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『おばあちゃんのごめんねリスト』フレドリック・バックマン 早川書房

2020-07-03

Tag :

☆☆☆☆

エルサは7歳。おばあちゃんは77歳。大胆不敵なおばあちゃんは、ずっとエルサの友達だった―「変わった子」と言われるエルサの、ただ一人の、強い味方だった。
でも、おばあちゃんは亡くなった。おばあちゃんから託された謝罪の手紙を、エルサは代わりに届けはじめる。宛先は、よく知っている人も、あまり知らない人もいて……
『幸せなひとりぼっち』の作者が、変わった子だった大人たちにおくる物語。 内容紹介より



ハリー・ポッターが大のお気に入りの7歳の女の子エルサは、「変わった子」と言われて学校でいじめられ友だちもいません。そんなエルサにとっておばあちゃんはただ一人の友だちであり、スーパーヒーローです。彼女は母親と義父とともにおばあちゃんが住む同じアパートの別室で暮らしています。天才だけど頭がちょっとズレているおばあちゃんはエルサに、いつも六つの秘密の王国の物語を聞かせてくれます。その大好きなおばあちゃんが死んでしまって、エルサの心は悲しみと怒りでいっぱいになります。エルサにおばあちゃんは“ごめんなさい”を書いた手紙を託していました。
いわゆる大人のファンタジーなのですが、秘密の王国の物語が核となって、王国と現実の世界とが結びつけられています。実は物語の内容は、アパートに住む住人たちそれぞれの人生とリンクしており、さらにおばあちゃんの過去にも関わりがあるという仕掛けがなされて、おばあちゃんの手紙がそれぞれの秘密を解き明かす鍵になっています。そういう展開によって謎解き小説の性格も与えています。母親と義父との間に赤ちゃんが産まれてくることで自分が気に掛けられなくなるのではという心配や、もし、そうなって新しい家族がいる父親に頼っても迷惑になるのではないかと悩んだり、小さなしこりのような不安を胸に抱えている、それでも勇気をふり絞っておばあちゃんのミッションを果たそうとする、ちょっと哀しい健気な女の子の姿が印象に残ります。




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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

『ツンドラの殺意 ロストニコフ捜査官シリーズ』スチュアート・M・カミンスキー 新潮文庫

2020-06-27

Tag :

☆☆☆☆

シベリアの寒村ツムスクで反体制医学博士サムソノフの娘が、何者かに殺害された。事件調査のために派遣された統制委員のラトキンも、数日後に殺されてしまった。現地に赴いたモスクワ民警の敏腕捜査官ロストニコフと部下のカルポがあらためて事件を洗い直す。住民たった15人の流刑の村で起きた連続殺人の背後に隠されたものは……’89年度エドガー賞を受賞したポリス・ストーリー。 内容紹介より



米国への亡命を間近に控える著名な反体制医師一家の幼い娘が遺体で見つかり、殺人事件と訴える父親の言い分によりモスクワから統制委員が派遣され事件の調査に当たります。しかし、その委員も審問会当日の早朝に他殺体で発見されます。その事件の捜査を任命されたモスクワ民警の主任捜査官ロストニコフと部下のカルポはシベリアの小さな村に赴くことになります。
主人公は検察局捜査官時代に有能なゆえに上から疎まれ、現在モスクワ民警に移動してきた経緯があり、また妻がユダヤ人のために微妙な立場にあります。物語はシベリアの村での殺人事件とモスクワに残した部下たちによる強盗事件の捜査活動の二つが描かれて進んでいきます。主人公の造形は、別シリーズのエイブ・リーバーマンに似ている気がしますが、一方の部下カルポはその死体のように無気味な容姿と生真面目な言動とでユニークさが際立って映ります。さらに公民館の管理人また登場機会は少ないものの原住民の呪術師も良い味を出し、作者の人物造形の巧さをあらためて感じさせています。278ページの小部な作品ですけれど、ソ連という異質な舞台設定でサスペンスも漂い、ミステリも適度に濃く、夫婦愛も交ざる良作だと思います。

スチュアート・カミンスキー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『天使の背徳』アンドリュー・テイラー 講談社文庫

2020-06-24

Tag :

☆☆☆☆

妻に先立たれ、ロンドン郊外で娘と暮らす牧師デイヴィッド。出版社を営む寡婦ヴァネッサに出会った彼はその魅力に惹かれ、やがて再婚を申し込む。幸せに満ち、穏やかに始まった新生活は、ある事件を境に次第に暗い翳りを帯びていく。聖なる場所で連続する不可解な死。CWA賞作家が放つ衝撃のミステリー! 内容紹介より



本書は、三部作、Rrequiem for an Angelの二作目にあたる作品です。わたしは間違えて、このシリーズを三作目から読み始めています。
本書でも『天使の鬱屈』同様に、十九世紀後半の聖職者であり詩人でもあったフランシス・ユールグリーヴと彼の作品が物語全体に暗い影を落としゴシック・ホラーの趣を添えています。そのフランシスの子孫にあたる旧領主邸の女主人から教区会の司祭として任命された「わたし」が『天使の鬱屈』に登場した人物であり本書の語り手になります。『天使の鬱屈』から十年後という設定で、一人娘のローズマリーは十七歳です。長らく男やもめだった「わたし」と出版社を経営するヴァネッサの出会いから物語が動き始め、彼らの隣人として若い兄妹が元ユールグリーヴ邸に引っ越してきたことから急展開を見せます。ミステリよりも重点を置かれているのは、壮年期の「わたし」の肉欲を始めとした煩悩とその感情に苛まれ流されていく心理を詳細に描くことです。言ってみればかなり俗物に描かれた彼の造形は英国人から見たら衝撃的なのかもしれません。一方、ミステリ小説としたらその部分がかなりのウェートを占めて、ミステリ部分のインパクトが追いついていないような印象が残りました。先に『天使の鬱屈』を読み犯人をすでに知っているので、その感じがさらに強くしたのだと思います。

『天使の鬱屈』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『チャイナ橙の謎』エラリー・クイーン 創元推理文庫

2020-06-21

Tag :

☆☆☆☆

宝石と切手収集家として著名な出版業者の待合室で、身元不明の男が殺されていた。しかも驚くべきことには、被害者の着衣をはじめ、その部屋の家具もなにもかも、動かせるものはすべて“さかさま”にひっくり返してあった。この“あべこべ”殺人の謎は何を意味するのか?犯人は何の必要があって、すべてのものを、あべこべにしたのだろう?ニューヨーク・タイムズはクイーン最大の傑作と激賞したが、事実、国名シリーズの中でも、卓抜した密室殺人事件として、特異の地位を占める名作である。 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意ください!

宝石や切手収集を趣味とする出版会社社長に面会に訪れた男が待合室で殺害されたうえに服を後ろ前に着せられた姿で発見されます。しかも室内の家具も前後が逆になった状態にわざわざ変えてあるという状態で。警察の捜査でも被害者の身元はまったく判明しないなか、当日留守にしていた出版社の社長をはじめとして、彼の父親、妹、その婚約者、共同経営者、秘書、新人女性作家、ホテルの宿泊者らが容疑者にあげられます。物語の冒頭で看護婦の独白で主な人物の人となりが語られるとともに、事件の動機につながる出来事が伏線として明らかにされているのですが、これが読み手にとっては容疑者の中から真犯人を巧みにそらしてしまう仕掛けにもなっているように感じました。犯人が“あべこべ”にした理由は、机上の空論みたいな頭の中でこねくり回した印象が強いし、またそれを解明するには、日本人には難易度が高すぎる気がします。別件で明らかにされる、詐欺師が企てる悪巧みとそれにまつわる出来事はあまり目くらましにはなっていない感じがしました。クイーン父子の振る舞いぶり、密室の仕掛けなど、あれやこれや古き良き時代の本格探偵小説といった印象が強く残る作品でした。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『脱出空域』トマス・W・ヤング ハヤカワ文庫NV

2020-06-18

Tag :

☆☆☆☆

「高度を維持せよ。いかなる状況においても上昇および下降を禁じる」そのメッセージを機に、何の危険もないはずの輸送任務は一変した。テロの負傷者をアフガニスタンからドイツへ空輸する輸送機に爆弾が仕掛けられ、着陸不可能となったのだ。機長のパースンは老朽機を必死に操り、わずかの可能性を求めて苦闘するが、その行く手には多くの障害が立ちはだかる……『脱出山脈』に続き、極限の闘いを熱く描く冒険小説の白眉 内容紹介より



前作の『脱出山脈』と同じくパースンとゴールドのコンビが登場しますが、今回はアフガンの猛吹雪の山岳地帯から輸送機の機内に舞台を移しています。場所が機内に限られているために、話をどう展開していくのか作者の技量が試される状況だと思いますが、まず視点を固定せずパースンとゴールドの交互に移すことでコックピットと貨物室の出来事を描き出して変化をつける工夫がなされています。さらに老朽機に仕掛けられた高度の変化によって起爆する爆弾、機械的なトラブル、ハリケーンや火山噴火による悪天候、テロ行為、非友好国の戦闘機による敵対行為などさまざまな災厄や危機がこれでもかと次々に降りかかってきます。作者自身が軍や民間の機関士や副操縦士の経歴を持っているために、良い具合に専門的な知見が入れられて臨場感が増していると思います。一方、前作ではロボットみたいだったゴールドは、タリバンによって犠牲になる国民などアフガニスタンの現状を憂う姿を描いて人間性を全面に出すことで存在感を打ち出しています。

『脱出山脈』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『そしてミランダを殺す』ピーター・スワンソン 創元推理文庫

2020-06-15

Tag :

☆☆☆☆

ある日、ヒースロー空港のバーで、離陸までの時間をつぶしていたテッドは、見知らぬ美女リリーに声をかけられる。彼は酔った勢いで、1週間前に妻のミランダの浮気を知ったことを話し、冗談半分で「妻を殺したい」と漏らす。話を聞いたリリーは、ミランダは殺されて当然と断じ、殺人を正当化する独自の理論を展開してテッドの妻殺害への協力を申し出る。だがふたりの殺人計画が具体化され、決行の日が近づいたとき、予想外の事件が起こり……。男女4人のモノローグで、殺す者と殺される者、追う者と追われる者の攻防が語られる鮮烈な傑作犯罪小説。 内容紹介より



若くして大富豪になったテッドは魅力的な妻ミランダが浮気をしていることを偶然知ってしまいます。彼は仕事先のロンドンからの帰国のため空港のバーで声をかけてきた女性リリーに妻の浮気と殺したいほどの怒りの気持ちを打ち明けてしまいます。意外なことに彼女はミランダは殺されて当然だと言い、殺人計画への協力を約束します。物語の大半はテッドとリリーの視点で交互に描かれて進み、後半に別の二人の人物の視点が加わります。
サスペンス小説の中でも一番はらはらどきどきしてしまう設定は、犯罪とは縁のないどこにも居そうな主人公が配偶者などの殺人計画を立て、それを実行しようとするものだと思います。だからこそそんなプロットの作品が多く書かれてきたわけで、新しく同様の作品を書く上においてはさらなるアイデアが求められる必要があります。何故リリーはテッドに協力を申し出たのか、という疑問を彼女の過去にさかのぼって人物像とともに解き明かしていきます。刻々と高まるサスペンス性よりも意外性に重きを置いたような、読者の意表を突く展開が二度仕掛けられ効果を上げています。ただ最後の事件は、それを起こした人物の性格を考えると性急過ぎて思慮が足りないような不自然な感じを受けました。最終部分もやっぱりそこかという予想できる帰結だったのでもうひと捻りが欲しかった気がします。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『策謀と欲望』P・D・ジェイムズ ハヤカワ・ミステリ

2020-06-06

Tag :

☆☆☆☆

少女は必死に走った。最終バスに乗り遅れると、門限に間に合わない。だが、バスは無情にも目の前を走り去っていく。翌朝、少女は死体となって発見された。ノーフォークの連続絞殺魔カッコの四番目の犠牲者だった……。ダルグリッシュ警視長は、亡くなった叔母の遺産を整理するため、休暇をとってノーフォークの海沿いの寒村を訪れた。青い海を背景に、午後の光を受けて金色に輝く松林や修道院廃墟。そしてその向こうには、ラークソーケン原子力発電所の巨大な灰色の建物が、岬を睥睨するように聳え立っている。この平和な光景に、カッコの影などどこにも感じられない。だが、それはたんなる幻想にすぎず、死の脅威がこの岬にも襲いかかろうとしていることを、ダルグリッシュは知る由もなかった。現代本格ミステリの頂点に立つ著者が人間の心に巣くう策謀と欲望を重厚な筆致で描きあげた話題に本格巨編。 内容紹介より



以下、少々ネタバレ気味です。ご注意ください!


ダルグリッシュが叔母の遺した家を訪れた土地ノーフォークでは、折しも絞殺魔が犯行を重ね、地元にある原子力発電所の女性職員もその犠牲者の一人だった。さらにもう一人、発電所の管理部長代理の女性も絞殺魔の犯行である痕跡を残した姿で発見されるが……。
最後の犠牲者にかかわる重要な容疑者たちは、絞殺魔が被害者に残した、警察が外部に伏せている犯行のサインを聞き知っている五人に絞られます。そこでその容疑者たちそれぞれに視点を移して、当然彼らの被害者との関係や個人的な感情をあぶり出していく流れになるのですが、ここに原子力発電所という特異な大道具を据えて、その発電所に反対する人物を登場させるという巧妙なプロットを仕立てています。さらに重要な容疑者たちとは別に、犯行時のアリバイについて口裏合わせを行った人物が相手に抱いた猜疑心からとった行動により、事態があらぬ方向へと動いてしまう経緯(非常にシニカルでブラックなユーモアを帯びた)を添えて、もう一つのストーリーを作り上げていく巧みさあり、まさに細部まで計算が行き届いた印象を受けました。とにかく縦横に緻密に組み立てられた人物の構図と心理の描写力が際立った堅牢なミステリだと思います。 




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『石の猿』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

2020-06-03

☆☆☆☆

中国の密輸船が沈没、10人の密航者がニューヨークへ上陸した。同船に乗り込んでいた国際手配中の犯罪組織の大物“ゴースト”は、自分の顔を知った密航者たちの抹殺を開始した。科学捜査の天才ライムが後を追うが、ゴーストの正体はまったく不明、逃げた密航者たちの居場所も不明だ―果たして冷血の殺戮は止められるのか。 上巻内容紹介より



このリンカーン・ライムシリーズに登場する主敵たちは冷酷で用意周到な天才的犯罪者、いわばスーパーモンスター化しているイメージが強いのですけれど、今回の敵はかなり人間臭い感じがしました。文化大革命で家族を喪ったという背景付もしてあり、計画通りの犯罪というより場当たり的な行動が目立ちます。これは犯人がホームタウンではなくてニューヨークという異国の地にいるために仕方のないことなのでしょうが、これまでの悪役たちに比べて迫力に欠け、やや小ぶりな印象が残りました。しかし一方、味方役の中国公安局の刑事の造形は、中国の伝統文化を絡ませてとても魅力的に描かれています。また密航者である政治犯の家族についても、同じく固有の文化に触れながら特徴的に描写してあり、全体のバランスは非常にとれている感じです。ただ二転三転どころか四転五転くらいするトリッキーな展開が、こちらが思っていたほどにはなかったのが意外でした。それからもうひと家族と密航船の船長が後半に話に何らかの役割を果たして来るのかと思っていました。

ユーザータグ:ジェフリー・ディーヴァー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『木曜日の朝、いつものカフェで』デビー・マッコーマー 扶桑社セレクト

2020-05-28

Tag :

☆☆☆☆

夫を亡くし孤独な日々を送る五十七歳の病院事務局長リズ、離婚した夫が許せないクレア、手芸洋品店を経営するジュリア、女優を夢見る若いカレン―四人は、ふとしたことから知り合い、毎週木曜日の朝にカフェで、近況を語りあう。年下の小児科医に惹かれるリズ、高齢での妊娠に動揺するジュリア、もと夫の末期ガンを知ったクレア、姉が家庭内暴力被害者と知って悩むカレン。四人の女性は励まし合い、支えあいながら、それぞれの解決を見つけていく。女性小説の巨匠が描く感動の人間ドラマ! 内容紹介より



未婚で特定の恋人もいない女優志望のカレン、家庭環境に恵まれ、念願の手芸店を開いたジュリア、長年連れ添った夫が家族を捨てて若い女性のもとに走ったクレア、夫を交通事故で亡くし、子どもたちとも離れて暮らすリズ。この年齢も職業も環境も違う四人の女性に降りかかった出来事をそれぞれが綴る日記の内容を挿んで描いている物語です。過干渉の母親との関係に悩むカレン、予期せぬ妊娠に動揺するジュリア、怒りと憎しみしか覚えていなかった元夫の病気を知ったクレア、そして、孤独ながらも一人暮らしの気楽さを感じている日常のなか、女たらしと噂のある男性が気になってしまうリズ。
世代や境遇を超えた女性たちの芯の通った友情を描いた作品です。彼女たちはさまざまな感情を共有し、励まし支え合い、また相手の家庭状況をも共に抱え込むような絆を表してみせます。この物語は、四人それぞれの人生の一端を切り取りながらも、一人の女性の半生を四つのエピソードを通して見ることも可能にしているような気もします。




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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

『甦える警官』ウィリアム・J・コーニッツ 文春文庫

2020-05-22

Tag :

☆☆☆☆

犯人逮捕の際に撃たれて片脚を失い、また愛も失ったスキャンロン警部補にあらたな事件が舞いこんだ。白昼のキャンディ・ストアでの不可解なショットガン乱射事件、そして同僚警官の無惨な死。疲労感と孤独のなかで、なおかつ警官であることをやめない男のタフな男ごころを描く、「燃える警官」の作者の進境めざましい長篇第二作 内容紹介より



強盗犯との銃撃戦の最中に撃たれて左脚を失ったニューヨーク市警警部補が主人公です。彼の復職に手を貸した警部補がキャンディ・ストアでその店の女主人とともに撃ち殺される事件が発生します。捜査を進めると警察内部での評価が高かった被害者には女性関係のスキャンダルがあったことが浮かび上がり事件は彼を狙ったものではないかと推測が流れます。ところがキャンディ・ストアの女主人の息子夫婦が自宅で射殺される事件が起き捜査は混迷を深めることになります。
現役のNY市警警部補が作者だけあって、警察内部の慣行や職務規定、各分署との関係や、署内の雰囲気や人間関係、符丁とか書式が詳しく書かれて非常にリアリティを感じましたし、ジョゼフ・ウォンボーの作品を彷彿とさせます。片脚を失ったことで性的不能に陥り、恋人にも去られた主人公の内面の苦悩や葛藤を描いて人間味を出し、懇意になった娼婦との交流を始めとして私生活部分もしっかりと書き込んであるように思います。読み応えのある警察小説だと思いますが、結末のイレギュラーな決着の付け方より正統的事件解決で終わってほしかったような気がします。1986年の作品ながら古臭さは感じません。

『渇いた警官』扶桑社ミステリー




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『鉄槌』ポール・リンゼイ 講談社文庫

2020-05-13

Tag :

☆☆☆☆

大都市シカゴの刑務所に、移動も無害化も不可能な超大型爆弾が仕掛けれれた。自らも犯罪に手を染める(!)FBI捜査官キンケイドは、正義感の強い同僚オールトンとコンビを組み、捜査に当たることになる。だが、緻密にして大胆な犯人の真の目的が明らかになったとき、事件は思いも寄らない方向へ動き出す! 内容紹介より



爆弾犯の真の目的は、三年前に娘が被害者になったまま未解決になった誘拐事件の再捜査をFBIにさせることです。捜査の指揮を執る有能な現場指揮官である新任のシカゴ支局長、その部下に出世主義の副支局長、悪性腫瘍で片脚を切断してまもない実直で頑固な黒人捜査官、そして型破りで異彩を放つ直感型の主人公が登場します。それぞれに異なるキャラクターを持つ四人が非常に分かりやすい対比を取っているところが設定の妙であり、元FBI捜査官の経歴を持つ作者が特に描きたかったFBI内部の実情につながっている箇所なのでしょう。物語は爆弾事件から過去の誘拐事件の真相に迫る展開に移りるとともに、捜査官として優秀な素質を持ちながら、私生活では自堕落ともいえる日々を送る主人公の姿を描いていきます。できれば彼のキャラクターをもっと掘り下げて人物像を浮き彫りにして欲しかったように感じました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ゴーストマン 時限紙幣』ロジャー・ホッブズ 文藝春秋

2020-05-10

Tag :

☆☆☆☆

決して盗んではいけないカネ―連邦準備銀行の新札。それを盗んだ者はアメリカの全捜査機関に地の果てまで追われることになる。現金輸送車を襲った二人の犯罪者が奪ったのはそれだった。一人は現場で死亡。もう一人は逃亡、雲隠れした。犯罪の始末人たる私は、強盗犯を追い、カネを奪還する仕事を命じられた。デッド・リミットは48時間。紙幣に仕込まれた爆薬が48時間後に炸裂する。面倒な仕事だが、私には断れない。依頼主のマーカスに、私は大きな借りがあるからだ。5年前、クアラルンプール。金庫破り師、詐欺師、逃走ドライバー、脅迫担当の大男ら、犯罪のプロが招集された。標的は高層ビル最上階の銀行―襲撃し、金庫を破り、カネを奪い、脱出する。マーカスの綿密な計画に沿って、私たちは着々と準備を進めてゆく……。現在と過去、二つの大仕事はいかに決着するのか?精密なプロット、クールな文体、非情な世界観、ジェイムズ・エルロイを育てたエージェントが発掘し、ハルキ・ムラカミを担当するカリスマ文芸編集者を酔わせ、世界一の辛口批評家をうならせて、英米のミステリ賞やミステリ・ランキングを席巻した25歳の天才による驚愕のクライム・ノワール。今世紀最もカッコいいノワール・ヒーローの登場。 内容紹介より



アトランティックシティのカジノに運び込まれる現金を奪った二人組の武装強盗は、何者かの妨害により一人は死亡し、もう一人は怪我を負いながらも車で逃走します。その強盗計画の立案者に命じられてカネの行方を追うことになったのがゴーストマンです。彼には五年前に立案者が企てた銀行強盗計画が自身のミスによって失敗したという借りがあったのです。アトランティックシティに乗り込んだ彼は早速FBI捜査官に目をつけられ、さらに地元の大物麻薬ディーラーに追われることになります。奪われた札束には染料が仕込まれ、48時間後に爆薬が炸裂して紙幣を使えなくする仕掛けが施されているために、彼は時間内にカネを見つけ出さなくてはなりません。
変装を得意とする一匹狼を主役とするタイムリミット型の犯罪小説で、スピーディかつバイオレンスな趣向になっています。ただし、全米の捜査機関と謳う割に事件の捜査に関わってくるのはFBIの捜査官一人だけで、他に名前のある警察官すら登場しません。そのFBIには早々に注意をひかれ居所を突き止められたり、ギャングには尾行をゆるしたり、ゴーストマンと名乗るほどには脇が甘い感じです。さらに古代ギリシャの古典文学を翻訳する趣味を持つというスノッブ臭も匂わせるやや饒舌系のキャラクターでもあります。どうもイメージするプロの姿から微妙にずれている気がしました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『僕は、殺す』ジョルジョ・ファレッティ 文春文庫

2020-05-07

Tag :

☆☆☆☆

治安の良さを誇るモンテカルロで起きた猟奇的な連続殺人事件。犠牲者は、F1レーサー、大富豪、天才バレエ・ダンサーなど著名人ばかり。犯人は、ラジオの深夜番組に予告の電話をし、犠牲者をほのめかす音楽を流した―。イタリアで発表されるや350万部のベストセラーとなった鮮烈なるデビュー作。ハリウッド映画化決定。 上巻内容紹介より



人気DJが担当するラジオの深夜番組中に、「僕は、殺す…」というメッセージとともにある音楽を流す電話がかかってきます。翌日、港に停泊中の大型ヨットの船室で顔と頭の皮膚を剥がされた男女の遺体が発見されます。更に番組宛ての電話によるメッセージと被害者を暗示する音楽は続き、モナコ警察の捜査官は当地で静養中のFBI捜査官に協力を求めて捜査にあたるのですが……。中村文・村上圭輔両氏の訳者あとがきによると、モナコ公国は、「国土は東西およそ三キロ、南北わずか数百メートルで、面積はおよそ二平方キロ。」(p410)人口は約三万二千人なのだそうです。そんなユニークで華のある国を舞台にしたサイコ・サスペンス作品ですが、コメディアンや作詞家など多才なイタリア人のデビュー作で、しかも350万部売り上げた作品と聞くと、大衆受けを狙った上っ面なミステリなのかと思って読んでみたら良い意味で裏切られました。文学的な表現がありながらくどくなく、主役の一人に据えたアメリカ人の造形にブレがなく警察小説としてもしっかりしています。ただ彼(ならびに殺人犯)の類型的な人物背景や短絡的なロマンスの進展などの粗が気になるものの、その他に大きな破綻は見られません。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『エヴァ・ライカーの記憶』ドナルド・A・スタンウッド 創元推理文庫

2020-04-28

Tag :

☆☆☆☆

タイタニック号に関するノンフィクション執筆を依頼されたノーマン・ホールは、惨殺事件を契機に警察を辞職した苦い過去を持つ。取材を始めたノーマンは、沈没船からの生還者エヴァ・ライカーの封印された記憶を手がかりに調査を進め、時空を隔てた三つの出来事―1912年4月、処女航海中の豪華客船が大西洋で沈没。41年真珠湾攻撃の直前、ホノルルで起きたアメリカ人観光客夫妻惨殺。62年大富豪ライカー、タイタニック号の遺留品引き揚げに着手―が不可分に絡み合う衝撃的な真相に至る。謎解き、サスペンス、冒険小説等、幅広い要素を包含した、オールタイム・ベスト級傑作ミステリ。 内容紹介より



本作品は、1979年単行本として1982年に文庫本として文藝春秋から刊行されています。
主人公である作家ノーマン・ホールは、ホノルルでの警官時代に関わった殺人事件の被害者がタイタニック号の生存者であったことから、その船の乗客だった妻を亡くした富豪ライカーからの仕事の依頼に因縁めいたものを感じます。タイタニック号に関するノンフィクションを執筆する仕事を受け、彼は船の生還者であるライカーの一人娘にインタビューしようとしますが……。
世界のあちこちを飛び回り、殺人の容疑をかけられたり、殺されそうになったり、警戒厳重な屋敷に忍び込み、暗号を解き、警察のお偉いさんを顎で使う主人公たち。その姿は(犯罪者たちにも言えることですが)造形に深みがなく一面的であり、訳のせいなのか野卑な感じがします。さらに物語は、種々の要素も総花的な印象であり、アメリカのB級映画のノベライズみたいに浅い感じが否めません。歴史的大事件を主題にした時に物語ににじみ出てくるノスタルジックなロマンスとか哀切みたいなものを感じとれなかったところは物足りなかったです。しかし娯楽小説としては、オールタイム・ベストは大袈裟にしてもかなりの完成度と面白さは備えている思います。 繰り返しになるけれど、ノーマン・ホールがもっと魅力的だったらなあ。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ハードシェル』ディーン・R・クーンツ ロバート・R・マキャモン他 ハヤカワ文庫NV

2020-04-22

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

数あるホラー・アンソロジーの中でも独自の編纂で知られる〈ナイトヴィジョン〉シリーズ。三人の作家がそれぞれ250枚の中短篇を各巻に書き下ろすため、一作家一短篇に限られた従来のアンソロジーにはない満足感が得られる。本巻には、ベストセラー作家ディーン・R・クーンツ、SF界の実力派エドワード・ブライアント、クーンツをしのぐ人気作家ロバート・R・マキャモンの三人を収録する(序文/クライヴ・バーカー) 内容紹介より



収録作品
ディーン・R・クーンツ
「フン族のアッチラ女王」「ハードシェル」「黎明」
エドワード・ブライアント
「捕食者」「バク」「フラット・ラット・バッシュ」「亡霊」「荷物」「コルファックス・アヴェニュ」
ロバート・R・マキャモン
「水の底」「五番街の奇跡」「ベスト・フレンズ」

本書は1987年発表された〈ナイトヴィジョン〉シリーズの第四巻にあたります。
大盛望氏の解説では、邦訳された1990年はロバート・R・マキャモンの名前が日本でも超大物新人として噂され始めていた頃だそうです。

町の市営プールで一人息子を亡くした父親は、息子の体についた奇妙な痕に気づくとともに、ある年から水死者が増えているのを知って……「水の底」。仕事と出世のことしか考えられなくなった広告会社に勤める青年。時間に追われる彼が鉛筆売りの物乞いに出会う「五番街の奇跡」。病院を舞台に、少年が地獄から召喚した三匹の怪物と医師の激闘を描いたスプラッタホラー「ベスト・フレンズ」。

闇へ降りゆく』『嵐の夜』にそれぞれ収録されている「フン族のアッチラ女王」「ハードシェル」「黎明」。

故郷を離れて一人暮らしを始めた女性が同じアパートに住む男に脅かされる「捕食者」、長崎原爆投下計画に関わり、現在ではカリフォルニアに新しい原子力発電所建設計画に携わる男が見る悪夢を描いた「バク」、軍隊式のしごきといじめを受ける大学の友愛会見習い会員の反撃「フラット・ラット・バッシュ」、ニューメキシコをヒッチハイク中に一夜を過ごした廃屋で謎の生物によって宿主にされた青年と彼の初恋の滑稽な悲話「荷物」。




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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