「密偵ファルコ 白銀の誓い」リンゼイ・デイヴィス 光文社文庫

2008-03-27

Tag :

☆☆☆

時は紀元70年のローマ。皇帝ウェスパシアヌスが基盤を固めつつあるころ、銀の産地ブリタニアではインゴットの横領が頻発していた。ならず者の手から娘を助けたおれ(ファルコ)は元老院議員の依頼を受け、鉱山奴隷に身をやつして、そのからくりを暴くことになった。そしてかの地では、最愛のヘレナと巡り合う…。―E・ピーターズ亡きあとの歴史ミステリーを牽引する待望のシリーズ第一作ついに登場。内容紹介より



密偵ファルコ・シリーズを初めて読みました。
同じ歴史ミステリのジャンルながら、カドフェル・シリーズとはかなり趣を異にしていました。もちろん両者の時代設定は紀元一世紀と十二世紀とに大きくかけ離れていますし、性格は沈思黙考型のカドフェルと直情径行型のファルコ、そして、前者が世俗から一歩退いた修道士の立場であり後者は階級社会の下層に身を置いています。宗教者と異なり身分の違いによって行動や感情が制約される階級制度の中に主人公を置いたところがユニークなところなのかもしれません。

ハードボイルド風な主人公の造形は、たしかに読みやすくはありますが、あまりに現代的で時代を感じさせないところがかえって弱点になってしまっているように思います。例えば、弥生時代の日本人が現代語をばりばり喋って、今風な考え方をするような違和感を覚えました。それから、わたしの苦手な減らず口も少々見られました。

ギボンも塩野も読んだことがないので、帝政ローマ時代に七階建てのアパートがあったなんて驚きです。このシリーズ、あと一、二冊は読んでみたいです。



密偵ファルコ 白銀の誓い (光文社文庫)密偵ファルコ 白銀の誓い (光文社文庫)
(1998/08)
リンゼイ デイヴィス

商品詳細を見る

テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「メンフィスへ帰る」ピーター・テイラー 早川書房

2008-03-09

Tag :

☆☆☆☆

孤独な日曜日の夕暮れ、マンハッタンを離れてメンフィスへ帰ってきてくれという2人の姉から電話を受けて、フィリップは気が進まなかった。中年で独身の姉たちは、老いた父親が再婚しようとするのを止めるのに手を貸してくれと言うのだった。そんな企みには加担したくないと思いつつ、彼は南へ帰る旅―そして過去へと帰る旅に、どうしようもなく心を動かされていった。長年アメリカ文壇で声望の高いピーター・テイラーの、熟成した魅力の長篇。ピュリツァー賞受賞作。 内容紹介より



主人公のもとへふたりの姉から電話があることから物語が始まり、彼は父親と家族の思い出にさかのぼります。しかし、題名と違って物理的にはなかなかメンフィスに帰りません。

以前感想を書いた『ビッグフィッシュ』 での父親と息子の関係が「動」ならば、本書でのその関係は「静」であり、また、前者が南部のほら話的なのに対して、本書では南部の家父長制一家の物語という感じを受けました。『ビッグフィッシュ』では父と息子の会話が頻繁に交わされていましたが、本書においてはほんの数行でしかありません。会話の内容を具体的に記述しないのは、それだけ権威としての父親の存在が息子の中で相対的に軽くなったことを表しているのでしょう。

娘や息子の結婚話に干渉していた父親が年老いてしまった今、父親の結婚話に今度は娘たちが邪魔をする逆転現象が起きてしまったことも家族を統制していた過去の父親に比べて現在の父親の影響力の減少が描かれています。

この姉たちの父への意趣返しのような言動にくみせず、そんな騒動から一歩退いて観ていられるのは南部、その特有の呪縛から離れて暮らしているためだし、父親の心情を理解できるのは同棲していた女性が出ていったせいでもあります。

メンフィスへ帰るメンフィスへ帰る
(1990/03)
ピーター テイラー

商品詳細を見る

テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「満潮」メアリー・ウェズレー 講談社文庫

2008-03-08

Tag :

☆☆

自殺の決意を胸に固めて海辺に向かったマチルダは、母親殺しの容疑で追われている青年ヒューと出会う。そして死を決意した女と追われる男の奇妙な共同生活が始まるが……。みずみずしいイギリスの夏、緑に囲まれた海辺の町を舞台に、一人の女の生と死を鮮やかに描き出して「タイムズ」紙絶賛の話題作! 内容紹介より



ネタばれしていますので、続きに書きます。

続きを読む

テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「バック・イン・ザ・ワールド」トバイアス・ウルフ 中央公論社

2008-03-03

☆☆☆☆

現代アメリカ文学随一の実力派作家が描く「ヴェトナム以後」。「アメリカの夢」が崩れ、道を見失いかけた時代。ひたむきで、不器用にしか生きられない心優しい人びとの、孤独と不安、ひそかな願いを、深い共感をこめて描く10篇。 内容紹介より



「お待ちかねのアトラクション」、「失踪者」、「「イエス」と言ってよ」、「貧乏人はいつもすぐそばにいる」、「シスター」、「兵士の喜び」、「砂漠で立ち往生ー一九六八年」、「ぼくらの話が始まる」、「怪獣リヴァイアサン」、「兄さんはお金持ち」を収録。

「お待ちかねのアトラクション」
十五歳の少女ジーンは深夜まで映画館で働いている。仕事が終わって迎えの車を待つ間、彼女は離婚した父親に電話をするが、電話に出たのは継母だった。その後、母親にかけると幼い弟が出て母親は男友達と外出したと言う。そしてジーンはまったく知らない人にいたずら電話をする。この作品のテーマは少女の孤独で、彼女の寂寞感を現していると思います。彼女は誰かと話したいのではなくて、彼女と話をしたい人を求めているのでしょう。しかし、一番長く話しをした人物がいたずら電話の相手というのがかなり皮肉です。
ジーンはただ一人彼女を必要とする弟のために、プールに沈んだ自転車を引き上げようと
冷たい水の中に潜っていきます。

「「イエス」と言ってよ」
「白人は黒人と結婚すべきだろうか」という話に入り込んだ夫婦の話。レイモンド・カーヴァーっぽい物語。夫が妻の疑問に答えてから、長年連れ添った妻が見知らぬ他人になってしまう。それでも夫は事を穏便に済ませようと妻の機嫌を取ろうとする。
ジュンパ・ラヒリの「停電の夜に」に描かれた夫婦間の齟齬を思い起こしました。
(『SUDDEN FICTION 超短編小説70』(文春文庫)では、「問いかけ」というタイトルで収録。)

「シスター」
O・ヘンリー賞、受賞作品。いかにもミニマリズムな作品。「顔を上げて!」のフリスビーの出来事に続く、「巨大な白い車」に轢かれそうになる二つのアクシデントの連続は過剰な印象を受けます。

作品全体を一言で言うならば、判りやすいレイモンド・カーヴァーか。そこらあたりが読者に取って評価の分かれ目かもしれません。

飛田茂雄氏が、訳者あとがきで各作品について詳細な解説をされていて参考になります。



バック・イン・ザ・ワールド バック・イン・ザ・ワールド
飛田 茂雄、Tobias Wolff 他 (1991/04)
中央公論社

この商品の詳細を見る

テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

カテゴリー

最近の記事

月別アーカイブ

08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07 

ユーザータグ

短編集 ホラー SF クリスマス・ストーリー アンソロジー アーロン・エルキンズ ルース・レンデル スティーヴン・キング デイヴィッド・ハンドラー キャロリン・G・ハート ジョー・R・ランズデール ローラ・チャイルズ マイクル・クライトン ジョアン・フルーク ジョージ・P・ペレケーノス ドン・ウィンズロウ ポーラ・ゴズリング ジェームズ・パターソン エド・マクベイン ジェイムズ・パタースン ジル・チャーチル ヘニング・マンケル C・J・ボックス ローレンス・ブロック リチャード・マシスン D・M・ディヴァイン レジナルド・ヒル スチュアート・ウッズ リリアン・J・ブラウン ジャネット・イヴァノヴィッチ ピーター・ラヴゼイ パーネル・ホール アリス・キンバリー レックス・スタウト S・J・ローザン ジョルジュ・シムノン ジョー・ゴアズ カール・ハイアセン ウィリアム・カッツ クレオ・コイル マーガレット・ミラー レスリー・メイヤー ジャック・カーリイ カーター・ディクスン ジェフ・アボット マーシャ・マラー エド・ゴーマン コリン・ホルト・ソーヤー ヒラリー・ウォー ルイーズ・ペニー マイケル・ボンド ジェフリー・ディーヴァー アイザック・アシモフ ジョン・ディクスン・カー イーヴリン・スミス ジェームズ・ヤッフェ リタ・メイ・ブラウン キャロリン・キーン ウィリアム・L・デアンドリア ロブ・ライアン ローラ・リップマン ポール・ドハティー フレッド・ヴァルガス G・M・フォード エヴァン・マーシャル オーサ・ラーソン ジョアン・ハリス ドナ・アンドリューズ サイモン・カーニック リン・S・ハイタワー ファーン・マイケルズ アンソニー・ホロヴィッツ ジャン=クリストフ・グランジェ スタンリイ・エリン レイ・ハリスン ケイト・ロス アンドレア・カミッレーリ レニー・エアース ジョン・クリード コニス・リトル デイヴィッド・マレル クリスチアナ・ブランド ウイリアム・P・マッギヴァーン ウィリアム・ランデイ ジャック・フィニイ リック・ボイヤー サキ ジェーン・ラングトン ユージン・イジー ウォルター・モズリイ アン・クリーヴス ビリー・レッツ イーサン・ブラック ダナ・レオン エーリヒ・ケストナー ウォルター・サタスウェイト スタンリー・エリン ポール・ドハティ トバイアス・ウルフ 

ブログ内検索

全ての記事を表示する

全ての記事を表示する

リンク

RSSフィード

最近のトラックバック

最近のコメント