『苦い祝宴』 S・J・ローザン 創元推理文庫

2011-10-11

☆☆☆☆

中華料理店で働く青年四人が、ある日突然揃って姿を消した。彼らが勤めていたのは、チャイナタウンの大物が経営する有名店。最近始められた組合活動に関して、店と対立があったらしいが、その程度のことで拉致されたり消されたりするはずもない。半ば強引に捜索の仕事を引き受けたリディアは、相次ぐ予想外の展開に翻弄される。〈リディア・チン&ビル・スミス〉シリーズ第五弾。 内容紹介より



相変わらず家族、友人、知人から探偵稼業を心配され、大人扱いされていないように感じてイラッとすることが多いヒロインです。これはチャイナタウンというコミュニティのなかで母親(家族)と暮らす者にとっては致し方のないことで、翻って見るなら愛情、特に家族愛の裏返しでもあるわけで、彼女の相棒であるビル・スミスが自分の家族や不幸だったと思われる子供時代を語ろうとせず、孤独の影がうかがえるような人物設定になっているのとは対比的です。主人公を作品ごとに交代して務めさせる作者の意図は、人種、性別、境遇の異なるふたりの生き方、考え方の違いを際立たせるということもあるのかもしれません。それによって作品の雰囲気がかなり違っているように思います。
今回はヒロインのホームであるチャイナタウンに新勢力が台頭し、旧来の権力者の経営する店で起きた労働争議中に姿を消した店員たちに彼らが関わっていた疑惑が持ち上がり、そんななか労働組合の事務所で爆発事件が発生したり、不法入国や麻薬密輸入も明らかにななったりして、怪しい人物たちもわんさか登場しますが、そういった諸々がキレイに収斂していくところはさすががローザンさん。

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苦い祝宴 (創元推理文庫)苦い祝宴 (創元推理文庫)
(2004/01)
S・J・ ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『新生の街』 S・J・ローザン 創元推理文庫

2011-08-10

☆☆☆☆

新進デザイナーの春物コレクションのスケッチが盗まれた。次いで五万ドルの現金の要求。“身の代金”受け渡しの仕事を持ち込まれた探偵リディアは、相棒ビルを援軍に指定の場所に赴いたが、不意の銃撃をへて金は消える。汚名返上のため、ファッション界に真相を探ろうとするリディアとビルだったが……?名コンビが早春の街を駆けめぐる、新鮮な現代の探偵物語。待望の第三弾! 内容紹介より



アメリカで少女向けのアニメやコミックがアメリカの女の子にウケ始めたきっかけのひとつに『美少女戦士セーラームーン』の影響が上げられていますが、これは従来のアメコミにおけるスーパーマンやスパイダーマンたちの庇護から放れ、今までにはなかった少女(女性)自身が戦う物語だからという解釈がなされています。

さてそれをふまえて、本書は、岩田清美氏が解説されているように、テーマというほど大げさではないものの、作者が主張したいメッセージがものすごく判りやすい形で表されている作品です。そのメッセージとは親から子、兄から妹、彼氏から彼女への過保護だったり過干渉行為への否定または拒否です。シリーズ第一作目の『チャイナタウン』においても主人公リディアは兄のひとりから善意の干渉をされていましたが、今回も別の兄から余計なお世話的な扱いを受けて憤ったりします。また、ファッション・デザイナーの恋人は彼女に対して独りよがりに過保護気味であり、その母親は典型的な親ばかです。
つまりは、本書の著者もヒロインも、いつまでも手を貸さなくてはならない弱く小ちゃな女の子扱いをせずに、まず人間として捉えてくれというということであり、リディアがいうように好きなこと(探偵家業)をしていて、それでもし死ぬようなはめになってもそれはそれで本望ということなのです。
まあ、しごく全うな意見ですけれど、クライマックスにおいてヒロインの窮地を救ったのは彼女自身ではなく、相棒のビルだったのは、ヒーローぶりたい男を全否定することなく、花を持たせ折衷したということなのでしょうか。

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新生の街 (創元推理文庫)新生の街 (創元推理文庫)
(2000/04)
S・J・ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『チャイナタウン』S・J・ローザン 創元推理文庫

2011-04-30

☆☆☆☆

旧正月を控えて賑わうチャイナタウンの美術館から貴重な磁器が消えた。盗品発見を依頼された探偵リディアはパートタイムのパートナーたるビルを相棒に、街を仕切る中国人ギャングと美術品業界の調査に着手。だが、事件の周辺からは二重三重の謎が湧き出してくる。28歳の潑剌とした中国人女性が、年齢も育ちもかけ離れた白人の先輩探偵と展開する心躍る活躍。清新な才能の誕生! 内容紹介より



シリーズ第一作目。ご存知のとおり本シリーズは、一作ごとに中国系アメリカ人のリディアと白人男性ビルの二人が交互にメインになり、ストーリーを展開する形式をとっています。わたしはこれまでビルがメインの回しか読んでこなかった(ビルがメインの回の方が面白いとの話をどこかで耳にしたため)ので、今回、リディアという女性の目でこのコンビを見て新鮮に感じました。このシリーズには、人種が異なる男女がパートナーを組む意外に、特に斬新な要素があるわけではなく、かえって伝統的な私立探偵小説であると思います。ただ、リディアメインの回においては、純粋なハードボイルドではなくて、中国人社会とそこに帰属するリディアの家族が重要なファンクターになっているので、こういうところはコージーミステリの雰囲気も持ち合わせているわけです(ローラ・リップマンのテス・モナハン・シリーズのように)。作品としては、かなりよくプロットが練られているとともに、複合性を持たせてあるように感じました。別の作品の感想でも書きましたけれど、このコンビのいちゃついているみたいな言葉でのふざけ合いがちょっと鬱陶しいのは今回も。

『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン 創元推理文庫
『どこよりも冷たいところ』S・J・ローザン 創元推理文庫
『春を待つ谷間で』S・J・ローザン 創元推理文庫




チャイナタウン (創元推理文庫)チャイナタウン (創元推理文庫)
(1997/11)
S・J・ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『どこよりも冷たいところ』S・J・ローザン 創元推理文庫

2010-01-26

Tag : S・J・ローザン

☆☆☆

マンハッタンの建設現場で工具が頻繁に消え、さらにはクレーンの操作係が失踪する。疑わしい班長の素行調査を請け負った私立探偵ビル・スミスは、レンガ工として覆面捜査を開始したが、すぐに工員が瀕死の重傷を負う。ピアノを愛する中年の白人探偵と相棒のリディアが、こみいった事件の最深部に見たものとは?アンソニー賞最優秀長編賞に輝く、期待の現代私立探偵小説第四弾! 内容紹介より



このシリーズは、本書を含めて3作品、しかもビル・スミスがメインとなる回しか読んでいないけれど、結構気に入っています。でも、本書を一読した限り、この作品が賞を受賞するほどの出来映えかというとあまりそうは思えませんでした。レンガ工に扮してビル建築の現場に潜入し、レンガを積みながら内情を探る場面はスリリングで面白いです。しかし、そのレンガ仕事からのエピソードが派生してこない。レンガ工のひとりに偽物だと見破られますが、後は作業員が大怪我をしたり、死体が発見されたり、墜落死したりするだけで、衆人の前で正体がバレそうになったり、怪しまれたりするなどの主人公に直接関係する事件や出来事が予想より少なく、そういうところのハラハラ感がなくてもの足りませんでした。本筋の事件はさまざまな人たちの思惑が絡まって起きたものなのですけど、展開はゆるくて冗長な印象。
そして、恋愛関係にあるふたりではありませんが、主人公とリディアの会話がどうも恋人同士の痴話げんかやいちゃついているみたいに感じて作品全体の緊張感をそいでいるみたいに思えました。主人公もリディアもともにあまり軽口を叩かないけれど、ふたり合わせると一人前になってしまうみたいな。

『ピアノ・ソナタ』S・J・ローザン 創元推理文庫
『春を待つ谷間で』S・J・ローザン 創元推理文庫




どこよりも冷たいところ (創元推理文庫)どこよりも冷たいところ (創元推理文庫)
(2002/06)
S.J. ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「春を待つ谷間で」S・J・ローザン 創元推理文庫

2008-04-22

☆☆☆☆

晩冬のある日、中年の私立探偵ビル・スミスは、いつもは休暇を過ごすために訪れる州北部の郡で、初めて仕事を引き受けた。イヴという女性の依頼は、自宅から盗まれた品物を取り戻すこと。だが調査を開始したとたん、彼は死体の発見者となり、家出少女捜しを頼まれ、何者かに襲われるはめに……。ビルとリディアがマンハッタンを離れて、複雑な事件と取り組む、シリーズ第六弾。内容紹介より



『ピアノ・ソナタ』の感想でも書きましたが、主人公ビルは休暇を過ごす山小屋にもピアノを置いているくらいピアノ演奏を趣味にしています。
ジョージア・オキーフを想わせる、夫を亡くした後、隠遁生活を送る女性画家がクラシック好きの設定ということもありますが、バッハ、シューベルト、ショパン、モーツァルトとこれほどクラシック音楽の作曲家の名前が出てくる私立探偵小説は珍しいと思います。
こういうニュータイプの私立探偵を登場させているけれど、面白いのはギャング、土地の有力者、悪女、汚職警官そして主人公の気絶といったハードボイルド系探偵小説の古典的、基本的要素をふまえていることです。こういうのを古い酒袋に新しい酒を入れるというのか?ちょっと違うかも…。
登場人物たちは上手く描かれていますが、重要な役割であるジニーの描き方に粗雑な印象を受けるのが残念です。

春を待つ谷間で (創元推理文庫)春を待つ谷間で (創元推理文庫)
(2005/09)
S.J. ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ピアノ・ソナタ」S・J・ローザン 創元推理文庫

2008-02-24

☆☆☆☆

深夜ブロンクスの老人ホームで警備員が殴り殺された。手口から地元の不良グループの仕業と判断されたが、納得がいかない被害者のおじは探偵ビルに調査を依頼。かつて探偵の手ほどきをしてくれた老兵の頼みに、ビルは危険な潜入捜査を展開するが……? 無鉄砲で繊細な中年探偵が、相棒リディアの存在を胸に、卑しき街を行く。シェイマス賞最優秀長編賞に輝いた、爽やかな第二弾! 内容紹介より



S・J・ローザン、初読です。このシリーズは一作ごとにリディアとビルが交互に主人公になっているそうです。ハードボイルドながら、主人公の減らず口指数がかなり低いのは好印象です。きっと、大人になっても減らず口を叩くのは男性特有の幼児化現象の一つなのでしょうね。

さて、やはり印象的なのはビルがピアノを趣味としていることです。この意外性のある側面を主人公に加えたことでキャラクターに深みが出ています。ちょっとしたことなのにかなり効果的でした。内容紹介にある「卑しき街を行く」という表現がぴったりな主人公のいまどき珍しいウェットさは、作者が女性だからでしょうか。リディアへの抑えた愛情や老人、子供(猫も)など弱者への思いやり、悪への潔癖さもありながら人情味もある人物像は、女性ミステリ作家が男性を主人公にした時に、往々にして見受けられる甘さ寛容さを伴う騎士化(騎士道精神を備えた人物造形化)傾向があるような気がします。終盤はウェット過ぎる気味もありますし、ギャングの一人が撃たれた後の様子などはありきたりです。この辺をクールに決めていればさらによい作品になったと思います。


ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)
(1998/12)
S.J. ローザン

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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