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『邪魔な役者は消えていく』サイモン・ブレット 角川文庫

2019-08-17

Tag :

☆☆☆

チャールズ・パリス、47歳。アル中気味の売れない役者である。彼が女優ジャッキの、冷たくなった愛人との仲を取りもってくれという頼みを引きうけたのは、最近ひまなせいもあった。ジャッキは彼に、数枚のいかがわしい写真を託した。彼女が買いとった脅迫写真である。それを渡して彼を安心させようにも、電話にも出ないという。引き受けたものの相手は難物だった。彼女の愛人とは、英国興行界の大ボス、マイルズ・スティーンなのだ。パリスは役者の特技、扮装・声色・演技力を動員して、マイルズへの接近を図った。だがその居場所さえつかめない。意を決してマイルズの別荘へ忍びこんだ彼は、大事件への発展を予想させる恐るべき発見につき当った…。 内容紹介より



本書は俳優探偵チャールズ・パリス=シリーズの第一作目にあたります。主人公の妻のフランシスとは別居中、娘のジュリエットには退屈な夫がおり、旧友で金儲けが趣味である弁護士ジェラルド、このような設定はすでに確立しています。本書では、第三作や四作目には(たぶん)見られなかった、ルパン並みに変装して聞き込みをするシーンがあって、役者探偵らしさを感じさせます。犯行動機にもなかなかの捻りが加えてあって意外性がありました。個人的に地味に可笑しいのは、主人公がかつて出演した各演劇(演技)にたいするメディアによる劇評が小さなコメントとして折に触れて記され、それが結構辛口だったりするところです。殺人事件や誘拐事件が発生し、主人公自身も銃撃されたりするのですけれど全体的にはこじんまりしたユーモアミステリの印象です。ただ、これが英国風なのかお色気シーンがなまなましく感じました。

『スターは罠にご用心』
『殺しの演出教えます』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『警視の覚悟』デボラ・クロンビー 講談社文庫

2019-08-14

Tag :

☆☆☆

亡き元妻と住んでいた息子・キットの親権も得て、警視キンケイドの一家は真の家族になりつつある。一家はキンケイドの故郷に里帰り。キットは従姉・ラリーに恋心を抱く。そこに乳児の遺体が見つかり、新たな殺人事件も発生。ラリーの友人の事故死にも疑惑が生じる。子どもが標的になる時、親ができることとは? 内容紹介より



シリーズ十一作目。クリスマス休暇でキンケイドの実家に戻った一家ですが、キンケイドの妹が手がけている農家の改築現場で乳児の年月の経過した遺体が発見されるという事件が起きます。物語は主人公たちが協力する捜査と並行して、彼ら一家に生じる様々な感情、妹夫婦間の不和と娘が持つ秘密、ナロウボート(運河用平底船)に暮らす家族とかつて彼らにたずさわった元ソーシャルワーカーの女性が抱える苦悩、こういった様々な心理描写がなされて進みます。ただ今回は公的機関が家族に介入するうえで生じる問題を主なテーマに絞るべきで、収賄とか青少年の薬物汚染や社会病質については余計に感じるほど詰め込み過ぎた印象を受けたし、これにそれぞれの心理描写が書き加えられるのですから、さらに若干の煩わしさを感じてしまいました。従来持っている著者の良い一面が本書ではマイナスになってしまったみたいな気がしました。

『警視の週末』
『警視の孤独』
『警視の偽装』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ブラディ・リバー・ブルース』ジェフリー・デーヴァー ハヤカワ文庫HM

2019-08-08

☆☆☆

急に開いた車のドアにぶつかり、ペラムは持っていたビールを落としてしまった。壜は壊れ、ビールは排水溝に。だがペラムの不幸はそれで終わりではなかった。ビールを台無しにした男たちが、その直後に組織犯罪告発の重要証人を射殺したのだ。ペラムは目撃者として、警察やFBIばかりか、殺し屋にも追われることになる。じつは何も目撃していないのに……映画ロケーション・スカウト、ジョン・ペラムを襲う最大の危機! 内容紹介より



本書は1993年に発表された「ジョン・ペラム」シリーズの第二作です。有名な映画賞の受賞経験もある元映画監督で、現在は日本でいうところのロケーション・ハンティングを生業としている主人公ですが、映画製作の夢を諦めていないという設定です。主人公がビールを買い出しに行った帰りに偶然に出くわした人物が、その直後、ある裁判の検察側の重要証人を射殺した事件の容疑者になったことから物語が始まります。殺し屋が降りてきた車に同乗していた殺しの依頼人とみられる人物の顔を主人公が目撃しているに違いないと決めつける警察にFBIも加わって証言するよう迫るうえに、さらに口止めを狙う殺し屋の影も……。犯人たちによって脅されたか金を貰ったかして口をつぐんでいると思い込んだ警察やFBIから嫌がらせを受けますが、しかし主人公は実際に何も見ていなかったのです。まず、映画ロケーション・スカウトという仕事内容が目新しくて興味深く、また映画製作の現場の様子も面白く読めました。捜査機関による理不尽な仕打ちを受ける主人公のほかに、殺し屋コンビと依頼人や事件の巻き添えになって負傷した警官などの様々な視点から描かれるお決まりのサスペンスです。相次ぐどんでん返しみたいな話も良いのですけれど、たまにはこういう物語も肩が凝らずに楽しめます。

ユーザータグ:ジェフリー・ディーヴァー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺す男』ミッキー・スピレイン ハヤカワ・ミステリ

2019-08-05

Tag :

☆☆☆

マイク・ハマーが事務所のドアを開けたとき、そこに見たものは、血まみれの秘書ヴェルダと、見知らぬ男の惨殺死体だった。男はハマーの椅子に縛りつけられたうえ、両手指を切断されていた。机の上には、“俺を殺したから、お前は死ぬのだ—ペンタ”という置き手紙。だが、ハマーの身に覚えはなかった。いったいペンタとは何者か?何の目的でこんな酷いことを?愛するヴェルダを半死半生の目に遭わされ、復讐を誓うハマーは、自らを囮として捨て身の調査を開始。ペンタがCIA局員を殺しており、また事務所で殺された男が元暗黒街の人間だったことをつきとめる。謎をめぐり美人検事補、CIA、FBI、国務省、マフィアが入り乱れるなか、やがてハマーが知る意外なペンタの正体とは!19年の空白を経て、探偵マイク・ハマーが甦った!巨匠スピレインが、冷酷な殺人を繰り返す暗殺者を追うハマーの壮絶な闘いを痛快に描く、ファン待望の最新作。 内容紹介より



典型的な私立探偵小説の体裁をとり、マフィアとコカインという定番の要素を組み入れ、そこに国際的な暗殺者を持ちこみ、CIAを混ぜる新機軸を盛り込んでいます。と言っても、わたしはマイク・ハマーものを読んだ覚えがないので適当なことを言っているのですけれど。冒頭、殺人現場となった探偵事務所に残された謎のメッセージには興味を引かれますが、主人公がうろちょろして、あちらこちらで聞き込みとも言えない無駄話をしているハードボイルド定番の展開が100ページあたりまで続き非常に退屈でした。“卑しき街を行く孤高の騎士”という従来の私立探偵像というものが、時代の変遷に伴っていかに浮いた存在になっているか、絶滅危惧種の生態を観察しているような前半から、意外な組み合わせの謎が解けていく後半は徐々に流れも良くなってクライマックスを迎えます。脅しと銃による聞き込みは、パソコンとネットに頼る情報収集というものに代わり、やがて美人検事補や魅力的なCIA局員とのやり取りはポリティカルコレクトネスによって糾弾される事態に陥るでしょう。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『異国に死す』ドナ・レオン 文春文庫

2019-07-21

Tag : ダナ・レオン

☆☆☆

死体は運河のくすんだ水にうつぶせに浮いていた—被害者はアメリカ人青年。単なる物取りの犯行と決めつける上司にさからい、ブルネッティ警視は執拗に事件を追うが、その背後には巨大な闇の力が存在していた!サントリーミステリー大賞受賞作家が、観光都市ヴェネツィアの素顔と多彩な人間模様を丹念に描きこんだ異色作。 内容紹介より



著者は、グイード・ブルネッティ警視 シリーズの第一作目である『死のフェニーチェ劇場』(文藝春秋)でサントリーミステリー大賞、『ヴェネツィア殺人事件』(講談社文庫、著者の表記はダナ・レオン)でCWA賞を受賞しています。本書は1993年に発表されたシリーズ第二作目にあたります。イタリア在住の作者による、部外者のフィルターがかかったヴェネツィアという華やかで賑やかな世界的観光地の観光客の目に触れない裏側や影の部分、風土や住人気質が良く描かれているように感じます。家庭においては思いかけず手に入った大金の使い道(娘のパソコンや家族旅行)をあれこれ悩んだり、思春期の息子の初恋にうろたえたりと、どこにでもいる夫であり父親で、仕事では地道な捜査を続ける公務員タイプの主人公ですが一本芯が通った正義感の持ち主です。そんな彼が手がける事件は、イタリアにある米軍基地に所属するアメリカ兵刺殺事件です。手がけるうちにイタリア社会に存在する暗部に足を踏み入れてしまうことになります。巨大な闇の力、隠然たる勢力に対して、主人公はどのように立ち向かうのか。諦観と義憤のなか、力の及ぶ限り筋を通そうと努める姿が印象に残る作品です。深く大きな闇を背景にした普通の家庭(人)を描くのが本シリーズの基本テーマなのでしょう。

『ヴェネツィア殺人事件』講談社文庫
『ヴェネツィア刑事はランチに帰宅する』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『サイレント・スクリーム』アンジェラ・マーソンズ ハヤカワ文庫HM

2019-07-06

Tag :

☆☆☆

私立校の校長が何者かに溺死させられる事件が発生。現場の傍の木々には犯人によるものと思われる不可解な放火が。型破りな女性警部キム・ストーンは、被害者がある荒れ地の発掘調査に関心を示していたことを突き止める。その土地の一画には被害者がかつて勤めていた児童養護施設が残されていた。十年前に火災で閉鎖された施設の実態を追うキム。そこに第二、第三の事件が―! 現代英国ミステリ界最注目の警察小説。 内容紹介より



主人公は三十四歳の女性警部。愛車はカワサキ・ニンジャ。幼少時の悲惨な体験から他人に対して心を閉さす傾向があり人間関係が苦手です。しかし、警察官としての能力は優れており、三人の部下とともに殺人事件の捜査を担当します。女性校長殺人事件の後、さらにたて続けに殺人が起きていずれの犠牲者もかつて児童養護施設に勤めていたことが判明します。やがてその施設に隣接する土地に持ち上がった発掘計画が事件と関わりがあるのではないかという疑いが浮かびます。次々と犠牲になる元施設職員たちがひた隠しにしていた秘密とは……。虐待を受けて保護された子供たちへの行政からの支援と直接彼らに接する職員たちの実態が話の核となり、同様に幼少時代に虐待の経験を持つヒロインの過去が重ねられて進んでいきます。さらにサイコパスから法医人類学まで絡んでくる警察小説で、なかでもやはりヒロインのキャラクターが目立ちます。彼女と部長刑事との会話がちょっと浮き気味な感じも受けましたし、部下たちのキャラが薄い気もしました。あまり英国風な雰囲気が感じられないし、警察小説として抜きん出たものがあるかというとそうでもないような印象でした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『眠る狼』グレン・エリック・ハミルトン ハヤカワ文庫NV

2019-07-03

Tag :

☆☆☆

帰ってきてほしい—十年前に故郷を離れ、海外で軍務についていたバンのもとに、ずっと音沙汰のなかった祖父からの手紙が届く。プロの泥棒である祖父の弱気な言葉に胸が騒いだバンは、急ぎ帰郷した。だが到着した彼を待っていたのは、頭に銃撃を受けた祖父の姿だった!人事不省の祖父をまえに事件の真相を追う決心をしたバンは祖父の仕事仲間に協力を仰ぐ……ミステリ賞三冠を制した昂奮と哀愁がクロスするサスペンス 内容紹介より



子供の頃母親と死別した主人公は祖父に引き取られ二人で暮らし始めます。祖父は強盗や窃盗を生業とし、少年だった主人公にその技術や手口を教え込み、酒場の共同経営者のかたわら、やがて二人で組んで泥棒稼業を行います。ストーリーは、そんな子供から青年時代にかけての主人公と祖父のエピソード(哀愁部分を担う)を挿んで進みます。二十八歳になった現在の主人公は陸軍のレンジャー部隊の軍曹でイラクやアフガニスタンでの戦闘経験の持ち主です。しかし、その軍歴を背景にしたような過激な銃撃シーンやアクションはほとんどなく、全体の雰囲気はハードボイルドよりです。物語は祖父の自宅に仕掛けられていた盗聴器を発見することから進み始め、祖父の昔の仕事仲間の助けを借りて容疑者を追ううちに、地元で起きたダイヤモンド強奪事件が浮かび上がってきます。「ミステリ賞三冠」という言葉に引かれて読んだ訳ですが、個人的にハードルをあげ過ぎてちょっと残念でした。祖父のしっかりとしたキャラクターに比べて、主人公のそれに物足りなさを感じたのは彼の年齢設定にあるのかどうなのか、渋くもなくかといって初々しくもなく中途半端な造形のような気がしました。ただし、シリーズ物なのでこれから変化していくのかもしれません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷の天使』キャロル・オコンネル 創元推理文庫

2019-06-30

Tag :

☆☆☆

キャシー・マロリー。ニューヨーク市警巡査部長。主にコンピュータ・ハッキングで発揮される天才的な頭脳と、張り込みや尾行ができないほどの鮮烈な美貌の持ち主。盗みと逃走に明け暮れ、孤独を友とした幼年時代ゆえに心に深い傷を持ち、感情を他人に見せることはない。彼女には善も悪もない。あるのは目的の遂行だけ。里親である刑事マーコヴィッツが捜査中に殺され、勝手に捜査を引き継いだ彼女は、裕福な老婦人ばかりを狙う連続殺人鬼を追いはじめる。怪しい霊媒、大魔術師の未亡人、自閉的なチェスの天才児……奇矯な人物の絡み合いに隠された真実は?ミステリ史上最もクールなヒロインの活躍を描くシリーズ第1弾! 内容紹介より



連続殺人事件を捜査中に三人目の犠牲者とともに刺殺された警視、それがヒロインの養父です。被害者の身内ということで捜査から外され、強制的に休暇をとらされた彼女は、故人の遺した捜査メモや同僚刑事から得た捜査情報をもとに単独で犯人を追い始めます。触れなば凍傷を負いそうなクールなヒロインの際立つ個性、それを回りの知人、同僚たちによって浮かび上がらせる手法がシリーズ一作目から確立されている印象です。さらに奇矯な登場人物たちを配し、彼らのいわく付きの過去を背景に置くことで目くらましを行う趣向もこのシリーズの特徴のひとつなのかもしれません。本書では、興行中に事故死した魔術師の霊能力を持つ未亡人、日常生活の能力に欠ける天才チェスプレイヤー、ある事件の被害者でトラウマを負うその従妹、奇態な霊媒師など、彼らと彼らの物語がいかにして真相へと収束していくのか、読んでいて予想が付きかねるくらいに各面々がページ上に放散していきます。その構成がやや読みづらさを感じさせるのかもしれません。コンピュータとネット社会の申し子的なヒロインがすごく今風な印象を与えています。

『死のオブジェ』
『陪審員に死を』
『愛おしい骨』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『遭難信号』キャサリン・ライアン・ハワード 創元推理文庫

2019-06-27

Tag :

☆☆☆

アイルランドの小さな町で、ハリウッドを夢見て脚本を書き続けてきたアダム。恋人のサラが仕事でバルセロナに出張し、まったく連絡がとれなくなってしまう。だが出発から数日後、アパートにサラのパスポートが郵送されてくる。それには「ごめんなさい—S」とサラの字で書かれた付箋が貼ってあったが、封筒の文字は別人のものだった。彼女に何があったのか?アダムは恋人を追い、手がかりをもとに地中海クルーズ船に乗り込む。千以上もの客室を持つ豪華客船で暴かれる、予想外の真実。巧みな構成力と謎解きの妙味を味わえる衝撃のサスペンス! 内容紹介より



主人公アダム、セレブレイト号の客室係、ミロという少年、この三人の視点で物語が展開していきます。客室係は船内にいる人物を密かに捜すという目的を持っているらしく、一方少年については母親に疎まれている不幸な生い立ちが描かれていきます。ハリウッドに脚本が採用されてやっと才能が日の目を見た時、 主人公の不遇な時期を支えてきた恋人が出張先で突然連絡が取れなくなってしまい、彼女のパスポートが別れを匂わすメモとともに彼の元へ郵送されてきます。自分のみならず両親、親友とも連絡を絶った彼女の行動に疑問を持った主人公は警察へ捜索願を提出するのですが、事件性がないことを理由に真剣に取り合ってくれません。やがて恋人の親友から意外な事実を打ち明けられるのですが……。その後、同様な経験をした人物とともに客船に乗り込み、調査を始めることになります。
船上で起きた事件や事故を揉み消そうとしがちな船会社の思惑と船籍や捜査権の関係でそれが行いやすくなっている点など豪華客船が抱える影の部分が物語の核となっています。その闇に飲み込まれたかのような恋人の行方を追う、ヒーロー然とは異なる主人公の憔悴し精神的に追い詰められていく等身大の姿が印象的です。彼以外の二つの視点で描かれる話が失踪事件とどう交わってくるのかという興味も引かれます。ただ、その設定が非常に効果を及ぼしているかというと残念ながらインパクトが弱くて付けたした感があるような気がしました。話の展開が最終盤でやや強引であり、事件の真相も捻りは加えてあるものの衝撃度はそれほどではなかったです。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『楽園の世捨て人』トーマス・リュダール ハヤカワ・ミステリ

2019-06-24

Tag :

☆☆☆

男の子は生後およそ三ヶ月。海岸に遺棄された車の後部座席でダンボール箱に入れられたまま餓死していた。故国デンマークを捨ててこの島に来てから18年、これといった生きがいもなく、怠惰に齢を重ねてきたタクシー運転手兼ピアノ調律師のエアハートだったが、警察がこの事件をうやむやに葬ろうとしているのを知り、何かを感じた。彼は憑かれたように、がむしゃらに真相を追う……大西洋に浮かぶカナリア諸島を舞台に、67歳の素人老探偵が哀しく奇妙な事件に挑む!北欧ミステリの最高峰「ガラスの鍵」賞を得た傑作 内容紹介より



主人公はカナリア諸島のフエルテベントゥラ島に住むデンマーク人で、職業はタクシー運転手兼ピアノ調律師です。詳細は明らかにされていませんが、彼はデンマークに家庭を捨て島で一人暮らしをしています。町から離れた掘っ立て小屋で二匹のヤギと暮らす彼は島民から「ガイジン」とか「世捨て人」と呼ばれています。赤ん坊の遺体が残された車の発見現場に居合わせたこと、そして、その事件の真相が曖昧なまま警察によって処理されようとしていることを知って、主人公は独自に調査を始めます。赤ん坊の母親だと名乗り出た娼婦、失踪した主人公の親友と何者かに襲われ昏睡状態で発見されたその恋人。彼が調べるうちに様々な出来事が絡まりあい、事態は意外な方向に進み始めます。67歳の世捨て人というと飄々としたイメージが湧きますが、主人公の心情は生々しく、とても枯れているとは言えません。一貫して主人公の視点で描かれるために、彼の懊悩、情欲という心理状態が表されるので余計にそういうところが強く感じらるうえに、心の機微まで挿まれるので正直580ページは読んでいてきついものがあります。個人的に、ある人物を監禁したこと、また別の人物を匿ったこと、主人公がしでかしたこの現実離れした二件の行動にはかなりな違和感を覚えて、それが彼に感情移入をできない“ずれ”として心に最後まで引っかかっていました。田舎のタクシー運転手の業務内容は目新しく映り、乗客の一人である心に障碍をもった男性との交流の場面にはなごむものがあります。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スターは罠にご用心』サイモン・ブレット 角川文庫

2019-06-03

Tag :

☆☆☆

ウェスト・エンドのミュージカルへの出演依頼、チャールズにとっては願ってもないことだった。しかし、役者としての腕を見込んでというより、彼の素人探偵ぶりを買っての依頼というのが皮肉ではあったが…。弁護士の話だと、何者かがこの大興行の妨害を図っているフシがあるという。すでにキャストの二人が不可解な事故にあっていた。一人は空気銃で撃たれ、一人は階段から落ちて。しかも同じ曜日の同じ時刻に…。チャールズの役目は、舞台の上から不審な動きに目を光らせることだった。稽古は順調に進んだ。主役の若手スターの異常な横暴ぶりを除いては。だがやはり舞台に罠はあった。まず最初の事件は通し稽古の日に起きた— 内容紹介より



俳優探偵チャールズ・パリス=シリーズの第二作目です。TVの喜劇番組で人気絶頂の若手スターを目玉にしたミュージカル劇に出演予定だった俳優の代役として主人公に依頼が来ます。劇の出演予定者たちが、空気銃で手を撃たれり、階段から落ちて足を骨折したりする事件や事故が続くため、これ以上のトラブルを防ぐために、ミュージカルに出資している関係者の弁護士から主人公に目を光らせていて欲しいとの役目も負わされます。稽古から試演、地方公演から本公演へと、劇がどのような仕組みで成り立っていくのかが描かれているのはもちろんですが、終始ユーモア・ミステリの雰囲気のなかにありながらも苦味も加えてあり、天才的な喜劇スターが持つエゴや演技に対する病的な執着心という内面の闇が描かれるとともに、情事にも倦んで別居中の妻が恋しくなったり、役者として大成する見込みも薄れ、酒に頼りがちな中年の危機を迎えて哀愁を漂わせた主人公の姿も目を引きます。殺人が起きないので後口は悪くありません。

『殺しの演出教えます』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ニック・メイソンの第二の人生』スティーヴ・ハミルトン 角川文庫

2019-05-31

Tag :

☆☆☆

ニック・メイソンが塀の外に出たのは、5年と28日ぶりだった。警官殺しの罪で25年の刑期を言い渡されていたが、ある人物と取引を結び、刑期前に出所したのだ。その条件は、ただ1つ。携帯電話が鳴ったら出て、どんな指示であっても従うこと。張りつめた緊張感の中、失った時間を取り戻そうとあがく彼だが、恐るべき指示は容赦なく下される……孤独な男の闘いを、硬質な筆致で描くハードボイルド・ミステリ。シリーズ第1弾。 内容紹介より



刑務所に終身刑で収監されている犯罪組織のボスに見こまれ、刑期を大幅に短縮して出所した主人公は、そのかわりに携帯電話での指示にいついかなる時も従うという取引を交わしています。彼は多額の現金をもらい、高級住宅街に建つ瀟洒な屋敷でボスの愛人と暮らすことになり、指示のある電話が入るのを待ちます。その合間に、離婚した妻とひとり娘に逢いに出向いた彼は、すでに妻は再婚して幸せな家庭を営んでいることを知ります。失意の中、主人公の電話が鳴り、下された指示は彼がまったく予想にもしなかったものでした。いろいろな何故が頭に浮かぶ犯罪小説です。主人公の犯罪歴は車の盗難、麻薬密売人の上利の横取り、店に貯め込んだ金を盗む、このようにいわば犯罪人としては小者の存在です。そんな主人公には、ボスから下される指示は本来なら手に余る技量が問われるものであり、どんな理由があって初心者の彼が目を付けられたのか、武士道がどうたら言っているものの納得がいく説明がなされていません。尾行に普段使いの目立つ希少車を使ったり、悪徳警官ならば主人公を簡単に消すくらいいくらでも方法があると思うけれど、わざわざ西部劇の決闘シーンみたいな派手な銃撃戦をやらなくてもと思えるように、全体的に設定の甘さが気になる作品でした。シリーズ物ですから、これから完成度が増してくるのかもしれませんけれど。

『氷の闇を越えて』ハヤカワ文庫HM
『狩りの風よ吹け』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『狙われた大リーガー』ウィリアム・G・タプリー サンケイ文庫

2019-05-28

Tag :

☆☆☆

元ボストン・レッドソックスの剛速球投手エディ・ドナガンの息子E・J(エディ・ジョーンズ)が誘拐された。やがて犯人から連絡がはいり、かつてエディのエージェントをしていた弁護士ブレイディ・コインが身代金の受け渡し人に指名されたのだった。犯人の正体は、そして狙いは何なのか?『チャリティ岬に死す』『呪われたブルー・エラー』につづき、ボストンの弁護士ブレイディ・コインが単身球界の黒い罠に挑む、好評のハードボイルド第三弾! 内容紹介より



十歳の男の子が新聞配達に出たまま行方不明になり、その後誘拐犯から身代金を要求する連絡が入ります。男の子の父親は昔大リーガーの若手有望投手であったのに、制球を失ったという理由で逃げだすように引退した過去があります。その彼が投手時代にエージェントをしていた主人公が身代金の受け渡し役を犯人によって指名されるという展開です。物語は一大リーガーの栄光と挫折、引退後の不可解な生き方を主人公の視点で描く一方、男の子の誘拐事件に迫っていきます。元大リーガー時代の秘められた出来事とは、また誘拐事件が彼の過去に関連しているのかどうか、この二つの深まっていく謎が読みどころです。ただし、誘拐事件にかかわった人物から提示された、犯人へと導くヒントが謎をややこしくするばかりでいっこうに解決への重要な鍵にならないという思わせぶりところ、さらにダムの放流にまつわるエピソードは、てっきり犯人側へ影響を及ぼす事態を引き起こす伏線とばかりに思っていたのでこの二つの点に不満が残りました。

『チャリティ岬に死す』
『悪魔の仕事』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ノールカプ岬』ジョー・ポイヤー 創元推理文庫

2019-05-25

Tag :

☆☆☆

極秘裏に開発された超高性能機A-17を駆って、中ソ国境紛争を偵察していたテレマン元空軍少佐は、ソ連機ファルコンが追尾してくるのに気づいた。しかも最新鋭のレーダー探知妨害装置を稼働させているにもかかわらず、である。一刻も早く北極嵐と闘いながら待機している味方の巡洋艦に伝えねばならない。だがソ連機の執拗な攻撃に、遂に会合地点の直前でテレマンはA-17から離脱せざるをえないはめに陥った。着地したところは凍てつくようなツンドラ地帯。猛威を振るう極北の大自然の中の決死の脱出行! 内容紹介より



この作品は、1969年に発表され、日本では1980年に『氷雪の脱出行』(パシフィカ社)として刊行されているそうです。発表当時より約十年先の近未来を舞台に描かれています。半世紀前の作品になるにもかかわらず、内容に古めかしさを感じません。特に戦闘機や戦艦の装備などの機械、機器関係の記述は経年劣化しがちですが、登場するステルス化した原子力巡洋艦やパイロットでさえ体調面において半コンピュータ制御化されている超高性能偵察機についての描写は現在のそれらとまったく遜色がないように感じました。それは詳細な説明を加えることでリアリティを持たせていることも原因のひとつかもしれません。大自然の猛威もマクリーンを彷彿とさせる筆致で描写する様は迫力を生んでいます。 しかし一方では、詳しく記載するがために情報過多になりかけているようにも思いましたし、それは天候や地理の精緻な描写についても言えると思います。また、ソ連側からの視点がまったくと言っていいほどないことは本書の欠点で、それによってサスペンス性や人間ドラマが薄められているみたいな印象が残りました。それからすべてが電子制御されているデジタルの世界なのに、潜水艦への奇襲は肉弾戦を用いるというアナログぶりが可笑しかったです。




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ジャンル : 本・雑誌

『ツーリスト 沈みゆく帝国のスパイ』オレン・スタインハウアー ハヤカワ文庫NV

2019-05-19

Tag :

☆☆☆

ツーリスト—それはCIAがアメリカの覇権維持を目的に世界中に放った凄腕のエージェント。過去も、決まった名前も持たない者たちだ。元ツーリストのミロは現役を退き、妻子と暮らしていた。だが、機密漏洩が疑われる親友の調査を命じられ、最前線に舞い戻る。親友の無罪を信じながらも、彼は監視をはじめるのだった—不確かな新世界秩序の下で策動する諜報機関員の活躍と苦悩を迫真の筆で描く、新世紀スパイ・スリラー 上巻内容紹介より



「新世紀スパイ・スリラー」と持ち上げているわりには新しさがなんら見当たらない件。主人公は三十代後半のCIAエージェント、ツーリスト(特殊工作員)としての活動が組織内で評判になっています。プライベートでは、幼少の頃に両親を交通事故で亡くしており、過去に関して何か含みを持たせている設定です。任務中に重傷を負ったために、現在は現役を退き本国で国際的な暗殺者を追跡する任務に就いています。その彼が中国への情報漏洩疑惑のある旧知の仲の同僚を調査する任務を与えられフランスへと渡ります。なんだかんだあって、三件の殺人容疑をかけられた主人公は妻にも愛想を尽かされて、公私ともに絶体絶命のピンチにはまってしまうという展開です。昔から評判の悪かったが9.11以降さらに悪くなったCIAという組織、予算削減や組織改革、他のライバル機関の存在、そんな状況のなかで一人の工作員の活動を描いている訳ですけれど、まず三十代後半という中途半端な年齢設定の主人公を未熟な青年か老成した人物にすべきだったのでは、さらに冒険小説に妻子は限りなく不要だし、家族愛のアイテムとしてもさほど機能していません。伝説化されようとしているにしてはプロとは思えない手際の悪さ、行き当たりばったりの行動と丸投げの計画立案、組織内の敵と政治権力の黒幕といういつものパターン。汚染した針を喫茶店の椅子に仕掛けてHIVに感染させるアイデアが今風なだけみたいな。ただ、本書は三部作の第一作目らしいのでこれから面白くなっていくのかもしれません。

別シリーズ
『嘆きの橋』文春文庫
『極限捜査』文春文庫




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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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