『マイアミ殺人 懲りないドクター』ダーク・ワイル 集英社文庫

2018-04-06

Tag :

☆☆☆

マイアミの医学校で学ぶベンは博士号取得を目前にした生体臨床医学の専門家。その知識を見込まれ巨額の報酬で、製薬会社の買収を検討している依頼人から、内部調査を引き受けた。革新的な抗癌剤開発の情報は真実なのか?ひと癖もふた癖もあるドクターたち。頭脳明晰、かつ人間味あふれ自らもドクターの卵ベン・キャンディーディ。フロリダの陽光の下、陰謀と殺人の渦に巻き込まれ…。 内容紹介より



主人公は恩師の友人から、抗癌剤を開発している研究所の買収に伴う調査を依頼され、新たな抗癌剤の真価や特許関連を調べることになります。しかし、彼の前任者の失踪、研究所のオーナーの怪しい動きなどが調査するにつれて浮かび上がってくるうえに、不審な言動をとっていた開発責任者が急死を遂げてしまいます。博士号取得を目前に控えた、高いIQを備える主人公が専門知識を用いて真実を明らかにする、という話の流れです。恋人とヨットを愛する自由人である主人公のキャラは、一方では秀才過ぎる気味がありますが、嫌味がなくかといってくだけすぎることもなく、そつがないけどやや青臭い感じもする好青年です。これが役所に上手くはまっている印象を受けました。物語は、研究成果の真贋を見分ける主人公の活動が多くを占め、殺人らしきものが起きるのはかなり後半になってからですので、ミステリ自体の深みはあまり感じませんが、クライマックスの冒険小説みたいなアクション場面は結構盛り上がっています。作者は、英国の冒険小説の古典に傾倒しているのか、少なくとも影響を受けていそうな印象を受けました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死を告げる絵』トマス・アドコック ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2018-04-01

Tag :

☆☆☆

ストゥールに腰掛け、バーテンに話しかける緑色のドレスの女—その光景は、ピカソと自称する老画家の絵とそっくり同じだった。そして、彼女はそのバーで何者かに殺された。ニューヨーク市警の刑事ホッカデイはその老画家の行方を追い始めるが、彼の絵を模して、第二、第三の殺人が。情感豊かに描くアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペーパーバック賞受賞作 内容紹介より



1991年に発表された作品です。もし物語のなかにおいてパソコンや携帯電話が登場するか否かよってミステリ史を前後期に分けるとするならば、この作品は前期にあたります。主人公はヘルズ・キッチンに住む、NY市警のマンハッタン街頭犯罪捜査班に属する私服刑事です。しかし、彼はほとんど単独で捜査するため、警察小説の色合いは薄く、また警察ミステリというより私立探偵小説の雰囲気を強く感じました。いわば国家権力を背景にしつつ、組織に縛られない一匹狼を主人公にしたハードボイルドなのでしょう。これはなかなか都合の良い設定なのですが、昨今のミステリと比べるとなにか古めかしく感じてしまいます。物語は、四月のある日の午前中に公園において、主人公がピカソと名乗る初老の絵描きから殺人計画を打ち明けられるところから始まり、彼のもとへ届く、犯行現場を描いたかのような絵のとおりの殺人事件が連続して発生します。戦死した夫のことを話そうとしない主人公の母親にまつわる記憶やコニーアイランドでの少年期の思い出など、彼の内に秘めた心情やノスタルジックな感情をメインストーリーに絡めて展開するスタイルを採っています。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ピーチツリー探偵社』ルース・バーミングハム ハヤカワ文庫HM

2018-03-16

Tag :

☆☆☆

女性探偵サニーが勤めるのは、大統領とも懇意の有名探偵が営むピーチツリー探偵社。放浪癖を持つ社長不在の今、彼女は窮地にあった。盗まれた絵を取り戻そうと赴いた泥棒との取引場所で他殺体に遭遇。容疑者にされた挙げ句、絵は戻らず。さらに期間内に十万ドル納めないと探偵社が倒産すると銀行の催促が。サニーの捻り出した起死回生の秘策とは?どんでん返しの連続回転記録に挑むジェットコースター・ハードボイルド 内容紹介より



女性探偵サニー・チャイルズを主人公にしたシリーズは、MWA賞ペーパーバック賞を受賞した『父に捧げる歌』が先に邦訳されましたが、本作がシリーズの第一作目にあたるそうです。
三十四歳の小柄な主人公は、著名な探偵が社長を務める探偵社のほぼ共同経営者的な地位にあります。しかし、その社長が大金を持って失踪したため、会社の資金繰りが危機的状況に陥ってしまいますが、折しも保険会社によって画廊から盗まれた印象派の絵画を取り戻す依頼を受け、その仕事が成功すれば会社の経営も持ち直すという状況にあります。犯人との取引場所へ向かったヒロインは、犯人グループの一員とみられる女性の死体を発見する羽目に……。
何度も離婚歴があり、その度にお金持ちと再婚する母親、音楽の才能があると信じながら、母親の干渉から弁護士になった弟、このふたりにいろいろ思うことがあるヒロインは妻子ある男性と不倫中の身です。不倫は別として、こういう既視感を覚えるような家庭と家族の設定に、事が上手く運びそうですんでのところで駄目になり、その度に死体を発見してしまうという、やや型にはまったスラップスティックをおびたな展開にちょっと食傷気味になりました。ラストにおけるヒロインとある人物との出会いの場面を発展させ、その人物を真犯人と確信させたらさらに意表を突く結末になったのではないかと思いました。

『父に捧げる歌』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『紳士と月夜の晒し台』ジョージェット・ヘイヤー 創元推理文庫

2018-03-11

Tag :

☆☆☆

月夜の晩、ロンドンから三十五マイル離れた小さな村の広場で、晒し台に両足を突っ込んだ紳士の刺殺体が発見された。被害者の腹違いの弟妹をはじめとして、殺害の動機を持つ容疑者にはこと欠かないが、浮世離れした彼らをまえにして、スコットランド・ヤードのハナサイド警視は呆然とするばかり。そんなとき、思わぬ事態が起きて……。ヒストリカル・ロマンスの大家として知られる一方で、巨匠ドロシー・L・セイヤーズが力量を認めた著者による軽妙な人物描写と緻密なプロットが光る傑作本格ミステリ! 内容紹介より



海外ミステリの黄金期にあたる1935年に発表された作品です。アガサ・クリスティやドロシー・L・セイヤーズなど、同時代の作家に比べて、日本においてミステリ作家として知名度が劣るのはそのスタイルのせいでしょうか。わたしは初読なのですけれど、“軽妙な人物描写”とそれにともなう容疑者側からの視点が印象に残りました。容疑者が被害者の異母弟妹とそれぞれの婚約者であること、さらに主な舞台が弟妹の家であること、そして彼らの居間に、婚約者、使用人、弁護士、警察官が入れ替わり立ち替わりして現われては、事件についてああでもないこうでもないという会話を繰り広げるので、テレビドラマのシチュエーションコメディぽい一面を感じました。。こういう、あまり波乱のない場面がかなりの割合を占め、また弟妹のふたりがかなり浮世離れした言動を見せるので、読んでいてちょっとくどい感じが残ります。ミステリとしては、ちゃんとポイントを押さえてはいるけれど、派手さがある訳ではないのでインパクトには欠けます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『最後の娘』ペネロピー・エヴァンズ 創元推理文庫

2018-03-05

Tag :

☆☆☆

新しい店子が入るらしい。どうせ似たような娘だろう。エセルはああいう娘の製造器でも持ってるんじゃなかろうかと思うくらいさ。だがまあ、人間、望みを捨てちゃおしまいだ。同情に満ちた、あの娘の声。さっそく、いろんな果物を贈ったよ。現われた娘はこう言った。「すみません、何とおっしゃいました?」最初の一言は“わびる言葉”だろうと踏んでいたとおりじゃないか。何を謝ろうというのか知らんが、そんなのはとるに足らん問題だ……。72歳のラリーの目を通して世界をながめる、この異様な感触。デリケートな手つきで人間の滑稽、人間の哀しみを剔出する、瞠目のデビュー長編! 内容紹介より



ロンドンに建つある屋敷には、一階部分に大家夫婦、三階の貸部屋には、かつては妻と娘の三人暮らしでしたが、妻は別の男のもとへ、娘は結婚したために、ラリーという老人がひとりで住んでいます。二階に女子大生が新たに越して来たことから、彼女に対するラリーの妄執のスイッチが入ってしまいます。妻や娘への怒りや不信を心に秘めたラリーは、女子大生との友情を築こうとパラノイアに駆られた行動をとります。彼女に親切にするかわりに、それなりの感謝と礼儀を受けたい、それが彼の望みです。
相手の困惑や迷惑など考えもせず、ただ一方的に自らの感情を押しつける彼の思考と奇矯な振る舞いが、一人称で語られ、読んでいて息苦しくなりそうでした。『キリスト教文化の常識』(石黒マリーローズ、講談社現代新書)のなかに、「ひとびとにしてほしいとあなたが望むことを、その通りに人々にしてあげなさい」(p206)というルカ福音書 の言葉と、「人は自分がしてほしくないことを他人に押しつけてはいけない」という日本人の考え方をひいて、欧米と日本での他人に対する接し方の違いを述べている箇所がありますが、見返りを求めないように見えて、実は大きな見返りを求めているラリー、その見返りが得られなかった時にさらにもう一段階へ進む彼の狂気。誰の心にも大なり小なりラリーがいるのでしょうね。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『マチルダの小さな宇宙』ヴィクター・ロダート 早川書房

2018-03-01

Tag :

☆☆☆

ぐれたい。悪いことを片っ端からやりたい。毎日がだるくて、つまんなくて、うんざりなんだもん。
マチルダの姉は一年前に死んだ。線路に突き落とされて、列車に轢かれたのだ。それからずっと、両親はふさぎこんでいるだけで、家のなかは重苦しい空気で満ちている。そういう日々に苛立つマチルダは、決心した。姉を死に追いやった犯人を探し出して、両親の目を覚まそう。
気が強くて辛辣で繊細な少女マチルダの旅はどこへ向かうのか。そしてその旅が終わったとき、どんな風景が目の前に広がっているのか—。
話題の若手劇作家で詩人の著者が鮮烈な筆致で描き出す、思春期の切ない冒険譚。 内容紹介より



性的な描写を除けば、十三歳の少女を主人公にした、ほとんどヤングアダルトといってもよい物語です。美しく歌の才能があった姉が、一年前に十六歳で亡くなって以来、主人公の家庭は暗く沈んだままです。母親は酒浸りで生活態度もだらしなくなり、父親はそんな妻を腫れ物を扱うように過ごしています。主人公の両親に対するやり場のない怒りと不満、その両親のお気に入りだった姉への思慕とわだかまり、そして自分のなかにある虚しさ、愛情を求める心。様々な感情が主人公の視点で表されますが、胸をつまされるのは、彼女の内に秘めた大きな孤独と深い悔恨です。母親が悲しみにこもって、思春期の主人公の悲しみに気づいてくれない、もうひとりの娘である自分を見てくれないとなったら、一体どうしたら良いのでしょうか。彼女は、精一杯強がりながら、姉が殺されたと思い込むこと、その犯人を見つけ出そうとすることで心のバランスを取ろうとします。『きらきら』(シンシア・カドハタ)に登場する姉妹の関係とちょっと似ている気がしました。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『コオロギの眼』ジェイムズ・サリス ミステリアス・プレスハヤカワ文庫

2018-02-20

Tag :

☆☆☆

時は流れ、街は変わり、人々もうつろってゆく。探偵だったルー・グリフィンは教師となり、作家としても成功していた。だが一本の電話が、ふたたび彼を混沌の街へと誘う。長年行方不明になっていた息子らしき青年が、重傷を負って入院しているというのだ。急ぎ病院を訪れたルーは、そこで意外な言葉を聞かされる……ハードボイルドに新たな風を吹き込む傑作 内容紹介より



『黒いスズメバチ』と同じく、舞台はニューオーリンズ、主人公はルー・グリフィンです。現在の彼は、作家としていくつかの著作を出し、大学で英文学を教えています。元探偵の経歴から、学生の失踪した弟を捜し出す依頼を受けます。実は主人公の一人息子も長年行方不明になっているのです。ある晩、彼が息子へ贈った署名入りの著書を持った男が重傷を負って病院に運ばれたとの連絡が入りますが……。過去に彼が愛した女性たちへの思い、近隣で起きるストリートギャングによる犯罪行為、親友の息子に起きた悲劇、こういったいろいろな出来事を観念的、叙情的に移ろう心情を細かく描写していく手法をとっています。この作家の持つ、いわゆる「文学」指向なのだと思うのですけれど、この思わせぶりな文学臭がやや鼻に付くところもあります。いうなれば、ミステリ性がかなり希薄なハードボイルドなのでしょうし、そう割り切れば文体は嫌いではないし、これまでに読んだ二作品より肌にあった感じがしました。しかし、p265からの、どういう必然からなのか訳の判らない突然の彷徨をし始める主人公の行動は意味が分かりませんでした。

『黒いスズメバチ』ミステリアス・プレス
『ドライヴ』ハヤカワ文庫HM




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷の娘』レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫

2018-02-16

Tag :

☆☆☆

買い物を終えた女性が、車のトランクで少女の死体を見つけた。暴行を受けて殺害されたらしいその少女は、フィギュアスケートの若手ホープ、ノーラ。つい数日前ノーラの素晴らしい演技を観たばかりのエスポー警察の巡査部長マリアは、ショックを隠せない。才能豊かで恐ろしく気が強かった、氷上のプリンセスを殺したのは誰?有力な被疑者としてノーラの母親につきまとっていたストーカーの男が浮上するが……。産休目前のマリアが、ノーラを巡る人間関係に捜査のメスを入れる。フィンランドで人気ナンバーワンの〈マリア・カッリ シリーズ〉。 内容紹介より



産休を四週間後に控えた、前作同様身重なヒロインがフィンランドフィギュア界を舞台に活躍する話です。古市真由美氏の訳者あとがきによると、作者はフィギュアスケートに造詣が深いらしく、話のあちらこちらにその片鱗がうかがえます。事件は、将来を嘱望されていたフィギュアスケートのスターの少女が撲殺された姿で発見されるというもの。ヒロインの上司である警部が娘を通じて被害者と顔見知りだったため、巡査部長であるヒロインが捜査を実質上担当することになります。被害者とペアを組んでいた選手、彼らのロシア人コーチ、フィギュアスケート協会理事、被害者一家のストーカーなど、錯綜する人間関係、そして被害者がつけていた日記に表される思春期の心情とともに、妊娠をめぐるいろいろな問題や署内の人事をめぐっての思惑が捜査活動にからんで描かれ、物語に深みと広がりを与えています。難点は、クライマックスにおけるヒロインのとった軽率な行動が、コージミステリでよく見掛ける素人探偵みたいで、プロらしさが感じられないところに警察小説としては不満を覚えました。一方、警察組織の男社会の中で一人奮闘する彼女の姿は好印象を与えていると思います。

『雪の女』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロボット・イン・ザ・ガーデン』デボラ・インストール 小学館文庫

2018-01-25

Tag : SF

☆☆☆

AI(人工知能)の開発が進み、家事や仕事に就くアンドロイドが日々モデルチェンジする近未来のイギリス南部の村。弁護士として活躍する妻エイミーとは対照的に、親から譲り受けた家で漫然と過ごす三十四歳のベン。そんな夫に妻は苛立ち夫婦は崩壊寸前。ある朝、ベンは自宅の庭で壊れかけた旧型ロボットのタングを発見。他のアンドロイドにはない「何か」をタングに感じたベンは、作り主を探そうと、アメリカへ。中年ダメ男とぽんこつ男の子ロボットの珍道中が始まった……。タングの愛らしさに世界中が虜になった、抱きしめたいほどかわいくて切ない物語。 内容紹介より



ロボットのまるで幼い子供(作者は子育てから本作のヒントを受けたそうです)みたいな喋り方としぐさ、主人公のモラトリアムをこじらせたみたいな造型と彼とロボットとの会話の様子が個人的に甘すぎて肌が合いません。イギリスからサンフランシスコ、ヒューストン、東京、パラオを巡るロードノベルであり、その過程で、両親の死と志望する仕事からの挫折といった人生のつまずきから引きこもり状態に陥ったいい大人の主人公が、ロボットとの道中で父性が芽生え、妻への愛情に改めて目覚めるという成長小説でもあります。それらが感傷、叙情、メルヘンという液体に頭までひたひたに漬かって描かれているので私的には勘弁して欲しい感じがおおいにしました。悪い意味での大人の童話なのですが、セックス関連のエピソードを抜きにしても、こんなあまあまな物語はヤングアダルトでもちょっとどうかと思われそうです。しかし、一般的な評価は高いので興味のある方は一読の価値があるでしょう。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『フリント船長がまだいい人だったころ』ニック・ダイベック ハヤカワミステリ

2018-01-15

Tag :

☆☆☆

アメリカ北西部の海辺の町ロイヤルティ・アイランドでは、男たちは秋から半年ものあいだ厳寒のアラスカで漁に励み、妻たちは孤独に耐えながら夫の帰宅を待つ。十四歳の少年カルは、いつか父とともにアラスカに行くことを夢見ていた。しかしある日、漁船団のオーナーが急死し、町の平穏は崩れ去る。跡継ぎのリチャードが事業を外国に売りはらうと宣言し、住人との対立を深めたのだ。その騒動のなかでカルは、大人たちが町を守るために手を染めたある犯罪の存在に気づく。青春の光と影を描き切った鮮烈なデビュー作 内容紹介より



アメリカを舞台にした少年小説には惹かれるので期待して読んだのですが今ひとつでした。この作者は港町に暮らしたことがあるのだろうか、と思うくらいに海や魚の臭いが行間から漂っても伝わってもきませんでした。さらにテーマは深いにしても、その料理の仕方はすごく単純すぎて上っ面を撫でただけのような印象が残りました。頭の中でこねくり回して、それを思わせぶりな表現で表したみたいな感じが終始しました。町に金をもたらす漁師たちを束ねる有力者である父親から、彼らの仲間になる道を閉ざされてわだかまりが生まれ、町と住人たち自体にも複雑な感情を抱く跡取りの青年、父親の死によってこの対立があらわになり、漁師の息子でありながら彼と交わるにつれ、その考えを理解できるようになった少年の存在。父親を含む漁業に携わる者、青年、主人公の少年という三者の構図に、夫が漁期に長期間不在となることの孤独に蝕まれる妻たちを周囲に配しているのは巧みです。父親と同じ道を進みたかった主人公の少年は、ある事件によって、望みながらも受け入れてもらえなかった青年と同じ運命をたどることになってしまいます。プロットの構築には優れた、かなり期待のもてる作家だと思います。ただクライマックスにおける少年が下した伏線のない、いきなりな判断と行動にはついていけなせんでした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『家政婦は名探偵』エミリー・ブライトウェル 創元推理文庫

2018-01-11

Tag :

☆☆☆

ウィザースプーン警部補は医師の死体を前に困りはてていた。名刑事として認められつつある彼だが、無類の好人物であるものの、実は捜査の才能は皆無なのだ。警部補の立てた手柄はすべて、屋敷を取り仕切る家政婦ジェフリーズ夫人が先に真相を解明したうえで行う、さりげない誘導のたまものだった。今回の開業医殺害事件でも、苦戦する主を見かねた真の名探偵ジェフリーズ夫人と、屋敷で働く使用人一同からなる探偵団が、解決目指して警部補には内緒で動きだす。ヴィクトリア朝ロンドンを舞台にした、明るく楽しいミステリ・シリーズ第1弾。 内容紹介より



犯行現場での捜査が苦手で、署内の記録係だった頃を懐かしむ人の良い警部補が、彼を慕う使用人たち(家政婦、メイド、料理人、従僕、馭者)による密かな助けを借りて、開業医毒殺事件の謎を解くと言うお話です。警部補の面目を保つために、使用人たちが陰で調査していることは彼には内緒にしていますが、同僚の警部補は怪しんでいるらしいという設定がしてあります。米国在住のアメリカ人作家なのでほとんどヴィクトリア朝英国の市井の雰囲気が伝わってきませんし、使用人たちのキャラクターもステレオタイプなイメージでそれぞれの個性が強調されているわけではありません。特に警部補のキャラは確立した方が良いのではないかと感じました。ただ、いわゆる古典には見当たらない使用人に光を当てる趣向は面白いし、ミステリの具合など総合的に見るなら各自バランスがとれているようには思います。そういう意味では非常に気軽に息抜きとして読むことができる作品です。



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『眺めのいい部屋売ります』ジル・シメント 小学館文庫

2017-12-28

Tag :

☆☆☆

NYイースト・ヴィレッジに建つエレベーター無しのアパートメント。四十五年間、五階の部屋に住み続けるアレックスとルースの夫婦は、十二歳の愛犬ドロシーと穏やかな日々を送っていた。ただひとつ、大きな問題が。足腰の弱ってきた彼らにとって、階段の上り下りが年々辛くなってきたのだ。そこで二人は住み慣れた部屋を売り、エレベーター付きの物件を購入する計画を立てていた。ところが内覧会の前夜、ドロシーが急病に。さらに近くのトンネルでテロ騒ぎが勃発する……。結婚生活五十五年史上、最もスリリングな週末を過ごしたチャーミングな夫婦の物語。 内容紹介より



老夫婦と老犬が暮らすアパートの部屋が高額で売れそうだと不動産屋から聞いた二人は、購入希望者にたいしてアパートの内覧会を開くことに。しかしその前日に愛犬の身体に異変が起きるとともに、トンネル内でタンクローリーが立ち往生するというテロ騒ぎが発生してしまいます。主人公の老夫婦は街中が大騒ぎの状態にある中、動物病院に入院した愛犬のこと、アパートの売却と新たなアパート捜し、姿をくらましたタンクローリーの運転手にまつわる噂、さまざまなことに振り回されてしまいます。若い頃、反体制派と疑われてFBIから監視を受けていた夫婦が、テロ騒ぎによる不動産価格への影響に期待したり心配したりする俗物ぶりな様子とか、事件に関するマスコミの扇情的な報道姿勢、飼い主を心待ちにする愛犬の姿、こういう場面が印象的に挿まれて物語が進行していくのですけれど、老いることの内実、外部の忙しない状況という内と外の対比が際立って感じられました。ただ、ミステリ好きな者にとっては、この一貫してトーンの上げ下げの乏しさが、悪くはないのですけれどやはりどうしても物足りなさを感じてしまうのです。ミステリではない作品にそんな印象を持たせない作品があるなかで、本書は良作かもしれないけれど秀作とまではいえないのかもしれません。

さて、これが年内最後の更新になります。この一年当ブログにお越しいただきありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎え下さい。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『プラムプディングが慌てている』ジョアン・フルーク ヴィレッジブックス

2017-12-24

☆☆☆

クリスマスを目前に控えた〈クッキー・ジャー〉は大忙し!毎日のクッキー作りに加えて、クリスマスクッキーの注文が殺到。そのうえシーズン限定のテーマパークで売るお菓子の準備に新作クリスマスデザートの依頼まで。そんななか、母がハンナに助けを求めてきた。ノーマンの母キャリーの様子がおかしいらしい。ノーマンにも相談され、マイクからも何やら気になる情報が—。ほうっておけず調べる約束をしたハンナだが、その矢先、今度はテーマパークのオーナーの死体を発見するはめに……。キャリーをめぐる謎、犯人探しに思いがけない人物との再会もあって、さらなる波乱の予感!?大好評シリーズ第12弾! 内容紹介より



ものすごく久しぶりに読んだ〈お菓子探偵ハンナ・スウェンセン〉シリーズ。いつものようにさまざまな種類のクッキーが登場して、登場人物たちの胃袋に入っていきます。相変わらずミステリとしては高いレベルにあるとは言えませんが、総合的にバランス良く上手い具合にまとまっている印象を受けました。クリスマスプレゼントのラッピング、クリスマスツリーの飾り付け、クリスマスの楽曲など、クリスマスというイベントを間近に控えた町の雰囲気や住人の様子が生き生きと伝わってくる感じがしました。何かとイベント頼みのコージーミステリには否定的でしたが、日本ではあまり見られない文化や風習の違いなどの描写を読むと新鮮な感じがして、それはそれでありだなと思うようになりました。そんな喧噪のさなか、クリスマス期間限定のテーマパークのオーナーが自宅で射殺されているのをヒロインが発見してしまいます。調べるうちに被害者が商売上で不正を行っていた疑いが浮かび上がってきたり、過去のスキャンダルが明らかになったりします。また、ヒロインの母親の親友であり、男友達の母親が怪しい行動をとったりしている件も調べることになります。歯科医と刑事、二人の男友達の間にぬくぬくと納まっているヒロインの状態はこれまた代わり映えしません。

ユーザータグ:ジョアン・フルーク




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『裏切りの色』マーシャ・シンプスン ハヤカワ文庫HM

2017-12-23

Tag :

☆☆☆

スクーナー船でアラスカの海を行き来し、荷物を配達する仕事をしているライザは、ある日岬の岩棚に打ち上げられた少年を救った。が、直後にライフルで狙撃され、愛犬が負傷する。その後も船に細工されるなど、彼女の周囲で奇怪な出来事が相次ぎ、ついには少年が何者かに誘拐された。ライザは少年を取り戻すべく捜索を開始するが……タフで自立した女船長の活躍を情感豊かに描いた、アメリカ探偵作家クラブ賞最終候補作。 内容紹介より



冒険小説の色合いが強い作品で、なかでも女性船長が活躍するというあまり見かけない設定がなされています。ヒロインは移動図書館を兼ねている船で、日用品をはじめとしてさまざまな荷物を運んでいる仕事を愛犬とともに行っています。彼女が幼少の頃に母親が失踪し、警官だった夫が殉職してしまう暗い過去を背負っています。彼女は航海中に原住民の少年を助けるとともに射殺された遺体を発見した直後に、何者かに狙撃される事件が降り掛かります。
犯人側からの視点もあるため、彼らの動機と狙いは最初から読者には明らかにされ、また彼らがヒロインの知り合いの中にいることも早々に見当が付きます。読みどころは冒険部分とネイティブアメリカンについての記述になるのですけれど、冒険シーンは船同士の追跡劇銃撃あるいは救出劇などをそろえていてまあまあの出来なのですが、作者がアラスカでの教師時代に地元民から取材した経歴があるにしては、ネイティブアメリカンや彼らの文化に付いての部分は掘り下げていない印象が残りました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ジャックは絞首台に!』レオ・ブルース 教養文庫

2017-12-12

Tag :

☆☆☆

ある朝温泉町で二人の老婦人の絞殺死体が発見された。どちらの死体も両脚を伸ばして横たわり、手には一本のマドンナ・リリーの茎が握られていた。二人の関係を示唆するものはない。老後を静かにおくる老人を狙った精神異常者の犯行か?それとも二人の犯人の共謀か?病後の静養にきていた変わり種の歴史教師キャロラス・ディーンが、絞首台に送るべき“ジャック”を探り出す。 内容紹介より



石切場で発見された被害者の一人は六十三歳、中流の資産家、砂漠の部族に関する著書があり、自家用車を運転する活動的で友人も多い。自宅で発見されたもう一人の被害者は八十歳前、大金持ちの未亡人、元画家のモデル、芸術パトロンを自認し、教会を訪れる以外はほとんど自邸で過ごす。彼女たちは、ともに仰向けに脚を伸ばした姿勢で横たわり、胸にのせた手には一本のマドンナ・リリーを握っていた。二人は同日の夜更けに連続して絞殺されたと見られるが、接点のない被害者を殺す動機は何なのか、精神異常者の犯行なのか、犯人は単独犯なのか、あるいは複数いるのか?という謎に素人探偵が挑みます。
古典探偵小説にたいする諧謔的な言い回しや定番の状況設定(たとえば、ワトスン役の教え子の存在とか古典特有の関係者一同を集めての真犯人指摘)がよく目に付く点、面白くもない奥さんのジョークを聞かせる校長やさまざまな病気持ちで愚痴の多い駐車場管理人、ベジタリアンでヌーディストの退役軍人夫妻 など奇矯な登場人物の造型、これらの軽さを見ると本書はユーモアミステリの意匠が根底にあるのだと思いますが、やり過ぎにようにも思えてややくどい感じが残りました。『ミンコット荘に死す』においては具合が良かった登場人物それぞれのキャラクター設定と巧みな操り方が本書では見られませんでした。

『ミンコット荘に死す』扶桑社ミステリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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