「全地球凍結」川上紳一 集英社新書

2006-02-28

Tag :

☆☆☆☆

八億年前ごろから六億年前ごろの地層を調べたら赤道地域も含めて、世界全域で氷河堆積物が発見されているらしいんだよね。「ふう~ん、八億年も六億年もあまり変わらないよなあ、昔過ぎて」氷河堆積物が赤道付近でも見つかるらしいよ。「へっえ~そうなの、で昼飯なに食べんの?」と普通は終わる会話なのに、科学者ときたらそういう現象を説明する仮説として「全球凍結仮説」別名スノーボール・アース仮説を立ててしまったんですね。しかも、対立仮説として“地軸傾き説”(現在23度だけど6.5億年前は60度地球は傾いていた)を主張する科学者まで出てきたりして。

全球凍結状態では地表の温度が氷点下50℃、海洋の氷床の厚さが一キロメートルで光合成もできず酸欠状態なので当時生息していた単細胞生物は絶滅したはず。
なのに、なぜ五億四四〇〇万年前のカンブリア紀に突然、多細胞生物が出現し爆発的適応放散が起きたのか?

地球のエネルギー収支から地球の気候をみると、寒冷解と温暖解が安定解なので一度全球凍結という寒冷解になるとずっと寒冷解の状態ままという結論になるのになぜ現在の地球は温暖な気候に戻ったのか?

こういうパラドックスの答えも興味深いです。
「全球凍結仮説」の調査に協力した著者の知的興奮が感じられ、確立した学説ではなくあくまで仮説であり、これからどういう新事実が出てくるのかという興味もそそられる本でした。

テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「モンタルバーノ警部 悲しきバイオリン」アンドレア・カミッレーリ ハルキ文庫

2006-02-26

☆☆☆

以前、紹介したと『おやつ泥棒』 同様にモンタルバーノ警部シリーズです。

モンタルバーノが発見した殺人事件を捜査中に、彼を疎む警察上層部から担当を外されてしまう。その後、失踪していた容疑者が機動隊員に射殺され,警察は事件の収束を図る。しかし、状況に不自然なものを感じたモンタルバーノは独自に捜査を再開するのだが…。

イタリア本国ではこのシリーズはかなり絶賛を博した(している)らしいのですが、日本では二冊のみ出版されただけです。日本人向けではないとは思わないのですが…メグレとウェクスフォードを足して美食系を混ぜて、二で割った感じでしょうかね。奇抜なトリックや目の覚めるようなプロットはないけど、地味は地味なりに人情味があって味があると思いますよ、わたしは。数を読んでいくうちにますます好きになるようなシリーズだと思います。その後、刊行されなかったのはとても残念ですよ、春樹社長。

モンタルバーノが朝食を贅沢に楽しんでいる時、それをぶち壊すように「警部、警部殿でありますか。この電話に出てんのは警部本人でありますか」と電話をしてくる電話交換手カタレッラのキャラクターがすごく可笑しい。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「殺し屋」ローレンス・ブロック 二見文庫

2006-02-23

☆☆☆

殺し屋ケラーを主人公にした連作短編集。

始めの一編を読んだ印象では主人公が嫌な奴に思えました。

『ケラーの治療法』では、作者はケラーに精神科医のカウンセラーを受けさせていますが、殺し屋がカウンセラーを受けるという可笑しさや不気味さを出すと共に、枚数に制約がある連作短篇の中で、主人公の子供時代の父親にまつわる出来事を上手く語らせてなかなか巧みな構成だと思う。

精神科医との対話で、殺しで訪れた土地に住みたくなったり、買う気もないのにその土地の不動産を見て回ったり、地元の電話帳で同じ名前の人物を探してみたりする彼の奇行の原因が読者に暗示されていたりします。
彼の心の拠り所のない孤独感がさせる行動なのかと思ってみたり、そしてなによりケラー本人が戸惑っている感じがして、なんだかこの感情の一部が欠落しているような主人公が哀れに思えてくる。

彼が飼い始めた犬とペットシッターの女性の意外な展開は唐突な感じがしますが、ブロックにはどんな意図があったのでしょう。話の流れが違う方向に行きそうになったからか、それともケラーの孤独感をより高めるためだったのでしょうか。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「パンプルムース氏対ハッカー」マイケル・ボンド 創元推理文庫

2006-02-22

☆☆☆


『ル・ギード』編集長の偽死亡記事、コンピューターに記録されていた『ル・ギード』
最新版の記事改ざん事件、失踪した経理係のマダム・グラントなど、グルメ・ガイドブックの出版社に降り掛かる怪事件をしぶしぶ捜査するはめになった元パリ警視庁刑事パンプルムース氏。

導入部のテンションの低さはメグレ警視ものかと思いましたよ。
今回なんだか地味めですね。舞台もパ氏の本拠地であるパリ市内なので、このシリーズの特徴であるはじけ方が少ない気がします。

1990年に書かれているようなのでコンピューターや用語の説明はちと古い。
マダム・グラントの部屋に特別意味もなく泊まるパ氏の行動が笑えるけど、その後はルーティン・ワークぽくって刺激がなかった。
せっかくマダム・グラントが恋をしたのだからそこらあたりをもっとストーリーに
絡めれば良かったのにと思いました。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「デイジー・ダックス」リック・ボイヤー ハヤカワ文庫

2006-02-20

☆☆☆

主人公ドクは友人のローンティスにヴェトナム戦争当時に所属していた特殊部隊、通称〈デイジー・ダックス〉の一員を探すために手を貸して欲しいと頼まれる。その戦友とローンティスは戦争中に手に入れた黄金像を長年香港の貸し金庫に預けていた。それを受け取るためには行方不明の戦友が持っている鍵が必要だった。
しかし、ローンティスが何者かに襲われ重傷を負ってしまい、ドクは一人で行方不明の男の消息を負うことになった。

従来の冒険小説という括りで比較すれば、たとえばマクリーンなどの作品がタイフーンの迫る雨期のジャングルに、真夜中しかも素手で放り出されるなにがしかのプロを主人公として描いているとすると、本書は乾期のサバンナをプロのハンターに守られながら、ジープに乗ってサファリツアーに参加している臆病な素人を主人公にして書いているようなものかも。しかし、この主人公には克服すべき厄介な「中年クライシス」という問題を抱えています(ちょっと笑える)。社会的地位もあり経済的にも家庭的にも恵まれているというのに何故か心が満たされていない。心の隙間を埋めるためにやむを得ず冒険という手段に惹かれてしまう。主人公としたら精神分析なりで解決すればそれはそれで良いみたいな感じもあって、そこら辺りが可笑しくもあり切なくもありといったところです。

「デイジー・ダック」ってドナルド・ダックのガール・フレンドの名前なんですね。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「わたしにもできる銀行強盗」ジーン・リューリック ハヤカワ文庫

2006-02-18

Tag :

☆☆☆☆

娘夫婦が交通事故に巻き込まれたため、六十歳の女性キャットは貸していた大金を失い、
自宅を明け渡さなければならなくなった。思いあまった末に彼女は銀行強盗を計画する。

主人公の状況は悲惨なんですけど心温まる(ユーモア?)ジェットコースター・ミステリです。
次から次に事件が起きてとにかく展開が早い。
その上、主人公以外の登場人物もよくもまあこれだけ集まったと思うほど皆不幸な過去を背負っていて濃い。

作者がたぶん七十歳くらいの時の作品だと思うのですが、訳者あとがきによるとパソコンの
「練習を兼ねて、日頃の憂さを晴らすために」書いたそうです。
確かに新人にありがちなプロットおよびアイデアの詰め込み過ぎとそれによる全体のバランスの悪さは感じます。例えば残り90ページで登場するニック・クラマーの生い立ちなど。
ジェットコースターが終点になだれ込むのかと思ったらもう一山昇り始めたので流れが止まったような感じがしました。

でも、素直に楽しめるし、作者の才能には感心しました。
年齢に相応しく人生に対して含蓄のある言葉も書かれています(と思う)。

残念ながら新刊書店では入手不可です。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「呪われた町」スティーヴン・キング 集英社文庫

2006-02-11

☆☆☆☆

キング初心者のわたしが読んだ初長編です。
『ドラキュラ』は十字架、聖水、日光が苦手でトネリコの杭で殺すことが出来る。そんな設定を変えずに物語を書いたキングってすごいですね。並の作家だったらまず書こうなんて思わないでしょ。少々大袈裟に言えば、見事な換骨奪胎。

町の住民たちの生活、人物像を長々としつこく描いていくことでじわじわと恐怖感が高められ、これからどういう風に吸血鬼に襲われ犠牲になっていくのか、やがて訪れる恐怖を読者に想像させて不気味さをかき立てていると思う。
つまり、後半部分の吸血鬼との対決はあくまでオマケに過ぎず、疫病が蔓延するように住人たちが吸血鬼に汚染され、(あらすじにあるように)町が崩壊していく様子を緻密に描くことがキングの意図したものだと思う。 
吸血鬼と化したダニー・グリックがマーク・ぺトリーを“二階の部屋の窓の外”に訪ねて来て、「入れてくれ」と言う場面が物語のピークのように感じた。

プロローグにおいて、吸血鬼の手を逃れた数人の住民の名前が読者に知らされているのですが、これはあくまで構成上の問題だけなのか、それともなにか別の作者の考えがあったのでしょうか。隠しておいたほうがいいような気もするけど…どっちでもいいか… 

あと、マークという少年がすご過ぎか。
町を見下ろす小高い丘に建っている屋敷(べたな設定)、そこに吸血鬼が棺のような箱に入って引っ越してくるというのは笑えます。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「ハネムーンの殺人」キャロリン・G・ハート ハヤカワ文庫

2006-02-08

☆☆

アニーとマックスが結婚式を挙げた日の深夜、アニーの店の従業員イングリッドから
助けを求める電話が入る。二人が彼女の家に駆け付けるとそこにイングリッドの姿はなく、近所で嫌われていた男の刺殺体を発見する。警察は被害者と激しい口論をしていたことからイングリッドを容疑者と断定するが、アニーは彼女が犯人に誘拐されたと思い調査を始める。

シリーズ第ニ作目。
このシリーズの中で、わたしには今ひとつ存在意味(どうしてこのシリーズに必要なのか)が分からないマックスが一人で調査をし、ミステリおたくのヘニーも閉じこもり気味、これまた役割不明なローレルも目立たず、なんだか起伏に乏しい印象。近隣の住人たちがそれぞれ秘密を抱えているという設定は良いのですが、あまり生かしきれていないように思いました。犯人の見当がすぐ付いてしまったしね。魅力的なサイドストーリー(ウェブとイングリッドなど)を付けるか、カットバックでイングリッドの様子を挿入するなどしたら物語に厚みが出たりサスペンスが盛り上がったりしたのでは…。

テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「料理長が多すぎる」レックス・スタウト ハヤカワ文庫

2006-02-07

☆☆☆

世界各地から選出された15人の名誉あるシェフたちは、保養地カノーワ・スパー
に次々と姿を見せ始めていた。そして晩餐会が催されるまさに前日、ソースの味ききに
興じていたシェフの一人が刺殺された!この集いに主賓として招かれていた、蘭と麦酒を愛し美食家探偵を自認するネロ・ウルフは誇り高き名料理長たちをまえにその重い腰をあげたが……全篇に贅を凝らした料理がちりばめられ美食家を自認する読者には垂涎の書

                       裏表紙あらすじより

いうことなので、これから本書を電車の中で読まれる美食家の方はくれぐれも口元に注意しましょう。

ネロ・ウルフはミステリ界では超有名な探偵ですが、なぜかわたしは初めて読みました。
ウルフの助手アーチーの目線での語り口とウルフとのやり取りが軽妙で笑えますが、プロットよりそちらに興味が移ってしまい気味なところもあり、本格ミステリとしてはやや物足りないような感じです。前半は料理長ほか登場人物が多すぎてややこしいと感じますが、読み進むと気にならなくなりました。ミステリとは関係ないけど、
ウルフの黒人従業員たちに対する態度が印象に残りました。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「オールド・ミスター・フラッド」ジョゼフ・ミッチェル 翔泳社

2006-02-06

Tag :

☆☆☆☆

新刊書店では入手不可。
『オールド・ミスター・フラッド』、『マクソーリーの素敵な居酒屋』を収録。
九十三歳のフラッドさんは魚介類を食べることが健康と長生きの秘訣ということを証明するため百十五歳まで生きたいと思っています。河岸のホテルの一室に一人で暮らし、昼飯は魚の卸売業者から気に入ったものを見つくろって、馴染みの店で細かく指示して料理してもらう。そんなフラッドさんが「私」に語る過去のエピソードを交えた老人の生活と意見。派手でもなく奇をてらったところもない話ですが心に残る作品です。

作者は雑誌「ニューヨーカー」のスタッフ・ライターで、原作はその雑誌の「プロファイル」欄に掲載されたものをまとめて1948年に出版されたもの。
このフラッドさんが実在するのかということについて常盤新平氏の訳者解説によると、ブレンダン・ギル著『ニューヨーカー物語』では『オールド・ミスター・フラッド』の主人公であるヒュー・G・フラッドは架空の人物で作者ミッチェルが知っていた数人の老人の合成であるとしるされているが、「『ニューヨーカー』という週刊誌は事実を尊重し」「『プロファイル』という欄はノンフィクションであって、創作は許されていない」ので本当のところは確かめようがないとのこと。

『マクソーリーの素敵な居酒屋』はニューヨーク市最古の酒場の成り立ちと創業者とその息子、それを受け継いだ経営者の個性とおかしな常連客を描いた作品。
酒場「McSorley's Old Ale House」はこの一文で有名になり、現在では観光名所になっているようです(ネットで見れる)。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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