「容疑者」L・R・ライト 二見文庫

2008-05-31

Tag :

☆☆☆☆

アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞受賞作
旧知の老人を撲殺したとき、ジョージは思った。我が80年の人生に秘められた痛みを蘇らせた報いだと……。事件を担当した中年刑事アルバーグは、当初からジョージに疑いの目を向けた。そして自分の愛する女性と容疑者との心の絆には気づかぬまま、謎の犯行動機に肉薄していくが……。カナダ沿岸部の美しい村を舞台に、殺人事件の裏に潜む人間の愛と哀しみを繊細な筆致で浮彫りにする逸品!内容紹介より



同じカナダの作家、エリック・ライトの身内かと思ったらまったく関係ないと訳者(山田順子さん)あとがきに書いてありました。さて、MWA賞受賞作には、たまにトリックなどのミステリ部分の出来映えうんぬんより、人間を巧みに描いている作品がみられますが、本書もその範疇に入るのでしょう。物語の冒頭は倒叙ミステリかと思わせますが、容疑者のジョージ、友人の司書カッサンドラ、彼女と交際する担当刑事アルバーグ、この三人が形作る微妙な関係、人間ドラマに重きを置く犯罪心理小説の色合いが強いかと思います。しかし、主人公が八十を越えたおじいさんで他のふたりは中年なので、全体の雰囲気はドロドロ生臭いわけではなく、枯れてしみじみ(あるいは、かなり地味)しています。そのため草木、花、自然描写が生きています。

カッサンドラと病弱な母親との関係、アルバーグの離婚、これらについての書き込みがちょっと浅い気もしますが、バランス的にはこんなものか。ただ、ジョージにくらべて被害者のカーライルの存在感が希薄に感じました。彼の嫌さがあまり伝わってきませんでした。シリーズ化しているみたいなので他の作品も探して読みたいです。


容疑者 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)容疑者 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)
(1986/11)
L.R. ライト

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ミニ・ミステリ100」(下)アイザック・アシモフ他編 ハヤカワ・ミステリ文庫

2008-05-30

☆☆☆

こんなことになるなんて、夢にも思わなかった。フライト・スケジュールが狂って目的地から離れた町に寄り道したのだが、そこで財布をなくしてしまった。困り果てたすえ、他人から金を借りようとして、強盗と間違われ、警官にも追われる身となった。一文なしのわたしは、ホテルにももどれず、さまよううちに、いつの間にか、こぎれいな住宅地にさしかかっていた……日常のささいな出来事が男の運命を狂わせてゆく恐怖を描いた上記「あなたにだって……」をはじめ、ヘンリイ・スレッサー、ビル・プロンジーニらが彩る最終巻。(本巻は34篇収録) 内容紹介より



「あなたにだって……」ジョン・ラッツ
わたしにだって……、あるかもしれない人を殺したことくらい…夢の中で…。
悪夢みたいな話。ショート・ショート形式より、徐々に男が追いつめられていく過程を丁寧に描いた短編で読みたい、そんな設定です。

「果てしなき探索」トマシーナ・ウィーバー
別れた妻を探す帰還兵のスリラー・サスペンス。サイコパスの男の一途な愛情が哀れで悲しい。読み手に様々な想像をさせる切り取り方だと思います。

「旅の子供」フレッド・S・トビー
現代版(ネタばれ→)サキの「開いた窓」みたいな話。ジェット旅客機の中で知り合った大学教授と少女。

「ミセズ・トゥイラーのお買い物」ラール・J・リトク
「旅の子供」の少女が歳をとったらこんなおばあさんになるのでしょう。私設の猫福祉センターの餌代を調達するために万引きするミセズ・トゥイラーと地獄のエンマ様の話。人(特に男性は女性)を外見やイメージで判断するととんでもない目に遭うという教訓が含まれていると思いますね。おばあさんのしたたかさが愉快。

「とらわれびと」エドワード・ウェレン
ルース・ウィスマンの「マチネー」とともに解説の都筑通夫氏が褒めている一作。

この本に限らず、ショート・ショート集または超短編集のなかで得てして上手くまとめようとしている作品は、結果こじんまりとしてしまい、読者に想像または解釈の余地を残していないものが多く、作者、とくに著名な作家の「どうだ」感あるいは「どんなもんだい」みたいな鼻息を感じる場合があるように思います。まあ、読めば読むほどスタンダードな作品には飽きてしまうこちらの事情もありますが。



ミニ・ミステリ100 下    ハヤカワ・ミステリ文庫 89-3ミニ・ミステリ100 下  ハヤカワ・ミステリ文庫 89-3
(1983/01)
不明

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ミニ・ミステリ100 (ハヤカワ・ミステリ文庫)ミニ・ミステリ100 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2005/05)
アイザック アシモフ、

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

「諜報作戦/D13峰登頂」アンドルー・ガーヴ 創元推理文庫

2008-05-28

Tag :

☆☆

新兵器のテストのさなか、NATOの実験機がソ連のスパイにハイジャックされた。乗組員がなんとか機を奪還したものの、ミグの攻撃を受けて大破、ソ連・トルコ国境にまたがるD13峰の頂上に墜落してしまった。西側は新兵器を爆破すべく、また東側は新兵器の奪取をめざし、それぞれ精鋭の登山隊を送りこむ。人跡未踏のD13峰。その極寒の地獄で、いま決死のサバイバルが始まった。内容紹介より



初版は1971年。作者はあの『ヒルダよ眠れ』を書いたひとなので意外です。なぜならなんと本書は山岳冒険小説だから。山登り小説=冒険小説の単純な公式が成り立つ傾向があるのではないかと勝手に想像してしまいますが、しかし、山岳小説とはようするに急勾配の坂道を上って下ってくるだけの話なわけで、それにクレバスとか雪崩、落石などの自然現象が加わるだけで、あまりバリエーションが豊富じゃないし、それ以外の要素を付け加えにくいからどれも似たような話になりやすいのも事実です。

本書の登山部分は、わたしごとき素人が読んでもまじめでかなりしっかりした小説だと感じるけれど、冒険に関してはやはり目を引くところがありません。これより三年後に出版されたトレヴェニアンの『アイガー・サンクション』がより娯楽小説として成功しているのはその辺の違いなのでしょう。

KGB職員の描き方は相変わらずですが、ソ連については結構公平な見方をしているように思いました。ソ連のその後を予見するような政治体制の流動性について言及している箇所があって面白い。冒険小説といえば、どうしてもイネス、バグリイ、マクリーンを先に読んでしまっているから、本書みたいに年数を経た内容がおとなしい作品は今読まれると不利ですね。



諜報作戦 D13峰登頂 (創元推理文庫)諜報作戦 D13峰登頂 (創元推理文庫)
(2000)
永井 淳アンドルー・ガーヴ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「夢みるピーターの七つの冒険」イアン・マキューアン 中公文庫

2008-05-26

Tag :

☆☆☆

ぼく、夢をみているんだろうか、それとも…ふとしたはずみで想像の世界に心を奪われてしまう空想少年ピーターが遭遇する、スリリングで、おかしくて、そしてちょっぴりせつない秘密の冒険。現代イギリス文学界を代表する作家イアン・マキューアンが、子供と、むかし子供だったすべての人に心をこめて贈るとっておきの物語。 内容紹介より



原題が『The Daydreamer』で、冒頭に引用されている言葉はオウィディウスの『変身物語』からとられています。ようするに空想癖のあるピーター少年が見た白昼夢の話ですが、「毎日すこしの時間でもひとりですごし、自分がいったいだれなのかとか、自分はいったいどんな人間になれるだろうかとか、思いだすようにすればいいのにとピーターは思いました。そうすれば、世界はもっとしあわせな場所になり、戦争なんか起こらずにすむかもしれないのにと」(p16)なんて十歳の子供が考えるだろうか?第七章の「大人」みたいなことを空想するだろうか?作者の大人の目が見え隠れして気になりました。「こども」を出しにした「おとな」向けの作品なのでしょう。

白日夢だったらJ・サーバーの「ウォルター・ミティの秘められた生活」のほうがずっと子供らしく、「いじめっ子」では、サキの作品のような少年期の残酷性を描くわけでもなく、すべてが中庸でおとなしい印象を受けました。
解説の角田光代さんの小学生時代の“車のスリップ止め”を使った遊びのエピソードには、ロアルド・ダールの短編「お願い」を連想しました。それにくらべると、マキューアンのこの作品は想像を突き詰めた先にある恐怖とは無縁な話でもあります。

そんななかで、予想外の展開が面白かったのは「赤ちゃん」でした。


夢みるピーターの七つの冒険 (中公文庫)夢みるピーターの七つの冒険 (中公文庫)
(2005/10)
イアン マキューアン

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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

「スコッツヴィルの殺人」ゲーリー・F・ヴァルコア 扶桑社ミステリー

2008-05-24

Tag :



暑さにうだる田舎町スコッツヴィルで、両腕を切断された身元不明の死体が発見された。その日はちょうど、20年前に起きた殺人事件の犯人が刑務所から出てきたばかり。そんなこんなで小さな町は、上を下への大騒ぎ。一方、フィラデルフィアの弁護士ダン・カーヴァーのもとに茶色の瞳を持つ美しい女が訪れた。行方不明の父親を捜してほしいという。さっそく調査を始めたダンがたどりついたところが、なんとスコッツヴィル。殺人と行方不明、2つの事件を追って、町中を駆けずったダンの前に姿を現わしたのは、欲に駆られた人間たちの20年にも及ぶ愛憎劇の序幕であった。内容紹介より



これは抄訳ではないのかと思うほど、すべてが中途半端で中身がカスカスな印象を持ちました。ぼんやりしたイメージしかわかない主人公と毒にも薬にもならないヒロイン、彼等の子供じみた恋愛ごっこ、相変わらず太った田舎の警察署長とオリジナリティがありません。行方不明になった男の偽の娘、出所してきた男、ストーカーじみた警官助手、市長の娘などは端役なみの扱いで、これら人物たちのその後のフォローはいったいどうしたんだと言いたいくらい書きっぱなしで放りっぱなしです。

はたして被害者の両手を切断する意味があったのかも疑問だし、科学的捜査方法をわざと省いている気がします。いっそ時代設定を古めにしたほうがつじつまが合うだろうに。
二十年前の殺人事件にしても、なぜ殺されなければならなかったのか?説明が抜けていると思うのですが。とにかく作者は構想力が不足していて、細かい部分に対する目配りが行き届いていません。


スコッツヴィルの殺人 (扶桑社ミステリー)スコッツヴィルの殺人 (扶桑社ミステリー)
(1990/02)
ゲーリー・F. ヴァルコア

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「マネー、マネー、マネー」エド・マクベイン ハヤカワ・ミステリ

2008-05-22

☆☆☆


クリスマス間近のアイソラでショッキングな事件が発生。動物園でライオンに食いちぎられた女性の死体が発見されたのだ。87分署のキャレラと88分署のファット・オリーは被害者が空軍の元パイロットで麻薬の運び屋をして大金を稼いでいたことをつかむ。どうやら背後には国際的な紙幣偽造団が暗躍しているらしい。さらに、けちな空き巣、シークレット・サービス、テロリストまで絡んできて、事件は複雑怪奇な様相を……。金と欲に目がくらんだ悪党どもが繰り広げる狂想曲。国際謀略ものの面白さを加味してスケールアップした87分署シリーズ第51作。内容紹介より



最近、87分署シリーズを読んでいると、主人公以外の登場人物たちのいったい誰が最後まで生き残れるのか?ということに興味を引かれます。生き残りそうな人物が早々と死んでしまったり、終盤になってあっけなく殺されたりして。また、すぐ殺されそうなどうでもいいような人間が生き延びたり、こういうのがマクベインて上手いなあと感心します。

そして、主役のキャレラを食ってしまうどころか命を救ってしまうあのオリー・ウィークス!!掃きだめに降りたガチョウのような男が、いつにも増して毒をまき散らしてものすごく愉快。被害者の遺族に悲しい知らせを伝えるのが大好きで、嘆き悲しんでいる未亡人を前にしてケーキの心配をする。ピアノを習い、一つのことに創造的なら別のことにも創造的だ、と思い込み今度は小説執筆まで手を染める。止まるところを知らない彼の自信と独善と独(毒)白が素晴らしい。


マネー、マネー、マネー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)マネー、マネー、マネー (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2002/09)
エド マクベイン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「コウノトリの道」ジャン=クリストフ・グランジェ 創元推理文庫

2008-05-20

☆☆☆☆

秋にアフリカに渡り、春、欧州に戻るコウノトリがなぜ今年はかなりの数帰らなかったのか? 調査に発つ直前、青年ルイは調査依頼主の無惨な死体を発見する。検死の結果、記録のない心臓移植手術の痕があることが判明。東欧、中東、アフリカ、行く先々でルイの遭遇する残虐な殺人。コウノトリの渡りの道に何が隠されているのか?『クリムゾン・リバー』の著者、驚嘆のデビュー作。内容紹介より



デビュー作でこのレベルとは大したものです。
巻き込まれ型の伝統的な西欧風冒険小説で、コウノトリの渡りのルートを辿るユニークなロード・ノベルです。作者はジャーナリストとして世界各地のルポルタージュ記事を書いていたらしく、主人公が訪れる国々の風物や抱える問題が詳しく描かれています。たとえば、ロマ(ジプシー)やイスラエルのキブツのことなど。いかにも取材して書きましたという感じがして、ちょっと説明臭いところもありますが、各地の女性についての主人公のコメントが作者の目線とオーバーラップしているみたいで可笑しい。

凄惨をきわめる犯行が続くわりにあまり重苦しくなく感じる理由は、コウノトリとモラトリアム人間型の主人公のおかげかもしれません。

冒頭、腑に落ちない箇所がいくつか出てきて気になりますが、後半になってその意味が分かります。ただ、読者は後半まで納得できない気持ちを抱いたまま読み進めるのですから、それはプロットとしてどうなのでしょう。それから、ネタばれ→「素人が偶然にしてもプロの相手を殺害してしまうのは不自然ではないかという疑問は最後まで解消されません。

ミステリなれ、あるいは、ミステリずれしたミステリ・ファンに限定しての話ですが、この小説の重大な欠点は、作者が読者の推理の一歩前を行くのでなく、読者のほうが話を一歩先読みができてしまうことだと思います。

日本野鳥の会
オンライン入会受付中です。




コウノトリの道 (創元推理文庫)コウノトリの道 (創元推理文庫)
(2003/07)
ジャン=クリストフ グランジェ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ウィスキー・サワーは殺しの香り」J・A・コンラス 文春文庫

2008-05-18

Tag :

☆☆☆

ジャック・ダニエルズ、46歳。女だてらにシカゴ警察で暴力犯罪を担当する警部補。バツイチ。不眠症。年下の恋人には逃げられたが、いま捜査中の、若い女性を残虐に切り刻んでゴミ箱に捨てるという変質的な連続殺人犯は絶対に逃さない……。ハードボイルドでコミカルなヒロインが贈る、ふふっと笑った後にすくみ上がるミステリ。内容紹介より



あまりに類型的な犯罪と犯人の造形、間抜けなFBI二人組の登場や主人公が半休をとってデート・サービス(交際相手を紹介する会社)に行ったりするので、もしかして『羊たちの沈黙』を始めとするサイコ・サスペンスのパロディなのかと思った次第ですが、訳者あとがきに書かれている作者の創作意図(笑いと恐怖)を読むとそうではなさそうです。
それにしても犯人は幼い頃、猫を虐待して性的興奮を覚えうんぬんなんて、いくらなんでも読み手にとっては食傷気味でしょう。怖すぎて思わず笑ってしまうみたいな作品ではないし。コミカルな主人公とスタンダードすぎる犯罪の二つがしっくりいっているとは言いがたく、木に竹を接いだような印象が残りました。

ユニークさと面白さでは独特のキャラクターを持った主人公だけに、関わらせる事件を風変わりなものにすれば彼女の魅力がもっと生きると思うのですが、それだと作者が目指す方向性とは違った作品(例えばイヴァノヴィッチ路線)になってしまうだろうし。シリーズ化されているようなので今後の邦訳が楽しみです。あっ、そう言えば文春文庫はもうディーヴァーくらいしか海外ミステリは出さないのだったかな???


ウィスキー・サワーは殺しの香り (文春文庫)ウィスキー・サワーは殺しの香り (文春文庫)
(2005/02)
J.A. コンラス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「悪党どもはぶち殺せ!」ジスラン・タシュロー 扶桑社ミステリー

2008-05-16

Tag :

☆☆

悪魔から手に入れた0.666口径リボルバーで悪党どもを闇に葬る世界一の腕利き捜査官、スペクトゥール。切りとられた指、彼宛の挑戦状、そして彼がひそかに愛情を寄せていたコールガール、ゼルの遺体が発見されるなど、犯人はあきらかにスペクトゥールに狙いを定めているようだ。しかし、そんな事件の裏で、驚くべき一大プロジェクトが進行していることなど、当のスペクトゥールには知るよしもなかった……。カナダ人を「ベリー・クレイジー!」と言わしめた、荒唐無稽なバカ・ミステリー! 内容紹介より



いかれた捜査官スペクトゥール・シリーズの第一作目。
偶然、悪魔に魂を売るはめになって、そのかわり惑星一の腕利き捜査官にしてもらった主人公の話です。作者がカナダ・ケベック州出身なのでこの作品はフランス・ミステリの匂いがします。どちらかといえば異臭が。

悪魔との取り引きで腕利きの捜査官になった、というのは小手先の理由付けみたいで子供じみている印象を受けます。もうちょっとぶっ飛んで欲しかった。“ただ理由もなくバイオレンスな捜査官”という設定にしたほうが大人が読むに耐えるのではないかと思いました。あるいは最後にそのネタをばらすとか。
うわべは下品で卑猥を装っていても何か自主規制なり抑制を効かせているふうに見えて、どうしても大人向けジュブナイルの感がします。なぜかレモニー・スニケットの『最悪のはじまり』が脳裏に浮かびました。

まあ、こんなふうに真面目な(?)感想を書くのも野暮なほど荒唐無稽に満ちた物語ですから、読み終わったら「ハッ、ハッ、ハッ」と軽く三回笑って本を閉じるのがよいのでしょうね。


悪党どもはぶち殺せ!―いかれた捜査官スペクトゥール (扶桑社ミステリー)悪党どもはぶち殺せ!―いかれた捜査官スペクトゥール (扶桑社ミステリー)
(2003/11)
ジスラン タシュロー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「夢なき街の狩人」W・L・リプリー 創元推理文庫

2008-05-14

Tag :



秋の午後、狩猟の最中にわたしが足を踏み込れたのは、広大な大麻畑だった。猛犬とライフルで襲撃してくる不審な男を弓矢で撃退し、町の保安官に知らせたが、畑は消え、保安官は殺された。その容疑が友人にかけられ、わたしの胸に火がついた。真相を求め、町の顔役に接近したわたしに、謎めいた美女が囁く……。自然を愛するタフガイの胸のすく活躍を描く正統派ハードボイルド! 内容紹介より



当意即妙、軽妙洒脱(難しい言葉を使う訳者、岩田佳代子さんの真似)のつもりの主人公とその相棒の減らず口にニ十回くらい、本を放り出したくなりました。それから赤鉛筆で文章を削除したくなりました。でも、我慢しました。その上、お喋り野郎二人ともベトナム戦争での出来事で“例の”トラウマを抱えているなんて、あなたたちネオハードボイルドの亡霊か?ストーリーは、スティーヴン・セガール主演系のハリウッド映画ぽくて、主人公が物質主義とか拝金主義とかの現代社会批判をするわりには人物にも言ってることにも深みがなく上滑り気味。まったく何ひとつ新しいアイデアなり要素が認められませんでした。とにかく全てが浅い!

元NFLの有名選手だったという設定の主人公が吐く台詞が、これまたどうしちゃったのって感じ。「アメリカ製造業への追い撃ちを虎視眈々と狙っている、BMWのごとき外国企業のお偉方とのつきあいなどまっぴらだ」(p65)。アメリカを代表するスポーツの元選手にこう言わせてるところが意味深か。きっと作者はUSAを憂う愛国主義者なのかもしれない。

どういう事情で1993年に書かれたものを2005年に日本で出版することになったのだろうか?と疑問に思うほど一時代前のハードボイルド小説でした。創元推理文庫編集部にいったい何があったのでしょう。

軽口をたたく二人に巡査部長が気色ばんだので、部下サムが「彼らは、人を笑わせるのが好きなだけなんです」と取りなしたら、巡査部長「わたしは、ちっともおかしいと思わんがね」(激しく同意)。さらに減らず口を言う二人に、「いい加減に黙らんか!サム、この男がまた口を開いたら、すぐに撃て」(ものすごく同意)(p450~451)。この二人には、わたしもこの言葉を贈りたい。


夢なき街の狩人 (創元推理文庫)夢なき街の狩人 (創元推理文庫)
(2005/12/17)
W・L・リプリー

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テーマ : ハードボイルド
ジャンル : 本・雑誌

「警官殺し」クリストファー・ニューマン 徳間文庫

2008-05-12

Tag :

☆☆☆☆

マンハッタンのミッドタウン・ノースでNY市警の監察官ウォーレン・モットーの射殺死体が発見される。監察官は警官の不正を摘発するのが仕事だが、モットーは手段を選ばないので多くの者に憎まれていた。警部補ジョー・ダンテもその一人だったが、事件の捜査を担当する。モットーの銃を持って強盗に押し入ったチンピラが射殺されて事件は落着をみるが、腑に落ちないダンテはさらに捜査を続ける……。内容紹介より



ジョー・ダンテ・シリーズの四作目だそうですが、相変わらずわたしは初読です。
解説の穂井田直美さんによると、本作でのダンテはそれまでのシリーズ作品とは趣が違っているそうで、一匹狼的キャラから部下とともに事件を解決する警察組織内の一刑事(と言っても課長ですが)に変わっています。それでもカラテの達人であり、終盤のアクションシーンではタフガイぶりを見せていますけど。本書は1992年のMWA賞の最優秀ペーパーバック賞にノミネートされてくらいですから、なかなかの出来映えです。メインの事件と別の事件を同時に捜査するところなどマクベインの87分署シリーズに似ていますが、あくまで添え物的でマクベインの作品が持つわい雑さを醸し出してまではいません。
ただ、舞台であるニューヨークの街がアイソラのように存在感を示し、印象深く描写されていると思います。
警察官の犯罪を調査する監察官の事件というとよくある展開を想像してしまいますし、オーソドックスなストーリーなのですが錯綜した人間関係と意外な真相には感心しました。その後、本シリーズの翻訳が出ていないのは残念です。


警官殺し―刑事ジョー・ダンテシリーズ〈4〉 (徳間文庫)警官殺し―刑事ジョー・ダンテシリーズ〈4〉 (徳間文庫)
(1995/04)
クリストファー ニューマン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「ジブラルタル・ルール」ハーバート・バークホルツ 扶桑社ミステリー

2008-05-10

Tag :

☆☆☆☆

田舎町の下宿屋を焼け、ある少女を襲え、無名大学のバスケットボール・チームに八百長をさせろ、売れないコメディアンを殺せーー死んだCIA副長官オグデンが、正体不明の4人の工作員に宛てた指令書には、それぞれ奇妙な任務が記されていた。しかも指令は、絶対に中止できない「ジブラルタル・ルール」で出されていたのだ! オグデンは、いったい何を考えていたのか? 事態を重く見たCIAの要請で、読心能力を持つ特殊工作員センシティヴたちが、指令の実行を阻止すべく動き出した……好評のシリーズ最新作!内容紹介より(一部改変)



『心を覗くスパイたち』(新潮文庫)、『センシティヴ』(扶桑社ミステリー)に続く三作目だそうですが、わたしはこのシリーズ初読です。なんといっても、病魔に冒されて発したとしか考えられない、常軌を逸した四つの指令の謎が読む気をそそります。各指令を阻止するために派遣された四人のセンシティヴたちの行動が同時進行で描かれ、そのためかなり読みやすく展開がスピーディーです。しかし、やや余分な書き込みに感じられる箇所も見られます。たとえば、〈わたし〉とコメディアンの妻とのモーテルでのやり取りはソープオペラ的だし、〈わたし〉のモノローグは文学表現臭くてそぐわない気が…(p185~186)。元キューバの工作員の昔話はもう少し短くしたほうがいいだろうし、ホテルの一室でのセンシティヴと人妻とその夫さらに工作員たちの行動がドタバタ劇みたいで、全体のサスペンス風統一感からこの部分が浮いている気がしました(p340~348)。いろいろなところでの細部の詰めが甘い印象です。

他にも言いたいことはありますが、それでもプロットはしっかりしていますし、小さな捻りと予想外の展開がありB級エンタメ小説としてとてもよくできていると思います。
工作員のひとりセクスタントにまつわるエピソードはなかなか良かった。

ジブラルタル・ルール (扶桑社ミステリー)ジブラルタル・ルール (扶桑社ミステリー)
(1994/11)
ハーバート バークホルツ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「猫は七面鳥とおしゃべりする」リリアン・J・ブラウン ハヤカワ文庫

2008-05-08

☆☆

誕生してからもうすぐ150年を迎えようとするピカックスの町。平穏な日々の中、クィラランはのんびり新聞コラムを書き上げ、ガールフレンドと楽しいひとときを楽しんでいた。が、そんな時、森で三羽の怪鳥が出現した。そして、ココはドラゴンのような世にもおそろしい唸り声を発し、何かを訴える! それからまもなく男性の死体が発見され……かわいさにますます磨きがかかったシャム猫ココが、事件の真相を明らかにする。内容紹介より



あっ、ピカックスに住むお金持ちのクィララン叔父さんや町のみんなの近況を知らせる手紙がリリアン伯母さんから届いてる。伯母さん、いつもありがとう。どれどれ、読んでみるか。叔父さんは相変わらず他愛もない雑文を新聞に書いて悦に入ってるし、また一人芝居をを演じたそうだ。クィララン叔父さんて以前はすごい事件記者だったはずなんだけど、すっかり角が取れて丸くなったなあ。しかし、二人とも八十過ぎてるとは思えないよ。ポリー小母さんは新しくできる書店の店長になるんだって。小母さんも八十近くになるというのにいつ叔父さんと結婚するんだろう?「アビエント」なんて言って、年甲斐もなくいちゃついてる場合じゃないよね。あれ、またまた、殺人事件が起きたらしいぞ。すっごい高齢化田舎町のくせに物騒なところだなあ。ワシントンDCより恐いところだよ、あの町は。でも、町の住人は殺人事件で悪人が淘汰されていい人ばかりになっちゃったなあ。ところで、叔父さんが四十年以上飼ってるあの二匹の猫はまだ生きてるのかな?生きてるどころかますます元気みたいだ。今度は七面鳥と会話したみたい。そういえばリリアン伯母さんの今までの手紙に犬の話ってあったかな?
てな感じでしたよ。

猫は銀幕にデビューする



猫は七面鳥とおしゃべりする (ハヤカワ・ミステリ文庫)猫は七面鳥とおしゃべりする (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/01)
リリアン・J. ブラウン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「マルヴェッツィ館の殺人」ケイト・ロス 講談社文庫

2008-05-06

☆☆☆☆☆

イギリス貴族のジュリアン・ケストレルは、イタリア滞在中に親しくしてもらった侯爵の死をパリで知り、ミラノに赴く。愛憎うごめくマルヴェッツィ家で犯人を捜そうとするジュリアンの前に思わぬ結末が……。人気作家ロスの遺作にして、アガサ賞最優秀賞受賞作。華麗なる北イタリアが舞台のミステリー巨編! 下巻内容紹介より



ある事情により殺人事件であることを伏せられていた出来事が四年後に明らかになり、ケストレルの調査が始まるという設定が非常に巧妙。第1部を長いプロローグの形にして
国際、国内情勢、マルヴェッツィ家とその周囲の人間関係、謎の歌手など、読者に煩雑にならないよう分かりやすく説明しています。誰が真犯人なのか?それと歌手の正体は?ふたつの謎を提示して最後まで引っ張る手法が見事です。

ケストレルがすでに人格が完成した主人公として描かれていないのもこのシリーズの魅力であって、一種の成長小説ともとれます。
一作ごとに小出しにされる両親や生い立ちの話、徐々に明らかにされるケストレルの過去とそれに伴う負の部分。外面を飾るスーパーヒーロー的才能にかかわらず内包する心の中の脆さを描くことで彼を人間らしく見せて読者は魅了されるのでしょう。これから彼がどう成長し変わって行くのか、とても興味深いのに作者の死によってその後を読むことができないとは本当に残念な限りです。 

マルヴェッツィ館の殺人〈下〉 (講談社文庫)マルヴェッツィ館の殺人〈下〉 (講談社文庫)
(2000/07)
ケイト ロス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

「切迫」ブライアン・ガーフィールド 文春文庫

2008-05-02

Tag :

☆☆

遅まきながら若妻は夫がマフィアであることに気づいた。幼な子をそんな父親の膝元で育てるわけにはいかない。翻然家を出た若妻はきびしい追手の目を逃れつつ、思いきった計画に着手したーー変装、尾行、セスナ機操縦、武闘訓練…男の世界にヒロインを投げこんで、「ホップスコッチ」「反撃」の名手がキリリと仕上げたサスペンス快作。内容紹介より



内容紹介ほどには面白くない。『ポップスコッチ』『ホップスコッチ』並の出来を期待するとがっかりします。前半部分の今までの自分を消して新しい人物へと変わるための様々な手続き、後半部分の逃走場面は緊迫感とスリルを感じましたが、その間を繋ぐ恋愛部分が感情変化の描き方に乏しいため陳腐に思えます。
それと、終盤に都合の良い場所と時間に、都合の良い人物が現れる展開は安直すぎる。

ジョー・ゴアズの『死の蒸発』が失踪人(車)を追う側から書かれているとすれば、本書は追われる側から書いてあります。冒頭にゴアズ夫妻への謝辞が述べられているように、“失踪人追跡術”をゴアズから教わったみたいです。登場人物の私立探偵が主人公に語っている事柄がそれに当たるのでしょう。よくアメリカのミステリで、墓石や過去の新聞記事の訃報欄を探して死亡した人物を名乗り、社会保障番号を入手し新しい人物に成り変わる方法を見かけますが、ネタもとはゴアズだったりするのかもしれません。


切迫 (文春文庫)切迫 (文春文庫)
(1986/07)
ブライアン ガーフィールド

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

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