『殺人者は夢を見るか』ジェド・ルーベンフェルド 講談社文庫

2017-08-09

Tag :

☆☆☆☆

1909年、摩天楼建築ブームにわくニューヨークにフロイトがユングとともに到着した夜、豪華アパートメント〈バルモラル〉で、若い娘が鞭打たれ、絞殺される。続いて襲われたノーラ・アクトンは記憶と声を失っていた。市長じきじきの依頼を受けたフロイトは、若き分析医ヤンガーとノーラの精神分析治療にあたる。内容紹介より



摩天楼がそびえ立つなか、道路には馬車と自動車が混じりあって行き交い、指紋が裁判では証拠として採用されないくらいまだ現代の科学捜査が一般的でない時代背景。そんなニューヨークへ、後に寝椅子に横たわって精神分析を受けるアメリカ人のイメージの発端とも言えるフロイトがユングらと共に訪れ、そのいわば接待役みたいなアメリカ人の分析医ヤンガーが主人公です。なのでフロイトが名探偵役として活躍する訳ではありません。しかし、NY市警のリトルモア刑事の飄々としたキャラクターがとても好感が持て、その存在感が安定し、捜査活動の軸になっている印象でした。主人公のシンガーもなかなか良いキャラなのですが、犯罪被害者の娘への恋愛感情を交えて描かれているためにそれほど突出したものがないように感じました。アメリカに置ける精神分析の黎明期と社会の転換期、猟奇的な犯行、大がかりな悪巧みを思わせながらの冒険小説風な展開に、さてこれからさらに面白くなるだろうと考えていたら、下巻の三分の二くらいで結局は男女の感情にスタンスをおいたからくりが明らかになって,別方向へ矮小化されたように感じて興味が冷めてしまいました。精神分析学が主題なだけに仕方ないのですけれど……。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『無意識の証人』ジャンリーコ・カロフィーリオ 文春文庫

2017-08-04

Tag :

☆☆☆☆

南イタリアの海辺の町で、九歳の男の子が殺され、出稼ぎのアフリカ人が逮捕される。圧倒的に不利な被告の弁護を引き受けたグイードは、妻に逃げられて憂鬱な毎日を送る三十八歳。正義を振りかざすような柄でもない……が、ジェフリー・ディーヴァーが「最良の法廷スリラー」と評した見事な論証で、物語は大逆転! 内容紹介より



何かの志や使命感を持って法律家を目指した訳ではなく、何がしたいのか見つかるまでの時間稼ぎで弁護士になった主人公は、まさしく中年になりかけたモラトリアム型人間です。彼の何となく生きてきた人生が妻との別居を契機に壊れそうになり、精神のバランスが崩れてしまいます。そんなどん底の状態で引き受けたのが殺人容疑で逮捕されたセネガル人の弁護です。物語は、リーガルミステリと主人公の再生過程の二つが割合を占め、こういうジャンルに付きもののどんでん返しによる急転直下の解決みたいな醍醐味は薄く、現実的な帰結ではあるもののディーヴァーの言葉にある「最良の法廷スリラー」とまでは感じませんでした。しかも、20ページに渡る最終弁論が意味もなく長過ぎでした。翻訳された文体を見ただけですが、アメリカ文化をかなり意識し,作品もアメリカナイズされているような印象を受けました。シリーズニ作目の『眼を閉じて』よりは出来が良いです。

『眼を閉じて』



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ベストセラー「殺人」事件』エリザベス・ピーターズ 扶桑社ミステリー

2017-07-26

Tag :

☆☆☆☆

世紀の大ベストセラー「氷のなかに裸で」の原作者キャスリーンの失踪から七年後、続編の出版が決定した。厳選なる審査のすえ、続編の執筆者に抜擢されたジャクリーン。彼女はよりよい原稿を仕あげるべく、原作者が暮らしていた田舎町に活動の拠点を移した。だが、過去の資料をひもとくにつれ、彼女に関する謎は深まるばかり。しかも、偶然とは思えない事故が重なり,ジャクリーンの身に危険がせまるようになり……。1989年度アガサ賞受賞、本格ユーモア・ミステリー。〈解説・穂井田直美〉 内容紹介より



大ベストセラー小説の著者キャスリーンは、幾度か事故に見せかけて命を狙われた末に行方がわからなくなった。殺人か、自殺か、失踪か、判らないまま彼女が行方不明になって七年後に死亡宣告がなされる。それとともに家族の要望でベストセラーの続編が書かれることになり、公募された作家のなかから選ばれたヒロインはキャスリーンが生まれ育った町に執筆の調査のために赴くが、彼女にも事故や謎の出来事が降り掛かってくる、という展開です。これまでは大学図書館の司書だったヒロインは、『ロマンス作家「殺人」事件』を経て、本書からロマンス作家に変わっています。司書時代の豊富な読書経験に加えて独立心旺盛、したたかで辛辣でSっ気のある性格、目から鼻に抜けるような聡明さ、こういう気質が今回はプラスに働いていて大変魅力的でした。このシリーズは、主人公のキャラクターで読ませる作品なので、ヒロインのキャラクターのさじ加減で評価が変わりそうです。一方、ミステリでは,動機はともかく、真犯人の行動がふに落ちません。三度も犯行を重ねていたら、被害者の家族が異変に気づきそうですけれど……。ただ、ある人物の正体は結構意外でした。

『リチャード三世「殺人」事件』
『ロマンス作家「殺人」事件』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『州知事戦線異状あり!』トロイ・クック 創元推理文庫

2017-07-22

Tag :

☆☆☆☆

総勢123名もの人間が立候補した狂乱のカリフォルニア州知事選挙も投票日まで残り二週間。ところがここへきて、有力候補が相次いで死亡する。とある有力候補が当選確率を上げるため、殺し屋コンビを差し向けていたのだ。一方、政治家一族の出にもかかわらず、大の政治嫌いのため私立探偵もどきを営むジョン・ブラックは、現職ロサンジェルス市長にして有力候補のひとりである実姉エレオノールが狙われたことを知り、頼れる相棒のハーリーと,姉を守るべく動きだすのだった。才人クックが政治の世界に投げこんだ,破天荒かつ痛快なる傑作犯罪小説。 内容紹介より



政治(家)嫌いで、自然破壊を憂う主人公の姿、そしてかなり逝っちゃってる彼の相棒と素人殺し屋コンビのキャラクター、俳優、プロレスラー、元ギャングのラッパーといった州知事選立候補者の面々、こういった登場人物のエキセントリックぶり、加えて当選するためには殺人もいとわない候補者の存在が、『最高の強盗のための47ヶ条』よりもカール・ハイアセンの作品をさらに彷彿とさせました。ただ、ハイアセンの作品では人が殺される場面はなかったと思いますが、本作では結構ばんばん人が殺されていくところが相違点かもしれません。といっても殺し屋の凸凹コンビのどたばた具合と彼らに協力する爆弾オタクのクレージーぶりが陰惨さなど微塵も感じさせません。それに対して、身内想いでいってみれば青臭い信条の持ち主である(結果的に汚いことは相棒に任せてしまう)主人公の造形がバランスを取っているといえるのでしょうけれど、強烈な個性の持ち主たちに対比させられる始末になって、良い子過ぎる存在が物足りない気にもなりました。

『最高の銀行強盗のための47ヶ条』




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ジャンル : 本・雑誌

『殺しの儀式』ヴァル・マクダーミド 集英社文庫

2017-07-19

Tag :

☆☆☆☆

イギリス中部の大都市で連続殺人事件が起った。犠牲者はすべて男性だ。きれいに洗われた死体にはむごい拷問の跡。血眼で犯人を追う警察は内務省から心理分析官トニーの応援を頼んだ。警察内部の冷ややかな目を背に、女性警部補キャロルとチームを組んで息づまる捜査が始まった。犯人は同性愛者か!? そして、さらに犠牲者が……。CWAゴールド・ダガー賞受賞の迫真のミステリー!! 内容紹介より



テレビドラマではあるのでしょうが、小説ではほとんど見かけたことがない犯罪心理分析官を主役した作品です。彼と警察との連絡係の警部補をヒロインに据えています。プロファイリングをうさん臭く見る傾向が強く、また、女性軽視が残る警察組織という環境のなかで、いわば異質な者同士がコンビを組んで捜査に当たる設定を用いています。さらに犯罪被害者をすべて男性にして、従来多かった女性の被害者のパターンを覆して見せ、男が被害者だったら言わないであろう「夜中に出歩くな」、という声を取り上げて揶揄したりします。このような男女の立場の逆転、ゲイへの差別意識、人権を無視した不当逮捕の犠牲となった人物を描いて、権力による人権侵害を暗に批判するなど、作者のメッセージが強く込められていると言えるでしょう。一方、早々と物語からいなくなった警視の存在、警察官と密会する女性新聞記者の人物造形とストーリーへの貢献度が中途半端に感じました。女性作家に多く見られる繊細な心理描写というスタイルはこの作者には見られず、木目が粗い感じがしました。

『殺しの四重奏』




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『イン・ザ・ブラッド』ジャック・カーリイ 文春文庫

2017-07-14

☆☆☆☆

刑事カーソンが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件—銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師……。すべてをつなぐ衝撃の真相とは?緻密な伏線とあざやかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾。 内容紹介より



以下、ややネタバレしています。ご注意下さい!


「最初に真相を設定し、そこから逆算してストーリーやプロットをかっちり堅牢に組み上げ、伏線あるいはヒントを丹念にちりばめた上で、それらを「読者が真相に感付かないように」配置する、きわめて緻密な構成を採用している」(p423)、と酒井貞道氏が解説に記しているように、この作者の小説作法はまず極めて意外な真実を設けて、そのまわりに迷路を張り巡らせるものだということがこの作品でようやく気が付きました。大ドンデン返し、急転直下の効果、悪く言うならサプライズありきでストーリーが構築されているのですね。この効果を見事に成功させるためには意外な真実へと向かう迷路が直線だったり、単純至極な路ではなくて、当然入り組んだものでなくてはなりません。この迷路にあたる伏線、トリック、エピソード、脇道などの物語の枝葉末節が今回はこれまでの作品に比べてやや弱い、あるいは冗長、そしてあざとい感じがしました。よく比較されるディーヴァーとは、話の膨らませ具合や作品全体をみたときの完成度の違いがわかるような気がします。怪しい行動をする博士を物語に挿みつつ、アイラ・レヴィンの『ブラジルから来た少年』のクローンを想像させるようなミスリードを仕込んでいる点は巧いと思います。

ユーザータグ:ジャック・カーリイ




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『蜘蛛の巣』ピーター・トレメイン 創元推理文庫

2017-07-10

Tag :

☆☆☆☆

緑豊かなアラグリンの谷。その地を支配する氏族の族長エベルが殺された。現場にいたのは血まみれの刃物を握りしめた若者。犯人は彼に間違いない。事件はごく単純なはずだった。だが、族長の妻の要請で都から派遣されてきた裁判官フィデルマは、この事件にどこか納得できないものを感じていた。古代の雰囲気を色濃くたたえる七世紀のアイルランドを舞台に、マンスター王の妹で裁判官・弁護士でもある美貌の修道女フィデルマが、その明晰な頭脳で次々と事件の糸を解きほぐしてゆく。ケルト・ミステリ第一弾。 上巻内容紹介より



七世紀のアイルランドにおいては、犯罪に対して“懲罰”ではなく、“償い”で解決しようとする法律があったり、障碍者を罵ったり嘲笑したりすると罰せられたり、修道院などの宗教施設では男女を区別することなく受け入れ、法廷弁護士、裁判官の地位に女性が就くことは珍しいことではなかったという、これらのことを知ると現代より先進的な部分があったことに驚きます。 
アイルランドにおいて、ローマ教会がケルト教会を蚕食していくにつれ、これらの概念が廃れて間違った方向へ行こうとする傾向が見え始める時風を背景に、その理念を備えた女性であり、宗教と法律に深い知識を持つヒロインが地方で起きた殺人事件を探る物語。権力者の妹という身分を背景にして、理知と優しさの持ち主でありながら、法律という確固たる基盤があるのでやたら感情的にならず、あるいは感傷に流されずに物事を理性で考え処理している振る舞いがとても好印象でした。また、やたら人が殺されたり、本格古典みたいにクライマックスに関係者一同を集めて真犯人を指摘する趣向が面白かったです。〈修道士カドフェル〉シリーズよりミステリがやや絡まっているかもしれません。それから訳注が丁寧に施されて勉強になりました。




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『音もなく少女は』ボストン・テラン 文春文庫

2017-07-06

Tag :

☆☆☆☆

貧困家庭に生まれた耳の聴こえない娘イヴ。暴君のような父親のもとでの生活から彼女を救ったのは孤高の女フラン。だが運命は非情で……。いや、本書の美点はあらすじでは伝わらない。ここにあるのは悲しみと不運に甘んじることをよしとせぬ女たちの凛々しい姿だ。静かに、熱く、大いなる感動をもたらす傑作。解説・北上次郎 内容紹介より



女に生まれついたことがハンディキャップである社会でさらに貧困と障碍を負うヒロインのイヴ、暴力的な夫に耐えながら彼女を護る母親クラリッサ、彼女たちに寄り添うキャンディストアの店主フラン。この三人の女たちの愛情と友情、そして「創造者、保護者、破壊者」である女の姿を描き出した作品です。物語は、ヒロインが初めて教わった文字と母親が初めて知った言葉の意味「“A” 『緋文字』」,そこから三人の闘いが始まり、ある殺人が起き、墓石に刻まれた「女、姉妹、友達、母親」で終わりを迎えます。三人のなかでも特に悲惨な過去の体験から先鋭的な考えを持つフランの毅然とした生き様は非常に印象に残りました。ボストン・テランの作品は初読なのですが、覆面作家である作者は年齢、性別も明かしていないそうです。しかし、本書を読んだかぎりでは女性作家(もしくは共著者に女性がいる)ではないかと感じるくらい女性(原題はWOMAN)がすごく巧く書き上げられているように思いました。プロットについて難を言わせてもらうなら、イヴとフラン対ロメイン、ミミとイヴ対ロペス、この非保護者と保護者そして対立者の構図がだぶっているところが同じパターンの繰り返しのような気もややしました。とにかく一読の価値のある作品です。



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『真夏日の殺人』P・M・カールスン ハヤカワ文庫HM

2017-06-21

Tag :

☆☆☆☆

真夏だというのに窓を閉めきった書斎で、飛行機の爆発事故を取材中の新聞記者が撲殺された。そばには、凶器と思われる真鍮の電気スタンドが落ちていたが、書斎は中から鍵を掛けられており、犯人が出入りできたはずはない。記者の死は、取材中の事故と何か関係が?休暇中に事件と出くわした統計コンサルタントのマギーは、犯人探しに乗りだすが……好奇心あふれる人情家の素人探偵が、密室殺人の謎に挑む本格ミステリ。 内容紹介より



1990年に発表された作品ですが、舞台は1975年です。この年代設定は作品に色濃くでているベトナム戦争に従軍した若者たちの心に迫るためなのでしょう。そのテーマにくらべると、最近では珍しい本格密室ミステリの趣向はやや添えものみたいに感じました。主人公のマギーと家族は反戦運動の経験者、その一方、事件を担当する女性刑事は元従軍看護士であり、容疑者にも帰還兵がおり、ふたりとも戦場での過酷な体験によって心に闇を抱え、傷を負っている状態です。さらに被害者の家族、特に思春期の少女に父親の死が与えたダメージを強調して描いています。その彼女らの被った心の傷を癒そうとするのが主人公で、また女性刑事には煙たがられながら独自に犯人探しも始めます。しかし面白いのは、主人公より女性刑事のほうが登場機会が多く、シリーズ物にしては異色で、彼女の心理が入念に描かれているところです。彼女の心の奥底を描写するかたわら、序盤に置ける彼女の表には出さない心の内での皮肉や毒舌が愉快でした。密室殺人という派手な設定を採りながら、実は心理小説みたいな形態をとる作品だと思います。ゆえに謎解きへの過度の期待は肩すかし気味であり、事件もいきなり慌ただしく急展開をみせ、それまでに構築した情感が薄れたのは残念でした。




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『静かな水のなかで』ヴィヴェカ・ステン ハヤカワ文庫HM

2017-06-14

Tag :

☆☆☆☆

漁網に絡まって漂着したその死体は、長く水中にあったせいで無惨なありさまだった。死因は溺死、身元もすぐに判明し、トーマス・アンドレアソン警部も事故と断じかける。だが男性の従妹が殺害されたことから事態は急展開。島に住む女性弁護士で幼馴染のノラの助けも借りて捜査にあたるトーマスだったが、事件には複雑な背景が……風光明媚なリゾート・アイランドで起きる事件に挑む、スウェーデンで人気の新シリーズ開幕 内容紹介より



舞台となっている季節が夏であるため、北欧ミステリに付きものの酷寒で暗く鬱々とした長い冬という雰囲気はなく、また警部の視点で描かれる警察小説調の章に対して、キャリアウーマンであり主婦でもあるヒロインの視点のややコージーミステリをおびた章のために、もたれるような重さは感じません。作者が女性であり、自身がキャリアウーマンであったことの投影なのか、栄転のチャンスが訪れてにわかに上昇志向になったヒロインの夫婦関係や子育てといった私生活の部分にかなりの重点が置かれています。彼女と幼馴染の警部との間の恋愛感情のない友人関係というロマンスをはさまない設定はよいにしても、ミステリ部分では、捜査が進展するにつれ徐々に核心へと近づいていく緊迫感の高まりはさほどなくて読みごたえがある訳ではありませんし、クライマックスは、あたかも〈少女探偵ナンシー・ドルー〉の流れをくんでいるかのような展開でした。社会的性差がほとんどないイメージの北欧でも家庭内では従属関係を強いる圧力が見られることも珍しくはないのですね。




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『ドライ・ボーンズ』トム・ボウマン ハヤカワ文庫HM

2017-06-10

Tag :

☆☆☆☆

厳しい自然に囲まれた田舎町ワイルド・タイム。雪解けの季節のある日、銃痕があるうえ野生動物に荒らされた青年の死体が発見された。町で唯一の警察官ファレルは被害者の身元を洗うが、開拓時代から自分の身は自分で守ってきた住人たちは協力的ではなく、シェールガス利権や薬物の蔓延も捜査の行く手を阻む。や がて、法を信じない人々の暗い過去にたどりついたファレルは……アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。 内容紹介より



MWA新人賞受賞作というと、どうして受賞したのか個人的に首を傾げたくなるような作品がこれまでにもあったのですけれど、本書もそのひとつです。たしかに作品に漂う雰囲気は良いのですが、突出したと感じられるものがありませんでした。霜月蒼氏が解説で述べている「カントリーノワール」のジャンルにあたるらしく、特にC・J・ボックスのジョー・ピケット・シリーズの世界観によく似ている印象を受けました。狩猟が単なるスポーツではなく、生活を支える手段になっている、自主独立の気風が強い非常に保守的な地域社会、そこに持ちあがった資源を巡る利権、そして、町を浸蝕していく薬物汚染。これらをストーリーの背景に据えて、頑迷なモラル、それに反する者との間で起きた、都会では起こり難いであろう殺人事件の捜査をソマリア従軍歴があり、愛妻を病で亡くした心の傷を持つ郡の警察官の視点で描いています。こういった陰影のある主人公の造形はネオ・ハードボイルドを思わせます。この作品の難点は、そもそも原文がそうなのかあるいは訳出のためなのか、文章がなにか読みづらかったのと、登場人物が誰が誰なのかかなり判りにくかったことです。海外ミステリは読み慣れていると思っていましたが、表紙折り返しにある登場人物一覧では足りませんでした。それから全体的に、もう少し話を掘り下げて欲しかったところです。




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『ルクセンブルクの迷路』クリス・パヴォーネ ハヤカワ文庫NV

2017-06-06

Tag :

☆☆☆☆

ワシントンDCに住むケイトは、夫が新しい事業を始めるルクセンブルクに息子たちとともに移住した。やがて彼女はマクレーン夫妻と知り合うが、夫妻にはどこか怪しげなところがあった。何かの犯罪を企んでいるのか?それとも依然ある組織に属していたケイトの過去を探っているのか?あるいは彼女の夫を狙っているのか?疑惑の迷路の中で、彼女は想像を絶する事実を知ることに。意想外の展開が連続するサスペンス巨篇 内容紹介より



以下、ややネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい!

CIA、FBI、ルクセンブルク、というワードからスパイが絡む国際謀略ものをイメージしてしまいますが、実は元CIA職員だったヒロインの懊悩煩悶話。妻であり二児の母親である主婦が、子育てや主婦業にせわしない毎日を送りながら、自身のCIA工作員時代にしでかした不法行為やネットセキュリティのコンサルタントの夫の行状、現地で知り合ったアメリカ人夫妻の態度について悩んだり怪しんだり、疑ったりする様子が570ページに渡って描かれています。元スパイと専業主婦というミスマッチな取り合わせと切り口が目新しく、さすがに後半に入るとやや飽きてくるにしても、それでも読み通させるテクニックはたいしたものだと思います。ただ、アクションシーンはまったくといっていいほどなく、心理小説みたいな終始ヒロインによる視点のみのああだこうだという内省傍白の繰り返しであるために評価はさまざまでしょう。さすがに長々と話を引っぱった割にこの結末はどうよ、みたいな感じもありますけれど、この作品が作者の初のフィクションとすると才能を感じさせます。




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『エルサレムから来た悪魔』 アリアナ・フランクリン 創元推理文庫

2017-05-25

Tag :

☆☆☆☆

1171年のイングランド。トマス・ベケット大司教殺害の衝撃もさめやらぬ王国を、ケンブリッジの町で起きた、子どもの連続失踪・殺害事件が揺るがしていた。事件はユダヤ人の犯行だとする声が強く、私刑や排斥運動が起きる。富裕なユダヤ人を国外に追放してしまえば国の財政は破綻し、かばえば教会からの破門は避けられない。進退窮まったヘンリー二世は、シチリア王国から優秀な調査官と医師を招聘し、事件を解決させようとする。若き女医アデリアは、血に飢えた殺人者の正体をあばくことができるのか。CWA最優秀歴史ミステリ賞受賞の傑作。 上巻内容紹介より



修道士カドフェル・シリーズが舞台にしている、女帝モードとスティーブン王が争った無政府時代が終わって、十数年後、ヘンリー二世によるプランタジネット朝が本書の舞台です。そのイングランドで起きた子どもが犠牲となる猟奇的連続殺人事件の捜査につかわされたシチリア王国の敏腕調査官シモン、彼に同行するヒロインのサレルノ医科大学の優秀な女医であり検死医でもあるアデリア、彼女の召使いで偉丈夫な宦官マンスールの三人組が登場します。サレルノでは女医という存在はさほど奇異に見られませんが、イングランドでは魔女扱いされる恐れがあるためにアデリアは身分を隠して活動せざるを得ません。開放的な生まれ故郷とそこで育まれた進取の気性に富み独立心旺盛なヒロインと宗教的な抑圧や頑迷な女性蔑視、そして根深いユダヤ人排斥がはびこるイングランド社会を常に対比させて、それらに臆することのないヒロインの爽やかな姿を鮮明に描き出している印象を受けました。その他の登場人物たちも個性的に描き分けられ、当時の習慣や風俗も面白く読むことができました。ただ、一点引っかかったのは、シチリアから来た三人組の構図が崩れてしまい、それにともなってストーリーのテンポも失速してしまったように感じたところです。非常にバランスのとれた良い三人構成だったし、シリーズ化するうえでも不可欠なチームだと思っていたのですが、これについては作者の意図が図りかねます。



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『青銅の翳り』リンゼイ・デイヴィス 光文社文庫

2017-05-06

Tag :

☆☆☆☆

—紀元70年のローマ—。内乱を制したウェスパシアヌス帝だが、なお各地に潜伏する謀反の残党がいた。これを探し出し、服従を誓わせるのが、今回、密偵ファルコに与えられた使命である。ペトロ一家との家族旅行を装い、彼が向かったのは、ベスビオ山の大噴火により壊滅するわずか8年前のポンペイ。運命を知りようもない人々は、思い思いに夏の日を楽しんでいた……。—イギリス・ミステリー界で人気No.1のシリーズ第2弾! 内容紹介より



〈密偵ファルコ〉シリーズ。
「小難しい歴史ものではなく、ハリウッド製のコスプレ時代劇」(p545)と、高瀬美恵氏が解説で述べているように、作品の雰囲気は確かに時代劇風であり、内容はハードボイルド調で語られる冒険ロマンス小説に間違いありません。作中で牡牛ネロが引く牛車の歩みのごとく、ストーリーはゆっくりと進み、もう少しスピードアップして欲しいようなまどろっこしさを感じなくもないです。それはたったひとりの男を追跡するだけにページを費やし、しかも何度も取り逃がしてしまうためと、主人公ファルコとヒロインのヘレナとの恋愛沙汰があれこれとああだこうだと描かれ、さらにもう一つの柱となるべきミステリの色合いがかなり薄いためです。舞台をポンペイに選んだことも話題性だけで、作品にこれといった効果はあげていないように感じました。しかし、そういったマイナス面も著者が描き出す真に迫った古代ローマの風景や社会風俗によって十二分に補われているように思います。ファルコとへレナのラブロマンスが大きな部分を占めていて、彼らの今後の行く末が気になって続編を読みたくなる仕掛けが巧妙です。

『密偵ファルコ 白銀の誓い』




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『ウィッチフォード連続殺人』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫HM

2017-04-30

☆☆☆☆

被害者は中年の女性で、喉をざっくりと切り裂かれていた。残酷な事件とは無縁のようなのどかな田舎に捜査のためにやってきたのは土地出身の若い主任警部。優秀な刑事だが、今回は昔なじみの人々が多く、やりにくい面もあった。しかも、彼の捜査を嘲笑うかのように、すぐに若い女性が第二の犠牲者となった。被害者にはどんな繋がりがあり、犯行を繰り返す首切り魔の目的とは何なのか。文庫初登場の女流が本格に挑む新作! 内容紹介より



以下、ネタバレ気味です。ご注意下さい!

しょっぱなから後に重要容疑者として浮かび上がる二人の人物の背景を描いて読者の視線を向けさせる手法をとっています。しかし、それにくらべると真犯人へのそれらしい言及は非常に少ない気がしました。ある人物などは真犯人だと名指しされても、読者にはかなりのいきなり感があるわけで、ロマンスの要素はこの著者の持ち味ですから否定はしませんが、主任警部と幼なじみの女医との恋愛模様に紙面を費やすのなら、犯人に対するなんらかのほのめかすような書き込みもある程度は必要だったのではないかと思います。また、それがあれば著者が仕掛けた二重のトリックと相まって動機の面でも読者を混乱させる相乗効果も期待できたでしょう。連続殺人事件の被害者たちは同じ医院を受診していた以外に,年齢も社会階層も異なりまったく関係性が見つかりません。捜査もなかなか進展せず、物語は故郷に帰ってきた警部のしがらみとか恋愛事情でやや埋もれ気味になり、ややめりはりに欠けるような印象も受けてしまいました。もう少しハードな本格ミステリを期待していたのですが、ロマンスの比率がやや高めで、ノンシリーズにおいてのロマンスというスパイスの配合はなかなか難しいことが見て取れます。

ユーザータグ:ポーラ・ゴズリング




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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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