『三本の緑の小壜』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2012-07-22

☆☆☆☆

ある日、友人と遊びにいった少女ジャニスは帰ってこなかった―。その後、ジャニスはゴルフ場で全裸死体となって発見される。有力容疑者として町の診療所勤務の若い医師が浮上したものの、崖から転落死。犯行を苦にしての自殺と目されたが、また少女が殺されてしまう。危険を知りながら、なぜ犠牲に?真犯人への手がかりは意外にも……。英国本格の名手、待望の本邦初訳作。 内容紹介より



ただ単にわたしがディヴァインの作品に慣れてきただけなのかもしれないけれど、今回の作品は今までより角がとれて娯楽性が高まっているような気がしました。一番の原因は、山田蘭氏が訳者あとがきに書いているように、これまでの「主人公の一人称、あるいは三人称多視点という形式」から、一人称多視点に変更したため印象が変わったせいなかもしれません。なかでも十三歳の少女の視点を大人の視点に取り混ぜたことで雰囲気が明らかに変化しています。ということで、初期ディヴァインのガチガチのパズラーとしてのイメージが本書では軟化するとともに大衆化しているようにも感じられたわけです。それとともに、初期の頃が懐かしいく思ったりもして……。
謎解きの部分ではやや難易度が下がり、この作者の作品を読みつけている読者には意外性の面で物足りなさを覚えるかもしれません。それからなんとなくですけれど、ディヴァインの作品にはコンプレックスが要因となる犯行が多いような気がします。

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三本の緑の小壜 (創元推理文庫)三本の緑の小壜 (創元推理文庫)
(2011/10/28)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『五番目のコード』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2012-06-22

☆☆☆☆

スコットランドの地方都市で、帰宅途中の女性教師が何者かに襲われ、殺されかけた。この件を発端に、街では連続して殺人事件が起こる。現場に残された棺のカードの意味とは?新聞記者ビールドは、警察から事件への関与を疑われながらも犯人を追う。街を震撼させる謎の絞殺魔の正体と恐るべき真意とは ― 読者を驚きの真相へと導く、英国本格の巧者ディヴァインの屈指の傑作が甦る。 内容紹介より



意外な人物が犯人のはずだからと目星を付けるものの、それでも作者にしてやられてしまうのはちょっとした工夫や仕掛けに欺かれてしまうからで、種明かしをされて、それが大掛かりなトリックではないから余計に感心してしまいます。読者の心理をつくテクニックが非常に巧い作家だと思いとあらためて思いました。探偵役の人間臭い造形も彼の女友達や恋人との関係性も犠牲者や容疑者たちの配置も見事になされながら、これまでに読んだディヴァインの作品から感じた、緻密な設計図でもって組み立てられたからくり細工みたいな作風が軽減されているような印象を受けました。
本書はトータルバランスに優れた作品に仕上がっているわけですが、欲を言わせてもらうならば今までディヴァインの長所であったけれんのなさを若干変えて、あえて少し派手な場面をクライマックス以外に加えても良かったかなとつぶやきたい気はします。
それから本筋とは関係ないけれど、本格ミステリにおける、私生活でも自信満々の探偵から、本書のような公私に悩み多き探偵までのキャラクターの歴史的変遷を考察してみると面白いかもしれません。

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五番目のコード (創元推理文庫)五番目のコード (創元推理文庫)
(2011/01/27)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロイストン事件』D・M・ディヴァイン 現代教養文庫

2011-01-18

☆☆☆☆

「至急助けが要る。きわめて重要なことがわかった。お前の義弟は……」4年前に勘当されたマークが実家で見た手紙の下書きは何を意味しているのか?父の死体が新聞社内で発見された。父は勘当の元になったロイストン事件の再調査をしていたようだ。それは教師をめぐるスキャンダルだったが、弁護士だったマークは父の意に逆らい、義弟を偽証と証拠隠滅で告発したのだった。 内容紹介より



創元推理文庫から出ている四作品を比べると、本書はやや俗っぽいように感じました。前者が舞台劇なら後者はテレビのサスペンスドラマみたいな印象です。娼婦や男好きな人妻、品性のない新聞社社主やセクハラ教師のような人物が登場しているせいかもしれません。このキャラクターが男女各一名ずつならまだしも、ご丁寧に二人ずつ配しているものだから余計にくどくなって、俗っぽいイメージが増幅されているのではないでしょうか。しかも作者の持ち味である人物造形が類型化されて、読み進む中で意外性を感じさせる人物がいないというのもあります。主人公の人物像からして、彼の父親、義弟、元婚約者が抱いているマイナスのイメージ枠から一歩も変わることなく終了してしまい、実直だけれど、人間的に魅力にかける面白みのない男にしか思えないのです。唯一、活き活きとしていたのはキャロルだけのような。
真犯人については、ある条件にあてはまる人物が一人しかいないことから見当が付いてしまい、ひとつの効果的なフェイクを挟みながらの謎解きも、なあんだ、やっぱりって感じでした。タイムスケジュールをとりながら読んだ方がわかりやすいかも。

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ロイストン事件 (現代教養文庫―ミステリ・ボックス)ロイストン事件 (現代教養文庫―ミステリ・ボックス)
(1995/06)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『兄の殺人者』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2010-09-24

☆☆☆☆

霧の夜、弁護士事務所の共同経営者である兄オリバーから急にオフィスに呼び出されたサイモンは、そこで兄の射殺死体を発見する。仕事でも私生活でもトラブルを抱えていたオリバーを殺したのは、一体何者か?警察の捜査に納得できず独自の調査を始めたサイモンは、兄の思わぬ秘密に直面する。英国探偵小説と人間ドラマを融合し、クリスティを感嘆させた伝説的デビュー作、復活。 内容紹介より



本書をいれて創元推理文庫から出版されたディヴァインの作品は四作品です。いずれの作品も高い水準で安定していて、安心して読むことができます。これは作者とその作品が英国ミステリの本流に位置して、正統的なものを体現しているからなのかもしれません。ストーリーには一貫して抑制が利き、意図的な派手さやけれん味がないところも好印象を与える点だと思います。
主人公は被害者である兄が過去に恐喝まがいのことを仕出かしているにもかかわらず、兄の人間性を信じて調査を始めるという物語の出発点にちょっとした新しさを感じました。つまり、兄=悪人であったために殺人の被害者になった。だが調べてみると……、のようなよくある簡単な図式をちょっとひねっているわけです。この部分に兄弟のつながりみたいな何かを読者に感じ取らせているのではないでしょうか。これ以外にも登場人物たちの人間模様、内容紹介でいうところの“人間ドラマ”が過剰にならず効果的に描かれ、ストーリーに深みをもたらしています。
ただ残念なのは、悪事を為すために生まれてきたかのような犯人の荒っぽい造形がいささか、この“人間ドラマ”の部分にそぐわないことです。当然重要な役割を担っているのに、性格描写と人物描写をばっさり切ったような単純な表裏しか与えられていないのは、他と比べてかなり異質です。

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
『災厄の紳士』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
『ウォリス家の殺人』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫




兄の殺人者 (創元推理文庫)兄の殺人者 (創元推理文庫)
(2010/05/22)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『災厄の紳士』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2010-04-06

☆☆☆☆☆

根っからの怠け者で、現在ではジゴロ稼業で糊口を凌いでいるネヴィル・リチャードソンは、一攫千金の儲け話に乗り、婚約者に捨てられた美人令嬢のアルマに近づく。気の強いアルマにネヴィルは手を焼くが、計画を仕切る“共犯者”の指示により、着実にアルマを籠楽していく。しかしその先には思わぬ災厄が待ち受けていた……。名手が策を巡らす、精巧かつ大胆な本格ミステリの快作! 内容紹介より



ピカレスクみたいな始まり方から倒叙ものに移り、そして本格ものになるという多段階に変化する、少々変わったミステリ作品でした。しかも、計画のために嫌々女と付き合うジゴロ役の愚痴がユーモア風味も醸し出したりしています。
相変わらずこの作者の構成力はたいしたもので、まるで設計図を描いて建物を建てるみたいに作品を完成させているようだったり、あるいは数学で例えると因数分解でもできそうな作品のような感じがします。いわゆるパズラーそのものです。
ただ、卓越したパズラー作家ゆえに、盤上のチェスの駒のごとく登場人物たちの感情までも設計図通りに操作しているみたいな、気持ちも機械的に処理しているみたいな印象を受けてしまいました。『ウォリス家の殺人』でも思ったことですが、身近な者にまったく気取られること無く、感情をコントロールできるものなのかということです。
とにかく秀作なのは間違いなくて、余談ですが、わたしは見当違いの人物を犯人だと思っていたので、最後の場面では振り向くことなく殴り殺されていたことでしょう。

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
『ウォリス家の殺人』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫




災厄の紳士 (創元推理文庫)災厄の紳士 (創元推理文庫)
(2009/09/30)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ウォリス家の殺人』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2009-12-27

☆☆☆☆

人気作家ジョフリーの邸宅〈ガーストン館〉に招かれた幼馴染のモーリス。最近様子のおかしいジョフリーを心配する家族に懇願されての来訪だった。彼は兄ライオネルから半年にわたり脅迫を受けており、加えて自身の日記の出版計画が、館の複雑な人間関係に強い緊張をもたらしていた。そして憎み合う兄弟は、暴力の痕跡を残す部屋から忽然と姿を消した。英国本格の妙味溢れる佳品。内容紹介より



真犯人の意外性がとても目立ちます。でも、それに付随するミステリ部分はそれほど上手いわけではなくて、読みどころは人物像と人間関係に尽きます。被害者の家族と関係者が抱えている問題とは別に、語り手であるモーリス自身も別れた妻や息子との関係について悩みを持っていること。彼が被害者の伝記を執筆するように依頼されたそもそもの理由は、子供時代を被害者と共に同じ家庭で育った過去があるからということ。つまり、作者は、こういう人間関係の三つのサークル(円)がそれぞれ重なりあっている状況を設定して、これがかなり読み物として効果を上げています。
ただし、被害者の中心人物としての存在感が薄っぺらいかなと感じました。彼の妻くらいのインパクトが欲しかったところです。若い頃のスキャンダルは派手ですけれど、二つの出来事が相似していてはあまり意味をなさないように思います。さらに彫りを深くして、嫌な奴なりに魅力を引き出してあればなと。それから真犯人についてなんですけれど、そんな性格の人物だったら、隠していても日常薄々表面に表れるものなんじゃないかとは思いましたよ。

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫





ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)ウォリス家の殺人 (創元推理文庫)
(2008/08)
D.M. ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2009-11-24

☆☆☆☆☆

ハードゲート大学の数学講師ピーターは、横領容疑で免職の危機にある亡父の友人ハクストンに助力を乞われた。だが審問の場でハクストンは、教授たちに脅迫めいた言葉を吐いたのち変死する。次いで図書館で殺人が起き、名誉学長暗殺を仄めかす手紙が舞い込む。相次ぐ事件は、ピーターの父を死に追いやった八年前の醜聞が原因なのか。クリスティが絶賛した技巧派が贈る傑作、本邦初訳。 内容紹介より



派手さはないけれど巧みさが際立つ作品です。オックスブリッジのような超有名大学ではなく、ブリック・カレッジみたいな(正確には違いますが)地味な地方大学を舞台に選んでいるのも、大学教官、職員たちの玉石混淆ぶりと人間関係をコンパクトに現す意味でよい選択だと思います。また、三人称多視点の切り替わりが絶妙で、カメラワークがスムーズでとても読み易いと思います。ただ、作品全体に淡白な印象を受けてしまうため、もうちょっと変な癖みたいなものが欲しい気もします。

以下、ネタばれしています!ご注意下さい。






一般的にミステリ小説においては、犯人の動機、心理状態、犯罪に至った事情などを探偵役がラストに総括して説明するパターンが多いと思いますが、本書ではそれら諸々が1ページ目から語られ始めています。しかし、手がかりその他の埋め方とその上にかぶせた土の量の具合が巧妙で、真犯人が判明した時、まさしくタイトルで明かしているとおりに、悪魔は読者のすぐそこにいたことにハッと気付くというわけです。
クリスティの代表作のひとつに何か似たものを感じるので、彼女が絶賛したというのも判るような。しかもそれより上手くやってます。



悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)
(2007/09/22)
D.M. ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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