『青銅の翳り』リンゼイ・デイヴィス 光文社文庫

2017-05-06

Tag :

☆☆☆☆

—紀元70年のローマ—。内乱を制したウェスパシアヌス帝だが、なお各地に潜伏する謀反の残党がいた。これを探し出し、服従を誓わせるのが、今回、密偵ファルコに与えられた使命である。ペトロ一家との家族旅行を装い、彼が向かったのは、ベスビオ山の大噴火により壊滅するわずか8年前のポンペイ。運命を知りようもない人々は、思い思いに夏の日を楽しんでいた……。—イギリス・ミステリー界で人気No.1のシリーズ第2弾! 内容紹介より



〈密偵ファルコ〉シリーズ。
「小難しい歴史ものではなく、ハリウッド製のコスプレ時代劇」(p545)と、高瀬美恵氏が解説で述べているように、作品の雰囲気は確かに時代劇風であり、内容はハードボイルド調で語られる冒険ロマンス小説に間違いありません。作中で牡牛ネロが引く牛車の歩みのごとく、ストーリーはゆっくりと進み、もう少しスピードアップして欲しいようなまどろっこしさを感じなくもないです。それはたったひとりの男を追跡するだけにページを費やし、しかも何度も取り逃がしてしまうためと、主人公ファルコとヒロインのヘレナとの恋愛沙汰があれこれとああだこうだと描かれ、さらにもう一つの柱となるべきミステリの色合いがかなり薄いためです。舞台をポンペイに選んだことも話題性だけで、作品にこれといった効果はあげていないように感じました。しかし、そういったマイナス面も著者が描き出す真に迫った古代ローマの風景や社会風俗によって十二分に補われているように思います。ファルコとへレナのラブロマンスが大きな部分を占めていて、彼らの今後の行く末が気になって続編を読みたくなる仕掛けが巧妙です。

『密偵ファルコ 白銀の誓い』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ウィッチフォード連続殺人』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫HM

2017-04-30

☆☆☆☆

被害者は中年の女性で、喉をざっくりと切り裂かれていた。残酷な事件とは無縁のようなのどかな田舎に捜査のためにやってきたのは土地出身の若い主任警部。優秀な刑事だが、今回は昔なじみの人々が多く、やりにくい面もあった。しかも、彼の捜査を嘲笑うかのように、すぐに若い女性が第二の犠牲者となった。被害者にはどんな繋がりがあり、犯行を繰り返す首切り魔の目的とは何なのか。文庫初登場の女流が本格に挑む新作! 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意下さい!

しょっぱなから後に重要容疑者として浮かび上がる二人の人物の背景を描いて読者の視線を向けさせる手法をとっています。しかし、それにくらべると真犯人へのそれらしい言及は非常に少ない気がしました。ある人物などは真犯人だと名指しされても、読者にはかなりのいきなり感があるわけで、ロマンスの要素はこの著者の持ち味ですから否定はしませんが、主任警部と幼なじみの女医との恋愛模様に紙面を費やすのなら、犯人に対するなんらかのほのめかすような書き込みもある程度は必要だったのではないかと思います。また、それがあれば著者が仕掛けた二重のトリックと相まって動機の面でも読者を混乱させる相乗効果も期待できたでしょう。連続殺人事件の被害者たちは同じ医院を受診していた以外に,年齢も社会階層も異なりまったく関係性が見つかりません。捜査もなかなか進展せず、物語は故郷に帰ってきた警部のしがらみとか恋愛事情でやや埋もれ気味になり、ややめりはりに欠けるような印象も受けてしまいました。もう少しハードな本格ミステリを期待していたのですが、ロマンスの比率がやや高めで、ノンシリーズにおいてのロマンスというスパイスの配合はなかなか難しいことが見て取れます。

ユーザータグ:ポーラ・ゴズリング




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『キング・オブ・クール』ドン・ウィンズロウ 角川文庫

2017-04-26

☆☆☆☆

舞台は南カリフォルニア。大麻の種子を持ち込んだ軍人チョンは平和主義者のベンを相棒に大がかりな大麻供給グループを築き上げ、またたくまに軌道に乗せた。しかし、商売敵の手によって仲間が病院送りに。すぐさま大麻密売組織にお礼をお見舞い、腐敗警官との駆け引きに臨んだが,前世代から続く因縁が2人の前に立ちふさがる—。過去と現在をつなぐ覇権争い2人は生死を賭け、一発逆転の大勝負に打って出るが—!? 内容紹介より



『野蛮なやつら』の前編(前日談)として書かれた作品です。2005年現在のベン、チョン、O(オフィーリア)三人組、1967年から始まる、ドク、ジョン、スタンとダイアンの“連合”というサーファーやビートニック世代が属するグループ,この二つに起きた出来事がともにカリフォルニアを舞台に時代を替えて交互に綴られて物語が進みます。『野蛮なやつら』同様に短いセンテンスの積み重ね,ときにはヒップホップのラップを思わせるリズムをおびた筆致(東江一紀氏の訳によるところも多いのでしょう)でもって非常に軽妙な仕上がりになっています。さらに筋立ても似ていて、ベンに対してある組織がみかじめ料を要求してくることから話が動きだし、やがて対決にいたる出来事を描きますが、本書では1967年から現在までの“連合”のメンバーたちフラワーチルドレンくずれたちの理想、つまずきを経ての現実を、彼らが嗜好し商売品であるマリファナからLSDそしてコカインへとわたる変遷に象徴させて、それを別の流れとして展開していく形を採っています。この二つの流れがクライマックスで一つに合流し、これまでに張り巡らされていた伏線が次々に鮮やかに回収される手法は見事です。ボビーZやフランキー・マシーンもちょっとだけ登場する読者サービスもあります。

ユーザータグ:ドン・ウィンズロウ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『フリーファイア』C・J・ボックス 講談社文庫

2017-04-15

☆☆☆☆

イエローストーン国立公園で四人の若者の射殺事件が起きた。しかも出頭してきた犯人は、〈死のゾーン〉と呼ばれる法律の抜け穴を巧妙に使って釈放されてしまう。調査を依頼された猟区管理官ピケットは、犯行動機に大きな企業陰謀がからんでいることに気づく。全米ベストセラーの超一流必読ミステリー。 内容紹介より



「ゾーン・オブ・デス」として、昨年ネットのニュースでも取り上げられたイエローストーン国立公園にある区域を題材にした作品です。入り組んだ行政区画と同国立公園内においては人が住むことを禁じる法律、そして陪審員制度を逆手に取った殺人事件によって四人の犠牲者が出たにもかかわらず、犯人である弁護士は釈放されてしまいます。事件が起きる前に環境保護主義者であった被害者の一人から謎のメールを受け取っていたワイオミング州知事によって事件の再調査を依頼された主人公が国立公園へ赴くという流れです。公園内に存在する莫大な利益をもたらす可能性のある資源を開発しようとする企業が登場し、シリーズ第一作目から一貫している自然保護と開発というテーマが本書でも据えられています。相変わらず愚直に調査を進める主人公ですが、今回は生き別れた父親を登場させ、これまたこのシリーズのもう一つのテーマである家庭愛,家族の絆を描こうとしているようですが、やや上っ面をなでる程度に止まっている感じがしました。一方、特に目を引いたのは主人公の相棒である鷹匠のスーパーヒーロー風なちょっと浮いている活躍ぶりなのですが、それ以上に存在感が際立っていたのは、殺人犯である弁護士でした。冷酷な犯罪行為を犯したにもかかわらず、非常に人間臭い一面を持ち合わせたこの男の姿がストーリーの中で異彩を放っていました。それから、この著者の終盤における巻き気味な展開が見られませんでした。

ユーザータグ:C・J・ボックス




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『完全なる沈黙』ロバート・ローテンバーグ ハヤカワ文庫HM

2017-04-09

Tag :

☆☆☆☆

「彼女を死なせた。死なせてしまった」血に濡れた両手を差し出しそう告げたのを最期に、容疑者は完全に口を閉ざした。浴槽の中で見つかった内縁の妻の死体。見かけどおりの単純な事件なのか、それとも……すべての鍵はその沈黙の中にある。事件関係者,警官,検察官,弁護士、それぞれに過去を背負う登場人物が織りなす迫真の群像劇。緻密な構成と真実を追う者たちへの温かな眼差しが光る現役弁護士作家渾身のデビュー作 内容紹介より



カナダのトロントを舞台にした、警察小説とリーガルミステリを合わせたような作品です。カナダで有名なラジオ司会者の容疑者を除いた主要な登場人物による多視点と短い章の繰り返しで飽きずに読むことができました。ただ、後半に入るとさほど高低の無いその構成が単調に感じてしまう欠点もあります。物語の中で起きた事件が一つであること、自白ともとれる発言をした容疑者がそれ以降沈黙を守っていることで犯罪そのものにまつわる動きというのはかなり地味なのですけれど、事件を担当する刑事と巡査のふたりの細かな捜査活動は読みごたえがあります。伏線も多数仕込まれ、その回収もなかなか良いタイミングでなされている印象を受けました。さらに、これは諸刃の剣にもこれからなるかもしれませんが、上昇志向が強くて卑劣な検察官というステレオタイプな人物を登場させないなど、根っからの悪人が見当たらない意外な点も新鮮に感じました。欲を言えば、他の登場人物に較べると存在感が希薄な被害者である内縁の妻について、その造形にさらに肉付けされていたら話に味や厚みがでたのではないでしょうか。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『憎しみの連鎖』スチュアート・カミンスキー 扶桑社ミステリー

2017-03-06

Tag :

☆☆☆☆

シカゴの老刑事リーバーマンの身近で、事件は起きた。彼らが通うユダヤ教の教会堂が、無残な略奪を受けたのだ。犯人はネオナチ集団かと思われたが、事件後まもなくアラブ人の学生活動家が殺害され、ユダヤ教会堂の帽子が残されていた—平穏なはずの街にひろがる憎悪の炎。リーバーマンたちの捜査は、事件の背後にひそむ意外な真相をあぶりだしていく。人間の果てしない憎しみの連鎖を断ち切ることはできるのか?名匠が、困難なテーマに正面から取り組んだ、緊迫感あふれる警察小説の名作。 内容紹介より



〈刑事エイブ・リーバーマン〉シリーズの第五作目です。
イスラエルでユダヤ人のテロによって家族を亡くしたアラブ人の姉弟、白人至上主義者集団のメンバー、リーバーマンが属するユダヤ教会の信徒ら、これに加えて韓国系のギャング、メキシコ系ギャング、黒人イスラム活動家が登場し、さらにリーバーマンの相棒はアイルランド系であり、その婚約者は中国系、というまさしく人種も宗教も階層もさまざまなるつぼであるアメリカ社会を強く感じさせる作品に仕上がっている印象を受けました。そして根深い人種差別と人種間の対立がテーマに据えられています。各登場人物たちに起きるそれぞれの、まったく関連のないエピソードや密接に関係するエピソードを二人の刑事が核となって回していく訳ですが、主題とは関係のない私的な出来事を物語に上手く取り入れる手際がとても効果的に働いています。刑事としてさまざまな事を見聞きし、人生の機微に通じた主人公に降り掛かる困難や悩みなどをくぐり抜けていく様を、乾いたユーモアを交えつつ日常生活に則して現実味のある語り口で描いてみせる非常に味わい深い作品です。

『愚者たちの街』
『冬の裁き』
『人間たちの絆』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ 創元推理文庫

2017-03-01

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

「この百年間に世に出た怪奇小説で傑作といえるのは、わたしにはシャーリー・ジャクソンの『たたり』と、この『ねじの回転』の二作だけという気がする」スティーヴン・キング(『死の舞踏』より) 幼い姉弟の家庭教師が体験した恐怖を独自の手法で描き、ゴースト・ストーリーの古典として称賛される一方で、その難解さばかりが喧伝されてきたこの名作が、泰西怪談に精通する役者により、真の姿をここに現す。あなたは、この物語の本当の恐ろしさを、ここにはじめて知ることになるだろう。他に、数多い短篇の中から厳選された、怪奇譚四篇を併録。ホラー作家としてのヘンリー・ジェイムズに焦点を当てた、本邦初の傑作集である。 内容紹介より



収録作品、「ねじの回転」「古衣装の物語」「幽霊貸家」「オーウェン・ウィングレイヴ」「本当に正しい事」。

内容紹介文には「姉弟」とありますが、本文では10歳の男の子、8歳の女の子の兄妹関係です。
本書が難解だという話は知っていてこれまで食指が動かなかったのですけれど、実際に読んでみたら難解というか解釈の仕方がいろいろとあるように感じました。それはとにかくそもそもの原因となった出来事の記述の曖昧さによるのでしょう。家庭教師の手記という形式であるために視点が固定されて、読者は彼女の述べることを信じる、または懐疑的な見方をする、という立場に置かれるために、彼女が見る二人の幽霊の存在と生前に彼らが幼い兄妹に行ったという邪悪な行為(ある程度予測はつくものの)の不確かさが土台になっているせいで、語り部が描く物語の信憑性が揺らぐのです。また、訳者後書きで英米人の階級意識に言及しているように、英国社会の存在する階級制度が物語の大きな背景となっています。家庭教師の雇い主である兄妹の伯父は眉目秀麗で性格も温厚の上流階級に属する男性ですが、その階級につきものの、養育を乳母や家庭教師任せにして、それらにまつわるトラブルが持ち込まれるのを嫌う無責任ともとれる傾向が顕著です。そして、家庭教師は父親は社会的には地位のある牧師の身分ですが経済的に困窮し、その末娘である彼女は家を出て自ら職を見つけなければなりません。幽霊の片割れの女も前任の家庭教師でした。階級の下である女中頭は、新任の家庭教師に全面的に協力しますが、兄妹を盲目的に可愛がり、彼らの問題には見て見ぬ振りをする態度を取ります。そして男の子に悪影響を及ぼしていた下男は当然階級的には一番下の身分に当たります。家庭教師は雇い主に恋心を抱き、女中頭は上に者に対して無批判。このような各階級間の差異をシンボル化しているようにも感じました。これは米国生まれ育ちの作者による英国階級社会へのアイロニーを含んでいるのかもしれません。

ほかに他の作品とは異なる捻りが加えられた幽霊貸家」は、毛色が変わった話で面白かったです。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『運命のボタン』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV

2017-02-26

☆☆☆☆

訪ねてきた見知らぬ小男は、夫婦に奇妙な申し出をする。届けておいた装置のボタンを押せば、大金を無償でご提供します。そのかわり、世界のどこかで、あなたがたの知らない誰かが死ぬのです。押すも押さないも、それはご自由です……究極の選択を描く表題作をはじめ、短篇の名手ぶりを発揮する13篇を収録。スピルバーグ、キング,クーンツら世界中のクリエイターたちに影響を与え、彼らに崇拝される巨匠中の巨匠の傑作集 内容紹介より



収録作品、「運命のボタン」「針」「魔女戦線」「わらが匂う」「チャンネル・ゼロ」「戸口に立つ少女」「ショック・ウェーヴ」「帰還」「死の部屋のなかで」「小犬」「四角い墓場」「声なき叫び」「二万フィートの悪夢」。

ふしだらで傲慢なある女性を殺したいほど憎んでいる“わたし”はヴードゥーの呪い(これがマシスンの得意ネタらしい)を用いて目的を果たそうとする「針」、世俗とか常識を受け入れてしまうと純真な心にあったものを失ってしまうことの過酷さを伴う悲劇を描いた「声なき叫び」、純粋であるからこそ持つことのできる能力と、その心のななかに潜む残酷さを描いた「魔女戦線」、この二つの作品は大人たちの利己的な動機によって犠牲になる子供たちの姿も現わしていると思います。匂いと怪談を組み合わせた「わらが匂う」、「戸口に立つ少女」、追い払っても始末しても舞戻ってくる白い犬「小犬」、処分されることに気づいたパイプオルガンの最期の咆哮、ブラドベリ風な「ショック・ウェーヴ」、タイムトラベルとホラーの組み合わせ「帰還」、砂漠地帯の田舎町のはずれに建つ喫茶店を舞台にした蒸発失踪もの。短篇であるため紙数に制限があること、地元の保安官が被害者よりであることで、サスペンス性と登場人物たちとの駆け引きがもう一つに感じられる「死の部屋のなかで」、コナン・ドイルの短篇「大空の恐怖」と同様に空に棲む怪物が登場する非常に印象に残る作品、オムニバス映画『トワイライト・ゾーン』の「2万フィートの戦慄」の原作ですが、主人公が精神的な問題を抱えている設定が効いています。短篇集『リアル・スティール』に収録されている「リアル・スティール」と同じ作品です。編者の尾ノ上浩司氏によると「リアル・スティール」のほうは、「四角い墓場」に手を入れているそうです。取り調べを録音した形式で綴られたモンスター系の作品でジャンク・ホラーっぽい「チャンネル・ゼロ」。あり得ない状況設定の流れのなかで、オチが実に現実的なものが意外に感じた「運命のボタン」。

ユーザータグ:リチャード・マシスン




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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『夜がはじまるとき』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-23

☆☆☆☆

悲しみに暮れる彼女のもとに突如かかってきた電話の主は……愛する者への思いを静かに綴る「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」、ある医師を訪れた患者が語る鬼気迫る怪異譚「N」、猫を殺せと依頼された殺し屋を襲う恐怖の物語「魔性の猫」ほか全6篇を収録した最新短篇集。巨匠の贈る感涙,恐怖、昂奮を堪能ください。 内容紹介より



「N」「魔性の猫」「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」「聾唖者」「アヤーナ」「どんづまりの窮地」

本書は、『夕暮れをすぎて』に続く、短篇集『Just After Sunset』(2008年)の二分冊目。こちらにもサンセットノートという著者による作品説明文が付いています。

「N」のどかな田舎にできた異界に通じる裂け目。そこから出て来て世界を滅ぼそうとする怪物を防ぐためのストーンサークルを偶然管理するはめになった男。クライヴ・バーカーの「髑髏王」(『セルロイドの息子』収録)も岩で封印してましたけど、鬼とか悪魔とかの封印系のよくある話に強迫性障害を組み合わせたところがとてもユニークな作品。

「魔性の猫」新薬開発のために動物実験によって大量の猫を殺し、その成果で莫大な財産を築いた製薬会社のオーナーのもとを訪れた殺し屋は、自宅の飼猫を殺すよう依頼される。
妖猫と殺し屋の闘いをストレートに描いたもの。

「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」飛行機事故の犠牲者になったはずの夫からの電話。夫を想う妻の心情がしんみりくる話。

「聾唖者」ヒッチハイクで乗せた男が口と耳が不自由だと知ったセールスマンは、妻の不倫や浪費について愚痴をこぼし始め、さらに彼女が引き起こしたとんでもない大問題も明らかにする。車内と教会の告解室、このふたつの密室で行う告白の場面が面白い二重性を形作っているように思える。

「アヤーナ」末期癌で寝たきりになった老父のもとへ、ある日突然現われてキスをした盲目の少女。その出来事を機に状態が改善し、歩けるようになったのだが、その場に立ち会った息子にもある能力をもたらす。派手さは無いけれど心に残る作品です。

「どんづまりの窮地」土地の所有権について揉めている男が相手にある場所に閉じこめられてしまう。読むとしばらくの間、幻臭を感じる気がする話。

ユーザータグ:スティーヴン・キング




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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『リアル・スティール』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV

2017-02-20

☆☆☆☆

人間同士のボクシングが禁止された近未来、リングで闘うのは人間ではなく精巧なロボットたちになった。しかし変わらないものもある。華やかな勝利とは裏腹の負け犬は今でも存在する。旧式のロボットを抱え、落ちぶれて金もなく窮地に追いつめられた元ボクサーの男は、起死回生の手段に打って出る……名作「四角い墓場」(『運命のボタン』所収)を改題した表題作をはじめ、ホラーからユーモアまでを網羅した、巨匠の傑作集 内容紹介より



50年代から70年代に発表された作品を集めたものです。
「リアル・スティール」「白絹のドレス」「予約客のみ」「指文字」「世界を創った男」「秘密」「象徴」「おま★★」「心の山脈」「最後の仕上げ」

「リアル・スティール」小型ロボット同士を格闘させる競技会は日本でも催されているようですが、この作品は六十年前に時代を先取りしていた作品で、しかも、人間そっくりの人型ロボットが登場しています。ロボットの格闘シーンにリアルに迫力があります。

「白絹のドレス」有名なあの母親と息子の話ではなく、母親と少女のパターンをとったサイコスリラー。少女のこどもっぽい独白で構成されるストーリーがじわじわと恐い。

「予約客のみ」金銭欲、魔術、意外な舞台設定、この三要素を見事に絡めてまとめあげたショートショートのお手本のような作品に感じました。

「指文字」日常と異界の境界線、もしくはグレーゾーンに踏み入ってしまった異様な体験を描いたような作品。

「世界を創った男」フレドリック・ブラウンの短篇にもありそうな小話。自分が世界を創り出したのだ、と言う男が精神科医のもとを訪れ診察を受ける様子を台本形式で描いた作品。

「秘密」サスペンスを徐々に高め、なにやら悲劇的な様相も盛り上げ、若い男女のメロドラマぽいものも取り入れ、ピークに達したところでどすんと落とす作品ですが、注釈がなかったらわたしにはオチが理解できなかったでしょう。

「象徴」食べ物や嗜好品がタブー視され、不変であることが規範となっている統制社会に住む家族を描いた作品。科学的合理性にそわない物事は排除される社会に疑問を抱いた人々が隠れて受け継いでいるアンチパターンを象徴する品物とは……。

「おま★★」これまた食べ物が忌諱されている未来世界が舞台。タイムマシンに乗ってその世界に研究にやってきた科学者が食べ物を所持していたために引き起こしたドタバタ劇。

「心の山脈」中庸で良いのですけれど、もうちょっと捻ったラストが用意されているのかと思っていました。ブラッドベリの感傷、あるいはマキャモンの奇想が欲しいところ

「最後の仕上げ」ホラー要素を絡めているが、さすがにスタイルが古めかしい。

ユーザータグ:リチャード・マシスン




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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『夕暮れをすぎて』スティーヴン・キング 文春文庫

2017-02-17

☆☆☆☆

愛娘を亡くした痛手を癒すべく島に移り住んだ女性を見舞った想像を絶する危機とは?平凡な女性の勇気と再生を圧倒的な緊迫感で描き出す「ジンジャーブレッド・ガール」、静かな鎮魂の祈りが胸を打つ「彼らが残したもの」など、切ない悲しみから不思議の物語まで、天才作家キングの多彩な手腕を大いに見せつける傑作短篇集。 内容紹介より



「ウィラ」「ジンジャーブレッド・ガール」「ハーヴィーの夢」「パーキングエリア」「エアロバイク」「彼らが残したもの」「卒業の午後」、サンセット・ノートという著者による作品説明文があります。

「ウィラ」乗っていた列車の脱線事故のため、片田舎の駅で代替列車の到着を待つ乗客たちの話。婚約者の姿が見えなくなった若者は数キロ離れた町の酒場へ捜しに出かけます。どういう伏線なのかは早々に見当が付いてしまうし、よくあるパターンを採っているのですが、カップルがそういう状態にあることに気が付いてからの展開が同様のアイデアを使った作品とは違う意外な進み方をしているのが印象的です。

「ジンジャーブレッド・ガール」赤ちゃんを亡くした女性が走ることに目覚めて夫との関係がぎくしゃくしたため、島にある父親の別荘で別居生活をすることになります。季節外れの閑散とした別荘地に、金持ちの男がいつも違った“姪っ子”を連れてやってくる、という話を聞いた彼女はちょっとした好奇心で噂の別荘を覗いて見るのですけれど……。子供を失った母親の心の内を描いたドラマからサイコがらみのバイオレンス・スリラーへの転換が鮮明ですが、その変化の具合にちょっとあっけにとられたような。

「ハーヴィーの夢」倦怠期でありながらも平穏な毎日に浸っている主婦が、いつものように始まったある朝に夫から聞かされた不吉な夢の話。それは彼女の家庭に起きた不幸な出来事の夢だったらしいが、詳しい内容を言い渋る夫に、ひとに夢の話をすれば、それが正夢になることはない、と彼女は促す。夢を題材にしたストレートな話でもうひと捻り欲しい気もしました。

「パーキングエリア」著者がパーキングエリアで実際に経験した出来事をもとに書いた作品だそうです。人気のない深夜のパーキングエリア。トイレに行こうとした男は、女性用トイレで連れの男から暴力を振るわれている女性の声を聞く。作家である男は自分がどう対処すれば良いのか、ということをながながと考え込み、葛藤する話。本題に入る前のプロローグというか導入部というか、そこが長い、まるでスタンダップコメディみたいな饒舌さが気になりました。

「エアロバイク」健康診断の結果でコレステロールの数値が標準値より高かった男は、健康を維持する身体機能を作業員にたとえる話を医者から聞かされる。運動不足を解消するためエアロバイクをこぎ始めた画家である彼は、エアロバイクに向き合う壁に田舎道の風景画を描き、ロードマップを買って空想の自転車旅に出る。コレステロールの数値も体調も良くなった彼だが、彼の体調を維持管理している架空の作業員たちにも変化が現れる。この短篇集のなかでは一番キングらしさが表れているように感じました。

「彼らが残したもの」9・11事件から題材をとった作品。保険調査員の主人公は、会社をずる休みした日にその事件が起き、彼のオフィスが入っていたビルが崩壊してしまう。その事件から一年になろうかという日に、買い物から帰った彼は自宅のテーブルの上に見覚えのある奇妙な形をしたサングラスが置かれているのに気が付く。さらに野球バット、ブーブークッション、貝殻などが現れるが、それらの品は事件で亡くなった同僚たちの馴染みの持ち物だった。この作品も饒舌さが気になるものの、サバイバー・ギルトとは違った、生き残った者が果たすべき、亡くなった人たちへの義務ないしは責任をテーマにしているように感じられる非常に切ないレクイエムともとれる物語。彼らの遺品がおかしな物だったりするのが、その身に起きた悲劇をよりあらわにしているように思います。

「卒業の午後」上流階級に属する恋人を持つ女子高生の視点から、彼の卒業とその後のパーティー、恋人とのこれからの関係、彼女の将来の夢、今日やるだろうこと、人生のハレの日と世界の破滅の日を淡々と描いた作品。

ユーザータグ:スティーヴン・キング



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テーマ : 海外ファンタジー
ジャンル : 本・雑誌

『ビースト』ピーター・ベンチリー 角川ホラー文庫

2017-02-06

Tag : ホラー

☆☆☆☆

それは、長いあいだ、誰にも知られることなく生存していた。深く喰らい海の中で、獲物を求めてただ漂っていた。それは、眠りというものを知らなかった。そして、自分がどれほどの力を持っているのか知らなかった。唯一の天敵をのぞいて、全ての生き物は獲物だった。それは、ひどい空腹を感じていた。自然環境の変化で、獲物が激減していたのだ。それは、深海からゆっくりと浮上した……。戦慄の長編、待望の文庫化。 内容紹介より



内容紹介文だけを読むと、シオドア・スタージョンの短篇「それ」が頭に浮かんできたのですけれど、中身は海洋パニックスリラー系の話でした。舞台となるのはバミューダ諸島、長期間に渡って外洋をヨットで旅する夫婦、ダイビングを趣味にしている、金持ちの親を持つ双子の兄妹、彼らに雇われた漁師、動物カメラマンと彼女が乗船した潜水艇のスタッフ、などの“それ”の獲物となる被害者が大勢登場して、それぞれにまつわるエピソードを添えて話を進めていくという、パニックスリラー物の常套の手法をとっています。そして、地元の賢人といえるような老漁師が当地に駐留している海軍中尉とともに“それ”と立ち向かう(立ち向かわなければならなくなる)、という展開です。そこに一つの主要なテーマとして、“それ”が深海から人間たちの前に現われざるを得なくなったそもそもの原因に、漁業による水産資源の枯渇や、それに伴う海洋生態系の破壊をあげています。日本の漁船による底引き網漁にも言及してあって、日本人としては耳の痛い話ですが……。主人公である漁師の造形はしっかりしていて存在感がありますが、環境破壊や汚染についてたびたび触れる以外には、全体的にはオーソドックスなパニックスリラーそのもので、それ以上でもそれ以下でもなく、特別に目新しい点が感じられなかったのは残念でした。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ブルー・ワールド』ロバート・R・マキャモン 文春文庫

2017-01-31

Tag : 短編集 ホラー

☆☆☆☆

妻と寝たはずなのに目覚めると隣りに骸骨が横たわっているのを発見した男。往年の怪奇俳優の化粧箱に隠されていた秘密。新興別荘地のハロウィーンの命がけの仮装ごっこ。内も外も真っ赤な家に住む不思議な一家。ポルノ・スターに魅入られた若き神父。乗る人を待つばかりのスポーツカーのように軽快なストーリーテリングが絶妙。 内容紹介より



「スズメバチの夏」「メーキャプ」「死の都」「ミミズ小隊」「針」「キイスケのカゴ」「アイ・スクリーム・マン」「そいつがドアをノックする」「チコ」「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」「赤い家」「なにかが通りすぎていった」「ブルー・ワールド」。

スズメバチとの意思の疎通ができる能力を持った少年が、田舎の町を支配する「スズメバチの夏」。化粧箱の中の品を使ってメーキャプすると異様な力が身に付く「メーキャプ」。妻を含めた町の住人たちや生物が一夜にして肉を剥ぎ取られた姿に変わり果てた「死の都」。『ナイト・ソウルズ』(新潮文庫)に「夜襲部隊」として収録されている「ミミズ小隊」。よくわからない「針」。キイスケというカナリアを飼っている、刑務所内で魔術師と呼ばれる受刑者の老人。外の世界を自由に飛び回るカナリアの見聞きした様子を老人が受刑者たちに語って聴かせる「キイスケのカゴ」。核戦争後、ある一家の父親が夢想する幸せな家庭団らんを描いた、切ない「アイ・スクリーム・マン」。『戦慄のハロウィーン』(徳間文庫)に「ドアにノックの音が……」というタイトルで収録されている作品「そいつがドアをノックする」。障碍をもった男の子が実はものすごい超能力を持ちあわせていたという「チコ」。かつてテレビ・シリーズのスーパーヒーロー役だった老人が、ヒーロー時代のマスクとスーツを身にまとい、女友だちを殺害した連続殺人犯を追いかける「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」、大量の新聞や雑誌を蒐集し、人々の行動を秒単位で記載する“見張り男”などの登場人物たちも充実して、この一編だけではもったいない。灰色の家に住み、同じ部品工場で働く町の人々。その家々のひとつに暮らす青年に、突然、赤く塗られた一軒の家の家族が教えた人生のありかたとは……「赤い家」。原因不明のカタストロフが頻発する世界。コンクリートは水銀のように液状化し、水が爆発する一方でガソリンが飲料できるようになり、霧雨は血と生肉やはらわたを降らせ、人体が突然爆発して燃えあがり、重力カタパルトが畑や家屋を押しつぶす。ある一家の子供部屋は一夜にして真空状態になり、子供を失った母親は精神に変調をきたし、そして、変化はその夫婦の身体にも現われ始める。想像を超えた圧倒的で理不尽な力、環境の激変下での一組の夫婦の愛情,母性愛を痛切に描いた終末世界をテーマにした傑作「なにかが通りすぎていった」。いわゆるboy meets girlものですが、変わっているのはふたりが神父とセクシー女優なこと。教会側からしたら、堕落して汚れた街の一画は足を踏み入れるなどもってのほかであり、布教など考えられない場所。彼女に寄り添ううちに考えが変わっていった神父が最後に決めた行動とは……。結末もありきたりでない、サイコキラーを絡めた中篇「ブルー・ワールド」。

『戦慄のハロウィーン』アラン・ライアン編 徳間文庫
『ナイト・ソウルズ』キング、マキャモン他 新潮文庫

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『北極星号の船長 ドイル傑作集2』コナン・ドイル 創元推理文庫

2017-01-28

Tag : ホラー 短編集

☆☆☆☆

氷に閉ざされた極地の洋上を舞台にした怪異譚「北極星号の船長」を表題に、高空飛行の限界に挑むパイロットが目撃した怪物たちの世界「大空の恐怖」や、アンティークが呼びさます古の出来事「革の漏斗」「銀の斧」、ファム・ファタルに翻弄されてゆく男の曲折をつぶさに描く「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」など十二編を収録。シャーロック・ホームズを生んだコナン・ドイルの、怪奇小説作家としての横顔に焦点を定める。理趣と夢想・幻想のあわいを軽やかに往還する、ドイル・コレクション第二集。 内容紹介より



「大空の恐怖」「北極星号の船長」「樽工場の怪」「青の洞窟の恐怖」「革の漏斗」「銀の斧」「ヴェールの向こう」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」「ジョン・バリントン・カウルズ」「寄生体」

「大空の恐怖」「青の洞窟の恐怖」「深き淵より」「いかにしてそれは起こったか」「火あそび」、これらの作品には挿絵が付いています。虎が棲むジャングルのような、大気圏上層にも人間を襲う怪物が存在するジャングルがあると信じるパイロットが自説を証明しようとする「大空の恐怖」、怪物の挿絵がまったく怖くありません。婚約者と死別した捕鯨船の船長の身に起きた不可思議な出来事の顛末を描いたロマンスホラー「北極星号の船長」、アフリカの大河の河口に建つ樽工場、大雨による氾濫が起きて以降、工場の従業員が夜間に姿をくらますという事件が起きる。いかにもアフリカを舞台にして成り立つ物語「樽工場の怪」。石灰岩の丘陵にある、青蛍石を採掘するため古代ローマ人が掘った鉱坑にまつわる化け物の噂話。その地方に転地して養生している男が、鉱坑を探検しようとして体験した恐怖談「青の洞窟の恐怖」。昔、名高い毒婦の拷問に使用された革の漏斗がもたらす悪夢を描いた「革の漏斗」。中世時代に作られた、妖刀のような魔力を帯びた斧が起こす連続殺人事件「銀の斧」。イングランドに残るローマ人の砦の跡を見学した夫婦によみがえる生まれ変わりの記憶を描いた不思議な話「ヴェールの向こう」。船上で亡くなり水葬にされた男が、まだ訃報を知らされていない新妻の前に現れる「深き淵より」。降霊会がらみの「火あそび」。催眠術を用いて男を意のままにしようとする悪女を描いた「ジョン・バリントン・カウルズ」と「寄生体」。 
オカルトチックな様相をまといながらも、怪談一辺倒にならずに科学的な観点から不可解な事象や怪異な事件を分析しようとする話も多く、それが作品を二重に楽しめる要因になっている気がしました。

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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ローズマリーの赤ちゃん』アイラ・レヴィン ハヤカワ文庫NV

2017-01-22

Tag : ホラー

☆☆☆☆

おぞましい悪夢にうなされた夜、ローズマリーは身ごもった。そのときから、彼女の平穏な日々は奇怪な様相を呈し始める。しきりに襲う腹部の異常な激痛と生肉への執着、そして医師や隣人や夫の不審な言動。そのうえ、彼女に何かを知らせようとした友人は怪死を遂げた。だがそれさえも彼女に迫り来る恐怖のほんの序章にすぎなかったのだ!サスペンスの鬼才が大都会に住む現代人の狂気と孤独を描いたモダンホラーの金字塔 内容紹介より



『ステップフォードの妻たち』でも感じたことですけれど、この作家は時節の経過や時間の流れをさりげなくスムーズに流れるように描くのが非常に巧いです。草木がどうした、天気がどうだ、とかいう余計な描写を極力省いているように思いますし、それが読みやすさに繋がっているようにも感じます。
悪魔主義者たちの醜悪な企みなのか、それとも妊娠による身体の変化が原因で精神も変調をきたした単なる思い込みなのか、過去に数々のスキャンダラスな事件や事故が起きているアパートに越してきたヒロインの身に降り掛かる出来事。彼女が正しいのか、あるいは周囲の人たちが正しいのか、こういう構図は『ステップフォードの妻たち』においても見られましたが、本書ではもう少しヒロインのパラノイア傾向を強調して、読者を惑わせても良かったのではないかとも感じました。一方、悪魔主義者たちの真の意図が衝撃的であるとともに、また、母親になったヒロインの変化に捻りが設けてあって、それがこの作品をただのホラー小説に止まらない味付けをしている印象を受けました。かつ、とりようによっては、これからの行く末にほのかな希望をもたらしているような気もします。日本人に対するステレオタイプな一面が描かれているところには苦笑いしかでません。

『ステップフォードの妻たち』

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