『コオロギの眼』ジェイムズ・サリス ミステリアス・プレスハヤカワ文庫

2018-02-20

Tag :

☆☆☆

時は流れ、街は変わり、人々もうつろってゆく。探偵だったルー・グリフィンは教師となり、作家としても成功していた。だが一本の電話が、ふたたび彼を混沌の街へと誘う。長年行方不明になっていた息子らしき青年が、重傷を負って入院しているというのだ。急ぎ病院を訪れたルーは、そこで意外な言葉を聞かされる……ハードボイルドに新たな風を吹き込む傑作 内容紹介より



『黒いスズメバチ』と同じく、舞台はニューオーリンズ、主人公はルー・グリフィンです。現在の彼は、作家としていくつかの著作を出し、大学で英文学を教えています。元探偵の経歴から、学生の失踪した弟を捜し出す依頼を受けます。実は主人公の一人息子も長年行方不明になっているのです。ある晩、彼が息子へ贈った署名入りの著書を持った男が重傷を負って病院に運ばれたとの連絡が入りますが……。過去に彼が愛した女性たちへの思い、近隣で起きるストリートギャングによる犯罪行為、親友の息子に起きた悲劇、こういったいろいろな出来事を観念的、叙情的に移ろう心情を細かく描写していく手法をとっています。この作家の持つ、いわゆる「文学」指向なのだと思うのですけれど、この思わせぶりな文学臭がやや鼻に付くところもあります。いうなれば、ミステリ性がかなり希薄なハードボイルドなのでしょうし、そう割り切れば文体は嫌いではないし、これまでに読んだ二作品より肌にあった感じがしました。しかし、p265からの、どういう必然からなのか訳の判らない突然の彷徨をし始める主人公の行動は意味が分かりませんでした。

『黒いスズメバチ』ミステリアス・プレス
『ドライヴ』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷の娘』レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫

2018-02-16

Tag :

☆☆☆

買い物を終えた女性が、車のトランクで少女の死体を見つけた。暴行を受けて殺害されたらしいその少女は、フィギュアスケートの若手ホープ、ノーラ。つい数日前ノーラの素晴らしい演技を観たばかりのエスポー警察の巡査部長マリアは、ショックを隠せない。才能豊かで恐ろしく気が強かった、氷上のプリンセスを殺したのは誰?有力な被疑者としてノーラの母親につきまとっていたストーカーの男が浮上するが……。産休目前のマリアが、ノーラを巡る人間関係に捜査のメスを入れる。フィンランドで人気ナンバーワンの〈マリア・カッリ シリーズ〉。 内容紹介より



産休を四週間後に控えた、前作同様身重なヒロインがフィンランドフィギュア界を舞台に活躍する話です。古市真由美氏の訳者あとがきによると、作者はフィギュアスケートに造詣が深いらしく、話のあちらこちらにその片鱗がうかがえます。事件は、将来を嘱望されていたフィギュアスケートのスターの少女が撲殺された姿で発見されるというもの。ヒロインの上司である警部が娘を通じて被害者と顔見知りだったため、巡査部長であるヒロインが捜査を実質上担当することになります。被害者とペアを組んでいた選手、彼らのロシア人コーチ、フィギュアスケート協会理事、被害者一家のストーカーなど、錯綜する人間関係、そして被害者がつけていた日記に表される思春期の心情とともに、妊娠をめぐるいろいろな問題や署内の人事をめぐっての思惑が捜査活動にからんで描かれ、物語に深みと広がりを与えています。難点は、クライマックスにおけるヒロインのとった軽率な行動が、コージミステリでよく見掛ける素人探偵みたいで、プロらしさが感じられないところに警察小説としては不満を覚えました。一方、警察組織の男社会の中で一人奮闘する彼女の姿は好印象を与えていると思います。

『雪の女』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール 小学館文庫

2018-01-25

Tag : SF

☆☆☆

AI(人工知能)の開発が進み、家事や仕事に就くアンドロイドが日々モデルチェンジする近未来のイギリス南部の村。弁護士として活躍する妻エイミーとは対照的に、親から譲り受けた家で漫然と過ごす三十四歳のベン。そんな夫に妻は苛立ち夫婦は崩壊寸前。ある朝、ベンは自宅の庭で壊れかけた旧型ロボットのタングを発見。他のアンドロイドにはない「何か」をタングに感じたベンは、作り主を探そうと、アメリカへ。中年ダメ男とぽんこつ男の子ロボットの珍道中が始まった……。タングの愛らしさに世界中が虜になった、抱きしめたいほどかわいくて切ない物語。 内容紹介より



ロボットのまるで幼い子供(作者は子育てから本作のヒントを受けたそうです)みたいな喋り方としぐさ、主人公のモラトリアムをこじらせたみたいな造型と彼とロボットとの会話の様子が個人的に甘すぎて肌が合いません。イギリスからサンフランシスコ、ヒューストン、東京、パラオを巡るロードノベルであり、その過程で、両親の死と志望する仕事からの挫折といった人生のつまずきから引きこもり状態に陥ったいい大人の主人公が、ロボットとの道中で父性が芽生え、妻への愛情に改めて目覚めるという成長小説でもあります。それらが感傷、叙情、メルヘンという液体に頭までひたひたに漬かって描かれているので私的には勘弁して欲しい感じがおおいにしました。悪い意味での大人の童話なのですが、セックス関連のエピソードを抜きにしても、こんなあまあまな物語はヤングアダルトでもちょっとどうかと思われそうです。しかし、一般的な評価は高いので興味のある方は一読の価値があるでしょう。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『フリント船長がまだいい人だったころ』ニック・ダイベック ハヤカワミステリ

2018-01-15

Tag :

☆☆☆

アメリカ北西部の海辺の町ロイヤルティ・アイランドでは、男たちは秋から半年ものあいだ厳寒のアラスカで漁に励み、妻たちは孤独に耐えながら夫の帰宅を待つ。十四歳の少年カルは、いつか父とともにアラスカに行くことを夢見ていた。しかしある日、漁船団のオーナーが急死し、町の平穏は崩れ去る。跡継ぎのリチャードが事業を外国に売りはらうと宣言し、住人との対立を深めたのだ。その騒動のなかでカルは、大人たちが町を守るために手を染めたある犯罪の存在に気づく。青春の光と影を描き切った鮮烈なデビュー作 内容紹介より



アメリカを舞台にした少年小説には惹かれるので期待して読んだのですが今ひとつでした。この作者は港町に暮らしたことがあるのだろうか、と思うくらいに海や魚の臭いが行間から漂っても伝わってもきませんでした。さらにテーマは深いにしても、その料理の仕方はすごく単純すぎて上っ面を撫でただけのような印象が残りました。頭の中でこねくり回して、それを思わせぶりな表現で表したみたいな感じが終始しました。町に金をもたらす漁師たちを束ねる有力者である父親から、彼らの仲間になる道を閉ざされてわだかまりが生まれ、町と住人たち自体にも複雑な感情を抱く跡取りの青年、父親の死によってこの対立があらわになり、漁師の息子でありながら彼と交わるにつれ、その考えを理解できるようになった少年の存在。父親を含む漁業に携わる者、青年、主人公の少年という三者の構図に、夫が漁期に長期間不在となることの孤独に蝕まれる妻たちを周囲に配しているのは巧みです。父親と同じ道を進みたかった主人公の少年は、ある事件によって、望みながらも受け入れてもらえなかった青年と同じ運命をたどることになってしまいます。プロットの構築には優れた、かなり期待のもてる作家だと思います。ただクライマックスにおける少年が下した伏線のない、いきなりな判断と行動にはついていけなせんでした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『家政婦は名探偵』エミリー・ブライトウェル 創元推理文庫

2018-01-11

Tag :

☆☆☆

ウィザースプーン警部補は医師の死体を前に困りはてていた。名刑事として認められつつある彼だが、無類の好人物であるものの、実は捜査の才能は皆無なのだ。警部補の立てた手柄はすべて、屋敷を取り仕切る家政婦ジェフリーズ夫人が先に真相を解明したうえで行う、さりげない誘導のたまものだった。今回の開業医殺害事件でも、苦戦する主を見かねた真の名探偵ジェフリーズ夫人と、屋敷で働く使用人一同からなる探偵団が、解決目指して警部補には内緒で動きだす。ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にした、明るく楽しいミステリ・シリーズ第1弾。 内容紹介より



犯行現場での捜査が苦手で、署内の記録係だった頃を懐かしむ人の良い警部補が、彼を慕う使用人たち(家政婦、メイド、料理人、従僕、馭者)による密かな助けを借りて、開業医毒殺事件の謎を解くと言うお話です。警部補の面目を保つために、使用人たちが陰で調査していることは彼には内緒にしていますが、同僚の警部補は怪しんでいるらしいという設定がしてあります。米国在住のアメリカ人作家なのでほとんどヴィクトリア朝英国の市井の雰囲気が伝わってきませんし、使用人たちのキャラクターもステレオタイプなイメージでそれぞれの個性が強調されているわけではありません。特に警部補のキャラは確立した方が良いのではないかと感じました。ただ、いわゆる古典には見当たらない使用人に光を当てる趣向は面白いし、ミステリの具合など総合的に見るなら各自バランスがとれているようには思います。そういう意味では非常に気軽に息抜きとして読むことができる作品です。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『眺めのいい部屋売ります』ジル・シメント 小学館文庫

2017-12-28

Tag :

☆☆☆

NYイースト・ヴィレッジに建つエレベーター無しのアパートメント。四十五年間、五階の部屋に住み続けるアレックスとルースの夫婦は、十二歳の愛犬ドロシーと穏やかな日々を送っていた。ただひとつ、大きな問題が。足腰の弱ってきた彼らにとって、階段の上り下りが年々辛くなってきたのだ。そこで二人は住み慣れた部屋を売り、エレベーター付きの物件を購入する計画を立てていた。ところが内覧会の前夜、ドロシーが急病に。さらに近くのトンネルでテロ騒ぎが勃発する……。結婚生活五十五年史上、最もスリリングな週末を過ごしたチャーミングな夫婦の物語。 内容紹介より



老夫婦と老犬が暮らすアパートの部屋が高額で売れそうだと不動産屋から聞いた二人は、購入希望者にたいしてアパートの内覧会を開くことに。しかしその前日に愛犬の身体に異変が起きるとともに、トンネル内でタンクローリーが立ち往生するというテロ騒ぎが発生してしまいます。主人公の老夫婦は街中が大騒ぎの状態にある中、動物病院に入院した愛犬のこと、アパートの売却と新たなアパート捜し、姿をくらましたタンクローリーの運転手にまつわる噂、さまざまなことに振り回されてしまいます。若い頃、反体制派と疑われてFBIから監視を受けていた夫婦が、テロ騒ぎによる不動産価格への影響に期待したり心配したりする俗物ぶりな様子とか、事件に関するマスコミの扇情的な報道姿勢、飼い主を心待ちにする愛犬の姿、こういう場面が印象的に挿まれて物語が進行していくのですけれど、老いることの内実、外部の忙しない状況という内と外の対比が際立って感じられました。ただ、ミステリ好きな者にとっては、この一貫してトーンの上げ下げの乏しさが、悪くはないのですけれどやはりどうしても物足りなさを感じてしまうのです。ミステリではない作品にそんな印象を持たせない作品があるなかで、本書は良作かもしれないけれど秀作とまではいえないのかもしれません。

さて、これが年内最後の更新になります。この一年当ブログにお越しいただきありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎え下さい。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『プラムプディングが慌てている』ジョアン・フルーク ヴィレッジブックス

2017-12-24

☆☆☆

クリスマスを目前に控えた〈クッキー・ジャー〉は大忙し!毎日のクッキー作りに加えて、クリスマスクッキーの注文が殺到。そのうえシーズン限定のテーマパークで売るお菓子の準備に新作クリスマスデザートの依頼まで。そんななか、母がハンナに助けを求めてきた。ノーマンの母キャリーの様子がおかしいらしい。ノーマンにも相談され、マイクからも何やら気になる情報が—。ほうっておけず調べる約束をしたハンナだが、その矢先、今度はテーマパークのオーナーの死体を発見するはめに……。キャリーをめぐる謎、犯人探しに思いがけない人物との再会もあって、さらなる波乱の予感!?大好評シリーズ第12弾! 内容紹介より



ものすごく久しぶりに読んだ〈お菓子探偵ハンナ・スウェンセン〉シリーズ。いつものようにさまざまな種類のクッキーが登場して、登場人物たちの胃袋に入っていきます。相変わらずミステリとしては高いレベルにあるとは言えませんが、総合的にバランス良く上手い具合にまとまっている印象を受けました。クリスマスプレゼントのラッピング、クリスマスツリーの飾り付け、クリスマスの楽曲など、クリスマスというイベントを間近に控えた町の雰囲気や住人の様子が生き生きと伝わってくる感じがしました。何かとイベント頼みのコージーミステリには否定的でしたが、日本ではあまり見られない文化や風習の違いなどの描写を読むと新鮮な感じがして、それはそれでありだなと思うようになりました。そんな喧噪のさなか、クリスマス期間限定のテーマパークのオーナーが自宅で射殺されているのをヒロインが発見してしまいます。調べるうちに被害者が商売上で不正を行っていた疑いが浮かび上がってきたり、過去のスキャンダルが明らかになったりします。また、ヒロインの母親の親友であり、男友達の母親が怪しい行動をとったりしている件も調べることになります。歯科医と刑事、二人の男友達の間にぬくぬくと納まっているヒロインの状態はこれまた代わり映えしません。

ユーザータグ:ジョアン・フルーク




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『裏切りの色』マーシャ・シンプスン ハヤカワ文庫HM

2017-12-23

Tag :

☆☆☆

スクーナー船でアラスカの海を行き来し、荷物を配達する仕事をしているライザは、ある日岬の岩棚に打ち上げられた少年を救った。が、直後にライフルで狙撃され、愛犬が負傷する。その後も船に細工されるなど、彼女の周囲で奇怪な出来事が相次ぎ、ついには少年が何者かに誘拐された。ライザは少年を取り戻すべく捜索を開始するが……タフで自立した女船長の活躍を情感豊かに描いた、アメリカ探偵作家クラブ賞最終候補作。 内容紹介より



冒険小説の色合いが強い作品で、なかでも女性船長が活躍するというあまり見かけない設定がなされています。ヒロインは移動図書館を兼ねている船で、日用品をはじめとしてさまざまな荷物を運んでいる仕事を愛犬とともに行っています。彼女が幼少の頃に母親が失踪し、警官だった夫が殉職してしまう暗い過去を背負っています。彼女は航海中に原住民の少年を助けるとともに射殺された遺体を発見した直後に、何者かに狙撃される事件が降り掛かります。
犯人側からの視点もあるため、彼らの動機と狙いは最初から読者には明らかにされ、また彼らがヒロインの知り合いの中にいることも早々に見当が付きます。読みどころは冒険部分とネイティブアメリカンについての記述になるのですけれど、冒険シーンは船同士の追跡劇銃撃あるいは救出劇などをそろえていてまあまあの出来なのですが、作者がアラスカでの教師時代に地元民から取材した経歴があるにしては、ネイティブアメリカンや彼らの文化に付いての部分は掘り下げていない印象が残りました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ジャックは絞首台に!』レオ・ブルース 教養文庫

2017-12-12

Tag :

☆☆☆

ある朝温泉町で二人の老婦人の絞殺死体が発見された。どちらの死体も両脚を伸ばして横たわり、手には一本のマドンナ・リリーの茎が握られていた。二人の関係を示唆するものはない。老後を静かにおくる老人を狙った精神異常者の犯行か?それとも二人の犯人の共謀か?病後の静養にきていた変わり種の歴史教師キャロラス・ディーンが、絞首台に送るべき“ジャック”を探り出す。 内容紹介より



石切場で発見された被害者の一人は六十三歳、中流の資産家、砂漠の部族に関する著書があり、自家用車を運転する活動的で友人も多い。自宅で発見されたもう一人の被害者は八十歳前、大金持ちの未亡人、元画家のモデル、芸術パトロンを自認し、教会を訪れる以外はほとんど自邸で過ごす。彼女たちは、ともに仰向けに脚を伸ばした姿勢で横たわり、胸にのせた手には一本のマドンナ・リリーを握っていた。二人は同日の夜更けに連続して絞殺されたと見られるが、接点のない被害者を殺す動機は何なのか、精神異常者の犯行なのか、犯人は単独犯なのか、あるいは複数いるのか?という謎に素人探偵が挑みます。
古典探偵小説にたいする諧謔的な言い回しや定番の状況設定(たとえば、ワトスン役の教え子の存在とか古典特有の関係者一同を集めての真犯人指摘)がよく目に付く点、面白くもない奥さんのジョークを聞かせる校長やさまざまな病気持ちで愚痴の多い駐車場管理人、ベジタリアンでヌーディストの退役軍人夫妻 など奇矯な登場人物の造型、これらの軽さを見ると本書はユーモアミステリの意匠が根底にあるのだと思いますが、やり過ぎにようにも思えてややくどい感じが残りました。『ミンコット荘に死す』においては具合が良かった登場人物それぞれのキャラクター設定と巧みな操り方が本書では見られませんでした。

『ミンコット荘に死す』扶桑社ミステリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『凶器の貴公子』ボストン・テラン 文春文庫

2017-12-03

Tag :

☆☆☆

変死した青年の角膜により、視力を取り戻した男デイン。恩義ある青年の死の謎を追いはじめた彼を待つのは悪辣な者どもの潜む陰謀の迷宮だった。死者から光と愛とを引き継ぎ、デインは敢然と死地へと乗り込むが—。『神は銃弾』で「このミステリーがすごい!」を制した天才テランの最新作。雷鳴と銃撃が彩る壮絶な愛の物語。 内容紹介より



仲間とともに資金洗浄に手を染める父親を救うため、連邦捜査官と連絡を取った青年が不審死を遂げ、彼の角膜を移植した主人公が彼の死の謎を探るという話です。
詩情に満ちた内省というか、観念的な想念というべきか、登場人物たちの心の移ろいを作者独特の言葉を操る描写に、物語の中程を過ぎた約300ページでお腹いっぱいになりました。彼らの心理や彼らが見る情景を大仰とも言える言葉によって過飾するというスタイルにげんなりさせられる一方で、読者の解くべき謎は最初から明らかにされ、またストーリー進行は遅々としているために、彼らの感情面に否応なく向き合わされてしまうのです。『音もなく少女は』においてはまったく感じなかった、この言葉のくどさには驚かされたとともに、それぞれのヒロインの立ち位置がジェンダーの観点から見ると、かなり違っているところが興味深かったです。これはギリシャ神話ミノタウロスをメタファーとしているからなのかどうなのか。

『音もなく少女は』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『パーフェクト・ライフ』マイク・スチュアート 創元推理文庫

2017-11-21

Tag :

☆☆☆

始まりは自動車の盗難だった。続いて自宅に何者かが侵入し、受け持っていた女性患者が病室で殺される。精神科医の卵である青年スコット・トーマスを突然襲う事件の数々。自身に不利な状況証拠が積み重なった末、殺人の重要容疑者となったスコットは、真実を白日のもとにさらし汚名をそそぐべく、独力での調査を開始する。幼少時の火災で家族を失った天涯孤独な彼に罪を着せ、執拗に追いつめていくのは誰なのか?そしてその目的は?息を呑む展開の連続が興奮を呼ぶ、期待の精鋭によるサスペンス大作! 上巻内容紹介より



作者自身も真犯人の登場人物も策を凝らして策に溺れた感じです。600ページ近くあるので複雑に錯綜した物語を想像していたのですけれど、なんだか中身が薄いです。現代ミステリにおける、ハッカーという魔法使いを登場させて主人公に殺人犯の濡れ衣を着せるところに新味を出そうとしているのかもしれませんが、素材と料理の仕方が従来どおりのものでは、さほど効果が上がっているとはいえません。悪い王様に仕える悪い魔法使いと闘う騎士みたいなファンタジーの構図を思わせる話であり、老ブルースマンが老師、主人公の弟が妖術師または一癖ある騎士、敵方に奸婦役の看護士も配していますが、精神科医の卵というポイントが何ら有効に働いていない主人公に、まるで魅力がないところが致命的で物語が非常に平凡になってしまった原因なのではないかと思いました。後半部における主人公の弟とハッカーの関係性がよく分からなかったし、さらに看護士がいつのまにかフェードアウトしてしまってるし……。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『エジンバラの古い柩』アランナ・ナイト 創元推理文庫

2017-11-15

Tag :

☆☆☆

1870年夏、エジンバラ城の崖下で男の遺体が発見された。一見、宝石類を狙った泥棒の転落死と思われたが、ファロ警部補は納得できない。義理の息子の新米医師ヴィンスと独自の捜査に乗りだしたところ、現場付近で男性の肖像が描かれた高価なカメオを拾う。さらに警官だった亡父の行李から、40年前に城の壁の中から赤ん坊の遺体を納めた古い柩が発見されたという事件の記録と、現場で発見したものと対のメアリー女王のカメオを見つける。ふたつの宝飾品が示す驚愕の真相とは?歴史ミステリの大家が放つ、英国史を覆しかねない大胆な傑作! 内容紹介より



シリーズ二作目です。
スコットランド女王メアリーの出産にまつわる異聞に材を取った歴史ミステリです。メアリー女王の居城であったエジンバラ城の崖下で見つかった身元不明の男の死体、この事件と三十年前城壁から発見された幼子の遺体が納められた柩とそれに関係した人物たちの不審死がふたつのカメオによって結びつけられていきます。しかも後者の事件を調査していたのが、主人公の殉職した父親だといういわく付きの展開です。事件の真相というのがかなり意外なもので驚きました。しかし、そのスケールに300ページでは尺が足りない気がして、このアイデアならばもっと丁寧細密に膨らませて書き込んでも良かったように思いました。それから、ある秘密を守るために軍人、警官、作業員などが犠牲になっているのですが、なんであまり優秀とは思えない警視が大丈夫で大佐や中尉(メアリー女王に心酔しているという伏線があるけれど)が秘密を守れないという設定に難があってその判断基準が疑問です。また原文かあるいは訳出のせいか、文章にややぎこちない感じを覚えるところもあります。王位継承をめぐる大スキャンダルに発展する事件に偶然かかわり、人生を狂わされた人たちが描かれていて、大作ではないけれどテーマは重いです。

『修道院の第二の殺人』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロックンロール・ウイドー』カール・ハイアセン 文春文庫

2017-11-11

☆☆☆

米ミステリ界最上のユーモアと最強の怪人物造型を誇るベストセラー作家、それがカール・ハイアセンだ。本書がその最新作。大物ロック歌手の変死事件を追い、死亡記事担当に左遷中の敏腕記者ジャックは深まる謎をかき回し、ついでにメディア王の奸計に挑む!気分が冴えない日に最適、石田衣良氏も愛する巨匠の妙技を堪能あれ。 内容紹介より



本書の後に発表された作品が、『復讐はお好き?』『迷惑なんだけど?』『これ誘拐だよね?』になるのですけれど、夫に殺されそうになった妻の復讐譚であったり、家族団らんを邪魔した電話セールスマンにきつい説教を試みたり、アイドル歌手の影武者が誘拐されたりする突拍子もない状況設定が据えられている、それらの三作品に比べるとハイアセンにしては、今回はなんだかおとなしめな印象を感じました。海で溺死した、世間から忘れ去られそうな往年のロックスターの話ですから、業界の奇人変人やそれにまつわるゴシップ(虚実ないまぜに)がわらわらと湧いて出てくるのかと思っていたら、そこら辺りは盛り上がりに欠けていました。主人公の新聞記者は株主総会での発言でオーナーの不興を買い、死亡記事担当へ左遷されてから、自分と同じ年齢で死んだ作家やアーティストの享年にパラノイア気味の強いこだわりを持つという事態に陥っています。そんなところは面白かったけれど、肝心のロックスターの未亡人を始めとして、奇人変人のぶっ飛び方が迫力不足に感じました。

ユーザータグ;カール・ハイアセン





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『幸福の選択』ダニエル・スティール 扶桑社エンターテイメント

2017-11-07

Tag :

☆☆☆

広告代理店に勤めるオリヴァーは、妻のサラと3人の子供たちとニューヨーク郊外の美しい家で、平凡ながらも幸せに暮らしていた。だが、もともと作家志望だったサラはそんな生活に飽き足らず、皆に内緒でハーヴァードの大学院への入学を決め、一人ボストンへ旅立ってしまう。残されたオリヴァーは悲嘆にくれるが、不安定な年頃の子供たちの動揺はさらに大きく、次々と問題がわき起こり……。父として、一家の主として奮闘するオリヴァーの姿を通して、家族の愛情、絆とは何かを探る好評のD・スティール第3弾! 内容紹介より



本来芸術家タイプの妻が家庭的な夫との結婚生活もとで、いつか小説を書こうと思いながら望まなかった妊娠と子育てを経た後に、大学院への入学通知がきたのを契機に、夫の反対を押し切って彼女は家族と別れ自宅から何百㌔も離れた土地で一人暮らしを始めようと決めます。もともと生き方や考え方が異なっていた男女が一緒になって、約二十年後に起きた出来事を原題「Daddy」とあるように夫、父親目線で描いた作品です。女性はこの妻であり母親の行動に共感するところもあるでしょうが、男性は結構反感を覚えるのではないかと思います。それは主人公のキャラクターがたいして欠点が見当たらない理想的な夫であり父親だからでしょう。さらに冒頭の60ページ弱しか妻の内面が語られず共感しにくいところも影響していると思います。彼女に限らず一家の長男の恋人とその母親が利己的に描かれ(描写される割合も非常に少なく)て、女性作家ながら、そういう点はかなり特異な感じがしました。物語は、それまでの主人公と子供たちという父子家庭に起こる問題を描いたものにたいして、350ページをすぎた辺りからはかなり大甘な緩んだものへと転調します。最後にある人物がとった決断は、女性読者からはブーイングが起きそうです。わたしは初ダニエル・スティールなので他の作品のことはまったくわかりませんが、作者は保守的な考え方をする人、いわゆる良妻賢母を支持する人なのでしょうか。いまひとつこの作者の人気の秘密がわかりませんでした。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『愛の棘』クリス・ロジャース 講談社文庫

2017-10-19

Tag :

☆☆☆

保釈中に逃亡した容疑者を捕らえ当局に差し出すのが報奨金ハンターだ。凄腕の女性ハンター・ディキシーは逃亡犯ダンを連れ、猛吹雪の中をテキサスに向かっていた。少女轢き逃げの罪に問われた男の話を聞くうち、事件に不審を感じた彼女は、独自の調査を始めるが……。胸のすくようなロード・ノベル登場! 内容紹介より



1997年に発表された本書は、ジャネット・イヴァノヴィッチのステファニー・プラム・シリーズと同様にバウンティハンターをヒロインに設定しています。ただし、後者の第一作目が発表されたのは1994年です。作品の雰囲気は、毎回奇人変人が登場して騒ぎを起こすドタバタ劇のステファニー・プラム・シリーズにくらべるとおとなし目であり、どちらかといえばローラ・リップマンのテス・モナハン・シリーズに似ているかもしれません。ストーリーは、轢き逃げ事件を起こしたとされる保釈中の容疑者をヒロインが逃亡先で捕まえ、吹雪の中を約二千キロ離れたテキサス州ヒューストンまで護送する話が前半230ページほど、後半は、容疑者の話を聞くうちに事件の経緯に不審を抱いた彼女が彼を自宅に猛犬とともに軟禁して調査を始めると、轢き逃げ被害者の妹が事件後にキャンプ場の湖で溺死していたことを知るという展開です。前半部分だけが、あくまで薄いロード・ノベル風であって、そこら辺りを期待すると残念な気持ちになります。それからヒロインの子ども時代の背景からくるものでしょうけれど、元地方検事補の彼女が事件を児童虐待という視点にのみに偏った決めつけ方をすることに不自然さを感じました。そして、見方にもよりますが、やっぱりヒロインと容疑者のラブロマンスという設定は物語をぬるくする上に、さらに容疑者の男が人柄が良い好人物さらに仕事も優秀と来た日には……。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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