「猫の心を持つ男」マイクル・アレン・ディモック ハヤカワ文庫

2008-04-30

Tag :

☆☆☆

精神科医ケイレブの患者が謎の死を遂げた。警察は自殺と発表するが、そんなはずはないと直感した彼は、独自に調査をはじめる。一方、捜査にあたったシネス刑事はじつはケイレブに殺人の容疑をかけていた。人間を犬型と猫型に分類し、超然と生きる精神科医と、たたき上げの実直な刑事、ふたりはいつしか立場を超えて理解しあうが、時すでに遅く、第二の殺人が……マリス・ドメスティック・コンテスト最優秀作に輝く話題作。内容紹介より



主人公のひとりである精神科医が、人間を猫型と犬型に分類するという疑似科学的な考えを持っていることにきわめて不自然な感じが…。はたしてこのストーリーにそのような設定が必要だったのでしょうか。かえって邪魔な気がするんですけど。だいたい冒頭の夢おちからして作者の意図が理解できません。プロットはしっかりしているのに、変なものを付け加えて作品の価値を落としているような気がします。

ところでそんなことより、わたしがこの作家と作品において一番注目したいのは“駐車(場)”問題です。車をどこどこに駐車したという記述がなんと少なくとも8ページ以上あります。以下、抜粋。
「警官用駐車場の遠い北西の隅に車をとめるしかなかった」(p47)、「通りには駐車スペースがあり、ジャガーをそこにとめても」(p55)、「医者用駐車場に入り、ジャガーを見張れる場所に駐車した」(p97)、「マリーナ・タワーに挟まれた狭い場所に覆面パトカーをとめた」(p112)、「第六管区警察の駐車場に車をとめた」(p153)、「ケイレブがジャガーをアパートメントのひと気のない駐車場に入れたときは」(p172)、
「シネスはガラス・ドアの前の駐車禁止ゾーンに車をとめた」(p230)、「シネスはブロードウェイの消火栓の横に駐車し」(p235)など。
この強迫観念とでもいえるような作者の“駐車”へのこだわりと執着、これはまさしく作者の執筆当時の職業である市営バスの運転手からきているのではないのか、と推測してみたわけです。


猫の心を持つ男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)猫の心を持つ男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1995/02)
マイクル・アレン ディモック

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「死者の靴」H・C・ベイリー 創元推理文庫

2008-04-29

Tag :

☆☆☆

風光明媚な田舎町キャルベイの海から、少年の死体があがった。少年は、州警察のユーヴデイル警部と密会しているのを目撃された後、行方がわからなくなっていたのだ。容疑者から依頼を受けた弁護士クランクは、百戦錬磨の曲者ぶりを発揮して、事件に当たる。『フォーチュン氏の事件簿』で知られるベイリーの、もうひとりの探偵役ジョシュア・クランク本邦初紹介。必読の傑作長編。内容紹介より



H・C・ベイリーは英国ミステリ黄金期の人気作家のひとりだったそうです。本書は1942年に出版されいて、同年にはフェラーズの『猿来たりなば』が出ています。『猿…』の解説を書かれている森英俊氏によるとトビー・ダイク・シリーズは「黄金時代のパズラーへのオマージュ、パスティーシュとしての側面がある」(p302より引用)とのことです。

したがってベイリーのこの作品も黄金期末期あるいはその終焉という時代的影響を受けているのではと思うのです。たとえば、それまでの英国本格ミステリのパターンは、お屋敷で事件が発生し、探偵役が乗り込んで屋敷の住人たちと使用人、外部の関係者(医者や弁護士)から聞き込みを行って事件を解決する流れが一般的でした。狭い空間(ほとんど家一軒分)と限られた人間関係。ところが本書はそのイメージからかなり離れています。殺されたのは下層階級の少年であって舞台は町全体に移っています。探偵役の行動範囲も当然広がってくるわけで、本書では調査の大部分は助手ポプリーが行っています。これはレックス・スタウトがネロ・ウルフ・シリーズで助手アーチーが調査役を担っていることと似ています。そして、解決まで一年以上の歳月を要しています。

以下、少々ネタばれ気味です。ご注意下さい。





さらに、これは想像が飛躍し過ぎていると思いますが、
舞台となっている町における貧富の差などの社会問題、行政の腐敗、市警察と州警察の確執といった事例とその渦中に入り込んだ探偵役(本書ではその助手)からハメットの『血の収穫』を思い起こしました。なんとなくハードボイルド風雰囲気を感じました。ネットで調べていたら、ブログ『押入れで独り言』さんの記事がベイリーとハードボイルドについて言及されていますのでご覧下さい。

死者の靴 (創元推理文庫)死者の靴 (創元推理文庫)
(2000/08)
H.C. ベイリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「シュガークッキーが凍えている」ジョアン・フルーク ヴィレッジブックス

2008-04-28

☆☆

もうじきクリスマス。レイク・エデンの町はいつになくうきうきしていた。ハンナが出版する町のとっておき料理集のために、クリスマス・パーティ兼大試食会が開催されるのだ。ハンナの母ドロレスも大張り切り。美しく高価なケーキナイフを貸してくれるという。だが、宴が始まってしばらくして、ハンナは真っ青になった。あのケーキナイフがない!慌てて探すハンナの目に飛び込んできたのは、ナイフを胸に刺した死体だった……。
外は猛吹雪で参加者は会場に軟禁状態だから、絶対この中に犯人がいるはず!今にも産気づきそうなアンドリアを助手に、ハンナが見つけた真相は?大好評シリーズ第6弾。内容紹介より



初お菓子探偵ハンナ・シリーズです。このシリーズは題名が可愛らしいですね。これが和菓子探偵シリーズだと、『大福もちがふくれている』とか『最中で窒息する』とか『大納言小豆が脅迫する』になるのでしょうか。

さて、いよいよクリスマスまで八か月を切りました。そこで「飲食系ミステリコージー風」料理のレシピの紹介。このレシピはグルメ系やデリバリー系にも応用できます。

材料(一人前)

主人公……1名(二十代から四十代の女性)、少々旬を過ぎていても可。
 
猫あるいは犬……好みに応じて若干数。

主人公の恋人……1名 警察官、新聞記者、弁護士など、間抜けでないこと、ハンサムで          あること。

主人公の家族、友人……数名(主人公より頭が良くないこと)。

近隣住人……料理人の能力に応じて数名~十数名。個性的な素材を多く揃えると
      味に深みが増す。ただし、多すぎると手間がかかり収拾がつかなくなるので       注意。

死体……新鮮なものを適量(1~3)数。

調味料……毒薬または劇物 小さじ1/2

付け合わせ(なくても可)……銃弾五、六発。

必要な道具……切れ味鋭い刃物、鈍器など。

 
作り方
パーティー会場などで、すべての材料を大鍋に投入し煮込む。
なお、あっさり味であまりコクはでません。



シュガークッキーが凍えている (ヴィレッジブックス)シュガークッキーが凍えている (ヴィレッジブックス)
(2005/12)
ジョアン フルーク

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「死の蒸発」ジョー・ゴアズ 角川文庫

2008-04-27

☆☆☆☆

ラリー・バラッドは、DKA探偵事務所の所員である。この事務所は、代金未払いのままになっている車を、債権者の依頼を受けて持主から引き上げるのを主な仕事にしている。ある日、同僚のバートが、何者かに棍棒で殴られ、引き上げてきたばかりのジャガーごと崖から落とされるという事件が起きた。そして、バートが保管していた書類の一切が盗まれていることも判明した。彼が接触したうちの何者かが、バートを殺して書類を破棄しようとしたことは明らかだ。いまバートは瀕死の床にあり、事務所はジャガーの引き上げ依頼人から多額の損害賠償を求められ、危機に陥った。所長のカーニイは犯人探しをバラッドに命じた。それも72時間内という制限つきで……。内容紹介より



代金を支払えない、支払わない者から車を回収する仕事は、様々な事情を抱える多種多様な人間を相手にしなければならないため、作家、読者とも非常に興味を引かれる設定でしょう。元私立探偵の経歴を持つ作者だけあって良いところに目を付けたものです。しかも、72時間の制限時間を設けるとともに、多くのハードボイルドに見られる当てもなく(わたしにはそう思える)うろついているうちに都合良く事件が解決してしまうパターンではなく、六人の容疑者を本格物みたいに最初から列挙していて分かりやすい構成になっています。

無駄を排した描写と軽快な展開、語り口がとても読みやすい。ネオ・ハードボイルドの主人公たちに往々にしてみられる〈心の傷〉や〈陰影〉みたいなものが本書の探偵たちには見受けられません。彼らが多かれ少なかれ一様にプロに徹して脆い面を見せないのは、元私立探偵だったゴアズの矜持なのかもしれません。想像ですけど。

ただ、後半展開が読めてしまうのはちょっと残念なところ。

死の蒸発 (角川文庫 (3222))死の蒸発 (角川文庫 (3222))
(1974/07)
村田 靖子、ジョー・ゴアズ

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「砂漠で溺れるわけにはいかない」ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫

2008-04-24

☆☆

無性に子どもを欲しがるカレンに戸惑う、結婚間近のニールに、またも仕事が!
ラスヴェガスから帰ろうとしない八十六歳の爺さんを連れ戻せという。しかし、このご老体、なかなか手強く、まんまとニールの手をすり抜けてしまう。そして事態は奇妙な展開を見せた。爺さんが乗って逃げた車が空になって発見されたのだ。砂漠でニールを待ち受けていたものは何か? シリーズ最終巻。 内容紹介より




ニールとのキッズが欲しいカレン、しかし、悩んでいるので子づくりするわけにはいかないニール。
『ウォータースライドをのぼれ』から見られたこの展開。ニールの生い立ちからして自分が父親になれるのか?父性を持てるのか?彼の戸惑いと葛藤をもっと掘りさげて主題にしてもよかったのではないかと思いますが、ウィンズロウは安易で諧謔な道を行ってしまった。それから、少し自己憐憫気味のニールにくらべてカレンのたくましさが目立ちました。

さて本書には元コメディアンの老人が登場してジョークを連発するわけですが、どうしてアメリカ人のジョークというものはこうも直截なのか考えてみると、やはり様々な人種で構成される社会なので文化的均一化が最大公約数的になされているからでしょうか。


『ボビーZの気怠く優雅な人生』ドン・ウィンズロウ


砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)砂漠で溺れるわけにはいかない (創元推理文庫)
(2006/08)
ドン ウィンズロウ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ウォータースライドをのぼれ」ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫

2008-04-23

☆☆☆☆

「じつに簡単な仕事でな、坊主」養父にして朋友会の雇われ探偵グレアムがニールに伝えた任務、それは健全さが売りの人気TV番組ホストのレイプ疑惑事件で、被害女性ポリーを裁判できちんと証言できるよう磨き上げることだった。世にも奇天烈な英語教室が始まる。彼女の口封じを狙う者あり、彼女を売り出して一儲けを企む者あり……様々な思惑が絡み合うポリーゲート事件の顛末。内容紹介より



わたしにとってニール・ケアリー・シリーズは『ストリート・キッズ』で完結しまっていて、『高く孤独な道を行け』まで読んだらさすがにもういいかという気がしていました。
今回、本書を読んでみてやはり『ストキッズ』後の作品はおまけみたいなもので、それを超えるものは結局書けなかったのだと思います。

この作品自体の出来はしっかりしているし、愉快で面白くウィンズロウの達者さを感じさせますが、彼にしては凡庸な感じが否めません。ポリーとウィザーズの存在に押され、ニール・ケアリーは、この群像劇みたいなストーリーの狂言回しの役に埋没してしまったかのようです。そしてウィンズロウはこのシリーズを普通のエンタメ作品に軟着陸させてしまいました。

『ボビーZの気怠く優雅な人生』ドン・ウィンズロウ

ウォータースライドをのぼれ (創元推理文庫)ウォータースライドをのぼれ (創元推理文庫)
(2005/07/28)
ドン・ウィンズロウ、東江 一紀 他

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「春を待つ谷間で」S・J・ローザン 創元推理文庫

2008-04-22

☆☆☆☆

晩冬のある日、中年の私立探偵ビル・スミスは、いつもは休暇を過ごすために訪れる州北部の郡で、初めて仕事を引き受けた。イヴという女性の依頼は、自宅から盗まれた品物を取り戻すこと。だが調査を開始したとたん、彼は死体の発見者となり、家出少女捜しを頼まれ、何者かに襲われるはめに……。ビルとリディアがマンハッタンを離れて、複雑な事件と取り組む、シリーズ第六弾。内容紹介より



『ピアノ・ソナタ』の感想でも書きましたが、主人公ビルは休暇を過ごす山小屋にもピアノを置いているくらいピアノ演奏を趣味にしています。
ジョージア・オキーフを想わせる、夫を亡くした後、隠遁生活を送る女性画家がクラシック好きの設定ということもありますが、バッハ、シューベルト、ショパン、モーツァルトとこれほどクラシック音楽の作曲家の名前が出てくる私立探偵小説は珍しいと思います。
こういうニュータイプの私立探偵を登場させているけれど、面白いのはギャング、土地の有力者、悪女、汚職警官そして主人公の気絶といったハードボイルド系探偵小説の古典的、基本的要素をふまえていることです。こういうのを古い酒袋に新しい酒を入れるというのか?ちょっと違うかも…。
登場人物たちは上手く描かれていますが、重要な役割であるジニーの描き方に粗雑な印象を受けるのが残念です。

春を待つ谷間で (創元推理文庫)春を待つ谷間で (創元推理文庫)
(2005/09)
S.J. ローザン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「核パニックの五日間」ジョゼフ・ディモーナ 創元推理文庫

2008-04-18

Tag :

☆☆☆

アメリカ空軍のミサイル基地から、何者かの手によって三個の核弾頭が盗み出された。現場に残された手がかりといえば、古い軍事作戦用の地図が一枚。しかもその片隅には、こんな言葉が記されていた。〈我、ベネディクト・アーノルド最愛の女性、ナンシイの恨みを晴らすために〉―やがて一通の脅迫状が大統領の許に届けられた。核爆弾を仕掛けたというのだ! パニック巨編! 内容紹介より



海外TVドラマの原作になりそうな結構ストレートな話。ただし、強力な秘密謀略組織の思想背景が愛国心なのはちょっと時代遅れか。当時、SALTの交渉をやっていたからでしょうが。軍産複合体制による陰謀もありきたりだし、今だったらキリスト教原理主義組織に設定を変更するべきかもしれません。物語の中盤に起きる驚きの展開が読みどころで、以後、それを超えるサプライズはありませんでした。
核兵器を持ち出した〈パニック巨編)というわりには犯人の動機が“家族ための復讐”なんて矮小すぎてバランスがとれてないし、犯人とヒーローの各一名づつの対決が中心だしスケールが大きいのだか小さいのだか。それと核物理学者が事件解決に一人も関わらないのはどうなんだろうか。

ベネディクト・アーノルドという歴史上の人物を登場させたこともあまり意味が伝わらないように感じます。復讐と国への裏切り行為を行うことを象徴しているのでしょうか?


核パニックの五日間 (1979年) (創元推理文庫)核パニックの五日間 (1979年) (創元推理文庫)
(1979/05)
菊池 光

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「フォークランド館の殺人」ケイト・ロス 講談社文庫

2008-04-14

Tag : ケイト・ロス

☆☆☆☆

十九世紀初頭のロンドン。夜会が開かれた貴族の館で当主の息子が殺された。召使い、妻、議員ら参会者の誰もが疑わしい。依頼を受けた社交界の伊達男ジュリアン・ケストレルが上流階級の隠微な扉を開くと、事件は思わぬ過去の惨劇へと繋がっていく……。傑作『ベルガード館の殺人』に続くアガサ賞受賞の探偵シリーズ第二弾。内容紹介より



マーサ・グライムズ、デボラ・クロンビー、エリザベス・ジョージ、そしてケイト・ロス。これらの優れたアメリカ人女性作家たちが創出したイギリス人の主人公たち、グライムズのジュリー警視とメルローズ・プラント(元伯爵)、ふたりを合わせたようなトマス・リンリー警部(伯爵)、ジェマに対しちょっと色ボケ気味ですがキンケイド警視、そしてケストレル。彼らには病人、年寄り、子供、動物への押し付けがましくない優しさと思いやりを持っているという共通点があり雰囲気もどことなく似ています。この傾向はもっと注目されても良いのではないでしょうか。彼女たちが好ましいと思う理想に近い男性像なのでしょうか。ああ、それに比べてアメリカ人男性作家らが描くアメリカ人主人公たちのなんと饒舌で精神的にマッチョなことか…。なんというこの乖離!
以下ネタばれです。









被害者の正体が徐々に暴かれてゆくにつれて、周囲の人物たちの真の姿も浮き彫りになって行く過程。仮面を付けて芝居をしていたのは被害者だけではなく、ケストレル自身もそうなのではと自問するし、ある人物からも指摘される場面。丁寧な書き込みと主人公の性格に深みを与える繊細な描き方。作者の才能をうかがわせる秀作だと思います。
ただ、ひとつ都合が良すぎるのは双子を二組登場させたこと。やはり不自然です。


『ベルガード館の殺人』ケイト・ロス


フォークランド館の殺人 (講談社文庫)フォークランド館の殺人 (講談社文庫)
(1998/10)
ケイト ロス

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「1944年の戦士」ウイリアム・P・マッギヴァーン 早川書房

2008-04-12

☆☆☆☆

1944年12月クリスマス間近、米軍砲兵中隊第八砲兵班はベルギー東部の山岳地帯で中隊本部と連絡が取れず孤立していた。彼らは襲来したメッサーシュミット262型機(ジェット戦闘機)を撃墜したのだが、ドイツ軍のクリストローゼ作戦(バルジの戦い)が始まる中、機体の処理に派遣されたヤーゲル親衛隊中佐率いるティーゲル戦車が彼らの前に現れた。



昭和56年初版です。
作者がヒギンズだったら戦争ものは当たり前すぎて買わなかったと思いますが、マッギヴァーンが戦争ものを書いていたとは知らなかったので物珍しさから購入。
彼の従軍経験を元にして書かれているだけあってドキュメントっぽい。実際にアルデンヌで対空砲兵班班長として戦闘に加わっているそうです。まさに『バンド・オブ・ブラザーズ』の世界。

この作品は前半が兵士や村人たちの人間模様や戦闘を描き、後半は敵前逃亡の疑いが掛かった一兵士について書くという構成になっています。作者はエンターテインメント性をなるべく避けて、いわゆるヒューマンドラマを意図していると思うのですが、特に後半部分はなかなか見事に一個人を描いています。さらに、査問会に呼ばれたその兵士の上官ドッカー軍曹と軍上層部とのやり取りは個人対権力組織の構図に付随する得体の知れない無気味さを感じさせました。


1944年の戦士 (1981年)1944年の戦士 (1981年)
(1981/12)
ウィリアム・P.マッギヴァーン

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「ルシタニアの夜」ロバート・ライス 創元推理文庫

2008-04-11

Tag :

☆☆☆

モンタナ州の郵便局で、局長と客が射殺された。元刑事の郵政捜査官ルーミスは、同僚ドンブロウスキと捜査をはじめる。彼女は、その郵便局で90年近く前に投函され、配達されなかった手紙と事件との関連に気づくが、その手紙は何者かに盗まれ、殺人はさらに続く。犯人は?目的は? その手紙に書かれていたことは何か? 歴史の闇に挑む郵政捜査官の活躍を、注目の新人が描く傑作。 上巻内容紹介より



作者は、手紙とか郵政捜査官の仕事に読者が勝手に抱いているロマンチックなイメージを理解していないのでないでしょうか。資料としてチャペックの「郵便屋さんの話」を読んどけばよかったのにね。

確かに約90年ぶりに発見された手紙から事件は起きますが、その出来事はこの物語の単なる発端としての役割にしか過ぎず、過去からの手紙を受け取った人間の驚きや過去と現在の不思議な巡り合わせが描かれていません。そこを外してしまったら物語は月並みなミステリになり、別にFBIの捜査官が主人公でもよくなってしまいます。その点『郵政捜査官』(ショーン・マグレディ ハヤカワ文庫)は作品としての出来は今ひとつでしたが、〈デッド・レター、配達還付不能郵便物〉とそれを扱う郵政捜査官たちのちょっとした行いをミステリアスでロマンチックに描いている場面がありました。

ミステリとしては、時空をさかのぼり話を拡げ着地点をどこにするのかと思っていたら真相はかなり期待外れでした。ネタばれ→「事件の黒幕が出てくるのが終盤近くであり、それまで全くと言っていいほど言及していない

また、主人公のひとりルーミスが刑事時代に子供を誤って射殺したことが、彼女のトラウマになっているという設定は、ローレンス・ブロックを始めとして多くの作家が使っているシチュエーションなのですからいまさら陳腐としか言えないと思います。それがストーリーのうえでキーポイントにでもなっていたら別ですが…。新人の作品にしても欠点が多すぎました。


ルシタニアの夜下 (創元推理文庫)ルシタニアの夜下 (創元推理文庫)
(2006/09/30)
ロバート・ライス

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「ゴーストなんかこわくない マックス・カーニイの事件簿」ロン・グーラート 扶桑社ミステリー

2008-04-09

Tag : 短編集

☆☆☆

広告代理店で働くマックス・カーニイには、もうひとつ、別の顔があった。オカルトが趣味で、幽霊退治人をやっているのだ。西海岸の華やかなマスコミの世界には、なぜか霊やら魔術やらが横行し、ときには本業そっちのけで振りまわされてしまう。象に変身してしまう男だの、人魚と浮気する夫だの、テレビに死人が映るだのといった、常識はずれの怪現象・難事件・大騒動に挑むマックスの手腕やいかに―愛すべき職人作家グーラートが贈る、奇々怪々にして抱腹絶倒のユーモア・ゴースト・ミステリー。内容紹介より



ゴースト・ブレーカー(幽霊退治人)兼オカルト探偵マックスを主人公にした短編集

さてこの本、カバー・イラストからして読む気をなくさせますが、浅倉久志さんが訳しているので読んでみました。祝祭日に象に変身する男「待機ねがいます」、TVに映る歌う幽霊「アーリー叔父さん」、ポルターガイスト現象「撮影所は大騒ぎ」あたりはアメリカ人が大好きそうなスラップスティック的思いつき的突飛系ジョークを小話に仕立てただけみたいな作品。ここまでは予想通り。しかし、およげ!たいやき君みたいな魚が出てくる「人魚と浮気」からややまともになり、「カーニイ最後の事件」以降はストーリーが重層(あくまでこの短編集の中で比較して)的になってきてバカバカしいの一言で片付けるのもなんだなな作品に仕上がっていると思います。
カーニイが結婚してからの話は『鎌倉ものがたり』(西岸良平、扶桑社)風でした。
あまり悪のりしていないところが好印象です。やはり浅倉さんが褒めているだけのことはありました。


ゴーストなんかこわくない―マックス・カーニイの事件簿 (扶桑社ミステリー)ゴーストなんかこわくない―マックス・カーニイの事件簿 (扶桑社ミステリー)
(2006/03)
ロン グーラート

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

「全署緊急手配」デイヴ・ぺノー ハヤカワ文庫

2008-04-08

Tag :

☆☆☆

無線機ががなりたてる。「三号車へ。殺人の通報があった。現場へ急行せよ」保安官助手のギルは辟易しながらパトカーを駆った。どうせ酔っ払いか、いたずら電話に決まっている。しかし現場に到着したギルは呆然とした。無残な姿で横たわっているのは自分の妻だったのだ…… 警察を嘲笑うかのように、警官の妻惨殺事件は続いた。そして、捜査に乗り出した地方検事事務所の特別捜査官、ホイット・ピンチョンの身辺にも、犯人はその魔手をのばしてきた! 東部の田舎町を舞台に、タフで頑固な捜査官の執念の捜査を詩情豊かに描き出す新警察小説登場。内容紹介より



ジェットコースター(わたしはこの言葉を使い過ぎ、反省)が、これからゴールを目指して急な下り坂を降りかけている時に、唐突に乗客が乗り込み、ジェットコースターは時々ブレーキングしながら下って行く。その上、終点のホームではオーバーランしてしまったと…。ものすごく分かりにくいと思いますが、このストーリーのクライマックスの場面を例えるとこんな具合です。終盤の催眠術師の登場はいきなりな感じがしますし(なんらかの形で物語の始めに言及しておくか登場させておくべき)、彼が犯人を目撃した被害者にかける催眠術の場面と犯人に誘拐された人質の様子とが交互に描写されるけれど、催眠術の場面が勢いを殺いでいます。その上、ラストに下した犯人への処理の仕方があれでは。

一応警察小説のジャンルに含められるでしょうが、主人公の立場は検事事務所の特別捜査官ですので警察機構に嵌まっているわけではなくて、警官たちに嫌われたり煙たがられています。そこらは普通の警察小説ではないです。それからこの男、名探偵でもないし、なんとも中途半端なキャラクターでした。

終わり良ければ全て良し、といいますが、この作品には終盤の欠点がそれまでの良さを駄目にしている印象を受けました。


全署緊急手配全署緊急手配
(1990/07)
デイヴ・ペノー、Dave Pedneau 他

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「冷えきった週末」ヒラリー・ウォー 創元推理文庫

2008-04-05

☆☆☆☆

2月29日の深夜、名士たちのパーティから一人の女性が姿を消し、翌朝、死体となって発見された。同時にプレイボーイの富豪が妻を残して失踪。二人を結ぶものは?もつれあう愛憎と打算を解きほぐすべくフェローズ署長の捜査はつづく。105項目のデータと29の疑問点を提出。綿密な伏線と徹底したフェアプレイで読者に挑戦する、警察小説の巨匠ウォー屈指の本格ミステリ、本邦初訳!内容紹介より



良い意味で普通の正統的な推理小説といった感じ。被害者やその娘や夫をはじめとして人物も描けているし、謎の仕込み方も予想できなかったです。今時のはったりの多いミステリと違って地味めなところも安心して読むことができた点です。犯人の意外性は大きいものがあります※が、ただ真犯人を徐々に追い詰めて行くサスペンス性には乏しい。

第十章くらいまでの話の展開が遅々としていて、カットバック手法やジェットコースター的ストーリーに慣らされている者にとっては少しきつかったです。フェローズ署長は名探偵なんだろうけど個性が薄い印象を受けます。私見ですが、ウォーって真面目そうな感じですね。

以下、ネタばれです。



※これは犯人の登場場面が偏っているからとも言えます。


冷えきった週末 (創元推理文庫)冷えきった週末 (創元推理文庫)
(2000/09)
ヒラリー ウォー

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テーマ : 海外ミステリ
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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