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『モンキー・パズル』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫HM

2020-01-17

☆☆☆☆

第一の被害者は、胸をめった突きにされ、舌を抜かれた英文学の教授。二人目は耳を切り取られた学部長。厳冬の大学町を襲った異常な事件を、新聞は“見ざる聞かざる言わざる”の諺に見立てて「猿の殺人鬼」と書き立てた。狂気の業としか思えない凶行の目的は何か。ストライカー警部補の必死の捜査が探りだした犯人は?サスペンスの女王が意欲も新たに本格推理に挑んだ傑作。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞受賞作 内容紹介より



第三の犠牲者は両目をくり抜かれた警備員。大学の英文学部構内を舞台にした連続殺傷事件の始まりは、ことあるごとに同僚に対して悪意ある言葉で攻撃していた男性教授です。同僚各人が抱えている隠し事を探り出しては、それを当人たちにほのめかしていた被害者に敵意を持っている者が大勢いる状況です。被害者は強打され、さらに幾度も刺されたうえに、舌を切りとられており、現場には糖尿病を患っていた被害者の中身が薄められたインスリンのアンプルが残されていました。大勢の容疑者があがるなかで、通常ならば読んでいて誰が誰でどういう人物なのか混乱しがちになるのですけれど、それを同僚の女性講師の視点を用いることによって、それぞれの人となりを約2ページの描写で書き分けている点は作者の小技が効いている感じがしました。さらに事件の一部始終を偶然に目撃した人物を脅迫者として登場させているところもスパイスを加えている巧いアイデアだと思います。一方、主人公と女性講師の間に起きた過去のエピソードについてはあまり必要性を感じませんでした。彼女が受け持つ推理小説に関する講義の内容にもう少し詳しく触れられていたなら面白さが増したような気もします。

ユーザータグ:ポーラ・ゴズリング




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『処刑の方程式』ヴァル・マクダーミド 集英社文庫

2019-12-27

Tag :

☆☆☆☆

1963年冬、イギリスのダービーシャー州の寒村から、13歳の少女アリスン・カーターが消えた。さっそく警察は捜索を開始するが、少女の行方は不明のまま。住民は無口で、よそ者に心を開かない。若き警部ジョージ・ベネットは殺人事件と考え、ついに被疑者を拘留する。死体なき裁判が始まった……。『殺しの儀式』でCWAゴールド・ダガー賞を受賞した作家の、話題の新作ミステリー 内容紹介より



名字が三つしかない、ほぼ孤立し閉鎖的な住民たちが暮らす小村で発生した少女の行方不明事件、捜索の指揮を執るのが若くして警部になった主人公です。新しく赴任した警察署で大学出と陰口を叩かれ、いまだとけ込めない彼が担当することになった行方不明事件は、さまざまな証拠から少女が犯罪に巻き込まれたうえに殺されたのではないかという疑いが浮かび上がります。コンビを組む巡査部長とともに憑かれたように捜査に打ち込む主人公はついに目を付けていた被疑者をある犯罪の容疑で逮捕にこぎつけますが、少女の遺体は結局発見されないまま、状況証拠だけで殺人事件の公判が開始されることになります。作品は三つの構成になっており、1963年にイギリスの閉鎖的な小村で発生した少女の失踪事件の捜査状況と被疑者の逮捕にいたるまでの警察小説、1964年の公判の様子を描いたリーガルサスペンス、1998年、事件に関するノンフィクションを執筆しようとする女性ジャーナリストの取材活動に分かれています。事件の内容は胸が悪くなるようなもので、事件全体の真相が発覚する最後半部分の出来事はやや強引な印象も受けましたが、作品全体は巧みな計算のもと緻密に構築されており、アクロバティックなクライマックスは少々の粗は消してしまっている印象です。

『殺しの儀式』
『殺しの四重奏』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『スーパー・エージェント』ハーラン・コーベン ハヤカワ文庫HM

2019-12-18

Tag :

☆☆☆☆

万能スポーツ・エージェントのマイロンでもボディガードはお断りだ。が、予想外にも女子バスケ界の期待の新星ブレンダを脅迫者から守ると請け負ってしまった。一週間前、彼女の父親が失踪した直後から執拗な脅迫電話に悩まされているという。父親の行方を追う一方、マイロンは脅迫が20年前に姿を消したきりのブレンダの母親となにか関係があると確信するが……揺れる恋のなか、マイロンが見えない敵に敢然と挑む第5弾 内容紹介より



マイロン・ボライターシリーズの第五作品。
新たに立ちあげられた女子プロバスケット・リーグの開幕を間近にひかえ、そのリーグの目玉であるスター選手のボディガードを引き受けた主人公は、彼女が悩まされている脅迫電話の裏に、彼女の両親の失踪事件が関連しているのではという疑いを持ちます。一週間前に失踪した父親の行方を追うとともに、二十年前の母親の失踪に関して次期州知事に立候補している地元の名家出身の人物が浮かび上がってきます。かつて、その名家にメイドとして働いていた母親が、候補者の転落死した妻の遺体発見者となり、その後に失踪していたのです。物語は、脅迫事件の裏に、新リーグに対抗して別のリーグを立ち上げようと計画するギャングたちの陰謀説を匂わせながら、上流階級の名家と雇い人の間に起きた過去の醜聞説を柱として展開していきます。昔の醜聞がよみがえってくるパターンなど話として使われ過ぎており、新しくもなんともない印象ですし、恒例の主人公の軽口、減らず口に閉口し、恋人との面倒くさい恋愛事情を我慢し、彼の親友の相も変わらぬ、使い勝手の良いダークヒーローぶりにちょっと飽きつつ終盤近くまで読み進めると、何と事件の裏にはまったく予想していなかった真犯人の存在が用意されていたのでした。個人的にここ最近では一番のびっくりな犯人でした。

『沈黙のメッセージ』
『偽りの目撃者』
『ロンリー・ファイター』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『夢の棘(いばら)』ピーター・ロビンスン 創元推理文庫

2019-12-15

Tag :

☆☆☆☆

スウェインズヘッド丘陵の懐深く、平和を満喫していた縣谷(けんこく)。そのただなかで、ある日、腐敗し相好の区別もつかなくなった死体が発見された。他殺であることはまちがいなかったが、被害者の身元は杳としてつかめない。さらに、遡ること五年前、同地で時を同じくして発生し、ともに迷宮入りとなった殺人および失踪事件の存在がクローズアップされるに至って、事件は容易ならざる様相を呈しはじめる……!猶予(いざよい)の谷を舞台に繰り広げられるさまざまな物語は、人々の夢と慟哭を乗せ、バンクス警部をいかなる結末へと導くのか?悲劇が彩る第四弾。 内容紹介より



本書はアラン・バンクス首席警部シリーズの第四作品目です。
五月ののどかなある日、山歩きをしていたハイカーが発見した死体は、刺殺された上に、顔面を潰された状態で、死後数日がたっていると考えられました。その地では、五年前に私立探偵が被害者となった殺人事件と時を同じくした地元の女性の失踪事件が起きていました。今回の事件が過去の事件と関係があるのか、首席警部が捜査を進めると、地元の有力者兄弟、農場経営者、ゲストハウスの主とその妻が容疑者として浮かび上がってきます。物語は、首席警部とゲストハウスの妻の視点で描かれていくのですけれど、後者は幼くして、宗教に厳格な祖母に抑圧的に育てられたために非常に内向的で快楽を罪と信じ込んでいる女性で、暴力的な夫からの虐げられた生活から逃れられない状況に陥っています。そういう人物像を鮮明に描き出しているとことには作者の筆力を感じますが、彼女のもんもんと苦悩する姿が話の流れを若干よどませているような気もしました。主人公がカナダのトロントに出張して、捜査を行うかたわら当地の文化や風俗に触れる場面があり、またカナダ人の目から見たイギリス人の印象も添えられていて面白くもあり、カナダ在住のイギリス人である作者の一面が現れているように思いました。

『罪深き眺め』
『必然の結末』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロスト・ファミリー』ローラ・リップマン ハヤカワ文庫HM

2019-12-12

☆☆☆☆

裕福な毛皮商ルービンの美しい妻ナタリーは幼い子供たちと一緒に突然行方不明になった。夫の主張によれば、何不自由ない暮らしをしていた貞淑な妻に失踪する理由などないという。だが、捜索を依頼された私立探偵テス・モナハンが聞きこみをはじめると、ナタリーに関するあまりに衝撃的な事実が次々と明らかに……テスの恋の行方にも新たな展開がみえるシリーズ第八弾。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞のノミネート作 内容紹介より



貞淑で従順だった美しい妻が子供たちを連れて突然失踪してしまった。警察に届け出るも事件性がないと判断されたため調査をしてもらいたいという夫からの依頼に、夫婦間のトラブル関しての仕事には気が乗らないまま、主人公は報酬の大きさに引き受けてしまいます。物語は、主人公と失踪した子供の一人である少年の視点などを交えて進むため、読者には失踪の理由は初めから判る仕掛けです。ただ、その裏に隠された真の計画は後半部分まで伏せられています。依頼人とは歳の離れた魅力的な妻の意外な姿が、夫の思い込んでいたイメージとはかけ離れていたという事実が話の核になっているほかに、ユダヤ人の血が半分入っている主人公と敬けんで人間的魅力がありながらも生粋のユダヤ人らしく仕事では冷徹な依頼人とのやり取りを通して、ユダヤ人の考え方や暮らしが垣間見えるところや、彼女やその仕事仲間たちが立ち上げた女性探偵の国内のネットワークにも面白さがあります。こういう具合にきちんと組み立てられて、全体的にバランスが取れた作品に仕上がっているように感じました。

ユーザータグ:ローラ・リップマン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『天使の鬱屈』アンドリュー・テイラー 講談社文庫

2019-12-06

Tag :

☆☆☆☆

夫と別居し、教会付属の図書館で働き始めたウィンディ。半世紀前の聖職者にして詩人フランシスのことを調べている彼女の身辺で、死の悲劇が相次ぐ。「醜聞の主」「立派な紳士」と人物像の定まらない詩人の過去を追っているもう一人の人物とは誰か?歴史の謎に彩られたミステリーの大聖堂!CWA賞受賞作。 内容紹介より



本書は、三部作Requiem for an Anjelの『天使の遊戯』『天使の背徳』につづく三作目にあたります。わたしは順番を違えて最終巻から読み始めてしまったのですが、やはり発表順どおりに読んだ方が良いみたいです。
夫の浮気現場を目撃したヒロインは、お金もないため学生時代の親友で、今は神学校の副校長をしている夫と娘と暮らす学生時代の親友の家に居候のような形で住み始めます。やがて神学校付属の図書館で蔵書整理の臨時仕事についた彼女は、五十年前に司祭だった人物が出版した詩集に出会います。女性司祭の登用や地域の貧困問題に取り組んだその地元で毀誉褒貶のある聖職者に興味を引かれたヒロインは、彼女の他にもその人物について調べ回っている男がいることに気づきます。物語は、この聖職者についての調査、親友家族との日常生活、離婚を考えて別居した夫に関すること、教会の敷地内という特殊な環境に入り込んだ彼女の視点から教会関係者やその家族についての日々の出来事を眺め暮らす様子 が綴られて進み、ミステリらしい事件が起きるのは最終盤になってからです。本書を読んだだけでは CWA賞受賞作として食い足りない感じが残りますが、主人公のユニークな造形が印象的な作品だと思います。

『我らが父たちの偽り』サンケイ文庫
『第二の深夜』 文春文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『紙片は告発する』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2019-12-03

☆☆☆☆

お父さんが思ってるほど、あたしは馬鹿じゃない。誰かさんを刑務所送りにできる秘密を知ってるんだから—町議会議員の娘だが、周囲に軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った妙なメモのことを警察に話すと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……!現在キルクラノンの町では、町長選出にまつわるいざこざが持ち上がっており、庁内には腹に一物ある連中がひしめいていた。即座に口封じに及んだのは誰か?地方都市を舞台に起こる殺人事件とその謎解きは、ディヴァイン犯人当ての真骨頂! 内容紹介より



1970年に発表された本書は、時代的に新しいわけでも、かと言って古めかしいわけでもないのですが、被害者の職業がタイピストというところに時代感を覚えました。一方、町議が職場で有能な女性に否定的であったり、面と向かってセクハラやモラハラ発言をしたり、性的少数者に世間の理解がまったくなかったりする傾向が当たり前であった時代でもあります。こういう要素が物語に組み入れている点などに時代の移り変わりを感じます。物語には、不正入札や職場内の不倫をはじめとした人間関係や出世競争といったかなり世俗的なテーマが盛り込まれ、公務員であるヒロインの視点でもあるために、二件の殺人事件のわりには全体的には地味目なトーンで推移していきます。しかし、役所内を主要舞台にした設定は一見社会派ミステリ風でもありますが、実際は作者らしいパズラー小説に仕上がっているという、ミステリにおける古典と現代の混在のようにも見えます。犯人の意外性はあると思うのですけれど、欲を言えば各容疑者にさらなる動機を付け足していたらもっとサスペンスが盛り上がったようにも思いました。

ユーザータグ:D・M・ディヴァイン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『黒い薔薇』フィリップ・マーゴリン ハヤカワ文庫NV

2019-11-21

Tag :

☆☆☆☆

ポートランドの弁護士ベッツィは破格の報酬で、建設会社の社長から、起訴された時には弁護するよう依頼された。その直後、彼は連続女性失踪事件の容疑者として逮捕されてしまう。十年前、ニューヨークでも今回と同様、現場に薔薇が残される失踪事件が起きており、彼と二つの事件との関係が疑われたのだ。やがてベッツィの身辺に危険が迫り、裁判の行方は混迷を極める……二転三転するダイナミックな展開の傑作サスペンス 内容紹介より



一輪の黒い薔薇と「去れど忘られず」と記された紙が現場に残された女性失踪事件が立て続けに起き、十年前にニューヨークで発生した同様の事件を手がけた刑事の情報により、地元の大手不動産業者の容疑者が逮捕されます。その容疑者の弁護を引き受けたのが、夫と別居中で幼い娘と暮らす主人公です。状況証拠ばかりの容疑であり、彼女は依頼人の保釈を勝ち取りますが、彼に不審なものを感じた彼女は彼の過去を調べ始めます。弁護士が主役のリーガルサスペンスといえば、冤罪を着せられた依頼人を不利な状況ながら一発逆転無罪を勝ち取るというスタイルが定番だと思うのですけれど、本書はそれとはまったく違うスタイルを採っています。十年前に起きた事件の真犯人に近い容疑者だった、 非常に怪しく好感の持てない人物を依頼人に仕立て、読み手はこれからどういう展開になっていくのか先が読めない状態になります。そんななか後半に入った頃、予想しない衝撃的な真実が明かされてびっくり仰天してしまうのです。しかし一方では種明かしされて、それ以降の流れはだいたい読めてしまうという残念なところも併せ持っている作品だと思います。サイコパス犯罪を逆手に取ったかなりユニークな作品だと思いました。

『炎の裁き』ハヤカワ文庫NV
『女神の天秤』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『珍獣遊園地』カール・ハイアセン 角川文庫

2019-11-15

☆☆☆☆

世界に二匹しかいないという珍獣が盗まれた。それがすべての発端。遊園地(テーマ・パーク)の広報課に雇われた元新聞記者のジョーは、珍獣盗難騒動にかんしてでっち上げ記事を描くように言われる。なにか怪しい。超過激環境保護団体を率いる老女、妙に義理堅い泥棒、素性が怪しい遊園地(テーマ・パーク)経営者……奇怪な人間が跳梁し、奇妙な事件が次々と起こる。抜群のユーモアが冴える会心の一撃。 内容紹介より



ディズニーランドに敵愾心を燃やす二流テーマ・パークのオーナーは、地元の不動産王でもあり、フロリダの自然豊かな地域をリゾート地として開発しようと計画を進めています。テーマ・パークで広報担当の元新聞記者の主人公が、珍しいハタネズミの盗難と、それに続く動物学者の失踪事件を契機にテーマ・パークのオーナーの悪巧みを調べ始めるという流れ。作者の人生のテーマと言えるであろう“悪質開発業者による自然環境破壊対環境保護”が、相変わらず彼の軽妙な筆致と奇天烈なプロットで表されブラックな笑いをまとった作品です。登場人物たちもこれまた相変わらず奇矯な者たちばかりで、当然常連である元州知事、すぐに銃をぶっ放す環境保護団体のボスである老婦人、彼女に銃で撃たれた凸凹コンビの泥棒たち、ミッキーとミニーの卑猥な刺青を入れたテーマ・パークのオーナー、ステロイドで増強した筋肉自慢の警備課長、そして人間だけでなく猥褻行為をはたらくイルカまで種々様々です。キー・ラーゴの現在の自然環境はどういう状況なのか、読後に、ああ面白かった、というだけでなく考えさせられる作品だと思います。

ユーザータグ:カール・ハイアセン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『悪魔の星』ジョー・ネスボ 集英社文庫

2019-11-06

Tag :

☆☆☆☆

一人暮らしの女性が銃で撃ち殺され死体で見つかった。左手の人差し指が切断されていた上に、遺体から珍しいダイヤモンドが見つかると、猟奇的な事件に、注目が集まる。ハリー・ホーレ警部は、3年前の同僚刑事の殉職事件を捜査し続けていたが、証拠を得られず捜査中止を命じられ、酒に溺れて免職処分が決定。正式な発令までの間、この猟奇的事件の捜査に加わるが、事態は混迷を深めていく……。 上巻内容紹介より



連続殺人に死体損壊、犯人が意図的に置いた遺留品、それから警察内部の腐敗とアルコール中毒の刑事。こういう要素それぞれは珍しくもなければ新しい訳でもないし(特に、警察内部に犯罪ネットワークみたいなものが存在しているという話にはかなりの既視感を覚えました)、どん底に墜ちたヒーローが、何かの拍子に覚醒して手強い悪を倒す、という話をなぞっているプロットもオーソドックスなのですけれど、それらの材料の処理と手際がとても巧い作家だと思いました。上巻では、仕事を放棄して酒に溺れ悪夢にうなされる主人公の底まで堕ちた姿をこれでもかと描いているため話がちょっと停滞気味です。下巻に入って、犯人が残した逆五芒星を手がかりに捜査が進み始めますが、それに主人公の仇敵を絡ませて緊迫感を高めています。「殺人犯は完璧な暗号をわれわれに示して、日時と場所を教えてくれました。しかし、“なぜ”は教えてくれませんでした。そうすることで、犯人は動機よりも行動にわれわれの目を向けさせたんです」(下巻p334)、これは主人公が真犯人に目を付けた理由を説明した言葉で、猟奇殺人につきものの性的、変質的なものが事件の背景に見当たらなかったことを指していて、この視点を別方向からとらえているところに、従来にない何か目からうろこみたいな新鮮さを感じました。

『ザ・バット 神話の殺人』
『スノーマン』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『震えるスパイ』ウィリアム・ボイド ハヤカワ文庫NV

2019-11-03

Tag :

☆☆☆☆

英国の大学院生ルースは、母親のサリーが命の危険を感じて描いたという手記を読み、驚愕した。母親は本名はエヴァ・デレクトルスカヤといい、第二次大戦中は英国の諜報員として対独情報工作やアメリカを参戦させる作戦にも加わっていた。だがそこで彼女は死の危険に見舞われたのだった。そして1976年の今、母から依頼された調査を始め、ルースは驚くべき事実を知ることに。コスタ賞最優秀長篇賞を受賞した本格スパイ小説。 内容紹介より



物語は、主に1941年のエヴァ(サリー)と1976年のルース(エヴァの娘)の視点を交互に挿んで進みます。前者の時代背景は、英国が孤立主義をとる米国をなんとかヨーロッパの戦争に参戦させようと躍起になっていた時期で、対独情報工作をしていたエヴァの所属する組織は、ニューヨークに移って秘密工作をすることになります。ナチスによる米国への脅威を煽るための偽の情報を仕込む作戦を担当した彼女は、その現場において正体が暴かれ窮地に陥ったことで、ある疑念を抱き始めます。かたや後者は、ドイツのテログループの記事が紙面に載ったり、ロンドンに来るイラン王室に対する抗議デモがある程度で、博士論文を執筆中のルースは外国人に英語を教える仕事をしながら、一人息子を育てています。そんな日常を過ごすなか、彼女は母親から元スパイだったことをカミングアウトされることになります。このエヴァとルースの各章の緊張感の落差が緩急になって非常に良いテンポとバランスを作り出しているように感じました。またルースの章にも、ドイツからやってきた、彼女の元愛人の弟とその女友だちにまつわるテロリスト疑惑や警察から密告者(スパイ)にならないかと勧誘を受ける件など、ちょっとしたサスペンス風味を効かせた仕掛けもしてあるところなど作者の達者な一面がうかがえます。米国の参戦をめぐっての各国の思惑、歴史の裏に秘められた事実には意表を突かれるとことがありました。ル・カレでも007でもない、新しいスタイルを備えた完成度の高いスパイ小説ではないでしょうか。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『泉』キャサリン・チャンター 東京創元社

2019-10-31

Tag :

☆☆☆☆

イギリス全土で3年にわたって異常な干魃が続いているにもかかわらず、“わたし”がいる農場〈泉〉にだけは雨が降り、草木が青々と茂っている。“わたし”はここで自宅監禁生活を送ることになった。〈無個性〉〈3〉〈ボーイ〉と名付けた男たちに常に監視され、行動を厳しく制限されながら孤独に暮らす“わたし”を、殺人事件の記憶が苦しめる。なぜ家族も友人も失うことになったのか?自分は何をしてしまったのか?“わたし”は精神のバランスを崩すほど思い悩みながら〈泉〉での生活を降りかえり、殺人犯をつきとめようとする—。異様な状況下で傷ついた女性の、追憶と再生の物語。 内容紹介より



“わたし”が、冤罪で失職した夫の希望で共に暮らし始めた郊外の農場には泉があり、それはイギリス全土に及ぶ異常干ばつでも涸れることはなかった。ふたりの農家暮らしもなんとかやりくり出来始めたものの、異常気象が続くにつれ、彼らの泉が注目を集め、いわれのない妬みや中傷に晒される事態が起き始めます。世間から隔絶状態になったため、“わたし”は農場を売却してしまうよう勧めますが、夫は聞き入れません。ふたりの関係にわだかまりが生まれかけた頃、離れて暮らしていた娘が孫息を連れてに彼らの前に姿を見せます。そして泉の存在に魅せられた女性だけの宗教グループが敷地内で暮らしはじめたことから、“わたし”と夫の間には、さらに亀裂が広がる状況に陥ります。精神が不安定になった“わたし”に衝撃的な事件が降りかかります。ある事件を起こして施設に囚われていた“わたし”が自宅での監禁生活に処され、そこで現在の状況を交えつつ、事件に至るまでの経緯を回想するかたちで物語られています。本書は、CWA賞最優秀新人賞候補作なのだそうですけれど、ミステリ色は薄く拙く、かなり(純)文学寄りの作品で、表現力や文章力、豊富なイメージでもって、尽きぬ泉によって楽園となった土地に絡めとられ、妬まれ、崇められ、利用され、そして、もっとも大事なものを失ってしまう様を丹念に幻想的に描き出して見せます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『贋作』ドミニク・スミス 東京創元社

2019-10-25

Tag :

☆☆☆☆

画商に修復の腕を見込まれ、ある富豪の弁護士が所有する17世紀オランダ女流画家の作品の贋作をひそかに制作し、心ならずも絵画窃盗に加担してしまった女子画学生。私立探偵を雇って彼女の存在を探り出したその弁護士は、罪を暴き、大切な絵を取り戻そうと、彼女に近づくが、彼女の絵に対するひたむきさと知識の深さに敬意を抱くようになる。そして彼女は絵を愛する、自分とは別世界に住む大人の男に惹かれ始めたが……。40年以上の時が流れ、過去を封印し罪の意識におののきながら、美術史学者として活躍する彼女の前に、自分の手になる贋作と真作がそろって出現した!いったいなぜ?17世紀の女流画家と現代の女性学者、それぞれの愛と喪失と苦悩が時代を超えて呼応する。絵画贋造の技法、複雑に絡み合う人間関係も、ミステリアスで美しい光のなかに見事に描きあげられた情感溢れる物語。 内容紹介より



物語は、17世紀のオランダ、1957年のニューヨーク、2000年のシドニー、この三つの時代と場所によって各章に分けられ、主要な登場人物は女流画家サラ、富豪の(元)弁護士マーティ、(元)画学生エリーです。女流画家に降りかかった悲劇と制作した絵画にまつわる出来事、彼女の遺した絵画をめぐって起きた盗難事件、その盗難事件に利用された贋作と盗まれた真作が美術館に持ち込まれたことで明らかになる過去が語られていきます。サラが絵画を描いた動機は、ひとり娘を喪った悲しみから、エリーは女性差別を体験したことからくる怒りで贋作を描いているように、彼女たちの人生を重ねあわせ、また対比させています。注目したいのはマーティの存在ですが、先祖の財産で裕福に暮らし、サザビーズに出入りする彼は、エリーとはまったく異なる世界に住む人物に設定され、借金や貧困に苦しんだサラと生活のために絵画補修をしつつ、論文を書いている苦学生エリーとは対照的な存在であり、彼の存在はほとんど添え物に過ぎません。彼の立ち位置は、エリーのオークション自体への揶揄に表されているように、そしてサラのパトロン的存在の大金持ちの老人に代表されるように、貧しさの中からうまれた絵画が金持ちの所有になる現実を皮肉ってもいます。サラの人生の一部を切りとったことにより物語に奥行きと情感を出し、時代を超えた二人の女性の数奇な結びつきを巧みに描き上げた作品だと思います。




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『影』カーリン・アルヴテーゲン 小学館文庫

2019-10-19

Tag :

☆☆☆☆

ノーベル賞作家である父アクセル・ラグナーフェルトは、脳疾患で全身麻痺となり施設に入っている。息子ヤン=エリックはその威光で尊敬を集めて生活しているが、家庭は崩壊し浮気三昧の日々だった。物語は、高齢で死んだ老女の身元確認から始まる。彼女はかつてラグナーフェルト家で家政婦をしていた。葬儀のために探し物をすることになったヤン=エリックは、事故死と聞かされてきた妹の死因に不審を抱く。やがて彼は、高潔なはずの父が何かをひた隠しにしていることを知る……。人は、ここまで堕ちることができるのか—生きることの絶望と希望に迫る問題作。 内容紹介より



誰もが多かれ少なかれ秘めている影をテーマにした作品です。ノーベル文学賞受賞という強い光に照らされた大作家には、また深い影を持っていたことが、かつて彼の家の家政婦だった女性の死をきっかけに明らかになっていく過程を描いた物語です。全身麻痺で施設で介護されている大作家、アルコール依存症のその妻、父親の名前で暮らしている彼らの息子、その妻、捨て子だった脚本家の青年、主にこの五人の視点で語られていくのですが、どれも心理描写が深く、彼らの抱える影を際出させています。特に、文学的才能を持たない息子のひがみと父親を憎みながら、その名声を頼って暮らさざることを得ないことへの葛藤、それが原因で家庭不和に陥いる悪循環の中でもがく姿を詳細に描き出していきます。元家政婦の死によって、作家と彼の家族に起きた過去、そして青年の母親に起きた出来事により、人がいかに残酷なほどエゴに堕ちるものなのかが暴かれていきます。己の幸福を追求し過ぎて、手に入れた幸せに満足できなかった者が一度の過ちでつまずき、影に呑まれるのを抗う中で図らずも周りの者たちをも不幸にさせたしまった一つの人生の物語です。

『喪失』
『罪』
『裏切り』




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『冷たい家』JP・ディレイニー ハヤカワ・ミステリ

2019-10-13

Tag :

☆☆☆☆

フォルゲート・ストリート一番地—そこにはミニマリストで完璧主義者の建築家エドワードが手がけた家がある。最先端テクノロジーによって制御された立方体の建物。簡潔さが追求された室内。エドワードの厳しい審査をパスした者だけがここに入居を許される。だがこの家に住む女性たちには、なぜか次々と災厄が訪れるのだった—。この建築家は一体何者なのか?この家に隠された秘密とは?交錯する語りから驚愕の真実が明かされていく—映画化決定の新時代サスペンス。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー 内容紹介より



物語の構成は、フォルゲート・ストリート一番地に建つ家の借り主の女性たち、過去の借り主エマ、現在の借り主ジェーン、二人の視点が入れ替わって組み立てられています。ミニマリズムを追求し超ハイテクな家、そこに入居を許される者は、建築家の意向による煩雑なアンケートに答え、面接を受けなくてはなりません。さらには、入居者には二百ほどの禁止事項やルールに従うことが求められています。強盗事件に巻きこまれたエマ、死産を経験したばかりのジェーン、二人は家に包み込まれたような居心地の良さを感じ、建築家と恋に落ちてしまいます。やがてエマは建築家の妻子が事故死した事件を、ジェーンはエマが不審死を遂げた事件を調べ始めることになります。過去と現在の視点が、短い章でスムーズに切り替わり、建築家が彼女たちにアプローチする方法やデートの場所、プレゼントなど言動がまったくと言っていいほど同じなのが無気味であり、彼の尋常の無さを強く印象づける手法になっています。また、中盤になってのある人物の隠された姿、それは物語の潮目が変わるような、これまでのイメージを覆すような事態への急激でショッキングな変化がとても効果的で見事だと思いました。




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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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