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『サイモン・アークの事件簿Ⅱ』エドワード・D・ホック 創元推理文庫

2019-09-13

Tag : 短編集

☆☆☆

二千年の長きにわたる人生の大半を、悪魔と超自然現象の探求についやす謎の男、サイモン・アーク。本書は彼が対峙した多くの怪事件の中から、著者ホックの自薦作をまとめた、日本独自の短編集第二弾である。大企業が牛耳る街ベイン・シティーで発生した殺人の謎と、大学で進められる遺伝学の研究に隠された秘密をめぐる、本邦初紹介の力作中編「真鍮の街」を始め、カスパー・ハウザーの伝説や宇宙からの侵略者、吸血鬼、ファラオの呪いなどが引き起こしたとしか思えない難事件を、卓越した推理力で解明していくアークの活躍譚、全8編を収録。内容紹介より



「過去のない男」
ある夜、イギリスに忽然と現れた過去を持たない青年。その後、アメリカに移り住み養父と暮らす彼を訪ねるアークに同行した物語の語り手である「わたし」は、雪原をひとり歩いていた彼が「刺された」といきなり叫んで倒れる姿を目撃する。青年は腹部を刺されて死んでいたが、奇妙なことに雪の上には彼の足跡しかなく、凶器も見つからなかった。カスパー・ハウザーの伝説に酷似した異様な事件に挑むアーク。

「真鍮の街」
出張帰りの旧友の家を訪ねた「わたし」に、地元の大学で広報の仕事をしている友人から相談事を持ちかけられる。それは大学教授が行っている遺伝と進化に関する実験のことで、友人はその実験が人類に有害なものだと危惧し、アークに調査して欲しいというものだった。その後、友人の義理の妹が何者かによって射殺される事件が起き、再び「わたし」はアークを伴って友人を訪れる。企業城下町で起きた射殺事件を取り留めなく描いた中短篇。

「宇宙からの復讐者」
ロシアで引退した宇宙飛行士が落雷と思われる事故により死亡した出来事を皮切りに、アメリカの元宇宙飛行士が連続して、同じような状況で変死する事件が発生する。その事件以前にNASAに宇宙人から宇宙飛行士たちが雷神によって復讐されるという警告を行っていた男の存在を知らされた「わたし」とアークは怪事件との因果関係を探る。

「マラバールの禿鷹」
ボンベイを舞台にゾロアスター教の鳥葬を題材にした話。


「百羽の鳥を飼う家」
籠の鳥が幽霊の出る屋敷から幽霊や悪霊を追い払うという言い伝えを信じていた老姉妹の家で起きた殺人事件。夜中に怪しい行動をとる下宿人の男の隠れた正体をアークが暴き出す。トリックが子供騙しみたいな。

「吸血鬼に向かない血」
マダガスカル島で吸血鬼に挑むアーク。闘牛や闘鶏ならぬ闘猪が珍しく、その後の使い方も奇妙な話。

「墓場荒らしの悪鬼」
先祖代々の敷地に妻と息子と住む人物から、敷地内にある家族の墓地が荒らされ、悪魔教のシンボルがその近くで発見されたという相談を受けた「わたし」とアーク。単に墓を暴くだけの犯人の目的とは……。

「死を招く喇叭」
エジプトで発掘された喇叭は、発掘した四十歳代の考古学者がそれを吹いてまもなく死亡し、死因が老衰だったことから呪われた喇叭と呼ばれていた。それが展示されている私設博物館を訪れた「わたし」とアークの間近で喇叭を吹いた所有者の女性が怪死する事件が発生する。その遺体には言い伝え通りにまさしく老化の痕跡を留めていた。

『サイモン・アークの事件簿 Ⅰ』





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『タイタス・クロウの事件簿』ブライアン・ラムレイ 創元推理文庫

2019-09-10

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆

『ネクロノミコン』『妖蛆の秘密』『水神クタアト』……太古の邪神たちの秘儀を記した魔道書の数々を解読し、その悪しき智慧を正義のために使う男、タイタス・クロウ。魔教の使徒やら不死の魔術師、あるいは数秘術を操るテロリストと戦う彼の全中短篇を一冊に収録。二十世紀最大の怪奇小説家H・P・ラヴクラフトの衣鉢を継ぐ英国ホラー界の重鎮がおくる、連作オカルト探偵小説。 内容紹介より



「誕生」
サハラ砂漠に建つ寺院から〈霊液〉を盗み出した盗人は、教団が放った追跡者〈不死なる死の僧〉に追われてロンドンへ舞い戻る。彼は子供時代の隠れ家だったある建物に逃れ、石室に据えられた石鉢に、汚れなき者を覚醒させるという〈霊液〉をこぼし入れる。タイタス・クロウ誕生のいわれ。

「妖蛆の王」
終戦とともに陸軍省の暗号解読の職を失った主人公は、ある宗教組織の総師が募集した、オカルト文献を整理する仕事に採用される。彼は総師の屋敷に寝泊まりしながら仕事を始めるが、その夜から奇妙な夢を見るとともに、邸内のあちこちで薄桃色の太った蛆虫を見かけるようになる。彼が調べるうちに、古代中東に起源を持つ妖術を用いる妖蛆魔道士の言い伝えにたどり着き自分が狙われていることを知る。

「黒の召喚者」
退屈しのぎに悪魔教団に入団した人物から助けを求められた主人公は、教団を率いる男に自らの命を狙うよう仕向ける。男が唱える呪文によって召喚される〈暗黒のもの〉とは、そしてそれを防ぐ方法は。

「海賊の石」
〈血まみれ斧〉という悪名を持った海賊。彼が戦死した後、母親の魔女が残した墓碑を掘り起こして持ち帰ろうとする友人を止める主人公。彼が列車の窓から見た海賊船とその舳先に立つ骸骨の姿。

「ニトクリスの鏡」
ある古い詩に言及されている女王ニトクリスの鏡。女王が政敵に用いたという魔力を持つとの伝説があるその鏡を競売で落札したクロウの友人の話。

「魔物の証明」
自著の内容にクレームをつけられた主人公は、その人物を屋敷に招待することに。その相手は荒唐無稽な魔物がさも実在したかのように書いていることに不満を持っているらしく 固く口止めして相手に見せた髑髏の由来とは。

「縛り首の木」
主人公が所有している稀覯本を閲覧させてもらうため、深夜の邸を訪れた作家。神秘奇怪な出来事の実話集を著す作家にもかかわらず、彼は幽霊なども一切信じていないと語る。家の梁がきしむような音とともに、主人公が聞かせた縛り首の木の話。

「呪医の人形」
南アフリカの病院で呪医に呪いをかけられた英国人医師 ブードゥー教のような民間信仰の話を捻った作品。

「ド・マリニーの掛け時計」
主人公が所有する奇妙な動きをする四っつの針がある大時計と彼の屋敷に押し入った二人組の強盗の話。金目の物がしまわれていると思った強盗は、棺の形をした時計を開けようとするが。

「名数秘法」
核兵器を使って世界を破滅させようと計画する悪魔の使いと主人公の対決を描いた話。

「続・黒の召喚者」
「黒の召喚者」の後日談。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X』J・W・キャンベルJr. H・P・ラヴクラフト ラムジー・キャンベル 扶桑社ミステリー

2019-09-04

☆☆☆

人類の神のイメージとなった〈旧支配者〉が太古の地球を征服し、それに準ずる神々も存在した。いまは地下や海底や異次元で眠っていいるかれらは復活のときを狙っている……。極地で見つかった謎の生物との壮絶な戦いを描いて三度も映画化された名作「遊星からの物体X」。映画『エイリアン』『プロメテウス』の原型にあたる「クトゥルフの呼び声」。さらに「恐怖の橋」「呪われた石碑」「魔女の帰還」などラムジー・キャンベルの未訳中短篇五本を収録した、待望のクトゥルフ神話アンソロジー! 内容紹介より



「遊星からの物体X」J・W・キャンベルJr.
ホラーSF傑作選ー影が行く』(創元SF文庫)に「影が行く」として収録されている作品の新訳版です。エイリアンが登場するサバイバルSFホラーの先駆けといえる傑作ですが、まったく経年劣化していません。いわゆる従来の呪われた屋敷で起きる怪奇現象型ホラーとは対極にあるサイエンス・ホラーであり、科学者たちが南極基地において知性を用いて異星人に挑むという斬新さがその原因だと思います。

「ヴェールを破るもの」ラムジー・キャンベル
禁忌を侵す者の行方。人が見ているものは、実際には姿形がゆがめられて見えているのではないかと考えている男が、偶然知り合った黒魔術の研究家に招かれ、物の形をゆがめているヴェールを破る実験に参加します。彼ら二人がヴェールの下に見た物とは……。ちょっと迫力不足な感じがしました。

「魔女の帰還」ラムジー・キャンベル
近隣の住人から魔女だと噂されていた老女が亡くなり、遺された屋敷を買いとって住むことにした作家は、開かずの部屋を開けてしまう。その夜、彼は墓地に埋められた柩を掘り起こし屋敷に持ち帰るという奇妙な夢をみます。タブーを侵して、死んだ魔女に操られる男の話。やたら親切な医者が都合良く現れるのもちょっと無気味かも。

「呪われた石碑」ラムジー・キャンベル
自死した父親が遺したファイルに入っていた、ある小島に祭られている古代の石碑についての資料を見つけた息子は死の理由がその石碑にあることを知る。それは過去から現在までの島にまつわる奇妙な事件や出来事についての資料だった。それを確認するために彼はひとりボートに乗り、島に上陸する。それ以後、彼の周りに宙に浮かぶ胴体の無い顔が現れ、しかもその数が増えていく。

「スタンリー・ブルックの遺志」ラムジー・キャンベル
余命幾ばくもない男が遺産を弟姉妹に遺すという遺言状の内容を書き換え、遺産のすべてをある受取人に遺すという。遺族がまったく会ったこともないその受取人は故人に瓜二つの男だった。血管が透けて見えるほど青白い肌をした男の正体は。

「恐怖の橋」ラムジー・キャンベル
魔性のものが棲む地下都市への封印を解いたために、町を襲った恐怖の災い。

「クトゥルフの呼び声」H・P・ラヴクラフト
怪物をかたどった小像が示す人類以前の遥か昔に地球を支配していた邪悪なもの。彼らは深海で復活の時を待っている。人が夢の中、あるいは実際に垣間見た太古の怪物たちの話。「クトゥルフ神話」の世界観、その基本がとても判りやすく現わされていると思います。

ユーザータグ:ホラー アンソロジー





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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『夜の試写会』S・J・ローザン 創元推理文庫

2019-03-07

☆☆☆☆

中国系女性リディアと、中年の白人男性ビル。対照的なふたりの私立探偵の活躍を収めた、日本オリジナル短編集。ふたりが協力して殺人の容疑者を罠にかける「夜の試写会」、リディアと詐欺師のやり取りを描くMWA最優秀短編賞受賞作「ペテン師ディランシー」、ビルが高校生バスケットボール選手の死を探る「たった一度のチャンス」など、現代私立探偵小説の粋、全7編を収録。内容紹介より



副題はリディア&ビル短編集です。ユーモラスなもの、深刻なテーマを扱ったもの、中華街、黒人スラム街、色々な要素が取り入れられバランスよく収められた作品集だと思います。
芸術専門学校生殺害事件で起訴されたものの、無罪になった容疑者が隠し持っている殺人の証拠となるビデオテープを手に入れるために雇われたリディア。香港の映画会社の担当者に扮した彼女はビルとコンビを組んで容疑者に接近する「夜の試写会」。人気急上昇中の女性シンガーのボディガードである友人から、ある事情でボディガードを少しの間交替してくれと頼まれたビル。かつて護衛していた女性シンガーに閉口していた彼は断るが、その後、友人が銃撃されてしまう。セレブの生態を描いた「熱き思い」。香港からの移民してきた青年の姉代わりになっているリディアが、彼の義兄をペテンにかけた詐欺師にライチと熊胆をめぐって対決するコミカルな騙し騙される話「ペテン師ディランシー」、同じくリディアが中華街を舞台に、ビルと組んで回春剤として販売される虎の身体の一部をかける企みに挑む「虎の尾を踏む者」。黒人の住むスラム街で起きた男子高校生と恋人の心中事件を、学生が所属していたバスケットボールのチームメイトからの依頼で調査するビル。取り巻く環境のせいで自分の未来が描けない若者たち、彼らが内と外に抱える問題を描いた佳作「ただ一度のチャンス」。店先で説教師が通行人に寄付をせびるために客足が遠のいた金物屋の主人から問題解決を依頼されたビルの奇抜でユーモラスなアイデアが冴える「天の与えしもの」。地下鉄で発生したレイプ事件の容疑者や目撃者をめぐる苛酷な事件に巻き込まれたリディアの憤りと哀しみを描く「人でなし」。

ユーザータグ:S・J・ローザン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』ジャック・フィニイ ロバート・F・ヤング他 創元SF文庫

2019-01-17

☆☆☆☆

時間という、超えることができない絶対的な壁。これに挑むことを夢見てタイム・トラヴェルというアイデアが現われて、一世紀以上が過ぎた。この時間SFというジャンルは、ことのほかロマンスと相性がよく、傑作秀作が数多く生みだされている。本書には、このジャンルの定番作家といえるフィニイ、ヤングの心温まる恋の物語から、作品の仕掛け自体に技法を凝らしたナイト、グリーン・ジュニアの傑作まで、名手たちによる9編を厳選し収録した。本邦初訳作3編を含む。 内容紹介より



「チャリティのことづて」ウィリアム・M・リー
1700年に生きる十一歳の少女と1965年にいる十六歳の少年の心の交流を描いた作品。病気で高熱がでた後、時を隔てて同じ場所に暮らすふたりはテレパシーみたいなもので通じあえるようになりますが、未来の事柄を知った少女がそのことを他人に話したため、彼女は魔女疑惑をもたれ裁判にかけられることに。可愛らしい初恋のお話です。

「むかしをいまに」デーモン・ナイト
生が死で、死が生、とでもいうか時間の逆行あるいは退行している世界に生きる男の一人生を描いたユニークな物語。非常に深い切なさが余韻に残りました。

「台詞指導」ジャック・フィニイ
ある映画の撮影で大道具に使う予定の1926年代に運行されていたバスを撮影前夜に試運転することにした撮影スタッフたち。ニューヨーカーたちを驚かせようと、当時の運転手や車掌の制服や洋服を身に着けてバスを走らせるのですが……。いかにもフィニイらしいノスタルジックな舞台設定が活きている話。ただそれだけでなく、つかの間の過去を経験したため、自身の未来をかいま見てしまった新人女優の心情が切りとられているのはさすがです。

「かえりみれば」ウィルマー・H・シラス
「今自分がやっていることをわかった上で、過去に戻ってもう一度人生をやり直せたら、どんなに違うでしょう」(p102)、そう口にした女性は時間を十五年さかのぼって十五歳に戻ってしまいます。学校の授業も楽勝と思っていたところが、得意だった科目にも苦労し、苦手だった科目にはさらにひどい目に遭ってしまいます。つまりテスト用紙を目の前にして何もわからないというような悪夢を実体験するお話。

「時のいたみ」バート・K・ファイラー
三十六歳の男が十年後に過去に跳躍することを望んだ理由。彼の精神は「消去/復元絞り機」かけられているため、なぜ自分が鍛錬してたくましい体つきになり、不自由だった脚にも筋肉が付けて十年後の未来から戻ってきた理由がわかりません。本当に甘い話なのに、捻りを利かせた苦さが印象に残ります。

「時が新しかったころ」ロバート・F・ヤング
紀元2156年から白亜紀後期に時代錯誤遺物の調査にやってきた調査員はそこで幼い火星人姉弟に出会ってしまいます。彼らは火星の悪人によって身の代金目的に誘拐され、地球に連れて来られたという。恐竜が闊歩する古代地球を舞台にしたSF冒険小説。ヤングらしい優しいエンディング。

「時の娘」チャールズ・L・ハーネス
タイムパラドックスをネタにした、面倒くさくてこんがらがった男女の恋愛劇。

「出会いのとき巡りきて」C・L・ムーア
たった一人の人と巡り会うために壮大な時間旅行を行う男にまつわる究極の愛の物語がまるで神話のように思えてきます。

「インキーに詫びる」R・M・グリーン・ジュニア
少年、中年、老年、三つの時間を同時に描いて、かつて悲恋に終わったロマンスを成就させる。スケールは小さいが愛というテーマは同じ。

『時の娘』ジョセフィン・テイ ハヤカワ文庫HM




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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-03-01

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

「この百年間に世に出た怪奇小説で傑作といえるのは、わたしにはシャーリー・ジャクソンの『たたり』と、この『ねじの回転』の二作だけという気がする」スティーヴン・キング(『死の舞踏』より) 幼い姉弟の家庭教師が体験した恐怖を独自の手法で描き、ゴースト・ストーリーの古典として称賛される一方で、その難解さばかりが喧伝されてきたこの名作が、泰西怪談に精通する役者により、真の姿をここに現す。あなたは、この物語の本当の恐ろしさを、ここにはじめて知ることになるだろう。他に、数多い短篇の中から厳選された、怪奇譚四篇を併録。ホラー作家としてのヘンリー・ジェイムズに焦点を当てた、本邦初の傑作集である。 内容紹介より



収録作品、「ねじの回転」「古衣装の物語」「幽霊貸家」「オーウェン・ウィングレイヴ」「本当に正しい事」。

内容紹介文には「姉弟」とありますが、本文では10歳の男の子、8歳の女の子の兄妹関係です。
本書が難解だという話は知っていてこれまで食指が動かなかったのですけれど、実際に読んでみたら難解というか解釈の仕方がいろいろとあるように感じました。それはとにかくそもそもの原因となった出来事の記述の曖昧さによるのでしょう。家庭教師の手記という形式であるために視点が固定されて、読者は彼女の述べることを信じる、または懐疑的な見方をする、という立場に置かれるために、彼女が見る二人の幽霊の存在と生前に彼らが幼い兄妹に行ったという邪悪な行為(ある程度予測はつくものの)の不確かさが土台になっているせいで、語り部が描く物語の信憑性が揺らぐのです。また、訳者後書きで英米人の階級意識に言及しているように、英国社会の存在する階級制度が物語の大きな背景となっています。家庭教師の雇い主である兄妹の伯父は眉目秀麗で性格も温厚の上流階級に属する男性ですが、その階級につきものの、養育を乳母や家庭教師任せにして、それらにまつわるトラブルが持ち込まれるのを嫌う無責任ともとれる傾向が顕著です。そして、家庭教師は父親は社会的には地位のある牧師の身分ですが経済的に困窮し、その末娘である彼女は家を出て自ら職を見つけなければなりません。幽霊の片割れの女も前任の家庭教師でした。階級の下である女中頭は、新任の家庭教師に全面的に協力しますが、兄妹を盲目的に可愛がり、彼らの問題には見て見ぬ振りをする態度を取ります。そして男の子に悪影響を及ぼしていた下男は当然階級的には一番下の身分に当たります。家庭教師は雇い主に恋心を抱き、女中頭は上に者に対して無批判。このような各階級間の差異をシンボル化しているようにも感じました。これは米国生まれ育ちの作者による英国階級社会へのアイロニーを含んでいるのかもしれません。

ほかに他の作品とは異なる捻りが加えられた幽霊貸家」は、毛色が変わった話で面白かったです。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『運命のボタン』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV

2017-02-26

☆☆☆☆

訪ねてきた見知らぬ小男は、夫婦に奇妙な申し出をする。届けておいた装置のボタンを押せば、大金を無償でご提供します。そのかわり、世界のどこかで、あなたがたの知らない誰かが死ぬのです。押すも押さないも、それはご自由です……究極の選択を描く表題作をはじめ、短篇の名手ぶりを発揮する13篇を収録。スピルバーグ、キング,クーンツら世界中のクリエイターたちに影響を与え、彼らに崇拝される巨匠中の巨匠の傑作集 内容紹介より



収録作品、「運命のボタン」「針」「魔女戦線」「わらが匂う」「チャンネル・ゼロ」「戸口に立つ少女」「ショック・ウェーヴ」「帰還」「死の部屋のなかで」「小犬」「四角い墓場」「声なき叫び」「二万フィートの悪夢」。

ふしだらで傲慢なある女性を殺したいほど憎んでいる“わたし”はヴードゥーの呪い(これがマシスンの得意ネタらしい)を用いて目的を果たそうとする「針」、世俗とか常識を受け入れてしまうと純真な心にあったものを失ってしまうことの過酷さを伴う悲劇を描いた「声なき叫び」、純粋であるからこそ持つことのできる能力と、その心のななかに潜む残酷さを描いた「魔女戦線」、この二つの作品は大人たちの利己的な動機によって犠牲になる子供たちの姿も現わしていると思います。匂いと怪談を組み合わせた「わらが匂う」、「戸口に立つ少女」、追い払っても始末しても舞戻ってくる白い犬「小犬」、処分されることに気づいたパイプオルガンの最期の咆哮、ブラドベリ風な「ショック・ウェーヴ」、タイムトラベルとホラーの組み合わせ「帰還」、砂漠地帯の田舎町のはずれに建つ喫茶店を舞台にした蒸発失踪もの。短篇であるため紙数に制限があること、地元の保安官が被害者よりであることで、サスペンス性と登場人物たちとの駆け引きがもう一つに感じられる「死の部屋のなかで」、コナン・ドイルの短篇「大空の恐怖」と同様に空に棲む怪物が登場する非常に印象に残る作品、オムニバス映画『トワイライト・ゾーン』の「2万フィートの戦慄」の原作ですが、主人公が精神的な問題を抱えている設定が効いています。短篇集『リアル・スティール』に収録されている「リアル・スティール」と同じ作品です。編者の尾ノ上浩司氏によると「リアル・スティール」のほうは、「四角い墓場」に手を入れているそうです。取り調べを録音した形式で綴られたモンスター系の作品でジャンク・ホラーっぽい「チャンネル・ゼロ」。あり得ない状況設定の流れのなかで、オチが実に現実的なものが意外に感じた「運命のボタン」。

ユーザータグ:リチャード・マシスン




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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『夜がはじまるとき』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-23

☆☆☆☆

悲しみに暮れる彼女のもとに突如かかってきた電話の主は……愛する者への思いを静かに綴る「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」、ある医師を訪れた患者が語る鬼気迫る怪異譚「N」、猫を殺せと依頼された殺し屋を襲う恐怖の物語「魔性の猫」ほか全6篇を収録した最新短篇集。巨匠の贈る感涙,恐怖、昂奮を堪能ください。 内容紹介より



「N」「魔性の猫」「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」「聾唖者」「アヤーナ」「どんづまりの窮地」

本書は、『夕暮れをすぎて』に続く、短篇集『Just After Sunset』(2008年)の二分冊目。こちらにもサンセットノートという著者による作品説明文が付いています。

「N」のどかな田舎にできた異界に通じる裂け目。そこから出て来て世界を滅ぼそうとする怪物を防ぐためのストーンサークルを偶然管理するはめになった男。クライヴ・バーカーの「髑髏王」(『セルロイドの息子』収録)も岩で封印してましたけど、鬼とか悪魔とかの封印系のよくある話に強迫性障害を組み合わせたところがとてもユニークな作品。

「魔性の猫」新薬開発のために動物実験によって大量の猫を殺し、その成果で莫大な財産を築いた製薬会社のオーナーのもとを訪れた殺し屋は、自宅の飼猫を殺すよう依頼される。
妖猫と殺し屋の闘いをストレートに描いたもの。

「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」飛行機事故の犠牲者になったはずの夫からの電話。夫を想う妻の心情がしんみりくる話。

「聾唖者」ヒッチハイクで乗せた男が口と耳が不自由だと知ったセールスマンは、妻の不倫や浪費について愚痴をこぼし始め、さらに彼女が引き起こしたとんでもない大問題も明らかにする。車内と教会の告解室、このふたつの密室で行う告白の場面が面白い二重性を形作っているように思える。

「アヤーナ」末期癌で寝たきりになった老父のもとへ、ある日突然現われてキスをした盲目の少女。その出来事を機に状態が改善し、歩けるようになったのだが、その場に立ち会った息子にもある能力をもたらす。派手さは無いけれど心に残る作品です。

「どんづまりの窮地」土地の所有権について揉めている男が相手にある場所に閉じこめられてしまう。読むとしばらくの間、幻臭を感じる気がする話。

ユーザータグ:スティーヴン・キング




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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『リアル・スティール』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV

2017-02-20

☆☆☆☆

人間同士のボクシングが禁止された近未来、リングで闘うのは人間ではなく精巧なロボットたちになった。しかし変わらないものもある。華やかな勝利とは裏腹の負け犬は今でも存在する。旧式のロボットを抱え、落ちぶれて金もなく窮地に追いつめられた元ボクサーの男は、起死回生の手段に打って出る……名作「四角い墓場」(『運命のボタン』所収)を改題した表題作をはじめ、ホラーからユーモアまでを網羅した、巨匠の傑作集 内容紹介より



50年代から70年代に発表された作品を集めたものです。
「リアル・スティール」「白絹のドレス」「予約客のみ」「指文字」「世界を創った男」「秘密」「象徴」「おま★★」「心の山脈」「最後の仕上げ」

「リアル・スティール」小型ロボット同士を格闘させる競技会は日本でも催されているようですが、この作品は六十年前に時代を先取りしていた作品で、しかも、人間そっくりの人型ロボットが登場しています。ロボットの格闘シーンにリアルに迫力があります。

「白絹のドレス」有名なあの母親と息子の話ではなく、母親と少女のパターンをとったサイコスリラー。少女のこどもっぽい独白で構成されるストーリーがじわじわと恐い。

「予約客のみ」金銭欲、魔術、意外な舞台設定、この三要素を見事に絡めてまとめあげたショートショートのお手本のような作品に感じました。

「指文字」日常と異界の境界線、もしくはグレーゾーンに踏み入ってしまった異様な体験を描いたような作品。

「世界を創った男」フレドリック・ブラウンの短篇にもありそうな小話。自分が世界を創り出したのだ、と言う男が精神科医のもとを訪れ診察を受ける様子を台本形式で描いた作品。

「秘密」サスペンスを徐々に高め、なにやら悲劇的な様相も盛り上げ、若い男女のメロドラマぽいものも取り入れ、ピークに達したところでどすんと落とす作品ですが、注釈がなかったらわたしにはオチが理解できなかったでしょう。

「象徴」食べ物や嗜好品がタブー視され、不変であることが規範となっている統制社会に住む家族を描いた作品。科学的合理性にそわない物事は排除される社会に疑問を抱いた人々が隠れて受け継いでいるアンチパターンを象徴する品物とは……。

「おま★★」これまた食べ物が忌諱されている未来世界が舞台。タイムマシンに乗ってその世界に研究にやってきた科学者が食べ物を所持していたために引き起こしたドタバタ劇。

「心の山脈」中庸で良いのですけれど、もうちょっと捻ったラストが用意されているのかと思っていました。ブラッドベリの感傷、あるいはマキャモンの奇想が欲しいところ

「最後の仕上げ」ホラー要素を絡めているが、さすがにスタイルが古めかしい。

ユーザータグ:リチャード・マシスン




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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『夕暮れをすぎて』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-17

☆☆☆☆

愛娘を亡くした痛手を癒すべく島に移り住んだ女性を見舞った想像を絶する危機とは?平凡な女性の勇気と再生を圧倒的な緊迫感で描き出す「ジンジャーブレッド・ガール」、静かな鎮魂の祈りが胸を打つ「彼らが残したもの」など、切ない悲しみから不思議の物語まで、天才作家キングの多彩な手腕を大いに見せつける傑作短篇集。 内容紹介より



「ウィラ」「ジンジャーブレッド・ガール」「ハーヴィーの夢」「パーキングエリア」「エアロバイク」「彼らが残したもの」「卒業の午後」、サンセット・ノートという著者による作品説明文があります。

「ウィラ」乗っていた列車の脱線事故のため、片田舎の駅で代替列車の到着を待つ乗客たちの話。婚約者の姿が見えなくなった若者は数キロ離れた町の酒場へ捜しに出かけます。どういう伏線なのかは早々に見当が付いてしまうし、よくあるパターンを採っているのですが、カップルがそういう状態にあることに気が付いてからの展開が同様のアイデアを使った作品とは違う意外な進み方をしているのが印象的です。

「ジンジャーブレッド・ガール」赤ちゃんを亡くした女性が走ることに目覚めて夫との関係がぎくしゃくしたため、島にある父親の別荘で別居生活をすることになります。季節外れの閑散とした別荘地に、金持ちの男がいつも違った“姪っ子”を連れてやってくる、という話を聞いた彼女はちょっとした好奇心で噂の別荘を覗いて見るのですけれど……。子供を失った母親の心の内を描いたドラマからサイコがらみのバイオレンス・スリラーへの転換が鮮明ですが、その変化の具合にちょっとあっけにとられたような。

「ハーヴィーの夢」倦怠期でありながらも平穏な毎日に浸っている主婦が、いつものように始まったある朝に夫から聞かされた不吉な夢の話。それは彼女の家庭に起きた不幸な出来事の夢だったらしいが、詳しい内容を言い渋る夫に、ひとに夢の話をすれば、それが正夢になることはない、と彼女は促す。夢を題材にしたストレートな話でもうひと捻り欲しい気もしました。

「パーキングエリア」著者がパーキングエリアで実際に経験した出来事をもとに書いた作品だそうです。人気のない深夜のパーキングエリア。トイレに行こうとした男は、女性用トイレで連れの男から暴力を振るわれている女性の声を聞く。作家である男は自分がどう対処すれば良いのか、ということをながながと考え込み、葛藤する話。本題に入る前のプロローグというか導入部というか、そこが長い、まるでスタンダップコメディみたいな饒舌さが気になりました。

「エアロバイク」健康診断の結果でコレステロールの数値が標準値より高かった男は、健康を維持する身体機能を作業員にたとえる話を医者から聞かされる。運動不足を解消するためエアロバイクをこぎ始めた画家である彼は、エアロバイクに向き合う壁に田舎道の風景画を描き、ロードマップを買って空想の自転車旅に出る。コレステロールの数値も体調も良くなった彼だが、彼の体調を維持管理している架空の作業員たちにも変化が現れる。この短篇集のなかでは一番キングらしさが表れているように感じました。

「彼らが残したもの」9・11事件から題材をとった作品。保険調査員の主人公は、会社をずる休みした日にその事件が起き、彼のオフィスが入っていたビルが崩壊してしまう。その事件から一年になろうかという日に、買い物から帰った彼は自宅のテーブルの上に見覚えのある奇妙な形をしたサングラスが置かれているのに気が付く。さらに野球バット、ブーブークッション、貝殻などが現れるが、それらの品は事件で亡くなった同僚たちの馴染みの持ち物だった。この作品も饒舌さが気になるものの、サバイバー・ギルトとは違った、生き残った者が果たすべき、亡くなった人たちへの義務ないしは責任をテーマにしているように感じられる非常に切ないレクイエムともとれる物語。彼らの遺品がおかしな物だったりするのが、その身に起きた悲劇をよりあらわにしているように思います。

「卒業の午後」上流階級に属する恋人を持つ女子高生の視点から、彼の卒業とその後のパーティー、恋人とのこれからの関係、彼女の将来の夢、今日やるだろうこと、人生のハレの日と世界の破滅の日を淡々と描いた作品。

ユーザータグ:スティーヴン・キング



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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『みんな行ってしまう』マイケル・マーシャル・スミス 創元SF文庫

2017-02-03

Tag : 短編集 ホラー SF

☆☆☆

『スペアーズ』『ワン・オヴ・アス』で知られる鬼才作家M・M・スミスが贈る、哀感と郷愁に満ちたSFホラー傑作集。小品ながら忘れがたい味わいを残す表題作を巻頭に、奇跡の医療用ナノテクがもたらした人類の意外な終末「地獄はみずから大きくなった」、田舎町に暮らす不思議な絵描きを巻き込んだ事件を描く英国幻想文学大賞受賞作「猫を描いた男」、近未来の巨大ハイテク・テーマパーク兼養老院での奇怪な冒険劇「ワンダー・ワールドの驚異」まで12編を厳選して収録。 内容紹介より



「みんな行ってしまう」「地獄はみずから大きくなった」「あとで」「猫を描いた男」「バックアップ・ファイル」「死よりも苦く」「ダイエット地獄」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」「いつも」「ワンダー・ワールドの驚異」

子供が成長して大人になっていく過程で少しずつ失っていったもの、消えていったもの、無くしたものを少年の形にして表した、ブラッドベリ風な感傷性をもった物悲しい作品「みんな行ってしまう」。ナノテクに医療科学を組み合わせた最先端医療用ソフトとハードウェアを開発しようとした三人組。その中のひとりが研究中に亡くなったため、研究目的はまったく違った方向へ向かってしまう。医学と心霊の取り合わせが、この作品においては木に竹を接いだみたいな心地悪さを感じさせる「地獄はみずから大きくなった」。交通事故で突然に愛妻を失った夫のとった行動は……。愛さえあれば奇跡が起き、愛ゆえに何ごとも成し遂げられる、ということでしょうか。これまでのホラー作品を一歩進めたような物語「あとで」。夫による家庭内暴力から妻や子供が逃れてくる場面が、三回繰り返されるところがワンパターン気味に感じられました。全体的に振り切れていない、詰めが甘い印象が残った「猫を描いた男」。幸せの頂点と感じられる瞬間をバックアップして、なにか不都合が生じたときにバックアップした時点へ戻ることができるサービスを受けていた男。妻子を事故で亡くした時、彼は過去に戻ろうとするが……、「あとで」の流れを汲んでいる話ですけれど、かなり苦い結末が待っている「バックアップ・ファイル」。「死よりも苦く」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」、これらは心の影の部分をテーマにした作品ですが、それゆえに少々インパクトがなく、全体的に平板な感じがしました。「闇の国」は、実際に見た、ただ厭な夢を物語に仕立てただけのような。これまでのサイズのジーンズが履けなくなった男が、ダイエットも運動もくそくらえと思って、タイムマシンを作り昔の体形を取り戻そうとする、おバカSFの「ダイエット地獄」。母親を亡くした娘に父親がクリスマスプレゼントとにラッピングした贈り物。センチメンタルな「いつも」。テーマパーク内に設けられた老人向けの住居で犯行を重ねる殺し屋。依頼を受けた彼は、ターゲットの老女が暮らす屋敷に入り込むのだが。テーマパークが帯びる狂気、奇妙さを描いた「ワンダー・ワールドの驚異」。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ブルー・ワールド』ロバート・R・マキャモン 文春文庫

2017-01-31

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

妻と寝たはずなのに目覚めると隣りに骸骨が横たわっているのを発見した男。往年の怪奇俳優の化粧箱に隠されていた秘密。新興別荘地のハロウィーンの命がけの仮装ごっこ。内も外も真っ赤な家に住む不思議な一家。ポルノ・スターに魅入られた若き神父。乗る人を待つばかりのスポーツカーのように軽快なストーリーテリングが絶妙。 内容紹介より



「スズメバチの夏」「メーキャプ」「死の都」「ミミズ小隊」「針」「キイスケのカゴ」「アイ・スクリーム・マン」「そいつがドアをノックする」「チコ」「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」「赤い家」「なにかが通りすぎていった」「ブルー・ワールド」。

スズメバチとの意思の疎通ができる能力を持った少年が、田舎の町を支配する「スズメバチの夏」。化粧箱の中の品を使ってメーキャプすると異様な力が身に付く「メーキャプ」。妻を含めた町の住人たちや生物が一夜にして肉を剥ぎ取られた姿に変わり果てた「死の都」。『ナイト・ソウルズ』(新潮文庫)に「夜襲部隊」として収録されている「ミミズ小隊」。よくわからない「針」。キイスケというカナリアを飼っている、刑務所内で魔術師と呼ばれる受刑者の老人。外の世界を自由に飛び回るカナリアの見聞きした様子を老人が受刑者たちに語って聴かせる「キイスケのカゴ」。核戦争後、ある一家の父親が夢想する幸せな家庭団らんを描いた、切ない「アイ・スクリーム・マン」。『戦慄のハロウィーン』(徳間文庫)に「ドアにノックの音が……」というタイトルで収録されている作品「そいつがドアをノックする」。障碍をもった男の子が実はものすごい超能力を持ちあわせていたという「チコ」。かつてテレビ・シリーズのスーパーヒーロー役だった老人が、ヒーロー時代のマスクとスーツを身にまとい、女友だちを殺害した連続殺人犯を追いかける「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」、大量の新聞や雑誌を蒐集し、人々の行動を秒単位で記載する“見張り男”などの登場人物たちも充実して、この一編だけではもったいない。灰色の家に住み、同じ部品工場で働く町の人々。その家々のひとつに暮らす青年に、突然、赤く塗られた一軒の家の家族が教えた人生のありかたとは……「赤い家」。原因不明のカタストロフが頻発する世界。コンクリートは水銀のように液状化し、水が爆発する一方でガソリンが飲料できるようになり、霧雨は血と生肉やはらわたを降らせ、人体が突然爆発して燃えあがり、重力カタパルトが畑や家屋を押しつぶす。ある一家の子供部屋は一夜にして真空状態になり、子供を失った母親は精神に変調をきたし、そして、変化はその夫婦の身体にも現われ始める。想像を超えた圧倒的で理不尽な力、環境の激変下での一組の夫婦の愛情,母性愛を痛切に描いた終末世界をテーマにした傑作「なにかが通りすぎていった」。いわゆるboy meets girlものですが、変わっているのはふたりが神父とセクシー女優なこと。教会側からしたら、堕落して汚れた街の一画は足を踏み入れるなどもってのほかであり、布教など考えられない場所。彼女に寄り添ううちに考えが変わっていった神父が最後に決めた行動とは……。結末もありきたりでない、サイコキラーを絡めた中篇「ブルー・ワールド」。

『戦慄のハロウィーン』アラン・ライアン編 徳間文庫
『ナイト・ソウルズ』キング、マキャモン他 新潮文庫

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『北極星号の船長 ドイル傑作集2』コナン・ドイル 創元推理文庫

2017-01-28

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆☆

氷に閉ざされた極地の洋上を舞台にした怪異譚「北極星号の船長」を表題に、高空飛行の限界に挑むパイロットが目撃した怪物たちの世界「大空の恐怖」や、アンティークが呼びさます古の出来事「革の漏斗」「銀の斧」、ファム・ファタルに翻弄されてゆく男の曲折をつぶさに描く「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」など十二編を収録。シャーロック・ホームズを生んだコナン・ドイルの、怪奇小説作家としての横顔に焦点を定める。理趣と夢想・幻想のあわいを軽やかに往還する、ドイル・コレクション第二集。 内容紹介より



「大空の恐怖」「北極星号の船長」「樽工場の怪」「青の洞窟の恐怖」「革の漏斗」「銀の斧」「ヴェールの向こう」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」

「大空の恐怖」「青の洞窟の恐怖」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」、これらの作品には挿絵が付いています。虎が棲むジャングルのような、大気圏上層にも人間を襲う怪物が存在するジャングルがあると信じるパイロットが自説を証明しようとする「大空の恐怖」、怪物の挿絵がまったく怖くありません。婚約者と死別した捕鯨船の船長の身に起きた不可思議な出来事の顛末を描いたロマンスホラー「北極星号の船長」、アフリカの大河の河口に建つ樽工場、大雨による氾濫が起きて以降、工場の従業員が夜間に姿をくらますという事件が起きる。いかにもアフリカを舞台にして成り立つ物語「樽工場の怪」。石灰岩の丘陵にある、青蛍石を採掘するため古代ローマ人が掘った鉱坑にまつわる化け物の噂話。その地方に転地して養生している男が、鉱坑を探検しようとして体験した恐怖談「青の洞窟の恐怖」。昔、名高い毒婦の拷問に使用された革の漏斗がもたらす悪夢を描いた「革の漏斗」。中世時代に作られた、妖刀のような魔力を帯びた斧が起こす連続殺人事件「銀の斧」。イングランドに残るローマ人の砦の跡を見学した夫婦によみがえる生まれ変わりの記憶を描いた不思議な話「ヴェールの向こう」。船上で亡くなり水葬にされた男が、まだ訃報を知らされていない新妻の前に現れる「深き淵より」。降霊会がらみの「火あそび」。催眠術を用いて男を意のままにしようとする悪女を描いた「ジョン・バリントン・カウルズ」と「寄生体」。 
オカルトチックな様相をまといながらも、怪談一辺倒にならずに科学的な観点から不可解な事象や怪異な事件を分析しようとする話も多く、それが作品を二重に楽しめる要因になっている気がしました。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『恐怖の愉しみ 下』デ・ラ・メア 他 創元推理文庫

2017-01-19

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

怪談は語り口がすべてである。そしてその醍醐味は短編にあるといっても過言ではない。本書は、幽霊怪談の嚆矢ともいうべきデフォーの『ミセス・ヴィールの幽霊』を頭に,レ・ファニュ、E・F・ベンスン、デ・ラ・メア、A・E・コッパード、ヒュー・ウォウポール、そしてW・W・ジェイコブズら総勢二十四人の手練による〈百物語〉の真打ちである。英米の会談を訳しては名匠とうたわれた平井呈一が、みずから選び抜き、腕に縒りをかけて訳出した名品の数々。まさに恐怖の愉しみを味わうには絶好の書! 下巻内容紹介より



「失踪」ウォルター・デ・ラ・メア、「色絵の皿」マージョリ・ボーエン、「壁画のなかの顔」アーノルド・スミス、「一対の手—ある老嬢の怪談—」アーサー・キラ=クーチ、「徴税所」W・W・ジェイコブズ、「角店」シンシア・アスキス、「誰が呼んだ?」ジェイムズ・レイヴァー、「二人提督」ジョン・メトカーフ、「シャーロットの鏡」ロバート・H・ベンスン、「ジャーミン街奇譚」A・J・アラン、「幽霊駅馬車」アメリア・B・エドワーズ、「南西の部屋」メアリ・E・ウィルキンズ=フリーマン。
下巻には以上の十二編が収録されています。


「失踪」幽霊も悪魔も骸骨も出て来ない話、結局人間の所業がそんなものよりも恐ろしいということなのでしょうか。デブで大柄な幽霊という見た目が可笑しいし、実は性別も……なのですが、趣味の品物に執着して孤独を紛らわせる姿に哀れさを感じる「色絵の皿」。悪魔、魔物封印系の話壁画のなかの顔」。幼くして亡くなったこどもの幽霊、生前暮らした屋敷から離れられず、移り住んでくる住人を選べない、いたいけな幽霊の「一対の手—ある老嬢の怪談—」。死を呼ぶ幽霊屋敷に肝試しで一夜を過ごそうとする四人の男たちに起きた恐怖体験談「徴税所」。偶然見かけた骨董品店で、安く買い求めた品が非常に高価なものだと知った客の男は、オークションで手に入った売上金の半分を返金しようと再度店を訪れるが……、「角店」。ショートショートホラーの「誰が呼んだ?」。不思議な味わいの「二人提督」。十三人の神父が語る奇譚三編が収められている「シャーロットの鏡」。差出人の名前のない、芝居の切符を受け取った男が体験したへんてこな話「ジャーミン街奇譚」。道に迷った男が乗り合わせた乗り合い馬車は「幽霊駅馬車」。下宿人をおいている屋敷を切り盛りする姉妹、亡くなった叔母の使っていた部屋で起きる気味の悪い現象を描いた「南西の部屋」。
収録作品はバラエティの富んでいるため、読んでいて飽きません。『淑やかな悪夢 英米女流怪談集』『怪奇礼讃』にも作品が収められている作家が目につきました。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『M・R・ジェイムズ傑作集』M・R・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-01-16

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

M・R・ジェイムズの怪奇小説は古典的であり、その恐怖と戦慄の盛り上がりは、まさに「怪談」の名をほしいままにしているといえよう。彼の生み出す妖魔たちは、読者にもその気味の悪い手をふれてきそうなほどなまなましい。古い銅版画の中で妖怪が動きまわるという奇怪な作品「銅版画」、あるはずのない十三号室が実は存在するという「十三号室」などをはじめ、迷路をテーマに悪夢のような世界を描きだした特異な作品「ハンフリーズ氏とその遺産」を含む17編を収録。 内容紹介より



「消えた心臓」「銅版画」「秦皮(とねりこ)の木」「十三号室」「マグナス伯爵」「笛吹かば現われん」「縛り首の丘」「人を呪わば」「ハンフリーズ氏とその遺産」「ウィットミンスター寺院の僧坊」「寺院史夜話」「呪われた人形の家」「猟奇への戒め」「一夕の団欒」「ある男がお墓のそばに住んでいました」「鼠」「公園夜景」

収録作品は、黒魔術、秘儀、魔法といったものにはまった人物が起こした事件、または彼らが遺した品物が起こす出来事を元にした話を伝聞形式で表したものが多いように思います。読む前にはおどろおどろしい様式美を帯びたゴシックホラーをイメージしていたのですけれど、意外にも実際には軽口をまじえるところがあって、予想していたより重々しく感じなかった印象でした。作品は良い意味でベーシックな怪談であり、行間から血液体液や肉片が飛び散るみたいなスプラッターやモダンホラーとは正反対に位置しています。
有名な「銅版画」は、画のなかの気味の悪い何者かが動き回って、ある事件を再現する話。「呪われた人形の家」も同様に、ある一家に起きた凄惨な事件がドールハウスで再現されるという話。過去を映しだす望遠鏡の「縛り首の丘」。「秦皮(とねりこ)の木」は、魔女裁判にかかわった地元の名士が魔女に呪いをかけられ、一家の跡継ぎが奇妙な死に方をするのですが、とねりこの木に巣食う生き物が非常に無気味です。存在するはずのない部屋が出現する「十三号室」に宿泊するものは……。

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