『ミルク殺人と憂鬱な夏』フォルカー・クルプフル ミハイル・コブル ハヤカワ文庫HM

2017-03-23

Tag :

☆☆☆

殺人事件? 俺が住む、片田舎のこの町で? 警部は耳を疑った。殺されたのは、地元の乳製品工場に努める技術者。だが困ったことに、これといった動機も容疑者も浮かばない。事件のカギは被害者の過去にあるのか、あるいはその人間関係に? 警部と部下たちの捜査がようやくたどり着く事件の意外な真相とは……不器用にして恐妻家、要領は悪いが愛すべく中年警部の獅子奮迅の活躍を描きドイツで圧倒的人気の話題作  内容紹介より



質実剛健みたいな堅いイメージがあるドイツ産のミステリのわりには、ユーモア・ミステリのような弛めの雰囲気があって、お国柄と違うはそんなところがドイツ国内でうけているのでしょうか。この警部クルフティンガー・シリーズは8作刊行されているらしく、本書がデビュー作です。ただデビュー作からなのか、主人公の警部以外の主に部下の刑事たちのキャラクターがいまいち確立せずあやふやな感じがしました。また、フィクションを翻訳する経験値の問題なのか、コミカルな場面をはじめとして全体的に訳者の岡本朋子氏の訳出がこなれていないような印象を受けました。これはミステリの内容がそんなことを忘れさせるくらいに面白ければ問題ないのでしょうけれど、警察小説としての出来が際立って良いとは言えないために評価が低くなってしまいました。ただ、真面目でたまにかんしゃくを起こす、名探偵型でないきわめて人間的、家庭的な主人公の造形はかなり魅力を感じさせています。事件自体は入り組んで難度の高いものではなく、テレビドラマ向けのちょっと底の浅いものですから、北欧系の鬱々としたメンタルに来そうなミステリとは別の楽しみ方ができる作品だと思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死者の館に』サラ・スチュアート・テイラー 創元推理文庫

2017-03-15

Tag :

☆☆☆

一人の若者が殺害された。体をおおうのは下着のみで、ネクタイで両腕をベッドの支柱に縛りつけられ、風変わりなブローチをつけていた。それが服喪用装身具だと気づいたクイン刑事は、ハーバード大で教鞭をとるスウィーニーに助力を求めた。ところが死亡した若者はスウィーニーのゼミの生徒で、ボストンの名門パトナム家の一員であることが判明。モーニングジュエリーの出所に興味を覚えたスウィーニーは、被害者の兄に心惹かれつつ調査をはじめる。名門の一族の秘められた過去とは?死と象徴に彩られた芸術史家スウィーニー・シリーズ第二弾。 内容紹介より



シリーズ第一作目の『狡猾なる死神よ』は未読です。
ハーバード大学芸術・建築史学科助教授の肩書きを持つヒロインには、もっとアカデミック寄りのエキセントリックな造形を期待していたのに、それらしい強烈な個性が見られなかったのは物足りませんでした。英国ビクトリア朝にさかのぼる、死を受け入れ死者を身近に感じるための装具についての歴史や風俗についての講釈は興味深かったのですけれど、それ以上の学術的面白みに繋がらなかったのも残念なところであり、ヒロインの人物としての面白みが希薄な点も目につきました。ヒロインの行動パターンは伝統のナンシー・ドルーを彷彿とさせ、ミステリの骨格は米国人が大好物の名門一家のスキャンダルやゴシップに基づいています。つまりは歴史的装具とか墓石の意匠などの被いを物語から取り去るなら、そこにあるのはあまり代り映えしない基本形なのです。しかもラブロマンスの味付けもしてあるという念の入れようですので、事件の真相が明らかになった時点で、その真相とそれまでに芸術史に関連して語られ、読者を誘導してきた事との差にやや飽きれ気味になってしまったのでした。とりあえずミステリ部分が脆弱で、また、刑事の妻の身に起きた出来事のストーリーに対する必要性が理解できません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『原始の骨』アーロン・エルキンズ ハヤカワ文庫HM

2017-03-10

☆☆☆

ネアンデルタール人と現世人類の混血を示唆する太古の骨—この大発見の五周年記念行事に参加すべく骨の発掘されたジブラルタルを訪れたギデオン。だが喜ばしい記念行事の影には発掘現場での死亡事故をはじめ、不審な気配が漂っていた。彼自身まであわや事故死しかけ、発見に貢献した富豪が自室で焼死するに至り、ギデオンは疑いを深めるが……。一片の骨から先史時代と現代にまたがる謎を解く、スケルトン探偵の名推理 内容紹介より



今回は嫁のジュリーも同行して、久々にこれぞトラベルミステリという趣がする作品で、小さい土地ながらヨーロッパのなかでアフリカ大陸に最も近い位置を占め、古代からの要衝の地であり、現在はイギリス領土となっている、様々な文化が入り交じったエキゾチックな雰囲気を醸し出すジブラルタルを舞台にしています。『われらが英雄スクラッフィ』に登場した野生猿も取り上げられていて、描かれているその姿が愉快です。そのジブラルタルにある遺跡で発掘された子供の遺骨が、ネアンデルタールとホモ・サピエンスが交配した証拠になるものではないか、との議論を呼んだ過去の大発見の現場を訪れた主人公に降り掛かる奇妙な出来事と遺跡のある洞窟の崩落事故で亡くなった女性考古学者、自宅で焼死した遺跡発掘のスポンサーである素人考古学者、これらの不審死。発掘作業でブラシや刷毛によって古代の遺骨が徐々に姿形を現わしていくように、大発見にまつわる隠された真実がギデオンの手によって明らかにされていきます。

ユーザータグ:アーロン・エルキンズ





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『みんな行ってしまう』マイケル・マーシャル・スミス 創元SF文庫

2017-02-03

Tag : 短編集 ホラー SF

☆☆☆

『スペアーズ』『ワン・オヴ・アス』で知られる鬼才作家M・M・スミスが贈る、哀感と郷愁に満ちたSFホラー傑作集。小品ながら忘れがたい味わいを残す表題作を巻頭に、奇跡の医療用ナノテクがもたらした人類の意外な終末「地獄はみずから大きくなった」、田舎町に暮らす不思議な絵描きを巻き込んだ事件を描く英国幻想文学大賞受賞作「猫を描いた男」、近未来の巨大ハイテク・テーマパーク兼養老院での奇怪な冒険劇「ワンダー・ワールドの驚異」まで12編を厳選して収録。 内容紹介より



「みんな行ってしまう」「地獄はみずから大きくなった」「あとで」「猫を描いた男」「バックアップ・ファイル」「死よりも苦く」「ダイエット地獄」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」「いつも」「ワンダー・ワールドの驚異」

子供が成長して大人になっていく過程で少しずつ失っていったもの、消えていったもの、無くしたものを少年の形にして表した、ブラッドベリ風な感傷性をもった物悲しい作品「みんな行ってしまう」。ナノテクに医療科学を組み合わせた最先端医療用ソフトとハードウェアを開発しようとした三人組。その中のひとりが研究中に亡くなったため、研究目的はまったく違った方向へ向かってしまう。医学と心霊の取り合わせが、この作品においては木に竹を接いだみたいな心地悪さを感じさせる「地獄はみずから大きくなった」。交通事故で突然に愛妻を失った夫のとった行動は……。愛さえあれば奇跡が起き、愛ゆえに何ごとも成し遂げられる、ということでしょうか。これまでのホラー作品を一歩進めたような物語「あとで」。夫による家庭内暴力から妻や子供が逃れてくる場面が、三回繰り返されるところがワンパターン気味に感じられました。全体的に振り切れていない、詰めが甘い印象が残った「猫を描いた男」。幸せの頂点と感じられる瞬間をバックアップして、なにか不都合が生じたときにバックアップした時点へ戻ることができるサービスを受けていた男。妻子を事故で亡くした時、彼は過去に戻ろうとするが……、「あとで」の流れを汲んでいる話ですけれど、かなり苦い結末が待っている「バックアップ・ファイル」。「死よりも苦く」「家主」「見知らぬ旧知」「闇の国」、これらは心の影の部分をテーマにした作品ですが、それゆえに少々インパクトがなく、全体的に平板な感じがしました。「闇の国」は、実際に見た、ただ厭な夢を物語に仕立てただけのような。これまでのサイズのジーンズが履けなくなった男が、ダイエットも運動もくそくらえと思って、タイムマシンを作り昔の体形を取り戻そうとする、おバカSFの「ダイエット地獄」。母親を亡くした娘に父親がクリスマスプレゼントとにラッピングした贈り物。センチメンタルな「いつも」。テーマパーク内に設けられた老人向けの住居で犯行を重ねる殺し屋。依頼を受けた彼は、ターゲットの老女が暮らす屋敷に入り込むのだが。テーマパークが帯びる狂気、奇妙さを描いた「ワンダー・ワールドの驚異」。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『悪魔は夜はばたく』ディーン・R・クーンツ 創元推理文庫

2017-01-25

Tag : ホラー

☆☆☆

「メアリー・バーゲンか……」男は虫の息でうめき、口から噴き出す血がパトカーの窓ガラスを染める。透視能力者メアリーに追いつめられた殺人犯が、いま警察の手で射殺された。だが、男はなぜ彼女の名を呼んだのか?それは新たな大量殺人の前兆にすぎなかった!その夜からメアリーはさらに凄惨な殺人現場の幻視に見舞われるばかりか、ポルターガイストにまで襲われる。しかし、そのときはまだ知るよしもなかった……この事件が彼女自身の忌まわしい過去さえもよみがえらせることになろうとは!霊能者と連続殺人鬼の対決を描き、ベストセラー作家の原点となった傑作ホラー。これを読まなければクーンツは語れない! 内容紹介より



1977年に発表された本作品は、巻末の創元推理文庫編集部編 ディーン・クーンツ著作リストによると、フィクションでは37作目にあたるようで、三橋暁氏の解説によれば著者の出世作といえるそうです。霊能力者のヒロインを核にしてホラーとミステリを融合させた物語で、殺人事件を事前に察知できる能力を持ったヒロインが警察に協力して連続殺人犯を追います。しかし、その過程で彼女の透視能力を妨げようとするかのように、これまでにないほどひどい惨劇のイメージが浮かんだり、彼女を狙ったポルターガイスト現象が起きたりします。そのようなモダンホラーの部分はかなり上手く効果的に仕上がっていると思うのですけれど、ミステリ部分では、真犯人の正体が早々に見当が付くにもかかわらず読者の目をそらすような工夫はなく、わざとらしいこれ見よがしなミスリードだけが目につく印象が残りました。ただ、クーンツの創作人生を方向付けた指針、あるいは転換点となるような作品と言われれば、なるほどそうなのだという感じは受けました。

ユーザータグ:ホラー
ディーン・クーンツ




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『恐怖の愉しみ 下』デ・ラ・メア 他 創元推理文庫

2017-01-19

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

怪談は語り口がすべてである。そしてその醍醐味は短編にあるといっても過言ではない。本書は、幽霊怪談の嚆矢ともいうべきデフォーの『ミセス・ヴィールの幽霊』を頭に,レ・ファニュ、E・F・ベンスン、デ・ラ・メア、A・E・コッパード、ヒュー・ウォウポール、そしてW・W・ジェイコブズら総勢二十四人の手練による〈百物語〉の真打ちである。英米の会談を訳しては名匠とうたわれた平井呈一が、みずから選び抜き、腕に縒りをかけて訳出した名品の数々。まさに恐怖の愉しみを味わうには絶好の書! 下巻内容紹介より



「失踪」ウォルター・デ・ラ・メア、「色絵の皿」マージョリ・ボーエン、「壁画のなかの顔」アーノルド・スミス、「一対の手—ある老嬢の怪談—」アーサー・キラ=クーチ、「徴税所」W・W・ジェイコブズ、「角店」シンシア・アスキス、「誰が呼んだ?」ジェイムズ・レイヴァー、「二人提督」ジョン・メトカーフ、「シャーロットの鏡」ロバート・H・ベンスン、「ジャーミン街奇譚」A・J・アラン、「幽霊駅馬車」アメリア・B・エドワーズ、「南西の部屋」メアリ・E・ウィルキンズ=フリーマン。
下巻には以上の十二編が収録されています。


「失踪」幽霊も悪魔も骸骨も出て来ない話、結局人間の所業がそんなものよりも恐ろしいということなのでしょうか。デブで大柄な幽霊という見た目が可笑しいし、実は性別も……なのですが、趣味の品物に執着して孤独を紛らわせる姿に哀れさを感じる「色絵の皿」。悪魔、魔物封印系の話壁画のなかの顔」。幼くして亡くなったこどもの幽霊、生前暮らした屋敷から離れられず、移り住んでくる住人を選べない、いたいけな幽霊の「一対の手—ある老嬢の怪談—」。死を呼ぶ幽霊屋敷に肝試しで一夜を過ごそうとする四人の男たちに起きた恐怖体験談「徴税所」。偶然見かけた骨董品店で、安く買い求めた品が非常に高価なものだと知った客の男は、オークションで手に入った売上金の半分を返金しようと再度店を訪れるが……、「角店」。ショートショートホラーの「誰が呼んだ?」。不思議な味わいの「二人提督」。十三人の神父が語る奇譚三編が収められている「シャーロットの鏡」。差出人の名前のない、芝居の切符を受け取った男が体験したへんてこな話「ジャーミン街奇譚」。道に迷った男が乗り合わせた乗り合い馬車は「幽霊駅馬車」。下宿人をおいている屋敷を切り盛りする姉妹、亡くなった叔母の使っていた部屋で起きる気味の悪い現象を描いた「南西の部屋」。
収録作品はバラエティの富んでいるため、読んでいて飽きません。『淑やかな悪夢 英米女流怪談集』『怪奇礼讃』にも作品が収められている作家が目につきました。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『M・R・ジェイムズ傑作集』M・R・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-01-16

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆

M・R・ジェイムズの怪奇小説は古典的であり、その恐怖と戦慄の盛り上がりは、まさに「怪談」の名をほしいままにしているといえよう。彼の生み出す妖魔たちは、読者にもその気味の悪い手をふれてきそうなほどなまなましい。古い銅版画の中で妖怪が動きまわるという奇怪な作品「銅版画」、あるはずのない十三号室が実は存在するという「十三号室」などをはじめ、迷路をテーマに悪夢のような世界を描きだした特異な作品「ハンフリーズ氏とその遺産」を含む17編を収録。 内容紹介より



「消えた心臓」「銅版画」「秦皮(とねりこ)の木」「十三号室」「マグナス伯爵」「笛吹かば現われん」「縛り首の丘」「人を呪わば」「ハンフリーズ氏とその遺産」「ウィットミンスター寺院の僧坊」「寺院史夜話」「呪われた人形の家」「猟奇への戒め」「一夕の団欒」「ある男がお墓のそばに住んでいました」「鼠」「公園夜景」

収録作品は、黒魔術、秘儀、魔法といったものにはまった人物が起こした事件、または彼らが遺した品物が起こす出来事を元にした話を伝聞形式で表したものが多いように思います。読む前にはおどろおどろしい様式美を帯びたゴシックホラーをイメージしていたのですけれど、意外にも実際には軽口をまじえるところがあって、予想していたより重々しく感じなかった印象でした。作品は良い意味でベーシックな怪談であり、行間から血液体液や肉片が飛び散るみたいなスプラッターやモダンホラーとは正反対に位置しています。
有名な「銅版画」は、画のなかの気味の悪い何者かが動き回って、ある事件を再現する話。「呪われた人形の家」も同様に、ある一家に起きた凄惨な事件がドールハウスで再現されるという話。過去を映しだす望遠鏡の「縛り首の丘」。「秦皮(とねりこ)の木」は、魔女裁判にかかわった地元の名士が魔女に呪いをかけられ、一家の跡継ぎが奇妙な死に方をするのですが、とねりこの木に巣食う生き物が非常に無気味です。存在するはずのない部屋が出現する「十三号室」に宿泊するものは……。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『怪奇礼讃』E・F・ベンスン/A・ブラックウッド 他 創元推理文庫

2016-12-28

☆☆☆

本書は怪奇小説のアンソロジーである。19世紀末から20世紀前半にかけての、英国の古風な、それでいて少しひねくれた、変わった味の作品を中心にまとめたものである。不思議な話、変な話、謎めいた話、そしてなおかつ怖い話を……。ベンスン、ダンセイニ,ブラックウッドをはじめ、怪談通を唸らせるウェイクフィールド、ボウエン、バレイジ、奇妙な味わいのマクダーミッドやトマス、怪奇にユーモアをしのばせたベアリング=グールドやアラン、そして極めつきの恐怖譚、ベリスフォード「のど斬り農場」……巨匠の名品から知られざる作家の幻の逸品まで、本邦初訳作を中心に22編を厳選。古雅にして多彩な怪奇小説をご賞味あれ。 内容紹介より



収録作品、
「塔」マーガニタ・ラスキ、「失われた子供たちの谷」ウィリアム・ホープ・ホジスン、「よそ者」ヒュー・マクダーミッド、「跫音(あしおと)」E・F・ベンスン、「ばあやの話」H・R・ウェイクフィールド、「祖父さんの家で」ダイラン・トマス、「メアリー・アンセル」マーティン・アームストロング、「「悪魔の館」奇譚」ローザ・マルホランド、「谷間の幽霊」ロード・ダンセイニ、「囁く者」アルジャナン・ブラックウッド、「地獄への旅」ジェイムズ・ホック、「二時半ちょうどに」マージョリー・ボウエン、「今日と明日のはざまで」A・M・バレイジ、「髪」A・J・アラン、「溺れた婦人」エイドリアン・アリントン、「「ジョン・グラドウィンが言うには」」オリヴァー・オニオンズ、「死は素敵な別れ」S・ベアリング=グールド、「昔馴染みの島」メアリ・エリザベス・ブラッドン、「オリヴァー・カーマイクル氏」エイミアス・ノースコート、「死は共に在り」メアリ・コルモングダリー、「ある幽霊の回顧録」G・W・ストーニア、「のど斬り農場」J・D・ベリスフォード。

ミステリーソーンやトワイライトゾーン系の話が好きな方にはお勧めしたい、ホラーに偏らない一風変わった作品が収録された短篇集です。以下、主な作品の感想です。

出征した婚約者が戦死し、宿泊所を兼ねたパブの主人と結婚した女性。日常生活を淡々と過ごす彼女の唯一の心の癒しは、海に面する丘に登って最愛の婚約者の幽霊と過ごすこと。彼女の痛切なある願いが、宿泊客の一言で叶えられる。とても哀切漂う作品「メアリー・アンセル」。
アレクサンドリアで商売をする英国人の主人公は、金のこととなると非常に冷酷になる人物。借金のかたに店兼住居を取り上げ、貧しい一家を立ち退かせるが、その家族のなかの老婆が彼にむかって呪文を唱えると、その夜から歩く彼の後から足音が聴こえるようになり、彼を悩ませる。オチが日本の怪談話のような「跫音」。
物乞いに呪いをかけられた雑貨店の店主。店の窓の外で繰り広げられるミステリーゾーンみたいな時の錯綜劇「今日と明日のはざまで」。
未来で起きた事故あるいは事件によって幽霊になった考えられる女性の亡霊が現代に現れる話。かなり奇抜な着想が面白いし、女性の身に何が起きたのかを考えると恐い「溺れた婦人」。
「塔」は、廃墟と化した村に残された「犧の塔(四百七十階段)」と呼ばれる建築物。そこを訪れた新妻の無気味な体験。こういう怪談話の場合は、地下墓地に降りていく話が多いと思うのですが、この作品は登って降りてくる話です。でも、降りても降りても……。
「死は素敵な別れ」は、面白みのない、謹厳なプロテスタントの妻にうんざりしていた夫が、その妻が亡くなったため若い女性と結婚しようとする。それを快く思わない妻の幽霊が夫の邪魔をするというホラーコメディ。婚約者との結婚を諦めようと彼が訳を話すと、実は婚約者にも幽霊が取り憑いているというのだった。メイ・シンクレアの「証拠の性質」も似たような設定でした。同じくホラーとコメディが融合した「のど斬り農場」。
シオドア・スタージョンの「それ」のように、太古から地球に存在する得体の知れないもの。それと接触し、無情を感じさせる「谷間の幽霊」、知識、知恵、芸術、宗教、思想が書物を通してそれに浸透し、来る者に囁きかける「囁く者」、それが実体化して人間界に潜み、接触した一部の人間に悪を感じさせる「よそ者」、善悪に別れた二つのそれ(魂)が巡り会って、善が悪によって攻撃される「オリヴァー・カーマイクル氏」。
事故死したばかりの老人の過去がよみがえる「「ジョン・グラドウィンが言うには」」、 バスに轢かれた男が数年間の幽霊としての日常と意見を語る「ある幽霊の回顧録」、生者と生前彼と親しかった死者たちがある孤島で巡り会う、せつない「昔馴染みの島」。

今年最後の更新になります。当最果ての孤島ブログを訪れて頂いた皆様、誠にありがとうございます。どうぞ良いお年をお迎え下さい。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『サンタクロースにご用心』 シャーロット・マクラウド編 扶桑社ミステリー

2016-12-25

☆☆☆

聖なる夜に人はみな、心静かに己れの罪を悔い改め—というわけにいかないのが世のならい。大学構内で出回った贋札造りの犯人探しに奔走するシャンディ教授。いきのいい女探偵のオフィスにころがりこむ死体。クリスマス劇の天使が射殺される一方で、二人の娘とその貧乏亭主に遺産めあてに殺されてしまうと疑心暗鬼の父親。ましてや妻殺しを計画する夫にいたっては……。はらはらさせたり、泣かせたり、一転絶妙なコンゲーム。趣向をこらした書き下ろしのクリスマスミステリーが13編。イヴの夜、とびきりのプレゼント! 内容紹介より



収録作品、「贋札造りのクリスマス」シャーロット・マクラウド、「鹿狩り」レジナルド・ヒル、「私立探偵リズ・ピーターズ」エリザベス・ピーターズ、「赤い髪の天使」メードラ・セール、「もつれた糸をほどくには」ジョン・マルコム、「バーゲン品につき……」ドロシー・キャネル、「サンタクロースにご用心」ビル・クライダー、「ファミリー・クリスマス」パトリシア・モイーズ、「ミス・メルヴィルの好運」イーヴリン・スミス、「俺たちの福音」エリック・ライト、「ニックが街にやってくる」ミッキー・フリードマン、「イヴの罠」ロバート・バーナード、「鍋いっぱいのササゲ豆」マーガレット・マロン

サブタイトルは、「クリスマス13の物語」です。
全編書き下ろしですから、それぞれ出来不出来があります。「鍋いっぱいのササゲ豆」は、ミステリとして大事件が起きるわけではありませんが、万引き常習者である黒人女性の人柄や人間性を良く表して人生の機微を描いたほろりとさせる良作です。また、「バーゲン品につき……」も、想い出のティーポットを割ってしまった女性が、バーゲンセールで一個しかない同じポットを手に入れるために前夜からデパートに忍び込んでしまうというちょっとした人情話。舞台は同じデパートでも「サンタクロースにご用心」は、万引き被害に悩む地元のデパートにサンタの扮装をして子どもたちの願いを聞きながら犯人探しをする話。細部に気が利いていると感じた「俺たちの福音」は、自分たちを警察に密告した酒場の店主を救世軍を装って、面子をつぶして金もだまし取ろうとする話。「サンタなんか大嫌いだっ!」という手紙をある子どもから貰ったサンタクロースが、探偵となって宝石窃盗事件を解決する「ニックが街にやってくる」。クリスマス劇に代役として出演していた天使役の女性が劇中に射殺されてしまう「赤い髪の天使」。“赤い髪”といえば、あの有名な名探偵が活躍する作品を思い浮かべますが、「鹿狩り」は、その名作のモチーフを使ったみたいな話です。しかし、レジナルド・ヒルらしさは感じらず、いかに元ネタが優れているかがわかります。大学構内のクリスマス期間中の夜店で使われた、大学学長を肖像画に替えた贋札造りの犯人を追うシャンディ教授が懐かしい「贋札造りのクリスマス」。これまた懐かしいミス・メルヴィルが元独裁者を暗殺しようとする「ミス・メルヴィルの好運」。クリスマスプレゼントに爆弾を仕掛けて妻殺しを企む内務省の高官の話「イヴの罠」。「ファミリー・クリスマス」は、遺産目当てに娘夫婦がクリスマスディナーの中に毒を盛るのではないかと心配する、スクルージみたいな吝嗇家の夫を気遣った妻がやった余計なこと。人を殺そうとするには不意打ちに限る、ということを再確認できる「もつれた糸をほどくには」。ハードボイルド物のパロディなのか 特大ハーシーチョコ三枚をいっぺんに食べてもへっちゃらな女探偵がどうでもいいような活躍を見せる「私立探偵リズ・ピーターズ」。

ユーザータグ:クリスマス・ストーリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『今宵は浮かれて』アリサ・クレイグ 創元推理文庫

2016-12-22

Tag :

☆☆☆

四日間のクリスマス休暇を得たマドックは、ふとした成り行きから、コンドリック一族のクリスマス・パーティに参加することになった。かたわらには婚約者のジェネット。ワッセル酒が振舞われ、ユールログは火と燃え—シャルール湾に望む広大なお屋敷で宴はにぎやかに進んでいったが、そんな浮かれ騒ぎに冷水を浴びせるように、一つの死体が発見される。これは自然死?いや、入歯が紛失してその二、三時間後に、その所有者が死亡するなどという偶然があるはずがない……。ユーモアと謎解きの妙味が味わえる、マドック&ジェネット第二弾! 内容紹介より



シリーズ一作目の『殺人を一パイント』の内容はまったく覚えていません。ジェネットがもう少し謎解きの中心になってたような気がしますが、本作では彼女の婚約者マドックが主要な役割を果たしています。ヘリコプターも登場するため、年代設定は作品が発表された1981年と同じくらいなのでしょうけれど、この主人公たちの恋愛に関するおりこうさん振りは、一時代前の人間の道徳観みたいで妙な感じも受けてしまいました。こういう品行方正な造形も主人公たちのイメージがインパクトに欠けている要因の一つなのは否めません。さらにマドックがどうしてそれほど他殺だと確信できるのかも、明確な証拠の提示がされていないためにふに落ちませんでした。そして子ども騙しのような、犯人を自白させるための企てといい、すべてが緩い雰囲気に仕上がっています。家族間の確執を人間模様として描いてあれば良かったのでしょうが、クリスマス・パーティ、クローズドサークル気味な舞台設定、幽霊船の出現などミステリの道具立ては整っているのに、表面を撫でただけみたいな少々残念な作品でした。

『殺人を一パイント



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黒い玉』トーマス・オーウェン 東京創元社

2016-12-16

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆

夕暮れどきの宿で、彼がつけた明かりに驚いたかのように椅子の下へ跳び込んだそれは、かぼそい息づかいと黄楊の匂いを感じさせる奇妙な“黒い玉”。その正体を探ろうと、そこを覗き込んだ彼を待ち受けるのは、底知れぬ恐怖とおぞましい運命だった―。ベルギーの幻想派作家トーマス・オーウェンが描く、ありふれた日常に潜む深い闇。怖い話、気味の悪い話など十四の物語を収録。 文庫版内容紹介より



収録作品
「雨の中の娘」「公園」「亡霊への憐れみ」「父と娘」「売り別荘」「鉄格子の門」「バビロン博士の来訪」「黒い玉」「蝋人形」「旅の男」「謎の情報提供者」「染み」「変容」「鼠のカヴァール」

幻想奇譚系の短篇集です。単行本に付いている帯の惹句には「傑作「黒い玉」を読まずに怖いと言うなかれ……あえておすすめします。夜、ひとりでお読みになることを。」、とあったので、恐がりなわたしは、あえて昼間にひとりで読みました。「黒い玉」は「変容」と同様に“変身”系のお話で大人の男性が異様な姿形に変わってしまう、かなりシュールな作品です。また、「父と娘」も変身ものですが、侮蔑語で使うビッチと雌犬をあまりにもストレートに結びつけた話。一方、ロールシャッハ・カードのような模様を作り出す遊びのなかで、奇態な生き物を出現させてしまった「染み」。旅行中に偶然見つけたカタコンベ。その棺のひとつを開けて中を覗いた男の婚姻話「亡霊へ憐れみ」。死んだ女性と気づかずに交流してしまう、あるいは愛してしまう「雨の中の娘」と「鉄格子の門」、そしてその別バージョンである「旅の男」。「バビロン博士の来訪」は、自宅で起きる怪異な音に怯えた男が夜中に家の前の路上で出会った人物の話。物への執着を描いた「蝋人形」と「鼠のカヴァール」。妻の知らない姿を知らされた夫に芽生えた疑惑が妄執へ発展する、心の闇を描いた「謎の情報提供者」。目先を変えた、ホラーとユーモアが混ざった佳作「売り別荘」。恐怖が行動を凶行にエスカレートさせる「公園」。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『弱気な死人』ドナルド・E・ウェストレイク ヴィレッジブックス

2016-12-10

Tag :

☆☆☆

とにかく金がない!— 贅沢を望んでいるわけでも、湯水のごとく金を使ったわけでもないのに、とうとうバリーはにっちもさっちもいかなくなってしまった。困り果てた末に思い出したのは保険金のこと。調べてみると、解約金はおりないけれど、事故死すれば倍額支払われるという。こうなったら死ぬしかない、とバリーは妻ローラとその兄の助けを借りて、ローラの生まれ故郷、南米のとある小国でみずからの死を演出することに。最初はとんとん拍子に悪巧みが進むかに見えたのだが、予想外の出来事が次々起きて、計画は次第にほころびはじめ……。ミステリー界の巨匠による迷(?)作。解説:木村二郎。 内容紹介より



ウェストレイクのユーモアミステリというと、もっとスラップスティック色の強い作品のイメージがあったのですけれど、全体に抑制が利いている印象が残りました。はちゃめちゃがあまりに強いストーリーは個人的には苦手なので、これはこれで良いのですが若干拍子抜けしました。警察や行政機関の仕事ぶりがそれほどきちんとしているわけでもなく、親兄弟親戚一同が面倒を見たり、助け合う風潮の人間関係が緊密な中南米を舞台にしているところが、この作品の要なのでしょう。血縁という理由だけで、義兄や金持ちの親戚が主人公夫婦の悪巧みに深く協力する一方、親族同士でも貧富の差が存在するために、主人公夫婦が手に入れようとする保険金を横取りしようする従兄たちも出てきて一騒動が起きます。そこに一癖ありそうな警部や有能な保険調査員が主人公につきまとい窮地に陥れます。どこか飛び抜けた作品というわけではありませんが、快調で軽妙に素人による詐欺事件が描かれているし、アメリカ人が抱く中南米の国と人へのステレオタイプなイメージを軽く揶揄しているようにも感じました。

『逃げだした秘宝』ハヤカワ文庫
『悪党パーカー/エンジェル』 リチャード・スターク ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『結婚は殺人の現場』エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫

2016-12-07

Tag :

☆☆☆

南フロリダで相変わらずの崖っぷち生活を送るわれらがヘレン・ホーソーン、新たな職はブライダルサロンの店員。ちょっぴり時給はあがったものの、厄介な花嫁や同じくらい厄介なその親族に囲まれ、神経をすり減らす毎日だ。そんな顧客の中でも極めつけのお騒がせ人物だった花嫁の母キキが、ようやく漕ぎつけた挙式当日に殺されてしまう。しかもヘレンが第一発見者とあって、いつも以上に警察の追求が厳しい。いっぽうプライベートでも、順風満帆だった恋人フィルとの仲に、思わぬトラブルが出現して……。転職ミステリ、お待たせしましたの第四弾。 内容紹介より



コージーものとしては珍しい、人生の悲哀と言うか、しんみりとした感じを抱かせる本シリーズですけれど、今回はブライダルサロンが舞台です。来店するお客たちの誰もかれもが幸せ満々というわけではなく、ステップアップのために上司の娘と結婚しようと目論む花婿や世間体を考えて見栄えが良く出世しそうな男と結婚しようとする花嫁というありそうなものから、母親の言いなりになって好みのウェディングドレスも選べない花嫁、娘の結婚式に花嫁以上に目立ちたがりな母親、富をひけらがしたいがための花婿、彼ら彼女らは何時間もかけて高価なドレスを選ぶのです。しかし、「こんなにたくさんお金をかけて、こんなに一生懸命に計画を練っても、目の前を通り過ぎていく結婚の半分は失敗に終わる。わたしのように。」(p314)、とヒロインは嘆くし、「お母さんは失われた若さを取り戻そうと必死だし、(略)花嫁は花嫁ですっかりすっかりおかしくなっちゃってるし、別人格になるわ」(p316)とサロンのオーナーは語ります。人生のとって大きな節目の大事なイベントなのに、親も娘もその相手もそれぞれに思惑を抱え、端から見たらどたばた劇にしか思えませんが、そこに哀れみを挿むところが本書の魅力だと思います。

『死ぬまでお買物』
『死体にもカバーを』
『おかけになった犯行は』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『E・S・ガードナーへの手紙』スーザン・カンデル 創元推理文庫

2016-12-04

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☆☆☆

シシー・カルーソー。元ミス・コン優勝者。離婚歴あり。娘ひとり。ヴィンテージファッション・フリーク。職業はライター。ミステリ作家の伝記が専門で、現在はペリー・メイスンの生みの親E・S・ガードナー伝を執筆中だ。ある日、彼女は弁護士だったガードナーの資料中から、妻殺しの罪で投獄された男の冤罪を訴える手紙を発見した。そこにはガードナーによる「要追跡調査」というメモが残っていた。しかし彼は45年後の今も囚人として生きていた。ガードナーの素顔を求めて彼への面会を決めたシシーは過去の殺人事件の真相に迫ることに……。 内容紹介より



ミステリ作家専門の伝記ライターというニッチな職業を主人公に設定したことの利点は、対象とするミステリ作家やその作品についての裏話などのうんちくを作中で語れることでしょう。本書ではE・S・ガードナーを取り上げるという、なかなか目の付けどころの良い人選をしています。そしてE・S・ガードナーと今回の事件を結びつける鍵は45年前に出された手紙ということで読者の興味をそそります。ヒロインはガードナー伝の取材と資料集めのかたわら、無罪を主張する服役中の夫のために調査に奔走するというストーリーで進展します。
この本筋に主人公の娘夫婦の離婚騒動やら彼女自身のロマンスやらを絡めてくるところはコージー色っぽく、ヴィンテージファッションの話題は興味がない人間には煩わしく感じました。ミステリとしては、実際にガードナーが、冤罪の疑いのある事件を調査と再審請求をする活動を行った「最後の法廷」活動と今回の事件をうまくリンクさせて、被害者と容疑者たちの過去を掘り起こす過程を描き、被害者はどういう人物だったのか、どうして夫は事件当日のアリバイを明らかにしなかったのか、という謎を解いていきます。真相の回りくどさはあるものの、意外な動機が明らかにされています。

『少女探偵の肖像』





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベルの死』ジョルジュ・シムノン ハヤカワ・ミステリ

2016-11-22

☆☆☆

美しいベルを殺したのはだれか?すくなくともスペンサーではなかった。昨夜,ベルが映画から帰ってきて挨拶しに顔を見せたとき、彼は趣味の轆轤まわしに夢中になっていた。ベルの顔は思いなしか悲し気に蒼ざめていたような気もするが、元来彼女はこの家の家族ではなかったので、大して気にもとめず、再び仕事に没頭していったのだ。スペンサーではなかった……。が,警察も医師も妻さえもが彼を疑っていた。証拠も彼にとって不利だった。ベルをごく普通の若い娘だと思っていたスペンサーは知らなかったが、ベルには何人もの男友達がおり、しかも殺された晩にはしたたかに酒を飲んでいたという。スペンサーにはびっくりすることばかりだった。そして、とんできたベルの母親の言葉。「穢したいという欲望さ……」次第にスペンサーの内に、ある考えが頭をもたげてきた。現代人の心の底に隠された自分にさえ見定められない秘密。ベルという一少女の死をきっかけに、一人の中年男の心の謎がときあかされていくさまを鮮やかに描く。 内容紹介より



知人から預かっていた娘が自宅で殺害された事件を契機に、平凡な教師が辿る心の揺れを克明に描いたサスペンスで、普通の謎解き小説ではありませんでした。主人公の思考は犯人は誰なのか、ということより彼自身の胸中へと向かっていきます。それは努めて目をそらしていた心の奥底の己自身を否応なく見据えること、彼が若い頃に、酒で身を持ち崩して自殺した父親の記憶とその同じ道を辿るのではないかという恐れ、それと相反する酒場に惹かれる気持ち。妻を母親の姿と重ねているのではないかという思いと、妻と違った女性への憧憬。彼が考えていた至って普通の娘と思っていたのとはまったく違っていたベルの知られざる姿がそういう想いに拍車をかける。そして主人公へ疑惑の目を向ける捜査関係者や知人たち。モノローグを主体にした心理描写が多いのと派手な展開に至らない地味なストーリーですけれど、刻々と迫ってくるような緊迫感と落としどころの見えない不安感があります。

ユーザータグ:ジョルジュ・シムノン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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