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『影』カーリン・アルヴテーゲン 小学館文庫

2019-10-19

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☆☆☆☆

ノーベル賞作家である父アクセル・ラグナーフェルトは、脳疾患で全身麻痺となり施設に入っている。息子ヤン=エリックはその威光で尊敬を集めて生活しているが、家庭は崩壊し浮気三昧の日々だった。物語は、高齢で死んだ老女の身元確認から始まる。彼女はかつてラグナーフェルト家で家政婦をしていた。葬儀のために探し物をすることになったヤン=エリックは、事故死と聞かされてきた妹の死因に不審を抱く。やがて彼は、高潔なはずの父が何かをひた隠しにしていることを知る……。人は、ここまで堕ちることができるのか—生きることの絶望と希望に迫る問題作。 内容紹介より



誰もが多かれ少なかれ秘めている影をテーマにした作品です。ノーベル文学賞受賞という強い光に照らされた大作家には、また深い影を持っていたことが、かつて彼の家の家政婦だった女性の死をきっかけに明らかになっていく過程を描いた物語です。全身麻痺で施設で介護されている大作家、アルコール依存症のその妻、父親の名前で暮らしている彼らの息子、その妻、捨て子だった脚本家の青年、主にこの五人の視点で語られていくのですが、どれも心理描写が深く、彼らの抱える影を際出させています。特に、文学的才能を持たない息子のひがみと父親を憎みながら、その名声を頼って暮らさざることを得ないことへの葛藤、それが原因で家庭不和に陥いる悪循環の中でもがく姿を詳細に描き出していきます。元家政婦の死によって、作家と彼の家族に起きた過去、そして青年の母親に起きた出来事により、人がいかに残酷なほどエゴに堕ちるものなのかが暴かれていきます。己の幸福を追求し過ぎて、手に入れた幸せに満足できなかった者が一度の過ちでつまずき、影に呑まれるのを抗う中で図らずも周りの者たちをも不幸にさせたしまった一つの人生の物語です。

『喪失』
『罪』
『裏切り』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『冷たい家』JP・ディレイニー ハヤカワ・ミステリ

2019-10-13

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☆☆☆☆

フォルゲート・ストリート一番地—そこにはミニマリストで完璧主義者の建築家エドワードが手がけた家がある。最先端テクノロジーによって制御された立方体の建物。簡潔さが追求された室内。エドワードの厳しい審査をパスした者だけがここに入居を許される。だがこの家に住む女性たちには、なぜか次々と災厄が訪れるのだった—。この建築家は一体何者なのか?この家に隠された秘密とは?交錯する語りから驚愕の真実が明かされていく—映画化決定の新時代サスペンス。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー 内容紹介より



物語の構成は、フォルゲート・ストリート一番地に建つ家の借り主の女性たち、過去の借り主エマ、現在の借り主ジェーン、二人の視点が入れ替わって組み立てられています。ミニマリズムを追求し超ハイテクな家、そこに入居を許される者は、建築家の意向による煩雑なアンケートに答え、面接を受けなくてはなりません。さらには、入居者には二百ほどの禁止事項やルールに従うことが求められています。強盗事件に巻きこまれたエマ、死産を経験したばかりのジェーン、二人は家に包み込まれたような居心地の良さを感じ、建築家と恋に落ちてしまいます。やがてエマは建築家の妻子が事故死した事件を、ジェーンはエマが不審死を遂げた事件を調べ始めることになります。過去と現在の視点が、短い章でスムーズに切り替わり、建築家が彼女たちにアプローチする方法やデートの場所、プレゼントなど言動がまったくと言っていいほど同じなのが無気味であり、彼の尋常の無さを強く印象づける手法になっています。また、中盤になってのある人物の隠された姿、それは物語の潮目が変わるような、これまでのイメージを覆すような事態への急激でショッキングな変化がとても効果的で見事だと思いました。




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『惨劇のヴェール』ルース・レンデル 角川文庫

2019-10-10

☆☆☆☆

ウェクスフォード、テロに遭う!後から思えば、ウェクスフォードはほんの一足違いで事件を逃したのだった。その同じ偶然が、娘の車に仕掛けられた爆弾でばらばらに吹き飛ばされるのから、間一髪かれを救った。入院したウェクスフォードに代わって捜査の指揮をとったバーデンは、死体発見者の女性の息子を犯人とにらみ、取りつかれたように取り調べす進めた。だがその時かれは母と子の関係の底に隠された、摩訶不思議な、同時に恐るべき影の存在に気づかなかった。そして事件の本当の恐ろしさにも。ウェクスフォード・シリーズ、最大最高の長篇! 内容紹介より



本書は、ウェクスフォード・シリーズの14作目にあたり、1988年に発表されています。
ショッピング・センターの地下駐車場で中年女性の絞殺体が発見され、ウェクスフォード主任警部が捜査にあたりますが、警部自身が爆弾テロの被害を受け入院したため、部下であるバーデンが捜査の指揮をとることになります。彼は死体発見者の息子が犯人だと確信して取り調べを進めます。母親と二人暮らしで、心理療法士を受診する、その容疑者の様子に異様なものを感じたバーデンが、幾度も面談を重ねるにつれ、容疑者の態度に変化が起き始めます。ウェクスフォード・シリーズとノン・シリーズのふたつを掛け合わせたみたいな作品に仕上がっている本書は、死体発見者の息子の造形と、彼とバーデンとの一連のやり取りとそれにつれて変化する彼らの関係性が読みどころなのでしょう。本書の心理的な息苦しさをふくむサスペンス性の部分をバーデンが受け持ち、ミステリ自体はウェクスフォードが解き明かすという二重性を持たせているという点ではかなり凝ったプロットだと思います。サスペンスに目が行きがちになりましたが、雑誌に掲載されている読者の人生相談欄が事件の謎を解く重要なヒントになっているところに著者の巧さを感じました。また、爆弾犯が狙った真の標的にも捻りが加えられて軽いアクセントになっています。

ユーザータグ:ルース・レンデル



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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『踊る骸』カミラ・レックバリ 集英社文庫

2019-10-07

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☆☆☆☆

今は亡き母は、なぜ最期まで私達姉妹に冷たかったのだろう?屋根裏で母が戦時に書いた日記と古い勲章を見つけたことで、再び謎と向き合うことになったエリカ。だが、勲章の鑑定を頼んだ歴史家は直後に撲殺され、ヒントを探すために読み始めた母の、別人のように感情豊かな日記は戦中のある日唐突に終わっていた。スウェーデン発シリーズ第5弾、二つの時代が交錯する味わい深い名作ミステリ! 内容紹介より



〈エリカ&パトリック事件簿〉シリーズ。
地元警察の刑事パトリックは育児休暇中、作家のエリカは新作を執筆中ながら屋根裏で見つけた亡き母親の日記とナチの勲章が気になって集中できない状態です。母親になった彼女は、なぜ母親が自分たち姉妹に心を閉ざしていたのか、その理由を日記から読み解こうとするとともに、勲章がなんらかの手がかりになるのではないかと、元歴史教師でナチスの歴史に詳しい人物に勲章を持ち込みます。しかし、その後彼は自宅で撲殺死体として発見されます。この殺人事件を核として物語は、現在と1943年から1945年を行き来し、少女時代のヒロインの母親とその友人たちとノルウェーにおけるナチスへのレジスタンス活動を支援する若者の過去を描き、また、現在のヒロインを含む多くの登場人物たちにまつわる種々様々なエピソードをこれでもかと幾重にも重ねる手法をとって展開します。沢山の逸話が語られているにしても、そこに共通して浮かび上がっている一貫したテーマは家族であること、それが作者の強い思いであることは、さほど登場機会の少ない人物にもテーマにつながる場面を設けていることから感じられます。物語の行き着くところが予想しやすいにしても、勲章が六十年前に起きた事件と心を閉ざした母親の理由、その謎を開ける鍵にしているところは巧さを感じます。人物たちの色々な確執や個々の問題が都合良く、あるいは安易に解消される点が気になりますが、読みごたえのある作品だと思います。

『氷姫』
『説教師』
『悪童』
『死を哭く鳥』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『サトリ』ドン・ウィンズロウ ハヤカワ文庫NV

2019-10-04

☆☆☆☆

1951年東京。日本的精神の至高の境地〈シブミ〉を学んだニコライ・ヘルは、服役中にCIA局員の訪問を受け、釈放と引き換えに暗殺の仕事を請け負った。朝鮮戦争が勃発し、中国とソ連は親密な関係にあるが、アメリカは中国の顧問役であるKGB幹部ヴォロシェーニンを暗殺し、中ソを反目させようとしていた。標的を知らされ、ニコライは驚いた。母と浅からぬ因縁があったからだ。彼は武器商人になりすまし、北京に赴くが…… 上巻内容紹介より



本書は、トレヴェニアン作の『シブミ』の中に書かれているエピソードを基に創作された前日譚になるそうです。『シブミ』は読んだことがありますが、囲碁や洞窟の話があったことを覚えているくらいで、あとはまったく記憶に残っていません。本書は、主人公ニコライ・ヘルの若かりし頃の冒険譚です。ロシア貴族の血を引き、日本において武道と囲碁の教えを受けた主人公にCIAが目を付け、中国にいるロシアの要人の暗殺を依頼してきます。中国、ラオス、ヴェトナム、と物語は舞台を換えて進み、時代背景や各国の街の雰囲気も丹念に描き出し、また、「サトリ」という日本人に取っては馴染み深い言葉と思想を主人公の精神的支柱に据えているせいで話にスムーズに入り込むことができました。日本人の「心」を備えた主人公という設定は極めて珍しく、銃をやたらと撃ちまくるアメリカ的アクション場面は極めて少なく、闘う相手には素手で対決しているところも特異なところだと思います。登場人物二人の正体にかなり意外性があった辺りはウィンズロウらしく、逆に暗躍するCIAの敵役がたずさわる「X計画」なるものが、まったく衝撃的でないのは作者らしからぬ感じを受けました。

ユーザータグ:ドン・ウィンズロウ




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロンリー・ファイター』ハーラン・コーベン ハヤカワ文庫HM

2019-10-01

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☆☆☆☆

マイロンにはいつもトラブルが降りかかる。名門ゴルフクラブを訪れたことがきっかけで、彼はプロゴルファーの夫婦の息子を誘拐した犯人を探しだすことになったのだ。ゴルファーとして不遇だった少年の父親は再起を賭けて全米オープンに出場中だった。彼を動揺させるための犯行か?さらに相棒ウィンは調査への協力を拒絶し……孤立無援のなか、スポーツ・エージェントのマイロンが機知とジョークで敵に立ち向かう第4弾 内容紹介より



三作目の『カムバック・ヒーロー』は未読です。いつもコンビを組むウィンの親戚から依頼された少年誘拐事件の調査にもかかわらず、彼は母親との間に確執があるため主人公への協力を断ります。というわけで主人公は単独で誘拐事件の真相を追うことになるのですが、金銭だけが誘拐犯の狙いなのかどうか不審な点が浮かび上がってきます。実は誘拐を装った少年による狂言なのではないか、全米オープンで首位にたつ少年の父親に対しての圧力なのか、さらに過去の試合にまつわる怨恨の線も浮かび上がってきます。いつもは相棒が受け持つ容疑者への暴力などの慣れない汚れ仕事を、今回は主人公が担う羽目になり、日頃の彼ら二人の関係を内省したりする場面も織り込まれています。しかし、達者な減らず口や軽口は相変わらずであり、この辺りは非常にアメリカ的に感じました。登場人物たちそれぞれの意外な関係性も構築され、取り揃えられた容疑者たちとその動機も様々に設定され、さらに最後の捻りも利いていてミステリ性は結構高いと思います。

『沈黙のメッセージ』
『偽りの目撃者』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『罪深き眺め』ピーター・ロビンスン 創元推理文庫

2019-09-25

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☆☆☆☆

バンクス警部はため息をついた。都会の喧噪を逃れて、ロンドンからヨークシャーの片田舎、ここイーストヴェイルに転属してきたというのに、このありさまはどうだ。今は秋。だから灰色の空、冷たい雨に祟られるのはやむをえないとしても、町にはのぞき魔が出没して被害が相つぎ、老人宅を狙った盗難事件も、いっこうにやむ気配がない。そして今度は、三日前に八十七歳の誕生日を迎えたばかりの老婦人が殺されたというのだ……。音楽を愛する首席警部イアン・バンクスの活躍を描いて独特の詩情漂う現代英国ミステリの新シリーズ、堂々の開幕! 内容紹介より



1987年に発表された作品です。
主人公は三十六歳の首席警部、家族は妻と一男一女。ロンドンから希望して地方に転属してきた人物です。舞台となるのは、人口一万四千人ほどの自然と歴史に恵まれた「絵に描いたような美しい町」ですが、中心部を外れると、荒廃が進む低所得者向けの市営住宅地が広がっているという状況です。その閑静な田舎町で、のぞき魔事件や強盗事件が頻発し始め、さらに他殺と思われる老婦人の遺体が発見されることに。視点は主人公やその妻、部下や町の住人に頻繁に入れ替わって進みます。主人公は人間臭く、等身大の人物で、のぞき魔事件の捜査に協力する美人心理学者に心が揺れ動いたり、部下に八つ当たりしたりします。物語は、主人公の妻がのぞき見の被害者になったり、強盗事件の犯人側からの視点が据えられたりと、なかなか変化に富んでいて進行も速いのですが、主人公と心理学者との序盤の会話部分にややもたつき感がありました。作品全体は地味な印象なのですけれど、三つの事件を捜査する展開は、いかにも警察小説らしく、犯人との直接対決、意外な真犯人、危機一髪の場面などが盛り込まれておりなかなかの出来映えだと思います。

『必然の結末』




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ファイアーウォール』ヘニング・マンケル 創元推理文庫

2019-09-22

☆☆☆☆

19歳と14歳の少女がタクシー運転手を襲う事件が発生。19歳のソニャがハンマーで殴り、14歳のエヴァがナイフで刺した。逮捕された少女たちは金ほしさの犯行だと自供、反省の色はない。ヴァランダーには彼女たちが理解できなかった。あまりにふてぶてしい二人の態度。尋問の席で母親を罵倒し殴ったエヴァに腹を立てたヴァランダーは、思わず彼女に平手打ちを食らわせてしまう。ところがまさにその瞬間の写真を新聞に掲載されてしまった。味方だと信じていた署長への不審、孤独感に苛まれるヴァランダー。北欧ミステリの巨匠の傑作シリーズ。 上巻内容紹介より



シリーズ八作目。
ネット犯罪など珍しくもない現代では、本書のテーマはややありふれた印象を受けますが、実はこの作品は1998年に発表されたもので、作者の時代の先読み感が現れているように思います。ペンタゴンのコンピューターに侵入した少年は映画の『ウォー・ゲーム』の高校生を思わせますけれど。物語は、ITやネット社会の脆弱性とそこを突いて世界全体の経済構造を変えてしまおうとする過激主義者を描き、またスウェーデン社会の変化とともに排除される若者の姿を絡ませています。ITおよびネットが職場において重要なアイテムになるなかで、部下との間に思ってもいなかった新旧の世代対立が表面化し、さらに自身にスキャンダルが持ち上がって非常に苦しい立場に立たされた主人公の苦悩や葛藤する姿が入念に描かれています。そこに一筋の光明とも言える女性が出現するのですが……。わたしのわずかな記憶では、シリーズ初期の頃にはもっと主人公にユーモラスな場面を持たせていたような気もしたのですけれど、回を重ねるごとに陰鬱さが増していくような印象が強いです。ただ、彼の娘が下した決断が救いをもたらしているのでしょう。色々詰め込まれて考えさせる作品だと思いました。

ユーザータグ:ヘニング・マンケル




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『戦慄のシャドウファイア』ディーン・R・クーンツ 扶桑社ミステリー

2019-09-16

Tag : ホラー

☆☆☆☆

エリック・リーベン=天才的な遺伝子工学者。彼はその才能を武器にベンチャービジネスを成功させ、莫大な財を築いていたが、別居中の妻レイチェルと口論した直後、自動車にはねられ即死した。しかし、奇怪なことに彼の死体が、死体公示所から忽然と消えた!恋人ベンとともに極秘の調査を開始したレイチェルの前に、謎の追手がたちふさがる。一方、エリックが手がけていたプロジェクト〈ワイルドカード〉の機密漏洩を恐れる情報局のシャープも二人の追跡を開始した。鬼才クーンツが放つ、超大型サスペンス! 上巻内容紹介より



前回読んだ『殺人プログラミング』同様にSFホラーです。優れた科学者に幼少期のトラウマという陰影を付けて、単なる悪の権化にはしておらず、また女性を敵視している設定も同じです。育った家庭環境とトラウマから極端に死に恐怖心を持っている遺伝子工学者が、遺伝子改変によって寿命を延ばすどころか不死の身体を手に入れる研究を行っていましたが、妻との離婚調停の直後、彼は交通事故死してしまいます。しかし、死体解剖を行うために安置されていた彼の遺体が消えてなくなる事態が起きます。実は自らの身体に遺伝子工学的処置を行っていた彼は、元妻に復讐するため死からよみがえり……という展開です。話は復讐譚と追跡行なのですけれど、特に迫力があるのは遺伝子が勝手に暴走し始めて、身体が逆行進化、またはこれまでの生物の進化の流れとはまったく異質な変化を描いているところだと思います。昆虫や甲殻類、爬虫類それに未知なるものに変身した化け物、身体的変化のみならず、シャドウファイアの幻影をはじめとして、人と獣の間を交互に揺れ動くなかでの、苦悩や歓喜など意識の移り変わりの様も丹念に描写しているあたりはとても感心しました。

ディーン・クーンツ




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『殺人プログラミング』ディーン・クーンツ 光文社文庫

2019-09-07

Tag : ホラー

☆☆☆☆

—視覚プログラムと薬剤を使って人間の心を自在に操る……ペンタゴンの研究員ソールズベリの恐怖の研究。彼はこの人体実験の場に、人口400の田舎町ブラック・リヴァーを選んだ。だが、そこに休暇を楽しもうと、都会から親子が……。—“本書を読み終えられるころには、読者の多くが落着きを失い、不安に怯え、恐怖すら感じるかもしれない……著者”ベストセラー作家が人間の欲望と意識下の世界に挑んだ戦慄のハード・サスペンス! 内容紹介より



ペンタゴンのある研究者が大富豪と共謀して、自らの研究を私利私欲のために転用しようとメイン州の孤立した田舎町で人体実験を行います。薬剤が撒かれた貯水池からの水を飲み、あらゆるメディアを使ってサブリミナルに刺激を受けた住民たちは研究者の言いなりになってしまう状態に陥ります。その町へ休暇にやってきた親子三人が事件に巻き込まれ、実験の影響を受けなかった住人とともに陰謀に立ち向かうという話です。現在では都市伝説化したみたいな“サブリミナル効果”を題材に取った1976年発表の作品です。設定は荒唐無稽ながら物語は大変面白く、細かな点も充分に目がいき届いた娯楽作品になっていると思います。わたしがこれまで読んできたクーンツの作品に感じるプロットや人物にある薄さあるいは底の浅さみたいなものが、本書では結構軽減されているような印象を受けました。この作品でも前回の『ウィスパーズ』同様に子供時代の虐待経験を負う人物が登場するのですけれど、その凄惨な経験が犯行のひとつの動機とする一方、盤石と思われた計画にほころびをもたらす原因にも持っていきているところに巧さを感じました。難点があるとするなら、ある人物の死は衝撃的ではあるもののかなり余計だったような気もします。




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『ウィスパーズ』ディーン・R・クーンツ ハヤカワ文庫NV

2019-08-29

Tag : ホラー

☆☆☆☆

大邸宅に住むハリウッドの若き女性脚本家ヒラリー・トーマスを、突然の侵入者が襲った。一度会っただけの、柔和で紳士的な印象さえあった中年男が、耳を疑うようなおぞましい欲情を口にし、彼女を強姦して殺そうと迫ってきたのだ。とっさの機転で一度は暴漢を撃退したヒラリーだったが、男は何かに憑かれたような異常な執念で再び侵入し、彼女に襲いかかってきた。窮地に立ったヒラリーは、ついにその手にナイフを握った! 上巻内容紹介より



ハヤカワ文庫NVから出ているモダンホラー・セレクションのなかの一冊です。美女が執拗に男から襲われる、というシンプルなプロットで、両者に子供時代の虐待を背景として設定しています。男は単なる悪に駆られて凶行に及ぶという状況ではなく、虐待のトラウマから彼なりの動機を持っており、被害者である女性も同じトラウマを抱えているため、彼に憐れみを抱く場面もあります。かと言って過度に男への同情的な流れには持っていかず、残虐な場面で相殺しています。ただ、こういう点は作者の実体験によるとことがあるのでしょうか。物語は、死者のよみがえり、意味をなさない囁き声や身体を這う不気味な生き物たちの悪夢などの超常的な味付けもされて進みます。そんな不可思議なことがラストにおいて収斂され、合理的な解釈がなされるところは巧いのですけれど、わずかに奇妙な要素も残しても良かったような気もしました。あえて言えば、美男美女のロマンスがありきたりで、クライマックスはヒロインに花を持たせるべきだったようなところはやや残念な感じもしました。

ユーザータグ:ホラー




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テーマ : ホラー小説
ジャンル : 本・雑誌

『冬そして夜』S・J・ローザン 創元推理文庫

2019-08-26

☆☆☆☆

11月の深夜、私立探偵のわたしビル・スミスを冷たい夜気の中へ連れ出したのは、少年をひとり保護したという警察からの電話だった。少年の名はゲイリー、15歳—わたしの甥だ。なぜニューヨークへ来たのか話さぬまま、甥はわたしの前から姿を消す。手がかりを求めて、甥の一家が暮らす町ワレンズタウンを訪れたわたしは、フットボールの盛んな町の歪んだ体質が引き起こした事件に、否応なく直面することになる……。明かされる醜聞と自らの過去に対峙するビル、そしてリディア。MWA最優秀長編賞を受賞した、私立探偵小説シリーズの白眉。 内容紹介より



昔から私立探偵小説のメイン・テーマといえば人捜しにつきる訳で、本書もそれを踏襲しています。失踪人は主人公ビルの妹の息子です。その妹夫婦とは過去の出来事によってわだかまりが生じ、疎遠になっています。甥は引っ越してきた町の高校でフットボール選手として有望視されていたところでしたが、ある日、「しなければならないことがある」という書き置きを残して家を出たのです。ビルはニューヨークで警察に捕まった甥を一旦保護したものの、直後に彼に逃げられてしまいます。ビルは事情を探るために妹一家が暮らす町へ……。そこは町ぐるみになって地元の高校のフットボールチームを応援するところであり、フットボール選手が贔屓にされる場所でもあります。それはフットボールがまるで宗教のごとくフットボール至上主義みたいな雰囲気が漂い、その選手は実生活では甘やかされ、批判はタブー視されて彼ら以外の生徒たちは見下されているという傾向をやや誇張かと思えるほどに描き出しています。そのような空気が過去の醜聞と今回の事件を生みだした共通の負の要因として現わされ、さらにどこの学校もそんな影を抱えていることを暗示しています。中盤に人捜しに特有の聞き込みが続くダレる部分がある気がしましたし、悲劇的要素が強いわりに解決策が他力に頼って救いが無く、もやもやした読後感が残りました。それから、こんな人物だったっけと思うほどビルの怒りにかられた暴力場面が目立ちました。

ユーザータグ:S・J・ローザン




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ゼロ以下の死』C・J・ボックス 講談社文庫

2019-08-23

☆☆☆☆

あの日死んだはずの我が娘同然だった少女からの連絡—。巨大キャンピングカーを所有する老夫婦と結婚式前夜の富豪カップルの射殺事件が起き、猟区管理官ピケットはその少女が犯人たちと一緒にいるらしいことを知る。大自然、父と息子、家族の絆。全米を代表する人気作家が贖いをテーマに描くサスペンス。 内容紹介より



猟区管理官ジョー・ピケット シリーズの第九作。三作目の『凍れる森』に登場した少女に関する話と、CO2排出による地球環境問題が絡んでいます。このシリーズはワイオミングを舞台にした自然保護、土地開発や環境破壊がしばしばテーマとして取り上げられ、開発業者や自然保護主義者またはエコテロリストが登場してきましたけれど、今回はカーボンオフセットにまつわる過激行動主義者みたいな人物が登場しています。ここでかなり奇抜な設定なのは、そのエコテロリストと大物ギャングとが息子と父親という組み合わせになっていることです。彼らは全米をキャンピングカーで旅してまわる夫婦や結婚式前夜のカップルを殺してしまうのですが、その理由は被害者たちの行動が多大なCO2排出につながるから。自らのせいで失われた家族の絆を取り戻したいと切望する、病気で余命わずかなギャングのボスが息子の主義主張に協力する形で犯行に及び、その二人に同行するのが少女です。三人の奇妙な殺人ロードノベル風な話と、彼女から連絡を受けた主人公一家の心情とが描かれて進みます。このシリーズにおいて一貫した主題である「家族」が強く現されている物語のように感じました。一方、鷹匠は便利な使い方をされるアイテム化しているような気がします。

ユーザータグ:C・J・ボックス




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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『報復』ドン・ウィンズロウ 角川文庫

2019-08-20

☆☆☆☆

元デルタフォース隊員で、現在は空港の保安監督官として働くデイヴは、飛行機事故で最愛の妻子を失った。絶望にうちのめされながらも、いくつかの奇妙な符合から、テロではないかと疑念を抱いた彼は、恐ろしい事実と政府の隠蔽工作に直面する。そして、元兵士の友人たちとともに、自らの手で狡猾なテロリストに鉄槌を下す決意をする。すべてを失った男の凄絶な怒りと闘いを描く緊迫のミリタリー・サスペンス。解説・杉江松恋 内容紹介より 



本書に記してあるサミュエル・ジョンソンの言葉によると、「復讐」と「報復」とでは意味が違うそうなので、この物語は報復譚になるのでしょう。妻子を飛行機事故で亡くした主人公は、事故が実はテロによるものだったこと、さらに政府がその事実を隠蔽していたを知ります。彼は特殊部隊時代の元上官が組織する傭兵部隊とともにテロリスト狩りを始めるというもの。単純なプロットと人物造形、映像化を狙ったような展開、武器、弾薬、装備についての詳細な説明、本書が一時代前に著されていたら傑作といわれていたのかもしれませんが、今の時代においてはB級娯楽作品でしかありません。メッセージ性も捻りもなく、なにかあるとすれば、なぜウィンズロウはあえてこの作品を書こうと思ったのか、という謎だけでしょう。作者自身もこういった感想が出ることは充分に予想していたにもかかわらず……。主人公の報復が終わった後に、いったい何が残ったのか、という読者が知りたい部分はかなりほったらかしです。ただし、B級ではあっても駄作という意味ではないので、読んでつまらないという感じではありません。

ユーザータグ:ドン・ウィンズロウ




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『モルディダ・マン』ロス・トーマス ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2019-08-02

Tag :

☆☆☆☆

合衆国大統領の実兄がリビアに誘拐された。自国側の大物テロリストがCIAの手に落ちたと考えたリビアが報復に出たのだ。しかし、CIAはその件には一切関与していなかった。一触即発の事態を収拾すべく、ホワイトハウスは“モルディダ・マン”を雇った—国際紛争のはざまで大国を手玉にとる男どもを描き、巨匠が真骨頂を示す傑作! 内容紹介より



かつてメキシコにおいて人質解放交渉をまとめあげたため、「賄賂を贈る者」というスペイン語の“モルディダ・マン”のあだ名を持つ主人公は、元陸軍大佐で元下院議員を一期務めたリスボン在住のアメリカ人。彼は大統領に近い筋から、その実兄のリビアによる誘拐事件の解決を秘密裡に依頼されます。リビアは自国が援助する国際テロリストのリーダーがCIAによって拉致されたと思い込み、テロリストと大統領の実兄を交換する目的で 犯行に及んだのです。しかし、CIAはまったく関与していなかったため、主人公の出番となったという訳です。ぐいぐいくる凄腕の交渉人というより、じわじわと周りから詰めていく、場合によっては自ら敵の懐に入るような策を練るタイプの人物です。訳者あとがきで山本やよい氏が書いているみたいに、話の展開が「予測ができなくなる。思いもかけない方向へ話が飛んでいく」(p405)流れになっても、最終的には何もかもが主人公の計画通りに進んでいくのだろうなという感じはします。ネットを使って違法に莫大な金を手に入れた富豪や彼の部下の元CIAと元FBI、現役のCIA局員が主人公に交じって虚々実々の策謀をめぐらす頭脳戦が面白かったです。ただ、テロリストグループのメンバーにも同じような存在感を発揮してほしかった感じはします。

『八番目の小人』
『黄昏にマックの店で』




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ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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