『トレンチコートに赤い髪』スパークル・ヘイター 新潮文庫

2008-11-30

Tag :

☆☆☆

妙な電話がかかってきたのは、大みそかのことだった。その男は、他人に知られたくない少女時代のあだ名や、処女喪失相手の名前まで知っていた! 35 歳のテレビレポーター、ロビン・ハドソンは、恐喝者に指定されたホテルの部屋へ向かってみるが、そのときすでに男は惨殺死体となっていた……。お騒がせレポーターのスラップスティックな探偵ぶりが愛くるしい、注目の新シリーズ。 内容紹介より



だらだらと時間をかけて読んでしまい、ちっとも集中できないまま読了。だから、だらだらとした感想をだらだらと書きます。
TVとか映画とかを舞台にしたミステリは、登場人物がカリカチュアされすぎて苦手なんです。なので、登場人物たちの誰が誰だかよく理解しないで、いい加減に読み終えてしまいました。だから何故邦題に「トレンチコート」と付いているのか分かりません。「だれかがアパートメントに侵入したとわかったのは、出ていったときより部屋がきちんとしていたせいだった」という台詞は個人的にツボでした。新潮社がカバーにわざわざ〈タルト・ノワール〉と銘打っているくらいですから、どちらかといえば女性向きな作品のような気がします。
ところどころ、どうでもいいような場面を詳細かつ小刻みに描写する傾向があるくらいで、可もなければ不可もない作品。

それにしても、あまり一般的とは言いがたい、この背表紙の色合い。新潮社か集英社みたいなお金持ちの会社しかオーダーできないのではなかろうか。



トレンチコートに赤い髪 新潮文庫―タルト・ノワールトレンチコートに赤い髪 新潮文庫―タルト・ノワール
(2002/11)
スパークル ヘイター

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『時計の中の骸骨』カーター・ディクスン ハヤカワ文庫

2008-11-28

☆☆☆

妙な動機から、振り子の替わりに医学用の骸骨の入った大時計をせり落としてしまったヘンリー・メルヴェール卿は途方に暮れた。だがその夜、その骸骨が何者かに盗まれてしまった。謎めいた旧家の当主の死、その傍らに建つ刑務所、古い絞首台の底で発見された惨殺死体……著者独特の怪奇趣味と豪放な探偵H・M卿の醸しだす純イギリス風ユーモアとのうちに、複雑怪奇な事件の謎は次第に大きなカタストロフィへと進んでいく! 内容紹介より



主に死刑囚専用だった廃止された刑務所での肝試し計画、三年越しの男女の運命的再会、メルヴェール卿と伯爵未亡人との矛と楯での対決、刑務所での一夜、伯爵未亡人の窃盗と追跡劇、二つの墜落事件と惨殺死体、巡回市と迷路における対決。怪奇、ロマンス、ユーモア、スリラー、スラップスティック、本格、サスペンスと内容満載のミステリでした。たとえトリックの部分が冴えなくても、これだけ様々な意匠で楽しませてもらえるなら満足です。しかも、それらの要素は統一感があって、目立ち過ぎて浮いてしまっている部分がありません。特にH・M卿と伯爵未亡人とのドタバタなやり取りと廃止された刑務所のシリアスな場面が好対照をなしていて、硬軟自在とでも言えば良いのか作者の才能に感心させられました。

時計の中でも戸棚の中でも骸骨を見たことはありませんが、松林の中でハシボソの骸骨を発見したことはあります。ちょっと自慢。


時計の中の骸骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-2)時計の中の骸骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫 6-2)
(1976/10)
カーター・ディクスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『告白』ドメニック・スタンズベリー ハヤカワ文庫

2008-11-26

Tag :

☆☆☆

わたしは一流の司法心理学者。金持ちの妻と暮らす一方、女性弁護士との不倫も楽しんでいる。が、快楽的な生活は突如終わりを告げた。突発的に意識を失う症状が現れ、不倫が露見し、妻から別居を宣告される。それからまもなく愛人の死体が発見された。彼女の体にはわたしの体液が残されていた。本当にわたしが殺したのか? 濃厚な悪夢が香るサスペンス。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。 内容紹介より



犯人の動機、犯罪の方法、アリバイなどが謎として読者に提示されないこのような形態の心理サスペンスは、果たして主人公が黒なのか白なのかという一点に読者の関心が集まるわけで(作家の方は灰色のまま終わらせるオプションもありますが)、単純なストーリーとも言えると思います。だからバリエーションが利かない分、書き手の腕が作品の良し悪しを決める一つの大きな要因になるでしょうし、この作者の技術は大変優れていると思います。しかし、技術以外のメンタルな面といいますか、味とかアクとか醸し出す雰囲気の面では、作者が放つオリジナリティが認められず、フランスの作家が描くようなものがにじみ出ていない気がします。そのため、この作品から、これまでの同様な作品群の集大成的な印象を受けるのかもしれません。所詮は、大変に良く出来たマクドナルドのハンバーガーとでも言いますか。

そう思って吉野仁氏の解説を読んでみたら、本作は「Hard Case Crimeというペイパーバック・シリーズの一作として発表されたもの」であり、「このシリーズは、黄金期のPBO犯罪小説を現代に甦らせようというコンセプトなのだ」* そうで、つまりは、五十年代の犯罪小説をなぞったものらしいのです。どおりで、もしこの作品が四、五十年前のものだったら傑作と呼ばれていたかもしれないと思ったわけです。となると前述の作者の雰囲気云々の問題は、意図的に出さないようにしたのでしょうか?つまりは読者もマクドナルド限定の美味いハンバーガーのみを欲していたということですかね。

*PBOとは、ペイパーバック・オリジナルの略だそうです。



告白 (ハヤカワ・ミステリ文庫)告白 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2005/12)
ドメニック スタンズベリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ミラノ殺人事件』P・フェラーリ&S・ジャチーニ 扶桑社ミステリー

2008-11-24

Tag :



世界のファッション・トレンドをリードする街、ミラノ。そんな華々しい情報の最前線で活躍していた女性ジャーナリストが、とある出版記念パーティーの席上、衆人環視の中で毒殺された。続けて翌日、今度は出版プレゼンテーションの混乱にまぎれて、やはり出版界の男が刺殺される。そして翌朝、真犯人でしか知る由もない殺害の状況を詳細にしたためた匿名の手紙が届いた。売れない作家サンマルツァーノは、この一連の連続殺人事件を同時進行の小説に仕立てようと、事件の真相に迫ってゆく。しかしその間も、一人また一人と連続殺人の犠牲者は増え続け、やがてサンマルツァーノにもその魔手が…。喧噪と欲望渦巻くミラノを舞台にした、本格ミステリー。 内容紹介より



イタリアという国はもともと共和国など小さな国の集合体らしいので、そこに住む人々をひっくるめてイタリア人と定義することは誤解を招くかもしれませんが、ここでは広義の意味で使わせていただきます。彼らイタリア人はミステリの書き方の英米的定型を踏襲したくないのか、それとも出来ないのか、たぶん前者だと思いますが、かなりイタリア的でユニークといえばユニークな作品。ラストにおけるミステリとして帳尻を合わせるやり方から判断すると、作者は意図的に型を外しているのか、あるいは、外さざるをえない国民的気質のせいなのか、そこに至るまでの展開はとても「本格ミステリー」と呼べないくらい風変わりなものです。

とにかく、慣れないイタリア人の名前が大量に出てくること、それらの登場人物たちのほとんどが出版関係に携わっていること、視点が一人称と三人称多視点の混雑であること、それが短い章で頻繁に交代すること、物語が大部分が大人数で雑多な「お喋り」で構成されること、探偵役の作家の行動が犯人を捕まえようとするわけではないこと、これらのために非常に、ものすごく、すこぶる読み辛い作品でした。余談ですが、観光ガイドブックとしての役にも立ちません。



ミラノ殺人事件 (扶桑社ミステリー)ミラノ殺人事件 (扶桑社ミステリー)
(1990/11)
P. フェラーリS. ジャチーニ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ターミナル・マン』マイクル・クライトン ハヤカワ文庫

2008-11-22

☆☆☆

ロサンジェルスの大学病院に一人の男が収容された。彼の名はベンスン。精神性の発作で暴力をふるう危険な男だった。病院当局は彼の発作を制御するためコンピュータを埋めこむことを決定する。手術は成功したかに見えたが、ある夜、患者つき精神科医のロスが病室を訪れるとベンスンは姿を消していた。しかも不測の事態が発生し、彼は六時間後に制御不能の発作を起こすという。闇に消えた男を追って必死の捜索が始まった! 内容紹介より



11月4日、マイクル・クライトン氏がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。

恐竜好きなわたしにとって『ジュラシック・パーク』の衝撃がすごかったせいか、この人の作品に精通している気でいましたが、訃報に接し、実はほとんど読んでいないことに今さらながら気が付いた次第です。
そこで故人を偲びつつ、本書から読んでみることにしました。

著者のテーマのひとつである、人間と科学技術との関係、進歩するテクノロジーと生命や心との問題や課題が取り上げられています。あの傑作『ジュラシック・パーク』でも恐竜を復活させる遺伝子工学と生命倫理の問題がありましたが、本書では人間の脳をコンピューターによって制御する精神制御が取り上げられています。この二つの作品はプロットも似通っていて、最先端科学技術の人・生物への応用実験、それに反対ないし批判的人物の存在、計画の成功、なんらかの理由による齟齬の発生、厄災という流れです。
本書は、いかにコンピューターを使って発作をコントロールするのかという部分が興味深く、ベンスンの手術から失踪までは読みごたえがあります。しかし、その後の事件と捜査の部分になると少し盛り上がりに欠ける気がします。

医学やコンピューターについての複雑で難しい事柄を分かりやすく、ストーリーのテンポを落とさず読ませる作者の才能には改めて感心させられました。文中において時代劣化を起こしやすいコンピューターの記述部分がそうなっていないこともすごいですね。



ターミナル・マン (ハヤカワ文庫NV)ターミナル・マン (ハヤカワ文庫NV)
(1993/04)
マイクル クライトン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『名犬ランドルフ、謎を解く』J・F・イングラート ランダムハウス講談社

2008-11-20

Tag :

☆☆☆

ぼくの名はランドルフ。文学通で、新聞だって毎日かかさず読むけど、正真正銘の犬、黒ラブラドールだ。ご主人はお人よしの新人画家、ハリー。困ったことに、ハリーが匿名の招待状に誘われるままに、のこのこ怪しい降霊会に顔を出すものだから、殺人事件に遭遇してしまった! そればかりか、不審な人影がご主人をつけまわすようになり……。ご主人様の窮地こそ、愛犬の出番。犬ならではの嗅覚で難事件に挑む! シリーズ第一弾  内容紹介より



井狩春男氏のエッセイ「イヌよりネコが売れるのはなぜ?」(『本屋通いのビタミン剤』ちくま文庫)によると、イヌとネコのカレンダーのどちらの方が売れるかというと、ネコの方がイヌの一・五倍から三倍売れるそうで、その理由のひとつに「体の大きさ」を挙げています。つまり犬種が多種多様なため好みが分散してしまうということなのでしょう。
さて、ミステリ小説の世界ではどうかというと、やはりネコ・ミステリの方がイヌ・ミステリよりも数が多いのではないかと思います。わたしはR・A・ハインラインと同じくネコ派なので、とくにそう感じてしまうのかもしれませんけれど、主人公など登場人物のペットとして作品に登場する機会は同じ程度かもしれませんが、ネコをテーマにしたアンソロジーやネコが主役級の長編作品はイヌのそれよりも多い気がします。

というわけで、貴重なイヌ・ミステリの一冊である本書は、ラブラドールが主人公です。突然変異ですごく頭が良く生まれつき、愛読書がダンテの『神曲』で、用を足すときは「木陰型」の雄イヌ、中年。主人公にとっては元々の飼い主であり、現在の飼い主にとっては婚約者だった女性が約一年前に謎の失踪をし、その傷が未だ癒えないひとりと一匹が小説家殺人事件に巻き込まれてしまう話です。このふたつの謎が提示され、それがどう展開して係わり合っていくのかが興味をそそるわけですが、主人公の「ぼく」の語り口やご主人の職業が画家だったりすることでかもし出されるモラトリアムっぽい雰囲気、容疑者たちの存在感のなさと殺人事件のインパクトの弱さとが作品を気が抜けたように薄くしているように感じます。第二作目以降に語られるであろう婚約者失踪事件の詳細への前ふりあるいは序章みたいな役割なのかもしれません。



名犬ランドルフ、謎を解く (ランダムハウス講談社 イ 2-1 黒ラブ探偵 1)名犬ランドルフ、謎を解く (ランダムハウス講談社 イ 2-1 黒ラブ探偵 1)
(2008/03/01)
J F イングラート

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『リトル・クロウは舞いおりた』マーク・T・サリヴァン 文春文庫

2008-11-18

Tag :

☆☆☆

雪に閉ざされたカナダの森奥で、一人、また一人と殺されてゆく。銃で狙われ、弓矢で射ぬかれ…… 襲われたハンティング・ツアーに参加したダイアンはかつての森の主インディアンの血を受け継ぎ、幼い日にはリトル・クロウと呼ばれていた。追いつめられて、ダイアンの野生の血がめざめた…… エドガー賞候補の傑作サスペンス。 内容紹介より



ネイティブ・アメリカンの血を引くヒロインが活躍するミステリといえば、トマス・ペリーの『蒸発請負人』を思い出します。本書も大自然に触れることで眠っていた能力がよみがえるというワンパターンな設定で、ネイティブ・アメリカンに伝わる因習とか霊的能力だとかお決まりの事柄に言及されているのですが、でもマンハントというのは惹かれるものでついつい読んでしまうんですね。亡くなった母親のことやそのことによる父親への不信とその後が回想する形で挿入されるために、狩るか狩られるかの緊迫感と展開の速さが削がれてしまうという傾向があります。主人公のキャラクターに陰影と深みを与えるか、それとも純粋に冒険活劇に徹するか、なかなかさじ加減が微妙な問題です。野生動物の生態や狩猟についての記述などが生真面目に書き込まれて、出来上がりのしっかりした作品という印象を持ったのですが、反面その真面目さが堅苦しく感じられたりもします。

ジャーナリスト出身の作家に見られがちな、取材してきたものを素材のまま作品の中に放り込んだりせずよく料理してあります。ただ、何でも詰め込み過ぎる欠点も見られるので、もう少しエンタメの指数を増やしても良かったように思いました。



リトル・クロウは舞いおりた (文春文庫)リトル・クロウは舞いおりた (文春文庫)
(1998/12)
マーク・T・ サリヴァン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『KIZU-傷-』ギリアン・フリン ハヤカワ文庫

2008-11-16

Tag :

☆☆☆☆

歯を引き抜かれた少女たちの遺体が発見され、新聞記者カミルは取材のためにやってきた。母との確執で飛び出した故郷の町に。取材を始めた彼女は、犯人は被害者の身内なのではとの町の噂を聞く。そんなとき、カミルは母と異父妹に再会した。そして、事件の真相とともに彼女の過去の傷がぱっくりと口をあけ……傷つき壊れる直前の人々が、悲劇を紡ぐサスペンス。英国推理作家協会賞二部門を受賞した大型新人のデビュー作。 内容紹介より



こういう文学作品寄りの心理サスペンスものが苦手なこともあって、読後感が良くありませんでした。人間心理を描いた作品を評価しがちなのはMWA賞だと思っていたら、CWA賞もそうなのですか。それにしても、この作品のテーマは精神分析で簡単に説明できて、割り切れそうなありきたりの動機と人間関係でもって、底が浅くないですかね。もともと類型化しているものに、作者の優れた人物造形とストーリーテリングの技で肉付けした作品という印象を強く受けて、それを超えたところに驚きがありません。新しいアイデアを基にしていない作品に最優秀新人賞がふさわしいのかどうなのか。ケチばかりつけましたけれど、一方、少女から中年の女の世界は見事に描かれ読みごたえがあります。それに比べて登場する男たちの存在感のなさといったら、作者の計算された排除ぶりが窺えます。この人、文学作品を書ける十分な才能を持っていそうです。

ところで主人公には、鋭利な物で自分の身体に文字を書き付ける自傷行為を行っていた過去があって、その刻み付けられた各文字が状況に応じて疼いたり赤く火照ったりします。人間ネオンサインじゃないんだから、これが頻繁に起きるとシリアスな話なのに、この箇所だけギャグになってしまうのですが。



KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 31-1)KIZU―傷― (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 31-1)
(2007/10/24)
ギリアン・フリン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『友はもういない』ユージン・イジー ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2008-11-14

☆☆☆☆

シカゴの金庫破りフェイブと麻薬課の捜査官ジミイ ― 子供時代からの無二の親友でありながら、二人はまったく別の道を選んだ。しかし二人は、お互い相手の仕事には干渉しないはずだった。フェイブが相棒と押し入った部屋で、無惨な女の死体と大量のコカインを目にするまでは……クライム・ノヴェルの次代を担うと絶賛される大型新人が放つ鮮烈なデビュー作  内容紹介より



「話の展開は前半がややスローだが、そのぶん後半が急ピッチで愉しめる」(安倍昭至氏の訳者あとがきより)。
いきなり料理番組に例えますと、材料の紹介(産地は何処だとか、どうやって育てられたかとか、どんな色形をしているだとか)が長くてくどくて煩わしい。人物の背景描写、情景描写、人物の容姿や服装の描写が無駄に詳細に書かれています。通行中のショッピング・バッグ・レディの描写に四行、プール・バーの様子に三十五行そのうち不必要なのが二十五行など、これは作家の新人時代の作品によく見られる傾向ですが、良く言えば丁寧な書き込み、悪く言えば過剰な記述が多すぎです。130ページ以降になると材料説明も一段落して、包丁さばきも巧みに、味付け、火入れとスピードアップして料理完成。前半のイライラが解消されました。

男同士の友情をクライム風にハードボイルド・タッチで描いているところは、ジョージ・P・ペレケーノスの作品と類似点があるかもしれません。偶然かもしれませんが、著者は、ひとつの出来事を三人称多視点から重複して描いていて、これは『『明日への契り』』でペレケーノスが採った手法と同じです。ちょっと分かりにくいかもしれませんので、『明日への契り』の訳者あとがきで佐藤耕士氏が書かれている部分を引用します。「この作品の特徴としてまず挙げておかなければいけないのは、クエンティン・タランティーノ映画の影響だ。タランティーノの《パルプ・フィクション》や《ジャッキー・ブラウン》という映画を見た方ならおわかりだろうが、ひとつのシークエンスを別々の視点から何度も繰り返すのである」(『明日への契り』p518~p519)。ただし、本作品は1987年に発表されているので、タランティーノやペレケーノスの作品よりイジーのほうが早いことになります。



友はもういない (ミステリアス・プレス文庫)友はもういない (ミステリアス・プレス文庫)
(1991/04)
ユージン イジー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『死体にもカバーを』エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫

2008-11-12

Tag :

☆☆☆☆

心機一転、〈ページ・ターナーズ〉書店で働き始めたワケありのヘレン。困ったお客と、もっと困った最低オーナーにもめげず、日々奮闘する彼女に、またも災難が降りかかる。アパートでシロアリが大発生したかと思えば、お次はくだんの最低オーナーが殺される始末。おまけに容疑者として逮捕されたのは意外な人物で……!? 南フロリダで職を転々、必死に働くヒロインの活躍、第二弾。 内容紹介より



主人公の女性がなかなか味があって、コージー系の主人公のなかでは個性的です。
彼女はある出来事が起こって以来、人生転がり落ちっぱなし。金運、男運、仕事運まるっきりツキがなく、それもかなり地味目についていない状態がすごく現実感があって切実で可笑しいです。今回の職場が書店というのも興味深い点で、著者あとがきにあるように、作者は書店に一年間勤めた経験があるそうですから、きっと描かれている仕事の内容とか店員、お客さんの様子などリアリティがあるのでしょう。店内風景が読んでいて面白いです。
またそれ以外に、主人公が住むアパートのオーナーや住人にミステリアスな人物を配しているところも、普通のコージー物より巧みな気がしますし、全体にコージー色が薄く感じます。ただ、書店のオーナーが類型的なキャラクターなのは残念です。

ミステリ部分は評価が少々落ちます。犯人が、特別な日に特別な場所へ特別な格好をして死体を置く必要性が感じられませんし、二人目の犠牲者やインコの件も強引さが目立って突飛な印象を受けました。

このシリーズが、ヒロインにあるハンディを負わせ、ドラマや映画の『逃亡者』型状況設定にして、行く先々、転々とする職場々々で事件が起きるという形式を採っているのは上手いアイデアだなあと感心しました。毎回、仕事が変わって新鮮だし、コージー・シリーズにありがちなマンネリに陥らないし、いつも隣近所で殺人事件が起きる不自然さも少しは緩和できますしね。

『死ぬまでお買物』



死体にもカバーを (創元推理文庫 M ウ 15-2)死体にもカバーを (創元推理文庫 M ウ 15-2)
(2007/07)
エレイン・ヴィエッツ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ランドルフ師と堕ちる天使』チャールズ・メリル・スミス 角川文庫

2008-11-10

Tag :

☆☆☆

男は贈り物のプレゼントを開き、チョコレートをつまんだ。次の瞬間、顔が凍りつき、男はぐらりと床に倒れた。事件はランドルフの眼の前で起きた。場所はハートマン牧師のオフィス。ハートマンは高名なTV伝道者であり、巨大組織、グレース法人団体の会長でもある。ランドルフは、自分たちの宗派に入会を申し込んできたハートマンの人物調査を行っていた。その最初の面会の席で、ハートマンの側近が毒殺されたのだ。 やがて第二の殺人が…被害者はやはりハートマンの側近で、毒殺だった。犯人の狙いはハートマンその人を殺すことなのではないか? ランドルフの調査は思わぬ方向に進みはじめていた。好評の僧服探偵シリーズ第3弾! 内容紹介より



チェスタトンのブラウン神父とかケメルマンの〈ラビ・シリーズ〉など聖職者が主人公のミステリは好きです。主人公は一応基本、清貧だろうし、世離れした生活と犯罪捜査とのギャップが面白いと思うので。ところが、このランドルフ師の生活はおおよそ清貧とはほど遠いうえに、壮年の元プロフットボール選手だから肉欲とかありありで、ちょっと生臭い感じがするのです。カトリックと違ってプロテスタントですからかまわないのでしょうが、料理名人の執事がいて、いい服を着て高いコロンなんかつけちゃったりして。かえって、本来はうさん臭いイメージの強いTV 伝道師のほうが人格的に優れているような印象を受けました。 これは作者の意図したものなのか、この対照はけっこう皮肉が効いています。

殺人事件の調査とともに、主人公は、自分の教会に神学校から推薦された牧師見習い学生の採用問題にも悩まされるというサイド・ストーリーが設定されており、この二つのストーリーを通して、普段まったく馴染みのない教会内部での世俗的な問題やスキャンダルを現実的に描き出していると思います。



ランドルフ師と堕ちる天使―推理小説 (1982年) (角川文庫)ランドルフ師と堕ちる天使―推理小説 (1982年) (角川文庫)
(1982/07)
チャールズ・メリル・スミス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『九時から五時までの男』スタンリイ・エリン ハヤカワ文庫

2008-11-08

☆☆☆☆

サラリーマン同様にスーツ姿で九時から五時まで勤めるキースラー氏には、妻にも言えない秘密がある。いつものように仕事先に赴いた彼はおもむろに手袋をはめ、用意した包帯をガソリンに浸していった……氏の危険で魅惑的な仕事ぶりを描いた表題作ほか、高齢化社会の恐るべき解決法を提示した「ブレッシントン計画」、死刑執行人が跡継ぎ息子に仕事の心得を伝える「倅の質問」など、奇妙な味の名手が綴る傑作揃いの全10篇 内容紹介より



「ブレッシントン計画」、「神さまの思し召し」、「いつまでもねんねえじゃいられない」、「ロバート」、「不当な疑惑」、「運命の日」(『眠れぬ夜の愉しみ アメリカ探偵作家クラブ傑作選(3)』収録)、「蚤をたずねて」、「七つの大徳」「九時から五時までの男」(『スペシャリストと犯罪 アメリカ探偵作家クラブ傑作選(8)』収録)、「倅の質問」

個々の作品への感想は控えます。というか出来ないので逃げます。

スタンリイ・エリンの作品て読者に媚びないですね。そんなお愛想などはなから拒否しているように見えます。もしかしたらユーモアの欠片くらいはあるかもしれませんが、どの作品もほろ苦いなんてレベルじゃなくて、非常に苦くて辛くて重くて毒があり、しかも余分なものが削ぎ落とされています。かえって、読み手のこちらが愛想笑いをしてしまいそうな程のいたたまれなさを感じてしまいます。

作品の表層だけ読むなら、確かにそれぞれのテーマやアイデアは古いかもしれません。しかし、じっくり読んでみると作者が作品に取り組む姿勢や厳しい創作態度が伝わってきますし、決してシニカルさなどの軽い方向へ逃げていないことが感じられます。こういう作家を最近は見かけません。長編『闇に踊れ!』のときととくらべて、短編では評価が随分な上がり様で我ながら苦笑。


九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)九時から五時までの男 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2003/12)
スタンリイ エリン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『暁への疾走』ロブ・ライアン 文春文庫

2008-11-06

☆☆☆☆

ナチスの暴虐が席巻するフランス。そこに生きる二人の天才レーサーにイギリス情報部の密命が下った―その運転技術を駆使し、レジスタンス組織を援護せよ。名車ブガッティを駆り、強大な敵の手を逃れ続ける誇り高き男たち。だが組織に潜む裏切り者の手が迫っていた……。雄々しいロマンティシズムの脈打つ英国正調冒険小説。 内容紹介より



S・L・トンプスンの『A-10奪還チーム出動せよ』のようなものを期待して読んだら、かなり違ってました。ものすごく大きくたとえると、ノルマンディー上陸作戦について読もうとしたら、第二次世界大戦のことが書いてあったみたいな。特定のミッションを成し遂げる活劇じゃなくて、大河ドラマみたいなものでした。これは実在した人物をモデルにしたからなのでしょうが(あまり必要とは思われない著者あとがきに書いてあります)、ノンフィクションのようでもあり、ブルドーザーで地ならししたみたいにストーリーの起伏が目立たなくなっています。作者の意図はアクションより愛と友情を描きたかったのでしょう。特にウィリアムズとロベールとの関係が変化していく様子(嫌な奴から好敵手、そして親友へと)は読みごたえがあります。一方、ウィリアムズに対するイヴの気持ちの変化には、唐突な感じを受けました。ローズはロベールと絡ませたほうが人間関係が交錯してより作品に深みが出たのではないかと思いますが。

占領下のパリで、アパートの住人たちが、警官に追われる人物を救うために窓から瀬戸物や家具を投げ落とす場面は良かったです。


暁への疾走 (文春文庫)暁への疾走 (文春文庫)
(2006/07)
ロブ ライアン

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ジャンル : 本・雑誌

『フクロウは夜ふかしをする』コリン・ホルト・ソーヤー 創元推理文庫

2008-11-01

☆☆

一人目は自販機業者、二人目は庭師……。お年寄りが優雅な老後を過ごす高級老人ホーム〈海の上のカムデン〉で連続殺人が発生。事件の手掛かりを掴もうと、アンジェラたちはさっそく行動を開始した。刑事がいくら危険だ邪魔だ迷惑だと言って聞かせてところで、もちろん思いとどまってくれるはずもない。元気いっぱいの老人たちが、探偵きどりで連続殺人の謎に挑戦。好評第三弾。 内容紹介より



年を重ねていないせいか、はたまた人生経験が足りないせいか、まあどちらもなんですけどね、部長刑事から「自分の知っていた人間が死んで、なんとも思わないんですか?」、と一喝されたキャレドニアの「死ぬってことは人生におけるひとつの過程でしかない」という言葉が納得できません。このミステリ・シリーズに欠けているものは部長刑事の言っている精神性なのではないでしょうか。この老婦人ふたりは齢を重ねてはいるけれど、結局、社会的に偉い夫の妻であり苦労知らずで、未亡人になってもお金に困らず心身ともに健康な“お嬢ちゃん”にすぎないような気がします。ここにはサブタイトルの「老人たちの生活と推理」の本物の“老人”、それなりの苦労をして人生の酸いも甘いも噛み分ける人間がいないことが・・・。といくら声高く言っても作者が意図するライトミステリには必要ないし、そういう登場人物はかえって邪魔になるだけかもしれません。しかし、シリーズとして考えると軽さだけが目立ち、読後に漠然とした物足りなさを感じてしまうのです。人当たりは良いけれど薄っぺらい警部補みたいに。ミステリ部分が脆弱なのだから、登場人物をもっと魅力あるものにして欲しいです。


フクロウは夜ふかしをする (創元推理文庫)フクロウは夜ふかしをする (創元推理文庫)
(2003/03)
コリン・ホルト ソーヤー

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ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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