「庭に孔雀、裏には死体」ドナ・アンドリューズ ハヤカワ文庫

2006-05-28

☆☆☆☆

わたしは母と親友と弟、三つの結婚式の花嫁付添人を頼まれ、式の準備に追われていた。衣裳選び、式に彩りを添える孔雀の調達などと、やることは山ほどあるのに、家の裏から死体が見つかったせいで、ミステリ好きの父にひっぱられて犯人捜しをするはめに……スーパーウーマン、メグと変人揃いの親戚一同の活躍、謎解き、ユーモア、ロマンスが融合したアガサ賞、アンソニー賞、マリス・ドメスティック・コンテスト受賞作。
                    裏表紙あらすじより



『このミス』では、コージー系バカミスに選ばれていたと思いますが、ミステリが苦手なひとにはお勧めの作品ではないでしょうか。読みやすくテンポも良く、話が込み入っていないしミステリぽくないし。三組の結婚式の準備をしなければいけない主人公メグが、わがままな注文ばかりする花嫁たちに、たいしてキレもせず、愚痴をこぼしながらも粛々とスケジュールを進めていく姿はちょっと出来過ぎな気もしますけれど、主人公に好印象を持ちやすくなる設定ですね。登場人物のなかでは、主人公の父親のドクター・ラングスローと甥のエリックがキャラクターとしては特にユニークでした。

ただし、長いわりに薄味な感じがするのでミステリ好きには物足りないかもしれません。ソフィ大おばさんの遺骨の扱いや、主人公の父親が細工された車で死にそうになる場面、さらに草刈機に追いかけられて死人がでる場面など、いわゆる「死」というものには対してはスラップスティックなノリなので、より一層軽い感じがします。とにかく、良くも悪くも余韻を残さないエンターテイメント・ミステリでした。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「シャーロック・ホームズ鑑賞学入門」木村申二 丸善ライブラリー

2006-05-26

Tag :

☆☆

ご存知、シャーロック・ホームズの事件簿は、相棒ワトスン博士によって綴られたものであるが、これを読み解いてゆくと、そこには語られていない謎や真実の数々がかくされているのではないだろうか。この謎や矛盾をじっくりと分析、検討し、従来とはちょっと違った「ホームズもの」の鑑賞法を提供しよう。ただし、目くじらを立て、肩をいからせずに、気軽に読んでいただきたい。  内容紹介より     



シャーロキアン(あるいは、ホームジアン)の著者が、「ノーウッドの建築師」、『バスカヴィル家の犬』、「株式仲買店員」の三作品(彼らは正典または聖典と呼ぶ)を俎上にのせて語っています。なんだか付いて行けません。なんといっても、濡れ衣を着せられたり、奸計に陥った登場人物の犯人への対応を疑問視、問題視し、著者がその人物になったつもりで(?!)、その登場人物が「もっとしっかりしていれば、したであろう」(P150)応答、やりとりを仮想(妄想?)で繰り広げているところは唖然。そうしていたら、そもそも事件は起こっていないんじゃないのか?
まあ、ホームズ・シリーズは現実に起きた事件をワトスン博士(ドイルの創作ではなく)が記録したものである、というシャーロキアンの言い分は分かりますが、なにもそこまでしなくても…。

それで、わたしも著者にならって、本書を分析し、検討してみました。
「敬愛するホームズの採点など、おこがましい」(P75)と言いながら、別の章では「本事件のホームズの推理は甘く採点しても八十点ぐらい」(P181)と、しっかり採点しているじゃないですか。
土曜の午後の閑散としたビジネス街では怪しい素振りをすると人目につくのに、なぜ平日の夕方ではなく土曜日に実行する犯罪計画を立てたのか、と疑問を呈していますが、その前の項で「土曜日の犯行だと、うまく行けば月曜日まで、犯罪が発覚しない」(P147)と他の事件を引き合いに出して説明しているではないですか。

取りあげられている三作品を読んでから、この本を手に取ればとても楽しめる内容だと思います。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ミス・メルヴィルの復讐」イーヴリン・スミス ハヤカワ文庫

2006-05-24

☆☆

愛する父を殺した憎い仇がアメリカにやってくる。しかも相手は悪虐無道で知られる中米某国の独裁者。もちろんミス・メルヴィルが許すはずがない。彼女はさっそく復讐の計画を練りはじめた。しかし自宅の天井は水漏れするわ、義弟の妻は怪しげな新興宗教に凝るわで、私生活はトラブル続き……
お嬢さま育ちの元殺し屋が再び銃を手に悪を撃つ。
                  裏表紙あらすじより



ミス・メルヴィル・シリーズの三作目。
またメルヴィルかよ、となめていたら少しビックリしましたよ。ただし、トリックのみです。
外交官特権を笠に着て悪いことをする大使館職員をボランティア(いわゆる、私刑です)で暗殺しまくるミス・メルヴィル。

訳者あとがきで触れられているように、殺し屋稼業を辞めてしまった前作 の評判が悪かったので設定を若干元に戻したのでしょうね。それにしても、これだけ浅薄で深みに欠ける主人公は初めてです。家系を鼻にかけるわりには、旅行中の恋人の行状を怪しみ、それならわたしもと行きがかりみたいな浮気をするし、プライドが高い割に寛容の精神が欠けていて人種偏見がいっぱい、打算的な上に自分勝手な主人公の性格がどうも好きになれません。どこら辺が育ちの良さなのでしょうか?なんらストーリーに現れていないのですが…。

きっと作者はアメリカ・ライフル協会所属の超保守主義者で、キューバのカストロ将軍が憎くてたまらないのだろうな、と思いました。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「のぞき屋のトマス」ロバート・リーヴズ H・P・B

2006-05-19

Tag :

☆☆☆

二日酔いのところを電話で叩き起こされたトマス・セロン教授は、まだ夢ではないかと疑っていた。著名なフェミニストであるエマ・ピアス教授から、ボストンの歓楽街でポルノ映画を見ようと誘われるとは!
だが、待ちあわせ場所のポルノ書店のまえにいってみると、エマは反ポルノ女性同盟のメンバーたちとピケをはっているところだった。トマスはいきなり店内に連れこまれ、エマから『固さがぴったり』なる題名のポルノ・ビデオを渡された。これには、いま議論の的となっている反ポルノ法案を正式な法律にするだけの力が秘められているという。だが、くわしい説明を聞く間もあらばこそ、店内で爆弾が爆発した!九死に一生を得たトマスは、ビデオに隠された謎を追って、まんざら嫌いでもないポルノの世界の裏側へと潜入するが……。               裏表紙あらすじより



『疑り屋のトマス』に続く第二作目。一作目を読んでいたら、前作に続いて登場する人物の背景や主人公との関わりが分かって面白かっただろうなと思いました。ジャンルは軽ハードボイルドで、主人公トマスは、パーネル・ホールのヘイスティングスを離婚させてインテリにしたみたいなキャラクターです。終始、主人公を駄目っぽく描いているところは評価したいです(偉そうですみません)。しかしながら、まず、ストーリー展開が読みやすく緩い。だいたいこちらの予想通りになる。それに、なんでこんなに悠長に構えていられるんだろうと思うくらい悪役が迫力に欠ける。コージーものならちょうどいいくらいかもしれませんが、仮にもハードボイルド風なのだから蛇蝎とまではいかないまでも、もっと迫力のある嫌な奴にして欲しかった。でも、主人公が、自分が書いた小説が出版されるとなるや、節を曲げて編集者の要望どおりベッド・シーンを書き加えたり、フランス風芸術作品を撮りたがっていた映画監督志望の男が、ポルノ映画を作れと言われ嬉々として製作したではないかと黒幕が指摘する場面は辛辣でした(P255)。いささか類型的ながら“芸術”を皮肉る悪役の設定はなかなか良かったのですが、ストーリー的には中途半端な人物造形で終わってしまって残念な気がします。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ガストン・ルルーの恐怖夜話」ガストン・ルルー 創元推理文庫

2006-05-17

Tag :

☆☆☆

『黄色い部屋の謎』、『黒衣婦人の香り』などでおなじみのフランス・ミステリ界を代表する巨匠ガストン・ルルーが贈る世にも怪奇な短編集。片腕の老船長が語る奇怪な話「胸像たちの晩餐」、コルシカの復讐譚に材をとった「ビロードの首飾りの女」、結婚相手が次々と怪死を遂げる娘の物語「ノトランプ」をはじめとして、いずれ劣らずなまなましく人間心理の闇を描いて、読む者を戦慄の世界へと誘う。恐怖小説ファン必読の傑作集!                 内容紹介より




恐怖小説というより綺談系の話が八編収められた短編集です。
「金の斧」
以前、紹介したフランス・ミステリのアンソロジー『心やさしい女』 にも収録されている作品。無気味さと謎解き、そして読後に深い余韻を与える佳作だと思います。
「胸像たちの晩餐」
ミシェル船長はなぜ片腕を失くしたのか。それは隣家に越してきた旧友が遭遇した貨物船の海難事故の話から始まる。からくも、いかだで脱出した十三人は、一年に一度、旧友の家に集まって晩餐会を催していた。その席に無理矢理参加したミシェル船長が見たものとは…。
幽霊ものかと思っていたら、グロテスクな話でした。

「ビロードの首飾りの女」
首飾りをはずしたら首が落ちてしまうという噂を持つ、ギロチンにかけられながらも首飾りをつけて生きている美女の話。コルシカ島という舞台がそれらしい雰囲気を醸し出している復讐談。ノスタルジックな感じがしました。
「ヴァンサン=ヴァンサンぼうやのクリスマス 」
殺されたのに犯人はいない。クリスマスの夜、押し込み強盗に入られて殺された夫婦の矛盾した話。
「ノトランプ」
美しい娘と十二人の求婚者。一番から十二番までプロポーズの順番を振られた彼らは彼女と結婚すると次々に死んでしまう。四番目の男は自分の番になった時、五番目の男に順番を譲ったが。設定が秀逸。

「恐怖の館」
新婚旅行でスイスに行った夫婦が、悪天候のため宿泊するはめになった辺鄙な宿屋は、以前、旅人を殺し金品を奪っていた事件で有名になった館で、客寄せのために当時の状況を再現していた。この話は現実にありそうで怖いです。
「火の文字」
金持になるため悪魔と契約を結んだ落ちぶれたばくち打ちの話。もうひとつな感じ。
「蝋人形館」
決して恐がりではないという若者が、ひと晩を蝋人形館で過ごすという賭けを友人と交わした結末。展開が読めて、まあ、ありきたりか。

超自然現象と読者に思わせながら実は結構論理的で人間臭い結末の話が多いです。そこはスリラー作家ではなく、あくまでもミステリ作家ルルーの面目躍如といったところでしょうか。わたしのような恐がりでも平気なノスタルジックの香りがする短編集です。

テーマ : ファンタジー・ホラー
ジャンル : 本・雑誌

「骨と沈黙」レジナルド・ヒル H・P・B

2006-05-13

☆☆☆

酔って帰宅したダルジール警視は、裏手の家の寝室で展開される光景に思わず目をこらした。灯がともり、カーテンがひらかれたかと思うと、裸身の女性があらわれたのである。
だが、つぎの瞬間、女性のわきには銃を手にした男が立ち、夜のしじまに銃声が轟いた!
女の死体をまえにたたずむ男は、現場に駆けつけたダルジール警視にむかって、妻の自殺を止めようとして銃が暴発したのだと主張した。しかし、目撃者のダルジール警視は、こいつは殺人だと自信満々だった。はたして、どちらの主張が正しいのか?一方パスコー警部は、つぎつぎと警察に送られてくる自殺をほのめかす手紙の差出人をつきとめるよう、ダルジール警視に命じられていた。内容からして、謎の差出人は今度の事件に関わりのある女性と推察されたが……。        

裏表紙あらすじより



レジナルド・ヒルを初めて読みました。シリーズのなかでも傑作の誉れが高い作品だそうで、通は“ほねちん”(注1)と略して言っているらしいです。読んだ感想は、期待し過ぎたのかもしれませんが、それ程のものでもないという感じ。作品の雰囲気は、なんとなくレンデルのウェクスフォード警部シリーズを想わせ、口が悪くて剛胆な性格はリューインのパウダー警部補を感じさせます。しかし、毒舌、下品さではすでにウィングフィールドのフロスト警部による洗礼を受け、レンデルにさんざん捻られ、レンデルズ・ツイスト ・シンドローム(注2)に陥ったわたしのような読者にはちょっと物足りなかった。

特に、始めから犯人の見当が付いており、ダルジール警視と容疑者との腹の探り合いを中心に話が進むのでやや冗長なストーリー展開に感じたりもします。サイドストーリーとして絡ませている自殺予告の手紙の差出人を見つけ出す話も意味ありげなわりには、それほど本筋にとって効果的でないのでは…。

トリックはなかなかのものだと思うのですが、どうも主人公に共感を覚えませんでした。
つまり、ダルジール警視が中世の宗教劇で神の役をやったように、作品の中で彼を奉る記述が主人公を尊大に、あるいは全知全能に見せてなんだかしらけてしまいました。
当然、一冊のみでダルジール警視の魅力が分かるはずもなく、シリーズものなので刊行順に読んだほうが良かったのかもしれません。


注1)たぶん。使用される場合は自己責任でお願いします。
注2)レンデル特有の何度も捻り過ぎるトリックを読み慣れた読者が裏の裏、そのまた裏の裏(さらに裏の裏)を邪推するようになることを指す専門用語。もちろん冗談ですので。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「江戸の絵を愉しむ -視覚のトリック-」榊原悟 岩波新書

2006-05-10

Tag :

☆☆☆☆

襖を閉めると飛び出す虎!江戸時代、絵画の世界はアッと驚く遊び心にあふれていた。
視覚のトリック、かたちの意外性、「大きさ」の効果。絵師たちの好奇心と想像力が生みだした、思いもよらない仕掛けを凝らした作品を浮世絵・戯作絵本から絵巻・掛軸・襖絵にいたるまで紹介し、新しい絵画の愉しみかたを伝える。図版多数。
                    カバー内容紹介より



第一章の「生活のなかの遊び-動く図面」が特に興味深いです。
「披見」の意味「ひらいて見る」から、「ひらく」という言葉をキーワードに、絵巻、襖絵、掛軸に描かれている絵と画家の意図を分析しています。著者が指摘するように、絵巻などの「日本の古い絵は、『見る』前に、まずは画面を『披く』必要」があり、その作業による時間的展開性や空間的展開性をそれらの絵画が持っているというわけです。

襖絵については、襖の可動性、開閉したときの視覚効果や図面構成を画家は充分意識していたのではないかと、長沢芦雪(ながさわろせつ)筆の『朝顔に蛙図襖』や『虎図』を例に引いて解説してあります。
特に『虎図』では、開けた状態(左脚と尻尾の半分しか見えない)と閉めた状態(画面から虎が飛び出して来るように見える)を写真(P43)で比較してあり理解しやすいです。
また、『虎図』の裏に描いた猫の親子についての画家の意図を推察している箇所も面白いです。
従来の襖絵(障壁画)研究では、敷居の溝にはめられた襖の位置(これがはっきりしないと、どの画面が隠れるのかが分からない)に対する配慮が抜けていたそうで、たしかに
言われてみればそうなんですが、こういうところに目が向くところが専門家ですね。

第二章の「視点の遊び」では、歌川国芳の「寄せ絵」や「影絵・絵文字」などについて、
第三章の「『かたち』の遊び-猿の図像学」では、日本画の中の「猿」を、特に日本に棲息しない手長猿が取りあげられた理由などについて考察してあります。

無量寺の『虎図』は、
http://www.at-kisyu.com/homepage/kankou_2/kusimoto/muryou.htm
でご覧下さい。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「苦い林檎酒」ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2006-05-08

☆☆☆☆

アメリカ娘のアリスが英国へやってきた目的はこのわたしだった。
戦時下のリンゴ園で起こった殺人事件をめぐる裁判で、当時少年だったわたしは被告に不利な証言をした。それもあって米軍兵士が死刑となったのだが、アリスはその犯人の実の娘だったのだ。わざわざこの英国で、今は亡き父の無実を証明する気なのだった。リンゴ園の美しい娘にかかわる摩訶不思議な殺人……本格派の鬼才が贈る芳醇なヴィンテージ・ミステリ!                裏表紙あらすじより



死体入りラム酒の樽
のニュースを読んで、海外ミステリファンは真っ先にこの『苦い林檎酒』を思い浮かべたはずです。

このミステリは、おかしな味のするリンゴ酒の樽を開けてみたら、弾丸を撃ちこまれた頭蓋骨が見つかったことで事件が発覚します。おかしな味の原因は歯の詰めものによる金属汚染だったのです。弾丸はきれいに頭部を貫通していたので…。
リンゴ酒を仕込む過程で、「酵母の数をふやして発酵をさかんにする」ために、樽にマトンの脚を入れる習慣があったそうです。しかし、リンゴ酒は醸造酒ですが、ラム酒は蒸留酒なので酵母の作用は関係ありませんけどね。今回のケースは、あくまで死体防腐のためにラム酒樽詰めにしたようです。リンゴ酒の場合は酵母作用でマトンが骨だけになりますが、ラム酒漬けの死体はアルコール漬けの生物標本みたいだったのでしょう。あのネルソン提督の遺体もラム酒漬けにして本国に運ばれたそうなので。

本作品は、ドイツ空軍の空襲のために、ロンドンから田舎の農場へ疎開した少年が体験した殺人事件を、犯人とされた男の娘の求めに応じて二十一年前の出来事を回想し、事件を再検証するという話です。父親が戦死し、母親とも離ればなれになった少年の心情と疎開先の農場の美しい娘へ憧れる気持ち、優しく接してくれる米兵への慕情。そして、それらの感情が事件解明に及ぼした理由など。まさしく苦くて切ない物語です。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「血のついたエッグ・コージイ」ジェームズ・アンダースン 文春文庫

2006-05-06

Tag :

☆☆☆☆

時は1930年、伯爵家の田舎屋敷の週末パーティに集った11人の客はガン・マニアのテキサスの富豪、某大公国の特使、英海軍の少佐らのきらびやかな顔ぶれ。雷雨の夜、そこで殺人が起きる。互いに素姓の知れぬ客たちにはアリバイがなく、全員が犯人くさい……
トリックの冴え、道具立ての妙、推理小説黄金期作品の興趣満点の傑作。
                  裏表紙あらすじより



ナチスによる侵略の危機にあるヨーロッパの小国から、英国との密約を結ぶという使命を帯びた特使が派遣される。その内容を探り出すために某国から雇われたスパイ、また、その密約に乗じて利益を挙げたいヨーロッパ随一の富豪の手先。そして、テキサスの富豪の持つダイヤの首飾りを狙う怪盗。この三人が招待客の11人の中に紛れている、というわけです。

夫婦がお互いの殺人計画を練る『殺意の団欒』(文春文庫)の作者なのですが、訳者あとがきを読むと、打って変わって本格物を書いた背景には作者なりの計算があったみたいですね。

1975年の作品でありながら、あえて時代背景を第二次世界大戦前の設定にしたり、屋敷の間取図を添えたり、秘密の通路があったりと本格物へのこだわりを示したり、国際謀略的シチュエーションの味付けをしたりと作者の工夫は認めますが、その努力に見合うだけの効果を挙げているかと言ったら……。なんだか本格物へのレクイエムに思えてしまいます。過去にさかのぼるよりは、現代の設定で正統本格ミステリを追求すべきだったのではないでしょうか。

警察の捜査が始まると話の流れが遅くなる(よくある傾向ですが)という欠点はありますが、奇怪なトリック、意外な犯人、ユニークな警部の存在など面白かったです。
しかし、突出したところがなかった。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「陸橋殺人事件」ロナルド・A ・ノックス 創元推理文庫

2006-05-04

Tag :

☆☆☆☆

ロンドンから汽車で一時間というイングランドの一寒村。そこのゴルフ場でプレイ中の
四人組は、推理談義に花を咲かせていた。みな推理小説にはうるさい一言居士ぞろい。
ところが、たまたまスライスした打球を追ううちに、鉄道の走る陸橋から落ちたと思しき顔のつぶれた男の死体を発見する。被害者は破産状態にあり、自殺、他殺、事故死の三面から警察の捜査が始まった。だが、件の四人は素人探偵よろしく独自の推理を競い合い、
この平凡に見える事件に、四人四様の結論を下していく……。“推理ファンが最後にゆきつく作品”といわれる古典的名作を、ここに初めて全き姿で紹介する。
                       あらすじより



『ボートの三人男』にちなんで例えると、本書は「ゴルフ場の四人男 但し、死体は勘定に入れません」か。
ネットでの評価は分かれていますが、わたしは面白かったです。全編を通したユーモアと
ウィットは秀逸だと思います。特に、リーヴズがピアノを弾きながら即興の歌詞で質問に答える「ピアノ伴奏つきの捜査」は笑えました。ミステリを読んでいて、こんな馬鹿馬鹿しい場面は初めてです。また、真犯人と確信した人物に通話管を使って謎解きをする顛末など、イギリス的ユーモアを味わうためだけでもこの作品を読んでみる価値があります。
(品切れかも)

主要人物の各々が推理して、主にリーヴズとカーマイクルですが、その推理がことごとく外れる展開はある程度ミステリを読んだ人には予測できます。なにがなんでもトリックを見破ってやろうとする血気盛んな読者、謎解き云々について言及する読者は作者の遊び心を今ひとつ判っていないようにも思います。つまり、全てに洒落のめした作品なのでは?と思う余裕が必要なのではないでしょうか。“推理ファンが最後にゆきつく作品”の意味は、瑣末を楽しむ余裕を持った読者のための作品という意味かもしれません。
但し、もしこの作品がホームズ的本格推理小説のパロディとして書かれたものだとしても、真相をもっと意外性にとんだものにしていれば、この作品の評価はきわめて高くなったのではないか、とも思う訳です…。ニ転三転するダミーの真相があったとしても、それ以上にサプライズがある真相がなければ読者は満足しないでしょう。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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