人と結婚した女性。日常生活を淡々と過ごす彼女の唯一の心の癒しは、海に面する丘に登って最愛の婚約者の幽霊と過ごすこと。彼女の痛切なある願いが、宿泊客の一言で叶えられる。とても哀切漂う作品「メアリー・アンセル」。
アレクサンドリアで商売をする英国人の主人公は、金のこととなると非常に冷酷になる人物。借金のかたに店兼住居を取り上げ、貧しい一家を立ち退かせるが、その家族のなかの老婆が彼にむかって呪文を唱えると、その夜から歩く彼の後から足音が聴こえるようになり、彼を悩ませる。オチが日本の怪談話のような「跫音」。
物乞いに呪いをかけられた雑貨店の店主。店の窓の外で繰り広げられるミステリーゾーンみたいな時の錯綜劇「今日と明日のはざまで」。
未来で起きた事故あるいは事件によって幽霊になった考えられる女性の亡霊が現代に現れる話。かなり奇抜な着想が面白いし、女性の身に何が起きたのかを考えると恐い「溺れた婦人」。
「塔」は、廃墟と化した村に残された「犧の塔(四百七十階段)」と呼ばれる建築物。そこを訪れた新妻の無気味な体験。こういう怪談話の場合は、地下墓地に降りていく話が多いと思うのですが、この作品は登って降りてくる話です。でも、降りても降りても……。
「死は素敵な別れ」は、面白みのない、謹厳なプロテスタントの妻にうんざりしていた夫が、その妻が亡くなったため若い女性と結婚しようとする。それを快く思わない妻の幽霊が夫の邪魔をするというホラーコメディ。婚約者との結婚を諦めようと彼が訳を話すと、実は婚約者にも幽霊が取り憑いているというのだった。メイ・シンクレアの「証拠の性質」も似たような設定でした。同じくホラーとコメディが融合した「のど斬り農場」。
シオドア・スタージョンの「それ」のように、太古から地球に存在する得体の知れないもの。それと接触し、無情を感じさせる「谷間の幽霊」、知識、知恵、芸術、宗教、思想が書物を通してそれに浸透し、来る者に囁きかける「囁く者」、それが実体化して人間界に潜み、接触した一部の人間に悪を感じさせる「よそ者」、善悪に別れた二つのそれ(魂)が巡り会って、善が悪によって攻撃される「オリヴァー・カーマイクル氏」。
事故死したばかりの老人の過去がよみがえる「「ジョン・グラドウィンが言うには」」、 バスに轢かれた男が数年間の幽霊としての日常と意見を語る「ある幽霊の回顧録」、生者と生前彼と親しかった死者たちがある孤島で巡り会う、せつない「昔馴染みの島」。

今年最後の更新になります。当最果ての孤島ブログを訪れて頂いた皆様、誠にありがとうございます。どうぞ良いお年をお迎え下さい。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『サンタクロースにご用心』 シャーロット・マクラウド編 扶桑社ミステリー

2016-12-25

☆☆☆

聖なる夜に人はみな、心静かに己れの罪を悔い改め—というわけにいかないのが世のならい。大学構内で出回った贋札造りの犯人探しに奔走するシャンディ教授。いきのいい女探偵のオフィスにころがりこむ死体。クリスマス劇の天使が射殺される一方で、二人の娘とその貧乏亭主に遺産めあてに殺されてしまうと疑心暗鬼の父親。ましてや妻殺しを計画する夫にいたっては……。はらはらさせたり、泣かせたり、一転絶妙なコンゲーム。趣向をこらした書き下ろしのクリスマスミステリーが13編。イヴの夜、とびきりのプレゼント! 内容紹介より



収録作品、「贋札造りのクリスマス」シャーロット・マクラウド、「鹿狩り」レジナルド・ヒル、「私立探偵リズ・ピーターズ」エリザベス・ピーターズ、「赤い髪の天使」メードラ・セール、「もつれた糸をほどくには」ジョン・マルコム、「バーゲン品につき……」ドロシー・キャネル、「サンタクロースにご用心」ビル・クライダー、「ファミリー・クリスマス」パトリシア・モイーズ、「ミス・メルヴィルの好運」イーヴリン・スミス、「俺たちの福音」エリック・ライト、「ニックが街にやってくる」ミッキー・フリードマン、「イヴの罠」ロバート・バーナード、「鍋いっぱいのササゲ豆」マーガレット・マロン

サブタイトルは、「クリスマス13の物語」です。
全編書き下ろしですから、それぞれ出来不出来があります。「鍋いっぱいのササゲ豆」は、ミステリとして大事件が起きるわけではありませんが、万引き常習者である黒人女性の人柄や人間性を良く表して人生の機微を描いたほろりとさせる良作です。また、「バーゲン品につき……」も、想い出のティーポットを割ってしまった女性が、バーゲンセールで一個しかない同じポットを手に入れるために前夜からデパートに忍び込んでしまうというちょっとした人情話。舞台は同じデパートでも「サンタクロースにご用心」は、万引き被害に悩む地元のデパートにサンタの扮装をして子どもたちの願いを聞きながら犯人探しをする話。細部に気が利いていると感じた「俺たちの福音」は、自分たちを警察に密告した酒場の店主を救世軍を装って、面子をつぶして金もだまし取ろうとする話。「サンタなんか大嫌いだっ!」という手紙をある子どもから貰ったサンタクロースが、探偵となって宝石窃盗事件を解決する「ニックが街にやってくる」。クリスマス劇に代役として出演していた天使役の女性が劇中に射殺されてしまう「赤い髪の天使」。“赤い髪”といえば、あの有名な名探偵が活躍する作品を思い浮かべますが、「鹿狩り」は、その名作のモチーフを使ったみたいな話です。しかし、レジナルド・ヒルらしさは感じらず、いかに元ネタが優れているかがわかります。大学構内のクリスマス期間中の夜店で使われた、大学学長を肖像画に替えた贋札造りの犯人を追うシャンディ教授が懐かしい「贋札造りのクリスマス」。これまた懐かしいミス・メルヴィルが元独裁者を暗殺しようとする「ミス・メルヴィルの好運」。クリスマスプレゼントに爆弾を仕掛けて妻殺しを企む内務省の高官の話「イヴの罠」。「ファミリー・クリスマス」は、遺産目当てに娘夫婦がクリスマスディナーの中に毒を盛るのではないかと心配する、スクルージみたいな吝嗇家の夫を気遣った妻がやった余計なこと。人を殺そうとするには不意打ちに限る、ということを再確認できる「もつれた糸をほどくには」。ハードボイルド物のパロディなのか 特大ハーシーチョコ三枚をいっぺんに食べてもへっちゃらな女探偵がどうでもいいような活躍を見せる「私立探偵リズ・ピーターズ」。

ユーザータグ:クリスマス・ストーリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黒い玉』トーマス・オーウェン 東京創元社

2016-12-16

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆

夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった―。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。 文庫版内容紹介より



収録作品
「雨の中の娘」「公園」「亡霊への憐れみ」「父と娘」「売り別荘」「鉄格子の門」「バビロン博士の来訪」「黒い玉」「蝋人形」「旅の男」「謎の情報提供者」「染み」「変容」「鼠のカヴァール」

幻想奇譚系の短篇集です。単行本に付いている帯の惹句には「傑作「黒い玉」を読まずに怖いと言うなかれ……あえておすすめします。夜、ひとりでお読みになることを。」、とあったので、恐がりなわたしは、あえて昼間にひとりで読みました。「黒い玉」は「変容」と同様に“変身”系のお話で大人の男性が異様な姿形に変わってしまう、かなりシュールな作品です。また、「父と娘」も変身ものですが、侮蔑語で使うビッチと雌犬をあまりにもストレートに結びつけた話。一方、ロールシャッハ・カードのような模様を作り出す遊びのなかで、奇態な生き物を出現させてしまった「染み」。旅行中に偶然見つけたカタコンベ。その棺のひとつを開けて中を覗いた男の婚姻話「亡霊へ憐れみ」。死んだ女性と気づかずに交流してしまう、あるいは愛してしまう「雨の中の娘」と「鉄格子の門」、そしてその別バージョンである「旅の男」。「バビロン博士の来訪」は、自宅で起きる怪異な音に怯えた男が夜中に家の前の路上で出会った人物の話。物への執着を描いた「蝋人形」と「鼠のカヴァール」。妻の知らない姿を知らされた夫に芽生えた疑惑が妄執へ発展する、心の闇を描いた「謎の情報提供者」。目先を変えた、ホラーとユーモアが混ざった佳作「売り別荘」。恐怖が行動を凶行にエスカレートさせる「公園」。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『エルキュール・ポアロ』アガサ・クリスティ 集英社文庫

2016-11-19

Tag : 短編集

☆☆☆

ある夜、ポアロの部屋に下院院内総務と戦時内閣の閣僚が訪れた。明日,ベルサイユ宮殿で開かれる連合国会議を前に、イギリス首相が誘拐されたのだ。首相の欠席は最悪の結論を導くおそれがあり、24時間以内に発見しなければならない(「イギリス首相誘拐事件」)。「灰色の脳細胞」で事件を分析し、犯人の心理を洞察し、解決する名探偵エルキュール・ポアロ登場。 内容紹介より



〈世界の名探偵コレクション10〉シリーズの第四弾。
「イギリス首相誘拐事件」「《西の星》盗難事件」「エジプト王陵の謎」「クラパムの料理女の謎」「ヴェールの貴婦人」「二十四羽の黒鶇」「プリマス行き急行列車」「すずめばちの巣」

あのクルト・シュタイナさえ失敗した英国首相の誘拐をいとも簡単に成し遂げたドイツスパイの正体を暴いた「イギリス首相誘拐事件」。

中国にある仏像の目から盗まれたと噂される一対の宝石を巡る事件。宝石を手放し、元の場所へ戻せ、という脅迫状が持ち主へ届く。その相談を持ち主から受けたポアロが留守中に、もうひとつの宝石の持ち主が現われ、ヘイスティングが事情を聴くことに。名探偵気取りになったヘイスティングが見事にこけにされた「《西の星》盗難事件」。

巷に取り上げられた「ツタンカーメンの呪い」を元ネタにした「エジプト王陵の謎」。心臓発作,自殺、破傷風,敗血症で次々に亡くなった王陵の発掘者たちの謎に迫る。

国家的秘密や伯爵夫人の宝石しか扱わない、プライドの高い探偵と非難されたポアロが上流のレディが真珠をなくすくらいの重大事である、腕の良い料理女の失踪事件を請け負った「クラパムの料理女の謎」。

昔の恋人に宛てた手紙をネタに強請られた貴婦人と宝石強奪事件を結びつける「ヴェールの貴婦人」。

『クリスマス・プディングの冒険』に収録されている、贔屓のレストランで十年近く毎週火曜と木曜にきまった食事をとる老人が月曜日にまったく違ったメニューを注文した出来事の謎を解く「二十四羽の黒鶇」。

アメリカの富豪の娘が急行列車の客室で刺殺体で発見される「プリマス行き急行列車」。
計画された犯罪を未然に防いだ「すずめばちの巣」。

持ち物や服装から依頼人の身元を当てたり、犯罪現場で遺留品や証拠の品を嬉々として集めるベイカー街の名探偵にあてつけるポアロの言動が面白かったです。それに国家の一大事や上流階級のスキャンダルしか扱わないというのも皮肉が利いています。

『クリスマス・プディングの冒険』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『老女の深情け』ロイ・ヴィカーズ ハヤカワ文庫HM

2016-11-04

Tag : 短編集

☆☆☆

寂しい金持ち女に窮地を救われ、結婚を迫られた男は、衝動的に彼女を絞殺した。強盗に襲われたように装い、証拠品はすべて処分、アリバイも完璧で、事件は迷宮入りしたかに見えた。死体に残されたアクセサリーの痕跡を、迷宮課のレイスン警部がみつけさえしなければ……スコットランド・ヤードで他の係や課が捨てたあらゆるものを引き受ける迷宮課の事件簿を公開。倒叙ミステリの伝統を守る全8篇を収録した短篇集第三弾 内容紹介より



迷宮課事件簿Ⅲです。
殺された猫のための敵討ち、切り口が他の作品と異なる「猫と老嬢」、妻に去られた後ろめたさを持つ男が再婚するが姑が原因でまた妻に去られそうになったことで起きた事件「ある男とその姑」、強迫神経症気味の男が妻の指摘でそれを治そうとするがある出来事で壊れてしまう「そんなつまらぬこと」、人のためと思ってやった好意が自分の首を絞めてしまう事態に陥った男の犯罪「感傷的な周旋屋」、「老女の深情け」、学校の寄宿舎で起きた火事で身体に障害を負った男とそのことを自分のせいだと気に病む男の「いつも嘲笑う男の事件」、うぶな田舎娘を誘惑した男が練った完全犯罪がある出来事でほつれる「夜の完全殺人」、一時の気の迷いで女性と関係を持ったために彼女と結婚し、罪をあがなうごとく接する夫の感情に気づいた妻による事件「ヘアシャツ」

根っからの悪人とか邪悪な人物ではなく、ちょっと風変わりだったり、少々ズレている人物たちが、何も殺さなくてもって言いたくなるような状況で殺人事件を引き起こしてしまう、という意味では非常に三面記事的なリアリティがただよっているのかもしれません。しかし、すべてが倒叙ミステリで、いわゆる一瞬の怒りや狂気といえるような偶発的、衝動的な犯行という場合が多く、しかもささいな物証で犯行が発覚するというパターンをとる作品が多いためにそんなのを8篇も揃えられるとやはり飽きてきます。また、大どんでん返しや迷宮課事件簿Ⅱに収録された「百万に一つの偶然」のような意表を突く作品もないので派手さには欠ける印象が残りました。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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