『裁きの曠野』C・J・ボックス 講談社文庫

2014-01-11

☆☆☆☆

失踪した女牧場主の莫大な遺産をめぐって憎悪を募らせる息子たち。否応なく巻き込まれた猟区管理官ジョーにさらに邪悪な復讐者の攻撃が迫り、愛する娘も危険にさらされていく。ジョーは大切な家族を守りきれるのか?ワイオミングの大自然を舞台に不器用だが熱い男の孤独な闘いを描く好評シリーズ第5弾! 内容紹介より



本書のみを読むのならば気にならないかもしれませんけれど、シリーズをずっと読んできた者として言わせてもらえば、内容紹介文のなかで「不器用だが熱い男」と形容されている主人公の持つ実直さが次第に愚直さに思えてきて、このキャラクターにややうんざりしてしまいました。せっかく才媛の奥さんがいるというのに、どうして彼女から学んで人間的な成長を遂げないのだろうか?と考えてしまいます。この作品で主人公は大きな転機を迎えるので、次回作では変化の兆しでも見せるのでしょうか。さて、物語は、主人公の管轄する地域に広大な牧場を保有する古くからの名家の女主人が失踪したために、一家の財産をかけて息子たちが反目しあい、その争いが町を二分するまでになってしまうというもの。これも一種の西部劇のパターンを思わせるわけで、このシリーズの特徴がよく表れている印象を受けました。また、主人公を敵と付け狙う殺人犯を登場させサスペンスを盛り上げています。ただ、どちらのストーリーの流れも後半からクライマックスにかけてちょっと拙速気味な気がしました。もうちょっと書き込んでも良いような。

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裁きの曠野 (講談社文庫)裁きの曠野 (講談社文庫)
(2012/05/15)
C・J・ボックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『さよならまでの三週間』 C・J・ボックス ハヤカワ文庫HM

2012-11-20

Tag : C・J・ボックス

☆☆☆

子宝に恵まれず、念願の赤ん坊を養子として迎えた夫婦ジャックとメリッサ。しかし、幸せは長くは続かなかった。実父が親権を主張し、裁判所から三週間以内に子供を返すようにとの裁定が下ったのだ。実父である少年は札付きのワルで、夫婦に執拗な嫌がらせを繰り返し、ついには殺人まで……愛する者を守るため、男が下した決断とは? 『ブルー・ヘヴン』でアメリカ探偵作家クラブ賞を受賞した著者が贈る感動のミステリ 内容紹介より



猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズにおいて、里子にした女の子を実の母親が取り返しに現れる『凍れる森』という作品がありましたけれど、ノンシリーズの本書でも養子の赤ん坊を中心に家族愛や家族の絆がテーマとして前面に押し出されています。 主人公のジャックが実直だけれど平凡な人物で、妻のメリッサは美人で才能の持ち主であるという夫婦間の設定もジョー・ピケット・シリーズと似ていますし、連邦裁判所判事である少年の父親が法律を盾に赤ん坊を要求し、メキシコ・マフィアとつるむ素行の悪い少年が、まじめな主人公夫婦に嫌がらせを行うという構図は、大牧場主が手下を使って近隣の善良な農家に乱暴狼藉をはたらくという、どこか西部劇を基本に据えているような雰囲気も同様です。
ジョー・ピケットは法の執行官として体制側に身を置いているため、法律から逸脱した行いはできませんが、本書のジャックは耐え忍んだ末、相手に対し直接的な行動をとってしまいます。また、印象深いのは、彼の旧友である刑事が正義のために法を曲げてしまう場面があえて描かれているところです。昨今のミステリでは、相手がいかに悪人であっても法律の前ではフェアに処し、こういうストーリーの流れは否定的に描かれるか、あるいは避けてしまう傾向にあります。しかし、敵が極悪人であった場合は、我こそが法だという、感情に抑制を利かせない無骨な開拓者精神を感じさせるところは、いかにもC・J・ボックスらしいと思いました。その役目を主人公にやらせず親友にさせることで、もしかしたら読者からあがるかもしれない批判をかわす狙いでもあったのかどうか、読後に物足りなさが残りました。

ユーザータグ:C・J・ボックス




さよならまでの三週間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-2)さよならまでの三週間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-2)
(2010/05/10)
C・J・ボックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ブルー・ヘヴン』 C・J・ボックス ハヤカワ文庫

2011-07-11

☆☆☆☆

アイダホ州北部の小さな町。12歳のアニーと弟のウィリアムは森で殺人事件を目撃してしまう。犯人はロサンジェルス市警の元警官四人で、保安官への協力を装い二人の口封じを画策する。途方に暮れた姉弟が逃げ込んだ先は、人手に渡る寸前の寂れた牧場だった。老牧場主のジェスは幼い二人を匿い、官憲を味方につけた犯人一味との対決を決意するが……雄大な自然を舞台に、男の矜持を賭けた闘いを描く、新たなサスペンス傑作 内容紹介より



評判通りの良い作品だと思います。でも、期待していたものまではいかなかった感じです。なんというか、クライマックスの銃撃戦のシーンに表されているように基本は西部劇であり、そこにボランティアを装う犯人グループを持ち込んだひねりの利いたアイデアは上手いと思うけれど、西部劇の枠から飛び出すような新しさとかが感じられませんでした。特に主人公は、立ち行かなくなった牧場、離婚した妻や疎遠な息子の存在によって陰影を付けてはありますが、ウェスタンでよく見掛ける寡黙で正義感の強い老カウボーイという一般的なイメージそのままで、あまり造形に芸がありません。それから姉弟が活躍するシーンがなく、その点であまり目立っていなかったのが意外でした。子供がやたら活躍するのは不自然なのは当たり前ですが、もうちょっと印象に残る場面が後半部分にも用意されていればよかったのではないでしょうか。それからもっとメリハリが必要かなと、他の作品を読んだ印象では、もともとけれん味に走るような作家ではありませんけれど。

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ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)
(2008/08/22)
C・J・ボックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『震える山』C・J・ボックス 講談社文庫

2011-02-15

☆☆☆☆

経験豊富な同僚が44マグナムをくわえて、引き金を引いた!?猟区管理官の鑑ともいえる男に何があったのか。後任としてジャクソンに赴任したジョーの前には、未知なる大自然が危険と美しさを湛えて広がっていた。家族とホームタウンを愛する男が新天地での犯罪に挑む、MWA賞受賞作家の好評シリーズ第4段。 内容紹介より



いまさらながらですが、このシリーズの主人公が公権力の末端に位置しながらも警察官ではない、という設定はあらためてミステリ小説としてとても絶妙だと思いました。彼の場合、自然に対する違法行為を取り締まることが仕事の一つになっているわけですが、警察官のように殺人や傷害、窃盗などの誰が見ても明らかな犯罪行為を相手にしているのとは違い、自然について主義主張や解釈の異なる者たちの行為や行動を相手にしなければならないのです。今回、自然をある程度コントロールしようとするアウトフィッター(狩猟ガイド)、原理主義的な自然環境保護者、立派なお題目を唱える開発業者が登場しますが、特にアウトフィッターには深い共感を覚えながらも、法の執行者の立場として対立せざるを得ない主人公の苦悩する姿が等身大に描かれています。そして、シリーズのもうひとつの特徴である、磐石とはいえない家庭のバランスの揺らぎが振幅を増しているみたいで、今回もサスペンス性をはらんだ進展にはハラハラさせられました。
ただ、ミステリの部分が薄かったことも原因なのか、本書はこれまでのじっくりとじわじわ読ませる展開と違って、読後の余韻に欠けるというか、なにか慌ただしい感じが残りました。あっというまにピークを迎え、もう終盤かみたいな。これがいわゆるリーダビリティというものなのでしょうか。

『沈黙の森』C・J・ボックス 講談社文庫
『凍れる森』C・J・ボックス 講談社文庫
『神の獲物』C・J・ボックス 講談社文庫




震える山 (講談社文庫)震える山 (講談社文庫)
(2010/04/15)
シー・ジェイ・ボックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『神の獲物』C・J・ボックス 講談社文庫

2010-04-24

☆☆☆☆

まるで外科手術のような鮮やかさで切断されたへら鹿の死体が発見された。次に家畜。ついには人間にも凶行が及び、森に現れたジャック・ザ・リッパーは、小さな町をパニックに陥れる。ワイオミングの大自然と家族をこよなく愛する猟区管理官ジョーが「自分の力を超えた」相手と対決する、好評シリーズ第3弾。 内容紹介より



たまに日本のテレビ番組でも取り上げられる、アメリカで発生した「家畜惨殺事件-キャトル・ミューティレーション」がテーマのひとつになっています。奇妙な損傷が死体にあるものだから、超自然現象とかエイリアンや野獣の仕業だとか、いや虫が齧ったんだとか、諸説もあり作者の興味を引いたみたいです。本書では超自然の仕業寄りのストーリー展開がしてあるとともに、土地取り引きに絡む現実的な事件も平行して進んでいくので、作者の考える物語の落としどころ、帰結がだいたい予想が付いてしまいます。すべてを超自然現象のせいしてしまえばミステリ作品としては失笑を買うだろうし、一方、すべてを人間業とするには状況に無理がありますから。新しい解釈とか処理はなく無難です。
それから、いかにもマッドサイエンティストとその助手みたいなコンビや彼らに関係したある人物の造形がかなり浅く、結果ありきでそういう状態になった過程なり説明が不足していると感じました。意外な真犯人にはびっくりさせられましたが、そういう兆しやヒントが一切なければ驚かせるのは簡単なことではありますよね。

『沈黙の森』C・J・ボックス 講談社文庫
『凍れる森』C・J・ボックス 講談社文庫




神の獲物 (講談社文庫)神の獲物 (講談社文庫)
(2008/03/14)
C・J・ボックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『凍れる森』C・J・ボックス 講談社文庫

2010-03-01

☆☆☆☆

広大なワイオミング州の自然と家族を愛する猟区管理官ジョー・ピケットはエルクの大量殺戮現場に遭遇。違法ハンターを追い詰めるも、死体で発見する。森林局のキャリアウーマンと好戦的なFBI捜査官は、森でキャンプを張る反政府グループに目を付けるが。新人賞独占のデビュー作を超えたシリーズ最新作。 内容紹介より



シリーズ一作目の『沈黙の森』よりこの三作目のほうが出来が良い感じがします。相変わらず西部劇の登場人物みたいな雰囲気を持った主人公ですが、サイドストーリーに家族、特に娘たちの物語が設定してあるのを読んだら、TVドラマ『大草原の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー原作)の父親とその家族が想い浮かびました。
物語は、大自然を畏敬し、家族を愛する父親であり、実直な猟区管理官である主人公が殺人事件の捜査に係わるうちに、森林局の役人、FBI捜査官と対立してしまう話と、里子として預かっている少女とその子を取り戻しにきた母親との話が絡んで進みます。
役人たちの理不尽さに憤りを覚えながらもそちら側に付かざるを得ない立場、そして父親として娘の身を案じながらも法律の前で何もできないことにもどかしさを感じ、苦悩する主人公の姿。やや無骨ともいえるこのアンチヒーロー・タイプの彼の様が作品に妙味を与えていると思います。
犯罪者の権利保護について非常に厳しいアメリカで、保安官助手が容疑者を簡単に殴ってしまう場面や森林局の役人とFBI捜査官の姿がいかにもカリカチュア化されすぎているのには、多少、違和感が残りました。

『沈黙の森』C・J・ボックス 講談社文庫




凍れる森 (講談社文庫)凍れる森 (講談社文庫)
(2005/10/14)
シ-・J・ボックス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「沈黙の森」C・J・ボックス 講談社文庫

2008-07-19

Tag : C・J・ボックス

☆☆☆

ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット。気持ちは優しいが、州知事を偶然検挙してしまうような不器用な男。ある日裏庭で娘と見つけた死体は、かつて彼の銃を奪おうとした密猟者だった。次いでキャンプ場にも二人の死体が……。「新ヒーロー誕生」と全米で絶賛され、主要新人賞を独占した、大型新人登場!  内容紹介より



「猟区管理官、パイプライン、希少動物」の三題噺を書けと言われたら思いつきそうなストレートで分かり易いストーリーと「ワイオミング、家族愛、狩猟、大自然」の言葉が,
西部開拓時代の血が流れるアメリカ人の琴線に触れ「全米で絶賛され」たのでしょうか。日本人のわたしには少し小さくまとまり過ぎたかなと感じますけどね。悪役と対峙するラストシーンは大自然のなかでの決闘場面にすれば盛り上がったのにと思います。

主人公の造形、不器用ながら素朴で純粋、しかし普通の男、その普通ぶりが好印象を与えています。概してアメリカの作家は、自然のなかで生きる男たちをタフで技術的には何でもできるヒーローに描きたがる傾向がありますが、この主人公は動かない標的を撃つのが不得手であったり、銃を簡単に取り上げられてしまって笑い者になったりします。また、自分の職業のせいで妻に負担をかけていることを気にしたり、義理の母親が苦手だったりするなど、決して強い夫ではありません。

さて、特に目に見えて秀でたものがあるわけでもないこんな男と、家柄も良く、美人で頭脳も優秀な女性がなぜ結婚したのだろうか?
主人公ジョーが苦境に陥ったときに妻はこう言う、
「ジョー、あなたはいい人よ。そういう人種の、貴重な生き残りよ。それを忘れないで。あなたみたいな人は、もうあまりいないわ。善良な心の持ち主だし、あなたのモラルは模範となるべきよ。自分がしなければならないことをして。きっとうまくいって、あとで笑って話せるようになるわよ」(p253)

なにか古い気がしないでもないが、西部劇の登場人物のような主人公の雰囲気をよく表している言葉ではあります。



沈黙の森 (講談社文庫)沈黙の森 (講談社文庫)
(2004/08)
C.J. ボックス

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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