『悩み多き哲学者の災難』ジョージ・ハラ ハヤカワ文庫

2009-05-31

Tag :

☆☆☆

大学で哲学を教えているバーチ教授は、突然、警察に連行された。女子高生が失踪した事件で少女が消息を絶った日、彼女のアルバイト先の駐車場で教授の車が目撃されていたのだ。警察で事情を訊かれた教授は、少女との関わりを否定する。だが、明らかに警察は彼を被疑者として見ていた。しかも少女の毛髪や口紅が車から発見され、教授はますます窮地に……哲学者を見舞った災難を、皮肉とユーモアで描いた思索的サスペンス 内容紹介より



苦笑はあるけれど、内容紹介文に書いてあるユーモアは感じませんでした。
哲学の先生に降りかかった災難が彼や彼の家族、職場に起こした波紋とその顛末。そして、主人公は真犯人なのか、それとも濡れ衣を着せられただけなのか、という謎。後者の謎は、本書が主人公から見た三人称で書かれているけれど叙述ミステリっぽいのと主人公に不利な証拠ばかりが出てくるので読者はハラハラするばかりでラストまで解けません。似たような作品に、ドメニック・スタンズベリーの『告白』というのがありますが、あれ程の毒っけはなく終始抑制されたストーリー展開です。しかし、かえってそれが普通の家庭に起きそうな事件と思わせられて、現実味をおび、身につまされたりするのですね。また一方では、容疑者扱いされるなか大学で講義する様子、一般人からすれば浮き世離れしたように見える哲学教授と世俗的な事件との対比の妙。妻や子どもたちとの間に不協和音が生じて、主人公が感情的になる場面はありますが、形而上学者(彼はヴィトゲンシュタインの影響下にある)らしく会話中でも言葉の使い方や意味付けにこだわったりするなどなにかしらずれているような、あるいは落ち着いて見えるような主人公の生活ぶりが面白かったです。



悩み多き哲学者の災難 (ハヤカワ文庫 NV)悩み多き哲学者の災難 (ハヤカワ文庫 NV)
(2004/11/09)
ジョージ・ハラ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『誘惑は殺意の香り』ハーレイ・ジェーン・コザック ハヤカワ文庫

2009-05-29

Tag :

☆☆

グリーティングカード・ショップの雇われ店長ウォリーの悲願は独立して自分の店を持つこと。そのためデートクラブのアルバイトもこなし、多忙な日々を過ごしている。ところが、予想外の事態が勃発した。偶然道端で射殺死体を発見。しかも現場で出会った怪しげながらも魅力的な男性に一目惚れしてしまったのだ。彼の正体は?殺人事件の真相は?マカヴィティ、アンソニーの両新人賞に輝いた、ロマンティック・サスペンス 内容紹介より



意味不明だけれど訳ありげな邦題。二見文庫から出ているリンダ・ハワードとかアイリス・ジョハンセンなどが書くロマンティック・ミステリ系の本に酷似したカバー写真(キレイなおねえさん)とカバーデザイン。そして、“ロマンティック・サスペンス”という言葉。予想はしていましたが、あまり男性向けの作品ではありませんでした。主人公は正体不明の男によって人質にされてしまうのですが、その男に一目惚れしてしまうといういくらユーモアミステリといえどもあり得ない状況がバカバカし過ぎて読む気が萎えます。主人公がグリーティングカード・ショップのフランチャイズ権を得るための資金を稼ぐ目的で、ふた月で四十人の男性とデートするデート・プロジェクトに参加しているという設定は、大勢の男性が登場して来て読者を混乱させ、ただただストーリーを煩雑にするだけで得るものは少ないように思います。しかもメインストーリーとの関連性がほとんどありません。アメリカの女性読者には受けるのかもしれませんが。作者は映画やテレビなどに出演した元女優だそうです。それにしてもどのページを眺めてもぶちまけたようにカタカナが多いです。



誘惑は殺意の香り (ハヤカワ・ミステリ文庫)誘惑は殺意の香り (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2007/11/22)
ハーレイ・ジェーン・コザック

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ラット・シティの銃声』カート・コルバート 創元推理文庫

2009-05-27

Tag :

☆☆☆

朝食の最中に事務所に押し入り、いきなり銃を撃ってきた大男を、わたしは一弾で倒した。見知らぬ男がなぜわたしを殺そうとしたのか? 助手のミス・ジェンキンズと海兵隊時代の仲間たちの協力で調査に乗り出すわたしの前に浮かびあがってきたのは、警察の腐敗と謎の女。“ドブネズミの街”シアトルを、減らず口を武器に探偵ロシターが行く。シェイマス賞候補のハードボイルド。 内容紹介より



1947年に舞台を取った軽いハードボイルドもの。アメリカンコミック風な印象を受けました。この能天気な軽さの具合とこれまでのハードボイルドを焼き直したかのような展開から、昔風ハードボイルド小説をカリカチュア化したのかとも思いましたがそうでもなさそうです。この主人公の行動を読んでいると、朝起きる、自宅兼事務所で秘書と会話する、事務所を出て調査をする、事件に遭う、酒場で飲んだりする、事務所兼自宅に帰る、こういう探偵の日常生活が何日も続く訳で少し飽きてきます。なんとか話の展開をハイスピード化して欲しいと感じてしまいますが、こういう感情は現代ミステリの展開の速さに毒されていますね、きっと。さて、なにはともあれこのような懐古的ハードボイルドが日本で受け入れられるのかどうか。女性探偵ものに比べシリアスで暗めの男性探偵ものが依然主流を占めているハードボイルド界において、その反動でこのような復古的な軽い作品が求められるのだろうか。やはり、ただのコピーではなく新機軸を打ち出さないと難しいと思います。



ラット・シティの銃声 (創元推理文庫)ラット・シティの銃声 (創元推理文庫)
(2006/07/27)
カート・コルバート

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『紳士たちの遊戯』ジョアン・ハリス ハヤカワ文庫

2009-05-25

☆☆☆☆

伝統ある男子校セント=オズワルド校で不可解な事件が次々と起きる。人種差別を糾弾する落書き、アレルギーをもつ生徒の昏倒、教師は交通違反を密告された。最初は小さな事件に過ぎなかったが、職員の不祥事が新聞に書き立てられ、やがて生徒の一人が失踪するにおよび、学園は危機に陥る。学園を愛する老教師は一連の事件の裏で何者かが糸を引いていると睨み、見えざる敵に挑む……学園を舞台に息づまる頭脳戦が展開する 内容紹介より



作者はグラマースクールでの教員歴があるそうで、学校生活や教職員たちの日常などに精通しているらしく教師や生徒たちの描き方にそういうところが感じられます。内容もかなり読みごたえがあり、作者の構成力は優れていると思います。でも、この作品をチェスゲームに見立てた頭脳戦というのならば、対戦相手であるはずの老ストレートリー先生があまりに弱くて受け身過ぎ。終始防戦とも言えないやられっぱなし。犯人からさんざん攻撃され、さあこれから反撃が開始されるのだろうと思っていたら……。どういう風に犯人の正体を暴いていくのかと楽しみにしていたのに、これでは鬱憤が溜まります。犯人の正体は早々に見当が付きますが、それでも非常に出来が良いだけに終盤の詰めの甘さが余計に目立ちます。犯人からの攻撃に尺を取り過ぎたために、後半部分を端折らざるを得なかったのでしょうか?それによって犯人の帰結も中途半端な印象を与えてしまい、それならなにも殺人を犯さなくても良かったのではないかと、整合性に欠けるのではないかと思ってしまいます。所詮、犯人が起こした事件は、金持ちとある一定以上の階級に立脚したセント=オズワルド校を一過した嵐にすぎなかったのじゃないかという結論になってしまいます。
老先生と生徒たちのかかわり合いは、内容は違いますが映画『いまを生きる』(N・H・クラインバウム原作)を思わせてなかなか感動的。



紳士たちの遊戯 (ハヤカワ・ミステリ文庫)紳士たちの遊戯 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2008/02/22)
ジョアン・ハリス

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『とても私的な犯罪』エリザベス・アイアンサイド ハヤカワ文庫

2009-05-23

Tag :

☆☆☆

インド駐在の英国高等弁務官事務所代表ヒューゴー・フレンチャムが自宅で殺害された。インド警察は強盗の居直りと断定したが、本国から派遣された保安調査員シンクレアは意外な事実を発見する。ヒューゴーの寝室に大量の金塊が隠匿されていたのだ。金塊は何を物語るのか?事件の背後に潜むヒューゴーの秘められた私生活を追うシンクレアは、わずかな手がかりをたどって、喧噪のデリーから悠久の地、ヒマラヤ山麓のラダック地方へ飛ぶ ― 期待の女流新鋭がロマンあふれる秘境を舞台に描く、スリルと冒険の旅、英国推理作家協会最優秀新人賞受賞 内容紹介より



インドを舞台にしているので異国情緒はありますが、いかんせんユーモアがありません。あまり物事に動じない沈着冷静な主人公は、ややもすると喜怒哀楽に乏しくつまらない男になってしまい、私生活に問題を抱えた中年のさえない役人という体であまり魅力を感じられません。活発で才気にあふれた女性学者の方を主人公にすれば良かったのではと思いました。話は2/3までだらだらと特別に事件が起きるわけでもなく続き、終盤は寺院でのかくれんぼ、そして山道でのカーチェイスとまるでアクション映画のような展開へと流れます。25年前の作品ということを考慮に入れても、このアクション場面がいかにもな感じで古めかしい。インドに興味がある方以外にはあまりお勧めしません。




とても私的な犯罪 (ハヤカワ・ミステリ文庫)とても私的な犯罪 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1986/09)
エリザベス アイアンサイド

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『揺さぶり』マイク・ハリソン ヴィレッジブックス

2009-05-21

Tag :

☆☆☆

「強奪した金を持ち逃げした相棒を捜してくれ」― 別々の日に現れ、まったく同じ依頼を口にしたふたりの男。片方が嘘をついているのか、それとも両方とんだ間抜けなのか?
しがない私立探偵の“おれ”エディは、ちょっとした善意からひと肌脱ぐことを決意する。手がかりは一風変わった刺青とハーレーダビッドソン。が、調査を始めたとたん次から次へ凶悪な連中が現れ、事態は悪党のリレーさながらに……。はたして絶体絶命のピンチを脱するため、男の仁義を賭け、エディが“闇の黒幕”に仕掛けた驚くべき揺さぶりとは!? 06年マカヴィティ賞最優秀処女長篇賞ノミネートの痛快ハードボイルド・ミステリー! 内容紹介より



良くも悪くも、どちらかと言えば良い方だと思いますが、ハリウッドが映画化の権利を買いそうな、またはそれを狙って書かれたような軽いノリの作品です。しかし、冴えないけれど男気は持ち合わせている主人公と彼の回りに集まる仲間たちというパターンがもうありふれた感じを与えもします。主人公のエディ、強盗犯のベイカーとワイマン、自動車修理工のノッシャーとスプロッシャー、暴走族のリーダーのファドン、ネイティブ・アメリカンのダニーの七人。キャラクターの強弱があるのとストーリーもまったく違ってはいますが、『水滸伝』の梁山泊編や『七人の侍』の設定をかなり変形したもの。これはやりようによっては手軽でとても効果的手法ですが、本書では都合良く強い者や出来る者たちが集まり過ぎで、特にダニーのスーパーマンぶり(ネイティブ・アメリカンなので神秘的な力強さを秘めているというここでもワンパターンな設定)が浮いてしまい、ちょっと興ざめしてしまいます。この展開の軽快さは見るべきものがあるだけに、型にはまり過ぎなところは残念です。
後、邦題が内容に比べて地味すぎ。




揺さぶり (ヴィレッジブックス)揺さぶり (ヴィレッジブックス)
(2008/05)
マイク ハリソン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ピカデリーの殺人』アントニイ・バークリー 創元推理文庫

2009-05-19

Tag :

☆☆☆☆

ホテルのラウンジで休んでいたチタウィック氏の目の前で、驚くべきことが起こった。二人連れの内の男の手が、連れの老婦人のカップの上で妙な動きをするのが目にとまった。しばらく席をはずしてもどってみると男の姿はなく、婦人は青酸性の毒を盛られていたのだ……。疑問の余地はない単純明快な事件。だが、その裏には……?待望の本邦初訳。
内容紹介より



全編を通じてみられる軽く穏やかなユーモアと探偵役が殺人事件の目撃者であり、自分が目撃したことの信憑性を調査しなければならないというユニークな設定、この二つが読みどころでしょうか。なにか最近のミステリ作品を読んでいてあまり感じなかった気分、これからどうやって謎を解いていくのだろうかという期待感、この本来ミステリ作品が持つべき基本的な要件がこの作品にはあります。物語を読み始めてわくわくする素朴な気持ちを抱かせる作品が近頃少ないような気もします。時代の流れとともに推理小説がミステリと呼ばれるようになり、展開や内容がジェットコースター化、ダークファンタジー化しているからでしょうか。さて、意外な犯人の正体とともに自分が見たことを疑ってかからなければいけない奇妙な立場に立たされた主人公の戸惑いと彼のやや気弱で控えめな性格。気丈でやり手の伯母さん。ふたりの微妙な関係とやり取りが可笑しいです。

巻末に小林晋氏の解説文「アントニイ・バークリー ― 比類なき批評精神」付き。




ピカデリーの殺人 (創元推理文庫 (123‐3))ピカデリーの殺人 (創元推理文庫 (123‐3))
(1984/01)
アントニイ・バークリー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『真夜中に捨てられる靴』デイヴィッド・マレル ランダムハウス講談社

2009-05-17

☆☆☆☆

深夜、決まって教会前に捨てられるひと揃いの靴。真新しい紳士靴やハイヒール ― 毎夜、靴を回収するうちに、やがて靴と犯人探しの虜になってしまった警官を描く表題作「真夜中に捨てられる靴」ほか、謎の箱を死守する南米の将校、若さを渇望する老脚本家、瀕死の父を冷凍保存する息子など、「妄執」をテーマに、狂気に堕ちていく主人公たちを描いた全8篇。エルロイ、キング、クーンツが絶賛する、マレルの奇妙な短篇集。 内容紹介より



「まだ見ぬ秘密」「何も心配しなくていいから」「エルヴィス45」「ゴーストライター」「復活の日」「ハビタット」「目覚める前に死んだら」「真夜中に捨てられる靴」
収録。

どうしても映画「ランボー」のイメージが強くて、この作家にはさほど興味を持てなかったのですが、このような短い作品でも独特の世界を描くことが出来て、さらに読者をそこに惹き込ませる作家はなかなかいるものではありませんけれど、マレルはそれができる作家だと感じました。作品の持つ空気感というかダークさは、キングやクーンツのそれの暗黒ではなくて透明感のある濃灰色みたいな感じがします。もうひとつの短篇作品と言ってもいいような著者あとがきも作者を理解するうえで大変有意義です。

いかにも南米を舞台にした綺談「まだ見ぬ秘密」、意表をつかれる終わり方をする「何も心配しなくていいから」、実際に聴講してみたいエルヴィス・プレスリー論が非常に面白いエルヴィスヲタクの話「エルヴィス45」、作者本人の実体験がかなり盛り込まれているであろう「ゴーストライター」、レオニード・N・アンドレイエフの短篇で、死から甦ったラザロの後日談を描いた「ラザロ」(『血も心も』新潮文庫収録)を何故か連想させる「復活の日」、あまりたいしたことはない「ハビタット」、新型インフルエンザの感染がニュースになっている今、読むとちょっと不気味な兆しを感じる「目覚める前に死んでいる」、日頃、作業用ゴム手袋が落ちているのはよく見かけますが…、ユーモラスな題名とは裏腹な内容の「真夜中に捨てられる靴」。それぞれ作者の短いコメントが付いています。


『廃墟ホテル』デイヴィッド・マレル ランダムハウス講談社






真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)真夜中に捨てられる靴 (ランダムハウス講談社文庫)
(2007/04/28)
デイヴィッド・マレル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『地上九〇階の強奪』ユージン・イジー ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2009-05-15

☆☆☆☆

標的はマフィアのボスの金庫 ― 癌で死を宣告された老金庫破りのボロは、若き相棒のヴィンセントに最後の教えを授けるべく、危険な仕事を請け負った。目的の金庫には、マフィア壊滅の鍵となる証拠テープが隠されている。が、進入経路はただひとつ、地上九〇階のビルの壁面だけしかない! 厳寒のシカゴを舞台に、男たちの熱い友情を謳い上げる感動の物語。 内容紹介より



全体の構成から見ると、『友はもういない』より完成度が高いと思います。デビュー作で見られた欠点が修正されています。なにより金庫破りの師弟、シカゴ・マフィア、二人組の刑事たちを横糸縦糸にしてしっかり編み込んだうえに、ウェイトレスの女性をアクセントに添え、さらにきっちり描いてあるバーの常連客たち(引退した元悪党たち)に周りを囲ませているという具合。人物像とその配し方が巧みです。特に、ヴィンセントの心の弱い部分、昔からの知り合いが自殺してしまった時の後悔、恋人への気持ちの揺れなど非常に上手く描いていると思いました。また、三人称多視点も煩わしさがなくかえって臨場感があり、スピーディーで読み手を飽きさせません。ただ、邦題になっていて、この作品のハイライトなのかと予想していた九〇階の部屋へ忍び込む場面がややあっけなかったのは意外でした。冒険小説風な展開になるのかと想像していたので。バランスを考えると妥当な線かも知れませんが。まあ、それにしてもペレケーノス同様、ここには男の世界があります。




地上90階の強奪 (ミステリアス・プレス文庫)地上90階の強奪 (ミステリアス・プレス文庫)
(1992/09)
ユージン イジー

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『猫はバナナの皮をむく』リリアン・J・ブラウン ハヤカワ文庫

2009-05-13

☆☆☆

バナナ・ダイエット中のクィラランは、しぶしぶとバナナを食していた。しかもガールフレンドが町に新しくやってきた男に興味を持ち始めたから、クィラランとしてはおもしろくない。そんな折、またもココが奇妙な行動を取り始めた。バナナの皮を床に集め、人間を転ばそうとしたのだ! まもなく書店から貴重な古本が盗まれ、さらなる大事件が……。シャム猫が仕掛けるキュートな悪戯に思わず頬がゆるむ、シリーズ注目作。 内容紹介より



ピカックス市の陰の支配者クィラランと妖猫ココのシリーズ。
リリアン先生は悟りの境地、いわゆる彼岸に達しちゃってミステリ作品といえども
犯人が捕まるどころか、実際に疑わしい人物が犯人かどうかということもあやふやなままで終わってもそれで良しという姿勢ですね、真相解明どころか山場もないし、ここ最近。そんなにちゃんとしたミステリが読みたければ他をご覧遊ばせ、みたいな(先生はきっとお上品だろうから)。まあそこまで高飛車な訳ではありませんが、わたくし、長らくクィラランと猫たちのお話を書いておりますのよ、みたいな、いちげんさんはお断りの雰囲気をやんわりとかもし出してたりして。それにしても、人間がバナナの皮で他人を滑らせようとする悪戯なんて、今時誰も面白がらないでしょうけど、さすがにリリアン先生はそれを猫にやらせることを思い付くあたりが素晴らしい、まあ、かなり脱力なんですけど……。
ようやく30冊目くらいから登場人物の多さがあまり気にならなくなりました。


〈シャム猫ココ〉シリーズの他作品
『猫は銀幕にデビューする』
『猫は七面鳥とおしゃべりする』
『猫はひげを自慢する』



猫はバナナの皮をむく (ハヤカワ・ミステリ文庫)猫はバナナの皮をむく (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(2006/06)
リリアン・J. ブラウン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ジョン・ブルの誇り』レイ・ハリスン 創元推理文庫

2009-05-11

Tag : レイ・ハリスン

☆☆☆

1890年晩秋、霧深いロンドンの高架下で、その夜一人の男が殺害された。状況から追いはぎによる犯行の線は消えたが、ではなぜ、平凡な一市民がこのような最期を遂げたのか? 未亡人の窮状に接した市警察のブラッグ部長刑事は、真相究明を心に誓うが……。世紀末ロンドンに殺人犯を追う、たたきあげの硬骨漢ブラッグと貴族出身の新米巡査モートン。時代ミステリの新シリーズ登場。 内容紹介より



高田恵子さんの訳者あとがきにあるように、この作品は、「経理税務畑の経歴」を持つ作者が「会社の帳簿や経理、投資に関係する事件」について書いたもので、買掛帳とか元帳とか送り状とか勘定科目とか、そっち系の用語がたくさん出て来ます。そこに犯罪の痕跡を見つけだして調査を始めるのですが、ああだこうだとなかなか核心に辿り着けず、結構長く引っ張ったわりに犯人との対決はドタバタコメディみたいな結末になっています。ミステリとしては単調ながら、このシリーズの読みどころである時代背景、風俗習慣、階級社会などが田舎出の部長刑事と貴族出身の巡査の各々の視点から、それぞれの出身階級を超えて体験した事柄が新鮮な驚きを持って活き活きと描かれています。異なる階級出身の二人を警察という場で組み合わせたことにより、物語に多面性と重層性が生まれていると思います。一応、階級のない均一化した社会に暮らす日本人のわたしには興味深かったです。


レイ・ハリスンの他作品
『下院議員の死』
『デスウォッチ』




ジョン・ブルの誇り (創元推理文庫)ジョン・ブルの誇り (創元推理文庫)
(1991/04)
高田 恵子レイ・ハリスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ロボットの時代 [決定版]』アイザック・アシモフ ハヤカワ文庫SF

2009-05-09

☆☆☆☆

月世界開発用に調整されたロボットが地球上で行方不明になって起こったとんでもない大騒動を描く「AL76号失踪す」、地球から派遣されたロボットと木星人との奇妙な遭遇「思わざる勝利」、美男子の召使いロボットのトニイと女主人クレアのただならぬ関係を描く「お気に召すことうけあい」、ロボット心理学者スーザン・キャルヴィンが活躍する「校正」など、愛すべきロボットたちを描きだす『われはロボット』の姉妹短篇集 内容紹介より



「AL76号失踪す」「思わざる勝利」「第一条」「みんな集まれ」「お気に召すことうけあい」「危険」「レニイ」「校正」収録。

巻末に水鏡子さんが「ロボットから人間に」という一文を寄せていて、そのなかで
アシモフとフィリップ・K・ディックのロボットにたいする考え方の違いを指摘されています。以前にも書きましたが、わたしにとってもディックの作品の中のロボットは、短編「変種第二号」や「ジョンの世界」に登場するヒト型クローと呼ばれる傷痍兵型、女兵士型、少年型をした対人殺傷用ロボットの恐いイメージが強くて、本書でアシモフが描くロボットたちとは非常に対照的です。なぜアシモフのロボットたちのほとんどがこうも安全で安心なのか、というとそれは当然「ロボット三原則」という安全弁が取り付けられているからですね。唯一そうでないのが「みんな集まれ」のヒューマノイドで、これはディックのクローと同じ対人用の兵器だからです。はたしてアシモフは対人殺傷用ロボットの悪夢を見ることがあったのでしょうか?



ロボットの時代 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)ロボットの時代 〔決定版〕 アシモフのロボット傑作集 (ハヤカワ文庫 SF)
(2004/08/06)
アイザック・アシモフ

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テーマ : SF小説
ジャンル : 本・雑誌

『エレヴェーター殺人事件』ジョン・ロード/カーター・ディクスン ハヤカワ・ポケット・ミステリ

2009-05-07

☆☆☆

本格推理の巨頭二人がものにした密室ミステリの金字塔
自動エレヴェーターの唸るような低音にまじって、妙に虚ろな音が響き、やがてそれがはたと止んだ。銃声のようだった。グラス医師は玄関へと突進した。玄関番がエレヴェーターのドアをなかば引き開けていた。そこにはタラント出版社社長のアーネスト・タラント卿が身動きもせずにうずくまっていた。その両脚は硬直して投げ出され、上体は前かがみになって、その左胸、心臓の真上に真っ赤な血痕が拡がっていた……。密閉された鋼鉄のエレヴェーターの中で行われた完全殺人に、ロンドン警視庁にこの人ありと知られた名警部ホーンビームが挑む! 内容紹介より



思っちゃいけないんですけど、こういう本格推理小説の密室ものを読むとどうしても、何でもっと簡単な方法で通り魔殺人に見せ掛けて殺さないのかと思いますよね。本当にそれを言っちゃお終いなんですけど、思ってしまうものは思ってしまうんですっ。密室ものでもそこになにか不気味さや怪奇さみたいな雰囲気でもあれば楽しめるのでしょうけれども、この作品にはおどろおどろしいものがないんです。単なる理系ミステリになってしまっています。アイデアはすごいとはおもいますが、だから何?みたいな。生物学みたいに表せば、ミステリ科本格ミステリ属密室ミステリ種が進化の袋小路に入ってしまったのは、このような機械仕掛けの密室ミステリに依るところが大きい気がします。

個人的に可笑しかった箇所は、出版社の女性秘書がグラス医師に来客者の名前の記憶方法(名前から物を連想して覚える)を得意げに教えるのですが、眼鏡をかけているグラス医師の名前をグラス(眼鏡)で覚えていたのに、それがグリーンハウス(温室)からゴールドフィッシュ(金魚)へと変わってしまう場面です。こんなくすぐりが前半部分に三箇所ほどあったのに後半そんな場面が見られず残念でした。

『時計の中の骸骨』カーター・ディクスン ハヤカワ文庫



エレヴェーター殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ 390)エレヴェーター殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ 390)
(1984/02)
ジョン・ロードカーター・ディクスン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『古時計の秘密』キャロリン・キーン 創元推理文庫

2009-05-05

☆☆☆

ナンシー・ドルー18歳、金持ちの老人の遺産を、強欲な親戚一家がむりやり独り占めし、これまで老人から援助の手を差し伸べてもらっていた人々が困っているらしい。みんなに遺産がいきわたるようにすべく、ナンシーは遺言書捜しに奔走する。正義感が強く好奇心旺盛なナンシーが、大人顔負けの活躍で事件を解決する、長年にわたり人々に愛されてきたシリーズの、記念すべき第一作! 内容紹介より



シリアルキラー、変質者、テロリスト、ギャングと戦い、毒薬を嗅ぎ付け、銃弾を避け、ナイフの切っ先をかわし、出くわした死体の数も半端じゃない、麻薬中毒者を更生させ、負傷者を病院へ運ぶ、検事や弁護士との法廷闘争、そんな緊張した日々を送るあなたが悪との戦いに疲れてちょっと息抜きをしたい時に読ませたい本。あなたの明晰な灰色の脳細胞を働かせる必要はありません。もちろんジェットコースターみたいなスリル、サスペンスはありませんが、ティーカップやメリーゴーラウンドの安心感と心地よさは感じられます。たまにはこういう作品も良いでしょう。ただ、現代の18歳の女性のイメージと1930年代の18歳のそれとのギャップに違和感があるのとミギー氏のカバーイラストが男のわたしにはちょっと恥ずかしいです。



古時計の秘密 (創元推理文庫)古時計の秘密 (創元推理文庫)
(2007/11)
キャロリン キーン

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『カッティング・ルーム』ルイーズ・ウェルシュ ハヤカワ・ポケット・ミステリ

2009-05-02

Tag :

☆☆☆

頽廃的な生を謳歌する同性愛者の競売人リルケ。彼は死んだ老富豪の遺品を売りに出してほしいと依頼され、ほどなく老富豪の部屋でポルノ本の蔵書を発見する。その中には修道女が拷問具で責めたてられた末、恍惚とした表情で死んでいる写真が挟まれていた。はたしてこれは殺害の過程を克明に写したスナッフ写真なのか? 写真の妖しさに魅了されたリルケは調査をはじめるが、アンダーグラウンドの世界に足を踏み入れ、徐々に精神を病んでいく……。精神と肉体を堕落させるクライム・サスペンス。英国推理作家協会が脱帽した最優秀新人賞受賞作。 内容紹介より



同性愛者同士のきわどい場面が描かれていて、普通のミステリとはちょっと違ってたりしてます。幻影的かつ倒錯的な内容なのかなと想像していましたが、蓋を開けてみたらどんどん下世話な展開に堕ちていきました。一葉の古い写真に誘われ、それを入り口にして、主人公は人間の欲望がはびこる陰の世界へと入って行ってそこに棲みつく者たちと出会い、また友人知人たちの影の部分を知ることになります。性への欲望とそれが生み出すお金とそれに群がる魑魅魍魎たち、主人公はそんな世界をさまよう騎士みたいな存在なのかもしれません。彼の動機に写真に写る殺されたのかもしれない娘への弔いの気持ちとともに写真に性的な意味で惹き寄せられる気持ちがあるにしても。
主人公の職業がオークション会社の競売人というところも興味深いし、アンティークや芸術についての話がぺダンティックにならずさらりと語られるところも良いと思います。



カッティング・ルーム (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)カッティング・ルーム (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2003/07)
ルイーズ ウェルシュ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

プロフィール

てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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