『黒い河』 G・M・フォード 新潮文庫
2012-06-07
病院の崩壊事故にともなう死傷事件の公判直前、手抜き工事の黒幕バラギュラは、証人を片端から消すよう部下に命じていた。ノンフィクション作家コーソは、彼の悪事を暴く本を執筆中だったが、元恋人が、バラギュラの証拠隠滅工作に巻き込まれ瀕死の重傷を負ったと知る。さらに自分の身辺にまで殺し屋を差し向けられ、ついにコーソの憤りが炸裂する!問答無用のサスペンス名編。 内容紹介より
フランク・コーソ・シリーズ二作目。
この作家って名前のせいで微妙に損をしている気がするのはわたしだけでしょうか。アメ車ってダイナミックだけれど精密さに欠けるというイメージがあるから、それが固定観念になってこの作者の作品もなんだか大雑把な作りなんじゃないかという潜在観念が働いてしまうのです。しかし、一読してみるとまったくイメージとは逆に精緻な作品作りをしていることが分かります。この人は主人公以外の登場人物の造形とその膨らませ方とがとても上手いです。ストーリー上では一つの駒にすぎないキャラクターでも大なり小なりのエピソードまたは陰影、背景を付け加えています。最初に殺されたドナルド・バースという男は、何故か生活を切り詰めてでも息子の教育に金をつぎ込む暮らしを長年続け、そんな暮らしに飽き飽きして家を出た妻、父親がそんなにまでしていることをまったく知らなかった息子、バースの家の管理人であるカンボジア難民の男、キューバ人の殺し屋のコンビ、ギャングの右腕やその弁護士にしても、事件の黒幕のギャングを除いて単純なキャラで済ませていません。その他大勢にも気配り目配りが利いている作品はやはり面白いです。
最後になりましたが、
レイ・ブラッドベリ氏がお亡くなりになったそうです。謹んで、ご冥福をお祈り致します。
大好きな作家でした。
『憤怒』G・M・フォード 新潮文庫
『白骨』G・M・フォード 新潮文庫
『毒魔』G・M・フォード 新潮文庫
![]() | 黒い河 (新潮文庫) (2004/04) G・M・フォード 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『憤怒』 G・M・フォード 新潮文庫
2011-10-27
シアトルを震撼させた連続レイプ殺人。逃げ延びた女性の証言で、強制猥褻の前科がある悪党が逮捕され、市民は安堵した ― はずだった。だが、死刑執行6日前、新聞記者コーソを証人の女性が訪ねて、偽証だったと告白。冤罪を確信したコーソは真犯人探しに乗り出した。さらに新たな犠牲者が出るに至り、事件は思わぬ結末を迎えた!推測不能、純度100%の時限爆弾サスペンス登場。 内容紹介より
以下、ネタバレ気味です!ご注意下さい。
フランク・コーソ・シリーズの一作目。
三作目や四作目よりも佳くできているように思えました。とにかく、プロットがくどくなく、過剰に幾重にも捻っていないところが好感が持てます。もっと凝り性の作家だったら証言を偽証した女性を犯人のターゲットにさらすでしょうし、死刑囚、彼を撃った男性、新聞社の警備員の三人のうちの誰かは殺していたのではないでしょうか。ただ、この三人全部が助かるという設定もややおめでたい気がしますけれど……。また、雑魚キャラとして処理してしまいそうな目撃者の少年の扱いの良さ、不仲だった編集主幹との和解、女性の証人を新聞社に勤めさせたりする展開など、一般的に殺伐とした内容になることが多いシリアルキラー・ミステリおいて珍しく八方丸くおさまって終結する温かい、または甘い流れが結構新鮮に感じましたし、個人的に好印象を受けました。一方、犯人側からの反撃、悪巧みがなく、存在感が薄めだったのにはやや拍子抜けでした。スリリングな展開が好きな読者には物足りなさが残るかもしれません。ジェットコースターに乗り疲れた方にはお勧めかもしれません。
『白骨』G・M・フォード 新潮文庫
『毒魔』G・M・フォード 新潮文庫
![]() | 憤怒 (新潮文庫) (2003/09) G・M・フォード 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
『毒魔』G・M・フォード 新潮文庫
2009-08-17
シアトルのバスターミナルで劇物が空中散布された。被害者は口や鼻から血を流し、数分で116名が倒れた。たまたま現場近くの恋人の写真展に来ていた元辣腕記者コーソは捜査を開始する。米政府は本土に対する新たなテロと断定し、イスラム過激派などの洗い出しに全力を注ぐ。しかし、その頃コーソは誰もが想定しえない犯人を追っていた。先がまったく読めない至高のサスペンス登場! 内容紹介より
フランク・コーソ・シリーズの4作目。
最後半の隔離される部分に新味を感じますが、物語の出だし、捜査当局の活動、犯人の行動など、どうしても従来のパニック・スリラーものをトレースしている印象を受けてしまいます。30年以上前のトマス・ハリスの作品『ブラックサンデー』から爪先くらいしか抜け出せていない気がするのですね。テロ行為が成功して始まる物語はあるでしょうが、それが成功して終わる物語はまずないわけで(あるとしてもミステリとは別の話になるでしょう)、結末が決まっている以上はどうしても似たようなストーリー展開になるの致し方ないところです。主人公がどういった活躍を見せるのか、というところが他の作品と優劣を分けるポイントでしょうが、本書の主人公は作家という設定からか、現場に居合わせて他の登場人物を第三者的立場から眺めているイメージがあり、しかも、大規模なテロを扱うパニック・スリラーものの常として、大勢の登場人物をカットバックで描く手法を採っているためにそれらしい活躍も少な目です。遺伝子操作の部分は興味深かったです。
それから本書のなかに、シリーズ一作目『憤怒』のネタバレをしている箇所があります。『憤怒』をお持ちの方は先に読まれることをお勧めします。
『白骨』G・M・フォード 新潮文庫
![]() | 毒魔 (新潮文庫) (2007/02) G.M. フォード 商品詳細を見る |
テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌
「白骨」G・M・フォード 新潮文庫
2008-08-05
裁判所から召喚された世捨て人作家コーソは、出廷命令を無視して行方をくらますことにした。元恋人と空路ミネソタを目指すが、空港は大雪で閉鎖。レンタカーで移動する二人は、吹雪で事故を起こし凍死寸前に。やっと見つけた空き家で床板を燃やして一命をとりとめるが、床下からは何体もの白骨死体が—。その家にまつわる身の毛もよだつ驚愕の秘密とは? 至高のサスペンス登場! 内容紹介より
ネタばれを含んでいます。ご注意ください!
フランク・コーソ・シリーズの第三作目だそうです。
全体をとおして本来サスペンス小説を覆うべき緊迫感がかなり欠如している印象を受けました。それはシリアル・キラーの犯行が現在進行中ではなく十五年前の殺人であり、しかも犯人が何処かへ姿を消してしまっているという状況がサスペンス性をそいでいるからでしょう。普通、次の犯行を計画する殺人鬼の視点を挿入し、それを阻もうとする主人公たちの捜査とを同時進行に描いて読者の不安感をあおり、緊張感を高めるのが一般的なパターンですが、作者はその手法を採っていません。さらに、犯行が発覚し追われていることを知らないために犯人側からの反撃がラスト近くにならないと始まらないこと。犯行にいたる遠因が〈またこれか〉的なものであること、それが読者が犯人にたいして若干同情をよせてしまう理由になってしまうことがあげられます。また、主人公が「世捨て人」作家にしては強烈な個性が感じられず、悪い意味で中庸なキャラクターであることが作品の印象を薄くしていると思います。
犯人の過去の傍白だと思っていた部分が、実はいつ爆発するかわからない時限爆弾みたいな人間のセリフだったと明らかにし、余韻の残る終わり方をしたのはなかなか上手い。
![]() | 白骨 (新潮文庫) (2005/04) G.M. フォード 商品詳細を見る |