「アガサ・クリスティーの誘惑」芳野昌之 早川書房

2006-08-29

Tag :

☆☆☆

60歳以後の晩年の作品に小説家としての成熟を見る著者は、女史の名作30数篇をほぼ年代順に取り上げながら、処女作から事実上の最後の作品『運命の裏木戸』(1973)にいたる作家クリスティーの足取りを追っていく。超絶技巧的な推理作品としての魅力だけでなく、登場人物たちがいかにいきいきとし、しみじみと心に残る人たちであるか、著者の筆はクリスティーへの愛情にあふれている。 
                   内容紹介より抜粋



クリスティー(早川書房はクリスティーと表記する少数派)がこだわる髭と鬚の話など作品の分析です。

わたしはルパンそしてホームズ、その後クリスティー、クイーンと黄金の読書遍歴を重ねてきたわけですが、はたして十代でアガサ・クリスティーを読むことは正しいことなのか、と考えさせられましたね(まあ、そんなに深刻に考えてはいませんが、アハハハ)。作者が作品に込めた隠れたメッセージや男女間の感情の機微など、ストーリーを追うことに忙しく、犯人を推理することで頭がいっぱいの中学生に読み取れるわけがなく、それでは作品の価値をかなり読み損なっていたのではないかと思ったわけです。つまり、クリスティーの作品は、大人になって読むなり再読するなりしないと真にすべてを理解できないし、楽しめないのではなかろうかと。というわけでこの本を読んで、いつかクリスティーの全作品を読み返してみたいと思いました。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「草の根」スチュアート・ウッズ 文芸春秋

2006-08-28

☆☆☆☆

弁護士で上院議員秘書ウィル・リーは、地元デラノで起こった黒人女性殺人事件の容疑者の弁護を依頼されるのだが、上院議員が倒れ重体の報せがはいる。急遽、上院議員選挙に出馬することとなったリーは選挙運動とともに弁護活動もこなさなくてはならなくなる。一方、アトランタではアダルト書店が人種差別主義者による襲撃を受け、店員が殺害され経営者が重傷を負う事件が起きていた。

『警察署長』に登場した初代署長ウィル・ヘンリー・リーの孫のウィル・リーが主人公です。リー・サーガの一冊ですね。この人がすごく好人物。実際いるのかこんな善い奴?と普通嫌みになってしまいそうなキャラクターなのにそう感じないのは、ヤンキー(北部人)ではなく南部人の設定だからなのでしょうか。わたしの嫌いな減らず口もたたかないし、読んでいて好感を持ちました。影があったり、問題を抱えていたりする現代のミステリの主人公たちに比べて個性がないともいえますが、瑕疵のなさが一つの個性になっているのかもしれません。

物語は、黒人女性を殺害した容疑者の若者の弁護、様々な問題や事件が起きる選挙活動、人種差別主義者の殺し屋とこれを追う元刑事、この三つを柱に進んでいきます。上院議員選挙の進め方など目新しくて面白く読めました。主人公の恋人がCIA職員であるため、女性との交際を公表できず、ある疑惑が持ち上がるエピソードはおかしかったです。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「狙った獣」マーガレット・ミラー 創元推理文庫

2006-08-27

☆☆☆☆

ヘレンは恐ろしくなって、台から電話を払い落とした。
友人だというその女の声は、はじめ静かで、微笑んでいた。だが、話すほどに悪意を剥き出しにし、最後にはこちらの死をほのめかす、予言めいた台詞を履いたのだった。不安を断ち切れないヘレンは、亡父のもと相談役に助言を求めるが……。鬼才の名声を確立した名作、遂に登場!MWA最優秀長編賞に輝く衝撃のサスペンス。   裏表紙あらすじより



最近のひねってこんがらがっているサスペンスものと比べてなんとストレートでシンプルな作品なのでしょう。潔さを感じます。
1955年当時、このテーマはかなり斬新だったのではないでしょうか。その後、幾多のスリラー、サイコ・サスペンス小説が書かれているので、プロットの刺激性が薄らいでしまうのは古典の持つ宿命みたいなものだし…、犯人の心理を巧みに描いて、時間とともに色あせない魅力を持たせ、完成度が高い作品に仕上げた作者の才能と力量は素直に評価されるべきでしょう(評価されてますけどね)。ただ、細かいことをいうと、探偵役のブラックシアのヘレンに対する感情の変化は唐突な気がしました。




狙った獣 (創元推理文庫)狙った獣 (創元推理文庫)
(1994/12)
マーガレット・ミラー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「イギリス田園の小さな物語」ロザムンド・ピルチャー PHP研究所

2006-08-26

Tag :

☆☆

ロザムンド・ピルチャー名作短編集
スコットランドの素朴な風土を背景に、悩みや心の傷をのりこえて幸せを夢見る人びと。
やすらぎと感動を呼ぶ心の物語集。  帯内容紹介より



以前読んだ、長編『夏の終わりに』(青山出版社)は深みのないハーレイクイン的物語、短編集『ロザムンドおばさんの贈り物』(晶文社)の最初の1、2編はちょっと良い話的な説教小説で他の作品も全編前向き。なのでとりたてて感慨も無かったのです。

本書も『ロザムンドおばさんの贈り物』と同じような短編が9編収録されています。で、今回、出版社がPHP研究所であることに気が付いて、わたしは、世界各国に読者を持つというロザムンドおばさんの作品の本質を見抜いてしまいました。それは、彼女の作品こそPHP研究所の機関誌『PHP』に収録されている、あの市井の人々が遭遇し、その人の意識を変えるような(あくまで前向きで悪意のない)、そして、少々人生が変わっちゃうみたいなエピソード集のフィクション版だと!『PHP』の他には『読むクスリ』か『こころのチキンスープ』シリーズみたいな感じです。善くいえば善意の世界(悪人が出てこない)の話、ひねたいいかたをすれば怪しい宗教がかった(気を許すととんでもないことになるぞ的)甘ったるい話だと思います。

心がきれいだと自覚している人向きです。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「のら犬ローヴァー町を行く」マイクル・Z・リューイン 早川書房

2006-08-14

Tag :

☆☆☆☆

猫はきらいだ。家は持たない。群れることもない。女性にはやさしい。若者には時にきびしい。人間には頼らない。
そして、困っているものはぜったいに見過ごせない。
義侠心に厚く、自立して生きる犬のローヴァーが出会う、都会の片隅の、心に残る小さな出来事。 内容紹介より



人間に飼われたいとも思わないし、人間が気に入る犬だとも思っていないローヴァー。
ローヴァーが出会った犬や人間たちについてのハードボイルドタッチなエピソード集です。虐待された犬や殺された浮浪者の復讐をしたり、人間に飼われたいと思っている犬に飼い主を見つけてあげたり、若い犬に犬の人生を教えたり、交通事故に遭った犬の最期を看取ったり、発明犬やタレント犬に出会ったり、出産間近の犬の世話をしたり、他の犬の恋路を手助けしたり…などなど。クールで格好良く、ユーモアやペーソスを織りまぜながら八面六臂の活躍をするローヴァーは、ちょっとシニカルで賢い寅さんみたいな犬か?しかし、寅はネコ科だ。

猫とは会話が出来ないし、人の言葉も理解できないローヴァーは、少し融通がきかなくて価値観が固定しちゃってるところがうざいかもしれません。でも、最終章「人間管理術」で小さな雌犬から“人間を飼う”方法をレクチャーされたので、もしかしたらこれからステップアップする可能性があるのかも。しかし、すでに40年以上前に、人間をしつけるためのハウツウ本『猫語の教科書』(ポール・ギャリコ翻訳)を執筆している猫さんにはとてもかないませんね。よって、猫の勝ちだと思う猫派のわたし(意味不明)。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「フレドリック・ブラウン短編集2 復讐の女神」フレドリック・ブラウン 創元推理文庫

2006-08-09

Tag :

☆☆☆

短編の名手フレドリック・ブラウンが、「まっ白な嘘」につづいておくる第二短編集。奇抜な着想、軽妙なプロット、ウィットにあふれるおち、読者は作者の巧妙な話術の罠にはまって、自由自在に翻弄されるだろう。復讐の女神にねらわれた亭主族の運命は?二人の探偵の目前にいて、しかも彼らの目にとまらなかった姿なき殺人者の謎とは?飼い主が、つぎつぎと殺される毛むくじゃらの犬の秘密とは?全十一編を収録した傑作集
                     内容紹介より



ミステリの方の短編集です。この人は、たしか奥さんに思い付いた言葉を言ってもらって、三題噺みたいにその言葉をもとに短編を執筆したというエピソードがあったと思います(たぶん)。さすがに三十年以上経っているので懐かしい古さを感じました。「復讐の女神」、「猛犬にご注意」と「黒猫の謎」は、現代ではもうひとひねりするでしょうし、「踊るサンドイッチ」はシニカルなエンディングになったでしょう。しかし、恐喝を生業としている俳優の一世一代の台詞が印象的な「名優」には感心しました。この切り捨て方というか…、この時代、なかなかこういうエンディングは書けないのではと思うし、さすがブラウンだなあと。

殺人容疑をかけられた象の「象と道化師」のほか、名家に生まれながら生来の天才スリの話「すりの名人」はデイモン・ラニアンかリング・ラードナーの作品(どっちか忘れた)を、友人から強盗に誘われる少年とその家族の話「不良少年」はエヴァン・ハンター名義の『歩道に血を流して』を思わせるような(『歩道に…』は人情話ではありませんが)人情話だと思います。「毛むくじゃらの犬」、「生命保険と火災保険」、「姿なき殺人者」はキャラクターもの。前者は私立探偵ピーター・キッド、後の二編は保険外交員ヘンリー・スミスがいい味を出しています。特に保険勧誘に熱心なために図らずも事件に巻き込まれてしまうスミス氏の天然ぶりが笑えました。

短編にしては長めの倒叙ミステリ「踊るサンドイッチ」が最後に収録してあることで、この短編集の評価がすごく上がっていると思います。殺人罪で終身刑の判決を受けた婚約者がニューヨーク市警の刑事とともに事件を再調査する話です。かなり完成度が高く、87分署シリーズにでも登場しそうなミステリです。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「嘘、そして沈黙」デイヴィッド・マーティン 扶桑社ミステリー

2006-08-06

Tag :

☆☆

ワシントン郊外の邸宅で、実業家ジョナサン・ガエイタンが血まみれの死体で発見され、自殺と断定された。しかし、捜査にあたったキャメル刑事は、実業家の妻メアリーに秘密の匂いをかぎとった。彼女は前夜、邸宅に侵入した男の存在を隠しているのだ。その殺人狂の男フィリップは近くのモーテルに身をひそめ、次々と陰惨な殺人を引き起こし、事件は意外な展開を見せてゆく…。
「『サイコ』『羊たちの沈黙』の伝統を受け継ぎ、新時代を築く傑作!」と絶賛されるD・マーティンのサイコ・スリラー問題作。  裏表紙あらすじより



人に勧められて読みました。けれど、やっぱりサイコものは苦手です。読み慣れていないわたしには、とにかく陰惨というか凄惨というか殺人の描写がグロくて駄目です。また、子供が犯罪に巻き込まれたりする場面は生理的に受け入れがたいです。たしかにプロットの骨子はしっかりしていると思います。しかし、殺人犯フィリップの生い立ちから人格形成に至る逸話は納得できるのに、これに絡むキャメル刑事の立ち位置のずれ具合、鈍重なキャラクターぶりにはイライラさせられました。緊迫した殺人犯の章と澱んだような刑事の章、この不統合感はフィリップが三人称で、キャメルが一人称で書かれていることからくるものだと思います。後日談の後にさらにわざわざ書かれたエピローグは全く不必要で気持ちの悪いウェットな蛇足としか感じられせん。
それから、終盤明らかになるメインとなる真実がかなり前半で予想がつくことも興味が薄れる要因かもしれません。

サイコ・スリラーを読むとしたらもっとクール&ドライなタッチの作品を読みたいです。

嘘、そして沈黙 嘘、そして沈黙
デイヴィッド マーティン (1992/08)
扶桑社

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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