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『ア・ロング・ウェイ・ダウン』ニック・ホーンビィ 集英社文庫

2019-10-22

Tag :

☆☆☆

大晦日、ロンドンの飛び降り自殺の名所、トッパーズ・ハウスの屋上で、人生に別れを告げようとして上がった失意の男女四人が鉢合わせをする。互いの身の上を語り合ううちに、期間を決めて、もう少し生きてみようかという話になり……。全く違うタイプの男女4人が次第に奇妙な友情をはぐくみ、もう一度人生と向き合おうとする姿を、個性豊かな各々の独白でユーモアたっぷりに描く。 内容紹介より



ニック・ホーンビィの作品は初めて読みました。自殺願望の見ず知らずの男女四人が大晦日にビルの屋上で偶然出会い、なんだかんだで人生をやり直すという単純なプロットの作品でミステリものではありません。
新興宗教みたいに押しつけがましく説教臭い、見え見えなお涙頂戴の感動押しつけな物語というのは遠慮したいけれど、予定調和だけれど、ちょっとだけ心暖まるような話もたまには良いかな、と思って本書を読んでみたら、涙が出るどころか心も暖まらなかったのでした。四人の登場人物の中で、唯一感情移入できるのが寝たきり状態で意思の疎通もできない息子の面倒を見ながら二人暮らしをする五十代の母親だけで、後の三人は大なり小なり奇矯な性格付けがされており、なかでも二人はどうしても死にたいという切実な感じは伝わってきませんでした。ただし、こういうなんとなく感による死への願望が現代的なのかもしれませんが。物語のスタイルは各人の独白形式でなされ、俗語やジョークなどが多用されていて個人的には読み辛かったです。人生というのはそれほど深刻に考えるほどのものでもない、気楽に生きてみたら。遅かれ早かれ皆死んでしまうのだから、みたいな全体的に浮薄な雰囲気が今風なのかなという印象でした。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『アーサー・ペッパーの八つの不思議をめぐる旅』フィードラ・パトリック 集英社文庫

2019-10-16

Tag :

☆☆☆

七十歳を前にして、愛する妻ミリアムを失ったアーサーは、妻が隠していたブレスレットを見つける。ゾウ、トラ、花、本、パレット、指輪、ハート、指ぬき。ブレスレットについた八つのチャーム。そこに秘められた妻の過去を追ううちに、アーサーは不思議な冒険の旅に乗りだしていく。彼を待ち受ける数々の出会い、亡き妻の秘密の物語とは……?読む人すべてを温かな感動で包みこむ驚異のデビュー作! 内容紹介より



一年前に妻を亡くした六十九歳の主人公は、大きな喪失感が癒えないまま、決まりきった習慣を守りつつ、外出することも少なく、我が子を含めた人間関係も希薄な生活を送っています。ある日、妻の遺品を整理していたところ、八つのチャームが付いた見たこともない金のブレスレットを見つけます。決して派手好きでない、つましい生活を送っていた妻の意外な持ち物に困惑しながら、好奇心にかられた主人公はゾウのチャームに小さく刻まれた電話番号にかけてみることにします。そこから彼は八つのチャームにまつわる生前の妻の物語を調べる旅を始めることになります。。実に平凡な人生を歩んできた主人公に対して、調べていくうちに、結婚前の妻がたどった人生は、彼が知っていたと思い込んでいた妻の姿とはとても違っていることが明らかになっていきます。妻を失って以来、主人公が自ら築いた牢獄にこもり、毎日変わりない生活を続けていたことに気が付き、困惑と不安にさらされつつ元の生活に戻る誘惑にかられながらも冒険の旅に挑む老人の姿が描かれています。冒険小説といえば英国が本家ですが、本書も従来とは違った形の冒険小説なのでしょう。また甘いけれど甘ったる過ぎてはいない大人の童話みたいな話です ただ、英国らしい皮肉といった苦みが見当たらないところは、やや物足りなかったように感じました。




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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『連れていって、どこかへ』ローレン・ケリー ハヤカワ文庫HM

2019-09-28

Tag :

☆☆☆

私の顔に刻まれたこの醜い傷痕は永遠に消えないの?数十年たっても変わらぬ傷に悩み、心を閉ざし続けるラーラは、今は自動人形の研究に埋没する倦んだ日々を過ごしていた。そんな彼女に匿名でコンサートへの招待状が届く。そこで出会った粗暴な男ゼドに嫌悪感を抱くと同時に心魅かれ、彼がこの日常から救ってくれることを望む。が、待っていたのは悪夢だった……世界的な有名作家が名を隠して発表した禁断のサスペンス 内容紹介より



本書はジョイス・キャロル・オーツが別名で発表した作品だそうですが、わたしは彼女の作品を読むのは今回が初めてです。主人公の「わたし」は、二十八歳の女性でプリンストン大学の「記号学、美学、文化調査研究所」で自動人形の研究員です。彼女は五歳の頃、母親が運転する車に兄と同乗中に列車との衝突事故に遭い、身体に当時受けた傷痕があります。現在の彼女は母親や兄とは音信不通で、友だちもいない生活を送っています。そんな彼女のもとに匿名でコンサートのチケットが届き、当日隣りの客席に座った見知らぬ男と言葉を交わすことから物語が動き始めます。話は、現在の彼女と幼少時代の彼女との場面転換を繰り返し、嫌悪感を抱きながらも何故か惹かれる謎の男の正体と過去の自動車事故の真相を明らかにしていきます。身体と心に傷を抱える孤独なヒロインの心の揺れを描き、彼女が被害者、あるいは加害者になるのか、そういうサスペンス性が序盤に生じ、同じような傷を抱えた者同士が対決するのか、和合するのか、どういう結末を迎えるのか、緊迫感がたかまってくるのですけれども、それが中盤以降、中途半端になってしまい、奇妙な感覚を残して終わるところに物足りなさを感じました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『サイモン・アークの事件簿Ⅱ』エドワード・D・ホック 創元推理文庫

2019-09-13

Tag : 短編集

☆☆☆

二千年の長きにわたる人生の大半を、悪魔と超自然現象の探求についやす謎の男、サイモン・アーク。本書は彼が対峙した多くの怪事件の中から、著者ホックの自薦作をまとめた、日本独自の短編集第二弾である。大企業が牛耳る街ベイン・シティーで発生した殺人の謎と、大学で進められる遺伝学の研究に隠された秘密をめぐる、本邦初紹介の力作中編「真鍮の街」を始め、カスパー・ハウザーの伝説や宇宙からの侵略者、吸血鬼、ファラオの呪いなどが引き起こしたとしか思えない難事件を、卓越した推理力で解明していくアークの活躍譚、全8編を収録。内容紹介より



「過去のない男」
ある夜、イギリスに忽然と現れた過去を持たない青年。その後、アメリカに移り住み養父と暮らす彼を訪ねるアークに同行した物語の語り手である「わたし」は、雪原をひとり歩いていた彼が「刺された」といきなり叫んで倒れる姿を目撃する。青年は腹部を刺されて死んでいたが、奇妙なことに雪の上には彼の足跡しかなく、凶器も見つからなかった。カスパー・ハウザーの伝説に酷似した異様な事件に挑むアーク。

「真鍮の街」
出張帰りの旧友の家を訪ねた「わたし」に、地元の大学で広報の仕事をしている友人から相談事を持ちかけられる。それは大学教授が行っている遺伝と進化に関する実験のことで、友人はその実験が人類に有害なものだと危惧し、アークに調査して欲しいというものだった。その後、友人の義理の妹が何者かによって射殺される事件が起き、再び「わたし」はアークを伴って友人を訪れる。企業城下町で起きた射殺事件を取り留めなく描いた中短篇。

「宇宙からの復讐者」
ロシアで引退した宇宙飛行士が落雷と思われる事故により死亡した出来事を皮切りに、アメリカの元宇宙飛行士が連続して、同じような状況で変死する事件が発生する。その事件以前にNASAに宇宙人から宇宙飛行士たちが雷神によって復讐されるという警告を行っていた男の存在を知らされた「わたし」とアークは怪事件との因果関係を探る。

「マラバールの禿鷹」
ボンベイを舞台にゾロアスター教の鳥葬を題材にした話。


「百羽の鳥を飼う家」
籠の鳥が幽霊の出る屋敷から幽霊や悪霊を追い払うという言い伝えを信じていた老姉妹の家で起きた殺人事件。夜中に怪しい行動をとる下宿人の男の隠れた正体をアークが暴き出す。トリックが子供騙しみたいな。

「吸血鬼に向かない血」
マダガスカル島で吸血鬼に挑むアーク。闘牛や闘鶏ならぬ闘猪が珍しく、その後の使い方も奇妙な話。

「墓場荒らしの悪鬼」
先祖代々の敷地に妻と息子と住む人物から、敷地内にある家族の墓地が荒らされ、悪魔教のシンボルがその近くで発見されたという相談を受けた「わたし」とアーク。単に墓を暴くだけの犯人の目的とは……。

「死を招く喇叭」
エジプトで発掘された喇叭は、発掘した四十歳代の考古学者がそれを吹いてまもなく死亡し、死因が老衰だったことから呪われた喇叭と呼ばれていた。それが展示されている私設博物館を訪れた「わたし」とアークの間近で喇叭を吹いた所有者の女性が怪死する事件が発生する。その遺体には言い伝え通りにまさしく老化の痕跡を留めていた。

『サイモン・アークの事件簿 Ⅰ』





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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『タイタス・クロウの事件簿』ブライアン・ラムレイ 創元推理文庫

2019-09-10

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆

『ネクロノミコン』『妖蛆の秘密』『水神クタアト』……太古の邪神たちの秘儀を記した魔道書の数々を解読し、その悪しき智慧を正義のために使う男、タイタス・クロウ。魔教の使徒やら不死の魔術師、あるいは数秘術を操るテロリストと戦う彼の全中短篇を一冊に収録。二十世紀最大の怪奇小説家H・P・ラヴクラフトの衣鉢を継ぐ英国ホラー界の重鎮がおくる、連作オカルト探偵小説。 内容紹介より



「誕生」
サハラ砂漠に建つ寺院から〈霊液〉を盗み出した盗人は、教団が放った追跡者〈不死なる死の僧〉に追われてロンドンへ舞い戻る。彼は子供時代の隠れ家だったある建物に逃れ、石室に据えられた石鉢に、汚れなき者を覚醒させるという〈霊液〉をこぼし入れる。タイタス・クロウ誕生のいわれ。

「妖蛆の王」
終戦とともに陸軍省の暗号解読の職を失った主人公は、ある宗教組織の総師が募集した、オカルト文献を整理する仕事に採用される。彼は総師の屋敷に寝泊まりしながら仕事を始めるが、その夜から奇妙な夢を見るとともに、邸内のあちこちで薄桃色の太った蛆虫を見かけるようになる。彼が調べるうちに、古代中東に起源を持つ妖術を用いる妖蛆魔道士の言い伝えにたどり着き自分が狙われていることを知る。

「黒の召喚者」
退屈しのぎに悪魔教団に入団した人物から助けを求められた主人公は、教団を率いる男に自らの命を狙うよう仕向ける。男が唱える呪文によって召喚される〈暗黒のもの〉とは、そしてそれを防ぐ方法は。

「海賊の石」
〈血まみれ斧〉という悪名を持った海賊。彼が戦死した後、母親の魔女が残した墓碑を掘り起こして持ち帰ろうとする友人を止める主人公。彼が列車の窓から見た海賊船とその舳先に立つ骸骨の姿。

「ニトクリスの鏡」
ある古い詩に言及されている女王ニトクリスの鏡。女王が政敵に用いたという魔力を持つとの伝説があるその鏡を競売で落札したクロウの友人の話。

「魔物の証明」
自著の内容にクレームをつけられた主人公は、その人物を屋敷に招待することに。その相手は荒唐無稽な魔物がさも実在したかのように書いていることに不満を持っているらしく 固く口止めして相手に見せた髑髏の由来とは。

「縛り首の木」
主人公が所有している稀覯本を閲覧させてもらうため、深夜の邸を訪れた作家。神秘奇怪な出来事の実話集を著す作家にもかかわらず、彼は幽霊なども一切信じていないと語る。家の梁がきしむような音とともに、主人公が聞かせた縛り首の木の話。

「呪医の人形」
南アフリカの病院で呪医に呪いをかけられた英国人医師 ブードゥー教のような民間信仰の話を捻った作品。

「ド・マリニーの掛け時計」
主人公が所有する奇妙な動きをする四っつの針がある大時計と彼の屋敷に押し入った二人組の強盗の話。金目の物がしまわれていると思った強盗は、棺の形をした時計を開けようとするが。

「名数秘法」
核兵器を使って世界を破滅させようと計画する悪魔の使いと主人公の対決を描いた話。

「続・黒の召喚者」
「黒の召喚者」の後日談。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『クトゥルフ神話への招待 遊星からの物体X』J・W・キャンベルJr. H・P・ラヴクラフト ラムジー・キャンベル 扶桑社ミステリー

2019-09-04

☆☆☆

人類の神のイメージとなった〈旧支配者〉が太古の地球を征服し、それに準ずる神々も存在した。いまは地下や海底や異次元で眠っていいるかれらは復活のときを狙っている……。極地で見つかった謎の生物との壮絶な戦いを描いて三度も映画化された名作「遊星からの物体X」。映画『エイリアン』『プロメテウス』の原型にあたる「クトゥルフの呼び声」。さらに「恐怖の橋」「呪われた石碑」「魔女の帰還」などラムジー・キャンベルの未訳中短篇五本を収録した、待望のクトゥルフ神話アンソロジー! 内容紹介より



「遊星からの物体X」J・W・キャンベルJr.
ホラーSF傑作選ー影が行く』(創元SF文庫)に「影が行く」として収録されている作品の新訳版です。エイリアンが登場するサバイバルSFホラーの先駆けといえる傑作ですが、まったく経年劣化していません。いわゆる従来の呪われた屋敷で起きる怪奇現象型ホラーとは対極にあるサイエンス・ホラーであり、科学者たちが南極基地において知性を用いて異星人に挑むという斬新さがその原因だと思います。

「ヴェールを破るもの」ラムジー・キャンベル
禁忌を侵す者の行方。人が見ているものは、実際には姿形がゆがめられて見えているのではないかと考えている男が、偶然知り合った黒魔術の研究家に招かれ、物の形をゆがめているヴェールを破る実験に参加します。彼ら二人がヴェールの下に見た物とは……。ちょっと迫力不足な感じがしました。

「魔女の帰還」ラムジー・キャンベル
近隣の住人から魔女だと噂されていた老女が亡くなり、遺された屋敷を買いとって住むことにした作家は、開かずの部屋を開けてしまう。その夜、彼は墓地に埋められた柩を掘り起こし屋敷に持ち帰るという奇妙な夢をみます。タブーを侵して、死んだ魔女に操られる男の話。やたら親切な医者が都合良く現れるのもちょっと無気味かも。

「呪われた石碑」ラムジー・キャンベル
自死した父親が遺したファイルに入っていた、ある小島に祭られている古代の石碑についての資料を見つけた息子は死の理由がその石碑にあることを知る。それは過去から現在までの島にまつわる奇妙な事件や出来事についての資料だった。それを確認するために彼はひとりボートに乗り、島に上陸する。それ以後、彼の周りに宙に浮かぶ胴体の無い顔が現れ、しかもその数が増えていく。

「スタンリー・ブルックの遺志」ラムジー・キャンベル
余命幾ばくもない男が遺産を弟姉妹に遺すという遺言状の内容を書き換え、遺産のすべてをある受取人に遺すという。遺族がまったく会ったこともないその受取人は故人に瓜二つの男だった。血管が透けて見えるほど青白い肌をした男の正体は。

「恐怖の橋」ラムジー・キャンベル
魔性のものが棲む地下都市への封印を解いたために、町を襲った恐怖の災い。

「クトゥルフの呼び声」H・P・ラヴクラフト
怪物をかたどった小像が示す人類以前の遥か昔に地球を支配していた邪悪なもの。彼らは深海で復活の時を待っている。人が夢の中、あるいは実際に垣間見た太古の怪物たちの話。「クトゥルフ神話」の世界観、その基本がとても判りやすく現わされていると思います。

ユーザータグ:ホラー アンソロジー





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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『邪魔な役者は消えていく』サイモン・ブレット 角川文庫

2019-08-17

Tag :

☆☆☆

チャールズ・パリス、47歳。アル中気味の売れない役者である。彼が女優ジャッキの、冷たくなった愛人との仲を取りもってくれという頼みを引きうけたのは、最近ひまなせいもあった。ジャッキは彼に、数枚のいかがわしい写真を託した。彼女が買いとった脅迫写真である。それを渡して彼を安心させようにも、電話にも出ないという。引き受けたものの相手は難物だった。彼女の愛人とは、英国興行界の大ボス、マイルズ・スティーンなのだ。パリスは役者の特技、扮装・声色・演技力を動員して、マイルズへの接近を図った。だがその居場所さえつかめない。意を決してマイルズの別荘へ忍びこんだ彼は、大事件への発展を予想させる恐るべき発見につき当った…。 内容紹介より



本書は俳優探偵チャールズ・パリス=シリーズの第一作目にあたります。主人公の妻のフランシスとは別居中、娘のジュリエットには退屈な夫がおり、旧友で金儲けが趣味である弁護士ジェラルド、このような設定はすでに確立しています。本書では、第三作や四作目には(たぶん)見られなかった、ルパン並みに変装して聞き込みをするシーンがあって、役者探偵らしさを感じさせます。犯行動機にもなかなかの捻りが加えてあって意外性がありました。個人的に地味に可笑しいのは、主人公がかつて出演した各演劇(演技)にたいするメディアによる劇評が小さなコメントとして折に触れて記され、それが結構辛口だったりするところです。殺人事件や誘拐事件が発生し、主人公自身も銃撃されたりするのですけれど全体的にはこじんまりしたユーモアミステリの印象です。ただ、これが英国風なのかお色気シーンがなまなましく感じました。

『スターは罠にご用心』
『殺しの演出教えます』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『警視の覚悟』デボラ・クロンビー 講談社文庫

2019-08-14

Tag :

☆☆☆

亡き元妻と住んでいた息子・キットの親権も得て、警視キンケイドの一家は真の家族になりつつある。一家はキンケイドの故郷に里帰り。キットは従姉・ラリーに恋心を抱く。そこに乳児の遺体が見つかり、新たな殺人事件も発生。ラリーの友人の事故死にも疑惑が生じる。子どもが標的になる時、親ができることとは? 内容紹介より



シリーズ十一作目。クリスマス休暇でキンケイドの実家に戻った一家ですが、キンケイドの妹が手がけている農家の改築現場で乳児の年月の経過した遺体が発見されるという事件が起きます。物語は主人公たちが協力する捜査と並行して、彼ら一家に生じる様々な感情、妹夫婦間の不和と娘が持つ秘密、ナロウボート(運河用平底船)に暮らす家族とかつて彼らにたずさわった元ソーシャルワーカーの女性が抱える苦悩、こういった様々な心理描写がなされて進みます。ただ今回は公的機関が家族に介入するうえで生じる問題を主なテーマに絞るべきで、収賄とか青少年の薬物汚染や社会病質については余計に感じるほど詰め込み過ぎた印象を受けたし、これにそれぞれの心理描写が書き加えられるのですから、さらに若干の煩わしさを感じてしまいました。従来持っている著者の良い一面が本書ではマイナスになってしまったみたいな気がしました。

『警視の週末』
『警視の孤独』
『警視の偽装』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ブラディ・リバー・ブルース』ジェフリー・デーヴァー ハヤカワ文庫HM

2019-08-08

☆☆☆

急に開いた車のドアにぶつかり、ペラムは持っていたビールを落としてしまった。壜は壊れ、ビールは排水溝に。だがペラムの不幸はそれで終わりではなかった。ビールを台無しにした男たちが、その直後に組織犯罪告発の重要証人を射殺したのだ。ペラムは目撃者として、警察やFBIばかりか、殺し屋にも追われることになる。じつは何も目撃していないのに……映画ロケーション・スカウト、ジョン・ペラムを襲う最大の危機! 内容紹介より



本書は1993年に発表された「ジョン・ペラム」シリーズの第二作です。有名な映画賞の受賞経験もある元映画監督で、現在は日本でいうところのロケーション・ハンティングを生業としている主人公ですが、映画製作の夢を諦めていないという設定です。主人公がビールを買い出しに行った帰りに偶然に出くわした人物が、その直後、ある裁判の検察側の重要証人を射殺した事件の容疑者になったことから物語が始まります。殺し屋が降りてきた車に同乗していた殺しの依頼人とみられる人物の顔を主人公が目撃しているに違いないと決めつける警察にFBIも加わって証言するよう迫るうえに、さらに口止めを狙う殺し屋の影も……。犯人たちによって脅されたか金を貰ったかして口をつぐんでいると思い込んだ警察やFBIから嫌がらせを受けますが、しかし主人公は実際に何も見ていなかったのです。まず、映画ロケーション・スカウトという仕事内容が目新しくて興味深く、また映画製作の現場の様子も面白く読めました。捜査機関による理不尽な仕打ちを受ける主人公のほかに、殺し屋コンビと依頼人や事件の巻き添えになって負傷した警官などの様々な視点から描かれるお決まりのサスペンスです。相次ぐどんでん返しみたいな話も良いのですけれど、たまにはこういう物語も肩が凝らずに楽しめます。

ユーザータグ:ジェフリー・ディーヴァー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺す男』ミッキー・スピレイン ハヤカワ・ミステリ

2019-08-05

Tag :

☆☆☆

マイク・ハマーが事務所のドアを開けたとき、そこに見たものは、血まみれの秘書ヴェルダと、見知らぬ男の惨殺死体だった。男はハマーの椅子に縛りつけられたうえ、両手指を切断されていた。机の上には、“俺を殺したから、お前は死ぬのだ—ペンタ”という置き手紙。だが、ハマーの身に覚えはなかった。いったいペンタとは何者か?何の目的でこんな酷いことを?愛するヴェルダを半死半生の目に遭わされ、復讐を誓うハマーは、自らを囮として捨て身の調査を開始。ペンタがCIA局員を殺しており、また事務所で殺された男が元暗黒街の人間だったことをつきとめる。謎をめぐり美人検事補、CIA、FBI、国務省、マフィアが入り乱れるなか、やがてハマーが知る意外なペンタの正体とは!19年の空白を経て、探偵マイク・ハマーが甦った!巨匠スピレインが、冷酷な殺人を繰り返す暗殺者を追うハマーの壮絶な闘いを痛快に描く、ファン待望の最新作。 内容紹介より



典型的な私立探偵小説の体裁をとり、マフィアとコカインという定番の要素を組み入れ、そこに国際的な暗殺者を持ちこみ、CIAを混ぜる新機軸を盛り込んでいます。と言っても、わたしはマイク・ハマーものを読んだ覚えがないので適当なことを言っているのですけれど。冒頭、殺人現場となった探偵事務所に残された謎のメッセージには興味を引かれますが、主人公がうろちょろして、あちらこちらで聞き込みとも言えない無駄話をしているハードボイルド定番の展開が100ページあたりまで続き非常に退屈でした。“卑しき街を行く孤高の騎士”という従来の私立探偵像というものが、時代の変遷に伴っていかに浮いた存在になっているか、絶滅危惧種の生態を観察しているような前半から、意外な組み合わせの謎が解けていく後半は徐々に流れも良くなってクライマックスを迎えます。脅しと銃による聞き込みは、パソコンとネットに頼る情報収集というものに代わり、やがて美人検事補や魅力的なCIA局員とのやり取りはポリティカルコレクトネスによって糾弾される事態に陥るでしょう。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『異国に死す』ドナ・レオン 文春文庫

2019-07-21

Tag : ダナ・レオン

☆☆☆

死体は運河のくすんだ水にうつぶせに浮いていた—被害者はアメリカ人青年。単なる物取りの犯行と決めつける上司にさからい、ブルネッティ警視は執拗に事件を追うが、その背後には巨大な闇の力が存在していた!サントリーミステリー大賞受賞作家が、観光都市ヴェネツィアの素顔と多彩な人間模様を丹念に描きこんだ異色作。 内容紹介より



著者は、グイード・ブルネッティ警視 シリーズの第一作目である『死のフェニーチェ劇場』(文藝春秋)でサントリーミステリー大賞、『ヴェネツィア殺人事件』(講談社文庫、著者の表記はダナ・レオン)でCWA賞を受賞しています。本書は1993年に発表されたシリーズ第二作目にあたります。イタリア在住の作者による、部外者のフィルターがかかったヴェネツィアという華やかで賑やかな世界的観光地の観光客の目に触れない裏側や影の部分、風土や住人気質が良く描かれているように感じます。家庭においては思いかけず手に入った大金の使い道(娘のパソコンや家族旅行)をあれこれ悩んだり、思春期の息子の初恋にうろたえたりと、どこにでもいる夫であり父親で、仕事では地道な捜査を続ける公務員タイプの主人公ですが一本芯が通った正義感の持ち主です。そんな彼が手がける事件は、イタリアにある米軍基地に所属するアメリカ兵刺殺事件です。手がけるうちにイタリア社会に存在する暗部に足を踏み入れてしまうことになります。巨大な闇の力、隠然たる勢力に対して、主人公はどのように立ち向かうのか。諦観と義憤のなか、力の及ぶ限り筋を通そうと努める姿が印象に残る作品です。深く大きな闇を背景にした普通の家庭(人)を描くのが本シリーズの基本テーマなのでしょう。

『ヴェネツィア殺人事件』講談社文庫
『ヴェネツィア刑事はランチに帰宅する』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『サイレント・スクリーム』アンジェラ・マーソンズ ハヤカワ文庫HM

2019-07-06

Tag :

☆☆☆

私立校の校長が何者かに溺死させられる事件が発生。現場の傍の木々には犯人によるものと思われる不可解な放火が。型破りな女性警部キム・ストーンは、被害者がある荒れ地の発掘調査に関心を示していたことを突き止める。その土地の一画には被害者がかつて勤めていた児童養護施設が残されていた。十年前に火災で閉鎖された施設の実態を追うキム。そこに第二、第三の事件が―! 現代英国ミステリ界最注目の警察小説。 内容紹介より



主人公は三十四歳の女性警部。愛車はカワサキ・ニンジャ。幼少時の悲惨な体験から他人に対して心を閉さす傾向があり人間関係が苦手です。しかし、警察官としての能力は優れており、三人の部下とともに殺人事件の捜査を担当します。女性校長殺人事件の後、さらにたて続けに殺人が起きていずれの犠牲者もかつて児童養護施設に勤めていたことが判明します。やがてその施設に隣接する土地に持ち上がった発掘計画が事件と関わりがあるのではないかという疑いが浮かびます。次々と犠牲になる元施設職員たちがひた隠しにしていた秘密とは……。虐待を受けて保護された子供たちへの行政からの支援と直接彼らに接する職員たちの実態が話の核となり、同様に幼少時代に虐待の経験を持つヒロインの過去が重ねられて進んでいきます。さらにサイコパスから法医人類学まで絡んでくる警察小説で、なかでもやはりヒロインのキャラクターが目立ちます。彼女と部長刑事との会話がちょっと浮き気味な感じも受けましたし、部下たちのキャラが薄い気もしました。あまり英国風な雰囲気が感じられないし、警察小説として抜きん出たものがあるかというとそうでもないような印象でした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『眠る狼』グレン・エリック・ハミルトン ハヤカワ文庫NV

2019-07-03

Tag :

☆☆☆

帰ってきてほしい—十年前に故郷を離れ、海外で軍務についていたバンのもとに、ずっと音沙汰のなかった祖父からの手紙が届く。プロの泥棒である祖父の弱気な言葉に胸が騒いだバンは、急ぎ帰郷した。だが到着した彼を待っていたのは、頭に銃撃を受けた祖父の姿だった!人事不省の祖父をまえに事件の真相を追う決心をしたバンは祖父の仕事仲間に協力を仰ぐ……ミステリ賞三冠を制した昂奮と哀愁がクロスするサスペンス 内容紹介より



子供の頃母親と死別した主人公は祖父に引き取られ二人で暮らし始めます。祖父は強盗や窃盗を生業とし、少年だった主人公にその技術や手口を教え込み、酒場の共同経営者のかたわら、やがて二人で組んで泥棒稼業を行います。ストーリーは、そんな子供から青年時代にかけての主人公と祖父のエピソード(哀愁部分を担う)を挿んで進みます。二十八歳になった現在の主人公は陸軍のレンジャー部隊の軍曹でイラクやアフガニスタンでの戦闘経験の持ち主です。しかし、その軍歴を背景にしたような過激な銃撃シーンやアクションはほとんどなく、全体の雰囲気はハードボイルドよりです。物語は祖父の自宅に仕掛けられていた盗聴器を発見することから進み始め、祖父の昔の仕事仲間の助けを借りて容疑者を追ううちに、地元で起きたダイヤモンド強奪事件が浮かび上がってきます。「ミステリ賞三冠」という言葉に引かれて読んだ訳ですが、個人的にハードルをあげ過ぎてちょっと残念でした。祖父のしっかりとしたキャラクターに比べて、主人公のそれに物足りなさを感じたのは彼の年齢設定にあるのかどうなのか、渋くもなくかといって初々しくもなく中途半端な造形のような気がしました。ただし、シリーズ物なのでこれから変化していくのかもしれません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『氷の天使』キャロル・オコンネル 創元推理文庫

2019-06-30

Tag :

☆☆☆

キャシー・マロリー。ニューヨーク市警巡査部長。主にコンピュータ・ハッキングで発揮される天才的な頭脳と、張り込みや尾行ができないほどの鮮烈な美貌の持ち主。盗みと逃走に明け暮れ、孤独を友とした幼年時代ゆえに心に深い傷を持ち、感情を他人に見せることはない。彼女には善も悪もない。あるのは目的の遂行だけ。里親である刑事マーコヴィッツが捜査中に殺され、勝手に捜査を引き継いだ彼女は、裕福な老婦人ばかりを狙う連続殺人鬼を追いはじめる。怪しい霊媒、大魔術師の未亡人、自閉的なチェスの天才児……奇矯な人物の絡み合いに隠された真実は?ミステリ史上最もクールなヒロインの活躍を描くシリーズ第1弾! 内容紹介より



連続殺人事件を捜査中に三人目の犠牲者とともに刺殺された警視、それがヒロインの養父です。被害者の身内ということで捜査から外され、強制的に休暇をとらされた彼女は、故人の遺した捜査メモや同僚刑事から得た捜査情報をもとに単独で犯人を追い始めます。触れなば凍傷を負いそうなクールなヒロインの際立つ個性、それを回りの知人、同僚たちによって浮かび上がらせる手法がシリーズ一作目から確立されている印象です。さらに奇矯な登場人物たちを配し、彼らのいわく付きの過去を背景に置くことで目くらましを行う趣向もこのシリーズの特徴のひとつなのかもしれません。本書では、興行中に事故死した魔術師の霊能力を持つ未亡人、日常生活の能力に欠ける天才チェスプレイヤー、ある事件の被害者でトラウマを負うその従妹、奇態な霊媒師など、彼らと彼らの物語がいかにして真相へと収束していくのか、読んでいて予想が付きかねるくらいに各面々がページ上に放散していきます。その構成がやや読みづらさを感じさせるのかもしれません。コンピュータとネット社会の申し子的なヒロインがすごく今風な印象を与えています。

『死のオブジェ』
『陪審員に死を』
『愛おしい骨』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『遭難信号』キャサリン・ライアン・ハワード 創元推理文庫

2019-06-27

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☆☆☆

アイルランドの小さな町で、ハリウッドを夢見て脚本を書き続けてきたアダム。恋人のサラが仕事でバルセロナに出張し、まったく連絡がとれなくなってしまう。だが出発から数日後、アパートにサラのパスポートが郵送されてくる。それには「ごめんなさい—S」とサラの字で書かれた付箋が貼ってあったが、封筒の文字は別人のものだった。彼女に何があったのか?アダムは恋人を追い、手がかりをもとに地中海クルーズ船に乗り込む。千以上もの客室を持つ豪華客船で暴かれる、予想外の真実。巧みな構成力と謎解きの妙味を味わえる衝撃のサスペンス! 内容紹介より



主人公アダム、セレブレイト号の客室係、ミロという少年、この三人の視点で物語が展開していきます。客室係は船内にいる人物を密かに捜すという目的を持っているらしく、一方少年については母親に疎まれている不幸な生い立ちが描かれていきます。ハリウッドに脚本が採用されてやっと才能が日の目を見た時、 主人公の不遇な時期を支えてきた恋人が出張先で突然連絡が取れなくなってしまい、彼女のパスポートが別れを匂わすメモとともに彼の元へ郵送されてきます。自分のみならず両親、親友とも連絡を絶った彼女の行動に疑問を持った主人公は警察へ捜索願を提出するのですが、事件性がないことを理由に真剣に取り合ってくれません。やがて恋人の親友から意外な事実を打ち明けられるのですが……。その後、同様な経験をした人物とともに客船に乗り込み、調査を始めることになります。
船上で起きた事件や事故を揉み消そうとしがちな船会社の思惑と船籍や捜査権の関係でそれが行いやすくなっている点など豪華客船が抱える影の部分が物語の核となっています。その闇に飲み込まれたかのような恋人の行方を追う、ヒーロー然とは異なる主人公の憔悴し精神的に追い詰められていく等身大の姿が印象的です。彼以外の二つの視点で描かれる話が失踪事件とどう交わってくるのかという興味も引かれます。ただ、その設定が非常に効果を及ぼしているかというと残念ながらインパクトが弱くて付けたした感があるような気がしました。話の展開が最終盤でやや強引であり、事件の真相も捻りは加えてあるものの衝撃度はそれほどではなかったです。




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