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『虚栄は死なず』 ルース・レンデル 光文社文庫

2011-10-01

☆☆☆☆☆

― 富裕なウィッタカー一族の一員、アリスは、38歳でようやく幸せをつかんだ。9歳年下のハンサムでやさしい夫アンドリューとの新婚生活は、彼女にとって夢のような日々だった。二人の結婚式から三カ月後、花屋の美しい未亡人、ネスタが町から出ていった……手紙を頼りに、アリスはネスタを訪ねるが、その住所は実在しない。ネスタが消えた。そして、アリスの体調にも異変が……。― 名手レンデルが女性の微妙な心理を描いた傑作サスペンス! 内容紹介より



以下、ネタバレしています!ご注意下さい!

わたしの思考回路が単純ということはこの際置いといて、なぜまたまたレンデルさんにしてやられたのか?
まず、本書がノン・シリーズ作品の二作目だということで、習作とまではいわないけれど、いくらルース・レンデルであっても人の子、最初からそれほどの完成度の高い作品を書ける作家だとは思っていなかったこと。ようするに甘く見ていたわけです。
そして、ヒロインの夫や道路工事などきわめてあからさまな赤いニシンを、一般的に初期作品に見られる設定の甘さによる伏線配置だと信じて疑わなかったこと。
さらに、この作品以降もレンデルさんが好んで使っていた“失踪事件”がまた同じパターンをとるとは思わなかったこと。これでも読みはじめはうっすらと疑いはしたんです(天敵の匂いを嗅ぐ野うさぎのように鼻をヒクヒクさせたのです)。しかし、いかんせん人間の思考というものは目の前にある安易な道を選びたがるもので……。
ということで、たとえば本書を研究施設の迷路実験とするなら、さながらわたしはレンデル博士の作った道を彼女の思った通りにひたすらまっしぐらに進むモルモットにしか見えなかったことでしょう。
とにかく、たった256ページですが、人物造形も巧みで、非常にトリッキーで周到な作品でした。やられーでまいったので☆をいっぱい付けました。べつに酔ってはいません。

タグ:ルース・レンデル




虚栄は死なず (光文社文庫)虚栄は死なず (光文社文庫)
(1988/03)
ルース・レンデル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『犬の力』 ドン・ウィンズロウ 角川文庫

2011-09-03

☆☆☆☆☆

キシコの麻薬撲滅に取り憑かれたDEAの捜査官アート・ケラー。叔父が築くラテンアメリカの麻薬カルテルの後継バレーラ兄弟。高級娼婦への道を歩む美貌の不良学生ノーラに、やがて無慈悲な殺し屋となるヘルズ・キッチン育ちの若者カラン。彼らが好むと好まざるとにかかわらず放り込まれるのは、30年に及ぶ壮絶な麻薬戦争。米国政府、麻薬カルテル、マフィアの様々な組織の思惑が交錯し、物語は疾走を始める……。 上巻内容紹介より



この作者の作品に一貫しているのは、良い意味で青臭い正義感を持つ人物を主人公に据えていることだと思います。本書においてもそのような人物が、家族や私生活ときには良心をも犠牲にして愚直にそして孤高を持して敵と戦う様が30年のスパンで描かれています。もちろんここに現される対立構図は、麻薬捜査官と麻薬組織という単純なものだけではなく、中南米政権の左傾化を阻止しようとする米国政府や右派勢力、それに対抗する左翼革命勢力、バチカンの意をくむ現地のカトリック教会など政治的または宗教的信条や思惑もそこに入り込んでいます。決して断つことのできない悪にも向かうしかない主人公の姿は、清濁が渦巻く巨大なハリケーンに対するドンキホーテみたいにも見えます。また、彼の闘い以外にも敵味方になる登場人物たちの姿も綿密に描写されており、まるでミステリの大河小説*みたいです。傑作というよりものすごい力作だと思いました。

*人物によっては精神的な面での成長が感じられないところもあって、そこらがやや作品の難になっている気もします。

『ウォータースライドをのぼれ』ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫
『砂漠で溺れるわけにはいかない』ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫
『ボビーZの気怠く優雅な人生』ドン・ウィンズロウ 角川文庫
『カリフォルニアの炎』ドン・ウィンズロウ 角川文庫




犬の力 上 (角川文庫)犬の力 上 (角川文庫)
(2009/08/25)
ドン・ウィンズロウ

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犬の力 下 (角川文庫)犬の力 下 (角川文庫)
(2009/08/25)
ドン・ウィンズロウ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『二年間の休暇』 J・ベルヌ 福音館書店

2011-08-20

Tag :

☆☆☆☆☆

本書は、『十五少年漂流記』の名で親しまれてきた作品の初の完訳本。夏の休暇を、スクーナーでニュージーランドの海岸を一周して過ごすことになっていた十 五人の少年たちが、思いがけない事故のため、無人島に漂着する。ときに反目しながらも、さまざまな困難を乗り越え、彼らは島での生活を築きあげていく。小 学校中級以上。 福音館文庫「BOOK」データベースより



子供の頃に抄訳でしか読んでいなかったのでこの完訳本を読んでみました。 やはりあたりまえにすごく面白かったです。大人になって再読した時、子供時代に感じた感動が損なわれない作品が傑作だと思いますが、この作品はそのひとつです。自分の読書体験というものは本書や『ロビンソン・クルーソー』から始まっていると思いますし、こういう作品によって読書の愉しみを知り、今に至るまでその習慣が続いているわけですから、個人的には冒険小説における聖典としてあがめたいほどにありがたい作品です。とりあえず読んでいない人にはぜひ読んで頂きたいし、抄訳しか読んでいない人も完訳本を手に取って欲しいです。
J・ベルヌ(ジュール ヴェルヌ)の作品一覧を見て、改めてこの人はすごい作家だったんだと思いました。抄訳でしか読んでいない作品もあるでしょうから、少しずつ他のものも読んでみようと思います。




二年間の休暇 (福音館古典童話シリーズ (1))二年間の休暇 (福音館古典童話シリーズ (1))
(1968/04/01)
ジュール ヴェルヌ

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

『ウサギ料理は殺しの味』P・シニアック 中公文庫

2011-01-04

Tag :

☆☆☆☆☆

フランスのとある田舎町のレストラン、その食卓に“狩人風ウサギ料理”が供された夜、必ず若い女が殺される。犠牲者のかたわらにはいつも一本の扇子が……。“食”と“性”に異様な情熱を傾ける町の人々を脅かすこの奇妙な謎、そして信じがたい結末。ブラック・ユーモアの利いたクセの強い味は、ミステリーに飽食した読者の舌をも満足させること請け合い。 内容紹介より



新年あけましておめでとうございます。本年も秘密の花園ブログ「本みしゅらん」をよろしくお願い致します。そして皆様も面白い本がたくさん読めますように。

さて、今年は卯年ですから、感想書き初めは『ウサギ料理は殺しの味』です。☆五つは盛り過ぎじゃないかとも思いましたが、これまでに読んだミステリのいずれにも当てはまらない雰囲気とユニークな謎解きを考慮して付けてみました。海外ミステリのランキングにもよくランクインしている作品ですし。もともとフランス・ミステリ自体が他の国のミステリに比べて異色なものが多いけれど、そのなかでも本書はさらに特殊です。なんといっても“風が吹けば桶屋が儲かる”式の種明かしが人を食って、バカバカしいながら非常に愉快です。フランスの田舎町を舞台に、さまざまな職業に就く、たくさんの住人を登場させ、彼らの錯綜する人間関係を構築し、その表裏を描いていく作者の作業は、読み終えた後に思えば、それはドミノ倒しのためにドミノの牌を並べていく作業だったのだと分かるのでした。さらに事件が終息した後にも、ドミノの牌は立ち上がったり、また倒れたりするリプレイを繰り替えして見せるのです。ただ、第二部あるいは付録ともいえる後半部分はやや冗漫だと感じるかもしれません。




ウサギ料理は殺しの味 (中公文庫)ウサギ料理は殺しの味 (中公文庫)
(1985/05)
P・シニアック

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ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)
(2009/12/20)
ピエール・シニアック

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『災厄の紳士』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2010-04-06

☆☆☆☆☆

根っからの怠け者で、現在ではジゴロ稼業で糊口を凌いでいるネヴィル・リチャードソンは、一攫千金の儲け話に乗り、婚約者に捨てられた美人令嬢のアルマに近づく。気の強いアルマにネヴィルは手を焼くが、計画を仕切る“共犯者”の指示により、着実にアルマを籠楽していく。しかしその先には思わぬ災厄が待ち受けていた……。名手が策を巡らす、精巧かつ大胆な本格ミステリの快作! 内容紹介より



ピカレスクみたいな始まり方から倒叙ものに移り、そして本格ものになるという多段階に変化する、少々変わったミステリ作品でした。しかも、計画のために嫌々女と付き合うジゴロ役の愚痴がユーモア風味も醸し出したりしています。
相変わらずこの作者の構成力はたいしたもので、まるで設計図を描いて建物を建てるみたいに作品を完成させているようだったり、あるいは数学で例えると因数分解でもできそうな作品のような感じがします。いわゆるパズラーそのものです。
ただ、卓越したパズラー作家ゆえに、盤上のチェスの駒のごとく登場人物たちの感情までも設計図通りに操作しているみたいな、気持ちも機械的に処理しているみたいな印象を受けてしまいました。『ウォリス家の殺人』でも思ったことですが、身近な者にまったく気取られること無く、感情をコントロールできるものなのかということです。
とにかく秀作なのは間違いなくて、余談ですが、わたしは見当違いの人物を犯人だと思っていたので、最後の場面では振り向くことなく殴り殺されていたことでしょう。

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫
『ウォリス家の殺人』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫




災厄の紳士 (創元推理文庫)災厄の紳士 (創元推理文庫)
(2009/09/30)
D・M・ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『殺人者の顔』ヘニング・マンケル 創元推理文庫

2010-03-13

☆☆☆☆☆

雪の予感がする早朝、小さな村から異変を告げる急報が入った。駆けつけた刑事を待っていたのは、凄惨な光景だった。無惨な傷を負って男は死亡、虫の息だった女も「外国の」と言い残して息をひきとる。地方の片隅で静かに暮らしていた老夫婦を、誰がかくも無惨に殺したのか?イースタ署の面々が必死の捜査を開始する。スウェーデン警察小説に新たな歴史を刻む名シリーズ開幕! 内容紹介より



移民が何者かに射殺される後半まで、読むのを中断して他のことをしてしまうくらい、やや話に乗れませんでしたけれど、その事件以降の展開が鞭が入ったみたいに速くなり、面白くなりました。北欧ミステリは、長く厳しく続く冬のイメージから何か重厚なストーリーで、主人公となる警察官も初老の沈着冷静なタイプで、というものを想像してしまいましたが、本書の主人公は、なんと、あのR・D・ウィングフィールドのジャック・フロスト警部みたいな感じではないですか!まあ、あれほど強烈ではないけれども、地味に似てます。
柳沢由実子さんが訳者あとがきで書かれているように、コミカルで、とても人間臭い人柄であり、また特に彼の顔が繰り返し起きる打撲や外傷によってひどい様になっていく描写を重ねているところは、いわゆるお笑いの手法で言うところの「天丼」ですよね。
非常に地道な捜査と主人公の私生活の問題、この私生活に問題を抱える主人公はこれまであまた存在していますが、本人がいたって深刻なほどシリアスを通り越して滑稽になってしまう、そして、仕事では真面目なのに、それ以外ではかなりの駄目人間ぶりを発揮しているキャラクターが絶妙の味わいを作品に与えていると思います。




殺人者の顔 (創元推理文庫)殺人者の顔 (創元推理文庫)
(2001/01)
ヘニング マンケル

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『34丁目の奇跡』ヴァレンタイン・デイヴィス あすなろ書房

2009-12-06

☆☆☆☆☆

聖なる夜、何かが起こる!こんなに心のあたたまる物語があっただろうか
ニューヨークシティ、マンハッタン34丁目にあるメイシー百貨店。おもちゃ売り場のサンタクロースとして、一人の老人が雇われた。彼の名はクリス・クリングル。その風貌はサンタそっくりだった! 帯説明文より



老人ホームに入居しているクリス・クリングル氏は、近頃のクリスマスが金儲けのダシにされている風潮に憤慨している。そんな矢先、自分がサンタクロースだと信じていることを理由にホームを追い出されてしまう。彼は偶然、メイシー百貨店が催すパレードの場で百貨店のイベント責任者のドリスと出会い、彼女におもちゃ売り場のサンタクロース役として雇われることになった。そこに彼の〈クリス効果〉による〈クリスマス親切キャンペーン〉、〈真のクリスマス精神〉をもたらすことになるのだが……。

その後、主人公をよく思わない百貨店付きのカウンセラーの策略によって、彼は精神病院に強制的に収容されてしまいます。そして、その収容の可否をめぐって裁判所で審理が始まり、論争は果たしてサンタクロースが存在するや否や、さらにクリス・クリングル氏がサンタクロースなのかどうかということに。主人公の弁護士とドリスのラブロマンスを絡めたファンタジーである前半から一転、後半はリーガルサスペンスと見まがうほど(大袈裟ですけどね)、サンタクロースについてのスリリングな展開へと。
法廷で、いかにしてサンタクロースの存在を認めさせたのか、クリス・クリングル氏が本物のサンタクロースであることをどうやって証明したのか、小品ながら後半特に読みごたえがありました。

タグ・クリスマス・ストーリー




34丁目の奇跡34丁目の奇跡
(2002/11)
ヴァレンタイン デイヴィス

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テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

『悪魔はすぐそこに』D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

2009-11-24

☆☆☆☆☆

ハードゲート大学の数学講師ピーターは、横領容疑で免職の危機にある亡父の友人ハクストンに助力を乞われた。だが審問の場でハクストンは、教授たちに脅迫めいた言葉を吐いたのち変死する。次いで図書館で殺人が起き、名誉学長暗殺を仄めかす手紙が舞い込む。相次ぐ事件は、ピーターの父を死に追いやった八年前の醜聞が原因なのか。クリスティが絶賛した技巧派が贈る傑作、本邦初訳。 内容紹介より



派手さはないけれど巧みさが際立つ作品です。オックスブリッジのような超有名大学ではなく、ブリック・カレッジみたいな(正確には違いますが)地味な地方大学を舞台に選んでいるのも、大学教官、職員たちの玉石混淆ぶりと人間関係をコンパクトに現す意味でよい選択だと思います。また、三人称多視点の切り替わりが絶妙で、カメラワークがスムーズでとても読み易いと思います。ただ、作品全体に淡白な印象を受けてしまうため、もうちょっと変な癖みたいなものが欲しい気もします。

以下、ネタばれしています!ご注意下さい。






一般的にミステリ小説においては、犯人の動機、心理状態、犯罪に至った事情などを探偵役がラストに総括して説明するパターンが多いと思いますが、本書ではそれら諸々が1ページ目から語られ始めています。しかし、手がかりその他の埋め方とその上にかぶせた土の量の具合が巧妙で、真犯人が判明した時、まさしくタイトルで明かしているとおりに、悪魔は読者のすぐそこにいたことにハッと気付くというわけです。
クリスティの代表作のひとつに何か似たものを感じるので、彼女が絶賛したというのも判るような。しかもそれより上手くやってます。



悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)悪魔はすぐそこに (創元推理文庫)
(2007/09/22)
D.M. ディヴァイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『赤の女』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫

2009-11-08

☆☆☆☆☆

出世の道を絶たれ、漫然と日々を送る英国領事館員のルウェリンに殺人事件の調査が命じられた。被害者は、名画の贋作で有罪となった男で、出所直後に謎の墜死を遂げていた。殺人の容疑は、護送中に死んだ贋作の共犯者デービッドの父親にかけられた。ルウェリンは、彼の無実を信じるデービッドの未亡人ホリーとともに真実を探るが……サスペンスの第一人者がスペインを舞台に贋作をめぐる謎をロマンスをからめて描く意欲作 内容紹介より



わたしが知らなかっただけかもしれないんですけど、もしかして、これ隠れた名作じゃないのかしらん?かなり完成度が高いですよね。発表された年代からすると、少々、パッケージが古典的英国冒険小説としての常道さを多々持ち合わせていて懐かしさを覚えますが、それもまた魅力かなと。
物語は、スペインの地方都市を舞台に、英国のくたびれた領事館員と米国人の血気盛んな女性が名画の贋作に絡んだとみられる殺人事件の謎を追うというもの。官僚的なスペイン警察から始まり、怪しい隣人やいろいろな人物が集まる現地の英国人社会、暗闇の岩山での逃避行、カーニバルの真っただ中での追跡劇、嵐の中、ペントハウスのテラスでの活劇、意外な真相と真犯人。雰囲気が重くならず、不条理なイメージもスパイス程度で抑えてあり、まるでヒッチコックの映画みたいなサスペンスとユーモアがとてもよかったです。そして、作中で語られるスペイン人気質の話も面白い。
こなれ過ぎていると思う人もいるかもしれませんが、それも作者のすぐれた技量からでたものでしょう。少し大袈裟に言うと、わたしのなかでは英国冒険小説のひとつの集大成的な位置づけです。
それから、ロマンティック・サスペンスを謳う昨今の作家たちには、一回本書を読んでから作品を書けと言いたい。

『ブラックウォーター湾の殺人』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫
『ハロウィーンの死体』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ文庫
『すべての石の下に』ポーラ・ゴズリング ハヤカワ・ミステリ




赤の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)赤の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1994/08)
ポーラ・ゴズリング

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ビッグ・ヒート』ウィリアム・P・マッギヴァーン 創元推理文庫

2009-06-26

☆☆☆☆☆

フィラデルフィア市警の刑事がひとり、ピストル自殺を遂げた。一見、ありふれた事件。だが、警部補バニアンはなにかきな臭いものを感じ、積極的に調査を始める。そんな彼に、事件から手をひくようにとの命令が。やはりなにかある。やがて彼の妻が殺されるや、復讐の鬼と化したバニアンはバッジをかなぐり捨て、市政の腐敗に単身戦いを挑んで行った! 著者独壇場、警官ものの名作。 内容紹介より



社会派ハードボイルドものとして、すごく完成した作品だと思います。いたってストレートなテーマ、シンプルなストーリー、妙にひねっていない判りやすい主人公と敵役のキャラクター。これらの単純明快さゆえに懐かしさを感じさせはしますが、それを超えて不朽の名作として存在しているように思いますし、凝ったミステリー作品が多い現代ではかえって新鮮さを感じます。
憎しみの感情のみを心にいだき、殺してでも敵を討とうとする修羅の如き主人公の様子や復讐に凝り固まった心がしだいに変化して行く様が簡潔な文章で書かれています。特に、
実娘が匿われている妹夫婦の家での義弟とその元戦友たち、牧師、警視と主人公とのやり取りが、定番とは言え、彼の孤独感を鎮めると共に、ユーモラスでありながら腐敗した人間たちと対照的に描き出していて非常に良いです。そして、復讐の終りと同時に、彼の心から憎しみを捨てさせ、悲しみという人間らしい感情を取り戻させた街の顔役の愛人の身に起きた一連の出来ごとも哀れを誘ってとても深い印象を受けました。

マッギヴァーンの他作品
『1944年の戦士』



ビッグ・ヒート (創推理文庫 マ 2-4)ビッグ・ヒート (創元推理文庫 マ 2-4)
(1994/10)
ウィリアム P.マッギヴァーン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『まるで天使のような』マーガレット・ミラー ハヤカワ文庫

2009-04-22

☆☆☆☆☆

オゥゴーマンは五年前に死にました ― ある宗教団体の尼僧から、オゥゴーマンという男の身辺調査を頼まれた私立探偵クインは、意外な答にぶつかった。事務員だった故人は、嵐の晩に車で出かけたまま戻らず、川に落ちた車だけが見つかったという。妙なのは事件だけではなかった。どうやら過去を暴かれたくない者がいるらしいのだ……多くの謎をはらむ事件の真相とは? 心理サスペンスと私立探偵小説を融合させた代表作! 内容紹介より



まず、私立探偵小説でよくある、依頼人がしがない探偵のもとを訪れ、調査を依頼することから話が始まるというパターンをとっていないのが良いです。物語の導入部分の短い間で、私立探偵の置かれた状況の説明を分かりやすく済まし、さらに、依頼人と出会う場面も特異な状況でありながら不自然ではない。冒頭で読者の興味を惹き付けるこのスムーズな流れはかなり上手いと思います。

依頼人の尼僧、オゥゴーマンの妻、女横領犯、不動産業者の母親とその女性共同経営者。
キーパーソンはオゥゴーマンという男でありながら、実は物語の主役は彼を基にして、知らず知らずのうちに結びついてしまったこの五人の女たちです。狂言回し役でもある探偵は、オゥゴーマンの影を追いながら、実はこの女性たちの真の姿を、心ならずも浮き彫りにしてしまっていきます。ありきたりな表現ですが、まさしく、投げられた小さな石ころによって池に波紋が広がるように、尼僧の依頼が危うい均衡を保っていた状況を揺るがしていく、その過程、波の一山一山の様子を丁寧に描き込んでいる著者の技量と物語の最初から最後まで高いレベルを保っている構成力など、かなり読みごたえがありました。ただ、会話の部分は翻訳がこなれていない印象を持ちました。見当が付いてしまうラストの処理はしょうがないですね。



まるで天使のような (ハヤカワ・ミステリ文庫 41-4)まるで天使のような (ハヤカワ・ミステリ文庫 41-4)
(1983/01)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク・ハッドン 早川書房

2009-02-26

Tag :

☆☆☆☆☆

全世界で一千万部! 自閉症の天才児の大冒険が胸に迫る、奇跡のベストセラー

数学や物理では天才なのに、他人とうまくつきあえない自閉症の少年クリストファー。お母さんを心臓発作で亡くした彼は、お父さんとふたり暮らし。宇宙飛行士が将来の夢だ。
ある夜、隣の家の飼い犬が殺された。シャーロック・ホームズが大好きなクリストファーは探偵となって犯人を捜し、その過程を一冊の本にまとめようと心に決める。お父さんは反対するし、人との会話もすごく苦手だし、外を出歩いた経験もほとんどない。でも、彼の決意はゆるがない。たぐいまれな記憶力を使って、クリストファーは調査を進めるが、勇気ある彼がたどり着いたのはあまりに哀しい事実だった……。冒険を通じて成長する少年の心を鮮烈に描き、ウィットブレッド賞ほか数々の文学賞を受賞した話題作。 内容紹介より



自閉症*の人物が登場する作品といえば、小説ではエリザベス・ムーン『くらやみの速さはどれくらい』、映画では『レインマン』がありますね。
昔、『ソフィーの世界』という哲学ファンタジー小説というのがありましたが、本書は数学(論理学?)ミステリ・アドベンチャー小説みたいなものでしょうか。様々な要素があって、いろいろな読み方があるように思えます。とにかく、この物語は一人称の「ぼく」で書かれているから、大げさに言えば読者は自閉症という個性を持った少年の目でその考え方や日常生活を疑似体験できるということ。例えが悪いかもしれませんが、紫外線を見ることができる蝶のように、彼が持つ特性、感性、機能はそれらを持たない者にとっては想像もつかない世界ですから、この作品を読むことで多少なりともその一端を窺うことができたように思いました。

黄色のものと茶色のものがきらいで、その色のものにぜったいさわらない主人公が、物語の終り近くで茶色のあるものにさわれるようになれたことがちょっと良かったです。

どうでもいいのですが、スコットランドの牛についてのジョークは、長谷川眞理子さんの科学エッセイにも書かれていたと思って、確認しようとしましたが分かりませんでした。


*一応、内容紹介文に従って“自閉症”という言葉を使います。



夜中に犬に起こった奇妙な事件夜中に犬に起こった奇妙な事件
(2007/02)
マーク ハッドン

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テーマ : 児童書
ジャンル : 本・雑誌

「狂人の部屋」ポール・アルテ ハヤカワ・ミステリ

2008-10-04

Tag :

☆☆☆☆☆

ハットン荘のその部屋には、忌わしい過去があった。百年ほど前、部屋に引きこもっていた文学青年が怪死したのだ。死因はまったくの不明。奇怪なことに、部屋の絨毯は水でぐっしょりと濡れていた……以来、あかずの間となっていた部屋を現在の当主ハリスが開いた途端に、怪事が屋敷に襲いかかった。ハリスが不可解な状況のもとで部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の妻が卒倒したのだ。しかも、部屋の絨毯は百年前と同じように濡れていた。はたして部屋で何がおきたのか? さすがのツイスト博士も困惑する、奇々怪々の難事件。    内容紹介より



ネタばれ気味です! ご注意ください。

〈ツイスト博士シリーズ〉第四作目。
ヴァン・ダイン やディクスン・カー*の作品を思い出させるような懐かしい探偵小説といった作品です。
衒学趣味にはしるか、小難しく翻訳していただけるともっと懐かしさも大きかったのでしょうが。
ストーカーとか虐待とかサイコキラーとか文字を見るだけで疲れてしまうし、現代社会が抱える病巣をテーマにした作品にも少々うんざりしてきた時などにぴったりの作品。細かいことを言うと、十九世紀末という時代の雰囲気が感じられないことと主要登場人物の不倫関係が必要な設定だったのか(ミスディレクションを狙っているにしても、この話だけ浮いているようで…)が気になりました。わたしはこの作者の作品は初めて読みましたが、フランス・ミステリに対して抱いているイメージと全然違っていて驚きました。フランス人もこんなミステリが書けるのですね。難しい割算を解いたみたいなすっきりとした謎の解明が素晴らしい。



*平岡敦さんの訳者あとがきによると"フランスのジョン・ディクスン・カー"と呼ばれて いるそうです。
 怪奇的な味付けは『火刑法廷』に似ているような。



狂人の部屋 (ハヤカワ・ミステリ 1801 ツイスト博士シリーズ) (ハヤカワ・ミステリ 1801 ツイスト博士シリーズ)狂人の部屋 (ハヤカワ・ミステリ 1801 ツイスト博士シリーズ) (ハヤカワ・ミステリ 1801 ツイスト博士シリーズ)
(2007/06/15)
ポール・アルテ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ヒルダよ眠れ」 アンドリュウ・ガーヴ ハヤカワ文庫

2008-10-02

Tag :

☆☆☆☆☆

凶行時のアリバイもなく愛人までいた — 無実の訴えも空しく、公務員のランバートは妻ヒルダ殺しの罪で起訴された。そんな時、戦友のマックスがドイツから帰ってきた。マックスなら、あの気のいい陽気な妻のヒルダを殺した真犯人もあげてくれるだろう。しかしランバートもマックスもまだ知らなかった、死んだヒルダの正体とは語るもおぞましい悪女だったのだ! 強烈なサスペンスをひっさげて登場した著者の衝撃的処女作。       内容紹介より



すみません。本書は九月に宇佐川晶子氏による新訳がでたようですが、わたしは福島正実氏の旧訳を再読です。まっ、中身は一緒ですからね。巻末に瀬戸川猛資氏が書かれている「殺される側の論理—『ヒルダよ眠れ』とアンドリュウ・ガーヴのミステリ」という一文のとおりで特に付け加えることもありません。まさしく、ヒルダはまるで怪物のような「語るもおぞましい悪女」(内容紹介の文)などではなかったからこそ本書が後世に名を残す名作と成り得たのでしょう。
仮に政敵を謀殺したボルジア家の毒婦みたいな悪女が主人公だったとしても、現実のルクレツィアには適わないわけですから、ガーヴがヒルダをどこにでもいそうな、読者もいままで出会ったことがありそうな人物に設定したことは非常に見事な手法と言えると思います。

ミステリ作品といえども真犯人探しなどはおまけみたいなものですから、ひたすらヒルダの性格を堪能し毛虫歩感*を抱きつつ、こういう人っているなあと顎が胸に付くほど深く首肯しながら読み進むべきですね。欲を言えばもう少しねちねちとヒルダの嫌らしさを描写して欲しかったとも思いますが、でももしこれをルース・レンデル女史が書いていたらと思うと、貴方(気安く呼びかけますが、しかも漢字で)、とんでもないことになっていたでしょうからこのくらいで丁度良かったのかもしれませんね。


*蟻走感とほぼ同じ意味の新語です。

同じ作者の作品
『諜報作戦/D13峰登頂』



ヒルダよ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 64-1)ヒルダよ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 64-1)
(1979/06)
アンドリュウ・ガーヴ

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ヒルダよ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 3-4)ヒルダよ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 3-4)
(2008/09/05)
アンドリュウ・ガーヴ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「夜の来訪者」J・B・プリーストリー 岩波文庫

2008-09-16

Tag :

☆☆☆☆☆

息もつかせぬ展開と最後に用意された大どんでん返し — 何度も上演され、映画化された、イギリスの劇作家プリーストリー(1894 - 1984)の代表作。舞台は裕福な実業家の家庭。娘の婚約を祝う一家団欒の夜に警部を名乗る男が訪れて、ある貧しい若い女性が自殺したことを告げ、全員がそのことに深く関わっていることを暴いてゆく……。     内容紹介より



ネタばれしています!ご注意下さい。




簡潔なストーリー、明快なテーマとメッセージ性をそなえた戯曲。
訳者安藤貞雄さんが解説に書かれているように、作者が警部の名前を“グール(GOOLE)”と名付けた意図はやはりghoul(食屍鬼)を読者(観客)に連想させるためでしょう。作中、二人の登場人物(警部自身と工場主)がグールの名前の綴りを教える場面が二箇所ありますが、これは主に舞台観客に配慮して警部の名前を強調し注意を向けさせるためだと思います。

それから作品全体ではディケンズの『クリスマス・キャロル』のイメージが浮かびました。あの世からの使いである三人の幽霊が鬼(警部)であり、スクルージ役が五人の人物なのではないかと。そして、若い女性と関わりをもったこの五人は、いわゆるミステリー・ゾーンに迷い込んだ状態にあって、その者たちの全員が改心するまでこの物語は何度も反復して繰り返される のではないかと思わせる無気味な余韻を残して終わります。

あと余談ですが、狂言回しである警部の最後の役回りは、クリスティの某作品に近いものがあるのではないかという気がしました。



夜の来訪者 (岩波文庫 赤 294-1)夜の来訪者 (岩波文庫 赤 294-1)
(2007/02)
プリーストリー

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てんちゃん1号

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