『コンラッド・ハーストの正体』ケヴィン・ウィグノール 新潮文庫

2009-07-31

Tag :

☆☆☆☆

あの4人を消せばいい―。殺し屋コンラッドはある日、自分の変わり果てた姿に初めて気づいた。最愛の人を失ってから9年間、彼は指示されるまま無慈悲に殺しを重ねてきたのだ。自由になるのに邪魔な男は4人だけ。だが、始末に取りかかった彼は、驚愕の事実を知る。自分は誰のために殺してきたのか。自らの人生を取り戻すことはできるのか。哀切のラストが待つ絶品サスペンス! 内容紹介より



まず、この主人公には、殺し屋を辞めた後は剃髪して仏門に入り、毎日、殺めた人を悼みつつ読経と写経の日々を送りなさいとアドバイスしたい。戦場で過酷な体験をし、恋人も亡くして精神を病んだという免罪符を与えられていても、若気の至りとはいえ戦場に赴いたのはミーハーな気分だったからだし、ラストで明らかにされる恋人の死の真実は哀切どころか大いなる(ネタバレです→)「勘違い」でしかなかったわけで、これじゃあ殺された犠牲者は怒りますよ、ハーストさん、あなた。かたくなに自分は被害者だと主張しているみたいで、とにかく他人のせいにしてるところがよくありませんね。プロの殺し屋のくせに、行動や考え方に妙にアマチュア臭がするこの主人公のことは結構好きなんですが、彼の殺しを正当化または一部読者の嫌悪感を軽減する理由付けはできていません。戦場での悲惨なエピソードをもっと描くか、あるいは機械のような男がしだいに人間らしさを取り戻していくというパターンにしておけば、彼が殺し屋にならざるを得なかった動機の脆弱さが少々軽減されたかなとは思います。



コンラッド・ハーストの正体 (新潮文庫)コンラッド・ハーストの正体 (新潮文庫)
(2009/01/28)
ケヴィン ウィグノール

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『巡礼者たち』エリザベス・ギルバート 新潮文庫

2009-07-29

Tag :

☆☆☆☆

オンボロ車でふらりと牧場に乗りこんできたカウガール、友人の姉と恋におちる15歳の少年、泥棒を殺害した移民と奇術師の友情、トラックが故障してひまわり畑で立ち往生する兄妹―表舞台とは無縁の彼らにも人生の落とし穴があり、喜びと悲しみの溢れる一瞬がある。孤独、挫折、そして愛をかみしめながら生きる人々の姿を、シンプルな文章と独特のリズムで丁寧に描いた短篇12作。 内容紹介より



「巡礼者たち」「エルクの言葉」「東へ向かうアリス」「撃たれた鳥」「トール・フォークス」「着地」「あのばかな子たちを捕まえろ」「デニー・ブラウン(十五歳)の知らなかったこと」「花の名前と女の子の名前」「ブロンクス中央青果市場にて」「華麗なる奇術師」「最高の妻」収録。

短編小説を読んでいると、たまに自作解説をやってもらいたい作品があったりするものですが、この短篇集のなかにもそうゆうのがあって、どう読み込めばいいのか、恥ずかしながら個人の読解力や感受性の問題なのか、あるいは時間が立てば咀嚼できるものなのか、判断がつきかねる作品がありました。特に「撃たれた鳥」は、少年の通過儀礼の話と父親の代役をしようとして台無しになった男の話なのか、結局何が言いたいのかよく判りません。「エルクの言葉」は、他人の家に土足で入ってくるだけでなく、自然を自分勝手に解釈してしまう都会人の厚かましさを描いているのでしょうか。
「東へ向かうアリス」、「着地」、「あのばかな子たちを捕まえろ」もそうなんですが、この作者には、U字カーブ並みの遠回りをして話のオチをつける傾向があるみたいに思います。回りくどさもやや感じますが、それがかなり上手くはまっているのが、「デニー・ブラウン(十五歳)の知らなかったこと」と「華麗なる奇術師」で、そのうえさらに前者では浴室での美しいシーン、後者では留置所のファンタジックなシーンがイメージとして浮かび上がってきます。題名どおり花と女の子の名前しか思い出せない老いた大伯母とひとりの踊り子に魅せられた青年を描いた「花の名前と女の子の名前」を始めとして視覚的効果が高い作品が多いです。
とりあえず、また何度か読み返して追記してみたいと思います。

カバー装画は松尾たいこさん

単行本「巡礼者たち」ははじめて担当した単行本の装画。話もとてもおもしろくって思い出深いお仕事でした。
今回はたき火の色が不思議で印象深くなるようにしてみました。

(松尾たいこさんのサイトより)


巡礼者たち (新潮文庫)巡礼者たち (新潮文庫)
(2005/01)
エリザベス ギルバート

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『フリモント嬢と奇妙な依頼人』ダイアン・デイ ハヤカワ文庫

2009-07-27

Tag :

☆☆☆☆

窮屈なしきたりなんて、まっぴら―わたしは女ひとり、タイピング・サービス業で身を立てることにした。だがやがて、わたしの依頼人たちに次々と恐ろしい事件が!オフィスにやってきた中国人が、数日後何者かに殺され、作家志望の青年は、原稿を預けたきりに消息を断ってしまった。好奇心を抑えきれず、わたしは調査にのりだすが……ガス灯時代のサンフランシスコに勝ち気なアマチュア探偵登場。マカヴィティ賞受賞作 内容紹介より



旧弊なしきたりを嫌い、実家を出て、20世紀初頭のサンフランシスコにやって来た、仕事でも恋でも男女は均等であるという信念を持った独立心旺盛な女性の話。時には気弱になりながらも鼻っ柱が強いヒロインの言動に親しみを覚えます。ストーリーには三つの流れがあって、何者かに怯える作家志望の青年の行方と彼が書いた実話だという奇妙な物語。口述筆記をした中国人の老紳士の殺害事件。そして、ヒロインと同じ家に間借りしている男性の謎。ひとつは主人公の調査の甲斐あって解決しますが、奇妙なラストを迎え、ひとつは棚ボタ式の決着を、ひとつは謎のままで終わります。三つの関連が弱く、特にふたつはまったく独立した話の流れで終りますから少し拍子抜けしました。しかし、現代的な女性像あり、エドガー・アラン・ポーの世界あり、スパイに恋愛話に活劇シーンありと多彩な面を持ち合わせたミステリ作品だと思います。



フリモント嬢と奇妙な依頼人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)フリモント嬢と奇妙な依頼人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
(1997/11)
ダイアン デイ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ジェインに舞いおりた奇跡』ファーン・マイケルズ ヴィレッジブックス

2009-07-24

☆☆☆

ルイジアナ州で暮らす精神科医のジェイン。人気ラジオ番組を持ち、風情ある古い屋敷で愛犬と暮らしている。太めで見ためがさえないせいか、私生活のほうはどうもぱっとしないが……。そんなジェインの元に、ひとりの男性患者が訪れた。もしかして彼は、ジェインの心に深い傷を残す12年前のある悲惨な事件に関係しているのでは?不審に思ったジェインは、患者の周囲を探りはじめる。意外な協力者 ― 屋敷に住みつく少年の幽霊も現れ、ハンサムな同業者マイク、変わり者の名付け親、そして賢い犬たちと共に、ジェインはしだいに真実に迫っていくが…。全米で愛され続けている人気作家が描く、心あたたまる物語。 内容紹介より



サスペンス・ミステリの要素もある女性読者向けの物語。少女時代の母親から受けた仕打ち、学生時代に起きた事件によって微妙に人生の道筋が変わってしまったヒロインが、ひとりの患者の出現を契機に軌道修正していく話で、それにシンデレラや醜いアヒルの子のストーリーパターンを絡ませた感じです。『閉ざされた記憶』における主人公の祖母とその仲間たちと似たような役割を本書ではヒロインの名付け親の老夫婦がやっています。『シスターフッド』、『閉ざされた部屋』、そして本書といい主人公の近くにはいつも理解ある金持ちがいる設定は毎回都合が良すぎるんじゃないかと。そういう甘い部分と主人公が体験した辛い出来事がどうも梅干しに砂糖をぶっかけたようで、さらに幽霊まで登場させ、お約束のラブストーリーもありのとあって雰囲気独特ですね。ふたりの女性の運命を同じにしたのはどうしてなのか疑問です。それはともかく確実に言えるのは、この作者は犬派だということです。だから犬好きな方にもお勧め。

『シスターフッド』ファーン・マイケルズ 二見文庫
『閉ざされた記憶』 ファーン・マイケルズ 二見文庫



ジェインに舞いおりた奇跡 (ヴィレッジブックス)ジェインに舞いおりた奇跡 (ヴィレッジブックス)
(2003/05)
ファーン・マイケルズFern Michaels

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『バッグ・レディ探偵団』リチャード・バース ハヤカワ文庫

2009-07-21

Tag :

☆☆☆

マーガレットはニューヨークの福祉センターで退屈しのぎにお年寄りの相手をしている未亡人。ある日、知合いの女浮浪者サラが、ぼろ靴に札束を残して何者かに射殺された。悪事の片棒を担いでいたらしい。折しも警察は麻薬密売ルートを調査していた。マーガレットの好奇心がむくむく頭をもたげた。彼女は警察に乗り込んで自ら捜査の囮となり、浮浪者のなりでみごと組織に潜入したが……殺し屋が彼女の正体を知りはじめていたのだ! 世界一の犯罪都市にアメリカ版ミス・マープル初登場!新鋭が波瀾万丈の追跡劇を軽快に描く話題のサスペンス 内容紹介より



220ページの作品ですけれど結構面白かったです。真ん中あたりまでは、バッグ・レディに扮したおばあさんが悪者たちの指示で運び屋役をやり、それを警察が監視しているばかりで探偵団なんて登場しませんでしたが、ある事件をきっかけにおばあさんがバッグ・レディやバッグ・ジェントルマン(とは言わないと思うけど)の浮浪者たちのつてを頼りに独自の捜査を始めます。浮浪者らしい捜査方法や彼らの連係プレー、追跡劇、おばあさんと悪人との一対一の対決とか後半盛り上がります。アパートを借りてるバッグ・レディもいたりして、浮浪者たちの生活に悲惨さあまり見られないのは筆を抑えたのでしょうか。
ちょっと気になったところは、おばあさんが警察の囮ではないことを確かめるために、悪者が彼女の自宅に忍び込むのですが、浮浪者の家の内部とそうでない家の違いは一目瞭然としてるはずなのに彼が気が付かないというのはやっぱり不自然だと思います。



バッグ・レディ探偵団 (ハヤカワ・ミステリ文庫 93-1)バッグ・レディ探偵団 (ハヤカワ・ミステリ文庫 93-1)
(1984/01)
リチャード・バース

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『夜ふかし屋敷のしのび足』コニス・リトル 創元推理文庫

2009-07-18

Tag : コニス・リトル

☆☆☆

ホテル暮らしをしているわたしに、友人のセルマが助けを求めてきた。離婚調停中の夫の手に、別の男性に出したラブレターが渡ってしまった。ついては偽メイドとして夫の屋敷にもぐりこみ、ラブレターを奪い返してきてほしいという。首尾よく屋敷にはいったはいいものの、慣れない家事や謎めいた住人に翻弄され続けるわたし。そのうえ殺人事件まで起きて……。コミカルなミステリ! 内容紹介より



クリスティの時代の英国ミステリだったら、一部例外はあってもほとんどが黒子であり透明人間みたいな存在のお屋敷の使用人*をヒロインにした話。しかし、彼女はプロのメイドじゃないという捻りがしてあるのがユニークなところです。他人の私生活を覗き見るということは大変興味が惹かれるもので、読者は掃除や料理の手伝いなどの仕事をすることなくそれができるのですから面白さも一層なわけでして。しかも、はすっぱで自己中心的な性格付けをされているのがこのヒロインが非常に愉快です。わがままですぐにさぼりたがり負けん気が強いなんて、普通なら若干ひいてしまうところですが読み進むうちに魅力的に思えてきました。ただこの話の難点は、終始一貫してキツイ性格一辺倒で変化に乏しいアランの人物描写とあまりにも○○な犯行動機だと思います。
それから、巻末の大津波悦子氏の解説についてなんですけれど、約3ページを使ってあらすじを書く必要性をまったく感じませんでした。

*これを逆手にとって使用人たちを主役にした短篇が「こぞって楽しいひととき」(ロバート・バーナード)(『クリスティーに捧げる殺人物語』ティム・ヒールド 編 ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫 収録)

『記憶をなくして汽車の旅』 コニス・リトル 創元推理文庫




夜ふかし屋敷のしのび足 (創元推理文庫)夜ふかし屋敷のしのび足 (創元推理文庫)
(2008/08)
コニス リトル

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ハリスおばさんニューヨークへ行く』ガリコ 講談社文庫

2009-07-16

Tag :

☆☆☆☆

ロンドンのハリスおばさんは、かわいそうな少年ヘンリーの父親をさがしに親友のバターフィールドおばさんと三人で、ニューヨークへ……。大都会の片隅に生活する心やさしい人達にめぐり合い、持ち前の陽気さとちゃめっ気で難問を解決していく。「ハリスおばさんパリへ行く」に続く笑いと涙あふれる物語。 内容紹介より



このシリーズは昔読んだことがあって、古本屋で見かけて懐かしくなり再読しました。
ディオールのドレスを買いにパリへ、下院議員になって国会へ、と目的が自分のためでしたが、今回はモスクワ行きと同様に人助けのため。児童文学のようだけど実は大人の童話であるとともにひとつの冒険小説でもあります。なぜニューヨーク生まれ*のガリコがイギリスを舞台にイギリス女性を主人公に物語を書いたのかは判りませんが、階級社会であるイギリスにおいて労働者階級に属する一介の通い女中にすぎないハリスおばさんがその作品のなかでディオール、フランス貴族、エリザベス女王、国会議員、KGBなどと知り合ったり関わったりする非日常感と対比の妙が際立っていると思います。こういう物語を個人的にはなんども読み返すのだろうなと思った次第です。 


*後にイギリス、フランスなどヨーロッパ各地に移り住んでいる(『ハリスおばさんパリへ行く』亀山龍樹氏の解説から)



ハリスおばさんニューヨークへ行く (講談社文庫 か 30-2)

ハリスおばさんニューヨークへ行く (fukkan.com)ハリスおばさんニューヨークへ行く (fukkan.com)
(2005/05)
ポール ギャリコ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『黒猫は殺人を見ていた』D・B・オルセン  ハヤカワ・ポケット・ミステリ

2009-07-14

Tag :

☆☆☆☆

活発なスピンスターと愛猫が織り成す“元祖猫シリーズ”
好奇心旺盛な老婦人レイチェル・マードックは、何故か怯えきった姪リリーの頼みで、彼女が住む海辺のリゾート地へと向かった。姉ジェニファーの反対を押し切り、莫大な遺産を相続している愛猫サマンサを連れて、レイチェルが赴いたサーフハウスは粗末な下宿屋で、住人は無愛想な女主人を始め一癖ありそうな者ばかりだった。到着早々、不穏な事件が続発する。サマンサは毒入りの肉片を与えられ、昏倒したリリーが廊下で発見される。
翌夜、猫の異常な鳴き声を聞きつけた住人がリリーの部屋を覗くと、一面の血の海のなかで老婦人と姪が倒れていた。レイチェルは毒を盛られて瀕死の状態で、リリーは無残にも撲殺されていた。九死に一生を得た老婦人が、駈けつけたメイヒュー警部補を助け、奇怪な事件の真相を暴く!ユーモアと謎に満ち溢れた幻の本格ミステリ 内容紹介より



〈おばあさん探偵レイチェル・シリーズ〉
屋根裏を動きまわったり、他人の部屋に侵入したり、とても七十歳を越えているとは思えないほど活動的なおばあさんの活躍が愉快。最近の作品では雄叫びを上げるくらいしか能がないクィラランの飼猫ココとは違って、黒猫のサマンサがなにげに真犯人の正体を暴いているところはお見事です。たまに事件を回想する文章差し挟まれるのと、おばさんと姪とのやり取りが中心で動きが少なく散漫な感じがしているため、物語の初めの部分にやや乗り辛い感がありますが、事件が起きてからストーリーが動き出して面白くなりました。探偵役の老婦人と警察官に10人の容疑者というオーソドックスな本格物と思っていたら、突然、精力的な調査活動を始めるおばあさんには呆気にとられますし、クローゼットの引き出しを使って屋根裏へ消える姿を想像すると笑えます。それから、お約束事ではありますが、登場人物幾人かへの目配りと処理の仕方は読者をほのぼのとした気分にさせてくれて上手いです。
その後、このシリーズが翻訳されていないのはとても残念です。



黒猫は殺人を見ていた (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)黒猫は殺人を見ていた (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2003/05)
D.B. オルセン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『ブルー・ムーン亭の秘密』パトリシア・モイーズ ハヤカワ・ポケット・ミステリ

2009-07-12

Tag :

☆☆

胸のすく謎解きと、ロマンスのフルコース
至急ご一報ください。貴殿の大伯父様の遺言について、貴殿の益となるお知らせがございます ― 大伯父の死により居酒屋のブルー・ムーン亭を相続したスーザン。しかし店は幽霊が出没するという噂もある荒れ果てた建物で、客はなかなか寄りつかない。そのうえ、やっとのことでつかまえた客が、店自慢のきのこ料理を食べて中毒死してしまったのだ!
この変死事件に頭を抱えた地元警察は、ロンドン警視庁のティベット主任警視に協力を要請したが、その矢先、第二の毒死事件が! 英国ミステリ界の重鎮モイーズの魅力をあますところなく伝える作品。 内容紹介より



よく名作として挙げられる『死人はスキーをしない』や『サイモンは誰か?』の作者としてパトリシア・モイーズの名前は知っていたけれど、作品を読むのはなぜか初めてです。
すっかり戦前から活躍していた作家だと思っていましたが、『死人はスキーをしない』にしても1959年に発表されたものだったのですね。本書もてっきり古い作品だと思っていました。そんな思い込みもあって、電動で幌を開閉するコンヴァーティブルが登場した時は妙な違和感がありました。ただ、なにか作品全体から受ける古めかしさには、そういう思い込みのせいだけではなくて、作者の感性の部分にもあるのではないかと。この作品を発表した時、作者は七十歳だったわけで時代との微妙なずれを感じました。余計なお世話ですが、彼女が全盛期に生きた時代に舞台を据えた方が良かったと思います。作者がヒロインの一人称スタイルを採用した理由を訳者の近藤麻里子さんが推察されていてなるほどと思いますが、さして探偵役として冴えているのでもない、気が強くても恋愛に弱いだけの女性には荷が重過ぎではなかったでしょうか。それからエピローグのロマンスへ続く布石がかなり薄いため、どうもラストの展開がすっきりしませんでした。



ブルー・ムーン亭の秘密 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)ブルー・ムーン亭の秘密 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(1994/11)
パトリシア モイーズ

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『引火点』リン・S・ハイタワー 講談社文庫

2009-07-10

☆☆☆

殺人鬼につけられたニックネームは、フラッシュ。実際、目を覆う殺人だった。二十二歳の青年がハンドルに手錠で繋がれて、ガソリンを浴びた体に火を点けられたのだ。捜査官ソアラが死ぬ間際の犠牲者から得た情報は、「犯人は若くて小柄な白人女性。ブロンドで目は茶色」。ゆきずりの犯行か、計画的殺人か?全米話題作! 内容紹介より



講談社文庫の内容紹介の文章では捜査官の名をソアラと記していますが、正しくはソノラです。〈女性捜査官ソノラ・ブレア〉シリーズの一作目。
犯人がサイコパスの女性というのはたまにありますが、シリアルキラーという設定はかなり珍しいのではないのかと思います。女性刑事が主役で恋愛話もある結構オーソドックスなストーリー展開ですが、作品全体は硬質な警察ミステリに仕上がっている印象を受けました。たぶん、サバサバして女を売りにしていないし、終始睡眠不足で、身なりに構う暇がなく、胃潰瘍持ちでというヒロインからあまり女性らしさを感じないせいでしょう。ただ、被害者を焼き殺すという残忍な犯人の肉付けが足りないのか、犯行の原点となる彼女の隠れた心情があまり伝わって来なかったりして細部のイメージに乏しい気がします。得体の知れない薄気味悪さはありますが。



引火点 (講談社文庫)引火点 (講談社文庫)
(1996/12)
リン・S. ハイタワー

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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

『ディミティおばさま現わる』ナンシー・アサートン ランダムハウス講談社

2009-07-08

Tag :

☆☆☆☆

幼い頃、いつも母が聞かせてくれた「ディミティおばさまの物語」。優しくて冒険心いっぱいのおばさまは、ロリのお気に入りだった。でもまさか実在していたなんて!?ある日突然、ディミティの遺言状を受け取ったロリは、指示されるがままに英国のディミティ邸へ。すると暖炉の火がひとりでに燃えたり、白紙の日記帳に文字が浮かびあがったり―。どうやら幽霊になってもなお、おばさまは何か心の傷を抱えているらしく……?幽霊の謎に迫る、シリーズ第1弾 内容紹介より



〈優しい幽霊〉シリーズ。
なにゆえにディミティおばさまは成仏できないのか?ミステリの部分はそこだけで、後は母親を亡くしたりして上手くいかない私生活を送るヒロインが違う人生を見つける話。血なまぐさい話もないし、登場人物たちは皆良い人ばかり。生粋のミステリでもなくいわゆる純文学といわれるものでもなく、立場が中途半端な感じがしますね。語られているのは良い話なのですが、塩とコショウが利いてない料理みたいな、はっきりしない宙ぶらり感が残ります。後半で事情が説明されるけれど、ヒロインに初めて会った時から、まるで飼い主になつく仔犬のような態度を示すビルと、ふたりの関係がありきたりに進展する様子が甘過ぎて苦手でした。あまり魅力があるとは言えないヒロインを始めとして、登場人物のキャラクターの浅さと大人の童話的なゆるいプロットは改善の余地があると思います。



ディミティおばさま現わる (ランダムハウス講談社文庫)ディミティおばさま現わる (ランダムハウス講談社文庫)
(2008/09/10)
ナンシー アサートン

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『残虐なる月』クリス・シムズ 小学館文庫

2009-07-06

Tag :

☆☆☆

英国マンチェスター郊外の牧羊農家で、一匹の羊と主婦が喉をえぐられた惨殺死体で発見された。いっぽう、同性愛者が出会いを求めてたむろする市内の駐車場から、何者かが襲われているという一本の緊急電話が警察に入った―。この、一見関連性のない二つの事件が、ともに、「クロヒョウの仕業」という線で結びついていく……。前作『剥がされた皮膚』に続く、マンチェスター警察ジョン・スパイサー警部が活躍するシリーズの最新作。
英国の郊外で実際にある“野獣伝説”をモチーフにした、読む者を恐怖に陥れる、リアルなミステリー小説が登場した! 内容紹介より



〈マンチェスター警察殺人課ファイル〉シリーズ。『剥がされた皮膚』は未読です。
どちらかといえば、連続殺人事件の成り行きよりもスパイサー警部の産後ノイローゼ気味な奥さんの様子の方がサスペンスフルでした。事件を指揮するこの警部がクロヒョウ犯行説に与しない、あるいは洟も引っ掛けない態度をとるために、読者のこころは「もしかしたらクロヒョウ真犯人説」に揺れることもなくて拍子抜けするんですよね。頑なに「クロヒョウ犯人説」を主張する人物がいてもマイナスにはならないし、読者へのそういうオプション提示や誘導があるほうがプロットに幅が出ると思いますが。ただ、作者あとがきに書かれている「ケニアにおけるイギリス植民地」政策や「イラク侵攻」について筆を走らせることに一所懸命なので気にならなかったのでしょうか。
物語に占める割合としては大小差がありますが、産後鬱、野獣伝説、植民地政策、イラク侵攻、虐待問題とテーマを入れ過ぎてまとまっていないように感じます。特にイラク侵攻の問題はやや無理矢理では。

『剝がされた皮膚』




残虐なる月―マンチェスター警察殺人課ファイル (小学館文庫)残虐なる月―マンチェスター警察殺人課ファイル (小学館文庫)
(2008/11/07)
クリス シムズ

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『共鳴』イアン・バンクス ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

2009-07-04

Tag :

☆☆☆

エディンバラの新聞社に勤務するはみだし者の記者キャメロンは、特ダネを告げる謎の男の電話に振りまわされていた。折りしも、悪辣な権力者たちが次々と惨殺される事件が発生。被害者は、キャメロンが記事で悪行を非難した人物ばかりだった。彼は殺人の容疑で逮捕され、やがて驚くべき真相が……全英ベストセラー第一位を記録した噂の作家の鮮烈なミステリ 内容紹介より



読み始めてしばらくして著しく煩わしさを感じるのは、主人公の行動をまるで分刻みように書き記している箇所が見られること。例えば、「翌朝は爽快な気分で起床、たっぷり五分ほど咳きこみ、シャワーを浴びたあと、目覚ましに挽きたてのアラビカを少々飲む。そして健康食品のムースリをぽりぽりかじり、オレンジを一切れしゃぶりながら、ウイスキーの記事に目を通した」(p42)、こんな感じの文章が目につきます。日常生活を仔細に綴っているブログじゃあるまいし 、ストーリーに関係ない事柄をそんなにいちいち描写しなくても良いではないのか、と。それから原子力潜水艦を取材している場面はもっと削っても良いんじゃないのだろうか。第一項目が、今まさに犯罪を犯そうとしている人物の視点から描き始めているためスピード感を感じるのとは逆に、前半の主人公の場面からは冗漫な印象を受けてしまいます。そして、主人公が権力者たちへの連続殺傷事件を追っているという設定ではないので、彼が事件に巻き込まれるまでの部分が場つなぎ的なものに感じてしまいます。ネタバレ→「犯人の動機、主人公の立場をともに反権力にしてしまわず」、主人公を官僚主義的な警察官にしたほうが、最初から事件に係わってサスペンスも高まったように思います。



共鳴 (ハヤカワ文庫―ミステリアス・プレス文庫)共鳴 (ハヤカワ文庫―ミステリアス・プレス文庫)
(1996/09)
イアン バンクス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

『論理は右手に』フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫

2009-07-02

☆☆☆☆

パリの街路樹の根もとに落ちていた犬の糞から出た人骨。元内務省調査員の変わり者・ケルヴェールは、独自の調査を開始する。若い歴史学者マルク=通称聖マルコを助手に、彼はブルターニュの村の犬を探り当てる。そこでは最近老女が海辺で事故死していた。骨は彼女のものなのか? ケルヴェールが、聖マルコ、聖マタイとともに老女の死の真相に迫る。〈三聖人シリーズ〉第二弾。 内容紹介より



『死者を起こせ』に続く〈三聖人シリーズ〉の二作目。前作同様に〈三聖人〉と元刑事が
主人公なのかと思っていたら、ケルヴェールという元内務省調査員が主人公でした。それにしても、この作者の造型するエキセントリックな登場人物たちはどれもかなり味があります。〈三聖人〉たちも『青チョークの男』のアダムスベルグもそうですが、このペットのヒキガエルをポケットに入れて持ち歩く男ケルヴェールの場合は、作者が人物背景として彼に背負わした過去が、非常に上手く作用して魅力的なキャラクター像を造り上げていますし、さらに、その過去をストーリー上にも絡ませるというテクニックも見事だと思います。メグレ警視シリーズのようなフランス警察ミステリの流れを汲む独特の人物造型だけでなく、この作者はプロットの構築にしても丁寧かつエスプリに富んでいるんですね。
☆五つに近い出来上がりですが、今回は、三聖人たちのやり取り、特にリュシアン(通称聖ルカ)の登場場面が少なかったのが物足りませんでした。プロフェッショナルなケルヴェールとアマチュアのマルクのやり取りは面白かったのですが。それから、ページ数を増やしてでも後半部分に犯人から主人公たちに対する悪巧みや反撃する場面を入れてあればとも感じました。『死者を起こせ』でも後半部分に弱い点があったようなないような……。



論理は右手に (創元推理文庫)論理は右手に (創元推理文庫)
(2008/04)
フレッド ヴァルガス

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テーマ : 推理小説・ミステリー
ジャンル : 本・雑誌

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てんちゃん1号

  • Author:てんちゃん1号
  • 海外ミステリなどの感想を誤字脱字、表現・文法間違いを交え、思い込みと偏見を持って書いています。そんな素晴らしいブログなのでリンクとか何でもフリーです。異次元、霊界、他惑星からもお気軽にどうぞ。

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