「ふりだしに戻る」ジャック・フィニイ 角川文庫

2006-09-30

☆☆☆

女ともだちの養父の自殺現場に残された一通の青い手紙。その謎の手紙は90年前、ニューヨークで投函されたものだった。僕、サイモン・モーリーはニューヨーク暮らしにすこしうんざりしはじめていた。そんなある昼下がり、政府の秘密プロジェクトの一員だと名のる男が、ぼくを訪ねてきた。プロジェクトの目論みは、選ばれた現代人を、「過去」のある時代に送りこむことであり、ぼくがその候補にあげられているというのだ。ぼくは青い手紙に秘められた謎を解きたくて「過去」へ旅立つ。
鬼才ジャック・フィニイが描く幻の名作。上巻裏表紙あらすじより



わたしは、短編集『ゲイルズバーグの春を愛す』は内容もですが、この邦題も好きです。
そんなフィニイの得意とするタイムトラベルものです。彼の「過去」のとらえ方はかなりユニークですね。それは、やがて遠く流れ去ってしまうものではなく、薄い皮膜が徐々に層を成していくようなものなのかもしれません。何億年前の化石でさえ、時間と自然現象という偶然の力によって現代に姿を現し、中生代が現代のすぐ隣に出現したかのように過去と現在が近接した感覚を覚えるような。フィニイのこの小説では、タイムマシンなど使わずに1882年の時を求めさえすれば(ただ、個人の能力や資質が必要ですが)、すぐそこにそれが現れ、現代と行き来できるという設定です。フィニイがあえてタイムマシンを使用せず精神・心によるタイムトラベルを選んだのは、行き過ぎた機械文明に毒されていない、まだ、人間らしさが残っている時代を描くためには、まず機械(マシン)を否定する必要があったからではないでしょうか。

前半、やや進展が遅いのですが徐々に面白くなります。挿絵、写真も豊富ですが、ニューヨークの街並をご存じの方はより楽しめそうです。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「野鳥の会、死体の怪」ドナ・アンドリューズ ハヤカワ文庫

2006-09-28

☆☆

静けさを求めてわたしが訪れたのは野鳥の島。なのに嵐で島は大荒れ、トラブルメーカーの両親までついてきて静けさは遥か彼方。おまけに見つけた死体が母の昔の男だったせいで、父に殺人容疑が!父の容疑を晴らしたいけど、島を牛耳るバードウォッチャーは人殺しより、時を同じくして起きた鳥殺しに夢中で、調査も荒れ模様。素人探偵メグと変人軍団に安息はない。大好評のユーモア・ミステリ『庭に孔雀、裏には死体』続編
              裏表紙あらすじより



凡作だと思うんですけど…。展開がだらだらしていて、盛り上がりに欠けたまま終わってしまった感じです。謎もかなり地味ですね。登場人物が多く、話を広げたわりには、掘り下げかたが甘く浅薄な印象を受けました。嵐が迫り交通が途絶した島というシチュエーションは魅力的なだけにもう少し捻るなり、さらに事件を起こすなりして欲しかったと思います。
ユニークな身内が絡んでくるのは面白いのですが、鳥つながりということでは、『庭に孔雀、…』に登場していた甥のエリックとペットのアヒルを出した方が犬のスパイクよりも良かったかも。おかしなバードウォッチャー集団もカリカチュアとしては従来通りの描き方でありふれていて、あまり笑えませんでした。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「罪深き誘惑のマンボ」ジョー・R・ランズデール 角川文庫

2006-09-24

☆☆☆

KKKが支配するテキサス東部の街グローブタウン。この街で黒人の獄中自殺事件の真相を探っていた美人黒人弁護士フロリダが失踪した。「彼女も殺されちまったのか?」最悪の事態を憂いつつ、ストレートの白人ハップとゲイの黒人レナードのコンビは、警察さえも手出ししない狂気の街に乗り込む。
人種差別者の巣窟で二人が出会うのは、役立たずの警察署長、サディスティックな街の名士に、リンチ好きな街の住人たち。記録的な豪雨と雷鳴の中で二人が目にした事件の真相とは…… ダーク・サスペンスの大家が放つ戦慄の怪作!                    
                  裏表紙あらすじより



“下品でわいせつな会話が飛び交う”話ということなので、覚悟して読んでみましたが、思っていたほどではありませんでした。もっと猥雑でスラップスティックな軽いノリの物語を想像していたんですけど、わりとまともだったので意外でした。たしかに、たくさんの放送禁止用語は出てきますが、何故かそれほど気にならないのは、やはり十年前の作品なので過激さが薄れてしまっているのでしょうか。
コンビ同士の友情話なんていらないから、強烈に弾けて欲しかったなあ。妙にまとまってて中途半端な感じがしました。コンビと言えば、この後デニス・レヘインのパトリックとアンジーのシリーズが始まってるわけで、やっぱり比べてしまいます。それから女性同士のコンビのハードボイルドというのは聞きませんね。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「警部サマービルの戦争」サラ・マイケルズ 新潮文庫

2006-09-06

Tag :

☆☆☆

IRAに家族を殺され、復讐の鬼と化した男、サマービル警部。体力はもちろん、武器の扱い、盗聴、戦略、すべてに長けた恐るべきこの〈人間兵器〉に、ある者はショト・ガンで頭を吹き飛ばされ、またある者は首をひねって殺された。ヘリからの雨のように降り注ぐ弾丸の中を逃げ回り、クルーザーを乗っ取り、サマービルは敵の黒幕へと迫っていく。スーパー・アクション・サスペンス。 裏表紙あらすじより



一番驚いたのは、作者が女性だったことです。処女作でこんな硬派な冒険小説を女性が書くなんてかなりたまげました。作品に書かれている専門的知識、つまり英国の軍隊、警察、IRAの各組織、銃、爆薬などの兵器について、普通は冒頭で教示してくれた人物への献辞が述べられているものですが、それがないのですね。割愛されているのかもしれませんが、もしかして作者はそういう知識をもとから持っていたのかもしれません。目覚まし時計や農薬や洗剤から簡単な爆弾を作る方法を知っていそうな人です。

マック・ボラン、ランボー、クリーシィの流れを汲んでいるのかいないのか、よく分かりませんが、復讐談としての目新しさはありませんでした。もうふたひねりくらい欲しいところです。
ただ、「一九八二年のある期間、北アイルランドでは南に隣接しているアイルランド共和国がらみのテロ活動が完全に停止した」、その理由は本書に書かれた事件のためと序文で作者が述べているので、事実をもとにしたフィクションなのでしょうか。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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