「長い日曜日」セバスチアン・ジャプリゾ 創元推理文庫

2006-10-31

Tag :

☆☆☆☆

第一次大戦中のある日曜日、戦場で5人のフランス兵が処刑された。婚約者を失ったマチルドは、事の真相を知ろうと調査を始める。その日何があったのか?生存者がいるという噂の真偽は?隠された真実の断片がジグソー・パズルのピースのように一つ一つ見事にはめ込まれていく。鬼才ジャプリゾが比類のない緻密な構成力で織り上げた情感溢れる傑作!アンテラリエ賞受賞作。 内容紹介より



第一次大戦時のある将軍の回顧録の一節から発想を得て、書き上げるまでに十年の歳月が費やされた作品だそうです。導入部はフランス人の名前やあだ名が錯綜している感じで混乱しました。しかし、個々の登場人物たちの書き分けはたいしたもので、最愛の婚約者を失ったヒロインのマチルドは、脚に障害があり車椅子の生活ながらも、か弱い同情を誘うような人物ではなく、したたかで一筋縄ではいかない女性として描かれていています。

とにかく、年月をかけただけあって“ジグソー・パルズのように一つ一つ見事にはめ込まれて”おり“緻密な構成力で練り上げ”られているのですが、読んでいるうちに、その見事さ緻密さに感心してしまって、どうしても作者ジャプリゾの存在を意識してしまいます。「ジャプリゾって上手いなあ」と思いながら読み進むわけです。いわゆる名人芸すぎるのですね。登場人物たちのたどった運命に読んでいて涙しますが、つねに作者の影を意識してしまうような作品になっている気がします。

しかし、読むべき一冊だと思います。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ワインは死の香り」リチャード・コンドン ハヤカワ文庫

2006-10-25

Tag :

☆☆

大量の高級ワインを盗み出せ
ギャンブルに目のない元英国海軍大佐ハンティントンは、一世一代の賭けを企てた。
この戦いに勝てば莫大な借金を返済できるばかりか、妻の愛情も取り戻せるのだ。
シンク・タンクを経営する旧友の立てた計画は大胆にして細心。選りすぐりのプロたちを
仲間に加えた一行は、警戒厳重なボルドーの酒蔵へと向かうが……。逆転また逆転、意外な展開がまきおこすサスペンスと興奮。小粋な冒険小説
                      内容紹介より



貴族の称号を兄が継いだことからコンプレックスに陥り、その代償行為として海軍の士官になり昇進するも賭博を覚える。アメリカ人の女性と結婚したけれど、お金持ちで家柄の良さに引け目を感じて賭博にのめり込み、そのため海軍を辞めるはめになり、ワイン商を営むが愛人を作り賭博で妻の大金をすってしまって離婚を言い渡され、さらに賭博でなにもかも失い強盗を計画する主人公。まったく同情できず、むかつくばかり。主要人物にたいする、もたもたしてうんざりするような背景描写が延々と続くのにも閉口。また、痛快なクライム・ストーリーなのかと思いきや、後半はシニカルな様子へ転調してしまい、なんだか違和感を覚えました。こういうずれは欧州系ではよくみられるパターンですが、作者はアメリカ人なのにどうして大衆迎合的エンタメ調で一貫しないのか?こういうのが大人の味なのかなあ…などと思ったりしますが、わたしには良さが分かりません。
なんといっても主人公が脳天気過ぎるに尽きる。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「味と香りの話」栗原堅三 岩波新書

2006-10-20

Tag :

☆☆☆☆☆

ビールはのど越しの味がうまい。香り物質には殺菌作用がある。
これらの通説に科学的根拠はあるのか。私たちが食物を食べたり、
匂いをかぐとき、何の味を味わい、どんな香りをいいと感じているのだろうか。
味物質や匂い物質から、感覚器を経て脳にいたる感知メカニズムまでを、
最新の研究成果にもとづき、話題豊かに紹介する。
                      内容紹介より



美味しいとか不味いとか、いい香りとかいやな匂いとか、日常生活のうえで自分では解りきっていると思い込んでいる身近なことが、科学的にどの程度解明されているのかが理解できる本です。ウナギの嗅覚(アミノ酸一グラムを一万トンの水に溶かした濃度に応答する)トリビア的な情報も興味深いのですが、ミラクルフルーツがなぜレモンのような酸味があるものを甘く感じさせるのかについての科学的な説明(この特性が種子散布など生物学的に有利かというとそうでもないらしい(笑))、フェロモンによるマウスのブルース効果とヒトのHLAとの関連性の研究結果の話など興味深いものばかりです。

今までに読んだ構造式が載っている化学関連入門・啓蒙書の中では一番解りやすく読みやすかった。とっても素晴らしい本です。
岩波新書編集部の方へ、この本の帯には“本みしゅらんも絶賛!!”と書いていただいても結構です(書かないだろうけど…)。でも、こういうことを言うのは権威を持っている気分になって楽しい、自己満足でも嬉しい、しかし、ちょっと虚しい。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「仮面舞踏会」ウォルター・サタスウェイト 創元推理文庫

2006-10-13

☆☆☆☆

1923年、パリ。ピンカートン探偵社のフィルはまたも怪事件の渦中に。新米探偵ジェーンも、家庭教師に扮して初仕事。パリの探偵ルドックとともに調査するうち二人が出会うのは、イギリスから来た女流ミステリ作家、パイプをくわえた敏腕警視、ヘミングウェイ、スタイン、サティにピカソ……怪しいやつが多すぎる! おまけにドイツ新政党も暗躍か? 華の都に名探偵たちが再登場。「名探偵登場」に続く、痛快ユーモア時代ミステリ !              内容紹介より



ミステリというよりも冒険色の強い探偵小説といったほうがしっくりくるような話。
暴力とドラッグとゴミで汚れた現代の街に棲む、様々なトラウマを抱えた探偵たちの話にはいささかうんざりしていたので、この探偵フィル・ボーモントの軽めの好青年ぶりと、かれが爽やかに駆け抜けて行く昼夜のパリの街並の描写がとても良かったです。また、あの覆面調査員パンプルムース氏 を思わせるルドックの食に対するこだわりやレストランとメニューの凄い知識、遠い先祖がフランス系のボーモントのフランス人指数をルドックがいちいち指摘する場面などユーモラスな箇所が多いです。ただ、後半は若き日のヘミングウェイの粗忽さぶりが笑えるくらいだったのが残念ですが。実際にこんな人だったのでしょうか。

ミステリとしては、前半、話を大きくした割に尻すぼみな感が否めません。でも、こういう「ユーモア時代ミステリ」な作品をもっと読みたいものです。

テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ハプスブルク家の女たち」江村洋 講談社現代新書

2006-10-11

Tag :

☆☆☆☆

女帝の娘たちの歩んだ人生の明暗。貴賤結婚の苦難に耐えた大公妃たち。
政治情勢にまで影響を与えた、皇帝をめぐる嫁姑の確執……。
ハプスブルク帝国の歴史を彩る皇妃・皇女の群像。
                   内容紹介より



ハプスブルク家にも、ボルジア家のような毒婦がいて、奸計を巡らしたり血なまぐさい歴史があるのかと考えていましたが、かなりまともなのですね。

ハプスブルク家に生まれたお姫様たちは、領土拡張や同盟関係を強めるために他国の王家へ嫁ぎ(実際に一度も会ったことがない相手のこともある)、万一、世継ぎが生まれないまま結婚相手の王子様が亡くなった場合には実家へ帰り、また別の王家へ嫁がされることもあったとか。反対に、他家からハプスブルク家に嫁いできたお姫様たちも、王子を生むために女王蟻や女王蜂のような出産マシーンとしての役割を第一に求められたわけで、母子共に死亡率の高い時代だから大変だったでしょうね。

なかには、好きな人と引き離されて別の男性と結婚させられたせいで逆切れしてしまい、国政を好き勝手、したい放題にやりすぎて、あの女帝マリア・テレジアに勘当されたお姫様もいたそうで笑えます。

他に、第一次世界大戦の発端ともなったサラエボでのオーストリア皇太子夫妻暗殺事件の遠因が、貴賤結婚にあったことなど勉強になりました。

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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