『チーズフォンデュと死の財宝』エイヴリー・エイムズ コージーブックス

2016-10-14

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☆☆

財宝が眠ると噂される19世紀のワイナリー。町に残るこの不気味な廃墟を大学に改装する計画が持ちあがり、資金集めのイベントがワイナリーで開催されることになった。チーズ専門店のシャーロットはケータリングを頼まれ、豪奢なダイニングに用意した店自慢のチーズフォンデュとワインは大好評。ところが館の不吉な雰囲気が災いしてか、次々とイベント参加者が諍いを起こし、余興の宝探しゲームが始まると、ついに殺人事件が!地下の貯蔵庫で、イベントに参加していた美術学生の遺体が見つかったのだ。死体のそばにちらばっていた宝石は噂の財宝?それとも……!? チーズの解説&美味しいレシピが満載のシリーズ第2弾! 内容紹介より



〈チーズ専門店〉シリーズ2。
シリーズ一作目の『名探偵のキッシュをひとつ』は未読です。
シリーズタイトルのとおりチーズ専門店のオーナーをヒロインにした、いわゆる飲食系コージーミステリです。イベント会場で事件が起きて、身内が疑われたため主人公が調査を始める。そして間一髪で真犯人を捕まえる、というオーソドックスな悪くいえば代り映えのしないストーリーです。
登場人物が多いうえに、ひとりが引っ込んだと思ったら別の人物が登場してきて、入れ代わり立ち代わりに現れるというせわしなく感じる展開が、シチュエーションコメディや吉本新喜劇の舞台みたいだと思っていたら、作者は「一時期女優をするかたわら、テレビ・ドラマの脚本も手がけていた」(訳者あとがき)のだそうです。あえてやっている手法なのか癖なのかは判りませんが、ほとんどこういう具合だと一場面が長くなって読んでてちょっと疲れます。強弱というか高低というか、リズムを変化させたほうが良いように感じました。それから多すぎる登場人物の整理も必要ではないかと。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『クッキング・ママの検屍書』ダイアン・デヴィッドソン 集英社文庫

2016-07-24

Tag :

☆☆

定収入のあるシュルツ刑事と結婚したとはいえ、経済的に自立をしたいゴルディ。悪天候にもかかわらず、料理を車に積んで親友マーラが投資する金鉱のパーティへ、だが、マーラが恋人トニーの会社の共同経営者アルバートと大喧嘩。おまけに二人が行方不明になって警察はマーラを疑い始めた……。親友の危機にまたもやママ探偵が事件の渦中に。今度のお手並みは!? 内容紹介より



過去にもいかがわしい投資計画でもって資金を集めている投資会社の共同経営者の二人が、今度は金鉱への投資資金を集め始めたものの、試金分析結果が故意に実際よりも良く報告されていると指摘したヒロインの親友と共同経営者の一人とが口論になる。その後、その経営者が会社の金を無断で引き出して行方をくらまし、さらにもう一人の経営者も事件に巻き込まれたと思われる状況で姿を消してしまう。そして二人の失踪に関連があると疑われたヒロインの友人が逮捕される事態に……。そういうわけで心臓に病を抱える親友を助けようと、ヒロインが立てたのがかえって心臓に悪いのではないかと思えるくらいのとんでもない仰天計画です。筋金入りの軍人である、刑務所帰りの将軍と警察犬になれなかった落ちこぼれの犬が絡む追跡劇は、それまでの凡々たるコージー・ミステリのムードを一変させる刺激的な展開になっています。アクションとしては面白いところがあるけれど、ミステリとしては相変わらずのレベルです。

ダイアン・デヴィッドソン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黄金の蜘蛛』レックス・スタウト ハヤカワ・ミステリ

2016-05-31

☆☆

その夜も、ピートは35番街と9番通りの交叉点で車の窓拭きに精を出していた。赤信号で止まった車に駆け寄り、ぼろ布で窓をひと拭き―運がよければ、10セントのチップをはずむ運転手もいる。だが、そのキャディラックは様子が変だった。運転席に坐った女は声を立てず、口をしきりに動かしてピートに訴えかけた―「助けて。警官を呼んで……」ピートが呆然としているうちに、異変に気づいた同乗の二人の男はピストルらしきもので女をこづき、車はそのまま走り出してしまった。女の頬にあったかすり傷と、耳につけた大きな金の蜘蛛のイヤリングの強烈な印象だけを残して……。12歳の少年ピートが訪ねてきた夜は、たまたまネロ・ウルフの虫の居どころがよくなかった。フリッツのつくったつぐみ料理が珍しく気にいらなかったのだ。ウルフとアーチーは、ピートの話をまともに聞きもせず少年を帰してしまった。そして翌日、ピートが車にはねられて死んだというニュースが伝えられた。しかも、少年をはねて逃走した車のナンバーは、昨夜少年がひかえておいたキャディラックのナンバーと完全に一致していた!貯金箱の4ドル30セントをネロ・ウルフへに依頼料に、と言い残して死んだ少年。蜘蛛のイヤリングをつけた謎の女をめぐる連続殺人に、美食と蘭を愛する名探偵ウルフと、その助手アーチー・グッドウィンが挑む! 内容紹介より



ちゃんと較べたわけではありませんが、同時代の本格推理作家の作品と違って、警察はネロ・ウルフ及びその助手アーチーの探偵活動を良くは思っていないのではないかと思いました。本格物によくある、探偵が警察のアドバイザー的な立場をとるという設定は、少なくとも本書では見当たりません。内容については、アーチーが拷問と言ってもいいような手荒なやり方で悪者に自白を強いる場面以外には、やたらと人が車にひかれて殺される事件が多いことと蜘蛛のイヤリングだけしか読後の印象として残りません。謎が複雑に絡み合っているわけでもないし、真犯人の造形はかなりずさんです。また、古典とはいえ指紋の採取などをはじめとして科学捜査に言及していないところには違和感がありました。安楽椅子探偵の部分は文字通り動きが止まって退屈、アーチーの軽口は今回は他と違ってましなほうでしょう。

タグ:レックス・スタウト




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テーマ : 推理小説・ミステリー
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『ロマンス作家「殺人」事件』エリザベス・ピーターズ 扶桑社ミステリー

2016-05-25

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☆☆

ニューヨークで開催中の、歴史ロマンス作家大会にもぐりこんだジャクリーン。そのパーティの真っ只中、参加者のスキャンダルを追っていた女性コラムニストが変死を遂げる。自然死か、それとも殺人か、容疑のかかる作家や出版関係者は、いずれおとらぬクセモノぞろい。奇人変人の群れをかいくぐって、素人探偵がたどりついた事件の意外な真相とは?『ベストセラー「殺人」事件』に先立つジャクリーンの大活躍。MWA賞受賞作家による大好評ユーモア本格ミステリー第三弾! 内容紹介より



『リチャード三世「殺人」事件』では程よかったヒロインのキャラクターが、本作ではその可愛げのない辛辣ぶりが鼻についてしまいました。逆に、才気煥発、独立心が強く、男性と対等で媚びない性格は女性読者受けは良さそうな気がします。登場人物に、作家やエージェント、出版社社員だけでなく、作家を信奉するファンやファンクラブの会長、作家のスキャンダルを探るコラムニスト、それから、ロマンス小説は女性蔑視を助長しているとして会場でデモをする女権運動家たちを配してバランスのとれた人物相関図を作っています。そして、ヒロインはロマンス小説におけるお決まりのパターンを皮肉ったり呆れたりしながらも、それが大金を生むとなると早速自分でも書き始めるというフットワークの軽さを持っています。
事件の関係者と刑事を一同に集めて謎を解いてみせる、本格古典のスタイルをとっていますが、提示するのは状況証拠ばかりで、真犯人がどうしてあれほどうろたえるのか、読んでいて不思議に思えるくらい脆弱な内容の告発ですから、犯人にヒロインを襲わせるスタイルを用いたほうが、成り行きによってはロマンス小説へのアンチテーゼとしての展開になったのかも……。

『リチャード三世「殺人」事件』




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ジャンル : 本・雑誌

『弔いのイコン』ゲイリー・ヴァン・ハース ランダムハウス講談社

2016-05-22

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☆☆

関わった者は謎の死を遂げる―ツタンカーメンさながらの逸話を持つ、ギリシャの教会にある「奇跡のイコン」。画家ガースの元に美術品売買をしているリックから贋作の依頼があった。不吉な噂を知りつつも引き受けミコノス島へ飛ぶと、待っていたのは旧友が精神を病んだという知らせ。その友人は急死し、さらにイコン絡みの仕事をしていたことも明らかに……。不可解な死とイコンの謎に挑むエーゲ海を舞台にした冒険ミステリ! 内容紹介より



フェンシングの試合、カーチェイス、銃撃、という出来事、事件を最初の17ページに詰め込んで、購買者または読者の興味を引こうとする手法で始まり、さらにラブロマンス、セックス、ゲイ、そしてまたカーチェイス、銃撃、殺人、それぞれの事件の合間に、ミコノス島のリゾート地観光案内も挿む 読者へのサービス精神。さらに超自然的な力を秘めたイコンでホラー風味も付けようと目論み、キリスト教にまつわる衝撃的な秘密も匂わせる。確かに冒険小説の体裁を整えてはいますけれど、派手な打ち上げ花火に見えても所詮は、旧来のアイテム頼り、小手先のテクニックに終止してしまっている印象しか受けませんでした。著者は本書で小説家デビューしたジャーナリストらしいのですが、冒険小説ってのはこんな具合だろう、みたいな固定観念がうかがえて、全体に軽くて魂が入ってない。これは 中年に差し掛かった主人公にも言えることで、美男子だとかフェンシングの達人だとかピアノも弾けますよだとか付随的なことはどうでもよくて、凡庸でもいいし、強烈な個性の持ち主てもいいし、とにかく印象に残るような造形を作り上げなくてはならないと思います。 




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ジャンル : 本・雑誌

『冬山の追撃』デイヴィッド・ポイヤー 創元ノヴェルズ

2016-02-15

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☆☆

狩猟に反対し、銃など手にしたこともない息子が、雪深い森のなか死体で発見された。大学教授の父親は、狩猟事故と断定した狩猟監督官の判断に疑問を抱き、みずから犯人捜索に向かう。だが、まず犯人は見つからないだろうと説明を受け、逆上した。そして犯人に対する怒りがハンターそのものに対する怒りへと膨れ上がった彼は盗んだライフルでハンターたちを片っぱしから射殺し始めた。冬山を舞台に繰り広げられる決死の追跡劇! 内容紹介より



よそ者に対して排他的でありながら、狩猟期間中はハンターたちが町に落とす金に依存して暮らす住民たち。そして、単なる娯楽として動物を狩るためにやって来るハンターたち。狩猟反対活動をしていた息子の死を契機に、復讐として、また、狩猟を止めさせるために父親がハンターを狩り始める。その真相に気づいた老ハンターが彼を雪山に追うという狩り狩られるマンハントの話。
ジャンルとしては冒険小説になるのでしょうがほとんどときめかない。その原因は、主人公のひとりである父親が罪もないハンターを射殺してまわるという理不尽さにあるのですけれど、さらに老ハンターともども二人の追想、内省、傍白が多いことでテンポが間延びして感じられることにあるような気がしました。単なる自然描写については優れていると思うのですが、自然から受ける困難や野生動物との絡みなど、対決する二人以外のエピソードが乏しく、たたみ掛けてくる迫力に欠けている印象を持ちました。




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ジャンル : 本・雑誌

『凍てついた夜』リンダ・ラ・プラント ハヤカワ文庫HM

2016-02-12

Tag :

☆☆

酒を飲めば、すべて忘れられた。捜査中に少年を誤殺したことへの罪悪感も、それが元で警察を馘になったことも、愛する家族を失ったことさえ……ロス市警の元警部補ロレインは、酒に溺れ、街をさまよい、ついには売春婦に身を落とす。が、六年後、連続殺人事件に巻き込まれたことから、彼女は人生をやり直すことを誓う―どん底まで落ちた元女性警部補の、自己再生を賭けた捨て身の戦い。心を熱く揺さぶるハードボイルド 内容紹介より



シリーズ第一作目の本書は著者の初めてのミステリ作品だそうです。
家庭や仕事のストレスから酒を飲み始めたヒロインは、パートナーだった刑事が殺されたことでさらに酒に溺れ、ついに丸腰の少年を誤って射殺してしまう事件を起こし警察の職を追われ、社会の底辺に堕ちていきます。そんな彼女が居候先の元アル中患者の女性の助けを借りて、酒の誘惑と戦い、自身も被害者になりかけた連続娼婦殺人事件の犯人を追うという物語です。
作者は脚本家出身なのでストーリー運びにそつが無く、630ページあるにも関わらず内容にダレた箇所もさほどなくすらすらと読めました。ただ、再生物語については意表を突くような展開にはならず、やや物足りなさを覚えました。しかし、それ以上に気になったのは、ミステリ部分のあっけなさであり、付け足したかのような冗長な最後半部分です。犯人と対決する取調室でのシーンは何の捻りもなくスリリングさもなく終わり、しかもそのパターンが二回も繰り返されるという芸の無さでした。




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ジャンル : 本・雑誌

『雪 殺人事件』スジャータ・マッシー 講談社文庫

2016-01-20

Tag :

☆☆

日系アメリカ人のレイ・シムラは東京で働く英語教師。正月休みの旅先で、同宿のサラリーマンの妻が殺された。誤認逮捕された弁護士と共に犯人を追うレイに魔の手が迫り、第二の殺人が。事件はハイテク・スパイ戦のもつれか、それとも不幸な家庭関係の果てか。日本を舞台にした本格ミステリー、鮮烈デビュー作。 内容紹介より



「ボルチモア・サン」紙の記者を経て、夫とともに来日し、英語教師をしていたこともある著者のシリーズ第一作目です。二作目の『月 殺人事件』以降は翻訳が止まっています。ミステリとしてデビュー作らしくストーリー進行がぎくしゃくして拙い印象を受けたし、なかでも訳出の問題なのか会話部分がこなれていない気がしました。それから著者がいつごろ来日していたのか分かりませんが、描かれている日本の様子が昭和風で古めかしく、異国情緒を強調するために社会や風俗を誇張しているのでしょうけれど、取り上げられている文化や習慣も時々首をかしげるような箇所が見られました。造形が今ひとつで人物だけがわらわらと登場し、取ってつけたようなサスペンスシーン、プロットが整理しきれていないミステリの部分を考慮すると、本書のアガサ賞新人賞受賞は異国趣味というバイアスが選考委員に多大にかかっていたのではないかと勘ぐりたくなります。



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『とんでもないパティシエ』J・B・スタンリー RHブックスプラス

2015-11-05

Tag :

☆☆

父ジャクソンとミラの結婚式が迫り、ジェイムズは新居探しとダイエット再開に奮闘中。気ぜわしい日々のなか、ミラの妹が結婚式のためにやってきた。彼女はなんと「お菓子の女王」と呼ばれる有名なパティシエだった!作るものはたまらなくおいしいのに、毒舌、わがまま、やりたい放題の女王に町中がうんざり。ところが彼女の死体が発見され……。嘆き悲しむミラをなぐさめようと、〈デブ・ファイブ〉のメンバーは、死の真相を突きとめるべき立ち上がった! 内容紹介より



〈ダイエット・クラブ〉シリーズ5。
読む順番が前後しましたが、シリーズ最終巻『カップケーキよ、永遠なれ』のひとつ前の作品です。
主人公の人柄と親子、友人たちとの人間関係の妙で読ませる、良い意味で緩くて生ぬるいこのシリーズですけれど、今回は父親の再婚、ダイエット・クラブのメンバーのテレビ出演、主人公の元恋人による暴露話風な本の出版といった事態が迫っている中で事件が起きます。さらに主人公の身にも一大事が振りかかるという、ハプニングやドラマには事欠かない展開でした。また、ダイエット・クラブのメンバーの結束とともに、彼らが暮らす町への住民たちの誇りという一面も描かれています。
ミステリについては相変わらずこれといって触れるようなものはありません。作品の雰囲気からすると、ナンシー・アサートンの〈優しい幽霊〉シリーズみたいに、特に殺人事件を起こさなくても良いのではないかとも感じました。まあ、シリーズは終わったわけですけれど、コージー諸作品の中でも稀な趣を持ったシリーズでした。

J・B・スタンリー



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『ミステリ作家の嵐の一夜』G・M・マリエット 創元推理文庫

2015-10-28

Tag :

☆☆

ミステリ作家とその卵、ファンや作家エージェントの交流会である病院到着時死亡会議。話題の的は、デビュー作が爆発的ヒットとなったキンバリー・カルダーだった。その会期中に、彼女の成功を祝う出版社主催の宴が古城ホテルで開かれることに。だが、同業者たちの妬みが渦巻く嵐の夜、停電で跳ね橋が動かなくなり半ば孤立した城で惨劇が……。容疑者の大半が嘘をついて生計を立てている作家とミステリに詳しい者である難事件に挑む、セント・ジャスト警部。欧米の出版事情をコミカルに描きつつ、巧みに伏線を忍ばせた、傑作犯人捜しミステリ。 内容紹介より



巻頭の登場人物欄にそれぞれの人物評や関係が短文で紹介されていて分かりやすいです。それに加えてストーリー序盤では登場人物各々の視点に切り替わり、彼らの心理状態や本音が表わされるため読みやすい仕掛けになっています。しかし、事件が発生して視点がセント・ジャスト警部に固定されてしまうとテンポが遅くなって、それまでの軽快さが削がれてしまいます。限られた人物、クローズドサークル、古城、といった古典ミステリの体裁をとった作品の中に、現代的な新味なりが加えられているのかと期待していたのですが、作家やエージェントといったエキセントリックな登場人物たちのおかしな言動によって面白さを引き出そうとする作者の意図が目につくだけでした。そんな彼らの奇矯さも抑制されている印象を受けて、個人的にはもっとスパイスを効かせても良かったように感じました。また、作家や出版界の内実や裏事情についても、さらに際どいことを書いて欲しかったです。たとえば作家長者番付にランキングするJ・パタースンやイヴァノヴィッチなどを俎上に載せるなど、虚実とりまぜて披露して貰いたかった。




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ジャンル : 本・雑誌

『ザ・バット 神話の殺人』ジョー・ネスボ 集英社文庫

2015-10-18

Tag :

☆☆

オーストラリアで働くノルウェー人女性が死体で見つかり、オスロ警察の刑事ハリーは捜査協力のため、単身シドニーに赴く。ハリーも加わった捜査班の前に次第に浮かび上がる、隠れていた一連のレイプ殺人。犯人の目星は二転三転し、捜査班は出し抜かれては後手を踏む。さらに、封じ込めていた自身の過去がハリーを苛みはじめる……。「ガラスの鍵」賞受賞に輝く驚異のデビュー作、登場。 内容紹介より



SFやファンタジーじゃないのだから、いくらフィクションとはいえ警察小説ならば、現実に即したある程度の基本的なルールは守るべきだと個人的に思っているので、一般人の女性を連続殺人事件の容疑者に対する囮捜査の囮役を務めさせるというありえない設定にはかなり呆れました。これはその後の顛末とともに大いに作品の評価を下げました。主人公が行動をともにしていたオーストラリア先住民である現地警察の刑事から離れ単独になる中盤になると、物語は中だるみに入り、その後、大きな事件が起きて物語が動いた後、また中だるみになってリズムが悪くなっています。これは、元恋人の話などいろいろと余計なエピソードを挿入して、冗漫な印象を与えることが原因のような気がします。
また、主人公にとって重要な二人の人物の死への受けとめ方の描き方も何だか釈然としませんでした。ある人物の死に関しては、断っていた酒を浴びるほど飲んで無謀な行動をとったかと思うと、それ以上に衝撃を受けたであろう別の人物の死に対しての主人公の反応はかなりあっさりとしています。ストーリーの進行による制限があったとしても、手抜きのような感じを受けました。




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『死美人』ローレン・ヘンダースン 新潮文庫

2015-09-05

Tag :

☆☆

誰もが思わず振り返らずにいられない魅力を持った女性リー。彼女がドラッグに酔ったあげくに死ぬはずがない―売れない彫刻家サム・ジョーンズが遭遇したのは、パーティ会場で5年ぶりに再開した恩師の突然死だった。死因に疑問を抱いたサムは独自に調査に乗り出し、リーに秘密の恋人がいたことを突き止めるが……。セクシーでパンキッシュな等身大のヒロイン、鮮烈のデビュー! 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意下さい!

新潮文庫タルト・ノワールシリーズの一作。
ヒロインが慕っていた恩師の突然の死が事故によるものとは信じられず、彼女はパーティの出席者たちのなかに被害者に対して恨みを抱いていた人物がいることを調べあげる。その一方、被害者の恋人が被害者に宛てた手紙を手に入れようとする者がヒロインに接触してくる。
この活きのいい姐ちゃんであるヒロインの本来の目的は、敬愛していた恩師の死に関わった人物を探し出して、仇をとることだったはず。ところが、真犯人を偶然に知って罰したけれど、その犯人の背後で糸を引いていた人物と取引するなんてどういうことなのか、と大変不満が残りました。事が終わった後のヒロインの犯人に対する感情がかなりあっけなさ過ぎなのも違和感があるし、そもそも、その犯人の心理面が描写不足だと感じました。それから、投身自殺する者がガラス窓を突き破って身を投げたりするケースなんてあるのかどうか。




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『暁に走れ―死への42.195キロ』ジョン・ストック 小学館文庫

2015-08-30

Tag :

☆☆

ロンドンマラソンの最中、自爆テロが実行されようとしている!犯人は腰に怪しげなベルトを巻いたランナー。標的は在英米国大使だ。同僚で恋人のレイラに誘われて同じレースを走っていた、停職中のMI6の諜報員ダニエル・マーチャントは、不審なランナーに気づき、接近して慎重に聞き込みを始める。ランナーによれば、速度が設定値以下に下がると、ベルトの爆弾が爆発する仕組みだという。被害を阻止したいダニエルが下した決断とはいったい……。世界が直面するテロの問題を真っ向から見据えたスパイ小説。手に汗握るノン・ストップ・アクション・サスペンス。 内容紹介より



サブタイトルに「死への42.195キロ」とあるのを見て、てっきり作品の大部分がマラソンのシーンだろうと思い込んだのですけれど、実際はそういう場面は40ページくらいにしか過ぎませんでした。後は、元MI6長官だった主人公の父親の汚名をすすぐため、また、自らの濡れ衣を晴らすために、MI5やCIAの追跡から逃れながら国際テロリストの行方を追い、そして、諜報部内の二重スパイの正体を突き止めようとするという話でした。これがまた、もたもたしたストーリー進行で、まったくノン・ストップどころの話じゃなかったのです。それぞれの情報部同士の確執や主導権争いなども描かれているのですが、さして目新しさもなく、クライマックスの舞台にインドを持ってきたことにも、あまりぴんときませんでした。二重スパイの正体は早々と分かってしまうし、主人公とテロリストの対決らしきものはないし、ロードノベルみたいにあちこち行くけど、主人公の活躍は尻すぼみだしで、メインとなるものがぼけてしまった感じがしました。もう少し、プロットを練ったほうが良かったのでは、と思うような出来栄えです。




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『海賊の秘宝と波に消えた恋人』カレン・マキナニー RHブックスプラス

2015-08-24

Tag :

☆☆

居心地のよさと、朝食のみならずディナーもおいしいと最近評判のナタリーの宿。だけど部屋はがらがら、近づく島の料理コンテストも憂鬱なナタリーの元に、沈没船発見!の知らせが。財宝と恋人を載せ海にのまれた伝説の海賊船では?とすぐに大学の調査員と、財宝ハンターの2チームがやってきた。だが、そのうちのひとりが殺され、島民のエレイザーが犯人として拘束されてしまった。彼の容疑を晴らそうと必死になるナタリーだけど……。シリーズ第4弾。 内容紹介より



朝食のおいしいB&Bシリーズ。
発見された沈没船の学術調査を優先させたい大学の海洋考古学者チームと、調査より先に金目の物を引き揚げようとするトレジャーハンターたち、そして、地元の宝だとしてトレジャーハンターたちに反発する地元漁師。それぞれが反目しあうなか、トレジャーハンターの代表者が深夜の海で刺殺体として発見され、海賊の短剣と言い伝えのある刃物を振り回して、被害者を脅していた老漁師が逮捕されてしまう。彼の無罪を信じるヒロインが宿泊する二組を調べてみると、それぞれに犯行の動機を持った人物がいることが判明する、という展開。シリーズ中、このヒロインは、犯人から殴られたり、怪我をさせられたりとコージーの主人公らしくない目に遭うこともたびたびですが、今回、島の料理コンテストの審査員になったヒロインのもとへ、コンテストの前に味見をしてもらおうと、大勢の島民が料理を持参したりする場面は、いかにもコージーらしい味付けに感じました。また、幽霊船の噂がただの雰囲気作りだけにとどまらず、それが伏線となって、クライマックスの場面において道具建てとして上手く機能していると思いまいした。

『注文の多い宿泊客』
『料理人は夜歩く』
『危ないダイエット合宿』




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『焼きたてマフィンは甘くない』リヴィア・J・ウォッシュバーン ヴィレッジブックス

2015-04-23

Tag :

☆☆

フィリスは元教師ばかりが集まる下宿のオーナー。待ちに待った収穫祭の料理コンテストも、秋の恵みたっぷりのマフィンで優勝間違いなし。ところが当日、飾り用のカカシがぽつんと取り残されているのを発見する。持ちあげるといやに重たい……それもそのはず、入っていたのは男性の死体だった!口の中には、なぜかフィリスの特製マフィンが―おばあちゃん探偵があばく、驚きの真犯人とは? 内容紹介より



〈お料理名人の事件簿〉シリーズの第五弾、三、四作目は未読です。
ランダムハウス講談社から版権が移り、本書からヴィレッジブックスからの出版になっています。
11月末の感謝祭を前にした町のイベント会場で、会場に飾られた案山子の服を身にまとった不動産業者の変死体が発見され、その口の中には主人公の作ったマフィンが入っていました。情況証拠にもとづき被害者の妻が逮捕されますが、彼女の犯行とは思えない主人公が独自に調査に当たるという展開です。犯行動機が痴情のもつれ、あるいは土地開発にまつわるものなのか、という単純な設定のわりに犯行計画がなかなか変わっていて珍しく感じました。できれば肝心の案山子の服装の謎が凝ったものであればもっと良かったのでしょうけれど、そこはかなり残念な結果に。
感情がたかぶることも少ない六十代の好々爺(お婆ちゃんですけれども)然としている主人公なので、もうちょっとなんらかの強い個性と物語に刺激が欲しいような気がします。これについては下宿人のふたりの女性についても同様で、脇を固めるという意味でも機能していないと思いました。真犯人の存在感については言わずもがな。

『桃のデザートには隠し味』ランダムハウス講談社
『かぼちゃケーキを切る前に』ランダムハウス講談社




焼きたてマフィンは甘くない (お料理名人の事件簿)焼きたてマフィンは甘くない (お料理名人の事件簿)
(2014/06/20)
リヴィア・J・ウォッシュバーン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
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プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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