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『モルディダ・マン』ロス・トーマス ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2019-08-02

Tag :

☆☆☆☆

合衆国大統領の実兄がリビアに誘拐された。自国側の大物テロリストがCIAの手に落ちたと考えたリビアが報復に出たのだ。しかし、CIAはその件には一切関与していなかった。一触即発の事態を収拾すべく、ホワイトハウスは“モルディダ・マン”を雇った—国際紛争のはざまで大国を手玉にとる男どもを描き、巨匠が真骨頂を示す傑作! 内容紹介より



かつてメキシコにおいて人質解放交渉をまとめあげたため、「賄賂を贈る者」というスペイン語の“モルディダ・マン”のあだ名を持つ主人公は、元陸軍大佐で元下院議員を一期務めたリスボン在住のアメリカ人。彼は大統領に近い筋から、その実兄のリビアによる誘拐事件の解決を秘密裡に依頼されます。リビアは自国が援助する国際テロリストのリーダーがCIAによって拉致されたと思い込み、テロリストと大統領の実兄を交換する目的で 犯行に及んだのです。しかし、CIAはまったく関与していなかったため、主人公の出番となったという訳です。ぐいぐいくる凄腕の交渉人というより、じわじわと周りから詰めていく、場合によっては自ら敵の懐に入るような策を練るタイプの人物です。訳者あとがきで山本やよい氏が書いているみたいに、話の展開が「予測ができなくなる。思いもかけない方向へ話が飛んでいく」(p405)流れになっても、最終的には何もかもが主人公の計画通りに進んでいくのだろうなという感じはします。ネットを使って違法に莫大な金を手に入れた富豪や彼の部下の元CIAと元FBI、現役のCIA局員が主人公に交じって虚々実々の策謀をめぐらす頭脳戦が面白かったです。ただ、テロリストグループのメンバーにも同じような存在感を発揮してほしかった感じはします。

『八番目の小人』
『黄昏にマックの店で』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『引き攣る肉』ルース・レンデル 角川文庫

2019-07-30

☆☆☆☆

ヴィクターには或る恐怖症があった。14年の刑期を終えて出所した今、彼はその恐怖の因(もと)となるものをいずれ目にすることを予測していた。彼のもう一つの関心は、フリートウッドという元刑事のことだった。ヴィクターは女を襲って追われる途中、フリートウッドを銃で撃ち、逮捕されたのだ。彼は半身不随となったが、クレアという恋人と幸福に暮らしているという。不思議な運命の糸に操られたかのように、ヴィクターは彼らと出会った。クレアを含む3人の間に生じた奇妙で、危険な関係、それがやがて恐るべき破局を生むことになるのだが…。CWA賞受賞の傑作。 内容紹介より



1986年に発表されたノン・シリーズ作品です。性犯罪者で、逃走中に立てこもった家で刑事を撃って逮捕されたヴィクターが主人公です。ほとんど彼の視点によって物語が描かれているため、その社会病質性があらわに伝わってきます。やや奇妙な家庭ではあるけれど、虐待を受けて育っているわけではない彼の異常性、女性に対して向けられる攻撃性のもとがはっきりと示されていないところが異様さを強めているように感じました。日常性に埋没した異なるものを描き出すのが作者の特徴であり、その異なるものが様々な要因で姿を現してあらぬ方向へと動きだしてしまうサスペンスが読みどころだと思います。本書でも彼の犠牲となって車椅子生活をする元刑事とその恋人が、彼とどういう出会い方をし、またそれがどういう結果におちていくのか、そんな先の展開がまったく読めない不安を感じさせる作者の技が冴えています。
「この作品もまさしくレンデルの世界、くつろぎのひとときも、「幸福な眠り」も約束はしてくれないでしょう」(p364)、訳者である小尾芙佐氏のあとがきにあるこの言葉が作品をよく言い表していると思います。

ユーザータグ:ルース・レンデル




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『カリフォルニア・ガール』T・ジェファーソン・パーカー ハヤカワ文庫HM

2019-07-27

Tag :

☆☆☆☆

オレンジ出荷工場の廃屋で、首を切り落とされて殺害されたジャニル。幼い頃の彼女を知るベッカー家の三兄弟は、それぞれの立場で事件の闇に踏みこんでいく。ニックは捜査を指揮する刑事として。アンディは取材にあたる記者として。デイヴィッドは彼女を助けていた牧師として。ジャニルの、そして少年時代の記憶をたゆたいながら、やがて見つけた真相は—二度目のアメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞に輝いた感動作。 内容紹介より



タイトルの“カリフォルニア・ガール”とは、オレンジ出荷用の箱に貼られたラベルに写る美人モデルのことです。しかし、それは殺人事件の被害者となった若い女性であるとともに、カリフォルニアという土地のメタファーでもあるのでしょう。1954年から1973年にかけて、カリフォルニアと住人たちが時代につれて変遷する姿をジャニルと彼女を幼少時代から知る兄弟を通して映し出しています。ケネディ大統領暗殺事件やベトナム戦争の衝撃、ドラッグ流行の兆しとサブカルチャーの隆盛、そしてあらわになった家庭内暴力の問題、そのようなカリフォルニアに起きる変化のイメージを投影したものがジャニルであり、その影響を受ける市民がベッカー家の兄弟たちという存在です。兄弟たちは、牧師、刑事、記者それぞれの立場で彼女の死に携わることになり、それにつれて彼らの半生が濃密に描かれていきます。本書は、ジャニルの死を通して、ある家族の一時代を描き切ったと言える力作です。

『ブラック・ウォーター』
『コールド・ロード』
『嵐を走る者』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ようこそグリニッジ警察へ』マレー・デイヴィス ハヤカワ文庫HM

2019-07-15

Tag :

☆☆☆☆

パツィは、問題刑事の吹きだまりグリニッジ署に飛ばされた。少女レイプ犯に過剰な暴力をふるったせいだ。いやそもそも、華麗なる一族に生まれ、金にも不倫相手にもぜんぜん不自由せず、上司の言うことをロクにきかない彼女が煙たがられていたのかも。そして着任早々、火葬される死体が別人のものにすり替えられて灰になるという奇妙な事件が発生した!凄腕セレブ刑事が事件解決に向けて突っ走る痛快ポリス・サスペンス 内容紹介より



お金持ちで不倫体質の美貌の主任警部と強面だけど心優しい部長刑事のコンビが主人公です。遺体すり替え事件から葬儀店オーナーの失踪、そしてクリーニング店主に始まる連続殺人事件を彼女らが調べていくうちに十年前の未解決大金強奪事件が浮かび上がってきます。592ページのなかなか大部な警察小説で、とにかく登場人物がわらわらと多くて登場人物一覧ではとても把握できずかなり混乱してしまいました。手際よくコントロールされているにしても、物語はメインストーリー以外にサイドストーリーも四方八方に広げているため、それは重層性とはまた違った肉付けをなされてはいるけれど、本来のプロットがややぼやけてしまっているような印象を受けました。また、悪人たちの造形がどれも似たり寄ったりなところがあります。主人公二人の間柄が恋愛に発展しそうな流れは個人的にはヒロインの個性を消してしまいそうで必要無い気がしました。内容的には軽めで読みやすく、こういうユーモア側に寄った英国ミステリが持つ苦い捻りが効いている良く練られた作品だと思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『死せる魂』イアン・ランキン ハヤカワ・ミステリ

2019-07-12

Tag :

☆☆☆☆

過去の亡霊たちが、リーバス警部の周囲に気の重くなるような事件を積み上げている。公園の崖から墜死した同僚刑事、息子が失踪した学生時代の恋人、刑期を終え、ふたたび子供たちの周囲をうろついている性犯罪常習者—そんなさなか、アメリカで連続殺人を犯し、15年の刑期を終えた男オークスが、生まれ故郷のエジンバラへ帰ってきた。奴はまた殺人を繰り返すにちがいない。警察の厳重な監視を嘲笑うかのようにオークスはエジンバラを徘徊する。何のために、何を狙って、この町に戻ってきたのか?オークスもまた過去の亡霊の一人なのか…… 内容紹介より



マクベインの87分署シリーズでは、モジュラー形式で進行する諸々の事件が分署に所属するそれぞれの警察官の視点で描かれていることが多いのに対して、本書では主人公のリーバス警部がすべての事件にかかわるという形態をとっているようです。それは一匹狼の立ち位置として当然なのでしょうが、彼がかかわる事件の多さに、超人化傾向に向かって行くのではないかと一抹の不安も感じてしまいます。嘱望されていた同僚刑事の墜落死、元恋人の息子の失踪事件、性犯罪の前科者、アメリカから送還された元殺人犯、このような事件や犯罪者たちが主人公の様々な心理を映し出す鏡の役割を果たしているような印象がしました。そこに映し出される感情にはポジティブなものはほんのわずかであり、崖っぷちに立つ彼の抱える闇とかろうじてそこから一歩を踏み出させない何かを含んでいるような気がします。全体的に気が滅入るような事件が多いのですけれど、雑草あるいはゴキブリみたいにしぶとく、理想はとうに潰えていてもしたたかにかつ泥臭く向かっていく主人公の姿が妙に愉快で映えているように感じました。

『血の流れるままに』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』ポール・アダム 創元推理文庫

2019-07-09

Tag :

☆☆☆☆

名ヴァイオリン職人ジャンニのもとに一挺のグァルネリが持ちこまれた。天才演奏家パガニーニ愛用の名器“大砲(イル・カノーネ)”で、コンクールの優勝者エフゲニーがリサイタルで弾く予定だった。修理を終えた翌日、リサイタルに来ていた美術品ディーラーの撲殺死体が発見される。彼はホテルの金庫に黄金製の箱を預けていた。中にはエリーザという女性がパガニーニに宛てた1819年の古い手紙があり、彼女がパガニーニに何かを贈ったことが書かれていた。殺人事件解明の手がかりなのか?名職人にして名探偵が“悪魔のヴァイオリニスト”をめぐる謎に挑む! 内容紹介より



シリーズ第二作目。今回はパガニーニとナポレオンの妹であるエリーザの恋愛を軸に、彼が彼女に捧げた曲、そして彼女が彼に贈ったある品物がミステリを解き明かす鍵の役割をしています。三体の死体が出てくるにしても、前回同様にとても落ち着いた大人なミステリに仕上がっています。音楽界の歴史的人物にまつわる恋愛模様とそれを現代に移し替えたみたいな若きヴァイオリン奏者の恋、それと何かに秀でた者の子供時代の苦悩が添えられています。天才ヴァイオリニストや彼への贈り物にまつわる面白くまたは物悲しくせつない逸話を興味深く読みながら、ミステリとして徐々に謎が解けていく様子が楽しめる、作者によるそれらのリンクのさせ具合が絶妙だと思います。それに加えて主人公の自分の人生と亡くした妻への想いを挿むことで物語に深みとペーソスという味わいを加えているように感じました。音楽室の肖像画で見かけるだけだった大音楽家たちの人間臭い姿を描き出す良シリーズだとあらためて思います。

『ヴァイオリン職人の探求と推理』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『リヴァイアサン号殺人事件』ボリス・アクーニン 岩波書店

2019-06-21

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☆☆☆☆

十九世紀末パリ。大富豪が怪死をとげた。唯一の手がかりである「金のクジラのバッジ」が指すのは。イギリスからインドへ向かう豪華客船リヴァイアサン号。見え隠れする「消えた秘宝」の謎と、それぞれいわくありげな乗客たち。—このなかに犯人がいる!日本赴任の途上に船に乗りあわせたロシアの若き外交官ファンドーリンが、快刀乱麻の推理で事件に挑む。 内容紹介より



シリーズタイトルは「ファンドーリンの捜査ファイル」です。時代設定は1878年、舞台は英国船籍の豪華客船リヴァイアサン号。物語はパリ市内の邸宅で起きた大量殺人事件を報じる新聞記事から始まり、その内容は何者かが屋敷の使用人たちを毒殺した後、主を撲殺してそのコレクションである黄金の像を奪ったというものです。犯行現場に残された金のバッジを手がかりに、パリ警視庁の老練な警部が犯人を追って処女航海へ向かうリヴァイアサン号に乗り込みます。容疑者はすべて一等船客であり、彼らの国籍は、イギリス、イタリア、スイス、ロシア、日本。職業は、貴族、外交官、医師、軍人、主婦など様々。計画により偶然を装って集められた容疑者たちのグループ内に、身分を偽った警部が加わり、彼らを監視することになります。各国にわたる容疑者たち、マハラージャに由来する秘宝、暗躍する妖婦、豪華客船というクローズドサークルなど、探偵小説の黄金時代を彷彿とさせる時代ミステリであるとともに、各国のお国柄、からかいや軽い侮蔑を含む対抗心、そしてカリカチュアされたような日本人像など登場人物たちの造形が面白いです。視点も警部や各容疑者に入れ代わり、時には新聞記事からの引用を用いる構成をとって飽きさせません。全体的にユーモラスな雰囲気を用いながら、悲劇的なエピソードも添えて物語に深みを持たせていると思います。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『血の流れるままに』イアン・ランキン ハヤカワ文庫HM

2019-06-18

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☆☆☆☆

エジンバラ市長の娘が誘拐される事件が発生。リーバス警部は容疑者の少年二人を見つけるが、追い詰められた彼らは身を投げ自殺してしまう。時同じくして、銃を持った元受刑者が議会議員を急襲するが、元受刑者は議員を殺さず、自らを撃ち抜き死んでしまう。一見なんの関係もない三人の自殺を調べるリーバスに、なぜか各方面から捜査中止の圧力が……世界のミステリ界をリードする著者が描く、一匹狼リーバスの単独捜査。 内容紹介より



市長の娘を誘拐した容疑で追跡中だった二人の少年の投身自殺と出所したばかりの元受刑者が区議会議員の面前で起こした銃による自殺、主人公が出くわした不可思議な二件の自殺を調べるうちに、政界や官界を巻き込んだ企業犯罪に行き当たってしまうというハードボイルド風味な社会派警察ミステリ。アルコール依存気味な離婚歴のある中年男性で、一匹狼で職場でも問題行動が多いにもかかわらず、部下から信頼されているという設定が魅力的です。なぜか自殺事件の捜査に中止の圧力がかかり、主人公は強制的に休暇をとらされるも持ち前の反骨精神で地道に調べを続けます。昔気質というか泥臭く非常にあくが強く、とてもスマートとは言いがたい、あがきながら信念を貫く主人公像って、下手をすると古臭いのですけれど、けれど、どこにでもいそうでいない感じが新鮮に映りました。ただ少年二人の死は衝撃的ではあるものの、それほど物語に効果を与えている訳ではないように思いましたし、女友だちの飼い猫の一件などいったい何が示したいのか理解しかねます。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『炎の裁き』フィリップ・マーゴリン ハヤカワ文庫NV

2019-06-15

Tag :

☆☆☆☆

裁判でミスをしたピーターは、大物弁護士の父により勘当同然に片田舎の町へと追いやられ、細々と公選弁護人をつとめていた。そんなある日、地元の女子大生が惨殺され、障害のある青年ゲイリーが殺人容疑で起訴される。世間注視のこの裁判で勝利すれば、檜舞台に復帰できる……不純な動機からゲイリーの弁護を引き受けたピーターだったが、検察側の態勢はまさに盤石。はたしてピーターは圧倒的に不利な状況を覆せるのか? 内容紹介より



若い女性が犠牲になった二件の猟奇的な殺人事件が起こった町で、さらに女子大生が惨殺される事件が発生します。事件当夜、知的障碍のある青年が別の女性をめぐってトラブルを起こした酒場に犠牲者が居合わせたことから彼が警察に目をつけられます。警察による誘導尋問や状況証拠によって逮捕され、さらに青年が罪を告白したというある人物の証言から青年は圧倒的に不利な立場に陥ることになります。その容疑者の弁護を引き受けたのが、多額の賠償金がかかった民事裁判で、父親の指示に逆らった上に重大なミスをして敗訴した主人公である若手弁護士です。父親の庇護でこれまでの人生を渡ってきた力量のない主人公は、しでかした失敗により父親の弁護士事務所を解雇され、都会から右も左も分からない片田舎へと放り出されたところでした。彼は千載一遇とばかり目先のことしか考えずに重大な刑事裁判の弁護士を引き受けたのです。自分勝手で甘っちょろいヤッピーが被告との触れ合いや公判を通じて精神的な成長を遂げていくリーガルミステリになっています。法廷ものにつきものの大どんでん返しによる圧倒的なカタルシスを得られる趣向ではなく、なんというか良い意味での言葉尻を捕えるみたいな、読者の注意を引かずにヒントをさりげなく出して置く手法の面白さがあります。「キャラクター造型に難点がある」(解説より)と言われることがある著者が、その点に力を入れた作品だそうですが、それでも主人公をはじめとした人物造形はちょっと月並みかも。特にある女性とくっつく安易な展開とかは。

『女神の天秤』講談社文庫




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ラスト・プレイス』ローラ・リップマン ハヤカワ文庫HM

2019-06-12

☆☆☆☆

これは仕掛けられた巧妙な罠か?私立探偵テスは、市の福祉団体から数多の家庭内暴力による殺人事件から無作為に選ばれた五件の追跡調査を依頼された。だが調べを進めるうちに、それぞれの事件に奇妙な符合があることに気づく。被害者たちは殺される直前に、理想の男性と出会っているのだ。これが偶然でないなら、どんな意味が……。仇敵の影に絶体絶命の危機に陥ったテスの猛反撃が始まる!テスの新たな旅立ちを描く衝撃作 内容紹介より



私立探偵テス・モナハン シリーズの七作目。過去に起きた家庭内暴力で亡くなった犠牲者たちについて、警察による捜査が適切に行われていたのかどうか、地元の非営利団体からその追跡調査を依頼された主人公。数々の事件から無作為に選ばれた五件の事件の調査に取りかかると、単なる強盗事件や放火事件にしか考えられないようなものから、被害者とされる人物が生存していることが判明したりします。ただ何件かの事件には、それぞれ状況に似たようなものがあることが主人公の目に止まります。彼女の視点に謎の人物からの視点を挿む構成をとり、サスペンスやミステリを高めています。概して犬も歩けば的な行き当たりばったりの展開になりがちな私立探偵ものとは一線を画し、出来の良い警察小説並みの謎を徐々に解きほぐしていく進み方をしている点は、このシリーズのなかでは一番優れていると思いました。それはかつて事件にかかわった元警察官をパートナーにし、地元警察に対して協力をする立場になったことも一因だと思います。巧妙な姦計をめぐらすサイコな犯人像に、気の強い主人公の造形が巧くマッチしていて、これまで鼻の付きがちな彼女の性格が今回はさほど気になりませんでした。犯人がなぜ主人公に近づくために回りくどくてリスクの高い計画を巡らさなくてはならなかったというところは理解できません。

ユーザータグ:ローラ・リップマン




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ジャンル : 本・雑誌

『コールド・ロード』T・ジェファーソン・パーカー ハヤカワ文庫HM

2019-06-09

Tag :

☆☆☆☆

サンディエゴ市の富豪ピート・ブラガの撲殺事件を担当することになった刑事トム・マクマイケル。ブラガ家とマクマイケル家の間には三世代におよぶ忌わしい確執があったが、トムは捜査に全力をつくす。まもなくピートの付き添い人で看護婦のサリーが捜査線上に浮上する。が、トムは容疑者である彼女と愛し合うようになってしまい……。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を二度も受賞した著者が放つ、感動の人間ドラマ。 内容紹介より



マグロ漁船の船長からサンディエゴ市長にまでのし上がり、引退後も地元の政財界に大きな影響力を持つ老富豪が殺されます。捜査の担当になった主人公の家と被害者との間には因縁があり、それは祖父が金銭トラブルが原因で被害者に殺された事件、また被害者の息子が何者かに強打されて脳に障碍を負った事件は主人公の父親がかかわっていたのではないかという疑惑、そして主人公と被害者の孫との仲を裂かれた若い頃の出来事です。被害者の付添い看護士が有力な容疑者として浮上する一方、捜査を進める過程で被害者にはあちこちに敵がいたことが判明します。物語は非常にバランスがとれたものになっています。警察小説としての捜査活動はもちろん、不正行為を働いた元同僚とのやり取り、仕事が原因で離婚することになった夫婦生活の苦い思い出や別れて住むことになった一人息子へそそぐ愛情、さらに酒浸りの父親への複雑な想い、そして容疑者を愛することのジレンマ、様々な側面から主人公の心理を描き出していると思います。物語自体には大掛かりなトリックや派手な暴力シーンはありませんが、軽口を叩くこともなく、地道な捜査を行う、いたって等身大な主人公の姿に好感が持てました。

『ブラック・ウォーター』
『嵐を走る者』




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『警視の孤独』デボラ・クロンビー 講談社文庫

2019-06-06

Tag :

☆☆☆☆

ヴィクトリア朝の歴史ある館が火事になった。持ち主は、地域の再開発に反対していた大物政治家。焼け跡からは女性の遺体が見つかる。警視・キンケイドと警部補・ジェマをあざ笑うかのように、犯人は第二、第三の放火を企て、行方不明者は10歳の少女をはじめ、女ばかり3人に。警視の家庭にも危機が迫る! 内容紹介より



シリーズ十作目。放火の疑いのある火事が起きた歴史的な建物、火災現場から女性の遺体が発見されます。そこの所有者で高級マンションに改築しようとしていた労働党所属の政治家。その計画が彼のこれまでの政治信条と相容れないという微妙な問題が持ちあがったため、スコットランドヤードの上層部の政治的判断によりキンケイド警視が捜査を命じられます。亡くなった女性の身元を探るうちに、現場周辺で行方の分からない女性が浮かび上がるとともに、建物の所有者の娘、そして女の子とその母親の二人の行き先が不明であることも判明します。犠牲者の身元を捜査中、さらなる放火事件や殺人が発生して謎が深まっていくという趣向です。これらの事件とは別に、キンケイドの子供をめぐる親権争いが描かれて公私ともに、主人公カップルに難題が降り掛かってきます。各登場人物への手なれた視点の切り替え、彼らに付随するエピソードの創り方、また、放火、殺人、誘拐といった本題に主人公の私生活に関する問題を絡ませる手法、これらがまさに名人芸並みに昇華しているような感じです。ただ、三つの事件を据えているけれども、各事件の関連性が希薄なせいでやや盛り込み過ぎのような印象も残りました。

『警視の週末』
『警視の偽装』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『偽りの目撃者』ハーラン・コーベン ハヤカワ文庫HM

2019-05-22

Tag :

☆☆☆☆

スポーツ・エージェントのマイロンは、またもや事件に巻きこまれた。射殺体で発見された元プロ・テニス選手の女性の手帳に、彼の顧客の名が残されていたのだ。調査を始めたマイロンは、数年前にその女性の恋人が殺され、犯人は行方不明のままだという事実を突きとめた。マイロンは二つの殺人に関連があると信じ、真相を探るが……アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作家がエンターテイナーぶりを最大に発揮したシリーズ第2弾 内容紹介より



かつて将来を嘱望されていた元バスケットボール選手にして元FBI捜査官、現在はハーバード大卒の弁護士でスポーツ・エージェントの主人公、彼の名家出身で大金持ちのサイコな相棒と元女子プロレスラーの美人秘書。この三人がポーズをとるカバーイラストが目に浮かぶようなアメリカンコミックみたいな主要登場人物のキャストとキャラクターです。当然、悪役たちもどこか憎めないような造形にしてあります。いみじくも物語冒頭から始まる「TVの《バットマン》の悪役の名前当てゲーム」の場面が、本書のまたは本シリーズの特徴を暗示しているのかもしれません。この主人公がアメリカ人が好むイノセンスで正義感が強く情にもろいアメコミのヒーロー然としていられるのは、彼のサイコパスの相棒が暴力などの汚れ仕事を担っているからこそであり、その資金力と交友関係の広さに依っている訳です。しかし、すべてがアメコミ要素ではないところが、このシリーズの妙味であり魅力なのでしょう。有望だった女子プロ・テニスプレーヤーがなぜスターへの道から脱落したのか。プロ・テニス界で栄光を掴みかけているストリート出身の青年が抱える秘密とは。主人公の軽口に対比させるかのようなプロスポーツ界の影が描かれています。

『沈黙のメッセージ』




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『偽りの楽園』トム・ロブ・スミス 新潮文庫

2019-05-13

Tag :

☆☆☆☆

両親はスウェーデンで幸せな老後を送っていると思っていたダニエルに、父から電話がはいる。「お母さんは病気だ。精神病院に入院したが脱走した」。その直後、今度は母からの電話。「私は狂ってなんかいない。お父さんは悪事に手を染めているの。警察に連絡しないと」。両親のどちらを信じればいいのか途方に暮れるダニエル。そんな彼の前に、やがて様々な秘密、犯罪、陰謀が明らかに。 上巻内容紹介より



両親が長年続けてきた仕事をリタイアし、ロンドンからスウェーデンに移住して以来、個人的な事情で彼らに会っていなかった主人公にもとに、ある日、沈痛な口調で父親から母親が精神を病んだという内容の電話がかかってきます。翌朝、彼がスウェーデンへ向かうために空港に着いた時、今度は母親から電話がはいり、自分は狂っていない、父親が犯罪に加担しているから警察に告発するためにロンドンへ向かっていると伝えます。やがて彼女の電話通りに空港で彼は様子の変わった母親と再会するのですが……。本書の構成は、現在が主人公の視点で、移住することになった経緯と移住後の出来事は母親の視点から物語られていきます。自然豊かで人家もまばらなスウェーデンの片田舎で、父親を含めた男たちが犯している犯罪行為を調べたと主張し、証拠となる品を次々と取り出して強い決意を表す母親の姿に主人公の心は揺れ動きます。過保護気味に育てられた彼は甘えと自己中心的な生き方のせいで、両親の常に陽のあたる側しか見ようとしなかったことを思い知らされます。これまで彼にとって母親は母親でしかない存在であり、彼女の少女時代も含めたこれまでの人生を思いめぐらすことなどまったくなかったからです。その彼が母親を一人の女性として、彼女の人生を知り理解していく物語でもあります。構成上しかたないかもしれませんが、父親の存在感が希薄なことと後半部分が急ぎ気味なことが気になりました。しかし、少女の心に受けた深い傷と孤独が胸に迫ってくる作品でした。

『チャイルド44』
『グラーグ57』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ナイスヴィル 影が消える町』カーステン・ストラウド ハヤカワ文庫NV

2019-05-01

Tag :

☆☆☆☆

美しい南部の町ナイスヴィルは、いっぽうで全米平均の五倍もの頻度で失踪事件が発生する不吉な町でもあった。そして今また、学校帰りの一人の少年が忽然と姿を消してしまった。それも監視カメラの前から、一瞬のうちに、まるで掻き消すように。数日後、彼は思いもかけぬ場所から昏睡状態で発見される。はたして少年の身に何が起きたのか?そして一年後、ふたたび不気味な波動が町を覆いはじめる……注目のホラー小説! 上巻内容紹介より



本書は、巨大なシンクホールを備えた岩壁の麓に広がる町を舞台にしたホラー小説の三部作の第一部です。先住民から不吉な場所と忌み嫌われていた岩壁を望む町は、原因不明の失踪事件が多発する所です。そこで再び十歳の少年が学校からの帰宅途中で行方不明になる事件が起き、それに続くように少年の両親の不審死、銀行強盗と警官殺人、町の名家の老婦人と庭師の失踪などの事件が頻発し始めます。主人公は郡犯罪捜査部の刑事ですが、視点は複数の人物により描かれ、場面転換を度々行う構成を用いているために非常に読みやすい感じを受けました。ホラー小説と銘打っているにもかかわらず、犯罪小説の要素が多く、仲間割れした銀行強盗犯やネットを使った愉快犯、ハイテク企業秘密を中国へ売り渡そうとするセキュリティ会社社長など大なり小なりの悪党たちの人間臭いキャラクターが際立っているように思え、そこは警察小説を執筆していた作者の経験と持ち味が感じられる気がしました。ホラー要素は特段に目新しいものはなく、古代から存在する憎悪を持つもの、それが悪を引きつけ、人間の憎しみや恨みを利用するところ、鏡という小道具の使い方、愛する者の幻影を使って惑わせるなどの従来のアイデアやアイテムを用いています。




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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