「拳銃猿」ヴィクター・ギシュラー ハヤカワ文庫

2007-10-29

Tag :

☆☆☆☆

犯罪集団“猿の檻”最強の銃の名手チャーリー。彼はギャングのベガーに頼まれ、消えた裏帳簿を取り戻す仕事を受ける。見事に帳簿は奪還するがその直後、FBIと警察がチャーリーを追ってきた。さらに“猿の檻”のボスがベガーに拉致され、仲間が次々と暗殺されてしまう。組織をこけにする奴は許さない!義理と人情の殺し屋チャーリーは、超悪徳男ベガー抹殺を決意!脳髄を快感で満たすガン・アクション・ミステリ! 内容紹介より



昔気質(新しい環境に適応できないとも言う)のガンマンが老ボスに忠誠を尽くして新しい勢力に対抗する話。でも、日本のヤクザ映画みたいな義理人情が全面に出る重くて暗くてジメジメした展開にはなっていません。結局、主人公は身の振り方を自分で決められないのでボスを探し回ってる感じで、マーシーという惚れた女が新たなボス代わりの存在となると、結構、合理的、現実的に方向転換してしまいます。30人以上殺されて、その内の26人は主人公が殺しているにもかかわらず、作品に殺伐さや残酷さがあまり感じられないのは、ドライな雰囲気と、憎めないキャラクターがユーモラスさを醸し出しているからではないでしょうか。

余談ですが、マーシーもアンバーも描写が代わり映えしない所を見ると、どうもこの作者は女性を描くのがあまり得意ではないのかと、何か甘くて画一的だと思いました。

とにかく、このドンパチ小説を読んでカタルシスを感じましょう。


拳銃猿 (ハヤカワ・ミステリ文庫)拳銃猿 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2003/02)
ヴィクター ギシュラー

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テーマ : ハードボイルド
ジャンル : 本・雑誌

「ブルー・ドレスの女」ウォルター・モズリイ ハヤカワ文庫

2007-10-23

☆☆☆☆

1948年、ロサンゼルス。失業中の黒人労働者イージーは、家のローンを返済するため、美貌の白人女性ダフネを捜しだす仕事を引き受けた。調査を始めたイージーは、ダフネが出入りしていたもぐり酒場を訪れ、彼女の知人の黒人女性を見つけ出した。が、数日後、その女性が殺され、事件は思わぬ方向へ―アメリカ私立探偵作家クラブ賞、英国推理作家協会賞新人賞を受賞し、ミステリ界に旋風を巻き起こした衝撃のデビュー作!内容紹介より



殺人事件の容疑者として不当逮捕され過酷な取り調べを受けた後、ようやく解放された主人公イージーは、酒場へ向かう途中、自分にこう言い聞かせる、「ほんとうは走りたかった。(中略)急ぐんじゃないぞ、と絶えず自分に言い聞かせねばならなかった。夜遅く黒人がむやみに駆けていて、パトロールカーに出くわそうものなら、たちまち逮捕されるのがわかっていたからだ」。白人から黒人への明文化されない暗黙の規制や決めごとを差別される側は絶えず気にしていなければならないなんて…。なんというか、デモクラシーの内にある全体主義みたいなものを感じて息苦しくなりました。

上記のような関係のほかにも、明と暗の対比が描かれています。戦場で戦った経験があり、からんできた白人のグループを殺せるほどの体力と技術を持ちながら、それを使わない暴力嫌いの面があるイージー。彼は身体はタフだが性格は小市民的で堅実、精神面に未熟さを感じさせるところもある。一方、彼の旧友のマウスは、金のためなら平気で人を殺せる。イージーがアマチュアならマウスはプロフェッショナルです。主人公の職業を私立探偵ではなくて機械工にしたのも作者のそういう意図があったからかもしれません。

以下、少しネタばれ気味なので続きに書きます。

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「閉ざされた記憶」ファーン・マイケルズ 二見文庫

2007-10-20

☆☆

キャディは20年ぶりに故郷インディゴ・バレーに帰ってきた。そこは10歳の彼女が、部分的記憶喪失と以後3年間の療養生活を過ごすことになる事故に遭った場所でもある。その町には元映画スターの祖母が友人たちと大邸宅でくらしていた。幼なじみはそれぞれに立派な社会人として安定した暮らしを送っていた。キャディは祖母たちにそそのかされて幼なじみとデートをしたりしながら事故の真相を突き止め、空白の記憶を取り戻そうとする。傑作ロマンス小説!内容紹介より



ミステリーではなく、大衆小説ですね。
プロローグの箇所をまるごと最終章に移動すれば、ミステリーぽくなったかもしれません。主人公が取り戻そうとする空白の記憶そのものが、プロローグにおいてほとんどすべて読者に提示され明らかにされているので、もし、これから読まれる方がいらっしゃるならば、プロローグを飛ばして読むことをお勧めします。ここを読んでしまうと以後の展開がスリリングでもサスペンスフルでもなくなってしまいます。

キャディの幼なじみのエイミーに比べて主人公であるキャディの人物造形が浅くて魅力がない(エイミー姉弟とその両親の関係に較べてキャディと彼女の両親との関係がほとんど具体的に描かれていない)のと、彼女の祖母を含む三人の老人たちがあまりにも旧態依然の描き方で甘ったるくて温すぎます。まあ、彼女たちが金に飽かせてキャディを甘やかし、孫娘もなんの抵抗もなくそれを受け入れる様子が、この本の微笑ましくも面白い読みどころではありますが…。

それから、いきなり最後に明らかになる真実は取って付けたようで、それに関係している二人の登場人物の心の葛藤とかはいったいどうなっているんだと突っ込みたいくらいあっけない流れです。

同じ作者の作品『シスターフッド』


閉ざされた記憶 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)閉ざされた記憶 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
(2004/01)
ファン・マイケルズFern Michaels

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「果てしなき日々」マーク・スプラッグ 新潮文庫

2007-10-16

Tag :

☆☆☆☆☆

ジーンは同棲相手ロイの暴力に耐えかね、ひとり娘のグリフを連れて義父アイナーの牧場に身を寄せる。息子が死んだ事故の当事者であるジーンを、彼は未だに許していない。そのアイナーも、熊に襲われたかつての戦友ミッチに責任を感じ、面倒を見ている。そして、グリフがミッチになつき始めた頃、ジーンを追ってロイが牧場にやって来た……。大自然を背景に“許し”を問う涙の力作。 内容紹介より




過ぎ去った「死」と来るべき「死」に絡めとられた人たちとその狭間に落ちた少女の物語です。かなり「死」というテーマが色濃く現れています。ジーンにとっては夫で、アイナーにとっては一人息子であったグリフィンの死を巡って反目しあう二人の関係。熊に襲われて重大な後遺症を負ったミッチ。夫の死への自責から自堕落な男関係を続ける母親の犠牲になっているグリフ。母親の嫌いなところを箇条書きにする9歳の彼女は、他人の顔色を伺い大人びた醒めた態度をとるようになってしまっている。

偏屈な祖父と孫娘というシチュエーション(この状況を少女パレアナ(叔母と姪だが)あるいはハイジ・シチュエーションと呼ぶ)はありきたりなのですが、ウェットではなく少しも甘過ぎないストーリー展開とドライな語り口はすごく良い感じがしました。
なんといっても、「死」の象徴でありながら肉体的には老いさらばえ捕らえられた熊(グリズリー)の存在がかなり重要な役割を果たしているし、その灰色熊に関わる三人の冒険談は秀逸です。

最近、不治の病とその死をテーマにして、大量の浸透圧の低い涙と鼻水を流させようと意図する小説や映画が流行りですが、本書の場合、流す涙は数滴ながらも砂漠に落ちたしずくのように深い感動を与える再生(手あかの付いた表現ですが)の物語だと思いました。



果てしなき日々 (新潮文庫)果てしなき日々 (新潮文庫)
(2005/03)
マーク スプラッグ

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「マンハッタン狩猟クラブ」ジョン・ソール 文春文庫

2007-10-11

Tag :

☆☆☆

無実の罪で投獄直前、拉致された青年ジェフ。解放されたのは広大なニューヨーク地下鉄構内だった。異常殺人犯とコンビを組まされたジェフに“ゲーム”の開始が告げられた―闇に閉ざされた迷路を駆ける彼らを完全武装の男たちが追う。冷酷な狩人たちの正体は?そしてジェフはこの絶望的な死地から脱出することができるのか? 内容紹介より



2006年3月にブルックリン橋(ニューヨーク市)の土台の中に、冷戦時代にソ連の核攻撃を措定し、医薬品や非常食を保存していた地下シェルターが見つかったニュースや今年の8月には、「NYの地下施設から薬品漬けの胎児・小動物の胚発見」 のニュースがありました。

本書は地下世界そのものがもう一つの主人公にならなければ面白くないのに、そこらあたりの描写やエピソードが今ひとつで物足りませんでした。逃走中に、たとえば上記のような施設を発見するとか、ツキヨタケのような発光するキノコの群生や色素の抜けたゲジゲジの大群に遭遇するとか、地下世界の無気味さと謎を描いて欲しかったなあと思った次第です。

また、地上に脱出する瞬間が物語のクライマックスになるはずなのに、意外とあっさり地上に出られそうだったりするし、肝心のマンハントの場面は短くてあっけなかったりして、狩られる者と狩る者との虚々実々な駆け引きもなくて期待外れでした。カットバックの多用は読みやすいけれど、ストーリーの盛り上がりをぶつ切りにしている感じでマイナスに働いていると思います。

狩猟クラブの部屋に獲物(人間)の剥製が飾ってある場面は、ギャグみたいでちょっとやり過ぎじゃないでしょうか。けなしてばかりですが、楽しめるエンターテインメント小説です。


マンハッタン狩猟クラブ (文春文庫)マンハッタン狩猟クラブ (文春文庫)
(2004/03/12)
ジョン・ソール

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「泣きたい気分」アンナ・ガヴァルダ 新潮文庫

2007-10-08

Tag :

☆☆☆

出会ったばかりのカップル、倦怠期の中年夫婦、退廃的に生きるロック歌手、学生時代の恋を引きずる男、思わぬ躓きに悩む営業マン……。現代のパリに暮らす様々な男と女。彼らの人生の断片を、軽妙なタッチで描く。カフェで、地下鉄で、そして一人ぼっちの部屋で、きっと誰もが思い当たるあの感情がこぼれる瞬間。せつなさと温かさがじわりと身に沁みる、12のショート・ストーリー。 内容紹介より



本書の最初の二作品を読んだ印象では、“日常よくある状況と苦い結末”を軽めに扱った短篇集なのだろうなあと思い込んでいましたが、読み進めるとなかなか簡単に括れない作品集だと思いました。たとえば、「サン=ジェルマン作法」、「オペル・タッチ」にはサガンの作品が持つ《パリ的雰囲気》の表層的なパロディを、「I・I・G」、「ジュニア」にはモーパッサン風フランスの伝統的な笑いを、「その男と女」、「今日の出来事」、「幾年ものあいだ」にミニマリズムの影響を、「アンプル」、「カットグート」にハードボイルドなタッチを感じるといった具合です。

このように、作品ごとにかなり多面的なアプローチをしているのが作者の魅力ではないでしょうか。何はともあれ、わたしが思うフランス小説の中の“パリ=サガン”に内包する小洒落たイメージを払拭できました。


泣きたい気分 (新潮文庫)泣きたい気分 (新潮文庫)
(2005/03)
アンナ ガヴァルダ

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「このペン貸します ジェイン・オースティンの事件簿」ローラ・レバイン 集英社文庫

2007-10-03

Tag :

☆☆☆

ビバリーヒルズに住むジェイン・オースティンは36歳のフリーライター。離婚したばかりで、年中腹ペコな猫のプロザックと暮らしている。もてない男のラブレターを代筆したばかりに殺人事件に巻き込まれた。逮捕された彼の無実を信じる彼女は、本業そっちのけで真犯人探しを始める。スリルたっぷりの事件捜査、ロマンスも成就するかに見えたのだが…。ユーモア・ミステリーの傑作登場!! 内容紹介より



イヴァノヴィッチのステファニー・プラムに似た感じの主人公は結構ユニークで魅力的ですが、残念ながらストーリー、ミステリとも平凡。コピーライター兼代筆屋みたいなフリーライターの職業は持って行きようによっては面白い設定になると思うけれど、養護老人ホームでの回想録教室のボランティア活動くらいでエピソードが不足している。ユーモア・ミステリはもっとサブストーリーを付け加えないと話が広がらないでしょう。容疑者たちも類型的だし、主人公の魅力だけでは盛り上がりに欠けます。嫌みがなく妙な癖もない自然体の主人公は良い味出しているだけに残念。でも、シリーズ化されているようなのので今後の展開が楽しみです。ただし、邦訳されればですけど。


このペン貸します―ジェイン・オースティンの事件簿 (集英社文庫)このペン貸します―ジェイン・オースティンの事件簿 (集英社文庫)
(2005/02)
ローラ・レバイン石塚 あおい

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テーマ : 海外ミステリ
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