「他言は無用」リチャード・ハル 創元推理文庫

2008-02-29

Tag :

☆☆☆☆

英国紳士の社交場―クラブ。憩いを求めて三々五々、会員たちは足を運ぶ。名探偵気取りの弁護士、すべての人の望みをかなえようとして、すべての望みをかなえられない幹事殿、苦情に生きがいを見いだす問題児、わが道をゆくシニカルな開業医……彩豊かな配役が右往左往するなか、動きだした物語はどこへ転がってゆくのか?『伯母殺人事件』の技巧派が贈る、趣向三昧の第二長編。 内容紹介より



いかにも英国らしい舞台設定でありながら、登場人物の多く、特に嫌みな性格を持つ人々は日本でもしばしば見受けられますね。わたしも、IQもプライドも高いお山の大将気質の、ある職業人の総会や理事会に係わったことがあって、その時の思い出したくない体験が脳裏に浮かんできました。細かく会則や定款をあげつらうカードネルみたいな人いますよね。また、この事件においてある意味元凶と言っても良いような優柔不断な幹事のフォードなど、作者は俗物そんな人物を皮肉の効いた諧謔味で描写するのが上手です。

プロットも秀逸で、読者が考えそうな容疑者らしき人物の可能性を一度否定した後、実は……の舞台転換がとても効果的で作者の技量を感じます。本の盗難とカードネルの迷推理が引き起こす迷走ぶりはとても面白いです。一体誰が一番注意深く思慮深かったか?というと一介のあの彼であったのが、いかにも英国的な帰結を思わせました。


他言は無用 (創元推理文庫)他言は無用 (創元推理文庫)
(2000/11)
リチャード ハル

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「内なる殺人者」ジム・トンプスン 河出文庫

2008-02-27

Tag :

☆☆☆☆

銃も棍棒もなしで、丸腰のまま保安官補をつとめる、一見物静かな男ルー・フォード。ウェスト・テキサスの小さな田舎町を牛耳る建設業者コンウェイを義兄の仇とねらう彼は、売春婦を利用し復讐をとげるが、そのために殺人をくり返すこととなり、心に巣食った病的な暴力癖をあらわにしていく……。たしかな人間観察眼によって描かれる「現実味のある異常者」の物語。 “安物雑貨店のドストエフスキー”と称され、再評価の声の高いジム・トンプスンの幻の代表作、ついに登場!内容紹介より



ジム・トンプスンの作品は『ポップ1280』以来これで二作目なのですが、癖になりそうです。全般的にノワール系の作品はあまり好みではないけれど、たとえばゾンビを殺戮する映画を観て爽快感を覚えるような(なんかちょっと例えが違うけれど)、そんな印象を持ってしまいます。ここには、同じように殺人を重ねていくD・E・ウェストレイクの『斧』みたいな人体の肉の厚みとか体温とか骨のきしむ感触はほとんどない。同じ狂気が存在することには違いないけれど、『斧』の切羽詰まった動機が駆り立てる殺人に比べて、本書の殺人は、まるで主人公にとって朝食にハムエッグを食べているみたいなものです。そこには逡巡も悔恨もありません。『斧』はわたしにとっていつか見るかもしれない、うなされそうなおぞましい悪夢ですが、『内なる殺人者』はあくまでもブラウン管を通してみるような楽しめる狂気(語弊がありますが)のひとつでしかない。だから、『斧』のような作品はすごく敬遠したいけれど、トンプスンの作品はまた読みたくなるのでしょう。

五十年以上前に、トラウマというかPTSDみたいなものを主人公の精神状態と関連付けしたことは画期的だったのではないでしょうか。作品全体も古さを感じさせません。

扶桑社からは『おれの中の殺し屋』のタイトルで出版されています。


内なる殺人者内なる殺人者
(2001/02/06)
ジム トンプスン

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「ピアノ・ソナタ」S・J・ローザン 創元推理文庫

2008-02-24

☆☆☆☆

深夜ブロンクスの老人ホームで警備員が殴り殺された。手口から地元の不良グループの仕業と判断されたが、納得がいかない被害者のおじは探偵ビルに調査を依頼。かつて探偵の手ほどきをしてくれた老兵の頼みに、ビルは危険な潜入捜査を展開するが……? 無鉄砲で繊細な中年探偵が、相棒リディアの存在を胸に、卑しき街を行く。シェイマス賞最優秀長編賞に輝いた、爽やかな第二弾! 内容紹介より



S・J・ローザン、初読です。このシリーズは一作ごとにリディアとビルが交互に主人公になっているそうです。ハードボイルドながら、主人公の減らず口指数がかなり低いのは好印象です。きっと、大人になっても減らず口を叩くのは男性特有の幼児化現象の一つなのでしょうね。

さて、やはり印象的なのはビルがピアノを趣味としていることです。この意外性のある側面を主人公に加えたことでキャラクターに深みが出ています。ちょっとしたことなのにかなり効果的でした。内容紹介にある「卑しき街を行く」という表現がぴったりな主人公のいまどき珍しいウェットさは、作者が女性だからでしょうか。リディアへの抑えた愛情や老人、子供(猫も)など弱者への思いやり、悪への潔癖さもありながら人情味もある人物像は、女性ミステリ作家が男性を主人公にした時に、往々にして見受けられる甘さ寛容さを伴う騎士化(騎士道精神を備えた人物造形化)傾向があるような気がします。終盤はウェット過ぎる気味もありますし、ギャングの一人が撃たれた後の様子などはありきたりです。この辺をクールに決めていればさらによい作品になったと思います。


ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)
(1998/12)
S.J. ローザン

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「白雪と赤バラ」エド・マクベイン ハヤカワ文庫

2008-02-22

☆☆☆☆

わたしをここから出して、と精神病院に入院するサラはホープに訴えた。母親と医者の共謀で病院に閉じ込められているという。一方母親は、父親に愛人がいたという妄想に取りつかれた娘が手首を切って自殺を図ったというのだが、それらしい傷は見当たらない。いったいどちらの言い分が正しいのか? とまどうホープの前で、事件は悪夢のような急展開を見せ始めた! 巧みな語り口で歪められた親子関係を描くシリーズ最高作。内容紹介より



川で見つかった女性の死体について捜査する二人組の刑事の場面は87分署シリーズを思わせます。この部分が早めに登場するのでやや先の展開が読めたりします。

さて、書名『白雪と赤バラ』に関連して、本作品においては特に色、色彩についての描写が多いのではないかと感じて話を進めようかと思いました。たとえば、〈白騎士〉ホープの依頼主サラについては、小麦色、サフラン色、ベージュの靴および衣類、緑の目、金髪。ホープと付き合う女性テリーは、髪は赤、顔は白、ブルーの目、好みの服の色はグリーン。身元不明の女性の死体が着けていたのは、鮮やかな赤のワンピース。サラの父親と乗馬教師は〈黒騎士〉。他にも弁護士、精神科医などなど色彩のオンパレード。色を表す単語をその色に塗り替えたらすごくカラフルなページになることでしょう。

もともと、マクベインは登場人物の服装や目の色を詳しく描写する作家だという感じはありましたが、今回はより意識的に、こだわって「色」を多用しているのではないかと。
でも、同じ頃に書かれた87分署ものに目を通してみたらそうでもないかなと考えたりもしますが、いや、やっぱり色彩に関する単語が多い〈たぶん〉と思う。
しかし、それがどうした言われたら、ただそれだけのことですと答えざるを得ないのです。



白雪と赤バラ 白雪と赤バラ
エド マクベイン (1992/03)
早川書房

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「宇宙戦争」H・G・ウエルズ ハヤカワ文庫SF

2008-02-15

Tag : SF

☆☆☆☆☆

天空に赤く輝く神秘の星、火星。その表面で、ある夜、無数の爆発が観測された。それから6年後、イギリス各地に、夜空を切り裂いて緑色に輝く流星郡が降りそそいだ。当初、隕石と思われた謎の物体のなかから、やがて驚くべき姿の生物と巨大なマシーンが出現!人々を焼きつくし、次々に村や街を破壊してゆく。その圧倒的な力の前に、人類はなすすべもなかった……SF史上に燦然と輝く不朽の名作、待望の新訳決定版登場!内容紹介より



このエポック・メーキングな傑作を古くさいと言う人がいますが、まったく罰当たりな言い草です。そんな人はきっといつの日か火星人に血を吸われることでしょう。じょ、冗談です。古くさいというより却って新しいと感じる気持ちが以前読んだときより強くなったように思います。ようやく時代がウエルズに徐々に追い付きつつあるのではないでしょうか。

この物語が書かれて百十年、異星人と人類との遭遇、出会いというシチュエーションや道具立てのなか、その後のSF(小説、映画)で、この作品から一歩でも新しいアイデアなり主張が生まれたか?たかだか『E.T.』にすぎない(ウエルズ繋がりでハリー・ライム風)。そのスピルバーグでさえ9.11に影響されて、テロの恐怖をテーマの一つにし、「エイリアンが敵であるという本物のSF映画」*『宇宙戦争』を撮ってしまうはめに…。

藤原帰一氏の『デモクラシーの帝国』(岩波新書)で、エイリアンを絶対悪に仕立てた映画『インディペンデンス・デイ』とウエルズの『宇宙戦争』を比べて評した箇所、「『宇宙戦争』は植民地支配の寓話でもあった。宇宙人に襲われる地球という物語のなかには、非西欧世界にとって大英帝国とはこの宇宙人のような存在ではないかという、皮肉で知的な問いが隠されていた。世界を「われわれ」と「やつら」に区別するどころか、そんな区別には意味があるのか、とウェルズは疑っていたのである。そんな疑い、また「やつら」の側からは世界がどう見えるだろうか」(P63~P64参照)があって、
本書がハリウッド映画の人類讃歌一辺倒、人間の驕りと一線を画し、長く読み継がれるのはこのスタンスがあるからでしょう。

そこも決して大上段に構えて主張するのでなく、主人公が逃亡中に宇宙人の残虐行為を見て、人間に殺される蟻であったりネズミであったり、あるいはウサギの身になって思い、人間本位の考え方に疑問を呈しているところにイギリス人らしいシニカルなユーモアを感じました。


*スティーヴン・スピルバーグのインタビューより抜粋
http://cinematoday.jp/page/A0000801



宇宙戦争 (ハヤカワ文庫SF)宇宙戦争 (ハヤカワ文庫SF)
(2005/04)
H.G. ウエルズ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「グルメ探偵、特別料理を盗む」ピーター・キング ハヤカワ文庫

2008-02-12

Tag :

☆☆☆

ぼくはグルメ探偵。料理関係が専門で、ライバル店で大人気の特別料理のレシピを探り出すという依頼を受けたところだ。さっそく店で至福の味を堪能し、独自の技を駆使して食材、調理方法を突きとめた。調査結果を依頼人に伝えてひと息ついていると、次の依頼人が……あの料理を作ったシェフじゃないか! 店の営業妨害をしている人物を見つけてくれ? それって、ぼくのことか! 食欲を刺激する美食満載の新シリーズ登場。 内容紹介より



元シェフであり探偵小説とクラシック音楽が好きな主人公は、スノッブな衒学趣味にも走らず、鼻持ちならない蘊蓄にも陥らないなかなかの好青年なのですが、いかんせん致命的な欠点があって、それは探偵としての才能と素質がまったく絶対的に欠如していることです。料理及び食材などの食文化、レストラン開業、経営の食産業についてのノウハウには並々ならぬ才能を発揮するのに、こと犯罪についての推理は甚だ頼りなく独り善がりに終始しています。

まあ、ミステリ小説に登場する探偵がすべからく事件を見事に解決しなければばらない決りなどないし、他力本願の探偵もたくさんいるのですからこんな主人公もいても良いけれど、さりげなく役立たずさとかすりもしないかなりの空振りぶりには不安。あるいは、そこを誇張して面白可笑しい、本人が張り切れば張り切るほど周りが迷惑するキャラクターにしてしまうかですね。

シリーズになっているから、徐々にこのどうしようもない欠点は改善されていくのかもしれませんが、いつまでたっても駄目探偵だけで終わらないように期待したいものです。

料理を前にしてのグルメな人々の会話が、コミック『美味しんぼ』のそれとそっくりで笑ってしまいました。


グルメ探偵、特別料理を盗む (ハヤカワ・ミステリ文庫)グルメ探偵、特別料理を盗む (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/05)
ピーター キング

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「謎めく孤島の警部」バリー・コーク ハヤカワ文庫

2008-02-10

Tag :

☆☆☆

今度の旅は、ただの休暇のはずだった。友人がスコットランドの孤島に開いたホテルで、ゴルフを楽しもうと思ったのだ。しかしそんなストローン警部の思惑とは裏腹に、彼を待っていたのは奇妙な事件の連続だった。疾走する列車からは突き落とされるは、古城を改造したホテルの地下牢で無残な死体を発見するわ……ストローン警部の冒険は波乱万丈、謎また謎で一寸先は闇の面白さ。これが英国本格ミステリのニューウェイヴ!内容紹介より



ゴルファーから警官に転向したストローン警部シリーズ二作目。
260ページ足らずの作品にしては、少し大袈裟ながら時空的な広がりを持ち、割と絡み合った人間関係を描いていると思います。主人公の旧友、その恋人、双子のダイバー、歴史家みんな怪しい。地下牢の仕掛けもスケールが大きく、意外な展開になるのもなかなか良い。
なんだか妙に持ち上げ気味ですが、これ以下のアイデアとプロットでこの倍のページ数の作品が近頃多いので、コンパクトなまとまり具合と今風なエコぶりを褒めたい。

ただ気になったところは、主人公が列車から突き落とされたにも係わらず、警察や駅に通報もせず、理由を推察することもなく旅を続けたこと。これは不自然ですよ。


謎めく孤島の警部 謎めく孤島の警部
バリー・コーク、山本 やよい 他 (1991/12)
早川書房

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ゲスリン最後の事件」フィリップ・マクドナルド 創元推理文庫

2008-02-10

Tag :

☆☆☆☆

イギリスからアメリカへと向かう旅客機が落下し、墜落直前に機外へほうり出された作家のエイドリアン・メッセンジャーは謎の言葉を遺して絶命する。ロンドンを発つ前に、彼はスコットランド・ヤードの友人に、一枚のリストを手渡していた。それには、十人の氏名と住所が記されており、現在の消息が知りたいというのだった。調査の結果、判明する限りの人間はみな、事故に遭って死亡しており、しかも、その十名の人物には相互に何らつながりを見出せなかった! 完全犯罪を狙う冷静沈着な犯人の異常な執念。それに対峙する名探偵アントニイ・ゲスリン。P・マクドナルドの本領が遺憾なく発揮された後期代表作の本邦初紹介! 内容紹介より



原作が発表されたのは1959年ですから、五十年近く前です。しかし、時間による劣化をほとんど感じさせません。現代のサスペンス・スリラー小説の要素がほとんど入っているし、その源流に位置する作品の一つではないかと思います。最近のその分野の作品と比べるとスローテンポですが、時刻を書き入れ行動とシンクロさせてスピード感を出そうと作者なりの工夫がみられます。

正体不明の人物「スミス・ブラウン・ジョーンズ」を獲物とし、それを狩る探偵ゲスリンと警察のストーリーはフォーサイスの『ジャッカルの日』を思わせました。

とにかく、飛行機事故で亡くなった男が遺したリストに載っていた十人の男たちが、すべて五年の間に事故死していた、この導入部には素晴らしく読む気をそそられました。P・マクドナルドの作品について、瀬戸川猛資さんが解説の中で都筑道夫さんの文章(『黄色い部屋はいかに改装されたか?』より)を引用されているのを孫引きさせてもらうと〈フィリップ・マクドナルドの長編は、狙いは派手なのに、展開の仕方が地味なせいか、「やすり」と「消えた看護婦」ぐらいしか訳されていませんが、モダーン・ディテクティヴ・ストーリーを考える上で、欠かせない作家でしょう。つねに解決にいたる論理を、第一に重んじているからです〉。同意。

墜落現場である洋上での救出劇の場面や、「長い年月をかけて、多数の人物を事故死に見せかけて殺害してきた犯人像」など適度に突飛な設定が、良い意味でいかにも“物語”を読んでいる感じがして楽しめました。

瀬戸川さんがいう「これは本格ミステリの秀作ではなくて、本格ミステリのパロディの秀作でしょう?」(P360)には、ちょっと引っかかります。間違いなく本格ミステリではないけれど、そのパロディでもなく、ハリウッドのフィルターを通した英国冒険小説ではないでしょうか?

本書は1997年に『エイドリアン・メッセンジャーのリスト』に改題。



エイドリアン・メッセンジャーのリスト (創元推理文庫)エイドリアン・メッセンジャーのリスト (創元推理文庫)
(1997/11)
フィリップ・マクドナルド真野 明裕

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ゲスリン最後の事件 (1983年) (創元推理文庫) ゲスリン最後の事件 (1983年) (創元推理文庫)
真野 明裕 (1983/05)
東京創元社

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「ビッグフィッシュ」ダニエル・ウォレス 河出書房新社

2008-02-05

Tag :

☆☆☆☆

病気が進行して、やがて父はただの人となった。仕事のない、話すべきこともない、ただの人となった父について、なにひとつ知らないことにぼくが気づいたのは、そのときだった。……
ゆたかなアラバマの自然を背景に、父と息子の絆を描いた感動のものがたり。内容紹介より



はたして子供は親たちの人生やその人となりについてどれくらい知っているのでしょうか、あるいはどれくらい知ろうとしているのでしょう? 特に父親について。そういうことを考えました。

余命幾ばくもない父親と対面して、息子は父親が死後の世界をどう考えているのか知りたがります。しかし、父親は相変わらずジョークでしか答えない。結局、息子が聞かされて知っている父親の人生は南部のほら話か荒唐無稽なエピソードの断片でしかありません。いくら死の床で父親と向かい合っても、父親の本心、本当の姿を計り知ることができない。
息子もさすがに父親のジョークの連発に辟易してしまうこともあります。このシリアスな息子にたいしてそうでもない父親との、とんちんかんな関係がこの物語を湿っぽくしていないプラス要因なのでしょうね。

息子は奇想天外なラストシーンで、父親は彼自身が紡ぎ出したビッグフィッシュそのものだったことを目の当たりにします。まさしく彼がビッグフィッシュだったからこそ、水とともに誕生し、水とともに去っていったのでしょう。

エピソードの中では、町外れの〈名前のない場所〉を描いた“旅立ち”がS・キングみたいな話でとても良かったです。


ビッグフィッシュ―父と息子のものがたりビッグフィッシュ―父と息子のものがたり
(2000/02)
ダニエル ウォレス

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「またまた二人で泥棒を」E・W・ホーナング 論創社

2008-02-04

Tag : 短編集

☆☆☆

ラッフルズと別れて数年、穏やかだが満たされぬ日々を送っていたバニー。寄越された奇妙な就職斡旋の電報は再会へのパスポート、再び盟友との熱く張りつめた時間へといざなわれる……。二度と開かれるはずのなかった二人の事件簿に、新たに綴られる八つのエピソード。アルセーヌ・ルパンに先駆ける「泥棒紳士」シリーズ、第二弾登場!内容紹介より



ミステリ小説の世界で有名な泥棒・怪盗といえば、アルセーヌ・ルパン、サイモン・テンプラー 、ルビイ・マーチンスン(余談ですが、狙った店の前にいつも座っている猫の絵まで記入してある店周辺の見取り図には笑った)、バーニイ・ローデンバー、ニック・ヴェルヴェットとそうそうたる悪党どもの名前が浮かびますが、もともと怪盗、泥棒ミステリの基礎はホーナングが創り出したA・J・ラッフルズにあったんですね。快盗(ちなみにamazonのサイトでは「怪盗」と誤表記してますが)ルビイと従弟の関係はラッフルズと相棒バニーを彷彿させますし、あまり泥棒稼業の成果が上がらないところも似てる気がします。

本書のラッフルズは、国外を逃亡中に苦労したせいで老けてしまった設定なのと司直の手を逃れるため病人のふりをしているのでどうも溌剌さに欠ける印象がします。やはり第一作目の『二人で泥棒を』から順番に読んだほうが良いようです。


またまた二人で泥棒を―ラッフルズとバニー〈2〉 (論創海外ミステリ)またまた二人で泥棒を―ラッフルズとバニー〈2〉 (論創海外ミステリ)
(2005/01)
E.W. ホーナング

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「氷の闇を越えて」スティーヴ・ハミルトン ハヤカワ文庫

2008-02-04

Tag :

☆☆

わたしの心臓のそばには銃弾がある。14年前、警官時代にローズという男に撃たれたときのものだ。最近、私立探偵となったわたしの身辺で連続殺人が起き、自宅にローズと署名のある手紙が届いた。手紙には殺人は自分の犯行だとあった。刑務所にいるはずの男がなぜ? わたしは深い謎へと踏みこむが……探偵マクナイト登場。アメリカ探偵作家クラブ賞、アメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞作。私立探偵小説コンテスト最優秀作。内容紹介より



この作品のネットでの評価が毀誉褒貶、二分されていて興味深いです。権威ある賞を受賞していても読者の評価は様々ですね。

主人公わたしを一方的に親友と呼ぶギャンブル依存症の大金持ちの男エドウィン、主人公と不倫関係にあったその妻シルヴィア。この二人に係わるいきさつ(彼はなぜ主人公を慕うのか、また主人公が不倫関係を清算した理由は何なのか)が 述べられていないので、まるでTVドラマのサスペンス番組を途中から観たような印象を受けました。

物語の展開がどうもわたしにとって乗りが悪くて、こういう精神的に強いのか弱いのかどっち付かずの主人公のキャラクター設定は苦手です。彼のトラウマの具合も状況によって深刻だったりそうでもなかったり都合良すぎる感じがしました。そして真相までもが十年一日のサスペンスドラマみたいに使い古された安易で赤面するオチでした。ラストの主人公の決意を読んだら、本作は次回作へ続く前ふり、プロローグ編みたいなものだったのかと結構納得したのですが、二作目、三作目のあらすじを読んだ限りではまったくそんな気配がなくてがっかりです。

事件の黒幕についての書込み不足を始めとしてプルーデル以外の登場人物の描き方が足りない気がします。
友情といい恋愛といいすべてが中途半端なまま終わってしまいました。



氷の闇を越えて (ハヤカワ・ミステリ文庫) 氷の闇を越えて (ハヤカワ・ミステリ文庫)
スティーヴ ハミルトン (2000/04)
早川書房

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「墜落のある風景」マイケル・フレイン 創元推理文庫

2008-02-02

Tag :

☆☆☆☆

美術界への転身をめざすマーティンは、著述に専念すべく訪れた田舎で、近隣の地主から絵の鑑定を頼まれる。ジョルダーノ、ワウウェルマン――幾枚かが開帳されたあと、持ちだされたのは煤にまみれた板絵だったが、一瞥した彼の脳裏に、これまで見たことのないその絵の正体が閃く。これは巨匠ブリューゲルの未発見の真作ではないのか……? 知的興奮と笑いが衝突する、独創的な物語! 内容紹介より




トリックだとかプロットだとか、ああだこうだと言う以前にブリューゲル(父)とその作品とその時代について延々と書き記して、さらに最後まで読ませるフレインの力量には感心しました。この作品のミステリの部分である、主人公のマーティンがなんとか絵をかすめ取ろうと艱難辛苦する箇所などは添え物に過ぎないのではないかと思うほどです。

まあ、約520ページのほとんどをブリューゲルについてのみ語られるのも知的興奮を覚えはしますが、脳みそが疲れてちょっと食傷気味にもなりました。面白いのは確かなのですが、さらにブリューゲルから離れたミステリ的な息抜きになる何かがあっても良かろうにとも思います。メインディッシュばかりだと飽きるんですよね。

気になったのは、マーティンの突っ走る所行にくらべて奥さんのケイトの存在と行動がいまいちインパクトに欠けて大人しいことと、地主の妻ローラのマーティンに対する気持ちの変化が突飛すぎて都合良すぎることです。


墜落のある風景 (創元推理文庫)墜落のある風景 (創元推理文庫)
(2001/09)
マイケル フレイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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