「蠅」ジョルジュ・ランジュラン ハヤカワ文庫

2007-07-28

Tag : 短編集

☆☆☆☆

科学者の死体は、巨大なスチーム・ハンマーの下に横たわっていた。その頭と右腕は鉄槌の下で完全に粉砕され、原形すらとどめていない……優秀な科学者を突然襲った不可解きわまりない死。はたして彼に何が起きたのか ― やがて科学者の妻の手記が明らかにした想像を絶する真相とは?自らの画期的発明により破滅してゆく科学者の悲劇を描き“20世紀に書かれたもっとも戦慄すべき物語”と評された傑作「蝿」を始め、「考えるロボット」「奇蹟」など悪夢のような物語10篇を収録。異色作家ランジュランの魅力を余すところなく味わえる珠玉短篇集。 内容紹介より



作者が幼い頃から英仏両国を行き来し、教育を受けていたという生い立ちからなのか、作風にユーモアとエスプリが混ざったシニカルなというか奇妙な笑いを感じました。おどろおどろしさが殆どないですね。訳者あとがきで引用されている作者自身が書いた略歴を読んだ印象では、この人はユーモア小説を書いたら面白い作品を書いたのではないかと思った次第です。以下ネタばれしてますので、続きに書きます。


蝿
ジョルジュ ランジュラン (1986/12)
早川書房

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「降霊会の怪事件」ピーター・ラヴゼイ ハヤカワ文庫

2007-07-24

☆☆

19世紀末ロンドン。上流家庭を狙った連続盗難事件を追うクリッブ部長刑事は、ひょんなことから人気霊媒師の降霊会に立ち会うことに。霊の存在などまるで信じないクリッブだったが、不気味な物音や闇を飛ぶ青白い手などの怪現象に驚愕する。騒然とする中、さらに霊媒師が不可解な感電死を遂げた!クリッブと部下のサッカレイ巡査は怪異現象に隠された巧緻な罠に挑むが……名匠が放つ本格ミステリ。 内容紹介より



クリップ&サッカレイ・シリーズ。
クリップ部長刑事とサッカレイ巡査のコンビのやり取りは笑えます。
登場人物たちの多くが秘密を抱え込んでいて、それが降霊会に関連して徐々に明らかにされる設定は面白いのですが、それぞれのキャラクターの個性が物足りません。ラブゼイの手慣れたテクニックだけが目立つような感じでした。こういう作品の後に書かれた傑作『偽のデュー警部』でラヴゼイが“化けた”と言われる意味が良く分かるような気がします。

ところで、『マダム・タッソーがお待ちかね』もこのシリーズの一作品なのですが、あのものすごく暗くて重い雰囲気と比べて明るくて、結構軽めの本書が同じシリーズだということに多少驚きました。それは森英俊さんの解説によると、同じ探偵を用いることで「物語がステロタイプ化」しないように、作者が意図的にスタイルを変えたからだそうです。

降霊会の怪事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)降霊会の怪事件 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2002/06)
ピーター ラヴゼイ

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「ボトムズ」ジョー・R・ランズデール ハヤカワ文庫

2007-07-18

☆☆☆☆

80歳を過ぎた今、70年前の夏の出来事を思い出す―11歳のぼくは暗い森に迷い込んだ。そこで出会ったのは伝説の怪物“ゴート・マン”。必死に逃げて河岸に辿りついたけれど、そこにも悪夢の光景が。体じゅうを切り裂かれた、黒人女性の全裸死体が木にぶらさがっていたんだ。ぼくは親には黙って殺人鬼の正体を調べようとするけど…恐怖と立ち向かう少年の日々を描き出す、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。 内容紹介より



〈ハップとレナード・シリーズ〉の作者であるランズデールにしては、おとなしくて、らしくない。優等生ぽい文章で、まるで賞穫りを狙って書かれたような印象を受けました。

マーク・トウェインの流れを汲むアメリカ中西部から南部を舞台にした物語であり、そのカテゴリーに入る作品は、必然的にこのようなトーンになってしまうのかもしれませんが、それでもランズデールらしく何か工夫を見せて欲しかった。そして、なんといってもマキャモンの『少年時代』という大傑作がすでに存在しているため、本書が二番煎じの印象を免れないようにも思えます。例えば、主人公の父親の精神状態の変移などは被っているし…。ランズデールにしては正攻法で行き過ぎて、小さくまとまり過ぎました。突き抜けた感じが作者の持ち味だろうに。聞き分けが良い主人公の少年をもっと悪ガキに描いていれば印象が違ったかもしれません。


ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2005/03/24)
ジョー・R・ランズデール

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「シマロン・ローズ」ジェイムズ・リー・バーク 講談社文庫

2007-07-13

Tag :

☆☆☆

元テキサスレンジャーの弁護士ビリー・ボブが依頼された少女レイプ事件。捜査を進めるうちに平和な田舎町は、どす黒い素顔を見せはじめる。名匠ジェイムズ・リー・バークが、癒せぬ傷を抱えた男の誇りと哀しみを円熟の筆致で描くネオ・ハードボイルドの最高峰!一九九八年度MWA最優秀長篇賞受賞に輝く話題作。
内容紹介より



ネオ・ハードボイルド小説には、個人的問題を抱えたり、心に傷を負った主人公が登場します。本書の主人公ビリー・ボブはテキサスレンジャー時代の相棒を敵と間違えて射殺した過去があります。従来では、そのトラウマからアルコール中毒への道という月並みなパターンになるのが一般的ですが、ビリー・ボブの場合はなんと死んだ相棒の幽霊と会話するということになっています。この人には暴力指向もあるので、ぜひ病院を受診したほうが…。

ほかに気になったのは、登場人物がダブっていることです。たとえば、幽霊になった相棒と曾祖父(日記の中に登場)は二人ともに〈過去〉を表しているし、不倫してできた息子(不倫相手の夫が育てている)と面倒を見ている隣家の男の子は〈子供への愛情〉を、サイコパス気味の犯罪者ムーンと町の有力者の息子ダールは〈悪〉を、看守と保安官は〈腐敗〉を表している。このようにストーリー上、同じような役割、意味合いを持った人物が重複しているし類型的だし、これらの人物相関図が単純すぎる気がしました。

ネオ・ハードボイルドというより、舞台を現代に移した西部劇、腐敗した町に立つローン・レンジャーの話にしか読めません。


シマロン・ローズ (講談社文庫)シマロン・ローズ (講談社文庫)
(1999/07)
ジェイムズ・リー バーク

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「キルトとお茶と殺人と」サンドラ・ダラス 文春文庫

2007-07-10

Tag :

☆☆☆☆

カンザスの田舎町ハーヴェイヴィル。不況の波は農村にも押しよせおまけに日照りつづき、しかし主婦たちはキルトの会に集まってはお茶と噂話に日をすごす。ある日現われたのはキルトより“事件”が好きという新聞記者志望の若い女性、それから何かと騒動が起こりだす―流れ者の登場、不倫と妊娠騒ぎ、そして殺人事件まで…。
内容紹介より



キルトを通して交わされる田舎の主婦たちの年齢や世代を超えた触れ合いと友情の物語であり、都会から嫁いできた新聞記者志望の新妻リタと旧態依然とした田舎暮しのキルトクラブの面々とを対比させた物語でもあります。後者は、あの都会ネズミと田舎ネズミの話を思わせました。その違いは、ハリウッド・カフェという酒場におけるリタと物語の語り手であるクィーニーの行いや暴行未遂事件が起きた後の二人の殺人事件への取り組み方に現れているように思います。

殺人事件の真相を暴いたかに見えたリタが知らされた真実は、彼女が馴染めなかった〈田舎〉からの強烈な意趣返しであり、また一方では、後に彼女がそれを理解し受け入れるための鍵にもなったような感じがします。

この物語に一貫しているテーマは女性たちの友情であって、それをこれほどほのぼのと心温まるように描いた作品は珍しいのではないでしょうか。保守的で変化のない生活の中においても他人を思いやり慈しむ心があることを作者は書きたかったのでしょうし、それは十分成功していると思いました。


キルトとお茶と殺人と (文春文庫)キルトとお茶と殺人と (文春文庫)
(1997/10)
サンドラ ダラス

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「疑惑の霧」クリスチアナ・ブランド ハヤカワ文庫

2007-07-08

☆☆☆

霧のロンドンに疑惑の渦を巻き起こしたフランス人の色男ラウールの撲殺事件。犯人はラウールの元恋人マチルダか、彼女の夫で妹ロウジーが誘惑されたと恨むエヴァンス医師か、ロウジーを愛するテッドワード医師か。事件を追うチャールズワース警部はエヴァンスに狙いを定めるが、ロウジーに助けを求められたコックリル警部の疑う相手は別にいた……推理対決を制するのはどちらの名探偵か?驚愕のラストに疾走する本格傑作。
内容紹介より



原始の栄養スープのようなブランド海を泳ぎきるのはとても疲れる。

ブランド先生の本を読むと脳みそが疲れます。くるくる変わるあいまいな視点と微妙な長さのセンテンス(訳の問題もあるかも)、それと誰もが犯人の可能性がありながら誰も犯人ではないかのようなプロットのせいかもしれません。

作品の前半部分で、望まない妊娠をしたロウジーが、祖母、義姉、兄の友人、男友達、兄の秘書に助力を求めて一人ずつ相談していく場面あります。これがそれぞれの人物像や人間関係を読者に分かりやすく説明していてうまいなと思いました。登場人物の紹介はだらだらと単調になりがちな場合が多いので。そして、この場面が人物紹介だけにとどまらず、後に重要な意味を持たせているところも見事だと思います。ラストの終わり方はブランド先生の作品にしては異色のような気がしました。ただ、中盤と後半に少々ダレる部分があって残念です。

『ハイヒールの死』


疑惑の霧 (ハヤカワ・ミステリ文庫)疑惑の霧 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2004/05/25)
クリスチアナ・ブランド

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「チャーリー退場」アレックス・アトキンスン 創元推理文庫

2007-07-03

Tag :

☆☆☆

楽屋で〈マクベス〉を引用すると凶事が起きる? そうとは知らず、新顔の女優がその台詞を口にした。そして、幕が下りるや、主演男優チャーリーが毒殺された! だが、主役が死んでも舞台は続けなければならない。ファーニス主任警部は次の開幕までに犯人を挙げることができるのか? 舞台監督や演出家、俳優たちを相手に、警部の綿密な捜査は続く。幻の本格ミステリ、新訳決定版。 内容紹介より



こじんまりしたバランスの良い作品。
刑事二人に匹敵するほどの登場人物がいないことが、あるいは、舞台モノのミステリに付きもののエキセントリックな人物がいないことが、この作品を地味に感じさせる要因でしょうか。トリックのアイデアは優れているのに、それが明らかになったときの反応が盛り上がらないというか淡々と進み過ぎか。そのためにストーリーが起伏に乏しく平板な印象を与えるのかもしれません。舞台での殺人ものは、舞台上で人を殺す必然性やメリットに乏しい作品が多い中、これはうまく考えていると思います。わたしは犯人が最後まで分かりませんでしたが、動機は早くから見当がつきました。もっと、ミスリードする記述があったほうが面白かったのではないでしょうか。


舞台・演劇ミステリ関連記事
『ママは眠りを殺す』
『『そして誰もいなくなった』殺人事件』


チャーリー退場 (創元推理文庫)チャーリー退場 (創元推理文庫)
(2004/04/09)
アレックス・アトキンスン

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